弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上訴期間につき附加期間を三月とする。
       事   実
第一 当事者の申立
 原告訴訟代理人は「特許庁が昭和四七年三月二一日同庁昭和四五年審判第八一三
七号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
を求め、被告指定代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求めた。
第二 請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として次のとおり述べた。
(審決の成立ー特許庁における手続)
一 原告は名称を「蓄音機のピツクアツプ」とする発明につき一九五八年(昭和三
三年)二月二七日及び同年八月六日アメリカ合衆国において特許出願をし、これに
基づく優先権を主張して、昭和三四年二月二七日特許出願(以下「原出願」とい
う。)をし、次いで、昭和三八年一月五日旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第
九条の規定による分割の特許出願(以下「本願」という。)をし、昭和四〇年六月
一七日出願公告をされたが、日本ビクター株式会社その他から特許異議の申立があ
り、昭和四五年五月一一日拒絶査定を受けたので、同年九月一四日審判を請求(同
年審判第八一三七号事件)したところ、特許庁は昭和四七年三月二一日右審判の請
求は成り立たない旨、本訴請求の趣旨掲記の審決をし、その謄本は同年四月二六日
原告に送達された(なお、出訴期間として三か月を附加された)。
(審判の理由)
二 右審決は本願発明の要旨を「一対の圧電型変換素子と、これらの変換素子の主
面がほぼ直角な平面内に在るように変換素子を支持する装置とを備えた45/45
方式の立体録音再生用ピツクアツプにおいて、音針腕を支持する制御再入部を有す
る一体的な結合部材を備えて音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の
交線上に配置されるようにしたことを特徴とする立体録音再生用ピツクアツプ。」
と認定したうえ、次のように要約される理由を示している。
 本願発明の要旨中「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上
に配置される」という要件については、原出願の明細書及び図面に明確に示されて
いない。すなわち、右明細書中に直接、その記載はなく、右図面中、第五ないし第
一一図に示されたものは明らかに右要件を備えていないほか、第一ないし第四図に
示されたもの、特に第四図のものは右要件を備えているかもしれないが、これらの
図面は元来、説明図であつて寸法の記入もないから、これに記載の結合部材の音針
支持体を収容する再入中央部も音針を右要件に従つて配置することを明確に示して
いるものとは認めることができないのである。したがつて、本願発明は原出願の明
細書及び図面に記載された事項、または、それから自明な事項を発明の要旨とする
ものではないから、これについて、分割出願に基づく出願日の遡及を認めることが
できない。
 そして、本願発明と本願前の公知文献たる特公昭三六年一六八二三号公報に記載
された立体録音再生用ピツクアツプとは音針腕の支持構造において差異があるほか
は、一致した構成であり、また、本願発明における音針腕の支持構造は、実公昭二
九ー一二三八号公報(モノラル型ピツクアツプ)に示されるように、それ自体公知
技術であつて、これを本願発明のステレオ型ピツクアツプに転用することは当然考
えられるところであるから、本願発明は特許法第二九条第二項の規定により特許を
受けることができない。
(審決の取消事由)
三 本願発明の要旨は右審決の認定したとおりである。しかし、本願発明の要旨中
右審決の指摘する要件は後記のとおり原出願の明細書及び図面に記載されているか
ら、その明示がないとした右審決の認定ないし判断は誤りであつて、本願発明につ
いては、分割出願による出願日の遡及を認めるべきであるから、その遡及日後に頒
布された引用例との対比上、本願発明の進歩性を否定して本願発明の特許を受入れ
ることができないとした右審決は違法であつて取消を免れない。ただし、上記以外
の点に関する右審決の認定及び判断は争わない。
(一) 原出願の明細書には次のような記載がある。
1 「変換素子28及び30の主面がピツクアツプケーシングの縦軸を通る垂直平
面に対し四五度の角度をなし、かつ、互に直角な平面にあるよう制動体32及び3
4の孔を穿つ。」(第八頁第一六行ないし第一九行)
2 「軛は変換素子28及び30の縦軸に直角な平面にあり、その各末広がり脚
は、それが接着する変換素子の法線になつている。」(第九頁第九行ないし第一一
行)
3 「駆動位置では音針腕の軸が大体変換素子28及び30の軸に平行である」
(第一三頁第一四、一五行)
4 「この軛はピアノ線の単片で造られて一対の末広がり脚と一つの再入中央部分
とを持つている。」(第九頁第二行ないし第四行)
