弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 被告は原告に対し,金17万8500円を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,車両販売契約の解除に伴う約定違約金請求の事案である。
1 前提となる事実関係(争いのない事実,弁論の全趣旨,甲1ないし3)
(1)被告は,平成13年6月23日(土曜日),原告店舗において,原告に対し,
車両(登録済未使用車,俗に「新古車」と称されるもの。車名スズキワゴンR)の
注文を行い(以下「本件注文」という。),その際「自動車注文書」(甲1。以下
「本件注文書」という。)を提出した。
(2)本件注文書の表面の記載内容は別紙1のとおりであり,また,その裏面には別
紙2のとおり注文書特約事項(以下「本件特約条項」という。)が定められてい
る。
(3)本件注文当時,原告は甲1記載の車両を保有しておらず,被告の注文を受けて
これを確保することとされていた。
(4)被告は,原告に対し,注文の翌日である同月24日(日曜日),本件注文を撤
回したい旨伝え,更にその翌日である同月25日(月曜日),確定的に本件注文撤
回の意思表示をした。
(5)原告は,被告に対し,同月30日到達の書面により,本件特約条項③に基き,
本件注文の車両代金額の15パーセントに当たる17万8500円の損害賠償金の
支払を求めたが,被告はこれに応じず,原告に対し,「貴社との平成13年6月2
3日付の契約は解除します。」との記載のある30日付けの書面を送付した。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)本件注文により原告被告間に本件注文書記載の車両に関する売買契約(以下
「本件売買契約」という。)が有効に成立したか
(被告)
ア 本件注文書は原告に「車を探してもらうための書面」に過ぎず,被告は売買契
約を締結する書面であるとは認識していなかった。したがって,本件注文書の提出
は売買契約の申込みには当たらず,本件売買契約は成立していない。
イ また,仮に本件注文が申込みに当たるとしても,原告はこれを受けるに当たっ
て全額前払いを要求しており,これは本件売買契約を要物契約とするものであると
ころ,被告は代金を支払わなかったから,本件売買契約は成立していない。また,
本件売買契約が諾成契約であるとしても,原告は全額前払いを要求することで信用
のある顧客だけに承諾の意思表示をする趣旨であると解されるところ,未だ代金支
払のない段階では原告による承諾の意思表示はされておらず,その段階で被告は注
文を撤回したのであるから,契約は成立していない。
ウ 本件売買契約は,代金の半額の前払いを停止条件とするものであり,被告は未
だこれを支払っていないから,契約は成立していない。
エ 本件売買契約は中古車販売の契約であり,特定物売買であると解されるとこ
ろ,売買の目的物たる車両は本件注文時には未だ特定されていなかったから,契約
は不成立ないし無効である。
オ 本件特約条項④において,対象車両の現物が存在しないにもかかわらず,注文
書に署名捺印の日を売買契約成立日と定めることは信義則に反して消費者の利益を
一方的に害するものであり,消費者契約法10条に違反して無効となる。したがっ
て,この条項が無効であるとすれば,売主である原告に車両の現物が確保されてい
ない本件においては,本件売買契約は不成立ないし無効である。
(原告)
ア 被告が本件注文書に署名した時点で本件売買契約は成立している。本件特約条
項についても,重要なところであるから,読んでもらったことを確認するためにわ
ざわざ署名までしてもらっている。
イ 契約の成立は本件特約条項④のとおりであり,代金全額ないし半額の支払は契
約成立の条件ではなかった。また,代金支払の先履行を強いる契約条項もない。
(2)被告による本件注文撤回の合理性の有無(被告に信義則上の解除権が認められ
るか)
(被告)
 本件では,以下の事情により,被告には信義則上何らの法的拘束のない無条件の
撤回(解除)が認められるべきである。
ア 原告が不合理な代金支払の先履行を強要したこと
イ 申込み撤回の期日が早いこと
ウ 本件注文書記載の税金等の内容が不当であること
(3)本件売買契約と消費者契約法9条の適用
