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裁判例


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主文
1原告らの主位的請求に係る訴えをいずれも却下する。
2福島県知事は,平成10年3月31日付けで補助参加人に対してした各産
業廃棄物処理施設設置許可処分(許可番号相振○第○号,相振○第○号)
をいずれも取り消せ。
3訴訟費用は,これを10分し,その6を被告の負担とし,その余を原告
の負担とし,補助参加によって生じた費用は,補助参加人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
福島県知事が,平成10年3月31日付けで補助参加人に対してした各産
業廃棄物処理施設設置許可処分(許可番号相振○第○号,相振○第○号)
をいずれも取り消す。
2予備的請求
主文第2項同旨
第2事案の概要
本件は,補助参加人に対し,福島県南相馬市α区β及び同区γに所在す
る別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)上に産業廃棄
物管理型最終処分場及び汚泥等の焼却施設の各産業廃棄物処理施設を設置
することを許可した福島県知事の各処分が違法であるとして,上記βに居
住する原告らが,主位的に,上記各処分の取消しを求め,予備的に,福島
県知事には上記各処分を取り消す義務があるとして,福島県知事に対する
上記各処分の取消しの義務付けを求めた事案である。
1前提事実
(1)補助参加人は,福島県知事に対し,平成10年3月13日,本件土
地上に産業廃棄物処理施設たる管理型最終処分場及び汚泥,廃油,廃プ
ラスチック類等の産業廃棄物の焼却施設を設置するため,平成12年法
律第105号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以
下,同法を「廃棄物処理法」と略称し,改正前の同法を「改正前の廃棄
物処理法」という。)第15条1項に基づき,上記各施設の設置許可申
請をした(許可申請の日付は乙1によって認められ,その余の事実は,
当事者間に争いがない。以下「本件許可申請」という。)
(2)福島県知事は,補助参加人に対し,平成10年3月31日,上記各
施設の設置を許可する処分(許可番号相振○第○号,相振○第○号。以
下「本件各処分」という。)をした(以下,本件各処分によって設置さ
れることとなる管理型最終処分場を「本件処分場」,焼却施設を「本件
焼却施設」,両者を併せて「本件各施設」という。当事者間に争いがな
い。)。
(3)原告らは,いずれも福島県南相馬市α区βに居住する者であるが
(弁論の全趣旨),平成19年11月27日,本件各処分の取消しを求
める訴えを福島地方裁判所に提起し,その後,上記訴えには,福島県知
事に対し,本件各処分の取消しを命ずるよう求める訴えが予備的に追加
された(当裁判所に顕著な事実)。
2争点
(主位的請求)
(1)本案前の争点
ア本件各処分に平成16年法律第84号による改正後の行政事件訴訟
法(以下「改正後の行政事件訴訟法」という。)14条1項の適用が
あるか。適用がある場合,主位的請求に係る訴えが,同項所定の期間
を経過した後に提起されたことについて,原告らに正当な理由がある
といえるか。
イ原告らは,本件各処分の取消しを求める原告適格を有するか。
(2)本案の争点
ア本件許可申請に係る本件処分場が,改正前の廃棄物処理法15条の
2第1項1号,平成10年総理府・厚生省令第2号による改正前の一
般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基
準を定める命令(以下「共同命令」という。),上記廃棄物処理法1
5条の2第1項2号の基準を満たすものであったか。また,共同命令
が,同法第15条の2第1項1号の要請を満たすものであったか。
イ本件許可申請に係る本件焼却施設が,改正前の廃棄物処理法15条
の2第1項1号,平成10年厚生省令第31号による改正前の同法施
行規則(以下,同規則を「施行規則」と略称し,改正前の同規則を
「改正前の施行規則」という。)12条,12条の2第5項,4条1
項7号(同号ロ(1)及び(2)を除く。)の基準を満たすものであった
か。
(予備的請求)
(1)本案前の争点
ア原告らが,本件各処分の義務付けを求める原告適格を有するか。
イ本件各処分が取り消されないことにより,原告らに重大な損害が生
ずるおそれがあるか。
ウ損害を避けるために他に適当な方法がないか。
(2)本案の争点
福島県知事が,本件各処分を取り消すべきことが,法令の規定から明
らかか。
ア廃棄物処理法15条の3第1項1号,14条5項2号ニ,同号イ,
7条5項4号ロ該当性
イ廃棄物処理法15条の3第1項1号,14条5項2号ニ,同号イ,
7条5項4号ト該当性
ウ廃棄物処理法15条の3第1項1号,14条5項2号ヘ該当性
エ廃棄物処理法15条の3第1項1号,14条5項2号イ,7条5項
4号ト該当性
第3争点に対する当事者の主張
1主位的請求の争点(1)アについて
(原告らの主張)
原告らには,改正後の行政事件訴訟法14条1項が適用されるところ,
原告らが本件各処分があったことを知ったのは平成12年の夏であるか
ら,本件各処分があったことを知った日から主位的請求に係る訴えの提起
までに6か月が経過している。
しかしながら,原告らは,本件各施設が,有害物質を漏出ないし飛散さ
せるなどして,原告らを含む周辺住民に健康被害を発生させる可能性があ
ることを,補助参加人を被告とする別件訴訟(福島地方裁判所相馬支部平
成○年(ワ)第○号産業廃棄物処理施設建設差止等請求事件,なお,回付後
は,福島地方裁判所平成○年(ワ)第○号)における補助参加人からの平成
19年6月25日付け準備書面及び書証によって初めて認識するに至っ
た。このように,原告らは,いずれも平成19年6月以降にこれらの事情
を認識し,平成19年11月27日に主位的請求に係る訴えを提起したも
のであるから,原告らには,改正後の行政事件訴訟法14条1項所定の出
訴期間経過後に主位的請求に係る訴えを提起したことについて,正当な理
由がある。
(被告及び補助参加人の主張)
(1)本件各処分は,平成10年3月31日にされたものであり,また,
原告らは,いずれも,遅くとも平成16年12月31日までには,本件
各処分があったことを知っていた。そうすると,改正後の行政事件訴訟
法が施行された平成17年4月1日までには,主位的請求に係る訴えの
出訴期間は満了していたことになる(平成16年法律第84号による改
正前の行政事件訴訟法(以下「改正前の行政事件訴訟法」という。)1
4条1項)。
したがって,主位的請求に係る訴えは,出訴期間が経過しており,不
適法である(平成16年法律第84号の附則4条)。
(2)仮に,本件各処分についても,改正後の行政事件訴訟法14条1項
の適用があり,正当な理由の有無を問題とする余地があるとしても,原
告らの主張するような事情では,正当な理由の存在を根拠付けることは
できないというべきである。
原告らと行動を共にしていたAは,平成12年度以降,被告に対する
公文書開示請求により本件各処分に係る資料の一部を入手していたので
あるから,遅くとも平成13年ころには,原告らには,本件各施設の内
容を確認し,精査する機会があった。
また,補助参加人が,本件許可申請の前に,平成7年当時の被告の指
導要綱に基づき提出した平成7年11月7日付け事前協議書には,原告
Bの署名押印がされた「設置同意書(土地所有者)」の写し(乙9)が
添付されている。このことからすれば,原告Bは,本件各処分がされる
前から,本件土地の一部に自己所有地が含まれていることを知っていた
ことになる。
そして,本件各処分がされた当時,法令及び被告の行政指導による事
前協議手続では,産業廃棄物処理施設の設置計画の詳細について,公表
することが義務付けられていなかったから,被告が原告らの提訴を妨げ
たという事情もない。
そうすると,原告らは,少なくとも平成14年までには,本件各処分
に対し,不服を申し立てる機会があったはずであり,原告らが出訴期間
を遵守できなかったことについて正当な理由があるとはいえない。
2主位的請求の争点(1)イについて
(原告らの主張)
廃棄物処理法は,周辺住民の生命,身体等個々人の個別的利益を保護す
ることをその趣旨としており,産業廃棄物処理施設の設置の許可の取消し
に関する規定も同様の趣旨を有するものである。
原告らは,いずれも本件各施設の直近に居住するものであり,最も離れ
た場所に居住する原告Cでも本件各施設から165メートルの距離に居住
している。また,原告D及び原告Cは,それぞれ,本件各施設の直近に水
田を所有し,耕作している上,原告Cは,自宅敷地内に所有する井戸水を
生活用水として使用している。
したがって,原告らは,本件各施設から有害な物質が排出されることに
より,生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれがある者で
あるといえるから,本件各処分の取消しを求める原告適格を有する。
(被告の主張)
不知ないし争う。
3主位的請求の争点(2)アについて
(原告らの主張)
(1)次のとおり,本件処分場の設置に関する計画は,共同命令に定める
技術上の基準(改正前の廃棄物処理法15条の2第1項1号)を満たし
ていない。
アまず,本件処分場で使用される予定の遮水シートは,以前,東京都
δ町E処分場で破損事故を発生させたものと同じ,F社製のゴムシー
トであり,そもそも安全性に対する信用性が低いものであるし,現実
の処分場での使用条件の下で実施された遮水シートの安全性を示す実
験データはひとつもない。
また,遮水シートの下に敷設するとされるGなるものは,自己修復
機能を有するとのことだが,現実の処分場は,ゴミの重圧等により強
力な剪断力がかかるものであるから,かかる状況下においては,十分
な自己修復機能は期待できない。
したがって,本件許可申請に係る本件処分場の設置計画は,埋め立
てた産業廃棄物と接する面が遮水の効力を有する材料で十分に覆われ
ること(共同命令2条1項2号ロ(3))との基準を満たさない。
イまた,共同命令2条1項4号,1条1項5号イ(1)(イ)は,遮水シ
ートが,厚さ50センチメートル以上である粘土その他の材料の層の
表面に敷設されることを求めているが,上記のような層を要求する趣
旨は,遮水の効果を上げることに加え,遮水シートが基礎地盤と接触
することによる破損を防止することにある。
この点,前記Gなるものは,前述のとおり,遮水機能を持たないば
かりか,遮水シートを保護する機能も持たないから,共同命令の上記
規定に定める基準を満たさない。
ウさらに,そもそも,共同命令の求める基準では,遮水シートの劣
化,破損等による遮水機能の低下を防止できず,産業廃棄物の最終処
分場の安全性は確保できないから,共同命令は,産業廃棄物処理施設
の安全確保を図るという改正前の廃棄物処理法15条の2第1項1号
の要請を満たさない違法なものというべきである。
(2)次に,産業廃棄物の最終処分場の設置が許可されるためには,その
設置に係る計画及び維持管理に係る計画が当該産業廃棄物処理施設に係
る周辺地域の生活環境保全について適正な配慮がされていることが必要
であるが(改正前の廃棄物処理法15条の2第1項2号),本件処分場
の設置に関する計画及び維持管理に関する計画(以下,両者を併せて
「本件計画」という。)は,この要件を満たしていない。
ア本件土地が位置する相馬地方は,第三紀層の頁岩が分布していると
ころ,同岩は,黄鉄鉱を含むものであるから,山林を伐採し,風雨に
さらされれば,酸化し,これが混入した雨水は,硫酸性水となって,
原告らが農業用水に利用するため池(以下「本件ため池」という。)
に流入することは容易に予測できた。それにもかかわらず,補助参加
人が,本件処分場設置に当たり,本件ため池の周囲の山林を伐採する
計画を立て,上記計画に基づいて伐採を行った結果,現実に,本件た
め池の水が酸性化している。このことは,原告らが,平成15年7月
30日に本件ため池の水質検査を実施したところ,4地点における水
質が,pH4.1,4.9,5.0及び5.1の値を示し,また,そ
の電気伝導度は,369ないし385μS/㎝という値であったこ
と,また,平成15年6月17日から同年9月5日にかけて継続的に
実施した水質検査でも,梅雨入り前の6月にはpH7.1ないし7.