(二) 原出願の図面中、第四図において、軛36の両脚の各中心線の延長線が音
針腕56の下方(図上では上方になる。)で交わる点をAとすると、A点より音針
腕56の軸線に平行に引いた線(別紙図面の赤点線)は音針48の先端を通ること
が明らかである。また、原出願の明細書には「変換素子28及び30と駆動音針と
は下方に延びて音針とピツクアツプケーシングとの間に必要な隙間を与え、ピツク
アツプケーシングのいずれの部分も、ターンテーブル92上で演奏中のレコード9
0に触れるおそれなしにレコードを走査する位置にある。」との記載がある(第一
三頁第一七行ないし第一四頁第三行)が、これを第四図と対照すると、音針腕56
の音針がついている平坦な端部54は十分に上方に曲つているので、音針と変換素
子28、30に分け与えられる傾きにかかわらず、音針はレコード面に垂直となる
こと、さらに、軛36の中央再入部分は深みを持つもであることが明らかである。
(三) 以上の点をあわせ考えれば、当業者としては原出願の明細書及び図面によ
つて容易に「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置さ
れる」という要件を読み取ることができる。
第三 答弁
被告指定代理人は請求の原因について次のとおり述べた。
一 原告主張のうち、審決の成立にいたる経緯、審決の理由に関する事実は認める
が、右審決の認定ないし判断は正当であつて、右審決に違法はない。
二 右審決の理由に対する原告主張の非難が当らない所以は次のとおりである。
(一) 原出願の明細書に原告指摘の記載があることは認めるが、これを総合して
も、音針の先端の位置を特定することはできない。すなわち、本願発明の要件のよ
うに「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」
というがためには、例えば、軛の再入中央部における音針腕の軸線の位置が軛の一
対の末広がり脚の中心軸線の交点上にあり、音針腕の軸線が両変換素子の縦軸に完
全に平行であり、かつ、音針の先端が音針腕の軸線上に配置されるという条件が定
められなければならないのに、原出願の明細書には音針腕の軸が大体、両変換素子
の軸に平行であると記載されているだけで、軛の再入中央部分の寸法、音針腕の軸
線と音針との相対的な寸法、これらの相関関係等については何ら記載されていない
のである。
(二) 原告主張のA点は原出願の明細書中、原告指摘の記載に照合すると、「両
変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上」にあるものと認められるとこ
ろ、右交線が両変換素子の縦軸に平行となることは幾何学的に明らかであるから原
出願の図面中、第四図において、A点を通り両変換素子の縦軸に平行な線A・B
(別紙図面の赤実線)は音針腕56の平らな端54の上方(図上では下方にな
る。)を通り、音針48の先端とは相当の隔りがある。原告はA点より音針腕に平
行に引いた線が音針の先端を通ると主張するが、音針の先端が「両変換素子のそれ
ぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」には、A点を通り両変換素子の
縦軸に平行な線上になければならないから、右主張は意味をなさない。もつとも、
その主張が原出願の明細書中、「音針腕の軸が大体、変換素子28及び30の軸に
平行である」との記載をふまえて、A点より音針腕に平行に引いた線は両変換素子
の軸とも平行であるという趣旨にも解されようが、右明細書の記載は音針腕の軸と
変換素子の軸とが「大体……平行である」としているだけであり、図面中、第四図
においては明らかに両者が平行でない状態が示されているのであるから、結局、原
告の右主張は成り立たない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 前掲請求原因のうち、原告主張の発明につき、原出願から、旧特許法第九条の
規定による分割の本願を経て、審決が成立するまでの経緯及び発明の要旨の認定を
含む審決の理由の要点に関する事実は、当事者間に争いがなく、本願発明の要旨が
右審決認定のとおりであることは原告の自陳するところである。
二 そして、原告主張の右審決の取消事由よれば、本訴における争点は先ず本願発
明の要旨中「音針が両変換素子のそれぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置さ
れる」という要件が原出願の明細書または図面に記載されているか否かにあるの
で、この点について検討する。
(一) 成立に争いのない甲第一一号証(原出願の特許願)によると、原出願の明
細書には特許請求の範囲として次の記載があることが認められるが、これに本願発
明の前記要件が記載されていないことは明らかである。
 「個々の録音一対を一つの音溝に行つた蓄音機レコードに使用するために、二つ
の電気出力を有する機械ー電気変換装置と、音針支持体と、上記録音で音針に与え
た振動を上記変換装置に伝えて、上記録音の一方の録音波面に応答する上記音針の
振動で対応する電圧変化を上記出力の一方に発生し、上記録音の他方の録音波面に
