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裁判例


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平成11年(行ケ)第432号 審決取消請求事件
平成13年2月13日口頭弁論終結
          判      決
        原       告    株式会社金洋レポーツ
     代表者   A
        訴訟代理人弁理士    伊藤晴之
      同            星埜一彦
      同            斎藤栄一
        被       告    ダイワ精工株式会社
        代表者代表取締役    B
        訴訟代理人弁理士    鈴江武彦
      同            中村 誠
      同            蔵田昌俊
       訴訟復代理人弁護士    勝田裕子
        訴訟復代理人弁理士    峰 隆司
      同            鷹取政信
        主      文
     特許庁が平成10年審判第35091号事件について平成11年7月2
8日にした審決を取り消す。
     訴訟費用は被告の負担とする。
      事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
  主文と同旨
2 被告
 原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  被告は、考案の名称を「魚釣用リール」とする実用新案登録第211213
4号の登録実用新案(昭和62年8月29日に実用新案登録出願された実願昭62
-131739号(以下「原出願」という。)の一部を平成5年7月9日に新たな
実用新案登録出願としたもので、平成8年3月22日に設定登録。以下「本件登録
実用新案」といい、その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者で
ある。
  原告は、平成10年3月6日に本件登録実用新案の登録を無効にすることに
ついて審判を請求した。特許庁は、同請求を平成10年審判第35091号事件と
して審理した結果、平成11年7月28日に「本件審判の請求は、成り立たな
い。」との審決をし、その謄本を同年9月1日に原告に送達した。なお、出訴期間
として90日が付加された。
2 実用新案登録請求の範囲
 リールボディに支持されたハンドル操作による回転を、リールボディに組み
込まれた回転伝達系を介して糸巻付回転体に伝達する魚釣用リールにおいて、上記
ハンドル操作により回転される回転体の外周に一方向ベアリングを嵌合し、該一方
向ベアリングの外輪の径方向外方に複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を形
成し、該逆転防止部の外方にリールボディに設けた係止部材を係合又は離脱状態に
それぞれ切換え保持可能とするとともに糸巻取り回転操作時の上記一方向ベアリン
グがフリー状態の時に上記逆転防止部に上記係止部材を係合状態に保持したことを
特徴とする魚釣用リール。
3 審決の理由
  別紙審決書の理由の写しのとおり、①本件考案に係る出願(以下「本件出
願」という。)が分割出願の要件に違反しているということはできない、②本件考
案は、実公昭55-38380号公報(審決の甲第1号証、本訴の甲第9号証。以
下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用考案」という。)であると
することも、引用例及び実公昭52-26469号公報(審決の甲第2号証、本訴
の甲第10号証。以下「甲第10号証刊行物」という。)に記載された考案に基づ
いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとすることもでき
ない、と認定判断して、原告の主張する無効事由をすべて排斥した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決の理由(1)(手続の経緯・本件登録実用新案の要旨)、(2)(請求人の主
張)、(3)(証拠方法)は認める。同(4)(主張アについての検討)は、10頁14
行~11頁5行を認め、その余を争う。(5)(主張イについての検討)は、12頁1
3行~14頁3行、15頁8行~17頁1行を認め、その余を争う。
  審決は、本件出願が分割出願の要件に違反していることを看過し(取消事由