5であったものが,梅雨入り後,雨が多くなった7月以降になると,
pH4.8,4.9,5.0.5.1という値が測定されるようにな
っていること,本件ため池に生息していた魚が死滅し,菱などの水生
生物も枯死していることからして明らかであり,本件計画が,本件た
め池の水質に対する配慮を欠いていたことを裏付ける。
イ次に,本件処分場が設置されることになれば,廃棄物等を搬入する
トラックから,日常的に大量の廃棄物等が落下し,あるいは,飛散す
ることになると予想される。また,本件処分場自体からも,多量の有
害物質が周辺地域に飛散することになり,周辺住民の健康に悪影響を
与え,また,有害物質による汚染が確認されなくても農産物に対する
風評被害が生じることとなる。ところが,本件計画は,このような有
害物質飛散に対する対策に十分な配慮をしていない。
(被告及び補助参加人の主張)
(1)原告らの主張(1)の冒頭部分の主張は争う。
ア原告らの主張(1)アの事実のうち,本件処分場において使用される
遮水シートがゴムシートであるとの点は否認する。同遮水シートは,
ポリマーアロイ系である。
また,本件処分場は,原告らが挙げるδ町E処分場の事故の事例と
は異なり,自己修復シートを採用している。そして,補助参加人は,
実際の処分場における使用条件を再現した実験を実施している。
イ原告らの主張(1)イについて,共同命令2条1項4号,1条1項5
号イ(1)が要求する遮水層としては,同号イ(1)(イ)ないし(ハ)のいず
れかの要件を満たすものであれば足り,必ずしも同号イ(1)(イ)の要
件を満たさなければならないものではない。本件施設において採用さ
れている遮水層は,同号イ(1)(ハ)の要件を満たすよう設計されてい
る。
ウ原告らの主張(1)ウは,争う。
(2)原告らの主張(2)の冒頭部分の主張は争う。
ア原告らの主張(2)アの事実のうち,本件ため池が酸性化しており,
生息していた魚が死滅し,水草が枯死したとの点は否認する。
補助参加人が平成20年10月ころ実施した水質検査によれば,本
件ため池のpH値は,5.5ないし6.0の範囲に収まっており,自
然環境及び生活環境として標準的な数値しか検出されていない。
また,補助参加人が,本件各施設設置工事に着手後に実施した調査
によれば,相当期間生息してきたとうかがわれるウナギ,ヘラブナ,
ナマズなどが本件ため池で複数捕獲されている上,本件ため池の水を
利用した農作物が変色したとか枯死したというような報告もない。
したがって,本件計画が,ため池の水質に対する配慮を欠いていた
との原告らの主張は失当である。
イまた,廃棄物等を搬入するトラックからの廃棄物等の落下や飛散
は,運搬方法への指導監督の問題であって,本件とは無関係であるか
ら,原告らの主張(2)イは失当である。
4主位的請求の争点(2)イについて
(原告らの主張)
(1)産業廃棄物の焼却施設の設置許可に当たっては,その設置に係る施
設が,改正前の施行規則で定める技術上の基準を満たしていることが必
要である(改正前の廃棄物処理法15条の2第1項1号)。
ところが,本件焼却施設は,改正前の施行規則12条の2に定める技
術上の基準を満たしていない。
(2)本件焼却施設に受入予定の廃棄物の性質
ア本件焼却施設に受入予定の廃棄物としては,廃油,廃酸,廃アルカ
リ,廃プラスチック,汚泥,紙くず,木くず,繊維くず,ゴムくず及
び医療系廃棄物の10品目が予定されている。
このような混焼施設において,安定した燃焼が保たれるためには,
①2つ以上の品目について,そのそれぞれが,排出元が一定し,か
つ,元素組成,物理化学的性状の変動が小さく,②混焼の際に,上記
①の要件を満たす2つ以上の品目を,1回ごと,ほぼ特定された割合
で同時に投入する必要がある。
しかし,本件焼却施設の設計計画書には,上記要件をどのように満
たすのか具体的に記載されておらず,また,上記要件を満たすことが
一般的に不可能であることからすれば,本件焼却施設は,安定した燃
焼による「焼却」が不可能な施設であるということができる。
イまた,本件焼却施設に受入予定の廃棄物のうち,廃酸及び廃アルカ
リは燃焼しにくく,汚泥は,燃焼温度を引き下げて安定燃焼を困難に
するものである。さらに,廃油は,燃焼しにくいものがあることに加
え,バーナーの噴霧ノズルの損傷,詰まり等,故障の原因となるもの
であるから,その性質上,安定燃焼を妨げるものである。
ウ以上によれば,本件焼却施設は,その搬入される廃棄物の種類・性
質のみからしても,安定した燃焼を確保できないものであるから,廃
棄物を完全に「焼却」することのできない施設であるということがで
き,改正前の施行規則12条の2第5項1号イの要件を満たさない。
(3)廃棄物の投入方法
ア本件焼却施設で受入予定の廃棄物のうち,①医療系廃棄物は,クレ
ーンを使用せず,保管庫から専用の搬送機を用いてホッパーに投入さ
れ,②廃油は,そのまま,廃酸及び廃アルカリは,苛性ソーダ又は硫
酸で中和後,ロータリーキルン炉又は後燃焼施設の助燃バーナーから
噴霧して焼却炉に投入され,③それ以外の廃棄物は,クレーンでホッ
パーに投入された後,供給フィーダーによって,ロータリーキルン炉
に投入されることとなっている。
イこのうち,①医療系廃棄物の投入については,投入量,投入時期,
投入頻度等が現場や中央制御室における指示に基づいてされるものと
考えられるが,この「指示」を,本件焼却施設に投入する廃棄物の量
的バランス,元素組織,水分含有量のバランスを考えてされるよう担
保するシステムは存在せず,適切な投入の実現は不可能である。
次に,②廃油,廃酸及び廃アルカリの投入については,ノズルから
の噴霧量は定格化されているものの,廃油の流量は手動による調整が
必要とされている。このため,噴霧前に混合されることとなる廃油,
廃酸及び廃アルカリの割合を一定にすることは困難である。
また,③クレーンによる廃棄物の投入についても,本件焼却施設に
おいては,プッシャーによる間歇投入(バッチ)方式が採用されてい
るところ,この方式は,電子計算機による制御ではなく,現場や中央
制御室における手動又は事前の固定化された指示に基づいて投入がさ
れるものであるから,「定量ずつ連続的にごみを燃焼室に投入するこ
とができる供給装置」であるとはいえない。
したがって,本件焼却施設は,改正前の施行規則12条の2第5項
柱書,4条1項7号イの要件を満たさない。
(4)本件焼却施設の構造
ア本件焼却施設は,①ロータリーキルン炉,②後燃焼炉としてのダン
ピングストーカ炉,③再燃室の三段階の燃焼で完全燃焼を図るという
設計になっているが,現実には,このような構造では,廃棄物を完全
に燃焼することは不可能である。
イまず,ロータリーキルン炉は,もともと,「クリンカ(粒状又は団
子状の固化物)」を生成するために用いられていたものであるから,
適度の流動性を有する廃棄物は,その中で転がりつつ団子状になる。
この結果,当該廃棄物は,その内部が未燃のまま残ってしまう。
また,空気の供給効率が悪いため,燃焼速度が遅く,かつ,助燃剤
を大量に必要とする。そして,水分を大量に含む廃酸・廃アルカリを
助燃剤に混合して用いることになるから,廃棄物が,高温で完全に燃
焼することは期待できない。
さらに,本件焼却施設に投入される廃棄物の種類・性質から見て,
安定した燃焼が確保できないことは前述のとおりである。
これに加えて,本件焼却施設では,ロータリーキルン炉における燃
焼温度,排ガス温度が不明であり,設計の不備もうかがえる。
ウ次に,ロータリーキルン炉で完全に燃焼していない廃棄物は,スト
ーカ炉で燃焼されることになるが,再燃室が設置されていることから
も明らかなように,この段階では,未燃ガス及び固形の未燃物が残存
する。これらの未燃ガス及び未燃物は,再燃室に排出されることとな
るが,再燃室には,次のような問題がある。
第1に,再燃室における燃焼の段階において,助燃バーナーから廃
油,廃酸,廃アルカリが噴霧されることが予定されている。しかし,
これらはいずれも焼却対象廃棄物であるから,かかる設計は,焼却対
象廃棄物が,ロータリーキルン炉及びダンピングストーカ炉における
後燃焼の過程を経ずに,いきなり再燃室に投入されることを示してお
り,前述のとおり,廃油には燃えにくいものがあること,廃酸及び廃
アルカリは燃えにくいことからすれば,再燃室において,完全燃焼を
達成できるはずがなく,不燃物が残存するというべきである。
第2に,本件焼却施設には,燃焼室熱負荷の設計の誤りがある。こ
の結果,再燃室においても,摂氏800度以上の燃焼温度を達成でき
ない可能性が高い。
すなわち,燃焼室熱負荷は,燃焼室(後燃焼炉,再燃室を含む。)
の単位面積当たりの廃棄物燃焼発熱量であるが,これは,次の式で計
算される。
〔計算式〕
焼却室内容積(㎥)×焼却室熱負荷(kcal/㎥・時間)
焼却能力(kg/時間)=―――─――──────────────────
廃棄物の低位発熱量(kcal/kg)
産業廃棄物焼却施設では,この値は,15万から25万kcal/㎥・
時間が適切とされており,これより低いときには,燃焼温度の低下,
不完全燃焼,多量のばいじんの発生,ダイオキシン類等の不完全燃焼
を要因とする有害物質の多量発生が生じやすくなる。
この点,本件焼却施設の燃焼室熱負荷は,メーカーの資料に基づく
計算によると,4万3570kcal/㎥・時間となり,上記数値に満たな
い。そうすると,再燃室における燃焼を経ても,廃油,廃酸,廃アル
カリのみならず,他の廃棄物も十分に燃焼されないまま残存すること
になるものと考えられる。
エ以上によれば,本件焼却施設は,摂氏800度以上の温度で産業廃
棄物を焼却することができず,燃焼ガスが,摂氏800度以上の温度
を保ちつつ,2秒以上滞留できるものということもできないから,改
正前の施行規則12条の2第5項1号イ,同ロの要件を満たさない。
(5)助燃バーナー
本件焼却施設は,廃酸・廃アルカリの溶液をそれぞれ中和したもの
と,廃油を混合して,これを燃料として,ロータリーキルン炉と再燃室
の助燃バーナーで噴霧して供給する仕組みになっているが,廃酸・廃ア
ルカリが燃えにくく,廃油にも燃えにくいものがあるほか,これらの物
質は,助燃バーナーの損傷や目詰まりの原因ともなるものであるから,
構造として不適切である。
したがって,かかる助燃バーナーは,燃焼ガスの温度を速やかに摂氏
800度以上にし,これを保つことができないものであり,改正前の施
