弁護士法人ITJ法律事務所

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              主    文
 1 被告Cは,原告に対し,2865万8823円及びこれに対する平成10
年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告A,同B,同E及び同Cは,原告に対し,連帯して3548万235
2円及びこれに対する平成10年12月27日から各支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
 3 被告B,同F,同C,同G及び同Dは,原告に対し,連帯して2億069
3万9087円及びこれに対する被告B,同C及び同Dにつき平成10年1
2月27日から,被告F及び同Gにつき同月28日から各支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 5 訴訟費用は,
  (1) 原告と被告Aとの間では,原告に生じた費用の100分の1を同被告
の負担とし,その余を各自の負担とし,
  (2) 原告と被告Bとの間では,原告に生じた費用の15分の1を同被告の
負担とし,その余を各自の負担とし,
  (3) 原告と被告Cとの間では,原告に生じた費用の10分の1を同被告の
負担とし,その余を各自の負担とし,
  (4) 原告と被告Eとの間では,原告に生じた費用の100分の1を同被告
の負担とし,その余を各自の負担とし,
  (5) 原告と被告F,同G及び同Dとの間では,原告に生じた費用の各20
分の1を同各被告の負担とし,その余を各自の負担とする。
 6 この判決の第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。
               事実及び理由
第1 請求
 1 被告Cは,原告に対し,2億円及びこれに対する平成10年12月27日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告A,同B,同E及び同Cは,原告に対し,連帯して3億円及びこれに
対する平成10年12月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
 3 被告B,同F,同C,同G及び同Dは,原告に対し,連帯して3億円及び
これに対する被告B,同C及び同Dにつき平成10年12月27日から,被
告F及び同Gにつき同月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
 第2 事案の概要
   本件は,経営破綻した株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)
から債権譲渡を受けた原告(平成11年4月1日の合併前においては株式会
社整理回収銀行を指す。以下同じ。)が,債権の回収のために,拓銀の取締
役であった被告らに対し,善管注意義務,忠実義務に違反する融資が数次に
わたって実行された結果,拓銀が多額の損害を被ったと主張して,商法26
6条1項に基づく損害賠償として,損害額の内金及びこれに対する各訴状送
達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を請求した事案である。
 1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)
  (1) 原告
    株式会社住宅金融債権管理機構は,平成11年4月1日,本件訴え提起
当時の原告であった株式会社整理回収銀行を合併し,商号を現在の原告の
商号に変更した。
  (2) 拓銀
  拓銀は,明治33年2月16日に北海道拓殖銀行法に基づき設立され,
昭和25年に普通銀行に転換し,昭和30年に都市銀行に加入した。拓銀
は,そのころから本州店舗の拡充を進め,昭和45年からは海外にも積極
的に事業を展開した。拓銀は,昭和50年代には,国内外に200を超え
る拠点網を有し,北海道を中心とする業務だけでなく,都市銀行の一員と
して,銀行を始めとする金融システムの中で重要な位置を占めるようにな
ったが,平成9年11月17日に経営破綻した(甲1)。
  (3) 被告らの拓銀における地位
   ア 被告Aは,昭和58年4月1日から平成元年3月31日まで代表取締
役頭取の地位にあった。
イ 被告Bは,昭和61年4月1日から平成元年3月31日まで代表取締
役副頭取,同年4月1日から平成6年6月28日まで代表取締役頭取の
地位にあった。
ウ 被告Eは,昭和61年4月1日から昭和63年3月31日まで専務取
締役,同年4月1日から平成2年6月27日まで代表取締役副頭取の地
位にあった。
エ 被告Cは,昭和62年6月1日から平成元年3月31日まで専務取締
役,同年4月1日から平成5年6月28日まで代表取締役副頭取の地位
にあった。
オ 被告Dは,平成元年4月1日から平成4年6月25日まで常務取締
役,同月26日から平成5年6月28日まで専務取締役,同月29日か
ら平成6年6月28日まで代表取締役副頭取,同月29日から平成9年
11月20日まで代表取締役頭取の地位にあった。
カ 被告Fは,昭和62年6月1日から平成元年3月31日まで専務取締
役,同年4月1日から平成5年6月28日まで代表取締役副頭取の地位
にあった。
キ 被告Gは,平成元年6月29日から平成3年6月26日まで専務取締
役,同月27日から平成6年6月28日まで代表取締役副頭取の地位に
あった。
(4) 株式会社ミヤシタ
  株式会社ミヤシタ(以下「ミヤシタ」という。)は,昭和46年3月に
設立され,北海道帯広市に本店を有し,内装,看板工事を主たる業務とす
る企業である。ミヤシタは,昭和53年以降,スーパーマーケットを経営
する株式会社長崎屋(以下「長崎屋」という。)の内装工事指定業者とな
り,北海道における長崎屋及びその関連会社の工事のほとんどを受注して
急激に売上げを延ばし,長崎屋の設備投資が大幅に減少した昭和59年
(この年の年商は4億4900万円。)を除き,昭和56年以降昭和63
年までは年商8億円前後の安定した業績を上げていた。そして,平成元年
から平成3年ころまでは,長崎屋の順調な出店に支えられ,年商12億円
から14億円と大幅に業績を伸ばした(甲10,11,乙ロ15)。
(5) 拓銀のミヤシタに対する融資経過
 ア 拓銀とミヤシタとの従前の関係
   拓銀は,昭和46年10月から,ミヤシタに対し,授信取引を開始し
たが,当初から消極方針で対応し,長崎屋関連の商業手形割引を中心と
して,授信残高を抑制してきた。
   拓銀は,昭和62年11月,ミヤシタから,長崎屋の株の仕手戦に絡
む防戦資金として20億円から30億円の借入申込みを受けたが,株の
仕手戦に絡む資金の融資は社会的に問題があること,仕手戦株式は保全
面において不安定であること等を理由に謝絶した。拓銀は,この際,ミ
ヤシタの既往借入実績の7億円で運転資金限度枠を設け,事実上その範
囲で株式購入資金に使途されることを容認し,昭和63年2月には,上
記運転資金限度枠を9億円に増額した(以上につき,甲4の8,甲1
0,11,12の1,乙ロ15)。
 イ ミヤシタに対する小豆相場資金の貸付け
   ミヤシタは,子会社である有限会社コウシン商事(以下「コウシン商
事」という。)を介して昭和63年以降行っていた小豆相場取引を本格
化するため,平成元年1月から2月にかけて,拓銀に対し,小豆相場転
貸資金の融資を申し込んだ(甲10,11,12の1,乙ロ15)。
   これに対し,拓銀は,別紙小豆融資一覧表の番号1ないし8記載のと
おり,ミヤシタに対し,合計27億5000万円の融資を実行した(甲
4の1ないし甲7の10。以下,併せて「本件小豆融資」という。)。
   その後,本件小豆融資は,別紙小豆融資の推移表記載のとおり,一部
弁済及び書換えが行われた(甲23の1ないし15,甲93の1,2,
甲94の1ないし甲102,乙ロ15)。
   ミヤシタは,平成2年3月までに,小豆相場を手仕舞いしたが,16
億5000万円の欠損を計上した(甲10,11,12の1,乙ロ1
5)。
 ウ ミヤシタに対する乾繭相場資金の貸付け
   ミヤシタは,平成2年10月,小豆相場の損失を取り戻すため,乾繭
相場取引を企図し,拓銀に対し,その資金の融資を申し込んだ。
   拓銀は,直接の融資は不可能と判断して,たくぎんファイナンスサー
ビス株式会社(以下「たくぎんファイナンス」という。)に申入れを
し,同月にたくぎんファイナンスから15億円の授信を開始させた。そ
の後,平成3年2月には,たくぎんファイナンスのミヤシタに対する授
信総額は,34億円にも上った。
   拓銀は,平成3年6月17日,たくぎんファイナンスとの融資時の約
束により,たくぎんファイナンスのミヤシタへの融資残額である24億
1500万円を肩代わりした。
   ミヤシタは,その後も,拓銀に対し,乾繭相場転貸資金の融資を申し
込んだ(以上につき,甲10,11,12の1,乙ロ15。)。
   拓銀は,平成4年2月から同年3月にかけて,別紙乾繭融資一覧表の
番号1ないし3記載のとおり,ミヤシタに対し,合計6億円の融資を実
行した(甲8の1の1ないし甲9の12。以下,併せて「本件乾繭融
資」という。)。
 エ ミヤシタの破綻
   ミヤシタは,平成4年4月17日,拓銀に対して利息及び元金の支払
ができなくなって遅滞に陥り,現在事実上破綻し,支払不能の状態にあ
り,その結果,拓銀の融資残高の回収は,不能ないし著しく困難な状況
にある(甲10,11,12の1,16の1,2,弁論の全趣旨)。
  (6) 拓銀における融資手続
   ア 授信権限の範囲
     拓銀では,昭和59年7月1日から平成8年3月15日までの間,権
限規程において,一般取引先について次のとおり授信権限の区分を定め
ていた(甲3の2の1,甲3の2の2,乙ロ8の2)。
    (ア) 頭取,副頭取と担当取締役(又は担当本部長)の合議
                      融資残高30億円超
    (イ) 担当本部長又は担当取締役    融資残高20億円超30億円
以下
    (ウ) 本部部長            融資残高6億円超20億円以

    (エ) 審査役             融資残高6億円以下
イ 投融資会議
  拓銀では,「投融資会議について」と題する規程(昭和59年8月1
4日制定・実施)により,担当本部長の権限(同日から平成8年3月1
5日の規程改正までは同一人に対する授信残高30億円。)を超える案
件は,頭取,副頭取,担当本部長により構成される投融資会議において
決定することとされていた(甲3の1)。
ウ 本件小豆融資及び本件乾繭融資に対する被告らの関与
 (ア) 被告Cは,拓銀の専務取締役業務本部長として,別紙小豆融資一
覧表の番号1ないし4記載の各融資を決裁した。
 (イ) 被告A,同B,同E及び同Cは,別紙小豆融資一覧表の番号6な
いし8記載の各融資を決定した際の投融資会議の構成員であった。
 (ウ) 被告B,同C,同D,同F及び同Gは,投融資会議の構成員とし
て,本件乾繭融資を決裁した。
(7) 債権譲渡
  拓銀の代表取締役は,平成10年11月11日,原告との間で資産買取
契約を締結し,同月16日をもって,拓銀が有する債務不履行に基づく損
害賠償請求権等を原告に譲渡した(以下「本件債権譲渡」という。)とし
て,同年12月3日ころ,被告らに対し,その旨を通知した(甲2の1,
甲2の2の1ないし7)。
(8) 追認
  拓銀の監査役は,平成12年2月8日,拓銀の代表取締役のした本件債
権譲渡及びそれに付随する一切の行為を追認し(以下「本件追認」とい
う。),同月10日ころ,被告らにその旨通知した(甲24ないし31の
2)。
 2 争点
  (1) 本件債権譲渡の有効性等
(被告A,同B,同C,同D,同F及び同Gの主張)
 会社が取締役に対して訴えを提起する場合,監査役が会社を代表する
(商法275条の4)。取締役と会社とのなれ合いの防止という同条の趣
旨を全うするためには,監査役が訴えを提起するかどうかを判断する権限
を有する以上,会社の取締役に対する債権を処分する権限もまた監査役が
有すると解すべきである。本件では,拓銀の監査役が原告に対して債権を
譲渡した事実はないから,原告は,原告適格を有しない,又はいまだ損害
賠償請求権を取得していない。
(被告A,同B,同C,同D及び同Eの主張)
ア 拓銀は,本件の損害賠償請求をするために必要な取締役会における審
議及び被告らに対する請求等の手続を経ていないから,被告らに対する
損害賠償請求権は,いまだ確立していない。
イ 拓銀は,平成10年6月に開催した臨時株主総会の特別決議により,
平成11年3月をもって会社を解散し,清算手続に入る旨の決議をし
た。これにより,会社の存続の目的は,清算業務の遂行に限定される。
ところが,拓銀は,平成10年9月の取締役会において,被告らに対し
て損害賠償を請求する旨の決議をした。このような取締役会決議は,前
記の臨時株主総会決議に違反し,無効である。
ウ 本件の損害賠償債権のように,債務者の範囲及び請求金額等が確定し
ていない債権は,そもそも譲渡の対象にできない債権である。
エ 拓銀の被告らに対する損害賠償請求権は,資本充実の原則に基づく拓
銀の固有の権利であるから,他に譲渡することは許されない。
オ 金融機関が原告に譲渡できる債権は,金融債権に限られるところ(債
権管理回収業に関する特別措置法2条),被告らに対する請求権は金融
債権ではないから,本件債権譲渡は,同法に違反し,無効である。
カ 本件債権譲渡は,譲渡と訴訟提起とが時間的に接近し,拓銀が訴訟当
事者になることを回避し,原告に訴訟を行わせることを目的とするもの
であるから,訴訟信託に当たり,信託法11条に違反し,無効である。
キ 重要な営業用財産を譲渡する場合,株主総会の決議が必要であり(商
法245条1項),拓銀の定款には,巨額の譲渡損失が生じる貸出債権
を譲渡する場合,株主総会の承認を要すると定められている。拓銀が原
告に譲渡した貸出債権は,総資産の約50パーセントに達する資産であ
るから,株主総会の決議が必要であるところ,その手続を経ていない。
拓銀の原告に対する貸出債権の譲渡は,法令及び定款に違反し,無効で
あるから,これと一括してされた本件債権譲渡も無効である。
ク 被告らは,拓銀に対して主張できる抗弁を有するところ,本件の債権
譲渡により,上記抗弁が事実上切断され,被告らの立場が著しく不利に
なる。したがって,本件債権譲渡は,権利の濫用に当たり,無効であ
る。
ケ 被告らは,拓銀から1度も請求を受けたことがない上,拓銀の被告ら
に対する債権譲渡の通知書には,①損害賠償の発生日時及び金額の記載
がない,②連帯債務であること及び他の連帯債務者の氏名を表示してい
ない,③被告らの具体的加害行為の特定がないという欠陥があり,譲渡
債権の特定を欠いているから,本件債権譲渡の通知は無効であり被告ら
に対抗できない。
コ 拓銀と原告との間の資産買取契約によって原告が譲り受けた債権は,
貸出先に対する貸付債権及び同債権の回収に関する一切の権利であっ
て,貸付債権の回収とは関係のない商法266条に基づく本件の損害賠
償請求権は,これに含まれない。
サ ①商法267条が,同法266条1項の取締役の責任を追及する権限
のある者を限定しようとしていること,②同法266条1項は,会社が
受けた損害を回復するための規定であるが,原告による訴訟の結果は,
拓銀の利益にならないこと,③取締役に対する損害賠償請求権を会社が
自由に処分できるとすると,株主代表訴訟の潜脱を招くこと,④債権譲
受人が商法266条1項の請求権を行使できるとする法令上の根拠がな
いことに照らせば,拓銀以外の者は,その債権の内容が確定している場
合を除き,同法266条1項に基づく請求権を行使できないと解すべき
である。
シ 原告は,約32万円で債権譲渡を受けながら,被告らに対して合計約
61億円を請求しており,このような請求は,権利の濫用に当たる。
(原告の主張)
ア 商法275条の4の立法趣旨は,取締役と会社との間の利益の衝突及
びなれ合い的訴訟追行の防止にあるところ,会社の取締役に対する損害
賠償請求権が第三者に譲渡された場合には,債権者と債務者が別人格と
なるため,利益の衝突やなれ合い的訴訟追行はおこらないのであって,
同法275条の4が,本件のような裁判外の債権譲渡について,代表取
締役の代表権を排除した規定とは解されない。
 会社が有する債権の裁判外における処分は,会社の業務執行に属する
から,商法上の明文の例外規定がない以上,取引の安全という観点から
も,原則どおり代表取締役にその代表権があると考えるべきである。
 取締役とのなれ合いを招くような濫用的な債権譲渡に対しては,別途
権利濫用等の一般法理をもって無効とすれば足りるし,監査役は,こう
した債権譲渡に対する商法上の対抗手段を有しているから,上記のよう
に解しても不都合はない。
 かえって,監査役に裁判外の処分権を広く認めると,会社代表権の帰
属が必要以上に分断され,会社の統一的な業務執行を阻害するおそれが
あるので,妥当でない。
