弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人日笠豊の上告理由第一点について。
 論旨は、原審が、本件各建物に対する移転工事の完了によつて、同建物について
の移転通知の取消を求める本訴はその利益を失うに至つたものであるとした判断は、
行政事件訴訟法九条の解釈を誤り、判決に必要な「正義性」に背反するものである、
という。
 しかし、上告人が本件において、土地区画整理法七七条二項による建物移転通知
を争う利益を有するのは、これによつて、建物所有者たる訴外DおよびEの両名が
みずから建物の移転をしない場合に、同条項によつて行なわれるべき建物移転の直
接施行を阻止しうるからにほかならず、したがつて、建物移転の直接施行がすでに
完了した以上、本訴はその利益を失うに至つたものというほかなく、これと同旨に
出た原審の判断は相当である。
 かりに右建物移転の直接施行が所論のように違法であるとすれば、上告人は、こ
れを理由として、国に対して損害賠償を求め(上告人は、所論のように別訴をまつ
までもなく、訴えの変更により原審においてこれを請求しえたこと、もちろんであ
る。)、また、仮換地に対する使用収益権に基づき、建物所有者たる前記両名に対
して妨害排除の請求をする途が開かれているのであつて、しかも、行政処分が違法
であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分
につき取消または無効確認の判決を得なければならないものでないことは、すでに
当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三五年(オ)第二四八号、同三
六年四月二一日第二小法廷判決、民集一五巻四号八五〇頁)。
 原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 論旨は、原審が本件建物移転通知につきなんら判断しなかつたのは、審理不尽、
理由不備の違法がある、という。
 しかし、建物移転の直接施行が完了した以上、本訴は訴えの利益を失うに至つた
ものであることは、前記説示のとおりであつて、訴えの利益を欠く以上、その本案
について原審が判断を示さなかつたからといつて、所論の違法をきたすいわれはな
く、論旨はとうてい採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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