弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成30年(あ)第728号殺人被告事件
令和2年8月24日第二小法廷決定
主文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中740日を本刑に算入する。
理由
弁護人渡邊竜行の上告趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違
反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論に鑑み,職権で判断する。
1第1審判決及び原判決の認定並びに記録によれば,本件の経緯は,次のとお
りである。
(1)被害者(平成19年生)は,平成26年11月中旬頃,1型糖尿病と診断
され,病院に入院した。1型糖尿病の患者は,生命維持に必要なインスリンが体内
でほとんど生成されないことから,体外からインスリンを定期的に摂取しなけれ
ば,多飲多尿,筋肉の痛み,身体の衰弱,意識もうろう等の症状を来し,糖尿病性
ケトアシドーシスを併発し,やがて死に至る。現代の医学では完治することはない
とされるが,インスリンを定期的に摂取することにより,通常の生活を送ることが
できる。
(2)被害者の退院後,両親は被害者にインスリンを定期的に投与し,被害者は
通常の生活を送ることができていたが,母親は,被害者が難治性疾患である1型糖
尿病にり患したことに強い精神的衝撃を受け,何とか完治させたいと考え,わらに
もすがる思いで,非科学的な力による難病治療を標ぼうしていた被告人に被害者の
治療を依頼した。被告人は,1型糖尿病に関する医学的知識はなかったが,被害者
を完治させられる旨断言し,同年12月末頃,両親との間で,被害者の治療契約を
締結した。被告人は,その頃,母親から被害者はインスリンを投与しなければ生き
られない旨説明を受けるなどして,その旨認識していた。被告人による治療と称す
る行為は,被害者の状態を透視し,遠隔操作をするなどというものであったが,母
親は,被害者を完治させられる旨断言されたことなどから,被告人を信頼し,その
指示に従うようになった。被告人は,被害者の治療に関する指示を,主に母親に対
し,メールや電話等で伝えていた。
(3)被告人は,平成27年2月上旬頃,母親に対し,インスリンは毒であるな
どとして被害者にインスリンを投与しないよう指示し,両親は,被害者へのインス
リン投与を中止した。その後,被害者は,症状が悪化し,同年3月中旬頃,糖尿病
性ケトアシドーシスの症状を来していると診断されて再入院した。医師の指導を受
けた両親は,被害者の退院後,インスリンの投与を再開し,被害者は,通常の生活
に戻ることができた。しかし,被告人は,メールや電話等で,母親に対し,被害者
を病院に連れて行き,インスリンの投与を再開したことを強く非難し,被害者の症
状が悪化したのは被告人の指導を無視した結果であり,被告人の指導に従わず,病
院の指導に従うのであれば被害者は助からない旨繰り返し述べるなどした。このよ
うな被告人の働きかけを受け,母親は,被害者の生命を救い,1型糖尿病を完治さ
せるためには,被告人を信じてインスリンの不投与等の指導に従う以外にないと一
途に考え,被告人の治療法に半信半疑の状態であった被害者の父親を説得し,同年
4月6日,被告人に対し,改めて父親と共に指導に従う旨約束し,同日を最後に,
両親は,被害者へのインスリンの投与を中止した。
(4)その後,被害者は,多飲多尿,体の痛みを訴える,身体がやせ細るなどの
症状を来し,母親は,被害者の状態を随時被告人に報告していたが,被告人は,自
身による治療の効果は出ているなどとして,インスリンの不投与の指示を継続し
た。同月26日,被害者は,自力で動くこともままならない状態に陥り,被告人は
母親の依頼により母親の実家で被害者の状態を直接見たが,病院で治療させようと
せず,むしろ,被告人の治療により被害者は完治したかのように母親に伝えるなど
した。母親は,被害者の容態が深刻となった段階に至っても,被告人の指示を仰ぐ
ことに必死で,被害者を病院に連れて行こうとはしなかった。
(5)同月27日早朝,被害者は,母親の妹が呼んだ救急車で病院に搬送され,
同日午前6時33分頃,糖尿病性ケトアシドーシスを併発した1型糖尿病に基づく
衰弱により死亡した。
2上記認定事実によれば,被告人は,生命維持のためにインスリンの投与が必
要な1型糖尿病にり患している幼年の被害者の治療をその両親から依頼され,イン
スリンを投与しなければ被害者が死亡する現実的な危険性があることを認識しなが
ら,医学的根拠もないのに,自身を信頼して指示に従っている母親に対し,インス
リンは毒であり,被告人の指導に従わなければ被害者は助からないなどとして,被
害者にインスリンを投与しないよう脅しめいた文言を交えた執ようかつ強度の働き
かけを行い,父親に対しても,母親を介して被害者へのインスリンの不投与を指示
し,両親をして,被害者へのインスリンの投与をさせず,その結果,被害者が死亡
するに至ったものである。母親は,被害者が難治性疾患の1型糖尿病にり患したこ
とに強い精神的衝撃を受けていたところ,被告人による上記のような働きかけを受
け,被害者を何とか完治させたいとの必死な思いとあいまって,被害者の生命を救
い,1型糖尿病を完治させるためには,インスリンの不投与等の被告人の指導に従
う以外にないと一途に考えるなどして,本件当時,被害者へのインスリンの投与と
いう期待された作為に出ることができない精神状態に陥っていたものであり,被告
人もこれを認識していたと認められる。また,被告人は,被告人の治療法に半信半
疑の状態ながらこれに従っていた父親との間で,母親を介し,被害者へのインスリ
ンの不投与について相互に意思を通じていたものと認められる。
以上のような本件の事実関係に照らすと,被告人は,未必的な殺意をもって,母
親を道具として利用するとともに,不保護の故意のある父親と共謀の上,被害者の
生命維持に必要なインスリンを投与せず,被害者を死亡させたものと認められ,被
告人には殺人罪が成立する。以上と同旨の第1審判決を是認した原判断は正当であ
る。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21
条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官草野耕一裁判官菅野博之裁判官三浦守裁判官
岡村和美)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