イ 拓銀が解散して清算手続に入るのは,平成11年3月であって,拓銀
は清算中の会社には当たらないから,上記被告らの主張は,前提を欠く
ものである。
 また,会社の資産である債権の取立ては,当然に清算事務に含まれ
る。
ウ 本件の債権は,商法266条1項5号に基づく損害賠償請求権であ
り,損害賠償請求権が譲渡性を有することに争いの余地はない。
エ 原告は,破綻金融機関との合併により承継し,又は破綻金融機関から
譲り受けた営業の整理を行い,並びに破綻金融機関から買い取った資産
の管理及び処分を行うことを主たる目的とする銀行であり,預金保険法
附則7条1項に定める協定銀行として業務を行っている。原告は,債権
管理回収業に関する特別措置法の成立,施行以前に設立され,上記業務
を行っており,上記特別措置法によって初めて債権回収業務を行うこと
を認められたものではないから,上記特別措置法の適用を受けるもので
はない。
オ 本件訴訟は,拓銀破綻という緊急事態に際して,金融システムを維持
し,預金者を保護するという国の施策に基づき,原告が拓銀との資産買
収契約によって譲り受けた資産の中に本件損害賠償請求権が含まれるこ
とから提起されたものであり,信託法11条が禁止する訴訟信託には当
たらない。
カ 被告らが有する抗弁が債権譲渡により切断されるか否かは,民法46
8条2項に従って判断されるべきものであり,債権譲渡があるがゆえに
被告らの立場が著しく不利になり,これが権利濫用に当たるとの上記被
告らの主張は失当である。
キ 仮に,本件債権譲渡に瑕疵があったとしても,本件追認により,瑕疵
は治癒されているから,本件債権譲渡は有効である。
  (2) 銀行の取締役の注意義務
(原告の主張)
ア 被告らは,拓銀の取締役として,善管注意義務(商法254条3項,
民法644条)及び忠実義務(商法254条の3)を負う。
 銀行は,わが国の金融システムの中核に位置しており,銀行の行う預
金,貸付け,為替取引等のサービスは,経済活動において重要な役割を
担っている。このような銀行の機能と社会における役割を重視し,銀行
法は,銀行業務の公共性を規定しており,同法によれば,銀行は,信用
の維持,預金者の保護,金融の円滑のために,銀行の業務の健全かつ適
正な運営をすることが期待されている。したがって,銀行の運営に当た
っては,銀行の健全性,安全性の維持が最高の使命とされなければなら
ない。
  そして,商法266条1項5号の「法令」には,銀行法も含まれると
解すべきであるから,同法の要請する銀行の健全性,安全性維持の原則
に反する行為をした取締役は,法令違反行為をした者として,同法26
6条1項5号に基づき会社に対する責任を問われることになる。
  また,銀行の取締役の経営判断に関する裁量は,銀行の健全性,安全
性の原則から,一般の会社に比べて限定されるべきである。具体的に
は,銀行の取締役は,各融資に当たり,融資決定に至る手続が適正に機
能しているか,リスク管理が十分に行われているかについて各自の立場
から審査,監督し,銀行の健全性,安全性の維持に反する業務運営が行
われないようにすべき義務があるというべきである。
イ 本件において,被告らは,拓銀の投融資会議の構成員として,本件小
豆融資及び本件乾繭融資(被告C以外の被告らはその一部)の決裁を行
ったものであるところ,取締役である被告らのこの決裁は,拓銀内の権
限規程に基づいて委任を受けて行う行為であるから,その決裁に当たっ
ても当然に取締役としての善管注意義務及び忠実義務を負うと解すべき
である。 そして,投融資会議に付議される融資案件の決裁に当たり,
投融資会議の構成員である取締役は,融資実行の適否について,融資当
時のみならず,予想できる範囲内で将来の経済状況,景気の動向,資産
の価格の動向を踏まえながら,融資先である個々の企業の業種,規模,
業績,経営者の能力,経営状況,保有資産,事業の発展・衰退の見込
み,希望する融資額,使途,融資の必要性,提供できる担保の内容・
額,債務の内容・額,返済状況,返済資金の調達方法・見込み,融資の
社会的な妥当性等の諸事情を考慮して判断する必要があり,融資を希望
する個々の企業につきこれらの諸事情に関する情報を収集し,取締役間
で十分な議論を行うとともに,銀行業務の公共性に照らして,銀行の健
全性・安全性維持という要請に反しない範囲において合理的な判断をす
べきである。
(被告らの主張)
ア 銀行の取締役が一般の株式会社の取締役に比べて重い注意義務を負
担すると解すべきではない。
  また,銀行の取締役の経営判断に関する裁量が,一般の株式会社に比
べて限定されると解すべきでもない。
イ 投融資会議は,常務会決議により実施されているもので,融資の可否
を内部的に決定する代表取締役による日常業務執行の一部を担うもので
ある。商法266条1項5号に基づく請求は,問題とされる取締役の行
為が取締役会で決議すべき事項であった場合に限るものであるところ,
取引先に対する融資の可否は取締役会で扱うべき事項ではない。したが
って,投融資会議の構成員としての行為について取締役としての注意義
務違反が生じる余地はない。
  (3) 本件小豆融資の違法性及び関与した取締役の責任
   (原告の主張)
   ア 資金使途が投機資金であること
    (ア) 公共性と健全性をその責務とする銀行は,商品相場を始めとした
投機目的への融資については,商品相場への投機の危険性を十分に勘
案し,原則としてこのような融資を避け,仮に実行する場合でも,そ
の保全を厳重に行うほか,厳格な方針で臨まなければならないとこ
ろ,本件小豆融資の資金使途は,次に述べるとおり,危険性の高い小
豆相場における投機資金にほかならない。
    (イ) 先物取引における投機目的のための現物受け
      ミヤシタがコウシン商事を介して行った小豆相場取引が商品取引所
における先物取引であったことは明らかである。
      商品取引所における小豆取引においては,毎月の納会で決済が行わ
れるまでの間は,証拠金を預託するだけの信用によって取引を行うこ
とができるが,納会までに同量の反対売買が行われなかった場合に
は,現物の受渡しと代金決済が行われる。そして,ミヤシタは,大量
の「買い」を維持して「売り」の反対売買を行わないことによって,
市場価格の高騰を狙い,高騰した時点で「売り」を行ってより多くの
利益を得ようとして納会までに「売り」の反対売買を行わなかったた
め,小豆を現物受けすることになったものである。このように,ミヤ
シタは,小豆の集荷や現物の取得を目的として相場取引を行っていた
ものではなく,更なる価格高騰を狙って,投機目的で現物受けをして
いたものである。
    (ウ) 違法な価格操作に加担する融資
      ミヤシタ及びコウシン商事は,小豆の買占めによる価格操作を狙っ
ていたものである。このことは,ミヤシタが本件小豆融資に当たって
拓銀に担保提供した小豆倉荷証券の合計が3353枚にも上り,これ
は日本の小豆の年間消費量の1割近くに相当するところ,ミヤシタが
北洋銀行からも小豆相場資金の借入れを行っていたことからすれば,
ミヤシタは,日本の年間消費量の1割を大幅に超える小豆をわずか1
か月の間に買い受けたことになることから明らかである。
      ミヤシタ及びコウシン商事が行おうとしていたこのような買占めに
よる価格操作は,商品の価格形成の公正さ及び流通の円滑化を阻害
し,商品取引所法1条の目的に反する行為であり,こうした行為に対
して銀行が資金を供給すること自体,銀行の公共性に照らして許され
るものではない。
    (エ) 小豆相場の危険性
      小豆は,商品先物市場の中でも,天候や輸入量等の影響を受けやす
く,相場における価格決定要因も多いという点で,価格変動が激しい
ほか,仕手筋の投機行為に利用されやすいなどの特徴を持ち,ハイリ
スク・ハイリターンの商品といわれていて,危険性が高いものであ
る。
   イ 過大な融資
     拓銀は,平成元年1月から2月までのわずか1か月の間に,ミヤシタ
に対して合計27億5000万円もの小豆相場資金を融資しているが,
ミヤシタは,内装,看板工事業者であり,昭和63年度の売上高は約8
億3100万円,経常利益は約1000万円にすぎない。したがって,
拓銀は,ミヤシタに対し,年間売上げの約3.5倍,年間利益の約27
5倍にも相当する金額をわずか1か月間に融資したことになるが,この
ような融資が,融資先の返済能力をはるかに超えた過大な融資であるこ
とは明らかである。銀行の融資実務において,担保は,本来の融資金回
収手段が功を奏しなくなった場合に回収を図るための2次的回収手段で
あるとされ,担保がいかに融資金額に見合うものであっても,融資先の
事業による返済能力が認められなければ融資すべきでないと考えられて
きた。しかるに,本件小豆融資が,融資先であるミヤシタの返済能力を
はるかに超えた過大な融資であることは,上記のとおりである。
   ウ 保全が不十分であったこと
    (ア) 担保取得方法
      拓銀は,本件小豆融資に当たり,小豆倉荷証券を担保として取得し
ているが,上記倉荷証券は,正式担保ではなく,規程外の簡便な方法
による添担保として取得されたものにすぎない。
      すなわち,拓銀の規程においては,倉荷証券を担保として受け入れ
る場合,担保実行時に自ら寄託品の引渡しを受け,確実に処分できる
ようにするため,①担保として受け入れる倉荷証券は,拓銀が担保取
得に関する契約を取り交した契約倉庫会社が発行するものとするこ
と,②倉荷証券の裏書交付を受けること,③倉庫会社に対して担保品
受入通知を行い,倉庫会社から承諾書を受領すること等が定められて
いるにもかかわらず,本件小豆融資においては,担保として受け入れ
た倉荷証券は,拓銀の契約倉庫会社以外の発行した倉荷証券で,裏書
が留保され,倉庫会社宛ての担保品受入通知及び倉庫会社からの承諾
書の徴求を免除されていた。
      このため,拓銀は,自ら迅速かつ適切に担保を実行して融資金の回
収をすることができず,ミヤシタの要請に基づいて倉荷証券を払い出
し,これをミヤシタが売却して,その代金を拓銀に弁済するという方
法により,回収せざるを得なかった。
      このように,本件小豆融資においては,担保取得方法自体が不十分
かつ危険なものであった。
    (イ) 倉荷証券の担保評価
      本件小豆融資に当たって拓銀が担保取得した小豆倉荷証券は,その
担保評価においても極めて不十分なものであった。
      小豆は,前記ア(エ)のとおり,投機行為の対象となる代表的商品で
あり,価格変動の激しい商品である。しかも,農産物としての性質
上,長期間保有することができず,毎年10月ころに新穀が市場に出
回り始めれば,相場価格より大幅に低額で処分せざるを得ない。ま
た,日本の小豆消費量の1割近くにも上る大量の小豆を短期間で処分
すれば,価格が暴落することは明らかである。したがって,担保評価
に当たっては,低い掛目を設定するのが当然である。
      ところが,本件小豆融資においては,規程上の上限の掛目である8
0パーセントの掛目をそのまま適用しており,小豆の担保評価として
合理性を欠き,銀行実務とおよそかけ離れた担保評価であることは明
白である。
   エ 融資経緯の異常性
    (ア) 消極方針から急激な融資拡大への転換
      拓銀は,ミヤシタに対する融資に関し,昭和47年4月の取引開始
から昭和61年1月までの間においては,一貫して消極方針を採り,
保全不足とならないように留意しつつ,ミヤシタの本業の運転資金に
必要な範囲での融資に限り,授信残高を最高でも2億5900万円に
とどめ,取引打切りの機会を狙うことを念頭に対応してきた。
      その後,同年2月からは,本業の運転資金とは異なる株式購入資金
等の融資をするに至ったものの,7億円ないし9億円の融資限度枠を
設定して対応し,ミヤシタから申込みのあった長崎屋株式の仕手戦資
金20億円ないし30億円の融資を拒絶するなど,消極方針を維持し
てきた。
      ところが,平成元年1月の本件小豆融資からは,それまでの消極方
針を一転させて融資拡大の一途をたどることになり,約1か月の間
に,融資限度枠である9億円とは別に,27億5000万円の融資を
行うに至った。このような融資方針の突然の転換は,異常なものとい
わざるを得ない。
    (イ) 被告Cの判断に基づく融資
      上記(ア)のような急激な融資拡大への転換は,銀行実務における従
前の判断枠組みとは全く異質の作用として,被告Cの影響力が働いた
ためである。
      被告Cは,ミヤシタから本件小豆融資の申込みを最初に受け,業務
本部第2支店部の部長及び審査役に対して指示し,自らミヤシタの状
況について調査を行い,融資の方向性を実質的に決定するなど,本件
小豆融資に当たり,重要な役回りを果たした。
      被告Cが本件小豆融資のこのような方向性を実質的に決定したの
は,ミヤシタのK社長と関係の深い雑誌「M」(以下,同雑誌を発行
する株式会社Mについても,同様に称することがある。)が拓銀役員
のスキャンダルに絡む記事の掲載を止めた見返りとして,ミヤシタに
対する本件小豆融資を行わざるを得ないと考えたからである。
    (ウ) ダブルチェックの省略
      拓銀の規程においては,1億5000万円を超える無担保扱いの新
規授信案件,3億円を超える有担保扱いの新規授信案件及び増額5億
円を超える授信案件について,融資債権の健全性を確保し,リスク管
理を行うため,融資部事業調査室がダブルチェックを行うこととされ
てきた。
      ところが,本件小豆融資に当たっては,ダブルチェックの対象案件
であるにもかかわらず,「資料申受け及び案件に対する追加説明聴取
の困難な先で本件も事実上ダブルチェックは実施できない。」という
本来省略の理由とはなり得ない理由により,ダブルチェックが省略さ
れており,これは,融資を行うという結論が先行していたことを物語
るものである。
   オ 被告らの責任
    (ア) 被告Cの責任
      被告Cは,K社長から本件小豆融資の申込みを最初に受け,直ちに
前向きに検討することを決め,第2支店部の部長及び審査役に対して
指示を行い,自らミヤシタに対する情報を収集し,帯広支店長に対し
て指示を行うなど,本件小豆融資の端緒からこれに深く関与し,本件
小豆融資を開始する上で重要な役割を果たし,自ら率先して本件小豆
融資をリードした。
      そして,被告Cは,自ら収集した情報から,ミヤシタが小規模の内
装,看板工事業者であること,拓銀がミヤシタに対して約17年間に
わたって消極方針を堅持してきたこと,小豆が価格変動の激しい商品
であることを知っており,また,諸貸出申請書及び添付資料の記載等
から,本件小豆融資の使途が,小豆先物市場における小豆価格の更な
る高騰を狙うための現受け資金であり,投機による利益の獲得を企図
したものであること,融資金の回収は担保処分によらざるを得ない担
保依存の融資であるにもかかわらず,保全状況は大幅な担保不足であ
ること,担保取得方法も拓銀の規程に従った正式担保ではなく,裏書
留保による添担保であり,事実上ミヤシタの協力なくして担保処分し
得ないことを十分に承知しながら決裁し,ダブルチェックの省略も承
認している。
      こうしたことからすれば,被告Cは,本件小豆融資が回収不能とな
ることを十分に予見し,あるいは予見し得たにもかかわらず,本件小
豆融資の決裁を自ら,あるいは投融資会議構成員として行っているの
であり,取締役としての注意義務違反は明白である。
    (イ) 被告A及び同Bの責任
      被告A及び同Bは,投融資会議の構成員として,別紙融資残高一覧
表(1)の番号5ないし7記載の合計13億円の融資を決裁した。
      被告A及び同Bは,諸貸出申請書及び添付資料の記載等から,ミヤ
シタが小規模の内装,看板工事業者であること,拓銀が半月の間に従
来の授信残高の2倍もの金額を融資し,既に総授信残高が20億円近
くに上っていること,資金使途が小豆先物市場における小豆価格の更
なる高騰を狙うための現受け資金であり,投機による利益の獲得を企
図したものであること,融資金の回収が担保処分によらざるを得ない
担保依存の融資であるにもかかわらず,保全状況は大幅な担保不足で
あること,担保取得方法も拓銀の規程に従った正式担保ではなく,裏
書留保による添担保であり,事実上ミヤシタの協力なくして担保処分
し得ないことを十分に承知し,かつ,小豆が価格変動の激しい商品で
あることを容易に推認し得たにもかかわらず,80パーセントの掛目
を適用して担保評価することを前提に,更に13億円もの過大な融資
を決裁し,ダブルチェックの省略も容認している。
      これらの事実を総合すれば,被告A及び同Bは,本件小豆融資が回
収不能となることを十分に予見し,あるいは予見し得たにもかかわら
ず,投融資会議構成員として融資決裁をしているのであって,取締役
としての注意義務違反は明白である。
    (ウ) 被告Eの責任
      被告Eは,投融資会議の構成員として,別紙融資残高一覧表(1)の
番号5ないし7記載の合計13億円の融資を決裁した。
