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裁判例


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主文
1 被告が平成12年1月17日付けでなした別紙物件目録記載の不動産に係る平
成11年度固定資産税賦課決定処分のうち,  平成7年度相当分,平成8年度相
当分,平成9年度相当分及び平成11年度相当分に係る部分を取り消す。
2 被告が平成12年5月1日付けでなした別紙物件目録記載の不動産に係る平成
12年度固定資産税賦課決定処分を取り消   す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
 第1 請求
主文同旨
 第2 事案の概要
本件は,原告所有の別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」とい
う。)につき被告が固定資産税賦課決定処分をした のに対し,原告が同不動産は
地方税法(平成11年法律第15号による改正前のもの。以下「旧地方税法」とい
う。)348条 2項10号にいう「社会福祉事業の用に供する固定資産」に該当
するから固定資産税を課することはできないと主張して,上記 処分の取消しを求
めた事件である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は,昭和55年に社会福祉事業法に基づき認可を受けて設立された
社会福祉法人であり,その事業の一環として,    知的障害者更生施設,特別
養護老人ホーム等を設立し,これを営んでいる。
イ 本件不動産は,老人保健法に基づく老人保健施設清渓苑(以下「本件老
健施設」という。)の土地建物である。原告     は,平成6年6月23日,
大阪府知事から,本件老健施設において老人保健事業を行うこと及び同施設におい
て無料又は    低額老人保健施設利用事業を行うことに係る定款変更認可を受
け,同月29日,同施設の開設許可を受けた。
(2)被告による賦課決定等
 被告は,本件不動産につき,平成12年1月17日,平成7年度から平
成11年度相当分の平成11年度固定資産税賦    課決定処分を行い,平成1
2年5月1日,平成12年度分の固定資産税の賦課決定処分を行った(以下併せて
「本件処     分」という。ただし,平成10年度相当分に係る処分の部分を
除く。)。
 原告は,平成12年3月16日,被告に対し,本件不動産の平成11年
度固定資産税賦課決定処分につき異議申立てを    したのに対し,被告は,平
成12年6月5日,同異議申立てを棄却した。
 原告は,平成12年6月14日,被告に対し,本件不動産の平成12年
度固定資産税賦課決定処分につき異議申立てを    したのに対し,被告は,平
成12年7月13日,同異議申立てを棄却した。
(3)関係法令及び通達
 本件に関連する法令及び通達には以下のものがある。
  ア 旧地方税法348条2項
  固定資産税は,次に掲げる固定資産に対しては課することができな
い。
  (1~9号 省略)
  10 社会福祉事業法による社会福祉事業,・・・(中略)・・・の
用に供する固定資産
  (以下略)
  イ 社会福祉事業法(平成9年法律第124号(平成12年4月1日施
行)による改正前のもの)2条
  1 この法律において「社会福祉事業」とは,第一種社会福祉事業
及び第二種社会福祉事業をいう。
  (2項 省略)
  3 次に掲げる事業を第二種社会福祉事業とする。
 (1~5号 省略)
 5の2 生計困難者に対して,無料又は低額な費用で老人保健法
(昭和57年法律第80号)にいう老人保健施設           を利用さ
せる事業
  ウ 昭和63年12月5日自治固第75号各道府県総務部長,東京都総
務・税務局長宛自治省税務局長通知「第二種社      会福祉事業に該当する
老人保健施設に係る不動産所得税及び固定資産税の取扱について」(以下「自治省
通達」とい      う。)
  地方税法第73条の4第1項第4号又は第348条第2項第10号
に規定する社会福祉事業の用に供する不動産又      は固定資産のうち無料
又は低額老人保健施設利用事業に係るものの認定については,別添の「社会福祉事
業法第2条      第3項に規定する生計困難者に対して無料又は低額な費用
で老人保健法(昭和57年法律第80号)にいう老人保健      施設を利用
させる事業について」(昭和63年4月1日各都道府県知事あて厚生省社会,児童
家庭局長通知)におい      て示されている無料又は低額老人保健施設利用
事業の基準によることが適当であると考えられるので,これらの規定      
