弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     原審並びに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする、
     被告人の本件控訴を棄却する。
         理    由
 検察官の本件控訴趣意は新潟地方検察庁三条支部検察官検事吉積春雄作成名義の
控訴趣意書記載のとおりであり又被告人の控訴趣意は弁護人浅見隆平作成名義の控
訴趣意書記載のとおりであるから夫々これを引用し、これに対し当裁判所は次のよ
うに判断する。
 弁護人の論旨第一、二点について
 <要旨>所論に鑑み記録を調査するに本件被害者Aは昭和十八年以降日本国有鉄道
信越線東三条駅に勤務し、本件発生当時は同駅改札掛として常時勤務してい
た者であつて日本国有鉄道法第二十六条第一項にいわゆる日本国有鉄道の職員であ
ること従つて右改札掛である同人は日本国有鉄道の職員として公務に徒事する者と
みなされることは同法第三十四条第一項の規正に照し明らかなるところであるから
右Aが改札掛としてなす業務は刑法第九十五条(公務執行妨害)に規定する公務に
該当すること多言を要しない。然り而して公務執行妨害罪の成立には公務に従事す
る者に対し故意にその職務執行を妨害すべき暴行脅迫を加うるをもつて足りその結
果の発生を必要とするものではない。原判決の挙示する証拠を綜合すれば原判示事
実は犯意の点を含め優に肯認することができるから本件被告人の所為は正に公務執
行妨害罪をもつて論ずべきこと当然である。なお被告人も本件被害者Aから反撃さ
れておるというが如きことは、原判決の認めないところであるばかりでなく、本件
公務執行妨害罪の成立には何等関係するところがないものである。その他記録を精
査するも、原判決には何等事実誤認等の廉あるを見ない。即ち論旨はいすれも理由
がない。
 同論旨第三点について
 記録に徴すると原判示Aは被告人より無切符の申告を受けたのでその乗車駅を尋
ねたところ或は長岡駅といい或は三条駅というので右両駅に照会したが被告人の言
い分を裏付ける回答がなかつたので、右Aは規定従い職務上被告人に対し始発駅で
ある上野駅からの料金を請求したのに対し被告人は矢庭に右Aに対し原則示暴行を
加えたものであることが認められ、右Aの被告人に対する態度に所論のような不都
合の点あるを見ない。なお当時被告人が多少酒気を帯びていたことは否定し得ない
が、これがため精神に障礙を来たし心神喪失乃至心神耗弱状態あつたものとは記録
上到底認めることができない。その他記録を精査するも被告人に対し本件犯罪の不
成立乃至刑の減軽を認むべき事由は存しない。論旨はいずれも採用することができ
ない。以上説示するとおり弁護人の論旨第一乃至第三点はすべて理由がないから刑
事訴訟法第三百九十六条に則り被告人の本件控訴を棄却することとする。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 工藤慎吉 判事 渡辺辰吉)

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