弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決中控訴人に関する部分を取消す。被控訴人の請求を棄却す
る。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並に当裁判所が
第一審の本案判決を変更する場合に於ては原判決による仮執行の宣言に基き控訴人
が被控訴人に給付した金九万二千百十円及びこれに対する昭和三十二年五月六日よ
り完済まで年五分の割合による損害の賠償を被控訴人に命ずる旨の申立をなし、被
控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は控訴代理人において
「被控訴人は原判決による仮執行の宣言に基き控訴人が株式会社住友銀行A支店に
有する預金債権につき転付命令を以て株式会社福岡銀行B支店の被控訴代理人Cの
預金口座に送付給付を執行せしめた。而して昭和三十二年五月四日右銀行送金八十
六万四千百十一円の内金七十七万二千円は当庁昭和三二年(ウ)第九三号動産仮処
分申請事件の決定により同月六日右銀行送金の振込通知は取消されたが、残金九万
二千百十一円は利息として被控訴人に給付せられ現在に至つている」と述べ、被控
訴代理人において右の事実関係を認め、
 証拠として被控訴代理人は被控訴本人Dの供述を援用し、乙号各証の成立を認
め、控訴代理人は乙第二十六、第二十七号証を提出し、原審における被告本人Eの
供述、当審証人E(第一、二回)F、Gの各証言を援用した外は原判決事実摘示の
とおりであるから、これを引用する。
         理    由
 一、 成立に争ない甲第四、第五号証原審における被告本人Eの供述及び右供述
によりその成立を認め得る甲第一乃至第三号証の各一、二、原審証人H、当審証人
E(第一、二回)の各証言、原審並に当審における被控訴本人Dの供述を綜合すれ
ば、
 (一) 訴外福岡機材株式会社(その前身大丸建鉄株式会社、福岡機材協同組
合)の代表取締役Hは昭和二十六年頃から昭和二十八年十月頃まで控訴会社福岡出
張所に金物類を納入して取引関係を有していたこと、訴外Eは昭和二十年十一月控
訴会社に入社し、各地に転勤の後、昭和二十八年四月福岡出張所に勤務して爾来同
年十二月右会社を退職するまでの間、同出張所の出納係として会計事務を担当して
いたものであること、Hは昭和二十八年七月頃右Eに控訴会社名義の融通手形の振
出を依頼したところ拒絶されたので、更に控訴会社に対する架空の物品納入代金の
取立委任状及び検収書を起案して同人に示し、これと引換に他から金融を受けたい
が、支払期日前に相当代金を持参し控訴会社に迷惑をかけない旨を述べて控訴会社
福岡出張所名義の右委任状に対する支払承認書及び検収書の作成交付方を懇請した
ので、Eは右書類の作成権限がないのにこれを完成してHに交付したこと、Hはそ
の取引先である被控訴人に対し右の書類を示し、訴外福岡機材株式会社が右のとお
り控訴会社福岡出張所に物品を納入しているが、被控訴人に対し右代金債権の取立
を委任し、H、被控訴人間の合意なしに委任を解除又は変更しないことを特約する
から金員を貸与して貰いたい旨申入れたので、被控訴人は右書類を作成したEに会
いたいと申出で、その頃Hの事務所において同人・被控訴人及びEの三名が会合
し、Eが被控訴人に対し右書類は真実である旨確言したので、これを信じた被控訴
人はHに対しその後数回に亘つて一回二十万円位の現金を数回に亘つて貸付けた
が、Hは右貸付金の返済に当つてはその都度現金をEに交付し、Eより右金員を被
控訴人に交付してその支払を了したので、被控訴人としては控訴会社を通じて右金
員の交付を受けたものと誤信して何等の不審も抱かなかつたこと、
 (二) Eは昭和二十八年九月二十日項、同年十月十日頃同月二十二日頃の三回
に亘り、Hの要求に応じ同人が控訴会社の用紙を使用して案文を記入して来た控訴