の運用に当たって遺憾のないよう措置されたい。
  なお,貴管下市町村に対してもこの旨御連絡のうえよろしく御指導
願いたい。
  また,当該老人保健施設の事業が社会福祉事業に該当するかどうか
の認定に際し,必要がある場合には,都道府県      民生主管部局におい
て,当該事業が社会福祉事業である旨の認定をする書面を交付するよう厚生省から
各道府県民       生,衛生主管部局長に指導されていることを申し添え
る。
  エ 昭和63年4月1日社庶第109号各都道府県知事宛厚生省社会局
長・児童家庭局長通知「社会福祉事業法第2条      第3項に規定する生計
困難者に対して無料又は低額な費用で老人保健法(昭和57年法律第80号)にい
う老人保健      施設を利用させる事業について」(以下「厚生省通達」と
いう。)
  標記の事業(以下「無料又は低額老人保健施設利用事業」とい
う。)について,その基準は次のとおりであるの       で,貴殿におかれ
ては,基準の趣旨,内容の普及,徹底を図るとともに,その実施に遺憾のないよう
配慮されたい。
 第1 無料又は低額老人保健施設利用事業の基準
 無料又は低額老人保健施設利用事業を行う者は,次の項目を遵守
すること。
  1 生計困難者を対象とする費用の減免方法を定めて,これを明
示すること。
  2 利用料は,周辺の老人保健施設と比べて入所者等に対し,過
重な負担とならない水準のものであること。
  3 生活保護法による保護を受けている者及び無料又は施設療養
に要した費用(利用料を含む。)の10%以上         の減免を受けた
入所者の延数が入所者の総延数の10%以上であること。
  4 デイ・サービス事業又は老人保健施設デイ・ケアを実施する
こと。
  5 家族相談室又は家族介護室を設け,家族や地域住民に対する
相談指導を実施するための相談員を設置するこ         と。
 第2 留意事項
  1 施設の経営主体は,無料又は低額老人保健施設利用事業を行
うために必要な資産を有すること。
  2 費用の減免は,おおむね次のような方法により行うこと。
  (1)施設は,生計困難者を対象とする費用の減免方法を関係機
関と協議のうえ決定すること。
  (2)(1)の実効を確保するためには,市町村社会福祉協議会,民
主委員協議会,民生委員等の十分な協力が必          要であると考え
られるので,各関係機関に無料又は低額老人保健施設利用事業の内容について周知
徹底を図          り,その適正な運営を期するよう指導されたいこ
と。
 第3 指導監督
  1 無料又は低額老人保健施設利用事業を行う者について,少な
くとも毎年1回その実施状況を調査し,その結         果を別に定める
ところにより報告するほか,その適正な運営を期するため,必要な指導を行われた
いこと。
  2 無料又は低額老人保健施設利用事業に係る社会福祉法人の設
立又は定款変更認可は,将来にわたっての基準         適合の見通し,
立地条件等を総合的に判断して行うものであること。
  3 無料又は低額老人保健施設利用事業を行おうとする定款認可
申請又は定款変更認可申請については,あらか         じめ当局に協議
されたいこと。
  オ なお,旧地方税法348条2項10号の規定は,平成11年法律第
15号により改正された。改正後の規定のう       ち,本件に関連する部
分の内容は,次のとおりである(同改正後の規定は,平成13年以後の年度分の固
定資産税に      ついて適用される。)。
   (ア)地方税法348条2項10号の7
  第10号から前号までに掲げる固定資産のほか,社会福祉法人そ
の他政令で定める者が社会福祉事業法第2条第       1項に規定する社会
福祉事業の用に供する固定資産で政令で定めるもの
   (イ)地方税法施行令49条の17第2項
 法第348条第2項第10号の7に規定する政令で定める固定資産
は,次に掲げる固定資産とする。
  (1~2号略)
  3 社会福祉法人・・(中略)・・が実施する社会福祉事業法第
2条第3項第5号の2に掲げる事業の用に供す         る固定資産で自
治省令で定めるもの
   (ウ)地方税法施行規則10条の7の2第4項
  政令第49条の17第2項第3号に規定する自治省令で定める固
定資産は,次に掲げる固定資産とする。
  1 社会福祉事業法第2条第3項第5号の2に掲げる事業を実施す
る者の前事業年度を通じた入所者の総延数に対        する生活保護法第
15条の2第1項に規定する介護扶助のうち同項第4号に掲げる施設介護を受けた
者及び無料        又は介護保険法第48条第2項の規定により算定され
た額の10分の1に相当する金額以上を減額した費用によ        り同条