(被告)
 本件売買契約は消費者契約法の適用される消費者契約であるところ,同法9条1
号は契約解除に伴う損害賠償額の予定につき当該事業者に生ずべき平均的な損害の
額を超える部分は無効としている。
 本件では,被告は注文後2日で契約を解除しており,原告は入金がされてから車
両を手配すると言っていたのだから,原告には未だ具体的な損害は発生しておらず
(仮に生じたとしても,せいぜい電話代1000円程度であろう。),原告の本件
請求は理由がない。
(原告)
 被告による本件売買契約の撤回で原告が現実に被った損害は当該車両を販売でき
た場合の粗利合計16万5699円である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件売買契約の成否)について
(1)被告は,本件売買契約の成立を争い,その理由として,第1に本件注文書は車
を探してもらうための書面に過ぎず,被告において売買契約締結のための書面との
認識はなかった旨主張する。
 しかしながら,本件注文書は,その体裁からしても,記載内容からしても,車を
確保してもらうことを目的とする単なる契約締結の準備行為を依頼するだけの(す
なわち双方に何らの権利義務を生じさせない)事実上の書面に過ぎないものとは解
されないものである。実際,その表面には対象となる車両の車名,グレード(型
番),色が明記され,付属品についても詳細にその明細が記載されており,かつ,
車両本体価格,付属品価格,税金等,その他諸費用についても金額が明記されてい
るのであって,一般に売買契約を証する書面として特に欠けるところがあるとも言
えない。裏面の本件特約条項においても,注文書署名の日が契約成立時期であると
明記され,これを顧客に認識させ,後日の証拠とするため裏面にも顧客の署名を求
めるほどの周到さであ
る。後日,正式な契約締結のために別途新たな書面の作成が予定されていたとも考
えられないところである(なお,証人A[B協会及びC商工組合専務理事]は,中
古車の取引慣行として現物がないと契約書は作成しないと供述しているが,このこ
とは逆に本件注文書を作成している本件においては,当事者間に契約成立の意思が
存在したと推認する根拠ともなりうる。)。
 そして,いやしくも立派な成人である被告がこれを確認し,署名しているのであ
る(本件注文書の表面,裏面の被告の署名の成立には争いはない。)から,被告が
その内容や意味について認識していなかったとは到底言えない道理である。被告が
本件注文書に署名して原告に交付した以上,被告においてこれに記載された車両を
買い受け,代金を支払う旨の意思表示,すなわち売買契約の申込みがあったと解す
べきである。
(2)次に,被告は原告による承諾の意思表示がなかった旨主張する。
 しかしながら,原告自身がこの注文書を受領したことをもって売買契約が成立し
たと主張し,これを前提に本件訴えを起こしているのであるから,原告自身の認識
として承諾をしたということは当然の前提となっているものである。被告が主張す
るように,原告担当者が代金(全額ないし半額)の支払を求めたとしても,それは
契約上の義務の履行に関わることであって,これをもって本件契約を要物契約とし
たり,代金前払いを契約成立の停止条件とするというような約定は本件契約書には
一切記載されていないし,他にそのような合意があったと認定しうるような事情も
うかがわれない。
(3)更に,被告は,本件売買契約が中古車売買であり,特定物売買であって,対象
車両が契約時に特定されていなかったから,本件売買契約は不成立ないし無効であ
ると主張する。
 しかしながら,他人物売買も債権契約としては有効であることは当然であり,別
紙1記載のとおり対象たる車両が車名,グレード等によって特定されている以上,
契約時に原告が対象車両を確保していなかったとしても,それ故契約が不成立ない
し無効ということもできない(契約に示された車名,グレードの車両が確保できな
かった場合には,担保責任の問題として処理すれば足りる。契約当事者双方とも,
指定された車両が確保できない場合があり得ることは当然の前提として契約してい
るものと考えられるからである。)。
 被告は,中古車取引の特殊性を強調するが,対象物が中古車であることが売買契
約の一般原則を覆すほどの特殊性を有するか自体疑問である上,本件契約の対象物