1)、本件考案と引用考案の相違点でないものを相違点と認めて一致点を看過し
(取消事由2)、相違点についての判断を誤った(取消事由3)ものであって、こ
の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消さ
れるべきである。
1 取消事由1(分割出願要件違反の看過)
  審決は、本件考案の「該一方向ベアリングの外輪の径方向外方に、」(以下
「構成①という。)、「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を形成し、」
(以下「構成②」という。)、「該逆転防止部の外方にリールボディに設けた係止
部材を係合又は離脱状態にそれぞれ切換え保持可能とするとともに、」(以下「構
成③」という。)について、「構成①②③は、各構成要素を上位概念で表現してい
るが、当該上位概念に含まれる上記実施例以外の部分について、本件明細書の考案
の詳細な説明に当業者が容易に実施をすることができる程度に記載される範囲を含
むものであり、本件考案は、この記載をもって、拡張的に変更しているとはいえな
い。」(審決書11頁10行~16行)と認定判断したが、誤りである。
 (1) 構成①②③に対応するものとして、原出願に係る出願時の明細書及び図面
(以下、これらをまとめて「原明細書」という。)に記載されているのは、「一方
向ベアリングの外周」、「爪車」、「回り止め嵌着する」、及び「係止爪」であ
る。
 (2) 「一方向ベアリングの外周」は、あくまでも円周の外周りである。一方、
構成①の「該一方向ベアリングの外輪の径方向外方に、」は、「外方」であれば、
何処までも及ぶ広い範囲で、原出願に包含されていなかった部分を包含すること
は、明らかである。
 (3) 「爪車」は、原明細書の第2図に示されるような歯の一面がほぼ軸心に対
して垂直で他の面がなだらかな傾斜をしている歯車で、通常の左右同型の歯車と
は、異なっている。一方、構成②の「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を
形成し、」にいう「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部」は形状に制限がな
いから、通常の歯車状のものも、その他の形状のものも、「係止」及び/又は「逆
転防止」という機能がある限り、この定義の用語に含まれるものである。したがっ
て、これには、「爪車」以外のものも含まれることが、明らかである。
 (4) 「回り止め嵌着する」は、「爪車」の一方向ベアリングの外周への嵌着方
法を規定している。一方、構成②の「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を
形成し、」にいう「形成」は、「嵌着」という思想とは異なり、すべての形成方法
を無制限に包含する思想であるから、これが、原明細書に記載されていない形成方
法、例えば鋳造等を包含していることは、明らかである。
 (5) 「係止爪」は、あくまでも「爪」である。一方、構成③の「該逆転防止部
の外方にリールボディに設けた係止部材を係合又は離脱状態にそれぞれ切換え保持
可能とするとともに、」にいう「係止部材」は、「部材」であって、その形状によ
って制限を受けないから、爪状以外のもの、例えば先端部が丸い、爪とはいえない
ようなものも含み、明らかに原明細書に記載されていないものを含んでいる。
 (6)原明細書の「爪車」と「係止爪」との係合による係止が、あくまでも爪と
爪との係合による係止であるのに対し、本件考案の「逆転防止部」と「係止部材」
との係合は、爪以外のものによる機械的係合、例えば凹部と凸部の機械的係合の外
に、正負磁極による電磁的係合も含まれる可能性があり、技術的範囲の及ぶ範囲は
計り知れないものとなっている。
 (7) 以上のとおり、本件考案の構成①ないし③は、原出願の技術用語を上位概
念化して、そこに含まれる技術内容を拡大しているから、本件出願を、原出願の一
部を分割したものとすることはできない。
2 取消事由2(一致点の看過)
  審決は、相違点として、「前者(判決注・本件考案)は、回転体の外周に一
方向ベアリングを嵌合し、該一方向ベアリングの外輪の径方向外方に複数の係止部
を周方向に有する逆転防止部を形成したのに対し、後者(判決注・引用考案)は回
転体の外周に直接逆止め歯車を設けている点」(相違点ア)、及び「前者は、糸巻
取り回転操作時の上記一方向ベアリングがフリー状態の時に上記逆転防止部に上記
係止部材を係合状態に保持したのに対し、後者はそのような構成がない点」(相違
点イ)を認定したが、誤りである。