第1項第2号に掲げる介護保健施設サービスを受けた者の延数の割合(以下本項に
おいて「無料又は低額        利用に係る入所者の割合」という。)が1
00分の10以上である事業の用に供する固定資産
  2 無料又は低額利用に係る入所者の割合が100分の5以上10
0分の10未満である事業の用に供する固定資        産(無料又は低額
利用に係る入所者の割合から100分の5を減じた割合に5を乗じた割合に100
分の75を        加えて得た割合に相当する部分に限る。)
  3 無料又は低額利用に係る入所者の割合が100分の2以上10
0分の5未満である事業の用に供する固定資産       (無料又は低額利用
に係る入所者の割合から100分の2を減じた割合に15を乗じた割合に100分
の30を加        えて得た割合に相当する部分に限る。)
(4)本件訴訟提起後の経過
  ア 原告は,本件訴訟において,本件老健施設における各年度ごとの利
用状況に関する資料を書証として提出した(各      年度生保・減免者一覧
表。甲5)。
  イ ア記載の資料によると,本件老健施設において,平成6年から同1
1年までの間,生活保護法による保護を受けて      いる者及び無料又は費
用の10%以上の減免を受けた入所者の延数(以下「減免数」という。)並びに入
所者の総延      数(以下「総延数」という。)は,以下のとおり推移し,
前者の後者に対する割合(以下「減免数割合」という。)      が10%以
上となったのは平成9年のみであった。
(ア)平成6年度
減免数は1011人であるのに対して総延数は2万4014人。減免
数割合は約4.2%。
(イ)平成7年度
減免数は2458人であるのに対して総延数は3万3581人。減免
数割合は約7.3%。
(ウ)平成8年度
減免数は1788人であるのに対して総延数は3万2728人。減免
数割合は約5.5%。
(エ)平成9年度
減免数は3283人であるのに対して総延数は3万0924人。減免
数割合は約10.6%。
(オ)平成10年度
減免数は1298人であるのに対して総延数は2万5737人。減免
数割合は約5%。
(カ)平成11年度
減免数は2193人であるのに対して総延数は2万9274人。減免
数割合は約7.5%。
  ウ 前記のとおり,平成9年度に関しては,減免数割合が10%を超え
ていたので,被告は,平成10年度の分の固定      資産税について,非課
税とする更正決定をし,原告は,平成10年度分の固定資産税に関する取消訴訟
(当庁平成1      2年(行ウ)第94号固定資産税賦課処分取消請求事
件)を取り下げた。
2 争点
本件の争点は,本件不動産が旧地方税法348条2項10号にいう「社会福
祉事業法による社会福祉事業の用に供する固定  資産」に当たるかどうかであ
り,該当するためには厚生省通達にいう減免数割合が10%以上であることが必要
かという点に  ある。
3 争点に関する当事者の主張
(被告の主張)
 (1)「社会福祉事業」の意義について
  老人保健施設において,無料又は低額利用の「事業」が行われている
と解するためには,その無料低額の利用が,そ     れ自体,「事業」である
といえる程度に,反復継続して行われていることが必要であり,その基準として
は,厚生省通     達が定める減免数割合が10%を超えるものとするのが社
会福祉事業法及び旧地方税法348条2項10号の解釈とし     て妥当であ
る。
  少数の生計困難者を入所させることによって,施設の全体が非課税と
されることは課税の平等の観点からいって極め     て不合理であり,他方,
通常の入所者からの収入で生計困難者に対する無料又は低額の入所に要する費用を
償うという     観点からすれば,社会福祉事業の認定に当たり,全入所者の
うちの生計困難者の割合が高くなければ非課税施設と認め     られないとす
れば,施設の経営に支障を来すという問題があるところ,減免数割合を10%とす
ることは,生計困難者     に対して無料又は低額な費用で診療を行う事業に
ついても同様の基準が取られており,また,平成11年の地方税法3     4
8条2項10号の改正においても同様の基準が採用されている。
 (2)「用に供する」の意義について
  老人保健施設事業運営の実体に照らし,第二種社会福祉事業の用に供
されているというために,総利用者の10%程     度の無料低額の利用者が
いなければならないと解することは相当であるというべきであり,適切な法解釈で
あるという     べきである。
  平成11年法律第15号による地方自治法348条2項10号の改正
は,無料低額入所者の割合が10%以上である     ことが,非課税の要件で