      被告Eは,昭和52年3月ころから昭和55年11月ころまでの
間,審査第1部長としてミヤシタに対する融資決裁を担当し,その過
程でミヤシタが特殊配慮を要する取引先であり,一貫して消極方針で
臨んできた取引先であることを熟知していた。
      そして,被告Eは,諸貸出申請書及び添付資料の記載等から,ミヤ
シタが小規模の内装,看板工事業者であること,拓銀が半月の間に従
来の授信残高の2倍もの金額を融資し,既に総授信残高が20億円近
くに上っていること,資金使途が小豆先物市場における小豆価格の更
なる高騰を狙うための現受け資金であり,投機による利益の獲得を企
図したものであること,融資金の回収が担保処分によらざるを得ない
担保依存の融資であるにもかかわらず,保全状況は大幅な担保不足で
あること,担保取得方法も拓銀の規程に従った正式担保ではなく,裏
書留保による添担保であり,事実上ミヤシタの協力なくして担保処分
し得ないことを十分に承知し,かつ,小豆が価格変動の激しい商品で
あることを容易に推認し得たにもかかわらず,80パーセントの掛目
を適用して担保評価することを前提に,更に13億円もの過大な融資
を決裁し,ダブルチェックの省略も容認している。
      これらの事実を総合すれば,被告Eは,本件小豆融資が回収不能と
なることを十分に予見し,あるいは予見し得たにもかかわらず,投融
資会議構成員として融資決裁をしているのであり,取締役としての注
意義務違反は明白である。 
      これに対し,被告Eは,融資決裁権限は頭取に専属しており,投融
資会議の構成員には何らの権限もなかった,あるいは,被告Eが諸貸
出申請書に押印した時点では,既に融資実行されていたため,融資に
は関与していない旨主張する。
      しかし,権限規程において,構成員の協議は,決定に至る不可欠の
過程と定められているのであるから,協議に関与する頭取以外の投融
資会議構成員も,協議において明確な反対意見を述べてその旨留保し
ない限り,当該案件の決定に積極的に関与したとみるべきであり,上
記規程の文言上,頭取が決定すると定められていても,投融資会議構
成員は,すべて当該案件の決定について責任を負うと解すべきであ
る。
      また,仮に,被告Eが融資実行された後に融資の決裁を行っていた
としても,投融資会議構成員である取締役には,不適切な融資が実行
されたことを発見すれば,直ちに頭取に意見を具申し,担当部署に融
資金の回収を命じ,融資手続違背の原因究明と関係者の処分を指示す
るなど,損害発生と再発の防止に向けた適切な措置を講じるべき義務
があったにもかかわらず,被告Eはこれを怠り,漫然と諸貸出申請書
に押印したことになる。しかも,被告Eは,決裁権限を有する機関の
決裁よりも前に融資を実行するという融資担当部署の手続違背を以前
から容認しており,投融資会議の構成員が負うべき融資決定の手続が
適正に運営されるよう注意すべき義務を怠り,銀行業務の健全性,安
全性を維持するために用意された決裁システムを形骸化させていたの
であるから,その責任を免れ得ない。
   (被告A,同B,同C及び同Eの主張)
   ア 資金使途について
     原告は,本件小豆融資の資金使途が小豆相場における投機資金である
旨主張する。
     しかし,コウシン商事は小豆の現物を買い取り,ホクレン等に売却す
る取引を行っていたもので,先物取引ではなく現物取引であるから,投
機資金である旨の主張は事実に反する。
     現代の高度化した経済社会では,各種の商品について取引市場が形成
されており,相場商品に対する融資だから不当であるとはいえない。む
しろ,北海道の重要な農産物の1つである小豆の売買に資金を提供する
ことは,地場産業の発展に協力するという拓銀の使命ともいうべき業務
の1つである。
     また,原告は,ミヤシタが小豆先物市場において価格操作を企図して
いた旨主張するが,コウシン商事が取り扱った小豆7920トンは,輸
入小豆を含めた日本における小豆の総供給量(平成元年は13万700
0トン)の約5.8パーセントであり,小豆の価格を左右できるほど大
量の買付けではなく,現に小豆買付期間中に価格が急騰した事実はな
い。
   イ 保全が十分であったこと
(ア) 担保取得方法
      原告は,本件小豆融資に当たって拓銀が担保として取得した小豆倉
荷証券は,正式担保として取得されたものではなく,規程外の簡便な
方法による添担保として取得されたものであり,担保取得方法が不十
分であったために損害が発生した旨主張する。
      しかし,添担保は,拓銀内部における授信権限分配上の扱いとして
正式担保と区別されているだけのものであって,貸出業務取扱規程に
おいても,審査及び決裁において実質的な価値を参酌するものと規定
されているから,現実の担保価値は正式担保と何ら差異がない。
      拓銀が倉荷証券について担保権を実行する場合,ミヤシタによる裏
書は不要であり,受領した被裏書人白地の倉荷証券を商品取引所の取
次業者(商品取引員)を介して売却する方法によって簡単に実行でき
る。したがって,拓銀が倉荷証券を担保として取得するに当たり,ミ
ヤシタの裏書を留保していたからといって,その担保価値には何ら欠
けるところがないことは明らかである。
      また,倉庫業者に対する担保設定通知及び承諾手続を留保して倉荷
証券を受け入れている点及び担保として拓銀契約倉庫以外の倉庫の倉
荷証券を受け入れている点についても,法律的には譲渡担保の要件を
問題なく満たしているし,倉庫業者の通知,承諾を要し,契約倉庫の
倉荷証券に限るとする規程が実情に合っていないことから,倉庫業者
の信用調査を進めた上で,担保として実効性があると判断して規程外
取扱いとして担保取得を認めたものであるから,何ら担保価値を減殺
するものではない。
    (イ) 担保評価
      平成元年2月14日付け融資後の総授信残高は,31億5000万
円であるが,そのうち小豆買取資金関係貸出しは,22億5000万
円である。
      これに対し,諸貸出申請書上の本件扱い後保全状況欄の倉荷証券の
金額(担保掛目80パーセント)は,24億8100万円(時価換算
すると31億0100万円),諸貸出申請書の添付書類中のミヤシタ
保全状況欄記載の保全額は約32億8200万円であり,保全十分で
ある。
      また,同月22日付け融資後の総授信残高は,36億5000万円
であるが,そのうち小豆買取資金関係貸出しは,27億5000万円
である。
      これに対し,諸貸出申請書上の本件扱い後保全状況欄の倉荷証券の
金額(担保掛目80パーセント)は,30億4100万円(時価換算
すると38億0125万円),諸貸出申請書の添付書類中のミヤシタ
保全状況欄記載の保全額は約36億3882万円であり,同年3月6
日に5000万円が返済される予定であったから,保全十分である。
      原告は,80パーセントの担保掛目の不当性を主張するが,最高掛
目を80パーセントとしている拓銀の貸出業務取扱規程に基づくもの
で,長い慣行取扱いによってできた経験則に則ったものであり,ま
た,現実に過去3年間の価格変動(昭和61ないし62年では85パ
ーセント,昭和62年ないし63年では79パーセント,昭和63年
ないし平成元年では78パーセントの変動枠内であった。)に照らし
ても,80パーセントの担保掛目は合理的である。
   (被告A,同B及び同Cの主張)
   ア 経営判断の原則
     いわゆる経営判断の原則は銀行においても妥当するものであり,取締
役は,その融資判断について一見して明白な誤りや不合理な判断がない
限り,広範な裁量が認められるべきであって,都市銀行という巨大組織
にあっては,各担当者から上がってきた判断を所与のものとして判断す
れば足りると解すべきである。
     また,取締役の善管注意義務違反,忠実義務違反の有無を判断するに
当たっては,①当該行為が具体的な法令,定款に違反しているかどう
か,②忠実義務に違反しているかどうか,③判断の前提となる事実の認
識(及びそのための事実調査)に不注意な誤りがあったかどうか,④意
思決定の過程,内容に著しく不合理な点があったかどうかを検討し,こ
れらに当てはまらない限りは取締役の当該行為に係る経営判断は裁量の
範囲を逸脱するものではなく,善管注意義務,忠実義務に違反しないと
いうべきである。
   イ 資金使途について
     銀行法が,銀行が相場取引を行うことを銀行業務として認めているこ
と,小豆の市場での取引が完全に合法であることに照らせば,銀行が,
小豆の市場での買受資金を融資すること自体は何ら違法ではない。
     また,投機と投資には質的違いがあるものではなく,融資対象が投機
的要素を含むものであったとしても,それが現物取引であるか信用取引
であるか,十分な担保が確保できるか否かという諸要素との総合的な関
連の中でその当否が判断されるべきである。
   ウ 銀行の融資と担保
     企業金融においては,融資時点では担保が十分でなくても,当該企業
の将来性,経営者の性格,能力,当該企業及び経営者の社会での影響力
等を評価し,将来成長が見込まれる企業や地域経済に影響力のある経営
者に融資することが認められる。
   エ 被告Cとミヤシタとの関係
     本件小豆融資当時,Mと拓銀との関係は良好であり,拓銀役員のスキ
ャンダルは,実態のない噂にすぎないのであって,これが原因で拓銀が
融資をすることは考えられない。
     被告Cは,K社長から話を聞き,かつて帯広支店勤務時代に相場商品
である農産物について倉荷証券を担保として融資した経験もあったこと
から,第2支店部に小豆の相場融資が可能であるかどうか調査検討を指
示したものであり,融資する方向が既に決定済みであったということは
ない。
   オ ダブルチェックの省略に問題がないこと
     ダブルチェックは,保全面からみて回収に問題がないということから
省略したものであって,何ら問題はない。
   (被告Aの主張)
    被告Aの融資判断には,善管注意義務違反がない。
    頭取は,自分が判断する上で必要な資料が足りなければその補充を求
め,資料があれば,それが正しいものと信頼し,関与した各行員の融資に
ついての判断も,それぞれの立場から忠実に行ったものと信頼して,融資
判断をすることが許される。
    被告Aは,融資可と判断しやすい方向で起案された諸貸出申請書及びそ
の添付書類を検討した結果,①ミヤシタ及びK社長が帯広の経済界で大き
な影響力を持っていること,②担保もほぼ保全できていること,③小豆の
仕入資金とはいえ,信用取引ではなく現物の取引であること,④7月まで
には手仕舞う予定であり,過去3年間の相場の動きでは,5月ないし7月
は相場が高値に推移していること,⑤とりあえず5月までの融資であるこ
と,⑥今後も融資の申込みがあると思われるが,保全重視かつ使途回収財
源を確認しつつ,是々非々の対応で臨むこと等の記載に基づき,支店,第
2支店部が十分検討し,被告Cも融資を承認していると信頼して本件小豆
融資の決裁をしたものであり,その判断に善管注意義務違反はない。
    なお,被告Aは,K社長の人柄や,ミヤシタと被告Cとの関係につい
て,報告を受けていなかった。
   (被告Eの主張)
   ア 被告Eに決裁権限がないこと
     商法266条1項5号に基づく責任は,取締役の行為が取締役会で決
議すべき事項であった場合に限って生じるものであるところ,投融資会
議は,取締役会の委任により設置された機関ではなく,頭取の融資決裁
業務を執行する機関にすぎない。
    「投融資会議について」という投融資会議の規程によれば,決裁につい
て定足数がなく,裁決方法の規定もなく,議事録等の反対意見を記録す
る規定もない。決定の方法は,頭取が他の構成員の意見を聞いて決定す
るというもので,決定権者は頭取のみに限られており,頭取以外の構成
員に決裁権限はない。構成員は,案件について担当部の説明や資料を検
討の上,意見があれば頭取に具申するなどして頭取の融資決裁判断を補
佐するものとして位置付けられているにすぎない。投融資会議が持ち回
り方式によって行われていたことは,投融資会議が決議機関ではなかっ
たことを表している。
   イ 被告Eは意思決定後に捺印したにすぎないこと
     被告Eは,昭和63年4月から本州営業店渉外専任副頭取として東京
本部に駐在していて,本件小豆融資について,札幌在住の投融資会議構
成員による協議及び頭取の決裁の後,ユーロ円貸出実行ないし実行手配
を終えた後に諸貸出申請書に認印を求められたにすぎず,融資の決裁に
は一切関与していない。
     これに対し,原告は,頭取の決裁後ないしユーロ円貸出準備行為着手
後であっても,投融資会議の構成員が問題のある融資だと判断すれば,
融資実行を中止させることが可能である旨主張する。
     しかし,外国銀行との資金手当の契約は,貸主である外国銀行と借主
であるミヤシタとの間の契約であって,後に延期,中止又は修正するこ
とが不可能であるし,頭取決裁により貸出実行が進んでいる状況下で融
資を取り消すことは,拓銀の融資業務に大混乱を生じ,実際上あり得な
いことである。
   ウ 被告Eの判断
     被告Eは,諸貸出申請書及び添付資料を検討した結果,①小豆商品現
物の購入資金であること,②貸出期限は平成元年5月31日までの約3
か月間の短期ユーロ円貸付けであること,③小豆価格は堅調で,今後も
上昇気配があること,④回収財源は明確に確保されていること,⑤倉荷
証券担保による保全は十分にとられていること,⑥ミヤシタは,古くか
ら取引のある会社で,事故歴もなく,グループ企業で資産を保有してい
るので,仮に損失が生じても返済に問題の生ずる懸念はないこと等によ
り,融資採上げ可とする審査部判断は合理性があるものと判断した。
   エ 被告Cとミヤシタとの関係を知らなかったこと
     原告は,本件小豆融資において,被告Cが,ミヤシタとの特別な関係
に基づいて重要な役割を果たし,このような関係を被告らが知っていた
旨主張する。
     しかし,本州営業店渉外業務に多忙を極めていた東京在住の被告E
は,ミヤシタと被告Cとの関係について全く知らなかったものであり,
知り得べくもなかった。
  (4) 本件乾繭融資の違法性及び関与した取締役の責任
   (原告の主張)
   ア 資金使途が投機資金であること
    (ア) 公共性と健全性をその責務とする銀行は,商品相場を始めとした
投機目的への融資については,商品相場への投機の危険性を十分に勘
案し,原則としてこのような融資を避け,仮に実行する場合でも,そ
の保全を厳重に行うほか,厳格な方針で臨まなければならないとこ
ろ,本件乾繭融資の資金使途は,次に述べるとおり,乾繭相場におけ
る投機資金にほかならない。
    (イ) 先物取引における損失確定回避のための現物受け
      ミヤシタがコウシン商事を介して行った乾繭相場取引が商品取引所
における先物取引であったことは明らかである。
      商品取引所における乾繭取引においても,小豆取引と同様に,決済
日までに同量の反対売買が行われなかった場合には,現物の受渡しと
代金決済が行われる。そして,ミヤシタは,市場において大量の「売
り」を行えば,市場価格が下落することが明らかであり,下落した価
格で「売り」を行えば,その時点で納会において決済すべき差金が確
定し,損失が確定してしまうことから,これを避けるため,決済日ま
でに「売り」の反対売買を行わず,これにより,乾繭を現物受けする
ことになったものである。
      ミヤシタ及びコウシン商事は,小豆相場で失敗したことから,乾繭
相場で先物取引を行うことによって莫大な利益を上げてその損失の穴
埋めをすることを狙っていたものであり,その目論見が外れつつある
段階で,価格維持のための買受資金の融資として,本件乾繭融資が実
行されたものである。
    (ウ) 違法な価格操作に加担する融資
      ミヤシタ及びコウシン商事は,小豆同様に,乾繭の買占めによる価
格操作を狙っていたものである。
      本件乾繭融資の時点で,ミヤシタが拓銀に担保提供していた乾繭倉
荷証券の合計は,3142枚にも上るところ,これは原料繭の年間供
給量の2割に相当し,ミヤシタが乾繭先物市場において買占めによる
価格操作を企図していたことは明らかである。
      ミヤシタ及びコウシン商事が行おうとしていた買占めによる価格操
作は,商品の価格形成の公正さ及び流通の円滑化を阻害し,商品取引
所法1条の目的に反する行為であり,こうした行為に対して銀行が資
金を供給すること自体,銀行の公共性に照らして許されるものではな
い。
    (エ) 小豆相場における失敗という経験を無視した融資
      本件乾繭融資は,平成4年2月から3月にかけて実行されたもので
あるが,ミヤシタの乾繭相場取引に対する融資は,平成2年10月か
ら継続的に実行されてきたものであり,本件乾繭融資直前の同年8月
には,ミヤシタが小豆相場取引を手仕舞いし,約16億5000万円
の損失が確定したばかりである。
      ミヤシタは,この小豆相場取引の失敗による損失を取り戻すために