行規則12条の2第5項柱書,4条1項7号ロ(4)の要件を満たさな
い。
(6)排ガス冷却室における液ガス比
再燃室を出た後の排ガスは,ダイオキシン類のデノボ合成を防ぐた
め,バグフィルターに入る前に「急速に」冷却される必要がある。
本件焼却施設では,「排ガス冷却室」において,水を噴霧して排ガス
を冷却することとなっているが,ここで噴霧した水は,「全量蒸発す
る」ので,排水は発生しないという建前のようである。
ところで,本件焼却施設のようなスプレー塔タイプの洗煙塔の場合,
十分に排ガスの温度を下げるためには,液ガス比1.0L/㎥以上の水
量が推奨される。そこで,本件焼却施設における液ガス比を計算する
に,本件焼却施設のメーカーの計算書によれば,冷却室入口の温度が摂
氏850度,入口ガス量が9737N㎥/時間,冷却水は3460kg
/時間とされているから,液ガス比は0.086kg/㎥となり,この
値は,上記1.0L/㎥の8.6パーセントに過ぎない数値である。
〔計算式〕
9737N㎥/時間×(850+273)÷273=40054㎥/時間
3460kg/時間÷40054㎥/時間=0.086kg/㎥
※水の比重を1.0とすると,0.086kg/㎥は,0.086L
/㎥と同じことになる。
かかる計算結果は,排ガスの温度を下げるために十分な水量がないこ
とを意味しているから,排水が生じない設計になっているとしても,冷
却室としての機能は果たさないものである。
したがって,本件焼却施設は,集じん機に流入する燃焼ガスの温度を
概ね摂氏200度以下に冷却することができる冷却施設を設けていない
ことになり,改正前の施行規則12条の2第5項柱書,4条1項7号ニ
の要件を満たさない。
(7)排ガス処理設備
アバグフィルターとバイパス
本件焼却施設には,ばいじん等を除去する設備として,バグフィル
ターが設置される予定となっているが,本件焼却施設の設計関連図書
には,バグフィルターの一般論しか記載されていない。したがって,
本件焼却施設に設置されるバグフィルターが,法令の要請するような
機能を発揮するという根拠はない。
また,バグフィルターではガス化した有害物質を除去することはで
きない上,本件焼却施設のバグフィルターには,バイパスが設置され
ており,バグフィルターを使用しなくとも運転できる設計になってい
る。この場合,排ガス中の有害物質濃度は著しく高まることになる。
イ硫黄酸化物対策について
本件焼却施設において,硫黄酸化物対策としては,バグフィルター
とその前段としての消石灰・活性炭の排ガス中吹き込みによるものと
されているようである。
しかし,硫黄酸化物には,二酸化硫黄と三酸化硫黄があり,廃棄物
焼却施設の排ガス中では,前者が9割以上を占めるところ,二酸化硫
黄は,弱酸性であり,消石灰への吸着の程度は弱く,スクラバーによ
る水噴霧でも水に対する溶解性が低く,効果が上がらないという性質
を有する。このため,硫黄酸化物対策としては,二酸化硫黄を三酸化
硫黄に酸化した後で,アルカリ洗浄や消石灰吸着をすべきであるが,
本件焼却施設には,そのような対策がない。
ウ窒素酸化物対策について
廃棄物焼却によって発生する窒素酸化物は,主として一酸化窒素と
二酸化窒素であり,その大部分は前者である。そして,一酸化窒素
は,水にほとんど溶けず,弱酸性なので活性炭にも吸着されない。
対策としては,アンモニア添加による活性炭上での除去等の方法が
あるが,本件焼却施設には採用されていない。
エしたがって,本件焼却施設は,その煙突から排出される排ガスによ
る生活環境保全上の支障が生じないようにすることができる排ガス処
理施設が設けられていないということになり,改正前の施行規則12
条の2第5項柱書,4条1項7号ヘの要件を満たしていない。
(8)焼却灰の処理
ア本件焼却施設から排出される焼却灰は,水封式のコンベアで排出さ
れるようである。しかし,焼却灰は,焼却直後,高温になっているは
ずであるから,少なからぬ焼却灰が,水蒸気とともに飛散するはずで
ある。したがって,焼却灰が埋め立て処理される際にも,その後も,
水蒸気とともに焼却灰が周囲に飛散すると考えられる。
イ本件焼却施設において発生する燃焼ガスを冷却する際に用いた冷却
水は,気化するとのことであるが,本件焼却施設の構造によれば,燃
焼ガスは,排ガス冷却室を通った後,バグフィルターへ向かうもの
と,下に落ちるものとに分かれるようである。そうすると,冷却水と
焼却灰の一部が,排ガス冷却室から下に落ちる際に,飛散することに
なるものと考えられる。
ウまた,バグフィルターで捕捉されたダイオキシン類は,最終的にセ
メント固化されて処理されるとのことであるが,処理されるというこ
とは,結局,本件処分場に搬入されることになると思われる。その
際,セメントが破砕され,セメントからダイオキシン類が溶け出した
りして飛散し,あるいは,前記のとおり欠陥のある遮水シートの破損
箇所から露出することが考えられる。
エこのように,本件焼却施設からは,焼却灰やばいじんが飛散する構
造となっているから,本件焼却施設には,改正前の施行規則12条の
2第5項柱書,4条1項7号リ(1)の要件を満たす灰出し設備が設け
られていないということになる。
(9)設計基本図書等の問題点
本件焼却施設の設計基本図書や設計基本計算書の数値の記載自体にも
以下のような問題があり,このことは,本件焼却施設が,前記規則の要
件を満たしていない事実を補強する。
ア本件焼却施設の上記基本計算書には,焼却施設設計の基礎となる燃
焼計算が示されていない。燃焼計算は,焼却施設の燃焼室の内容積,
熱負荷,焼却能力の計算,排ガス量の計算,それに応じた焼却施設の
排ガス冷却部分の設計,有毒ガス濃度の推定,それに対する除外施設
の設計の出発点となるものであるところ,かかる記載を欠いているこ
とは,本件焼却施設の設計が適切であったという裏付けを欠いている
ことになる。
また,本件焼却施設の上記基本図書や基本計算書において用いられ
た元素組成や水分含有量等の数値は,何の根拠もない数値である。
イ次に,有害物質の排ガス濃度設計は,設計業務の中でも重要な部分
を占めているところ,本件焼却施設の上記基本図書や基本計算書にお
いては,有害物質の発生量,有害物質の除去率やその根拠は示されて
いない。また,最終的な排ガス中の有害物質濃度も示されていない。
(被告及び補助参加人の主張)
(1)原告らの主張(1)ないし(7)はいずれも争う。
被告は,本件焼却施設は,改正前の施行規則12条の2の各要件を満
たしていると判断して,本件各処分を行った。
(2)原告らの主張(8)は争う。
ア原告らは水封式コンベアの機能と構造を独善的に解釈している。
焼却物は,連続的かつ定量的に供給され,熱減量10パーセント
以下まで焼却されるので,高温の燃焼状態にある燃焼物質が一括的に
大量に水面へ落下するわけではなく,大量の水蒸気が一度に発生し,
焼却灰の飛散の原因となるような状況は発生しない。
イ次に,原告らは,排ガス冷却構造についても,独善的解釈により主
張を展開している。
すなわち,冷却水は,排ガスの温度に比例した制御により,供給量
の全量が蒸発しうる量だけ噴霧供給される。排ガス温度は摂氏200
度以下とするのであり,水の蒸発温度は,摂氏100度であるから,
この制御は比較的容易である。また,噴霧に際しては,水の粒子径を
ミクロン単位の霧状とするノズルを介するので,シャワーのように粒
子径が大きく蒸発しきれず,水滴として設備内に滴下残留することは
ない。また,同冷却室内において,比重の関係上落下したばいじんに
ついては,封止されたコンベアへ密閉を保った状態で排出されるので
飛散しない。
ウセメント固化処理については,構造体としての封止効果は当然であ
るが,混練されることによる固化であるから,構造体として粉砕され
る,あるいは経年劣化で崩れることを原因とする溶出は考え難い。
エ以上のとおり,原告らの主張は,本件焼却施設が,改正前の施行規
則12条の2第5項柱書,4条1項7号リ(1)の要件を満たしていな
いことの根拠となるものではない。
(3)原告らの主張(9)は争う。
5予備的請求の争点(1)アについて
当事者の主張は,主位的請求の争点(1)イの原告らの主張及び被告の主
張と同旨である。
6予備的請求の争点(1)イについて
(原告らの主張)
本件各処分が取り消されないまま放置される場合には,本件各施設の建
設及び操業に伴って,有害物質が飛散,流出することにより,本件各施設
周辺の大気,土壌,水質が汚染され,住民の生命,健康及び財産に被害が
生じるおそれがある。本件各施設から飛散する有害物質が,ダイオキシン
類等,一旦環境中に排出されれば長期にわたり残存するものであることを
考えると,その被害は甚大である。したがって,本件各処分が取り消され
ないことにより,原告らに重大な損害が発生することは明らかである。
(被告の主張)
争う。
7予備的請求の争点(1)ウについて
(原告らの主張)
原告らは,補助参加人に対し,本件各施設の建設差止めを求める民事訴
訟を提起しているが,民事訴訟を提起しているだけでは,本件各施設の建
設を差し止める効果はないから,同訴訟係属中に,本件各施設の建設が完
了し,操業開始することも十分考えられ,その場合,取り返しのつかない
環境汚染が始まることが考えられる。しかも,上記民事訴訟においては,
技術的科学的な争点について主張立証を行わなければならず,訴訟の長期
化が予想される上,原告らが勝訴することは容易でない。
このような事情からすれば,予備的請求の争点(1)イの原告らの主張の
とおりの損害を避けるためには,予備的請求に係る訴えの提起の他に適切
な方法があるとはいえない。
(被告の主張)
争う。
8予備的請求の争点(2)アについて
(原告らの主張)
平成21年1月まで補助参加人の訴訟代理人であったH弁護士は,以下
の事情から,Iを介して,補助参加人を実質的に支配していた者であり,
補助参加人の「役員」(廃棄物処理法14条5項2号ニ,7条5項4号
ニ)に該当するところ,Hは,平成▲年▲月▲日,○違反により逮捕さ
れ,同年▲月▲日,同被告事件について有罪判決(○)を受け,同判決は
確定しており,これは廃棄物処理法14条5項2号ニ,同号イ,7条5項
4号ロに該当するから,福島県知事が,同法15条の3第1項1号によ
り,本件各処分を取り消す義務を負うことは一義的に明らかである。
(1)Hは,補助参加人の実印及び株券を管理していた。
(2)補助参加人には預金口座がなく,補助参加人の支払は,Hの預り金
