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20く77
20.2.28東京高裁棄却316条の20
主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
本件即時抗告の趣意は,弁護人A(主任),同B,同C及び同D共同作成名義の即時抗
告申立書に,これに対する答弁は東京高等検察庁検察官E作成の意見書に記載されたとお
りであるから,これらを引用する。
論旨は,
要するに,
原決定は刑訴法316条の20第1項の解釈適用を誤ったものであるから,
原決定を取り消し,弁護人の裁定請求に係る別紙証拠目録記載の各証拠の開示を命じると
の決定を求める,というのである。
そこで以下,記録を調査して検討する。
1本件即時抗告に至る経緯
本件各公訴事実の要旨は,
被告人が,
①平成18年9月18日ころから同月19日ころまでの間,
東京都F市内のG方において,殺意をもって,不詳の方法によりGを死亡させて殺害し,
②同月18日ころから同月23日ころまでの間,
上記G方においてGの死体を切断して損壊し,
これをダイニングキッチン床下に投棄してその上からセメントをかけるなどして隠匿して
遺棄し,③同年10月13日,Hと共謀の上,東京都I区内の銀行において,HがG名義の払
戻請求書を偽造した上,銀行の従業員に対し,Gであるかのように装うなどして,上記払
戻請求書をG名義の普通預金通帳とともに提出行使し,正当な権限に基づく払戻請求であ
る旨同従業員を誤信させ,人を欺いて現金34万円を交付させたというものである。
本件は公判前整理手続に付され,検察官は,証明予定事実記載書において,被告人は,
Hに依頼してGに成り済まさせて,現金34万円の払戻しを受けるなどしていたが,平成18
年10月24日,被告人の言動を不審に思ったHからGは死亡したのではないかと尋ねられ,
「私がやった。」などとGの殺害を自認した旨主張した。検察官は,Hの供述調書9通(H
が被告人からGを殺害した旨の上記告白を受けた状況等を立証趣旨とするもの)及び被告
人の長女Jの供述調書6通(被告人が同年9月18日の夜に外泊した事実及び被告人がHに暴
力を振るっていた状況等を立証趣旨とするもの)を含む証拠の取調べを請求し,上記以外
の両名の供述調書等についても弁護人にすべて開示した。弁護人は,主張予定事実記載書
(1)及び同(2)において,被告人は本件各公訴事実のうち,殺人,死体損壊,死体遺
棄に関与しておらず,
有印私文書偽造・同行使,
詐欺に関与してはいるが幇助にとどまる,
検察官の証拠調請求に係るH及びJの各供述調書の信用性を争う旨主張し,検察官請求予
定証拠に対する意見書(1)において,Hの供述調書のうち1通の一部を同意しただけで,
その余の両名の供述調書のすべてを不同意とする意見を明らかにした。
そこで,
検察官は,
上記両名の証人尋問の請求をした(原決定時において採否は未了である。)。
弁護人は,
H及びJの各供述調書の信用性を争う事情として要旨以下のとおり主張する。
(1)被告人方に居候の形で同居していたHには,平成18年当時には1か月1万円に満た
ない収入しかなかったから,住居と生活を維持するため,被告人が交際相手であるGと同
居することを阻止する必要があり,G殺害の動機がある。また,HがG殺害に関与してい
たならば,自己の関与を隠ぺいするため,Gと交際していた被告人に罪を押し付ける動機
がある。
(2)Hは,Gの携帯電話を使ってGの姉に電話をかけており,その内容に疑問をもっ
たGの姉らが平成18年10月29日に警察に相談をし,警察はGの行方について捜査を開始し
て情報を収集している。Hの供述はこれらの情報に基づいて誘導されて形成された疑いが
ある。また,Hは,同年12月20日に警察に出頭してから被告人に対する殺人の追起訴まで
の間,合計84日195回以上に及ぶ連日の取調べを受けている。Hがその疲労から捜査官の描
いたストーリーに合わせて,その供述内容がゆがめられた可能性を否定できない。
(3)Hは,平成18年9月20日及び同年10月29日の2回にわたり,被告人に対し,Kと一
緒にGを殺害した旨告白している。
(4)Jは,Hと一緒に健康ランドに泊まりに行くほどの仲であり,被告人から厳しく
しつけられたため,母親である被告人よりも,かばってくれるHに強い親近感を抱いてい