乾繭相場取引に進出したのであり,乾繭相場の価格変動の大きさが小
豆に匹敵することに鑑みれば,そのリスクの高さは,客観的に明らか
であった。しかも,ミヤシタは,小豆相場取引で被った上記巨額の損
失を取り戻すために乾繭相場取引に進出したのであるから,一発逆転
を狙った投機行為というほかない。
      銀行が,小豆相場における失敗という先例を無視してリスクの高い
投機行為に1度ならず2度までも融資することは,銀行業務に安全
性,健全性が求められることに照らして許されるものではない。
    (オ) これに対し,被告らは,本件乾繭融資について,ミヤシタに乾繭
相場取引を手仕舞いさせるために必要な資金を短期間融資したにすぎ
ないとして,その正当性を主張する。
      しかし,相場における手仕舞いは,単に相場取引を中止すれば足り
るはずであり,売買手数料,保管料等の経費も,商品の決済代金から
支払えば足りるものであるから,本件乾繭融資は,従来の融資と同様
に,相場価格維持のために現受けする決済資金の融資にすぎず,当面
の損失確定を先送りし,将来の相場の回復に賭ける危険な投機と評価
せざるを得ない。
      したがって,本件乾繭融資が手仕舞いのための必要資金の融資とし
て正当化されることはない。
   イ 過大な融資
     拓銀のミヤシタに対する総授信残高は,本件乾繭融資前の段階で既に
50億円近くに達していたところ,拓銀は,本件乾繭融資において,ミ
ヤシタに対して更に6億円の乾繭相場資金を融資している。
     ミヤシタの本件乾繭融資当時(平成3年度)の売上高は約14億25
00万円,経常利益は約1900万円にすぎなかったことを考えれば,
更に6億円もの追加融資を行った本件乾繭融資が,融資先の返済能力を
超えた過大な融資であることは明らかである。
   ウ 保全が不十分であったこと
    (ア) 銀行融資における担保の位置付け
      銀行の融資実務において,担保は,本来の融資金回収手段が功を奏
しなくなった場合に回収を図るための2次的回収手段であるとされ,
担保がいかに融資金額に見合うものであっても,融資先の事業による
返済能力が認められなければ融資すべきでないと考えられてきた。
    (イ) 担保取得方法
      拓銀は,本件乾繭融資に当たり,乾繭倉荷証券を担保として取得し
ているが,上記倉荷証券は,正式担保として取得されたものではな
く,規程外の簡便な方法による添担保として取得されたにすぎない。
      すなわち,拓銀の規程においては,倉荷証券を担保として受け入れ
る場合,担保実行時に自ら寄託品の引渡しを受け,確実に処分できる
ようにするため,①倉荷証券の裏書交付を受けること,②担保取得に
関する契約を取り交した契約倉庫会社の発行する倉荷証券を受け入れ
ること,③倉庫会社に対して担保品受入通知を行い,倉庫会社から承
諾書を受領すること等が定められているにもかかわらず,本件乾繭融
資においては,倉荷証券の裏書が留保され,拓銀の契約倉庫会社以外
の発行した倉荷証券の担保受入れを認め,倉庫会社宛ての担保品受入
通知及び倉庫会社からの承諾書の受領を免除して担保受入れを行って
いる。
      このため,拓銀は,自ら迅速かつ適切に担保を実行して融資の回収
をすることができず,ミヤシタの要請に基づいて倉荷証券を払い出
し,これをミヤシタが売却して,その代金を拓銀に弁済するという方
法により,融資の回収をせざるを得なくなっている。
      このように,本件乾繭融資においては,担保取得方法自体が不十分
かつ危険なものであった。
      これに対し,被告F及び同Gは,裏書を留保したまま倉荷証券を担
保として取得しても,倉荷証券を処分するのに何ら法律上の制約はな
い旨主張する。
      しかし,担保提供者の裏書を得ないで倉荷証券を処分すれば,証券
上,ミヤシタから取得した担保の処分として売却したことが表象され
ず,後日の紛議の可能性を残す等の不利な点があり,このため,倉荷
証券担保においては,担保取得時に担保提供者の裏書を得ておくのが
通常の取扱いとなっており,当時の当事者の意思としても,ミヤシタ
に念書を書かせる際,念書の記載からも明らかなとおり,担保提供者
の裏書を得ないで倉荷証券を処分することは想定されていなかった。
      したがって,裏書を得ないで処分することは,およそ現実には採り
得ない方法であった。
    (ウ) 倉荷証券の担保評価
      本件乾繭融資に当たって拓銀が担保取得した乾繭倉荷証券は,その
担保評価においても極めて不十分なものであった。
      乾繭も,小豆と同様に,価格変動の激しい商品であり,性質上,長
期間保有することにより品質の劣化が避けられない商品である。しか
も,拓銀がミヤシタから担保取得した乾繭倉荷証券は,商品取引所が
定める品質等級にして3等以下の品質の劣悪な乾繭が大半を占めてお
り,相場における価格の基準となる標準品(2等)以上の乾繭は,1
0パーセント以下にすぎなかった。
      さらに,原料繭の年間供給量の2割近くにも上る大量の乾繭を短期
間で処分すれば,価格が暴落することは明らかであるにもかかわら
ず,担保評価に当たって売却時の価格暴落を全く考慮に入れていな
い。
      加えて,乾繭は,品質確認のために3か月に1度検定を受けて封印
をしなければならず,検定手数料,封印合併代,入出庫料,倉荷証券
料,倉庫会社に対する保管料等の費用を要するほか,売却には売付手
数料,倉庫保管料等の費用を要するにもかかわらず,担保評価に当た
ってこれらの費用を全く考慮に入れていない。
      このように,本件乾繭融資における担保評価は,極めて不十分なも
のであったが,それでもなお,本件乾繭融資当時,大幅な保全不足の
状態であったのであるから,保全は全くされていなかったに等しいと
いうべきである。
    (エ) 生糸価格を基準とする担保評価の誤り
      被告らは,特定の融資とその際に取得した乾繭倉荷証券の担保価値
とを比較して保全は十分であったと主張し,また,乾繭を生糸に加工
した場合の価格を試算して融資金額を上回る担保を取得していたと主
張する。
      しかし,銀行の融資業務の一環としてされた本件乾繭融資におい
て,担保は,当然にすべての債権の根担保として取得されたものであ
るから,全授信残高に対する保全状況を検討すべきであり,特定の融
資とその際に担保取得した乾繭倉荷証券だけを抽出して保全状況を検
討することは失当である。
      また,被告らの試算においては,乾繭保管に要する費用,生糸に加
工するための加工費用,生糸に加工後処分するための手数料等の必要
経費が考慮されておらず,試算自体に大きな誤りが存在する。
      さらに,そもそもミヤシタが拓銀に担保差入れしていた乾繭は,大
量のものであったから,加工業者の処理能力(1か月当たり倉荷証券
にして約30枚)を考えれば,およそ非現実的な主張である。
      加えて,被告F及び同Gは,乾繭1枚から40パーセントの生糸が
できることを前提に試算しているが,ミヤシタが担保提供していた乾
繭の大半が標準よりも品質の低いものであったことからすれば,乾繭
1枚からとれる生糸量の割合も,40パーセント以下であることが容
易に推認できる。
    (オ) 帯広市文化ホールの担保価値
      被告らは,平成4年2月19日及び同月27日実行の各融資の担保
として,株式会社サンランド開発(以下「サンランド開発」とい
う。)が帯広市に文化ホールとして賃貸中の公会堂(以下「本件文化
ホール」という。)を申し受けることが貸出条件とされていたことを
根拠に,保全が十分であった旨主張する。
      しかし,本件文化ホールの担保価値について,起案備考には「実担
ゼロ」と明記されていた上,サンランド開発と帯広市との間の本件文
化ホールの賃貸借契約において,本件文化ホールに担保権の設定登記
を付することが禁じられていたから,この点からも被告らの主張は成
り立たない。
   エ 融資経緯の異常性
    (ア) ミヤシタの属性
      拓銀は,昭和47年4月の取引開始以降,ミヤシタへの融資につい
て一貫して消極方針を採ってきており,ミヤシタのK社長の人柄につ
いても,消極的に評価していた。また,拓銀は,本件乾繭融資当時,
ミヤシタを「指定管理先」という要注意先に指定していた。
      それにもかかわらず,拓銀は,ミヤシタに対して乾繭相場資金融資
を繰り返し行って総授信残高を増額させた上,本件乾繭融資において
合計6億円の融資を実行し,融資を行うごとに保全不足を拡大させて
おり,このことは,ミヤシタに対する乾繭融資が極めて異常な経緯で
実行されたことを端的に示すものである。
    (イ) 小豆相場取引の失敗後の融資
      また,本件乾繭融資は,ミヤシタが小豆相場取引において犯した失
敗を乾繭相場取引においても再び繰り返し,乾繭相場取引においても
損失が現実化しつつある状況の中であえて実行された融資であり,そ
の点でも,融資経緯は,銀行の融資として極めて異常というべきであ
る。
    (ウ) 被告Cとミヤシタとの関係
      被告Cは,前述のとおり,Mに対する見返りとして本件小豆融資を
開始したものであるが,乾繭相場取引を開始する際も,ミヤシタから
乾繭相場資金の融資の申込みを最初に受けており,その後も,ミヤシ
タに対して乾繭相場取引の手仕舞いを説得する際に,直接の説得役と
して交渉を依頼されるなどしていたことに照らせば,本件小豆融資開
始時に築かれた被告Cとミヤシタとの関係は,乾繭相場取引資金の融
資当時にも継続していたことは明らかである。
      したがって,本件乾繭融資を行うに当たり,被告Cとミヤシタとの
強い関係に基づくミヤシタに対する特別の配慮があったというべきで
ある。
   オ 被告らの責任
    (ア) 被告Cの責任
      被告Cは,ミヤシタに対する一連の乾繭相場資金の融資に最初の段
階から関与し,事情に精通していながら,投融資会議の構成員として
本件乾繭融資を決裁している。
      被告Cは,本件乾繭融資に先立つ小豆相場資金の融資において主導
的な役割を果たしており,乾繭相場取引を開始する際も,ミヤシタか
ら乾繭相場資金の融資の申込みを最初に受け,その後も,ミヤシタに
対して乾繭相場取引の手仕舞いを説得する際に,直接の説得役として
交渉を依頼されるなど,小豆相場資金の融資から乾繭相場資金の融資
に至るまで,一貫して拓銀のミヤシタ担当窓口として位置付けられて
いた。
      こうして,被告Cは,ミヤシタが小豆相場で失敗して巨額の損失を
発生させたこと,たくぎんファイナンスの融資残高を拓銀が肩代わり
せざるを得なくなったこと,肩代わり後も数回にわたって乾繭相場資
金の融資を繰り返しており,融資残高及び保全不足が共に拡大の一途
をたどっていることを認識していた。
      また,被告Cは,諸貸出申請書及び添付資料の記載等から,本件乾
繭融資を含む一連の乾繭相場資金の融資の使途が,乾繭先物市場にお
ける相場価格維持のための現受け資金であり,ミヤシタが,損失の確
定を先送りし,将来の相場の回復に賭けてあわよくば損失の回復を狙
うというリスクの高い投機行為を行っていること,融資金の回収が担
保処分によらざるを得ない担保依存の融資であるにもかかわらず,保
全状況は大幅な担保不足であること,担保取得方法も拓銀の規程に従
った正式担保ではなく,裏書留保による添担保であり,事実上ミヤシ
タの協力なくして担保処分し得ないこと,乾繭が価格変動の大きい商
品であり,品質維持が困難な上,保管費用等の諸費用も必要とする商
品であるにもかかわらず,担保評価の掛目を80パーセントとしてい
ること,ミヤシタが指定管理先という要注意先として指定されていた
ことを十分に承知しながら,本件乾繭融資の決裁を行っている。
      こうした事情を総合すれば,被告Cは,本件乾繭融資が回収不能と
なることを十分に予見し,あるいは予見し得たにもかかわらず,投融
資会議の構成員として融資決裁をしているのであり,取締役としての
注意義務違反は明白である。
    (イ) 被告Dの責任
      被告Dは,ミヤシタに対する一連の乾繭相場資金の融資に担当本部
長として直接関与し,事情に精通していながら,投融資会議の構成員
として本件乾繭融資を決裁している。
      被告Dは,平成元年4月1日に担当本部長に就任し,小豆融資につ
いても書換え等に関与しており,たくぎんファイナンスの融資残高肩
代わりの段階からその決裁を行い,一連の乾繭相場資金の融資すべて
に決裁権者として関与し,また,平成4年2月28日の被告CとK社
長との面談に立ち会うなど,担当本部長として,ミヤシタに関するす
べての情報を知り得る立場にあった。
      また,被告Dは,諸貸出申請書及び添付資料の記載等から,ミヤシ
タが過去に小豆相場で失敗して多額の損失を発生させたこと,融資残
高及び保全不足共に拡大の一途をたどっていること,本件乾繭融資を
含む一連の乾繭相場資金の融資の使途が,乾繭先物市場における相場
価格維持のための現受け資金であり,ミヤシタが,損失の確定を先送
りし,将来の相場の回復に賭けてあわよくば損失の回復を狙うという
リスクの高い投機行為を行っていること,融資金の回収が担保処分に
よらざるを得ない担保依存の融資であるにもかかわらず,保全状況は
大幅な担保不足であること,担保取得方法も拓銀の規程に従った正式
担保ではなく,裏書留保による添担保であり,事実上ミヤシタの協力
なくして担保処分し得ないこと,乾繭が価格変動の大きい商品であ
り,品質維持が困難な上,保管費用等の諸費用も必要とする商品であ
るにもかかわらず,担保評価の掛目を80パーセントとしているこ
と,ミヤシタが指定管理先という要注意先として指定されていたこと
を十分に認識しながら,本件乾繭融資の決裁を行っている。
      こうした事情を総合すれば,被告Dは,本件乾繭融資の融資金が回
収不能となることを十分に予見し,あるいは予見し得たにもかかわら
ず,投融資会議の構成員として融資決裁をしているのであり,取締役
としての注意義務違反は明白である。
    (ウ) 被告Bの責任
      被告Bは,ミヤシタに対する一連の乾繭相場資金の融資について,
頭取である投融資会議の構成員として決裁している。
      被告Bは,平成3年9月以降のミヤシタに対する一連の乾繭相場資
金の融資に決裁権者として関与しているところ,ミヤシタの乾繭相場
取引における損失の発生が現実化しつつあったにもかかわらず,数回
にわたって乾繭相場資金の融資を決裁して融資残高を拡大させた上,
漫然と本件乾繭融資を決裁した。
      また,被告Bは,小豆融資の決裁にも投融資会議構成員として関与
し,その経緯を熟知していた上,諸貸出申請書及び添付資料の記載等
から,ミヤシタが過去に小豆相場で失敗して多額の損失を発生させた
こと,融資残高及び保全不足共に拡大の一途をたどっていること,本
件乾繭融資の使途が,乾繭先物市場における相場価格維持のための現
受け資金であり,ミヤシタが,損失の確定を先送りし,将来の相場の
回復に賭けてあわよくば損失の回復を狙うというリスクの高い投機行
為を行っていること,融資金の回収が担保処分によらざるを得ない担
保依存の融資であるにもかかわらず,保全状況は大幅な担保不足であ
ること,担保取得方法も拓銀の規程に従った正式担保ではなく,裏書
留保による添担保であり,事実上ミヤシタの協力なくして担保処分し
得ないこと,乾繭が価格変動の大きい商品であり,品質維持が困難な
上,保管費用等の諸費用も必要とする商品であるにもかかわらず,担
保評価の掛目を80パーセントとしていること,ミヤシタが指定管理
先という要注意先として指定されていたことを十分に認識しながら,
本件乾繭融資の決裁を行っている。
      こうした事情を総合すれば,被告Bは,本件乾繭融資が回収不能と
なることを十分に予見し,あるいは予見し得たにもかかわらず,投融
資会議の構成員として融資決裁をしているのであり,取締役としての
注意義務違反は明白である。
    (エ) 被告F及び同Gの責任
      被告F及び同Gは,ミヤシタに対する一連の乾繭相場資金の融資に
ついて投融資会議の構成員として決裁している。
      被告F及び同Gは,平成3年9月以降のミヤシタに対する一連の乾
繭相場資金の融資に決裁権者として関与し,諸貸出申請書及び添付資
料の記載等から,ミヤシタが過去に小豆相場で失敗して多額の損失を
発生させたこと,融資残高及び保全不足共に拡大の一途をたどってい
ること,本件乾繭融資の使途が,乾繭先物市場における相場価格維持
のための現受け資金であり,ミヤシタが,損失の確定を先送りし,将
来の相場の回復に賭けてあわよくば損失の回復を狙うというリスクの
高い投機行為を行っていること,融資金の回収が担保処分によらざる
を得ない担保依存の融資であるにもかかわらず,保全状況は大幅な担
保不足であること,担保取得方法も拓銀の規程に従った正式担保では
なく,裏書留保による添担保であり,事実上ミヤシタの協力なくして
担保処分し得ないこと,乾繭が価格変動の大きい商品であり,品質維
持が困難な上,保管費用等の諸費用も必要とする商品であるにもかか