口座を通じて行われていた。
(3)補助参加人の内部紛争に係る多くの交渉,補助参加人の株式の譲
渡,株主総会及び取締役会,スポンサーとの打合せ及びスポンサーに対
する報告は,いずれもHの経営する法律事務所において,H主導で行わ
れていた。
(4)Hは,原告らと補助参加人との間の複数の訴訟において,補助参加
人の訴訟代理人の地位にあったが,補助参加人から着手金及び報酬を一
切受け取っていない上,上記訴訟の準備書面及び和解案を,補助参加人
の当時の代表取締役に相談することもなく,独断で作成していた。
(5)Hは,補助参加人の内部紛争の処理に際し,自己の所有する不動産
を担保に入れて,1億円を拠出した。
(6)Iは,平成12年7月から,Hの経営する法律事務所の事務員とし
て勤務していた者であるが,当時補助参加人のスポンサーであったJ株
式会社(以下「J」という。)とHの人選により,同法律事務所から補
助参加人に出向して,平成18年5月に補助参加人の取締役に就任し,
平成20年2月には代表取締役に就任した。しかし,Iは,補助参加人
の締結した売買契約の内容や株主総会の招集手続等について何ら認識し
ていなかった。
(7)補助参加人が,補助参加人に資金を提供することを目的とする会社
であると説明する有限会社K(以下「K」という。),L有限会社(以
下「L」という。),M有限会社(以下「M」という。)は,いずれも
Hが設立した会社であり,K及び福島の本店所在地は,いずれもHの経
営する法律事務所の所在地であって,Kの代表取締役にはIが就任して
いた。
(被告の主張)
原告らの主張のうち,Hが○違反被告事件において有罪判決を受けたこ
と,Hが補助参加人の「役員」に当たる場合,被告が本件各処分を取り消
す義務を負うことは認め,その余は不知ないし争う。
Hは,上記有罪判決を受けた当時,補助参加人の取締役等の役職に就任
しておらず,補助参加人の相談役ないし顧問等の肩書も有していなかっ
た。Hが,補助参加人に対する多額の融資ないし出資を行うことでその経
営に介入していた事実もないから,Hが補助参加人の「役員」に当たらな
いことは明らかである。
原告らは,補助参加人の代表取締役であり,かつ筆頭株主でもあったI
が,Hの経営する法律事務所の元事務員であったことをもって,HがIを
通じて補助参加人を実質的に支配していた旨主張するが,上記有罪判決を
受けた当時におけるIとHの関係は証拠上明らかでないから,Hが,Iを
通じて,補助参加人を実質的に支配していたとは認められない。
(補助参加人の主張)
原告らの主張のうち,Hが○違反被告事件において有罪判決を受けたこ
とは認め,その余は否認ないし争う。その詳細については,以下に付け加
えるほか,被告の主張と同旨である。
Hは,平成20年2月まで,補助参加人の監査役に就任していたが,そ
もそも監査役は,業務執行にあたる取締役とは機能上別個のものである
し,その監査役ですら,Hは,同月,引責辞任しているのであり,同人が
補助参加人の「役員」に当たらないことは明らかである。補助参加人が,
打合せ等にHの法律事務所を利用していたのは,単に東京に事務所を借り
る資金的余裕がなかったからにすぎない。
また,Iは,補助参加人のスポンサーの要請によって補助参加人の取締
役ないし代表取締役に就任したもので,Hの意向によって就任したもので
はないから,補助参加人の経営に関し,IがHの影響下にあったとはいえ
ない。
9予備的請求の争点(2)イについて
(原告らの主張)
予備的請求の争点(2)アの原告らの主張のとおり,Hは,補助参加人の
「役員」に該当するところ,○違反被告事件について有罪判決を受けてい
る。また,Hは,少なくとも平成21年3月25日時点で,N会系暴力団
の交友者であるOとの間に生じた補助参加人の内部紛争に,暴力団を関与
させていた。さらに,Hは,裁判所に対して,補助参加人が滞納している
国税を納付する旨述べながら,その約束を軽々しく破り,また,自らの預
り金口座を補助参加人に使用させるなどした。
このように,Hが,不公正,不誠実な行為を繰り返し行っていることか
らすれば,Hは,補助参加人の業務に関し不正又は不誠実な行為をするお
それがあると認めるに足りる相当の理由がある者ということができ,これ
は廃棄物処理法14条5項2号ニ,同号イ,7条5項4号トに該当するか
ら,福島県知事が,同法15条の3第1項1号により,本件各処分を取り
消す義務を負うことは一義的に明らかである。
(被告の主張)
不知ないし争う。
(補助参加人の主張)
否認ないし争う。
10予備的請求の争点(2)ウについて
(原告らの主張)
補助参加人は,以下の事情からすれば,暴力団員又は暴力団員でなくな
った日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)がその事
業活動を支配するに至っているといえ,廃棄物処理法14条5項2号ヘに
該当するから,福島県知事が,同法15条の3第1項1号により,本件各
処分を取り消す義務を負うことは一義的に明らかである。
(1)Pの交友関係
本件許可申請当時,補助参加人の代表取締役であったPは,Q組R組
2代目組長Sと平成4年ころ知り合い,その後現在に至るまで交友があ
る。そして,補助参加人の経営権をめぐる内部紛争に際し,Q組の支援
を受けた。
(2)Oの交友関係
Pの次に補助参加人の代表取締役に就任したOは,N会系暴力団の交
友者である。そして,補助参加人の経営権をめぐる内部紛争に際し,N
会の支援を受けた。
(3)見せ金
補助参加人は,原告らとの間の別件訴訟(仙台高等裁判所平成○年
(ネ)第○号産業廃棄物処分場工場差止等請求控訴事件)において,平成
18年10月20日,Mから資金援助を受けることになったとして,T
銀行W支店の約70億円の残高証明を出してきた。
しかし,Mは,資本金がわずか540万円という小企業である。しか
も,平成18年1月に設立され,営業の実績もない。そのようなMに約
70億円もの莫大な資金があるはずがない。現に,Mが,上記支店に約
70億円もの預金を有していたのは,残高証明書の日付である平成18
年9月12日のみであった。
そうすると,上記約70億円は,見せ金にすぎない。
(被告の主張)
(1)原告らの主張の冒頭部分の主張は争う。
ア原告らの主張(1)及び(2)の事実は不知。
イ原告らの主張(3)のうち,Mが平成18年1月に設立されたこと,
その資本金が,平成19年12月31日現在,540万円であること
は認め,その余は不知ないし争う。
(2)暴力団員等に関する欠格要件は,平成12年法律第105号による
改正により加わったものであり,施行は同年10月1日である。そし
て,暴力団員等に関する欠格要件を定めた規定について,遡及適用を定
めた経過規定はないから,同日以降の事実を基に,上記欠格要件の該当
性を判断することになる。
この点,P及びOは,いずれも,平成12年10月1日よりも前に補
助参加人の代表取締役を退任しているから,仮に,これらの者が暴力団
員等であったとしても,取り消すべき事由とはならない。
また,少なくとも,平成12年10月1日以降,補助参加人が,暴力
団員等にその事業を支配されるに至っていたという事実はないから,福
島県知事は,本件各処分を取り消すことを義務付けられていない。
(補助参加人の主張)
原告らの主張の冒頭部分の主張は争う。
(1)原告らの主張(1)及び(2)の事実は否認する。
(2)原告らの主張(3)は否認ないし争う。
Mの前記70億円は,見せ金ではない。補助参加人は,平成20年7
月から12月にかけて,本件土地のうち本件処分場用地に放置されてき
た不法投棄産業廃棄物を2億円かけて撤去し,同年11月,本件土地内
に包蔵された埋蔵文化財発掘を1500万円かけて実施するとともに,
本件各施設に接続する南相馬市市道の拡幅工事を実施し,これに要する
費用として1億2000万円のうち6000万円を請負業者に支払っ
た。また,同月,本件各施設の本工事に着手し,請負業者に対し,総工
事費70億円のうち,35億円を前渡金として支払った。このことから
分かるように,補助参加人は,Mから資金調達を妥当に受けているので
ある。
11予備的請求の争点(2)エについて
(原告らの主張)
補助参加人は,以下の事情から,その業務に関し不正又は不誠実な行為
をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者に該当するとい
うべきであり,廃棄物処理法14条5項2号イ,7条5項4号トに該当す
るから,福島県知事が,同法15条の3第1項1号により,本件各処分を
取り消す義務を負うことは一義的に明らかである。
(1)国税の滞納
補助参加人は,平成17年11月21日,関東信越国税局長から,国
税の滞納を理由として財産の差押えを受けた。この滞納金は約6億円に
上り,加算税ともども,いまだに,支払われていない。このような態度
から,補助参加人の遵法精神の欠如と補助参加人の経理的基礎の不十分
性がうかがわれる。
(2)多年にわたる内部紛争
補助参加人は,平成3年2月19日,PとOによって設立された。し
かし,平成5年3月には,金銭問題から,両者の間でトラブルとなり,
双方が暴力団の支援を受けて争うという事態になった。その後,Pが,
取締役会議事録を偽造するなどして逮捕され,さらには,OとUなる人
物との間で新たにトラブルが生じるなどし,紛争が泥沼化した。その
後,Oは,前記Uと和解し,補助参加人の経営権を回復したが,それ
は,平成18年2月10日である。このように,15年近くにわたり内
部紛争に明け暮れていた補助参加人に,今後,安定した経営を続けてい
くことを期待することはできない。
(3)Mの本店所在地
補助参加人が,補助参加人に資金を提供することを目的とする会社で
あると説明するMの本店所在地は,原告らと補助参加人との間の複数の
訴訟において,補助参加人の訴訟代理人であったHの自宅であり,Mが
通常の営業を展開しているなどとは到底いえない。
したがって,Mは,実体のない幽霊会社というほかなく,同社から適
切な資金提供を受けられる保証はない。
(4)遵法精神の欠如
補助参加人は,①土地の所有者に対して承諾を得ることもなく,勝手
に発掘調査を行い,②南相馬市との間で締結した公害防止協定等に基づ
いて,積み立てることとされた積立金を積み立てず,③福島県の指導要
綱上,本件各施設で事故が生じた場合には責任を負う旨の誓約書を提出
