弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の理由は、
 (一)前記政令の有効か無効かは事実審理を待たないで客観的に明らかである。
(二)この点について判断を示さないで審理を進めることは、政令が一応有効であ
り又生きていることを前提とするものであつて、有罪の予断を抱くものであり、憲
法第三八条の趣旨に反する。しかのみならず憲法第三七条の趣旨にも反し、被告人
に恐怖を強いると抗告人は主張するのである。
 しかしながら、裁判所が公判手続において事実審理に入るに先立つて、公判請求
書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについては、た
とい被告人、弁護人又は検察官からその判断の開示の請求があつた場合においても、
先ずその判断を示すごとを要しないものと解するを相当とする。けだし、刑事訴訟
法にはかかる判断を先ず示すことを要する旨の規定が存在しないのは勿論、憲法の
明文規定又はその精神からもかかる要請が存するものとは到底認められないからで
ある。裁判所が事実審理に先だち或る法令の適憲有効を認識していたとしても、そ
れをもつて直ちに「有罪の予断を抱くもの」と速断することは許されない、まして
や、或る法令が適憲有効であるか否かについて判断を先ず示すことなく事実審理に
入ることをもつて、所論のごとく「有罪の予断を抱くもの」とか又は「被告人に恐
怖を強いる」ものと言うことのできないのは勿論である。「有罪の予断を抱く」と
は、犯行の事実存在について予め先入感を持つことを意味する。又裁判官は、法律
の憲法適否及び解釈については、良心に従い独立して判断する職権と職務を有する
ものであるから、その有する法律観をもつて「有罪の予断を抱くもの」と断定する
を得ないのは明白である。従つて、原裁判所の公判において裁判長が前記政令の違
憲無効であるか否かについて判断を示すことなく事実審理に入つたこと並びに原裁
判所が前記決定においてこれを是認したことは、いかなる点おいても憲法に違反す
るところはない。されば、本件に抗告は全く理由なきものである。
 裁判官斎藤悠輔・同沢田竹治郎の本件に対する意見は次のとおりである。
 刑訴応急措置法第一八条の抗告は原決定に法令又は処分が憲法に適合するかしな
いかについてした判断が存在することを要するものである。然るに本件原決定には
かかる判断が存在しないから、本件抗告は不適法たるを免れない。
 よつて、刑訴法第四六六条第一項に従い主文のとおり決定する。
 この決定は裁判官斎膝悠輔、同沢田竹治郎を除き他の裁判官全員の一致した意見
である。
  昭和二三年一一月二九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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