弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人風早八十二の上告趣意第一点及び第二点について。
 しかし、原審の認定する事実によれば、A調査官が、Bから日本共産党関係の情
報を入手したのは、もつぱら同人の自由意思に基づく協力によつたものであつて、
その間威力を行使して同人を脅迫、強制したり、金品の誘惑をもつてその意思の自
由を失わしめたりしたような事実は認められないというのであり、また、被告人ら
がAの身体の自由を拘束したのは、公安調査庁に対する抗議の手段としてであつて、
同人の行為を犯罪行為であるとし、これに対する正当防衛の認識の下にしたもので
はないというのであるから、所論中右認定に反する部分は、ひつきよう事実誤認の
主張に帰し、この点に関する違憲の主張は事実の誤認を前提とするものであるから、
適法の上告理由とならない。
 また原判決及び第一審判決の確定した事実によれば、被告人杉浦常男、同C及び
原審相被告人D、同Bは、共同してA調査官を取り囲み、同判決判示の如く怒号し
ながら同調査官の左手首を掴んで引つ張り肩辺を押し返す等してその退去を阻止し、
用便に立つことさえ妨害し、口にくわえた煙草を払い落す等の暴行、脅迫を加え、
昭和三〇年六月二〇日午後九時頃から同一二時まで夜間約三時間にわたり同人の身
体の自由を拘束し、さらに被告人ら四名及び原審相被告人Dは同調査官を引き立て、
翌二一日午前零時頃から午前一時頃まで約一時間を費し約三粁の間同人の意に反し
て強いて連行し、その間外数名と共同して同調査官の両側より両腕を扼して引つ張
り、手首を掴み、背中を押し、数米引き摺る等の暴行を加え、同調査官の身体の自
由を束縛したというのである。かかる被告人らの行為は、社会通念上許容される限
度を超えるものであつて、刑法三五条の正当の行為として違法性を阻却されるもの
ではなく、A調査官の調査行為が法律上の根拠を欠き、違法であつたかどうかは、
右判断を左右しない。
 原判決は、破壊活動防止法の合憲性、日本共産党に対する調査の合憲性ないし合
法性につき判示し、論旨もこれを争つているが、かかる事項は、被告人らの本件行
為の違法性に関する判断に影響を及ぼすものでないから、所論違憲の主張はすべて
上告適法の理由とならない。論旨のその余の部分は、事実誤認及びこれを前提とす
る主張ないし原判示にそわない事実を前提とする法令違反の主張に帰するから、刑
訴四〇五条の上告理由に当らない。
 弁護人梨木作次郎、同寺村恒郎の上告趣意第一点ないし第三点について。
 論旨第三点の(一)は事実誤認及びこれを前提とする違憲及び単なる法令違反の
主張であり、その他の論旨は本件犯罪の成否に関係のない事項に関するものである
こと風早弁護人の論旨につき述べたとおりであるから、いずれも適法の上告理由に
当らない。
 弁護人福島等の上告趣意第一点ないし第三点について。
 しかし、破壊活動防止法が違憲であるかどうか、所論調査が違憲違法であるかど
うかは、被告人らの本件行為の違法性に関する判断に影響を及ぼすものでないこと
は、風早弁護人の論旨につき述べたとおりであるから論旨はいずれも上告適法の理
由とならない。
 被告人らの上告趣意について。
 論旨は違憲をいう点もあるが、実質は事実誤認及びこれを前提とする単なる法令
違反の主張に帰するから適法な上告理由に当らない。
 よつて刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三六年九月一四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   木   常   七
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

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