わらず,担保評価の掛目を80パーセントとしていること,ミヤシタ
が指定管理先という要注意先として指定されていたことを十分に認識
しながら,本件乾繭融資の決裁を行っている。
      こうした事情を総合すれば,被告F及び同Gは,本件乾繭融資が回
収不能となることを十分に予見し,あるいは予見し得たにもかかわら
ず,投融資会議の構成員として融資決裁をしているのであり,取締役
としての注意義務違反は明白である。
    (オ) なお,本件乾繭融資は,決裁権限を有する投融資会議の決裁が行
われる前に融資が実行されているが,本件乾繭融資以前に行われた一
連の乾繭相場資金の融資の際にも同様に投融資会議の決裁前に融資が
実行されているにもかかわらず,上記被告らは,再発防止と損害の発
生防止のための有効な措置を採ることなく,その手続違背を漫然と黙
認してきたものであり,本件乾繭融資の決裁に際して何らの措置を講
じることもしていない。したがって,被告らが,投融資会議の構成員
である取締役として,融資決定が実体的にも手続的にも適正に運営さ
れるよう注意すべき義務に違反していたことは明白であるから,投融
資会議の決裁前に融資が実行されたことをもって,上記被告らが責任
を免れることはない。
   (被告B,同C,同D,同F及び同Gの主張)
   ア 経営判断の原則
     取締役の善管注意義務違反,忠実義務違反を判断するに当たっては,
経営判断の原則が妥当するから,①当該行為が具体的な法令,定款に違
反しているかどうか,②忠実義務に違反しているかどうか,③判断の前
提となる事実の認識(及びそのための事実調査)に不注意な誤りがあっ
たかどうか,④意思決定の過程,内容に著しく不合理な点があったかど
うかを検討し,これらに当てはまらない限りは取締役の当該行為に係る
経営判断は裁量の範囲を逸脱するものではなく,善管注意義務,忠実義
務に違反しないというべきであるところ,被告らにはそのような事情は
ない。
     銀行の経営に関する判断も,当該業界の状況,当該会社の事情,国内
外の社会,経済,文化の状況等の諸事情に応じて流動的で複雑多様な諸
要素を勘案して行われる専門的,予測的,政策的かつ総合的な判断であ
り,それは銀行以外の株式会社の経営に関する判断と同様である。した
がって,銀行の経営に関する判断であっても,その性質上,取締役に広
範な裁量が認められるべきであることは,何ら他の株式会社の場合と異
なることはない。このように,銀行の取締役の経営判断における裁量が
他の株式会社のそれよりも限定されているということはありえず,ま
た,銀行の取締役に要求される善管注意義務のレベルが格別に厳格なも
のであるとすることもできない。なお,銀行の健全性とは,個別の融資
判断を厳格化すべきであるということを意味するものではなく,基本的
には倒産リスクを指しているのである。個別の融資の判断は,回収可能
性の高低とそれによって銀行が得られる利益との比較考量によって決定
されるものであるから,銀行の健全性の要請によって,個々の融資判断
が左右されるものではない。
   イ 資金使途について
     原告は,銀行が商品相場への投機資金を融資することは避けるべきで
ある旨主張する。
     しかし,多様な相場商品が存在して取引市場が形成されている現代経
済において,価格変動のある商品相場への投資及びそれに対する融資を
禁止しては,銀行実務は成り立たない。
     また,乾繭(生糸)は,法律に基づく価格安定制度があり,その最低価
格について公的保証のある商品であるから,商品相場特有の危険性は存
在しない。
   ウ 保全が十分であったこと
(ア) 担保取得方法
      原告は,本件乾繭融資に当たって拓銀が担保として取得した乾繭倉
荷証券は,正式担保として取得されたものではなく,規程外の簡便な
方法による添担保として取得されたものであり,担保取得方法が不十
分であったために損害が発生した旨主張する。
      しかし,添担保は,拓銀内部における授信権限分配上の扱いとして
正式担保と区別されているだけのものであって,添担保だから担保価
値がないということにはならない。
      拓銀が倉荷証券について担保権を実行する場合,ミヤシタによる裏
書は不要であり,受領した被裏書人白地の倉荷証券をそのまま商品取
引所の取次業者(商品取引員)を介して売却する方法によって簡単に
実行できる。また,倉荷証券の現物を預かることにより,金融機関
は,債務者本人による商品の取戻し及び第三者への処分をいずれも完
全に阻止することができるから,当該倉荷証券に係る商品を確実に支
配することができる。したがって,拓銀が倉荷証券を担保として取得
するに当たり,ミヤシタの裏書を留保していたからといって,その担
保価値には何ら欠けるところがないことは明らかである。
      さらに,担保として拓銀契約倉庫以外の倉庫の倉荷証券を受け入れ
ている点についても,拓銀の契約倉庫でなくても,保管,管理等に信
頼性のある倉庫業者の発行する倉荷証券であれば,担保として特段問
題がないはずであるし,そもそも本件は,倉庫業者に問題があって回
収が困難になったという事例ではない。
      そして,倉庫業者に対する担保設定通知及び承諾手続を留保して倉
荷証券を受け入れている点についても,倉庫業者への通知及び承諾
は,法律上何ら意味のない手続であるから,何ら担保価値を減殺する
ものではない。
    (イ) 倉荷証券の担保評価
      拓銀は,平成4年2月19日及び27日に実行された各融資に当た
り,乾繭倉荷証券333枚を担保取得し,同年3月17日に実行され
た融資に当たり,乾繭倉荷証券447枚を担保取得しているが,平成
4年1月から3月当時の乾繭価格は,1キログラム当たり約3200
円で推移していたから,上記乾繭倉荷証券の担保価値はそれぞれ約3
億1968万円,約4億2912万円となり,借入金以上の価値を有
していたことになる。
      また,乾繭は加工すると生糸になるところ,生糸は,当時の蚕糸価
格安定法によって公的に価格管理されていたから,価格が暴落するお
それはなく,また,平成4年当時の生糸及び乾繭の価格は,最低価格
(安定基準価格)以上で安定して推移していたから,拓銀が担保取得
した乾繭倉荷証券は,借入金以上の価値を有していた。すなわち,生
糸の最低価格は,平成元年から平成5年にかけて1キログラム当たり
1万0400円とされており,これから計算した乾繭の最低価格は1
キログラム当たり2640円であった。
      これに対し,原告は,乾繭倉荷証券を換金するには,手数料,加工
賃等の経費が必要であることを看過しているなどと主張するが,この
ような経費は全体額からみれば極めて僅少であり,これらを考慮して
も,拓銀が担保取得した倉荷証券が相当な価値を有していたことは明
らかである。
    (ウ) 本件文化ホールの担保価値
      拓銀は,本件乾繭融資に当たり,本件文化ホールを担保として申し
受けているが,本件文化ホールの時価は約42億円であり,その賃料
に物上代位することだけでも,1年間で約4億円を回収することが可
能であったから,本件乾繭融資が十分な担保を取得してされた融資で
あったことは明らかである。
    (エ) 追加融資について
      従前の融資に保全不足が発生しているからといって,十分な担保を
取得した本件融資が義務違反となるわけではない。
      これに対し,原告は,従前の融資について保全不足がある状態で追
加融資をすることは許されない旨主張する。
      しかし,そもそも保全十分でなければ融資をしてはいけないという
規範は存在しないから,従前の融資について保全不足がある場合に追
加融資をしてはいけないなどという規範もあり得ない。追加融資につ
いては,その追加融資の回収可能性と追加融資による銀行の利益とを
比較考量してその可否を判断すべきである。
   (被告B,同C及び同Dの主張)
   ア 経営判断の原則
     経営判断の原則は銀行においても妥当するものであり,取締役は,そ
の融資判断について一見して明白な誤りや不合理な判断がない限り,広
範な裁量が認められるべきであり,都市銀行という巨大組織にあって
は,各担当者から上がってきた判断を所与のものとして判断すれば足り
る。
   イ 資金使途について
     投機と投資には質的違いがあるものではなく,融資対象が投機的要素
を含むものであったとしても,それが現物取引であるか信用取引である
か,十分な担保が確保できるか否かという諸要素との総合的な関連の中
でその当否が判断されるべきである。
   ウ 銀行の融資と担保
     企業金融においては,融資時点では担保が十分でなくても,当該企業
の将来性,経営者の性格,能力,当該企業及び経営者の会社での影響力
等を評価し,将来成長が見込まれる企業や地域経済に影響力のある経営
者に融資することが認められる。
   エ 被告Cが,支店や審査担当部に圧力をかけ,本件乾繭融資を無理に採
り上げさせたという事実はない。
     また,被告B,同C及び同Dは,たくぎんファイナンスが採り上げた
乾繭相場資金24億円余りを拓銀が肩代わりした事実について報告を受
けておらず,その経緯については承知していなかった。
   (被告F及び同Gの主張)
   ア 経営判断の原則によれば善管注意義務違反,忠実義務違反がないこと
    (ア) 具体的な法令,定款に違反していないこと
      本件乾繭融資が具体的な法令,定款に違反していないことは,明ら
かである。
    (イ) 忠実義務に違反していないこと
      本件乾繭融資は,役員のスキャンダル隠しのため,又は被告Cとミ
ヤシタが親しい関係にあるためという政策的判断から採り上げたとい
うものではなく,むしろ,倉荷証券の問題性を意識して調査,検討を
指示した上で実行されたものであって,忠実義務に違反する融資でな
いことは明らかである。
      特に,ミヤシタの案件は持ち回り形式で付議されていたから,東京
駐在役員である被告F及び同Gは,回付されてきた諸貸出申請書及び
その添付資料に記載された情報しか有していないのであって,仮に原
告の主張するような背景事情があったとしても,全く関知できないの
であるから,そのような事情を融資判断の要素に入れていないことは
明らかである。
    (ウ) 前提事実の認識及びそのための事実調査に誤りがないこと
      被告F及び同Gは,本件乾繭融資に当たり,諸貸出申請書に記載さ
れていたミヤシタの営業状況,資産状況,他からの借入れの有無等を
踏まえた上,①これまで行ってきた乾繭取引の最終手仕舞いをするま
での間の当座の相場維持のための融資であること,②現物買付けであ
り,乾繭倉荷証券が入ってくること,③平成4年6月ないし7月には
手仕舞いする予定であり,売却を進めて返済してもらうこと,④乾繭
倉荷証券333枚のほか,本件文化ホールを担保に申し受けること,
あるいは乾繭倉荷証券447枚を担保に申し受けること等の事情を勘
案しているが,これらの前提事実には何ら誤りは存しないし,その点
の調査にも誤りはない。
      被告F及び同Gは,ミヤシタに関する風評及びK社長の人柄等につ
いては全く知らなかったものであって,諸貸出申請書上もこの点につ
いて記載がない以上,そのような悪しき風評等はないと考えて決裁す
るのは当然である。したがって,ミヤシタに関する風評及びK社長の
人柄等は,被告F及び同Gの本件乾繭融資の判断の前提事実とはなり
得ないし,その点を調査しなかったとしても,被告F及び同Gに不注
意があったとはいえない。
    (エ) 意思決定の過程,内容に不合理な点がないこと
      本件乾繭融資は,持ち回り方式による投融資会議において承認され
ているところ,拓銀のような都市銀行においては,役員それぞれが担
当する業務だけでも相当の量があるため,投融資会議の構成員が一堂
に会する機会を設けることは困難であるから,担当役員の判断に応じ
て持ち回り方式と会議方式とに振り分ける方法は極めて合理的であ
る。このように,本件乾繭融資は,拓銀における融資決裁手続に則っ
て決裁されており,その手続は合理的であるから,その意思決定の過
程に何ら不合理な点がないことは明らかである。
      なお,本件乾繭融資では,投融資会議構成員が申請書類を決裁する
前に融資が実行されているが,これに関しては,融資実行予定日より
も相当期間前に審査して決裁書類を回すよう規程を作り,役員におい
ても折に触れて注意していたのであって,その監督等に何ら問題はな
かった。
      そして,被告F及び同Gは,諸貸出申請書及び添付書類の記載を検
討した上,①ミヤシタはこれまで継続的に取引関係にあった融資先で
あること,②既に行ってきた乾繭取引の手仕舞いをするために融資を
申請してきたものであること,③融資期間も1か月と短期であるこ
と,④融資金額を上回る担保を取得でき,その担保も価格の下支えの
ある乾繭倉荷証券及び本件文化ホールという回収に不安のない物件で
あったこと等の事情を踏まえ,本件各融資を実行する方が銀行の利益
に合致すると考えて承認の判断をしたものであって,その意思決定の
内容は極めて合理的である。
   イ 小豆市場における失敗を知らなかったこと
     被告F及び同Gは,ミヤシタが小豆取引で損害を出していたことを知
らなかった。被告F及び同Gは,本件の諸貸出申請書に添付されていた
資料の記載からも,ミヤシタが小豆取引で損害を出していたことを理解
できるはずがない。
   ウ 事後承認
     被告F及び同Gは,融資の実行が完了する平成4年2月27日までの
間に融資を承認していないから,同月19日及び同月27日に実行され
た融資によって貸倒れ等の損害が発生したとしても,被告F及び同Gに
責任はない。
  (5) 結果発生との因果関係
   (原告の主張)
   ア 本件小豆融資について
    (ア) 債権が融資書換え後も同一性を維持して存続していること
      被告らは,本件小豆融資が一本化されて書き換えられた事実を捉
え,平成元年5月31日の新たな融資によって,本件小豆融資が返済
されたと主張する。
      しかし,平成元年5月31日の書換えは,ミヤシタに対する未回収
金を目的とする準消費貸借にほかならず,同日以降の書換えも同様に
解すべきであるから,本件小豆融資に関する債権債務は,同一性を維
持しつつ存続しているというべきである。
      すなわち,金融機関が行う融資の書換えを準消費貸借とみるべきか
更改とみるべきかは,当事者の合理的意思解釈によるべきものと解さ
れているところ,一般的に,特段の意思表示がされない限り,当事者
が保証,担保まで消滅させる更改の意思を有しているとは解されない
から,更改ではなくて準消費貸借とみるべきとされており,本件小豆
融資においても,書換えは,実質的には従前の融資の更新,期限の延
長にすぎないから,当事者の合理的意思解釈としても,更改ではなく
準消費貸借とみるべきものである。また,本件小豆融資は,その融資
当初からとりあえず形式的には弁済期を約3か月後と定めてはいるも
のの,実質的には書換えを行って更にそれ以降に弁済されることが予
定されていたことは明らかである。
      したがって,被告らの本件小豆融資が返済された旨の主張は,成り
立ち得ないものである。
    (イ) 回収業務の懈怠による因果関係の切断がないこと
      被告らは,本件小豆融資が回収不能となって損害が発生した原因
は,融資後の回収業務に懈怠があったからであり,被告らの融資決定
と損害発生との間には因果関係がない旨主張する。
      しかし,本件小豆融資は,リスクの大きい小豆相場への投機資金の
融資であり,担保取得方法を始め保全状況も極めて不十分なまま実行
された融資であるから,融資実行時点で既に損害発生の蓋然性が高か
ったのであって,回収担当者の判断によって回収の可否が分かれる余
地はほとんどなかったというべきである。
      また,本件小豆融資は,とりあえず形式的には弁済期を平成元年5
月31日と定めてはいるものの,実質的には担保差入れされた小豆倉
荷証券をミヤシタが小豆先物市場で売却する時を弁済期として実行さ
れたものである。すなわち,本件小豆融資は,ミヤシタが担保差入れ
した小豆倉荷証券を小豆先物市場で売却した売却代金を受領すること
によって回収することが当初から予定されていたものであり,かつ,
それ以外に予定されていた回収業務というものは存在しなかった。
      したがって,回収業務に懈怠があったために損害が発生した旨の被
告らの主張は理由がない。
      さらに,被告らは,平成元年の小豆先物市場の価格に基づき,平成
元年7月ころまでに担保品である小豆倉荷証券が売却されていれば損
害は発生しなかった旨主張する。
      しかし,本件小豆融資の担保として差し入れられた小豆は,日本の
年間消費量の1割近くにも達する量であり,このような大量の小豆を
市場で売却した場合,価格が暴落することは明らかであるから,その
売却価格を現実の市場価格に基づいて算定すること自体が現実離れし
ている。
      加えて,商品先物市場における売買には売買手数料が当然必要にな
るほか,大量の小豆を長期間倉庫会社に委託して保管するには,1か