会社福岡出張所名義の架空の代金取立委任状に対する支払承認書に「株式会社奥村
組福岡出張所I」のゴム印並に社会印(丸印)「福岡県粕屋郡a町b、株式会社奥
村組出張所」のゴム印並に控訴会社の社印(角印)等を押捺してEにおいてこれに
支払の奥書をなし、又同様架空の検収書に「福岡県粕屋郡a町b・株式会社奥村組
福岡出張所」のゴム印並に同会社の社印(角印)等を押捺して右書類合計各三通
(甲第一乃至第三号証の各一、二)を完成してこれをHに交付したこと、右各日H
はこれを被控訴人に示して前同様金員の貸与方を申込んだので、前記のとおり同様
の方法によつて先に数回に亘り控訴会社を通じてHに対する貸付金の返済を受けた
ものと誤信し、なお控訴会社の取引銀行を通じて右各書類に押捺された各印影が控
訴会社のものに相違ないことを確認していた被控訴人は右委任状に記載されている
納入品目、数量、金額に基き同年九月二十日頃支払期日同年十一月二十日の定めで
金二十万円、同年十月十日頃支払期日同年十二月十五日の定めで金二十五万七千
円、同年十月二十二日頃支払期日同年十二月三十日の定めで金三十一万五千円、以
上三口合計金七十七万二千円をいずれも支払場所は同出張所の取引銀行である住友
銀行福岡支店と定めて、前記委任状及び検収書と引換にHに対しそれぞれ貸与した
こと、右各支払期日に至るもHは被控訴人に対し右借受金の返済をなさず控訴会社
は右書類はいずれも架空なもので支払義務をなしとして支払を拒絶したため、被控
訴人は右貸金の回収かできず、結局被控訴人は控訴会社の被用者である訴外Eが被
控訴人に対してなした前記不法行為により金七十七万二千円の損害を蒙つたこと、
 が認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。
 二、 そこで被控訴人の控訴会社はその被用者たるEが前記事業の執行につき被
控訴人に加えた損害につき民法第七百十五条により責任を負うべきであるとの主張
について判断する。
 前認定の事実に前掲各証拠、成立に争ない乙第一号証の十二、十四、原審並に当
審における証人F、Gの各証言の一部を綜合すれば、
 控訴会社福岡出張所は土木事業の現場関係を主としてその業務は本社に直属して
いたが、便宜九州全部を統轄していた同社J支店が或る程度その監督を代行してい
たこと、当時同出張所では専任の所長を欠き同会社の顧問Fが所長代理の辞令の交
付を受けて同出張所の業務一切を統轄していたこと、同所長代理の下に従業員が十
名位おり土木、資材、労務、出納の四係があり訴外Eは出納係責任者でその下に補
助者一名がいたが、係長制度を採つていた訳ではなく、事務所も一室で小規模であ
り、係は分れていても事務は皆が協力してやり、例えば資材係不在の場合は出納係
のEが代つて納品の検収をすることもあり、又所長代理不在の時は土木係のKが同
人も不在の時は出納係のEが順次所長代理の事務を代行統轄するものと定められて
いたこと、Eの出納係としての職務内容は主として所長代理Fの命により現金及び
小切手等の出納を取扱うものであるが、更に会社印、社長印等を格納する右出張所
の金庫の鍵を保管し同会社の記名印、社印、社長印等を使用して同会社福岡出張所
のため小切手の記入、契約書の起案、浄書等の雑務を担当していたこと、同出張所
において資材を業者より購入する場合は土木係において必要資材の品目、数量等を
資材係に通知し、資材係がこれにより業者に発註し、業者より納品されると資材係
において検収して物品受領証を発行し、所長代理の承認を経て出納係がこれに基い
て現金又は小切手を発行して代金の支払をなすのが通常の取扱で従つて購入資材の
検収をなすことは資材係の職務で出納係であるEの本来の職務範囲に属しないこ
と、従来同出張所においては業者が納入した物品につき本件のように業者の依頼に
より代金債権の取立委任状を交付するような取扱はなされていないこと、
 を認めることができ、原審並に当審における証人F、Gの証き中前記認定に反す