あるとの従前の同条の解釈を前提として,この要件が年ごとに可変的なものであ
り,そのわず     かな不充足によって全額課税となる措置についての在り方
を検討した結果,著しい税負担の変動を緩和するとともに,     無料又は低
額な費用で老人保健施設を利用させる事業等を促進する方向での改正をあらかじめ
行うこととし,無料又は     低額入所者の割合に応じて対象施設を定めるこ
ととしたものである。
  したがって,改正前の年度分の固定資産税に関しては,無料又は低額
の利用者が10%以上の施設に限り,非課税と     なるものと解すべきであ
る。
  原告の主張では,第二種社会福祉事業として届出をしていれば非課税
とすべきであるということになるが,そうする     と,社会福祉事業として
の実態を備えておらず,事業の内容が通常の老人保健施設と何ら変わらない施設も
非課税とす     べきことになり,地方税法の非課税の範囲を不当に拡大する
ものであって,妥当でない。
  通達による課税が租税法律主義に違反するか否かについては,通達の
内容が法の正しい解釈に合致するものである以     上,法の根拠に基づく処
分と解するに妨げがないとした最高裁昭和33年3月28日第二小法廷判決によれ
ば,当該通     達の内容が法令の正しい解釈の範囲内であるか否かによって
決せられるというべきである。
  本件で原告が問題とする厚生省通達は,社会福祉事業法及び旧地方税
法の相当な解釈を示したものであるから,本件     処分は,原告が本件老健
施設において営んでいる事業が社会福祉事業に該当しないとして,旧地方税法に基
づいて行わ     れたものであって,通達を法的根拠として行ったものではな
い。
(原告の主張)
 (1)「社会福祉事業」の意義について
 「社会福祉事業」に当たるためには,生計困難者に対して無料又は低額
な費用で本件老健施設を利用させるため,第二     種社会福祉事業としての
届出を行っておれば足りる。
  本件不動産上にある本件老健施設は,老人保健法にいう老人保健施設
であり,生計困難者に対して無料又は低額な費     用で本件老健施設を利用
させており,本件老健施設の事業は,社会福祉事業に当たる。
  厚生省通達は,当該事業が第二種社会福祉事業に当たるか否かを区別
する基準ではなく,老人保健施設での社会福祉     事業はかくあるべしとい
う指導指針を監督官庁に対して示したものにすぎず,その効果は行政指導の域を出
ないという     べきである。
  仮に厚生省通達が社会福祉事業の基準であるとするのならば,社会福
祉事業には都道府県知事による監督が及んでい     るところ,減免数割合が
10%を超えるか否かによって年度ごとに都道府県知事による監督が及ばないこと
になって妥     当でない。
 (2)「用に供する」の意義について
  無料低額利用者の割合の多寡に関わらず,利用の対象となるのは,そ
の割合に応じた一部ではなく,その施設全体で     あることからすると,同
一施設において,無料低額で利用させる事業以外の事業が行われていたとしても,
利用に供さ     れているのが一部であるとするのは不合理である。
  また,社会福祉事業に供せられる固定資産が税の免除を受ける理由
は,社会福祉事業という社会全体に資する公益的     事業に供される不動産
については,税の負担を軽減することで,社会全体で負担をすることにある。第二
種社会福祉事     業を行うものとして施設を開設している者は,無料低額利
用者の利用の申込みがあった場合には,可能な限りこれを拒     むことはで
きないし,入所者が中途で減免の申請を行う場合においても,基準を満たしている
限り,減免を認めること     になるが,このように,年次的な実際の無料低
額利用者の数の変化に関わりなく,将来的,潜在的需要に応えるために     
施設を維持していることによってこそ社会全体に貢献しているものである。したが
って,当該社会福祉法人が第二種社     会福祉事業としての届出を行い,潜
在的に無料低額利用が行われる態勢を維持する限り,当該事業の施設は社会福祉事
     業の「用に供されている」ものとして,非課税の扱いを受けるべきであ
る。
  被告は,固定資産税を非課税とするか否かの基準を厚生省通達の基準
によるべきとしているが,これは,旧地方税法     上非課税となる社会福祉
事業に供する財産を,法律に基づかない通達によって制限することに他ならないか
ら,本件処     分は,憲法84条に定められた租税法律主義に違反し,違
憲,違法な処分である。
 第3 当裁判所の判断
1 「社会福祉事業」の意義について
 前記のとおり,被告は,老人保健施設において,無料又は低額老人保健施