月当たり1袋当たり129円もの保管料が必要となる。したがって,
少なくとも担保差入れされた小豆の価格が10パーセント以上上昇し
た上で売却しなければ融資金の回収は見込めないところ,平成元年の
小豆先物市場の価格推移をみても,本件小豆融資当時の価格から10
パーセント以上価格が上昇したことはない。
      したがって,平成元年の小豆先物市場の価格に基づき,平成元年7
月ころまでに小豆倉荷証券が売却されていれば損害は発生しなかった
旨の被告らの主張は理由がない。
    (ウ) 弁済充当について
      被告らは,本件小豆融資が回収不能になった原因は,担保倉荷証券
の売却代金を,従前から融資していた運転資金等の融資金の弁済やた
くぎんファイナンスからの融資金の弁済に充当したことにある旨主張
する。
      しかし,拓銀が担保として取得した倉荷証券は,あくまで拓銀のミ
ヤシタに対するすべての債権を担保する根担保として差し入れられた
ものであり,担保倉荷証券の売却代金が運転資金等の融資金に弁済さ
れていたとしても,何ら問題がないことは,銀行取引約定に基づく実
務においては当然である。また,原告は,本件小豆融資の残高を算定
するに当たり,最も被告らに有利になるように,本件小豆融資後にミ
ヤシタが拓銀に弁済した合計17億1040万円を,すべて本件小豆
融資に弁済充当したものとして算定している上,本件訴訟において,
本件小豆融資の残高の一部を請求しているにすぎない。
      したがって,本件小豆融資が回収不能になった原因は,担保倉荷証
券の売却代金を本件小豆融資以外の弁済に充当したからである旨の被
告らの主張は,理由がない。
   イ 本件乾繭融資について
    (ア) 回収業務の懈怠による因果関係の切断がないこと
     a 被告らは,本件乾繭融資が回収不能となって損害が発生した原因
は,融資後の回収業務に懈怠があったからであり,被告らの融資決
定と損害発生との間には因果関係がない旨主張する。
       しかし,本件乾繭融資は,リスクの大きい乾繭相場への投機資金
の融資であり,担保取得方法を始め保全状況も極めて不十分なまま
実行された融資であるから,融資実行時点で既に損害発生の蓋然性
が高かったのであって,回収担当者の判断によって回収の可否が分
かれる余地はほとんどなかったというべきである。
       また,本件乾繭融資は,とりあえず形式的には弁済期を1か月後
と定めてはいるものの,実質的には担保差入れされた乾繭倉荷証券
をミヤシタが乾繭先物市場で売却する時を弁済期として実行された
ものである。すなわち,本件乾繭融資は,ミヤシタが担保差入れし
た乾繭倉荷証券を乾繭先物市場で売却した売却代金を受領すること
によって回収することが当初から予定されていたものであり,か
つ,それ以外に予定されていた回収業務というものは存在しなかっ
た。
       なぜなら,平成4年2月の融資の時点におけるミヤシタに対する
総授信残高は54億円余に達していたところ,かかる多額の融資が
ミヤシタの収益から弁済され得ないものであり,資金原資は乾繭倉
荷証券の処分代金によらざるを得ないことは明らかであった上,担
保品である乾繭倉荷証券は,裏書留保のまま添担保として差し入れ
られたものにすぎず,拓銀がミヤシタの協力なしに処分することは
現実的には不可能であり,さらに,本件乾繭融資当時に添担保とし
て提供を受けた本件文化ホールについても,その賃借人である帯広
市との関係から,担保実行してこれから回収することは期待できな
いものであったからである。
       したがって,回収業務に懈怠があったために損害が発生した旨の
被告らの主張は理由がない。
     b また,被告らは,平成4年4月の時点での乾繭先物市場の価格に
基づき,乾繭倉荷証券の担保価値を試算し,平成4年4月ころまで
に担保品である乾繭倉荷証券が売却されていれば損害は発生しなか
った旨主張する。
       しかし,上記試算は,売却に必要な委託手数料,乾繭の検定手数
料及び封印手数料,乾繭の保管料のほか,封印合併代,入出庫料,
倉荷証券料等の費用をすべて無視した非現実的な試算である上,ミ
ヤシタが拓銀に差し入れていた乾繭倉荷証券は,大半が商品取引所
の基準とされる標準品よりも品質の劣る乾繭であるから,標準品の
取引価格に基づく試算は無意味である。
       さらに,乾繭相場取引資金の担保として差し入れられた乾繭は,
原料繭の年間供給量の2割にも達する量であり,このような大量の
乾繭を市場で売却した場合,価格が暴落することは明らかであるか
ら,その売却価格を現実の市場価格に基づいて算定すること自体が
現実離れしている。
       したがって,平成4年4月の時点での乾繭先物市場の価格に基づ
き,平成4年4月ころまでに乾繭倉荷証券が売却されていれば損害
は発生しなかった旨の被告らの主張は理由がない。
     c さらに,被告らは,乾繭は生糸に加工することによって蚕糸価格
安定法の価格下支えがあるから担保価値が低下しない旨主張する。
       しかし,生糸に加工した上での処分には,乾繭売買に係る諸費用
のほかに加工賃及び生糸の市場における売買手数料がかかる上,年
間供給量の2割にも達する大量の乾繭を一時期に生糸に加工するこ
とを前提とする上記主張は非現実的である。
       なお,本件乾繭融資を含む乾繭融資の担保となった乾繭の倉荷証
券は,平成5年3月10日までにすべて処分のために払い出され処
分されたが,なお莫大な債務が残存している。
     d 加えて,被告らは,総授信残高から乾繭倉荷証券の売却価格を控
除した残額を本件文化ホールから回収することを前提としている
が,本件文化ホールの実質的担保価値はなく,このことは本件乾繭
融資の諸貸出申請書にも明記されているから,被告らの上記主張は
理由がない。
    (イ) 遅滞発生後の書換えがないこと
      被告らは,ミヤシタが遅滞を発生させた後である平成4年4月及び
6月にも拓銀が再度貸付けを行っている旨主張する。
      しかし,被告らが再度の貸付けであると主張している同年4月及び
6月の貸出申請は,いずれも同年4月17日の延滞発生によって結局
廃案となり,実行されていないのであって,被告らの上記主張は,そ
の前提たる事実を欠いている。
   (被告A,同B,同C及び同Eの主張)
   ア 本件小豆融資が期限に清算されていること
     本件小豆融資は,短期ユーロ円貸出しであるところ,国際市場におけ
る取引としての債権は,それぞれ別個の独立した債権であって,先に借
り入れた債権を返済するために別の債権を借り入れて返済に充当したと
しても,それらの債権に同一性があることはあり得ない。
     したがって,本件小豆融資は,平成元年5月31日に一旦弁済され,
新たな債権に切り替えられているから,その後の回収不能という結果発
生との間に因果関係はない。
   イ 回収業務の懈怠
     拓銀は,平成元年12月及び平成2年3月の時点で,担保を確保して
おり,担保実行が即時かつ確実に行われていれば,未回収債権は生じな
かったから,損害発生の原因が回収業務の懈怠にあることは明らかであ
る。
   ウ 未回収金が不正な充当により発生したこと 
     原告は,本件小豆融資の担保の処分代金7億7000万円を別口の運
転資金の返済に充当しているが,これは,貸出条件及び規程に違反した
不正な経理処理である。原告が正規に処理していれば,本件小豆融資
は,担保処分により全額回収できたことは明らかであるから,原告の主
張する損害と被告らの行為との間には因果関係がない。
   (被告A,同B及び同Cの主張)
   ア 弁済又は更改による消滅
     平成元年5月31日以降の貸換えは,弁済又は更改に当たるから,被
告らの決裁に係る債権は,弁済又は更改で消滅している。
   イ 回収業務の懈怠
     本件小豆融資の弁済期は,平成元年5月31日であり,この時点で担
保権を実行すれば全額回収することが可能であったところ,同日に別の
決裁権者によって貸換えが行われており,回収不能の原因はこれにある
から,被告らの融資決裁と結果発生との間に因果関係はない。
     仮に,被告らの決裁に係る債権とその後の貸換え後の債権との同一性
が認められるとしても,遅くとも平成元年8月末時点で回収すれば,回
収不能は発生しなかったから,損害発生との間に因果関係はない。
   (被告B,同C,同D,同F及び同Gの主張)
   ア 原告の損害立証が不十分であること
     原告は,本件乾繭融資に当たり拓銀が取得した担保について,いつ,
いくらで処分し,その処分代金をどの債権に充当したのか,説明してい
ない。
     しかし,本件乾繭融資に当たって取得した乾繭倉荷証券が換金されて
従前の融資に対する返済に充てられている場合には,従前の融資によっ
て被っていたはずの損害額が減少しているわけであるから,拓銀には本
件乾繭融資によって新たに損害は生じていないというべきである。
     したがって,本件乾繭融資によって生じた損害の発生について主張,
立証が尽くされているということはできない。
   イ 損害発生の原因が回収等の不手際にあること
     拓銀の担保取得業務を担当していた帯広支店及び札幌第2支店部は,
別紙乾繭融資一覧表3の融資の決裁条件とされている乾繭倉荷証券44
7枚を担保とすべきところ,うち422枚を担保としてとることなく貸
出しを実行したという基本的ミスを犯した。また,ミヤシタが遅滞に陥
った平成4年4月17日以後,銀行融資実務として当然取るべき回収作
業を行っていれば,当然に乾繭取引に係る融資資金を全額回収できた。
それにもかかわらず,第2支店部及び担当役員は,担保の実行を行わな
かったばかりか,遅滞発生後の平成4年4月及び6月に再度ミヤシタに
対する新たな貸付けに及んでいる。
     このように,本件乾繭融資につき損害が発生したのは,銀行実務から
は考え難い数々のミスのために回収作業が遅れたことに原因があるので
あって,本件乾繭融資承認の判断とは無関係に損害が発生したものであ
ることは明らかである。
  (6) 過失相殺
   (被告Eの主張)
    仮に被告Eに過失があったとしても,他方で,被告Eが不在の間に被告
Eの捺印もないまま本件小豆融資を実行した拓銀の担当職員の過失及び債
権の回収を怠った者に対する責任追及を怠った過失も加わって,損害が発
生したものであるから,賠償すべき損害の算定に当たっては,過失相殺す
べきである。
  (7) 時効
   (被告A,同B,同C及び同Dの主張)
   ア 商事消滅時効の援用
     拓銀は商人であるから,拓銀と被告らとの間の取締役任用契約は,付
属的商行為である。したがって,委任契約の債務不履行に基づく損害賠
償請求権は,商行為によって生じた債権として5年の商事消滅時効にか
かる。そして,時効の起算日は,最終融資日あるいは遅くとも弁済期と
考えるべきであるところ,上記起算日から5年の経過により,消滅時効
は完成している。
     よって,上記被告らは,商事消滅時効を援用する。
   イ 民事消滅時効の援用(被告Dを除く。)
     仮に,商法266条1項の取締役の責任が民事債務であるとしても,
上記アの起算日から10年の経過により,委任契約の債務不履行に基づ
く損害賠償請求権は,消滅時効が完成している。
     訴えの提起は時効中断事由となるが,本件訴えが提起された平成10
年12月15日の時点で,原告は債権を有していなかったから,本件訴
えの提起によって時効は中断せず,監査役の追認の意思表示の到達があ
るまで,時効は進行していたと解される。
     よって,上記被告らは,消滅時効を援用する。
   (原告の主張)
   ア 商事消滅時効の主張について
     善管注意義務や忠実義務に違反する取締役の行為は,本来の任用契約
の趣旨を逸脱する行為であり,その責任原因の認識や確定に手間取るこ
とが少なくないことからみて,これに基づく損害賠償請求権については
商事消滅時効の趣旨は及ばないというべきである。また,任用契約が商
行為であるとしても,これから派生する債務が一律に商事消滅時効の適
用を受けるとは限らない。
     したがって,商法266条に基づく取締役の責任の時効期間は,一般
の債権と同様に10年と考えるべきである。
     また,時効の起算点については,少なくとも損害発生についての認識
可能性がなければ権利行使はできないから,当該融資の決裁の日ではな
く,遅滞が発生した日と考えるべきである。
   イ 時効の中断について
     そもそも訴えの提起は,権利行使の意思表示を最も明確にするもので
あるがゆえに時効中断事由となるのであるから,訴えの提起が適法にさ
れ,原告の請求する権利が主張された以上,その訴えが却下されるか取
り下げられない限り,「裁判上の請求」として時効は中断すると解すべ
きである。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(本件債権譲渡の有効性等について)
  (1) 後掲各証拠によれば,本件債権譲渡について,以下の事実を認めるこ
とができる。
   ア 拓銀の代表取締役が平成10年11月11日付けで原告との間で締結
した資産買取契約の契約書には,原告が拓銀から買い取る資産の移転時
期について,同月16日とし,買取資産について,拓銀が有する債務不
履行に基づく損害賠償請求権及び事務管理,不当利得,不法行為その他
契約以外の原因に基づいて拓銀が有する権利(現在及び過去における拓
銀の役職員,拓銀の借り手その他の関係者に対し責任追及する一切の権
利を含む。また,既に権利が確定しているもののほか,資産買取日にお
いてその存在の確認若しくは内容の特定が未了であるものを含むものと
する。)等とし,資産買取の対価について,1兆6163億4396万
7439円とする旨の記載がそれぞれある(甲2の1)。
   イ(ア) 拓銀の代表取締役が同年12月3日付けで被告A及び同Eに対し
てした債権譲渡通知には,拓銀がミヤシタに①平成元年2月9日に4
億円,②同月14日に4億円,③同月22日に5億円をそれぞれ貸し
付けたことに関する,拓銀の被告A及び同Eに対する一切の損害賠償
請求権を原告に譲渡したため,これを通知する旨の記載がある(甲2
の2の1,3)。
    (イ) 拓銀の代表取締役が同年12月3日付けで被告Bに対してした債
権譲渡通知には,拓銀がミヤシタに①平成元年2月9日に4億円,②
同月14日に4億円,③同月22日に5億円,④平成4年2月19日
に1億5000万円,⑤同月27日に1億円,⑥同年3月17日に3
億5000万円をそれぞれ貸し付けたことに関する,拓銀の被告Bに
対する一切の損害賠償請求権を原告に譲渡したため,これを通知する
旨の記載がある(甲2の2の2)。
    (ウ) 拓銀の代表取締役が同年12月3日付けで被告Cに対してした債
権譲渡通知には,拓銀がミヤシタに①平成元年1月23日に5億円,
②同年2月2日に3億5000万円,③同月6日に2億円,④同月9
日に4億円,⑤同月14日に4億円,⑥同月22日に5億円,⑦平成
4年2月19日に1億5000万円,⑧同月27日に1億円をそれぞ
れ貸し付けたことに関する,拓銀の被告Cに対する一切の損害賠償請
求権を原告に譲渡したため,これを通知する旨の記載がある(甲2の
2の4)。
    (エ) 拓銀の代表取締役が同年12月3日付けで被告F,同G及び同D
に対してした各債権譲渡通知には,拓銀がミヤシタに①平成4年2月
19日に1億5000万円,②同月27日に1億円,③同年3月17
日に3億5000万円をそれぞれ貸し付けたことに関する,拓銀の被
告F,同G及び同Dに対する一切の損害賠償請求権を原告に譲渡した
ため,これを通知する旨の記載がある(甲2の2の5ないし7)。
  (2) 被告A,同B,同C,同D,同F及び同Gは,会社が取締役に対して
訴えを提起する場合,監査役が会社を代表する(商法275条の4)か
ら,会社の取締役に対する債権の処分というべき債権譲渡の権限もまた監
査役が有すると解すべきである旨主張する。
なるほど,商法275条の4は,会社と取締役との利益の衝突を調整
し,いわゆるなれ合い訴訟を防止するために,代表取締役の権限を制限し
たものと解されるところ,その立法趣旨を徹底するとすれば,会社の取締
役に対する債権の処分である債権譲渡を始めとして,その債権債務関係に
関する一切の事項について,これを代表取締役の権限から除外することが
必要ということになる。
しかしながら,商法(平成13年法律第79号による改正前のもの,以
下同じ。)は,代表取締役について,会社の営業に関する一切の裁判上又
は裁判外の行為をなす権限を有するものと定め(261条3項,78条1
項),広範な権限を規定している。商法275条の4の規定は,代表取締
役のその広範な権限を制限する法律上の例外規定であるが,同条は,会社
と取締役との間の訴訟等については,同じく会社の機関である監査役に会
社を代表する権限を委ねることとしており,内部的ななれ合い防止という
観点からすれば,それほど徹底した方策を採るものでもなく(ただし,取