る部分は採用し難く、他に右認定を動かすに足る証拠はない。
 ところで、民法第七百十五条にいわゆる被用者の「事業の執行につき」の解釈に
ついては、判例においても数次の変遷を重ねているが、本件については、(イ)被
用者のなした本件行為が使用者たる会社の事業の範囲に含まれるか、(ロ)被用者
の行為は被用者の本来なすべき事業及びこれと適当な牽連関係ある業務と云い得る
か、(ハ)取引の相手方から見て第三者がこれを正規の権限に基きなされたものと
信ずるような事由が存在したか、以上の三点につき綜合考察して決定するのが相当
と考える。
 <要旨>(イ) 業者から物品の購入をなす会社が物品の納入を受けた場合に検収
書を発行すべきは当然であるが、業者の依頼により右納品代金債権の取立委
任状を交付することもたとえ会社において通常そのような取扱をなしていないとし
ても、これを客観的に見れば右会社の事業の範囲に含まれるものと解し得べきは当
然である。
 (ロ) 右検収書の発行及び代金債権取立委任状の交付は出納係として本来金銭
支払の責任に任ずべき訴外Eの固有の業務の範囲内に属しないことは前認定のとお
りである。
 しかしながらこれを実質的に考察すると、右一連の手続は業者が会社から金銭支
払を受けるための過程であつて同人がその固有の業務として担当していた金銭支払
事務と密接な関係を有していることは否定し難いところであり、これに前認定に係
る控訴会社福岡出張所は一応内部関係において業務分担を定めていたが小さい事務
で従業員が少数のため相互にその職務を代行補助して資材係不在の場合は出納係の
Eが代つて納入品の検をする場合もあり、同人は出張所長及び土木係主任者不在の
場合は同出張所の業務を代行統轄する地位にあり、本件委任状及び検収書等に押捺
されている社印及び社長印等を格納する金庫の鍵は同人が保管し、殊に前記社長印
(丸印)は同人が会社名義の小切手を振出す際に使用していたもので同出張所とし
ては最も重要な印顆であつた等の諸事情を綜合すれば本件代金債権取立委任状及び
検収書の作成交付は本来出納係責任者であるEの事業の範囲に属しないが、その事
業と適当な牽連関係ある業務であると解するを相当とす。
 (ハ) 右認定の事実に前記一、において認定した諸事実を綜合すれば本件取引
の相手方である被控訴人は本件代金取立委任状及び検収書の交付を受けるに当り相
当の注意義務を尽しているものであつて、かかる場合第三者としてEがこれを正当
の職務、権限に基き作成交付したものと信ずるにつき、相当の事由があつたものと
解すべきである。
 以上説明したところにより、本件においては被用者たるEが前記事業の執行につ
き被控訴人に加えた損害につき控訴会社はその使用者として責任を負うべきもので
あると解する。
 控訴会社は訴外Eの選任、監督につき相当の注意をなし、且つ相当の注意をする
も右損害の生ずることを防ぎ得なかつたと主張するが、これを認めるに足る証拠は
ないから、右主張は採用しない。
 よつて控訴会社はその被用者であるEが前記不法行為により被控訴人に対して蒙
らせた損害金七十七万二千円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明
かな昭和二十九年十二月七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金
を被控訴人に対して支払うべき義務があるから、これと同趣旨に出でた原判決は相
当で控訴人の本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条
を適用して、主文のとおり判決する。(控訴人の当審における民事訴訟法第百九十
八条による申立は第一審の本案判決を変更することを前提とするものであるから、
特に判断を加えない。)
 (裁判長裁判官 林善助 裁判官 丹生義孝 裁判官 岩崎光次)

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