設利用の「事業」が行われていると解するため   には,その無料又は低額の利
用が,それ自体,「事業」であるといえる程度に,反復継続して行われていること
が必要であ   り,その基準としては,厚生省通達が定める減免数割合が10%
以上であるものとするのが社会福祉事業法及び旧地方税法   348条2項10
号の解釈として妥当であると主張するので,この点につき判断する。
 社会福祉事業の定義については,前記のとおり,社会福祉事業法2条3項
5号の2が「生計困難者に対して,無料又は低   額な費用で老人保健法にいう
老人保健施設を利用させる事業」が第2種社会福祉事業に当たる旨規定している
が,同規定に   は,社会福祉事業に該当するためには減免数割合が10%以上
であることが必要であるとする旨の文言はない。
 もっとも,厚生省通達は,無料又は低額老人保健施設利用事業の基準の一
つとして,減免数割合が10%以上であること   を掲げている。しかし,同通
達は,無料又は低額老人保健施設利用事業を行う者が遵守すべき事項及び留意すべ
き事項を定   め,指導監督権限を有する都道府県知事に対してその周知徹底を
求めたものであり,同通達の示す「基準」は,無料又は低   額老人保健施設利
用事業を行う者が遵守すべき事項を示したものと解される。したがって,同基準を
満たさないからといっ   て,当該事業が社会福祉事業の一つである無料又は低
額老人保健施設利用事業に該当しないというものではない。
 更に,平成11年法律第15号による改正後の地方税法348条2項10
号の7は,非課税要件として「社会福祉事業法   第2条第1項に規定する社会
福祉事業の用に供する固定資産で政令で定めるもの」と規定し,これを受けて,地
方税法施行   令及び同法施行規則では,減免数割合が10%未満でも一部非課
税となる場合を規定しており,減免数割合が10%未満の   社会福祉事業の用
に供する固定資産の存在を前提としていることが認められる。
 以上によれば,確かに,被告の主張するとおり,「事業」というために
は,一定の規模を備えて反復継続して無料又は低   額入所者の利用が行われる
ことが必要であり,単に届出をしただけで社会福祉事業に該当するものではない
が,減免数割合   が10%以上でなければ社会福祉事業に該当しないと解すべ
き合理的根拠を認めることはできない。一定の規模で反復継続   して無料又は
低額入所者の利用があり,社会通念上「事業」と認められるものであれば,社会福
祉事業に該当するというべ   きである。前記のとおり,本件老健施設において
は,平成6年度から平成11年度まで,平成9年を除き減免数割合は10   %
に満たないものの,継続して相当数の無料又は低額入所者の利用が行われてきてお
り,社会福祉事業に該当すると認めら   れる。
2 「用に供する」の意義について
 前記のとおり,被告は,老人保健施設事業運営の実体に照らし,第二種社
会福祉事業の用に供されているというために    は,総利用者の10%程度の
無料又は低額の利用者がいなければならないと解することは相当であり,旧地方税
法348条   2項10号の適切な法解釈であるというべきであると主張するの
で,この点につき検討する。
(1)旧地方税法348条2項10号は,社会福祉事業の公益的性格にかんが
み,社会福祉事業の用に供する固定資産に対して   固定資産税を課さないこと
としたものと解され,専ら社会福祉事業のためにのみ用いられている不動産につき
同号を適用し   て非課税とすることについては異論のないところと考えられ
る。しかし,本件不動産は,本来は老人保健事業の用に供され   る老人保健施
設であり,生計困難者に対して無料又は低額の費用で利用させることにより社会福
祉事業に当たるとされるの   であり,社会福祉事業と他の事業のために併存的
に利用されているということができる。このような不動産に対する固定資   産
税の課税の在り方については,①併存的であっても,社会福祉事業の用に供され,
公益的性格が認められるから一律に非   課税とする,②当該不動産が社会福祉
事業の用に供される割合が一定以上のものについてのみ,非課税とするにふさわし
い   公益的性格を有するものとして,非課税とする,③社会福祉事業の用に供
される割合に応じて,固定資産税の全部又は一部   を非課税とする,などの取
扱いが考えられるところであり,課税に関する立法政策としては,いずれも相応の
合理性を有す   るものということができる。
ところで,老人保健施設の制度は,昭和61年の老人保健法の改正(昭和
63年施行)により創設されたものであるが,   前記の厚生省通達が同制度の
導入直後の昭和63年4月1日に,自治省通達が老人保健施設に対する最初の固定
資産税の課   税が行われる直前の同年12月5日に出されているという経緯か