締役の責任免除については法律上の制限がある。商法266条5項6項参
照。),また,その適用場面を「訴えを提起する場合に於いては」と明示
的に規定している。さらに,会社と取締役間の債権債務関係に関する会社
の業務も,債権債務関係の発生から調査,審査,交渉を経て,請求,提
訴,債権回収のほか,これに関しての告訴告発等に至るさまざまな場面に
おいて,多岐にわたることが想定される一方,代表取締役が権限を有する
それ以外の会社の業務との境界も,時として一義的には定まり難い場面も
予想されるところである。こうした商法の規定の内容及び文言のほか,会
社業務の多面性を考慮すると,法は,会社と取締役間の債権債務関係につ
いてなれ合いが生じ得ることを考慮して,その防止のために,訴訟という
典型的な紛争場面における行為(訴え提起の論理的な前提となる訴え提起
の内部的な決定や訴え提起に通常随伴する事前の催告等の訴え提起に密接
に関連する行為を含む。)に限って,代表取締役の一般的権限を制限すべ
きであるとの選択をしたものと解するのが相当である。したがって,拓銀
の代表取締役には本件債権譲渡をする権限がないという被告らの主張は,
採用することができない。
また,仮に,会社の取締役に対する債権を処分する権限が監査役に専属
すると解してみても,本件債権譲渡は,拓銀の代表取締役が拓銀を代表し
て行った無権代理行為ということになるが,拓銀の監査役が後に本件追認
を行っていることは前記のとおりであり,これによって,本件債権譲渡は
遡って効力を有することになり(民法116条本文),代理権の欠缺とい
う瑕疵は治癒されたというべきである。被告Aは,その遡及効を否定すべ
きであるような主張をするが,債務者である被告らが民法116条ただし
書きにいう第三者に当たらないことは明らかであるから,その主張は理由
がない。
したがって,上記被告らの上記主張は,いずれにせよ理由がない。
  (3)ア 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,拓銀が取締役会における審
議及び被告らに対する請求等の手続を経ていないから,被告らに対する
損害賠償請求権がいまだ確立していない旨主張する。
     その主張する趣旨は必ずしも明らかではないけれども,拓銀が取締役
会における審議及び被告らに対する請求等の手続を経ていないとして
も,このことをもって,本件債権譲渡の対象たる被告らに対する損害賠
償債権が不特定であるとか,不確定であるとか,停止条件が成就してい
ないとか,あるいは譲渡することができない障害があるとかいうことは
できないから,上記被告らの上記主張は,理由がない。
   イ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,拓銀が平成10年6月に開催
した臨時株主総会において,平成11年3月をもって会社を解散し,清
算手続に入る旨の決議をしたことにより,会社の存続の目的が清算業務
に限定されるから,被告らに対して損害賠償を請求する旨の平成10年
9月の取締役会決議は無効である旨主張する。
     しかし,拓銀が解散して清算手続に入るのは,平成11年3月であっ
て,それまでは,会社の存続の目的が清算業務に限定されるものではな
いから,平成11年3月以前である平成10年9月の取締役会における
上記決議が無効である旨の上記主張は,理由のないことが明らかであ
る。
   ウ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,本件の損害賠償請求権は,債
務者の範囲及び請求金額が確定していないから譲渡の対象にできない債
権である旨主張する。
     しかし,上記(1)アで認定したとおり,拓銀と原告との間の資産買取
契約の契約書によれば,買取資産について,拓銀が有する債務不履行に
基づく損害賠償請求権及び事務管理,不当利得,不法行為その他契約以
外の原因に基づいて拓銀が有する権利(現在及び過去における拓銀の役
職員,拓銀の借り手その他の関係者に対し責任追及する一切の権利を含
む。また,既に権利が確定しているもののほか,資産買取日においてそ
の存在の確認若しくは内容の特定が未了であるものを含むものとす
る。)旨の記載があり,本件に関していえば,譲渡の対象となる債権
は,過去における拓銀の役職員に対し責任追及する一切の権利と掲げら
れていることとあいまち,上記のような記載によって,他の債権と識別
可能な程度に特定されているということができるから,それ以上に債務
者の範囲や債権額,さらには損害賠償の対象となる作為ないし不作為等
が具体的に確定していないからといって,債権譲渡の対象とすることが
できないというべきものではない。
     したがって,上記被告らの上記主張は,理由がない。
   エ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,拓銀の被告らに対する損害賠
償債権が資本充実の原則に基づく拓銀の固有の権利であるから,他に譲
渡することはできない旨主張する。
     しかし,拓銀の被告らに対する商法266条1項に基づく損害賠償請
求権は,それ自体が資本充実の原則に由来するものであるとはいえない
し,それが金銭債権である以上は,債権発生当時の原債権者以外の者が
行使し履行を受けたのでは,債権の本来の目的を実現し得ないとまでい
うこともできないから,一身専属的で譲渡が制限される債権とは認める
ことができない。
     よって,上記被告らの上記主張は,理由がない。
   オ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,債権管理回収業に関する特別
措置法2条によれば,金融機関が原告に譲渡できる債権は金融債権に限
られるから,本件債権譲渡は無効である旨主張する。
     しかし,債権管理回収業に関する特別措置法は,同法2条1項掲記の
特定金銭債権の債権管理回収業を行う場合にこれを規制する法律であっ
て,同法が規定する特定金銭債権以外の債権の譲渡についての効力を定
めるものではない。また,弁論の全趣旨によれば,原告は,預金保険法
附則7条1項所定の協定銀行として,同法附則8条に定める内容を含む
協定に基づき整理回収業務を行っている銀行であると認められ,債権管
理回収業に関する特別措置法に規定する法務大臣の許可を受けて債権管
理回収業を営んでいる会社ではないから,同法の適用を受ける債権回収
会社として,同法12条所定の業務制限を受けることはないというべき
である。
     したがって,上記被告らの上記主張は,理由がない。
   カ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,本件債権譲渡は,信託法11
条が禁止する訴訟信託に当たるから,無効である旨主張する。
     信託法11条が訴訟信託を禁止する趣旨は,いわゆる非弁行為のよう
に,他人の権利について訴訟行為をすることが許されない場合に,これ
を信託の形式を用いて回避しようとする弊害を防止することにあると解
されるところ,本件全証拠によっても,本件債権譲渡が上記のような場
合に当たるにもかかわらず行われたと認めることはできない。
     したがって,上記被告らの上記主張は,理由がない。
   キ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,拓銀の原告に対する貸出債権
の譲渡は,商法245条1項1号の営業譲渡に該当するにもかかわら
ず,株主総会の決議を経ていないから,無効である,又は,巨額の譲渡
損失が生じる貸出債権を譲渡する場合に株主総会の承認を要する旨の定
款に違反するから,無効であるので,上記貸出債権の譲渡と一括してさ
れた本件債権譲渡も無効である旨主張する。
     しかし,商法245条1項1号にいう「営業の全部又は重要なる一部
の譲渡」とは,一定の営業目的のために組織化され,有機的一体として
機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し,これによって,譲渡会社
がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受
人に受け継がせ,譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避
止義務を負う結果を伴うものをいうと解されるところ(最大判昭和40
年9月22日民集19巻6号1600頁参照),拓銀が平成10年11
月11日付けで原告との間で締結した資産買取契約は,一定の営業目的
のために組織化され,有機的一体として機能する財産の全部又は重要な
一部の譲渡とは認められないから,株主総会の決議を経ずに行われたと
しても違法ではないし,また,上記資産買取契約が,拓銀の定款にいう
巨額の譲渡損失が生じる貸出債権の譲渡に当たると認めるに足りる証拠
もないから,上記被告らの上記主張は,理由がない。
   ク 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,本件債権譲渡により,被告ら
が拓銀に対して主張できる抗弁が事実上切断され,被告らの立場が著し
く不利になるから,本件債権譲渡は,権利の濫用に当たり,無効である
旨主張する。
     しかし,本件債権譲渡により,被告らが拓銀に対して主張できる抗弁
が切断されるか否かは,民法468条の規定に従い判断されるべきもの
であるところ,上記被告らが主張するところは,同条の規定の適用の結
果不利益を被るか,あるいは単に事実上の不利益を被るというにすぎな
いのであって,それが権利の濫用に当たるといえるような事情を認め得
る証拠もない。
     したがって,上記被告らの上記主張は,理由がない。
   ケ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,被告らが拓銀から1度も請求
を受けたことがない上,拓銀の被告らに対する債権譲渡の通知には,①
損害賠償の発生日時及び金額の記載がないこと,②連帯債務であること
及び他の連帯債務者の氏名を表示していないこと,③被告らの具体的加
害行為の特定がないことという欠陥があり,譲渡債権の特定を欠いてい
るから,債権譲渡の通知が無効であり,被告らに対抗できない旨主張す
る。
     しかし,上記(1)イで認定したとおり,拓銀が平成10年12月3日
付けで各被告に対してした債権譲渡通知には,拓銀がミヤシタに貸し付
けたことによる拓銀の各被告に対する一切の損害賠償請求権を譲渡した
ため,これを通知する旨の記載があり,上記貸付けの年月日及び貸付金
額も記載されているのであるから,上記債権譲渡通知において,譲渡の
対象となる債権は特定されているというべきであって,それ以上に損害
賠償の発生日時,金額,連帯債務であること,他の連帯債務者の氏名及
び被告らの具体的加害行為が記載されていなければ債権譲渡の通知にお
ける譲渡債権の特定ができないとはいえないから,上記被告らの上記主
張は,理由がない。
   コ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,拓銀と原告との間の資産買取
契約によって原告が譲り受けた債権は,貸出先に対する貸付債権及び同
債権の回収に関する一切の権利であって,貸付債権の回収とは関係のな
い本件の損害賠償請求権はこれに含まれない旨主張する。
     しかし,上記(1)アで認定したとおり,上記資産買取契約の契約書に
は,買取資産の内容として,拓銀が有する債務不履行に基づく損害賠償
請求権及び事務管理,不当利得,不法行為その他契約以外の原因に基づ
いて拓銀が有する権利(現在及び過去における拓銀の役職員,拓銀の借
り手その他の関係者に対し責任追及する一切の権利を含む。また,既に
権利が確定しているもののほか,資産買取日においてその存在の確認若
しくは内容の特定が未了であるものを含むものとする。)等と明記され
ており,この中に商法266条1項に基づく本件の損害賠償請求権が含
まれていることは明らかであるから,上記被告らの上記主張は,理由が
ない。
   サ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,拓銀以外の会社は,その債権
の内容が確定している場合を除き,商法266条1項に基づく拓銀の取
締役に対する請求権を行使できないと解すべきである旨主張する。
     しかし,民法は,原則として債権譲渡を当事者の自由に委ねており,
当事者の意思の合致により債権譲渡が行われた以上は,債権譲受人がそ
の債権を行使できることは当然のことであって,商法266条1項所定
の損害賠償請求権についても別異に解すべき理由はなく,特にこれを制
限するような法令上の規定もない。
     したがって,上記被告らの上記主張は,理由がない。
   シ 被告A,同B,同C,同D及び同Eは,原告は,約32万円で債権譲
渡を受けながら,被告らに対して合計約61億円を請求しており,この
ような請求は権利の濫用に当たる旨主張する。
     しかし,上記(1)アで認定したとおり,原告は,資産買取の対価を総
額1兆6163億4396万7439円としているのであって,このう
ち取締役であった被告らに対する商法266条1項に基づく損害賠償請
求権のみを取り上げて,その譲渡価格を32万円とすることは根拠に欠
けるというべきであり,また,本件の取締役に対する損害賠償請求権の
存否,その実際の債権額及びその回収可能額が必ずしも明らかとはいえ
ない段階で本件債権譲渡が行われたことを考慮すれば,低額で債権譲渡
を受けた原告が,本件について,合計約61億円の請求をしているとし
ても(ただし,本件訴訟においては合計8億円。),このことのみによ
って,本件の請求が権利の濫用に当たると解することはできない。
     したがって,上記被告らの上記主張は,理由がない。
  (4) 以上によれば,本件債権譲渡は有効であり,争点(1)についての被告
らの主張は,理由がない。
 2 争点(2)(銀行の取締役の注意義務)について
  (1) 取締役は,会社から委任を受けてその職務を行っており(商法254
条3項),会社に対して善管注意義務及び忠実義務(民法644条,商法
254条の3)を負っている。そして,商法266条1項5号は,法令に
違反する行為をした取締役はそれによって会社の被った損害を賠償する責
めに任じる旨を規定するところ,取締役を名宛人とし,取締役の受任者と
しての義務を一般的に定める商法254条3項(民法644条),商法2
54条の3の規定及びこれを具体化して取締役がその職務執行に際して遵
守すべき義務を個別的に定める規定が,上記の規定にいう「法令」に含ま
れることは明らかであるが,さらに,商法その他の法令中の,会社を名宛
人とし,会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定も上記の
規定にいう法令に含まれるものと解するのが相当である(最判平成12年
7月7日民集54巻6号1767頁参照)。
    ところで,銀行法は,銀行を名宛人とし,銀行がその業務を行うに際し
て遵守すべきことを定めた規定を含む法令であるから,そのような銀行法
の具体的規定に違反した銀行の取締役は,商法266条1項5号により,
これによって銀行の被った損害を賠償する責任を負うこととなるというべ
きである。銀行法1条1項は,「この法律は,銀行の業務の公共性に鑑
み,信用を維持し,預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図る
ため,銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し,もって国民経済の健全な
発展に資することを目的とする。」と規定しているところ,同項にいう銀
行の業務の公共性及びその健全かつ適切な運営を期すること等は,銀行法
の目的を宣言的に規定しているにすぎず,それ自体が具体的規範性を有す
るとはいえないから,同項の規定は,銀行の取締役について,善管注意義
務違反ないし忠実義務違反を問うことができるか否かを判断する上で1つ
の要素となり得るものであるとしても,これに反する行為を行ったからと
いって,当然に商法266条1項5号にいう法令違反の行為があったとす
べきものではない。
このように,銀行の取締役は,銀行の業務執行に関し,銀行法が宣言的
に定める信用の維持,預金者等の保護,銀行業務の健全かつ適切な運営,
国民経済の健全な発展に資することといった銀行の負う責務を果たすこと
が求められているのであるから,その職務を行うに当たっては,このよう
な銀行の責務に反することのないように務めることがその職責上要請され
ており(銀行法が銀行の取締役について兼職や信用供与を制限している趣
旨も(7条,14条),同様の理由に基づくものと解される。),こうし
た観点に立つ限り,他の一般の株式会社における取締役の負う注意義務よ
りも厳格な注意義務を負い,あるいは経営判断における裁量が限定される
ような場合も生じることが予想されるが,それは,銀行の取締役の委任さ
れた事柄の性質に由来するものなのであって,銀行の取締役について,そ