しなければならないとされているにもかかわらず,これを提出せず,④
本件土地の周辺住民らとの間で,協定を締結するまでは本件各施設の建
設工事に着手しない旨合意していたにもかかわらず,協定を締結しない
まま工事に着手するなど,数々の違法行為,約束違反行為を繰り返して
きた。このような補助参加人に本件各施設の安定した経営を続けていく
ことを期待することはできない。
(被告の主張)
原告らの主張の冒頭部分の主張は争う。
(1)原告らの主張(1)の事実は認めるが,国税滞納の事実は,補助参加人
に,その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認める
に足りる相当の理由があるとの評価をもたらすものではない。
(2)原告らの主張(2)のうち,補助参加人が,平成3年2月19日に,P
とOによって設立されたとの点は認め,その余は不知ないし争う。
(3)原告らの主張(3)及び(4)は不知ないし争う。
(補助参加人の主張)
原告らの主張の冒頭部分の主張は争う。
(1)原告らの主張(1)の事実は認め,評価は争う。
補助参加人は,滞納した税金を支払う意思を有しており,そのために
国税局と協議を行うなど,支払に向けた行動を積極的に取っているし,
廃棄物処理法18条に基づく報告の徴収に対し,適切な事業計画及び資
金計画を策定して提出し,この中で,滞納税の支払についても計上して
おり,十分な遵法精神を有している。また,補助参加人の経理的基礎が
不十分なものでないことは,予備的請求の争点(2)ウの補助参加人の主
張(2)の事実からしても明らかである。
(2)原告らの主張(2)ないし(4)は否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1主位的請求の争点(1)アについて
(1)改正前の行政事件訴訟法は,取消訴訟の出訴期間について,処分又
は裁決があったことを知った日から3か月以内に提起しなければならな
いと定め,この出訴期間を不変期間としている(14条1項,2項)。
そして,平成16年法律第84号の附則4条は,出訴期間に関する経過
措置として,同法律の施行(平成17年4月1日)前にその期間が満了
した処分又は裁決に関する訴訟の出訴期間については,なお従前の例に
よるものと規定している。
(2)原告らは,本件各処分を知ったのは平成12年の夏であることを自
認しているところ,本件訴えが提起されたのは,平成19年11月27
日であるから(顕著な事実),本件各処分の取消しを求める主位的請求
に係る訴えは,原告らが本件各処分があったことを知った日から起算し
て3か月が経過した後に提起されていることになる。
そうすると,改正後の行政事件訴訟法施行前に,本件各処分の出訴期
間は満了しているから,本件各処分に改正後の行政事件訴訟法14条1
項の規定を適用する余地はなく,改正前の行政事件訴訟法には,正当な
理由があることにより出訴期間の徒過を救済する規定はないから,本件
においては,正当な理由の存否は問題とならない。なお,原告らは,平
成12年12月には,本件各施設から出る排出物の危険性,影響等を指
摘した文書を補助参加人に対して送付しており(丙90の5,弁論の全
趣旨),遅くとも平成12年中には,本件各施設の設置が周辺住民に与
える可能性のある健康被害等について,問題意識を有するに至っていた
ことがうかがわれるから,本件において,訴訟行為の追完(民事訴訟法
97条1項)を認める余地もない。
以上によれば,本件各処分の取消しを求める主位的請求に係る訴え
は,出訴期間経過後に提起された不適法なものであるから,その余の点
について判断するまでもなく,却下を免れない。
2予備的請求の争点(1)アについて
(1)行政事件訴訟法37条の2第3項は,いわゆる非申請型の義務付け
の訴え(同法3条6項1号)は,行政庁が一定の処分をすべき旨を命ず
ることを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に限り,提起するこ
とができると規定している。ここで,「法律上の利益を有する者」と
は,当該処分がされないことにより自己の権利若しくは法律上保護され
た利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうので
あり,当該処分の根拠を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益
を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する
個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと
解される場合には,このような利益も法律上保護された利益に当たり,
当該処分がされないことにより,上記利益を侵害され,又は必然的に侵
害されるおそれのある者は,当該処分の義務付けを求める訴訟における
原告適格を有するものというべきである。
そして,行政事件訴訟法37条の2第4項は,上記法律上保護された
利益の有無の判断については,同法9条2項の規定を準用しているとこ
ろ,同項によれば,第三者に対する処分を行政庁に命ずることを求める
者について上記法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,
当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令
の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び
性質を考慮するものとし,この場合において,当該法令の趣旨及び目的
を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通する関係法令があると
きはその趣旨及び目的をも参酌するものとし,当該利益の内容及び性質
を考慮するに当たっては,行政庁が当該処分をすべきであることが当該
処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ,又は行政庁
が当該処分をしないことがその裁量権の範囲を超え,若しくはその濫用
となると認められるにもかかわらず,当該処分がされない場合に害され
ることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を
も勘案すべきこととなる。
(2)上記の見地に立って,原告らが,本件各処分の取消しの義務付けを
求める原告適格を有するか否かについて検討する。
ア廃棄物処理法は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分
別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を
清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るこ
とを目的としている(1条)。
そして,廃棄物処理法は,①産業廃棄物処理施設の設置について
は,都道府県知事の許可を受けることを要することとし(15条1
項),②産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関す
る計画が,当該施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で
定める周辺の施設について適正な配慮がされたものであることをその
許可の基準とし(15条の2第1項2号),③申請書には,当該施設
を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の
結果を記載した書類を添付しなければならず(15条3項),④都道
府県知事は,政令で定める産業廃棄物処理施設(本件各施設はこれに
該当する。甲1ないし3,弁論の全趣旨。)について許可の申請があ
った場合には,同法15条2項1号から4号までに掲げる事項,申請
年月日及び縦覧場所を告示するとともに,同項の申請書及び同条3項
所定の書類を公衆の縦覧に供しなければならず(15条4項),さら
に,当該告示をした旨を当該施設の設置に関し生活環境の保全上関係
がある市町村の長に通知し,当該市町村長の生活環境の保全上の見地
からの意見を聴かなければならず(15条5項),⑤当該施設の設置
に関し利害関係を有する者は,都道府県知事に生活環境の保全上の見
地からの意見書を提出することができ(15条6項),⑥都道府県知
事は,当該許可をする場合には,あらかじめ同法15条の2第1項2
号に掲げる事項について専門的知識を有する者の意見を聴かなければ
ならず(15条の2第3項),当該許可には生活環境の保全上必要な
条件を付することができる(15条の2第4項)と定めている。
また,産業廃棄物処理施設の設置許可後についても,廃棄物処理法
は,産業廃棄物処理施設の設置者が,周辺地域の生活環境の保全及び
環境省令で定める周辺施設について適正な配慮がなされた産業廃棄物
処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画に従い,当該
施設の維持管理をすることを要するものとし(15条の2の3第1
項),都道府県知事は,当該施設が産業廃棄物処理施設の維持管理に
関する計画等に適合していないと認めるときや許可に付した生活環境
の保全上必要な条件に違反したと認めるときは,当該施設につき必要
な改善を命じ,又は当該施設の使用の停止を命じることができ(15
条の2の7第1号,4号),あるいは当該許可を取り消すことができ
(15条の3第2項),産業廃棄物処理施設の設置者が上記改善命令
又は使用停止命令に違反したときや不正の手段により産業廃棄物処理
施設の設置の許可を受けたときは,当該許可を取り消さなければなら
ない(15条の3第1項第2号,3号)と定めている。
そして,環境省令においても,産業廃棄物の最終処分場について
は,公共の水域及び地下水の汚染を防止するため,十分な効力,強度
及び耐久力を有する遮水シート等の遮水層を設けることが設置許可の
基準とされ(一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係
る技術上の基準を定める省令2条1項4号,1条1項5号),周縁の地
下水等の水質検査が義務付けられている(同省令2条2項3号,1条