た可能性がある。Hの話に迎合しやすい状況を利用して,当時10歳であったJが捜査官な
いし児童相談所職員らの質問で誘導された可能性は否定できない。
以上の経緯の下で,弁護人は,検察官に対し,別紙証拠目録記載の各証拠(以下「本件
各証拠」という。)の開示を求めたが,検察官はこれに応じなかった。そこで,弁護人が
本件各証拠の開示を命じる旨の裁定請求をしたところ,原裁判所は,平成20年1月31日,本
件各証拠は弁護人の主張と関連する証拠と認められるものの,本件各証拠を開示する必要
性に乏しいとして,各請求を棄却した。
2当裁判所の判断
検察官及び弁護人の証明予定事実ないし主張予定事実を総合すれば,本件の主たる争点
は,証人尋問が予想されるH及びJの公判供述に信用性を認めることができるか否かであ
るところ,所論は,次のようにいう。すなわち,原決定は,本件各証拠は弁護人の主張と
関連する証拠と認められるものの,これらを開示する必要性に乏しいとして各請求を棄却
した。しかし,本件各証拠は,検察官請求に係るH及びJの各供述調書の信用性を判断す
る上で極めて重要な資料であり,各供述調書が不同意とされて供述者が証人として供述す
る場合であっても,前に録取された供述内容が公判供述に影響することは避けられず,取
調べの客観的状況(時間帯・頻度,調書作成までの取調べ時間等)を記録した資料や,取
調べ過程で時間を追って作成され録取者の主観が入りにくい備忘録を手がかりに供述録取
の過程を吟味することは欠かせないから,上記各供述の信用性を争う弁護人の主張と密接
に関連し,証拠開示の必要性の程度も高い。
しかしながら,弁護人の主張(1)についてみると,その主張に係るHの生活状況から
直ちにHにGを殺害する動機があるとは認め難く,抽象的な可能性をいうにとどまる。ま
た,HがG殺害に関与したとすれば,その刑事責任を免れるため被告人に罪を押し付ける
動機があるという点も,仮定的な推論をいうものにすぎない。弁護人の主張(2)につい
てみると,その主張に係る警察が収集した情報の内容は明らかではなく,Hの供述が誘導
されて形成された疑いがあるという点は,仮定的な推論をいうものにすぎない。また,H
が多数回の連日にわたる取調べを受けた事情がHの供述に対して及ぼす影響の有無及び内
容も明らかではなく,捜査官の描いたストーリーに合わせて,Hの供述がゆがめられた可
能性をいう点も,仮定的な推論をいうものにすぎない。弁護人の主張(4)についてみる
と,当時10歳のJが被告人よりもHに親近感を持っていたとしても,直ちにHの話に迎合
しやすい状況があるとはいえず,Jの供述に何らかの影響を及ぼす可能性があるというに
とどまる。また,捜査官ないし児童相談所職員らの質問でJの供述が誘導された可能性を
いう点も,何ら具体的なものではなく,仮定的な推論をいうものにすぎない。弁護人の主
張(1),(2)及び(4)は,抽象的な可能性ないし仮定的な推論をいうものにすぎず,
具体性に欠ける。また,弁護人の主張(3)についてみると,Hが被告人に対しGを殺害
した旨告白したという点は,
Hの供述の信用性に疑いを生じさせる具体的事情ではあるが,
Hの供述の信用性を検討するには,一般的には,既に開示されたHの供述調書等を検討す
れば足りると解される上,検討の結果,更なる証拠の開示を求める具体的な事情が存在す
るのであればこれを指摘することができるにもかかわらず,そのような主張もないから,
証拠開示の必要性は乏しい。
そうすると,本件各証拠の開示を認めなかった原決定に誤りはない。
よって,刑訴法426条1項後段により本件即時抗告を棄却することとして,主文のとおり
決定する。
(裁判長裁判官・石山容示,裁判官・福士利博,裁判官・島戸純)
別紙証拠目録
1Hの供述に関する弁護人の主張に関連する証拠
①Hについて作成された取調べ状況記録書面の全て
②捜査官の作成したHの供述の聴き取りメモ,捜査報告書の全て
③Hに関する,
平成18年12月20日から同19年3月30日までの間の警視庁L警察署留置
場の留置人出入簿
2Jの供述に関する弁護人の主張に関連する証拠
①捜査官の作成したJの供述の聴き取りメモ,捜査報告書の全て
②児童相談所職員またはJが措置された養護施設の職員が,Jの供述を聴き取った
結果作成した聴き取りメモ,報告書の全て

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