対応する上記音針の振動で対応する電圧変化を上記出力の他方に発生するようにし
た結合装置とを備える立体音響型蓄音機ピツクアツプにおいて、上記結合装置は、
上記音針保持体を収容する再入中央区分と、互にほぼ九〇度でこの再入中央区分か
ら外向きに延びる二つの部分とを有する一体構造の軛を備え、これら外向き延長部
分の再入区分から遠い方の端各々を上記変換装置に異なる位置で接着することを特
徴とする立体音響型蓄音機ピツクアツプ」
(二) 次に、原出願の明細書(前掲甲第一一号証によると、発明の詳細な説明)
に次のような各記載があることは当事者間に争いがない。
1 「変換素子28及び30の主面がピツクアツプケーシングの縦軸を通る垂直平
面に対し四五度の角度をなし、かつ、互に直角な平面にあるよう制動体32及び3
4の孔を穿つ。」
2 「軛は変換素子28及び30の縦軸に直角な平面にあり、その各末広がりの脚
は、それが接着する交換素子の法線になつている。」
3 「音針腕の軸が大体変換素子28及び30の軸に平行である。」
4 「この軛はピアノ線の単片で造られて、一対の末広がり脚と一つの再入中央部
分とを持つている。」
 (弁論の全趣旨によれば、以上に表われる番号は原出願の図面中、第四図に記載
のものと一致する。以下、これに同じ。なお、同図の記載を示すため、本判決末尾
に別紙図面を添付する。)
 これを原出願の明細書中その余の記載に併せ考えると、右明細書には原出願の特
許請求の範囲にいう結合装置の構成に関して少くとも次の記載があるものと認める
のが相当である。
1 駆動位置にある音針腕56の軸線は両変換素子28、30の縦軸に大体、平行
である。
2 両変換素子の各主面の垂直二等分面の交線は両変換素子の縦軸に平行であつ
て、垂直方向から見た場合、これら縦軸間の真中に位置する。
3 軛36は両変換素子の縦軸に直角な平面上にあつて、その一対の末広がりの脚
の軸線がそれぞれ両変換素子の垂直二等分面上にある。
 そして、右3の当然の帰結として、軛の両足の軸線を延長した線の交点をAとす
ると、A点は別紙図面に示すように両変換素子の各主面の垂直二等分面の交線上に
あることとなる。
(三) ところが、前出甲第一一号証によると、「音針」については、原出願の発
明の詳細な説明中に「音針46を音針腕52の平らな端50に支え、音針48を同
様に音針腕56の平らな端54に支える。」と記載されているだけで、その音針腕
との位置関係を規定するものがないのは勿論、本願発明の「音針が両変換素子のそ
れぞれの主面の垂直二等分面の交線上に配置される」という要件について、これを
直接記載した個所を見出すこともできない。さればとて、音針は音針腕の軸線上に
配置されるものと仮定し、右要件中の「音針」を「音針腕」と読みかえても、駆動
位置にある音針腕56が右要件を具備しているというためには、前記(二)により
明らかなように(イ)音針腕56の軸線が両変換素子28、30の縦軸に正確に平
行であること、
(ロ)軛36の再入中央部における音針腕の軸線が軛の両脚の軸線の交点(別紙図
面におけるA点に当る。)上にあることの二条件を満足しなければならないのに、
原出願の明細書には、前記のように(イ)については見るべき記載がなく、(ロ)
については全く記載がない。すなわち、本願発明の要旨中、駆動音針に関する構成
については、原出願の明細書中に記載されるところがないといわざるをえない。
 原告は原出願の図面中、第四図の記載を根拠に、音針48が右要件を備えている
と主張するが、同図によると、駆動位置にある音針腕56の軸線が両変換素子2
8、30の軸線と平行でないことがたやすく認められ、原告主張のようにA点(前
記のように両変換素子の各主面の垂直二等分面の交線上にある。)より音針腕56
に平行に引いた線が音針48の先端を通るようなことはありえず、かえつて、被告
主張のように、A点より両変換素子28、30の軸線に平行な線A・B(別紙図面
の赤実線)が音針腕56の平らな端54の上方((図上では下方になる。)を通
り、音針48の先端と相当隔りがあることが明らかであるから原告の右主張は当ら
ない。
(四) 以上の次第で、本願発明の要旨中、前記要件は、原出願の明細書または図
面に記載されているといえないから、本願をもつて適法な分割出願ということはで
きず、したがつて、これにつき原出願の日まで出願日の遡及を認めることはできな
い。
三 してみると、本願発明がその出願日前に頒布された引用例との対比により進歩
性を否定されることがあつてもやむをえないものというべきところ、原告は本願発
明の進歩性に関する右審決の認定ないし判断について争わないから、右審決に原告
主張の違法があるということはできない。
 よつて、本件審決の違法を主張してその取消を求める本訴請求を失当として棄却
することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九
条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 駒田駿太郎 中川哲男 橋本攻)
別紙図面
<10140-001>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