2項10号)。産業廃棄物の焼却施設については,施設から排出され
るダイオキシン類の有害物質を削減するため,完全燃焼の確保,排ガ
ス処理の適正化,排ガス濃度等の管理を図るための構造基準及び維持
管理基準が設けられ,定期的に排ガス中の有害物質の濃度を測定する
ことが義務付けられている(施行規則12条の2,12条の7)。
こうした産業廃棄物処理施設の設置許可及び許可後の措置に関する
廃棄物処理法及び環境省令の一連の規定は,本件各施設のような産業
廃棄物処理施設の設置及び操業によって,当該施設の周辺に居住する
住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,良好な生活
環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものであると解され
る。
イ予備的請求の根拠規定である廃棄物処理法15条の3第1項1号
は,都道府県知事に対し,産業廃棄物処理施設の設置者が,①暴力団
員等である場合,②暴力団員等がその事業活動を支配する者に該当す
る場合に加えて,産業廃棄物処理施設の設置者ないし設置者が法人で
ある場合のその役員等に,③禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終
わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
のある場合,④その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれが
あると認めるに足りる相当な理由がある者のある場合等に,産業廃棄
物処理施設の設置の許可を取り消すことを義務付けている。
前記産業廃棄物処理施設の設置許可及び許可後の措置に関する廃棄
物処理法及び環境省令の一連の規定の趣旨及び目的に加え,産業廃棄
物処理業が,不法投棄等の不適正処理を行うことで多額の不法収益を
上げるという動機付けの強い業態であるという実情に照らせば,上記
規定も,産業廃棄物処理施設の設置者等に一定の資質及び社会的信用
性を求めることで,適切な業務運営を期待できない者を排除し,ひい
ては当該施設の周辺に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生
することを防止し,良好な生活環境を保全することを,その趣旨及び
目的とするものと解される。
ウそして,産業廃棄物処理施設の設置の許可申請に対して許可がされ
た後において,当該施設の設置者に適切な業務運営を期待できない等
の事情により当該許可を取り消すべき事由が存在するにもかかわら
ず,それが放置される場合には,当該施設の設置場所と一定の地理的
関係にある周辺地域に居住する者は,当該施設の不適切な設置又は維
持管理に起因する継続的な大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染等に
より,生命又は身体に対する重大な危害を含め,その健康又は生活環
境に係る著しい被害を被ることにもなりかねないものである。
前記の産業廃棄物処理施設の設置許可及び許可後の措置に関する廃
棄物処理法及び環境省令の一連の規定の趣旨及び目的に鑑みれば,廃
棄物処理法の規定は,当該施設の周辺地域に居住する住民に対し,産
業廃棄物処理施設に起因する人体に有害な大気の汚染,水質の汚濁,
土壌の汚染等によって,その健康又は生活環境に係る著しい被害を受
けないという具体的利益を保護しようとするものであると解されると
ころ,その被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益
は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものであるといわ
ざるを得ない。
エしたがって,本件各施設の周辺に居住する住民のうち,本件各施設
が設置及び操業されることによる人体に有害な大気の汚染,水質の汚
濁,土壌の汚染等によって,健康又は生活環境に係る著しい被害を直
接的に受けるおそれのある者は,本件各施設の設置許可の取消しの義
務付けを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その義務付け
を求める訴訟における原告適格を有するというべきである。
(3)後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア本件焼却施設は,汚泥,廃油,廃プラスチック類,産業廃棄物等を
取扱品目とし,24時間当たり30トンの処理能力を有する焼却炉を
2基有する中間処理焼却炉であり,本件処分場は,埋立地面積約6万
0035平方メートル,埋立容量89万0036立法メートル,埋立
て予定期間を17年間とする管理型最終処分場である。本件処分場か
らの浸出水は,浸出水処理施設で水処理された後,その一部は農業用
水路を経由して,二級河川ζ川及びη川へと放流される(以上,甲1
ないし3,乙1,2,5,丙6の1,6の2,9,弁論の全趣旨)。
イ本件各施設が適正に設置及び維持管理されない場合には,本件各施
設から,排ガス及び焼却灰等としてダイオキシン類,水銀,ヒ素,カ
ドミウム,鉛,クロム,ニッケル等の重金属類の有害物質が大気中な
いし水路に排出されるおそれがある。排出された上記有害物質は,呼
吸を通して体内に摂取されるのみならず,食物及び飲料水等に付着な
いし混入するなどして,食物及び飲料水等を通じても体内に摂取され
る。ダイオキシン類の毒性には,大別して,摂取により直ちに死に至
るような急性毒性と,それ以外の一般毒性ないし慢性毒性があり,一
般毒性ないし慢性毒性としては,ダイオキシン類を毎日一定程度摂取
することで生ずる可能性がある発ガン性に加え,生殖毒性及び免疫毒
性などの内分泌攪乱物質作用等がある(以上,甲29,32,33,
66の1ないし4,弁論の全趣旨)。
ウ原告らは,いずれもその肩書住所地に居住する者であり(なお,原
告らの中には,平成23年3月に生じたV原子力発電所の事故により
その住所地が警戒区域として設定され,上記肩書住所地から避難して
いる者もいるが,いずれも一時的なものであり,帰住の意思を有する
ものとうかがわれるから,なお上記住所地に居住するものと認めるの
が相当である。),原告らの住所地と本件各施設との距離は,最も離
れた者で約165メートルである(甲59,60,丙9,原告D本
人,原告C本人,弁論の全趣旨)。
原告Cは,生活用水として井戸水を使用しており,その水源井戸
は,同人の肩書住所地に位置する(甲59,原告C本人,弁論の全趣
旨)。
原告D及び原告Cは,本件各施設からの距離が,原告らの住所地と
同程度の場所に水田を所有しており,本件各施設と隣接する本件ため
池の水を農業用水として利用して農作業を行っている(甲59,6
0,原告D本人,原告C本人,弁論の全趣旨)。
エ原告らの住所地及び水田は,本件土地より標高の低いところに位置
しており,原告らの住所地及び水田と本件各施設との間に,大気の拡
散を妨げる要因となる建築物等は存在せず,周辺の地形条件や気象条
件をみても,大気の拡散が妨げられることはうかがわれない(甲66
の1ないし3,丙6の1,7の1,7の4,9,弁論の全趣旨)。
(4)本件各施設の設置者に適切な業務運営等が期待できない等の事情に
より,本件各処分を取り消すべき事由が存在するにもかかわらず,それ
が放置される場合には,ダイオキシン類等の人体に有害な物質を含む排
ガス等が,本件各施設から大気中に排出され,あるいは上記有害物質を
含む浸出水が水路や河川に放流されることにより,本件各施設の周囲の
大気及び水質は汚染されることになるものと考えられるところ,上記
(3)アの本件各施設の種類及び規模等からすれば,かかる汚染は重大な
ものになることが予想される。そして,かかる有害物質が許容限度を超
えて継続的に排出された場合には,本件各施設の周辺に居住し,生活用
水ないし農業用水を本件各施設の周辺から直接利用して生活を営んでい
る者は,上記有害物質を継続的に吸引ないし摂取する環境にあり,その
健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあると認
められるから,これらの者は,本件各処分の取消しの義務付けを求める
原告適格を有するというべきである。
そして,上記(3)ウ及びエの本件各施設と原告らの居住地との間の距
離を含む地理的関係,原告らの生活用水及び農業用水の利用状況等に鑑
みると,本件各施設から人体に有害な物質を含む排ガス等や浸出水が継
続的に排出された場合には,原告らは,まさにその健康又は生活環境に
係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者であるということがで
きるから,原告らは,本件各処分の取消しの義務付けを求める原告適格
を有するというべきである。
3予備的請求の争点(1)イについて
前記2(4)のとおり,本件各処分を取り消すべき事由が存在するにもか
かわらず,それが放置される場合には,本件各施設からダイオキシン類
等の人体に有害な物質が多量に,かつ継続的に排出されることにより,
本件各施設の周囲の大気及び水質は汚染されることになるおそれがある
と考えられるところ,ダイオキシン類は,前記2(3)イのとおりの毒性を
有するものであり,摂取する者の生命及び健康に重大な損害を与え,そ
の損害を次世代にも残すおそれがあるものである。
これに加え,前記2(3)ウ及びエの本件各施設と原告らの居住地との間
の距離を含む地理的関係,原告らの生活用水及び農業用水の利用状況等
を併せ考えると,本件各処分を取り消すべき事由が存在するにもかかわ
らず,それが放置される場合には,高い毒性を有するダイオキシン類等
の有害物質に汚染された大気及び水が,原告らの生命及び健康に損害を
生ずるおそれがあるものと認められる。
そして,上記のような生命及び健康に生じる損害は,その性質上,回
復が著しく困難であるといえるから,本件各処分が取り消されないこと
により,原告らに重大な損害が生ずるおそれがあると認められる。
4予備的請求の争点(1)ウについて
前記3のとおり,一旦当該許可の効力を争い得なくなった後において
も,廃棄物処理法又はその関連法令に違反する事情が生じ,当該許可を取
り消すべき事由が存在するにもかかわらず,それが放置される場合には,