(1) 引用考案の歯車7は、ブレーキ機構を限りなく「強」に調節することによ
り、歯車8によって「係止」され、限りなく「弱」とすれば、歯車8は歯車7との
係合を解いて、両歯車はフリーの状態となる。
 したがって、引用考案の、一方向クラッチの外側に設けられたクラッチケ
ースの歯車7は、本件考案の一方向ベアリングの外輪の径方向外方に形成した「複
数の係止部を有する逆転防止部」と同様のものであるから、相違点アは存在しな
い。
(2) 引用考案において、フライヤー軸が、回転軸が糸を繰り出す方向の回転
(以下「逆回転」という。)をするときは、歯車7(逆転防止部)は、一方向クラ
ッチが係合して回転軸の回転とともに回転するが、歯車8(係止部材)を「強」に
調整して、釣糸が繰り出されないようにすると、係止部材を逆転防止部に係合した
状態となる。ついで、回転軸を、回転軸が糸を巻き取る方向の回転(以下「正回
転」という。)にして釣糸の巻き取りを始めると、一方向クラッチはフリーとな
り、糸の巻き取りは自由になる。このように、「一方向ベアリングがフリー状態の
時に逆転防止部に係止部材を係合状態に保持した」の条件は満足されているから、
相違点イも存在しない。
 また、引用考案の逆止め爪も、逆止め歯車が一方向クラッチと一体回転状
に回転軸に取り付けられているので、逆止め歯車に逆止め爪を係合すると、糸を巻
き取る正回転の方向の回転に際し一方向クラッチとクラッチケース(歯車7)との
係合は解放され、回転軸の糸巻き取り回転は、無抵抗に自由に行われる。従って、
ここでも、「一方向ベアリングがフリー状態の時に逆転防止部(逆止め歯車)に係
止部材(逆止め爪)を係合状態に保持した」の条件は、満足されている。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)
 相違点ア、イに係る構成は、当業者が、引用考案及び実公昭55-3837
9号公報(以下「甲第13号証刊行物」という。)記載の考案(以下、これらをま
とめて「引用考案等」という。)に基づいて、きわめて容易に考案することができ
たものである。
(1)構成について
 当業者が、引用考案等における一方向クラッチの作動に興味を持ったと
き、ブレーキ機構を取り除き、一方向クラッチだけを残して、スムーズな魚釣りの
できるリールとすることはできないかと考えるのは、当然である。
 しかし、ブレーキ機構を取り外しただけでは、魚が掛かって釣糸が繰り出
されるときに暴走してしまうので、この暴走を止める必要がある。暴走を止める手
段としては、引用考案等に備わっている「逆止め歯車」をクラッチケースの外周に
ある歯車の位置に持ってくるのが、引用考案等の中でのこの一方向クラッチを利用
した逆転防止機構への変形のための唯一無二の選択であり、この逆止め歯車に逆止
め爪を係合させて回転軸の回転を止めるのがごく自然の成行きである。
(2)機能について
 本件考案の爪車と、引用考案の逆止め歯車とにおける設置位置の相違は、
両者の機能に影響を与えていない。
ア 引用考案の逆止め歯車への逆止め爪の係合は、必ず一方向クラッチとク
ラッチケースが係合状態のときに行われ、本件考案の爪車への係止爪の係合も、全
く同様に一方向ベアリングがその外周(爪車)と係合状態のときに行われる。した
がって、本件考案と引用考案における逆転防止機構の係合時の条件は、実質的に同
一であり、本件考案の空転角が小さいのであれば、同様の理由で引用考案の空転角
も小さいものであるということになる。
イ 本件明細書に記載された、空転角が大きいことによる問題点は、釣糸投
擲の技術上の問題、魚釣りの技術上の問題、フライヤーのブレーキ機構があるかな
いかの問題等であり、空転角とは関係がない。本件考案の構成と目的、作用及び効
果の間に因果関係はない。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(分割出願要件違反の看過)について
  本件出願は、原出願の用語の一部が上位概念に置き換えられた形で分割され
たにすぎないものであって、本来的に原出願に包含されていたものである。
  出願の分割に当たっては、分割後の出願の明細書の記載事項が、原明細書ま
たは図面に記載した事項の範囲内であればよく、一字一句同じことが記載されてい
る必要はない。出願時において、当業者が原出願に係る明細書等の記載からみて自
明な事項についても認められる。
  原告が、原出願の用語から本件出願の用語への変更として指摘する、「一方
向ベアリングの外周」から「一方向ベアリングの外輪の径方向外方」、「爪車」か
ら「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部」、「回り止め嵌着」から「形