件は中古車の範疇に属するものとはいえ,登録済未使用車であって,一般の中古車
に比較して新車に近いものであり,一層その特殊性は希薄であるといえる。
 もし被告の主張するように,販売業者が車両を確保するまでは契約が成立してい
ないとするならば,顧客が車名,グレード等を指定して注文しても(契約成立がな
いのであるから)業者は顧客のために車両を探す義務もないことになり(そのまま
放置しても何ら法的責任はないことになる),顧客の通常の期待に反する結果とな
る。また,業者にとっても,いかにコストをかけて車両を探す努力をしても,現実
に確保するまでは顧客は自由にキャンセルできる(厳密に言えば契約が成立してい
ないのであるから,契約締結の義務もないことになろう)というのでは,業者とし
ては合理的なコスト,リスク計算に基く健全な営業はできないことになろう。
 したがって,本件注文書への署名捺印(及び原告への提出)をもって売買契約締
結の日と定める本件特約条項が直ちに消費者契約法10条に違反するものとも言え
ない。
(4)なお,被告は,本件特約条項が財団法人中古自動車販売協会連合会作成の標準
約款(乙3)に反していると主張するようである。確かに,業者の商道徳として,
業界の自主的規制に従うことが期待されているとは言えるが,標準約款はそれ自体
法的拘束力や規範的効力を有するものでない以上,これに反する契約が当然に無効
となったり,その内容が標準約款に沿うように変更を受ける性質のものでないこと
はいうまでもない。
(5)以上のとおり,本件売買契約は有効に成立したものと認定することができる。
2 争点(3)(本件売買契約と消費者契約法9条の適用)について
(1)本件売買契約が,消費者契約法(平成13年4月1日施行)2条3項に定める
消費者と事業者との間で締結される契約であり,同法の適用があることは明らかで
ある。
 そして,消費者契約法9条1号に定める「当該事業者に生ずべき平均的な損害の
額」は,同法が消費者を保護することを目的とする法律であること,消費者側から
は事業者にどのような損害が生じ得るのか容易には把握しがたいこと,損害が生じ
ていないという消極的事実の立証は困難であることなどに照らし,損害賠償額の予
定を定める条項の有効性を主張する側,すなわち事業者側にその立証責任があると
解すべきである。
(2)これを前提として本件について検討するに,本件では,被告による本件売買契
約の撤回(解除)がなされたのは契約締結の翌々日であったこと,弁論の全趣旨及
び証拠(被告本人)によれば,原告担当者は,本件売買契約締結に際し,被告に対
し,代金半額(当初全額と言っていたが,被告が難色を示したため,半額に訂正し
た)の支払を受けてから車両を探すと言っていたことが認められることなどからす
れば,被告による契約解除によって事業者である原告には現実に損害が生じている
とは認められないし,これら事情のもとでは,販売業者である原告に通常何らかの
損害が発生しうるものとも認められない。
 原告は,本件売買契約の対象車両は既に確保していたとするが,それを認定する
に足りる証拠はない上,仮にそうであったとしても,被告に対してそのことを告げ
ていたとは認められないし,また,被告の注文車両は他の顧客に販売できない特注
品であったわけでもなく,被告は契約締結後わずか2日で解約したのであるから,
その販売によって得られたであろう粗利益(得べかりし利益)が消費者契約法9条
の予定する事業者に生ずべき平均的な損害に当たるとはいえない。
 もっとも,厳密に言えば,原告が取引業者との間で対象車両の確保のために使用
した電話代などの通信費がかかっているといえないこともないが,これらは額もわ
ずかである上,事業者がその業務を遂行する過程で日常的に支出すべき経費である
から,消費者契約法9条の趣旨からしてもこれを消費者に転嫁することはできない
というべきである。
(3)したがって,本件特約条項③に基く本件違約金請求は,消費者契約法9条1号
により許されない。
3 よって,原告の本件請求は理由がないから棄却すべきである。
大阪地方裁判所第22民事部
裁判官   曳  野  久  男
(別紙1省略)
(別紙2省略)

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