原告らの生命及び健康に重大な損害を生ずるおそれがあるところ,かかる
損害は,事後的な金銭による回復に委ねることが相当でない性質のもので
あると解されるから,本件各処分の取消しを義務付ける他に,かかる損害
を避けるための適当な方法は見当たらないというべきである。また,補助
参加人に対し,民事上の差止め請求等をすることが可能であるとしても,
義務付けの訴えと民事上の請求とでは,請求の相手方,要件及び効果の諸
点において異なるものであるから,実効的な権利救済という見地からして
も,救済手段としての義務付けの訴えを排除すべきではない。
したがって,前記3の損害を避けるために予備的請求に係る訴えを提起
する他に適当な方法はないものと認められる。
5予備的主張の争点(2)アについて
(1)都道府県知事は,産業廃棄物処理施設の設置者が,法人でその役員
又は政令で定める使用人のうちに,禁錮以上の刑に処せられ,その執行
を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない
者のあるものに該当するに至ったときは,当該施設の設置の許可を取り
消さなければならない(廃棄物処理法15条の3第1項1号,14条5
項2号ニ,同号イ,7条5項4号ロ)。そして,上記各規定に基づく取
消処分については,その要件の認定,行為の選択等に行政庁の裁量の余
地がないものであるから,当該処分は上記各規定に覊束されているもの
と解される。
したがって,上記各規定に該当することが認められる場合には,福島
県知事が本件各処分を取り消すべきであることが,その処分の根拠とな
る法令の規定から明らかであると認められる(行政事件訴訟法37条の
2第5項前段)。
(2)まず,証拠(甲67,68)及び弁論の全趣旨によれば,Hは,平
成○年法律第○号による改正前の○法(以下「改正前の○法」とい
う。)違反被告事件の被告人として,平成21年10月27日,東京地
方裁判所において,○の有罪判決(以下「本件判決」という。)の言渡
しを受け,その後,同判決が確定したことが認められる。
したがって,Hは,禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又
は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者に当たる。
(3)そして,廃棄物処理法14条5項2号ニの「役員」とは,「業務を
執行する社員,取締役,執行役又はこれらに準ずる者をいい,相談役,
顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず,法人に対し業務
を執行する社員,取締役,執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支
配力を有するものと認められる者を含む。」と規定されているところ
(同法7条5項4号ニ),甲第61号証及び弁論の全趣旨によれば,H
が,本件判決の前後を通じて,取締役会設置会社である補助参加人の取
締役の地位にあった事実は認められず,その他,Hが,補助参加人にお
いて,形式上,取締役に準ずる役職の地位にあった事実はうかがわれな
いから,本件においては,Hが,禁錮以上の刑に処せられたときにおい
て,取締役会設置会社である補助参加人の「取締役と同等以上の支配力
を有するものと認められる者」に該当していたか否かが問題になる。
この点,「取締役と同等以上の支配力」とは,「取締役(代表権のな
い,いわゆる「平取締役」)」と同等以上の支配力であれば足りると解
されるから,「取締役と同等以上の支配力を有するものと認められる
者」については,経営方針を単独の意思で決し得るような強大な権限を
有する者であることまでは要しないものと解される(行政処分の指針に
ついて(平成17年8月12日環廃産発第050812003号環境省
大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長通知)(乙11)参
照)。
そこで,補助参加人の業務上の意思決定に対する具体的な関与の有無
及びその程度等に照らして,Hが,補助参加人において,「取締役と同
等以上の支配力を有するものと認められる者」に該当していたか否かに
ついて,以下検討する。
(4)後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
なお,証人Iの証言中,Hが補助参加人の監査役及び訴訟代理人とし
ての立場を超えてその経営に関与したことはなく,Iに対して指示等す
ることもなかった旨述べる部分は,I自身の供述及び他の補助参加人関
係者の供述内容(甲40,42,44ないし46(いずれも枝番を含
む。),丙84),Hの補助参加人の業務に対する関与を裏付ける書面
の内容(甲47,丙66の1,67の1,67の2,87)と矛盾する
ものであって採用できず,ほかに,以下の認定を覆すに足りる証拠はな
い。
アHと補助参加人との関係について
(ア)Hは,平成18年以前から,本件各処分ないし本件各施設に関
する補助参加人と周辺住民との間の訴訟において,補助参加人の訴
訟代理人弁護士を務めていた(丙87,証人I,弁論の全趣旨)。
(イ)平成18年1月,内部紛争により散逸していた補助参加人の株
式を一元化し,補助参加人の事業経営の安定を図るため,補助参加
人の株式を保有することのみを目的として,Kが設立された。そし
て,Kの本店所在地は,その設立時から平成21年4月16日ま
で,Hが経営する法律事務所(以下「H法律事務所」という。)と
同所であり,Kの事業に係る打合せ等は,すべてH法律事務所で行
われていた(以上,丙83ないし86,証人I,弁論の全趣旨)。
Oは,平成18年4月,H立会の下,Kとの間で,当時Oが保有
していた補助参加人の株式100株をKに対して譲り渡す旨の契約
を締結した。その後,まもなく,Kは,当時の補助参加人の全株式
200株を保有するに至った(以上,甲39,49,50,証人
I,弁論の全趣旨)。
(ウ)平成18年2月,Hの仲介により,Jが補助参加人のスポンサ
ーになることが決定した(甲39,43,丙83,証人I,弁論の
全趣旨)。
(エ)Hは,平成18年5月12日,補助参加人の監査役に選任さ
れ,平成20年2月29日に退任するまで,補助参加人の監査役の
地位にあった(甲61,弁論の全趣旨)。
(オ)遅くとも平成20年2月には,それまで補助参加人の代表取締
役の地位にあったOが退任することになり,Hの調整により,補助
参加人がOに対し,Oが補助参加人に投下した資金6億円を支払う
ことを条件に,Oが補助参加人の代表取締役を任期満了により退任
する旨,Oの合意を取り付けた(甲39,43,47,61,丙8
3,証人I,弁論の全趣旨)。
そして,Hは,自己の所有する不動産に抵当権を設定して借り入
れた1億円を,補助参加人に対し,弁済期を定めずに,無利息,無
担保で貸し付け,補助参加人は,この1億円を上記合意に基づくO
に対する支払に充てた。上記1億円を含む補助参加人のOに対する
6億円の支払は,いずれもH法律事務所において,H立会の下で行
われた(以上,甲39,43,47,48,丙83,87,証人
I,弁論の全趣旨)。
(カ)平成20年2月25日には,補助参加人の臨時株主総会がH法
律事務所において開催され,同株主総会において,Iが補助参加人
の取締役に選任され,引き続き同所で行われた補助参加人の取締役
会において,Iが代表取締役に選任された。上記株主総会及び取締
役会には,Hも出席していた。そして,平成20年2月28日,O
が平成19年6月30日に補助参加人の代表取締役を退任し,Iが
平成20年2月25日に補助参加人の代表取締役に就任した旨の登
記がされた(以上,甲39,61,丙83,証人I,弁論の全趣
旨)。
(キ)Iが補助参加人の代表取締役に就任した平成20年2月25日
以降,月1回くらいの頻度で,H法律事務所において,補助参加人
の取締役が出席する定例会議が開かれ,その中で,Jに対する業務
報告,同社との打合せ,補助参加人の事業の重要方針の決定等が行
われていた。Hは,所用のあるときを除き,上記定例会議に出席し
ていた(以上,証人I,弁論の全趣旨)。
(ク)Iが補助参加人の代表取締役であった当時,補助参加人は,補
助参加人代理人H名義あるいは補助参加人代理人弁護士H名義の口
座を使用して,スポンサーから資金提供を受け,取引先等への支払
を行っていた。上記口座を使用しての金銭のやり取りは,約70億
円に上るものであった(以上,丙66の1,67の1,67の2,
証人I,弁論の全趣旨)。
(ケ)Hは,平成21年1月,改正前の○違反被疑事件より逮捕さ
れ,このころ,補助参加人の訴訟代理人を辞任した。その後,H
は,同被告事件について東京地方裁判所に起訴され,平成21年1
0月27日,本件判決の言渡しを受け,同年12月末で,事実上弁
護士業を廃業し,本件判決の確定により,弁護士資格を喪失した
(以上,甲43,67,68,丙83,証人I,弁論の全趣旨)。
イIと補助参加人及びHとの関係について
(ア)Iは,同人の祖父がHに法律事務処理を依頼したことをきっか
けに,平成12年7月からHに雇用され,H法律事務所の事務員と
して勤務していた(甲39,証人I,弁論の全趣旨)。
(イ)Hは,Jに対し,Iを補助参加人の取締役とすることを打診
し,Jの了解が得られたことから,Iは,平成18年5月12日,
補助参加人の取締役に就任した(甲39,61,丙83,証人I,
弁論の全趣旨)。
(ウ)Iは,平成18年5月に補助参加人の取締役に就任するまで,
補助参加人及びJと関わりがなく,補助参加人及びJについて認識
すらしていなかった(証人I,弁論の全趣旨)。
(エ)Iは,平成19年6月30日に,一旦補助参加人の取締役を退
任したが,平成20年2月25日,再度補助参加人の取締役に選任
され,同日,補助参加人の代表取締役に選任されてから平成22年
11月8日に退任するまで,補助参加人の取締役及び代表取締役の
地位にあった。そして,Iは,平成23年5月以降現在に至るま
で,補助参加人の監査役の地位にある(以上,甲61,証人I,弁
論の全趣旨)。
(オ)Iは,平成21年4月16日,Kの代表取締役に就任するとと
もに,同社の全株式を取得し,現在に至るまで,Kの代表取締役の
地位にあるとともに,同社の全株式を保有している(丙86,証人
I,弁論の全趣旨)。
(カ)補助参加人は,遅くとも平成22年9月には,発行済株式20