らしても,両通達は,無料又は低額老人保健施設利用事業   の用に供される老
人保健施設に対する固定資産税の課税につき,前記②の考え方に基づいて一定の基
準を示すことを意図し   た通達であると認められる。そして,大阪府下の原告
以外の老人保健施設に対する調査嘱託の結果によれば,大阪府下にお   ける課
税実務は,若干の例外を除いて,両通達の示した基準にほぼ依拠して行われている
ことが認められる。
(2)しかし,以下の理由からすれば,旧地方税法348条2項10号にいう
「社会福祉事業の用に供する固定資産」の要件と   して,減免数割合が10%
以上であることが必要であると解することはできないというべきである。
ア まず,旧地方税法348条2項10号は,単に「社会福祉事業の用に供
する固定資産」と規定するのみであり,当該固    定資産において営まれてい
る老人保健施設において,社会福祉事業としての利用の頻度や割合につき何らの限
定を付して    いないし,また,利用の頻度,割合等について基準を定めるた
めの政令等に対する委任もされていない。
イ また,旧地方税法348条2項に列挙された他の非課税固定資産と比較
しても,例えば,同項9号は,学校法人等が設    置する学校の施設につき,
「直接保育又は教育の用に供する固定資産」を非課税とする旨規定しており,「直
接」という    規定の文言から,学校の施設であっても教育の用に使用される
回数が極めて少なく,他の目的に利用される頻度の高いも    のは同号に該当
しないという解釈をすることが可能である。これに対し,同項10号には「直
接」,「主として」など,    社会福祉事業としての使用の頻度,割合を規定
する文言がないのであって,同号の解釈として,減免数割合が10%以上    
必要であるとの厚生省通達の基準を読み込むことには無理があるといわざるを得な
い。
ウ 更に,前記のとおり,平成11年の改正後の地方税法348条2項10
号の7は,非課税となる固定資産について,    「社会福祉事業の用に供する
固定資産で政令で定めるもの」と規定し,地方税法施行令,同法施行規則におい
て,減免数割    合に応じて全部又は一部を非課税とする旨規定していること
からすると,改正後の地方税法348条2項10号の7の    「社会福祉事業
の用に供する」固定資産とは,減免数割合に関わりなく,社会福祉事業のために使
われている固定資産をい    うものと解される。
そして,同一の法令における文言の意義については,特段の定めのない
限り,改正の前後を通じて同一に解すべきこと    はいうまでもないことから
すると,改正前の地方税法348条2項10号の解釈に当たっても,社会福祉事業
のために使    われておれば,減免数割合が10%以上であるか否かに関係な
く,「用に供する」に当たると解すべきである。
(3)以上のとおり,減免数割合が10%以上であることを要件とする自治省通
達は,旧地方税法348条2項10号の正当な   解釈として是認できるもので
はなく,この基準によって非課税対象を制限し固定資産税の課税をすることは,租
税法律主義   に違反するものといわざるを得ない。前記のとおり,本件老健施
設では,各年度において,実際に社会福祉事業が行われ,   本件不動産はその
用に供されていたものであるから,本件不動産について固定資産税を課税した本件
処分は違法であり,取   り消すべきである。
3 結論
以上によれば,原告の請求は全部理由があるから認容することとし,訴訟費
用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟  法61条を適用して,主文のと
おり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官  山 下 郁 夫
裁判官     山 田   明
裁判官     畑   佳 秀

別紙
物件目録
1 所在   大阪府茨木市a
地番   b番c
地目   山林
地積   1398平方メートル
2 所在   大阪府茨木市a
地番   b番d
地目   山林
地積   70平方メートル
3 所在   大阪府茨木市a
地番   b番e
地目   山林
地積   495平方メートル
4 所在   大阪府茨木市ab番地c,b番地d,b番地e
家屋番号   b番c
種類   老人保健施設
構造   鉄骨造陸屋根5階建
床面積   1階 580.52平方メートル
2階 882.40平方メートル
3階 772.57平方メートル
4階 772.57平方メートル
5階 772.57平方メートル

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