弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中九〇日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人関田政雄上告趣意第一点について。
 憲法三七条二項は、刑事被告人の証人審問権を保障した規定である。されば、裁
判所が諸般の事情からその必要を認めて証人を裁判所外に召喚し又はその現在場所
で尋問する場合には合理的に可能なかぎり、被告人にも証人尋問に立ち会う機会を
与えてその審問権を尊重しなければならないことは言うまでもない。しかし、同条
には「すべての証人」とあるけれども、それは被告人が喚問を欲するすべての証人
を意味するのではなく、裁判所が必要を認めて尋問を許可した証人について規定し
ているものと解すべきである(昭和二三年(れ)第八八号同年六月二三日当裁判所
大法廷判決)と同様に、「証人に対して審問する機会を充分に与へ」るという規定
の解釈にもおのずから合理的な制限が伴うのであつて、裁判所が証人を裁判所外で
尋問する場合に被告人が監獄に拘禁されているときのごときは、特別の事由なきか
ぎり、被告人弁護の任にある弁護人に尋問の日時場所等を通知して立会の機会を与
え、被告人の証人審問権を実質的に害しない措置を講ずるにおいては、必ずしも常
に被告人自身を証人尋問に立ち会わせなくても前記憲法の規定に違反するものでは
ないと解すべきである。
 本件記録によると、被告人の弁護人は、原審第一回公判においてAを証人として
申請し、原審は、右証拠申請を採用して証人Aに対する証拠調を姫路少年刑務所に
おいて受命判事により行う旨を決定し、その証拠調の期日及び場所を被告人及び弁
護人に通知している。そして受命判事は、弁護人立会の下に同証人を前記刑務所に
おいて尋問し、原審は、第二回公判においてその証人尋問調書の要旨を被告人に告
げ意見弁解の有無を問うたところ、被告人は「何等ありません」と答えているので
あつて、所論のように被告人が同証人を公判廷に喚問して被告人との対決を求めた
ことも、弁護人が被告人を姫路に連行して証人尋問の立会を請求して被告人の審問
権の行使を求めたことも、これを認むべき何らの形跡がない。されば、原審の右証
拠調は、憲法の所論規定及び刑訴応急措置法一二条に違反するものではないから論
旨は理由がない。
 同第二点乃至第四点について。
 論旨は、いづれも事実審たる原裁判所が許された自由裁量の範囲内でした証拠調
の限度の決定、証拠の取捨判断を非難するに帰着し、適法な上告理由ではないから
採用することができない。
 よつて、旧刑訴四四六条刑法二一条に従い主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二五年三月一五日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠
      裁判官栗山茂は出張につき、署名押印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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