0株に加え,新たに350株の株式を発行してIに割り当て,同月
以降現在に至るまで,補助参加人の全株式550株のうち,200
株はKが,350株はIが保有している(証人I,弁論の全趣
旨)。
(キ)Iは,補助参加人の取締役及び代表取締役であった間も,Hが
平成21年12月末に弁護士業を廃業するに至るまで,H法律事務
所で事務員として雇用されて勤務していた。そして,Iは,Hが弁
護士業を廃業した後も,平成22年3月末まで,Hの指示の下,H
法律事務所の残務処理などを行っていた(以上,甲43,丙83,
証人I,弁論の全趣旨)。
Iが補助参加人の取締役及び代表取締役であった期間中,補助参
加人からIに対し,役員報酬等が支払われたことはなく,同期間
中,Iは,Hから給与の支払を受け,H法律事務所の被雇用者とし
て社会保険に加入していた(証人I,弁論の全趣旨)。
(5)以上の事実を前提に,Hが,禁錮以上の刑に処せられたときにおい
て,補助参加人に対し,取締役と同等以上の支配力を有していたか否か
について,以下検討する。
アまず,Hは,補助参加人の監査役に就任する以前の平成18年初頭
から,補助参加人の株式を一元化し,補助参加人の事業経営の安定を
図ることを企図して,Kの設立やOが保有する補助参加人株式のKへ
の譲渡に関与するとともに,補助参加人の完全親会社となったKの事
業運営にも関与し(前記(4)ア(イ)),さらに,補助参加人のスポン
サーとなる企業を探すなどしていたのであり(同ア(ウ)),当時か
ら,補助参加人の事業基盤の形成に関与していたものと認められる。
また,Hは,補助参加人の監査役に就任した後の平成19年には,
当時補助参加人の代表取締役であったOを退任させるために必要な資
金を拠出するため,Hの所有不動産に抵当権を設定して1億円を調達
し,具体的な回収の見通しも明らかではない中,無利息,無担保で補
助参加人に同金員を貸し付け(前記ア(オ)),O退任後の新たな取締
役及び代表取締役選任のため開催された臨時株主総会及び取締役会の
開催場所として,自らが経営するH法律事務所を提供するとともに,
これらの会に出席していたのであり(同ア(カ)),Hは,補助参加人
の役員選任及び資金調達においても深く関与していたものと認められ
る。
Hは,平成18年5月12日に補助参加人の監査役に選任されるま
では,本件各処分ないし本件各施設に関する補助参加人と周辺住民と
の間の訴訟における補助参加人の訴訟代理人にすぎなかったものであ
り,そのような立場のHが,当該訴訟と直接関係のない補助参加人の
人事,資金調達及び株主構成の変更にまで関与するということは,通
常では考えられないことである。また,こうした関与は,Hが,同日
以降,補助参加人の監査役であったことを考慮しても,補助参加人の
業務上の意思決定及び業務執行を行う取締役に対して独立性を有する
はずの監査役の立場を超えた,強い関与であるといわざるを得ない。
さらに,Hは,補助参加人の監査役を退任した平成20年2月29
日以降も,毎月,補助参加人の取締役が参加し,補助参加人の事業の
重要方針等を決定する,取締役会相当と認められる「定例会議」に出
席し,さらには,同会議の開催場所として,H法律事務所を提供する
(前記(4)ア(キ))とともに,補助参加人の取引口座として,自己の
口座を提供するなどしていたものであり(同ア(ク)),こうした関与
は,訴訟代理人という立場だけからは合理的に説明できないものであ
って,Hが,補助参加人に対し,取締役と同様の関わり方をしていた
ことをうかがわせるものである。
イ一方,Iは,平成18年5月12日から平成19年6月30日ま
で,補助参加人の取締役の地位にあり,さらに,平成20年2月25
日から平成22年11月8日まで,補助参加人の取締役及び代表取締
役の地位にあったが,平成18年5月以前は,H法律事務所の事務員
にすぎなかった者であり,Iが,会社経営や産業廃棄物処理事業の運
営等において,知識,経験を有していた事情はうかがわれない(甲3
9,弁論の全趣旨)。また,Iは,平成18年5月以前は,補助参加
人及びスポンサーであるJを認識すらしておらず,当然両社の状況等
について全く把握していなかったものとうかがわれ,このようなI
を,補助参加人の取締役に選任し,短期間のうちに代表取締役にまで
選任する合理的な理由は見当たらない。
そして,Iは,補助参加人の取締役ないし代表取締役に在任してい
た間,補助参加人の業務上の意思決定等について,自ら実質的に関与
していた旨供述するが,かかる供述には具体性がなく,客観的な証拠
の裏付けがない上,取締役等に就任する前の前記Iの経歴等からする
と,取締役等に就任後に,Iが,補助参加人の業務上の意思決定等に
ついて,自ら実質的に関与することができたとは思われず,かかるI
の供述は採用できない。
そもそもIが,補助参加人の取締役に選任される運びとなったの
は,補助参加人の監査役就任以前からその事業基盤の形成に関与し,
かつ,Jを補助参加人のスポンサーとして探してきたHが,Iを補助
参加人の取締役とすることをJに打診し,同社がこれを了承したこと
によるものである(前記(4)ア(イ),(ウ)及びイ(イ)))。そして,
Hは,平成12年以降,Iを雇用する立場にあり,Iが補助参加人の
取締役ないし代表取締役に選任された後も,IをH法律事務所の事務
員として雇用し続け,給与を支払っていた(同イ(ア)及び(キ))ので
あるから,Iは,Hにとって支配が容易な人物であったと考えられ
る。さらに,Hは,前記アのとおり,1億円もの自己資金を拠出する
などして,Oを補助参加人の代表取締役の地位から退任させ,その
後,Iが平成20年2月25日に補助参加人の代表取締役に就任した
後は,自らは補助参加人の特定の訴訟事件の訴訟代理人にすぎなかっ
たにもかかわらず,補助参加人の取締役会に相当する会議と認められ
る「定例会議」の開催場所を提供した上,自ら同会議に出席するなど
して,補助参加人において取締役と同様の立場で,その事業に対する
関与を強めていたものとうかがわれる。
ウこれらの事情を総合すれば,Hは,遅くとも補助参加人の監査役に
就任した平成18年5月頃には,補助参加人に対し,相当な発言力な
いし影響力を有しており,補助参加人の業務上の意思決定に関与して
いたものと認められ,平成18年5月12日及び平成20年2月25
日に,Iが補助参加人の取締役ないし代表取締役に選任されたのは,
Hの意向を反映してのものであり,Iを介して補助参加人の業務上の
意思決定に対する関与を強化する趣旨であったと考えるのが自然であ
る。
そして,上記説示に鑑みれば,Iの補助参加人における地位はあく
まで名目上のものにすぎず,実際には,Iが補助参加人の取締役及び
代表取締役の地位にあった間も含め,平成18年以降,Hが,Iを介
するなどして,補助参加人の訴訟代理人ないし監査役の立場を超え
て,少なくとも取締役と同等以上に補助参加人の業務上の意思決定に
関与していたものと認めるのが相当である。さらに,平成20年2月
以降,Hは,補助参加人の代表取締役に就任したIを介することで,
実質的に代表取締役に匹敵するような影響力をも有していたことがう
かがわれる。
エHは,平成21年1月,改正前の○被疑事件により逮捕され,その
ころ補助参加人の訴訟代理人を辞任するなどしているが,それ以前の
Hの補助参加人の業務上の意思決定に対する関与の深さ,関与期間の
長さに加え,1億円の貸借関係等が継続していたとうかがわれること
等に照らせば,Hの補助参加人に対する影響力は,容易には排除され
ないと考えられるところ,証拠上,同月以降,補助参加人において,
Hの補助参加人に対する影響力を排除するような措置がとられた事情
はうかがわれない。
かえって,名目上の代表取締役にすぎなかったと認められるIが,
平成21年1月以降も,直ちに取締役及び代表取締役を退任すること
なく,平成22年11月までこれらの地位にとどまっていたこと(前
記(4)イ(エ)),平成21年4月には,当時補助参加人の完全親会社で
あったKの代表取締役に就任するとともに,Kの株式を全部取得し,
平成22年9月には,新たに発行された補助参加人の株式も全部取得
して(同イ(オ)及び(カ)),平成21年4月以降,実質的に補助参加
人の一人株主となっていること,Hが逮捕された後も,平成21年1
2月末にHが弁護士業を廃業するまで,H法律事務所の事務員として
Hの下で勤務し,その後も,平成22年3月末まで,Hの指示の下,
H法律事務所の残務処理などを行うなどしていたこと(同イ(キ))等
からすれば,平成21年1月以降も,HとI,補助参加人の関係に何
らかの変化が生じたとは考え難い。
したがって,平成21年1月以降も,Hは,補助参加人の代表取締
役ないし実質的に補助参加人の一人株主であったIを介して,少なく
とも取締役と同等以上に,補助参加人の業務上の意思決定に関与して
いたものと認められる。
オ以上,検討したところによれば,Hは,禁錮以上の刑に処せられた
ときにおいて,補助参加人において,少なくとも取締役と同等以上の
支配力を有していたと認められるから,廃棄物処理法14条5項2号
ニ所定の「役員」に該当する者と認めるのが相当である。
したがって,本件各処分は,廃棄物処理法15条の3第1項1号,
14条5項2号ニ,同号イ,7条5項4号ロに該当するから,被告
は,本件各処分を取り消すべき義務を負う。
なお,証拠上,Hが,禁錮以上の刑に処せられたとき以後,補助参
加人に対する支配力を失ったとの事情はうかがわれないが,廃棄物処
理法15条の3第1項1号が,同法14条5項2号イからヘまでのい
ずれかに「該当するに至ったとき」は取消しが義務付けられる旨規定
していることに照らせば,一旦同法14条5項2号イからヘまでの要
件に該当した以上は,その後の事情の変化に関わりなく,被告は,本
件各処分を取り消すべき義務を負うものと解される。
以上の次第であるから,予備的請求の争点(2)イないしエについて
判断する必要がない。
第5結論
以上によれば,原告らの主位的請求は,いずれも不適法であるからこれ
を却下し,予備的請求は,いずれも理由があるからこれを認容することと
して,主文のとおり判決する。
福島地方裁判所第一民事部
裁判官金谷和彦
裁判官岡田恵梨
裁判長裁判官松谷佳樹は,填補のため,署名押印することができない。
裁判官金谷和彦

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