成」、「係止爪」から「係止部材」については、これらの用語で示される構成要素
のいずれに関しても、図面とともにその機能が原明細書に開示説明されている。
  これらの原明細書記載の用語を、本件考案のとおりに置き換えることは、出
願当時、それぞれ原明細書の記載から明確に読み取れるものであり、当業者におい
て自明な事項である。したがって、当業者が客観的に判断すれば、それらの用語自
体が記載されてあったことに相当するものであるから、本件分割は当然に許される
というべきである。
  それゆえ、本件出願は、原明細書に記載した範囲内のものであり、適法であ
る。
2 取消事由2(一致点の看過)について
(1) 引用考案の「ブレーキ機構」は、これとは別の機構である「逆止め機構」
を作用させないとき、すなわちフライヤーを逆転可能状態にしたときにのみ、その
機能が発揮されるものであり、それ自体にフライヤーの逆転を防止する機能はな
い。したがって、引用考案の「ブレーキ機構」は、逆転防止部ではない。
(2) 相違点イについても審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について
(1)構成について
 引用考案は、フライヤーに対して逆転防止機構を使用せず、フライヤーを
正回転・逆回転可能な状態で魚釣りを行う際に、フライヤーの逆回転時における糸
フケ現象を防止するために、フライヤーの逆回転時(魚の逸走時)に、フライヤー
に対してブレーキを作用して制動力を加えるように構成したものであって、一方向
クラッチ6の外周に連係するブレーキ機構を設けることは、引用考案の目的を達成
するためには必須の構成である。したがって、当業者が、これを除去し、しかも、
その位置にブレーキ機構と全く関係のない「逆転防止機構の逆止め爪」を設けると
いう構成に想到することはできない。
(2) 機能について
ア 本件考案に係る願書添付図面の第2図に示すように、爪車12と係止爪
13による逆転防止機構では、係止爪13が係合する爪車12の歯と歯の間の間隔
によって、必ず「空転角」が生じ、その間隔分だけフライヤーが逆転方向にガタつ
いてしまう。本件考案は、逆転防止部と係止部による逆転防止機構に「一方向ベア
リング」を複合的に組み合せた装置とすることによって、フライヤーの逆転防止切
換え状態後の「空転角」が小さくなるという作用効果を奏する。なお、本件考案の
実施例の場合、係止部材の係合位置によっては、最初の逆回転時においてのみガタ
ツキが生じる場合もあり得るが、その後は一方向クラッチによって逆転防止状態と
なり、空転角は小さくなるのである。
イ この「ガタツキ」は、フッキングする際に顕著に現われ、釣糸放出状態
にして釣竿を振り下ろした際、反転状態にあるベールを釣糸巻取状態に復帰させる
原因にもなり、糸フケ(釣糸が緩んでしまう現象)の生じる原因ともなる。本件考
案は、これを防止するという作用効果を奏する。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(分割出願要件違反の看過)について
(1) 原出願について
ア 甲第7号証中の原明細書によれば、原明細書には、
(ア) 「〔従来の技術〕・・・この種の逆転止め機構は、・・・回転軸に
爪車を固定し、この爪車に係脱する爪部材をリールフレームに回動可能に取り付
け、爪部材をばねにより爪車に係合状態に保持することで、糸繰出方向の回転に対
しては回転軸を回転できないようにし、そしてハンドルの糸巻取方向の回転操作に
対しては回転軸を回転可能にしたものである。」(1頁下から2行~2頁10
行)、「従来の魚釣用リールの逆転防止機構では、爪車の歯数は、6~8歯で構成
されるのが一般的であり、このため、例えば8歯の場合でも、歯と歯間の角度は4
5°と大きく、従って、この爪車と爪部材とが係止して逆転止めするまでの角度、
即ち空転角が大きくなり、次に述べる如き問題があった。」(2頁12行~18
行)、「本考案は上記のような問題を解決するためになされたもので、逆転止め時
の空転角を小さくして、」(3頁14~15行)、「〔問題点を解決するための手
段〕本考案は、・・・魚釣用リールにおいて、・・・回転体の外周に一方向ベアリ
ングを嵌合し、この一方向ベアリングの外周に爪車を回り止め嵌着すると共に、上
記爪車に係止爪を係脱可能に係合したものである。」(3頁19行~4頁7行)、
「〔考案の作用〕本考案においては、一方向ベアリング及びこれを爪車と係止爪を
介してリールボディに連結する方式により逆転止め機構を構成するから、確実な逆
転止めが可能になり、逆転止め時の空転角及び衝撃力を小さくすることができ
る。」(4頁8行~13行)
(イ) 「〔考案の実施例〕・・・一方向ベアリング11の外周に爪車12
が同心に回り止め嵌着されている。・・・係止爪13は、その一端が爪車12と係
合する方向にばね15によって付勢されている」(4頁14行~5頁19行)、
「一方向ベアリング25の外周に爪車26を回り止め嵌着し、さらに爪車26に係
脱される、・・・係止爪27をリールボディ1に回動可能に取り付けた」(9頁1
8行~10頁2行)、「一方向ベアリング36の外周には爪車37が回転できない
よう嵌着されている。・・・係止爪38は板ばね40によって爪車37と係合する
方向に付勢されている」(10頁16行~11頁2行)
 との記載があるものの、爪車と爪部材ないし係止爪以外の逆転防止機構
は記載されていないことが認められる。
イ 上記(ア)の記載によれば、原明細書においては、①爪車とそれに係脱す
る爪部材を用い、爪部材をばねにより爪車に係合状態に保持することで、糸巻取方
向の回転(正回転)操作に対してのみ回転軸を回転可能にしたものが、従来の逆転
防止機構とされ、②上記従来の逆転防止機構には、爪車の歯と歯の間の角度が大き
いため、逆転止め時の空転角が大きいという技術的課題があったとされているこ
と、③本件考案は、この技術的課題を解決するため、従来の逆転防止機構と回転体
の間に一方向ベアリングを介在させるという技術を採用したとされていることが認
められる。そして、この認定を前提にした場合、本件考案が、爪車と爪部材を使用
する従来の逆転防止機構を出発点として、その改良のためこれと回転体の間に一方
向ベアリングを介在させたものであるからこそ、上記(イ)のとおり、実施例として
も、一貫して爪車と係止爪を用いることが記載され、爪車と爪部材ないし係止爪以
外の逆転防止機構は記載されていないものと認めることができる。
 そうである以上、原出願においては、一方向ベアリング外側に設けられ
る機構は、爪車と爪部材ないし係止爪を使用する従来の逆転防止機構、ないし、こ
れと同様に、正回転を許容し逆回転を阻止するものであって、逆転防止時の空転角
が大きい逆転防止機構に限られていたものであって、それ以外のものは、原明細書
に記載されておらず、自明ということもできないというべきである。
(2)本件考案について
ア 構成②の「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部」は、複数の係止
部を周方向に有し、逆転防止機能があるものであれば、その形状を問わないもので
あると解するほかはない。そうである以上、構成②には、爪車、ないし、これと同
様に、正回転を許容し逆回転を阻止するものであって、逆転防止時の空転角が大き
い逆転防止機構のものに限らず、正回転・逆回転の両方を阻止する機能を有するも
の、逆転防止時の空転角が小さいものも本件考案の「逆転防止部」に含まれること
が明らかである。
イ また、構成③の「係止部材」は、逆転防止部を係止し得るものであれ
ば、その形状を問わないことは、特許請求の範囲から明らかである。そして、逆転
防止部が、正回転・逆回転の両方を阻止する機能を有するもの、逆転防止時の空転
角が小さいものも含まれることに対応して、係止部材を係止爪以外の形状の部材と
しても、本件考案を実施することは可能であるものと認められる。
(3) 以上のとおり、原出願の逆転防止機構には、正回転・逆回転の両方を阻止
する機能を有するもの、及び逆転防止時の空転角が小さいものは含まれていなかっ
たのであるから、本件考案の逆転防止部及び係止部材が、原出願に包含されていな
かったものを含んでいることは明らかである。
 したがって、本件考案を、原出願の一部を新たな出願としたものとするこ
とはできないから、本件出願を分割出願の要件に違反しているということができな
いとした審決の認定判断は、誤りである。
2 以上のとおり、取消事由1について、審決の認定判断には誤りがあり、この
誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき論ず
るまでもなく、審決は、違法であって取消しを免れないことが明らかである。
第6 よって、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
         東京高等裁判所第6民事部
               裁判長裁判官 山  下  和  明 
                  裁判官  山  田  知  司
 
                  裁判官 阿  部  正  幸

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