の業務と関わりなく,特別な取扱いをすべきものとすることの結果なので
はない。
原告のこの点に関する主張は,以上の限度で採用することができる。
(2) 取締役は,取締役会の構成員として,取締役会を通じて会社の業務執
行を決し,取締役の職務の執行を監督することとされているが(商法26
0条1項),このことは,取締役が取締役会を離れてその職務を行うこと
が許されないとか,取締役会における職務の執行以外の場面で,会社の業
務に属する職務を行うに当たり,取締役としての善管注意義務及び忠実義
務を負わないということを意味するものではない。すなわち,取締役は,
取締役会から委任された事項を行うに当たっては,当然その善管注意義務
及び忠実義務に沿った職務を執行する義務があるし,また,その職務執行
の過程で,代表取締役が委任された権限を濫用して会社の業務を執行し,
あるいはしようとしていることを知ったときには,直ちに代表取締役にそ
の職務の執行を取りやめるよう求め,これを受け容れられない場合には取
締役会の招集を求めるなどの措置を講ずべきであり,これらを懈怠した場
合には,その善管注意義務及び忠実義務に反したものと評価すべきであ
る。
  本件においては,被告らは,拓銀の投融資会議の構成員として,その職
務を行うに当たってした行為について,取締役としての注意義務違反が問
われている。証拠(甲3の1,乙ロ8の1,2,乙ロ27,28,被告E
本人,被告A本人)によれば,拓銀の投融資会議は,昭和59年,取締役
会規程9条に基づき設置された常務会の決議により設置された拓銀の内部
機関であり,いずれも取締役である頭取,副頭取及び担当本部長をもって
構成員とし,本部長の権限を超える案件を決定するための機関と定められ
ていることが認められる。したがって,被告らが,投融資会議の構成員と
して行う職務については,取締役としての職務に関する行為として,善管
注意義務及び忠実義務に沿うことが要請されるものであり,これらの義務
に反する職務を行った結果,拓銀に損害を与えた場合には,取締役として
の損害賠償責任を負うことは当然のことというべきである。
(3)以上の説示に反する被告らの主張は,採用することができない。
 3 争点(3)(本件小豆融資の違法性及び関与した取締役の責任)について
  (1) 被告A,同B,同C及び同Eは,本件小豆融資について,投融資会議
の構成員として(被告Cは担当本部長として,被告Aは決裁権者である頭
取として),関与したものであるから(ただし,被告C以外は,別紙小豆
融資一覧表の番号6ないし8のみ。),まず,投融資会議における協議の
実情について検討する。
    前記前提となる事実(6)ア及びイのとおり,投融資会議は,担当本部長
の権限を超える案件(平成8年以前である本件小豆融資及び本件乾繭融資
の行われた当時においては,一般取引先授信権限区分によれば,同一人に
対する諸貸出共通限度額が30億円を超えるもので,本来,権限規程によ
れば,頭取,副頭取及び担当本部長の合議により決するものとされてい
る。)を決定するための機関であるところ,証拠(甲3の1,3の2の
1,2,甲19の1,乙ロ8の2,証人H,証人J,被告A本人)及び弁
論の全趣旨によれば,投融資会議においては,担当本部長が付議し,構成
員の協議を経て頭取が決定することとされ,規程上は毎週1回定例的に開
催されることとなっているが,通常の案件は書類の持ち回り協議で行うも
のとされ,実際の運用も持ち回り協議がほとんどであったこと,決定の方
法は担当本部長が付議し,構成員の協議を経て頭取が決定することとされ
ていること,持ち回り協議においては,投融資会議構成員に対し,「諸貸
出申請書」と題する書類が送付されるところ,その書類中には,申請され
ている融資の内容が詳細に記載され,必要な資料が添付され,その融資に
ついての担当支店と業務本部の審査役の意見が付されていること,投融資
会議に付議される案件については,他の案件と同様に事前に審査役が審査
を行っており,審査役の段階で承認すべきではないと判断される案件が投
融資会議に付議されることはなく,また,投融資会議に付議される案件
は,事前に審査役と担当本部長との協議等による根回しが行われることも
あって,不承認とされたことはなかったこと,投融資会議の持ち回り協議
は,その構成員が諸貸出申請書に押印をすることによって行うこととされ
ており,札幌在住の構成員から東京在住の構成員に順次送られ,決裁の順
序は,他の構成員の押印が揃ってから頭取が決裁印を押捺することが例で
あり,また,拓銀の業務統括部が昭和61年に作成した融資マニュアルに
よれば,投融資会議付議案件の申請は11日前(ダブルチェック案件は更
に十分な余裕をみる。)必着と定められているが,実際の申請は遅れる場
合も少なくなく,特に急を要する場合や構成員の一部が出張中で融資予定
時期までに帰朝しないような場合等には,頭取の決裁がおりた後に,追認
の扱いで事後承認がされることもあったこと,なお,拓銀の融資案件につ
いて一定の金額以上の案件については,リスク管理のため,ダブルチェッ
クと称して,融資部(事業調査室)が事前に申請書を検討して,その意見
を付すこととなっていたが,リスクのないことが明白な場合には,担当本
部長限りの判断によりこれを省略することができることとされていたこと
が認められる。
  (2) 次に,拓銀のミヤシタに対する融資経過について検討する。
    証拠(甲10,20,21,41,46,55ないし66,67の1,
2,甲69,75の1ないし3,甲76ないし80,乙ロ15)によれ
ば,以下の事実が認められる。
ア ミヤシタは,内装,看板工事を主たる業務として,帯広市に本店を置
く会社であるが,大手スーパー長崎屋の内装工事指定業者として,北海
道東北地区における長崎屋とその関連会社の内装工事のほとんどを受注
し,平成元年以降は年商12億円ないし14億円を挙げていた。
イ 拓銀は,昭和44年ころから,MのL社長の紹介で,ミヤシタとの取
引を開始したが,K社長の人柄や言動から,昭和52年の時点で既に要
注意先とし,以後,総じて消極的方針を堅持してきたものである。
  例えば,ミヤシタは,昭和52年3月,拓銀に対し,手形割引資金と
して2億円の融資を求めたところ,帯広支店では,ミヤシタとの取引開
始がMのL社長の紹介によるものであるため,従来の取引ぶり,業態及
び同業者の風評から,基本的には消極方針の取引先であることを挙げつ
つ,融資の追認を求めた。その短期諸貸出申請書によると,帯広支店と
しては,このような取扱いは今回限りとするとの意向を示し,本部も,
要望事項として,以後の授信は消極とすることを挙げている。この融資
の申請書には,当時審査第一部長であった被告Eが押印をし,当時担当
専務取締役であった被告Aも押印をしている。ミヤシタに対する消極方
針は,その後の短期諸貸出申請書にも常に明記されており,昭和55年
11月まで,審査第一部長であった被告Eが押印をしている。
  また,K社長は,昭和54年3月,拓銀に求めた融資を帯広支店長か
ら謝絶されたことから,当時副頭取であった被告Aにまで電話をかけ,
結局,当時審査第一部長であった被告EがK社長に電話をかけて事を納
めるという騒動があった。
  さらに,ミヤシタは,昭和54年7月,北洋銀行が貸出利率を下げた
ことを理由に拓銀も同様に利率を下げるべきであると申し入れてきた。
その際の拓銀の諸貸出利率変更申請書(追認扱い)には,本部記入欄
に,「極めて不本意であるが,社長は筋論の通らぬ人物で無用のトラブ
ルを回避するためやむを得ず応諾」と記載され,当時審査第1部長であ
った被告Eが押印をしている。昭和55年9月にも同様の理由により利
率の引下げを求められたのに対し,本部では,引下げの範囲を縮減して
承認したことがあり,その当時の審査第一部長の被告Eが申請書に押印
をしている。
  加えて,昭和51年及び昭和57年に作成された短期諸貸出申請書に
も,本部記入欄として,K社長の人柄が悪く支店でも苦労している先で
あること,K社長は自称Mの「L社長の一の乾分」と称して怒鳴るゴネ
屋で有名な人物であり,役員室とも通々であるなどと記載されている。
  このように,拓銀では,K社長の悪しき人物人柄等を考慮して,ミヤ
シタとの取引を極力消極にとどめる方針を採ってきたものであり,長崎
屋関連の商業手形の割引に限定して授信残高を抑制してきた。さらに,
拓銀は,昭和62年,ミヤシタから,長崎屋の株式のいわゆる仕手戦に
絡む資金の融資を申し込まれたが,上記方針を堅持して,これを謝絶
し,その代わりに7億円(昭和63年からは9億円)の運転資金限度枠
を設けて,その範囲での融資を行うことにした。
ウ ところが,拓銀は,平成元年1月,ミヤシタに対し,上記の運転資金
限度枠外で,ミヤシタが昭和62年ころから子会社であるコウシン商事
を介して行っていた小豆取引の資金を貸し付けるようになった。これが
本件小豆融資の始まりである。
エ ミヤシタは,平成2年3月までに,コウシン商事を介して行っていた
小豆取引を手仕舞ったが,莫大な欠損を生じ,この時点で,拓銀に対し
て16億5000万円の債務が残った。
  そこで,K社長は,平成2年10月5日,被告Cを訪れ,小豆相場で
の失敗を取り戻すため,生糸の現物取引を行いたいので,その必要資金
として総額15億円の融資を依頼した。被告Cは,K社長に対し,話の
中味は分かったので,現地の支店長と良く話し合ってほしいと答え,帯
広支店に対し,直ちにその旨を伝えた。ミヤシタの構想では,平成2年
10月から平成3年春にかけて総額25億円(北洋銀行から10億円,
拓銀から15億円)で乾繭現物の相場取引を行い,60パーセントの値
上がりが見込めれば,本件小豆融資による損失のほとんどを返済するこ
とができるというものであった。この融資については,拓銀が自ら行わ
ずに,子会社のたくぎんファイナンスが取り扱うことになり,平成2年
10月23日,拓銀帯広支店からその旨の報告がされ,被告D,同C及
び同Bがその報告書に押印をしている。
  たくぎんファイナンスは,ミヤシタに対し,乾繭相場資金の融資を行
い,平成3年2月までに,総額34億円の授信をした。その後,拓銀
は,たくぎんファイナンスとの約束に従い,平成3年6月,ミヤシタに
対し,たくぎんファイナンスの融資残金24億1500万円を肩代わり
するための融資をするとともに,平成4年3月までの間,8回にわた
り,乾繭相場の資金として,総額15億2000万円の融資を実行し
た。本件乾繭融資は,その最後の3回分である。
オ ミヤシタは,平成4年4月以降,延滞となり,平成5年3月時点での
貸出残債務総額は,本件小豆融資に係る損失分の16億5000万円に
加えて,本件乾繭融資分や前記たくぎんファイナンスの肩代わり分等総
額47億円余に上り,担保にとった乾繭の倉荷証券の売却等を行って
も,なお34億円余の欠損が生ずる見通しとなった。
  (3) そこで,本件小豆融資の決裁に至るまでの審査の経緯について検討す
る。
    証拠(甲18,32,乙ロ12,証人H,証人I,被告C本人)によれ
ば,以下の事実が認められる。
   ア 拓銀業務本部第2支店部は,札幌市内の店舗以外の北海道内の店舗を
担当しており,その次長兼審査役をしていたHは,審査役として帯広地
区を担当していた。
   イ Hは,平成元年1月,ミヤシタからの融資案件が担当支店である帯広
支店から審査部に上がってくる直前のころ,業務本部第2支店部長であ
ったIとともに,担当本部長であった被告Cから呼出しを受け,帯広に
ミヤシタという取引先があって,支店長が頑張っており,今回,小豆資
金について融資案件があるので良く検討してほしいという話があった。
Hは,このように個別の新規案件で事前に上司から話があるのは初めて
のことであり,また,ミヤシタの案件を扱うのは初めてのことであった
が,かねてK社長の悪評と拓銀としての消極方針を聞いていたので,担
当の帯広支店がなぜミヤシタとの取引に積極的になったのか疑問に感じ
た。
   ウ Hは,小豆相場資金の案件を扱うのも初めてのことであったので,前
後して帯広支店から上がってきた融資案件について,早速商品取引その
ものの仕組から調査を行った。Hとしては,相場に絡む案件で,資金使
途が問題であるし,保全面でも担保のほとんどが規程外の添担保(拓銀
の貸出業務取扱規程155条によれば,授信権限上無担保として扱う
が,審査及び決裁において,実質的な価値を参酌するとされている。)
である商品の倉荷証券であることから,問題の多い案件と感じたが,当
時の業容拡大の傾向や,被告Cから事前の話があったことから,上司の
政策的判断による融資と受け止め,形式的に保全の措置が講じられるよ
うに申請書をまとめていった。
     拓銀に長く勤務しその頭取まで務めた被告Aは,相場のある商品取引
の買付資金を貸し付けることは異例なことであり,実際上相場資金の貸
付けが行われたことはなく,単純な投機を目的とした完全な相場資金で
あれば,決裁をしなかったと思われる旨供述している。
   エ 本件小豆融資のうち,別紙小豆融資一覧表の番号1ないし4の融資案
件は,審査手続の過程でダブルチェックが省略されているが,これは,
主として,新規案件としては異例なほど融資申請から実行までの日程が
短期間であったことに加え,ダブルチェックによる融資部の審査が行わ
れても,必要となる追加資料をミヤシタの側から提供を受けることを期
待することができない状況にあったためである。
   オ 担保にとる倉荷証券は,拓銀が提携する倉庫業者以外の倉庫業者の倉
庫に保管された商品に係るものであり,その枚数が膨大で,逐一裏書を
受けることが事務作業として大変であり,その時点ではミヤシタ側の協
力も容易には得難いことから,倉荷証券への裏書を留保してこれを預か
ることにとどめ,必要となったときには,いつでも裏書に協力するとの
念書をミヤシタ及び担保提供者となるコウシン商事から差し入れさせる
こととして,規程に定める倉庫業者への通知と承諾書の徴求も免除して
添担保の扱いとしたものである。
   カ 本店融資部(事業調査部)は,平成元年2月,このような巨額の融資
についてダブルチェックを省略することに疑問を呈し,早急に改善する
よう求める意見書を作成している。
(4)次に,本件小豆融資の決裁状況について検討する。
    後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。
   ア 別紙小豆融資一覧表の番号1及び2記載の融資について
    (ア) この融資に係る諸貸出申請書(申請日平成元年1月20日,本部
起案日同月28日,決定通知書同年2月3日)をみると,限度額又は
金額として5億円,実行予定日として平成元年1月23日以降,最終
期限として同年4月25日,期間として93日,使途・貸出条件とし
て,①資金使途は,コウシン商事の北海道産磨小豆買付資金への転貸
資金6億4300万円に充当すること,②限度外扱いとすること,③
保証人の保証限度を14億円に引き上げること,④証書(ユーロ円
口)は,ロンドン支店,香港支店又はシンガポール支店を勘定店とす
る本部指示取引とすること,⑤担保条件として,北海道産磨小豆30
キログラム詰め80袋の倉荷証券234枚(時価2億6808万円,
実担価格2億1446万4000円)及び融資対象の倉荷証券である
北海道産磨小豆30キログラム詰め80袋の倉荷証券554枚(時価
6億3102万5000円,実担価格5億0481万7000円)を
担保取得すること等が記載され,担保条件補記として,倉荷証券の担
保取得方法は,倉荷証券への担保提供者であるコウシン商事の裏書を
留保扱いとして,別途念書を申し受け,規程に定める拓銀の契約倉庫
会社以外の倉庫会社の発行した倉荷証券を担保取得することを認め,
規程に定める担保取得についても倉庫会社宛て通知及び倉庫会社の承
諾申受けを免除し,担保について一部規程外扱いがあることから添担
保とすること等が記載されているほか,本件扱い後,総授信残高が1
4億円となり,本件扱い後の保全状況は,根抵当権1億4500万円
を考慮すると12億5500万円の保全不足となり,これに加えて倉
荷証券7億1900万円を考慮しても5億3600万円の保全不足と
なるが,このほかにも未登記扱いの9200万円の根抵当権が担保と
してあり,保証人のK社長(保証限度14億円)には1800万円の
預金(内定期預金が1700万円)がある旨の記載がある(甲4の
1)。
    (イ) また,上記諸貸出申請書には,起案備考として,①本件は,ミヤ
シタの関連会社であるコウシン商事宛て転貸資金であり,その資金を
もって小豆買付けをするもので,小豆については,相場商品であり,
少なからずのリスクを伴うものであり,ミヤシタの相場観は,中国小
豆の凶作や道内作付面積の減少等により相場は堅調推移と読んで買付
している模様であること,②本件扱い後の総授信額が14億円である
ところ,保全状況は,根抵当権(一部未登記を含む。)実担価格2億
3800万円(時価2億6800万円),株式実担価格2億0800
万円(時価2億5900万円),倉荷証券(添担保扱い)実担価格7
億1900万円(時価8億9900万円)の合計11億6500万円
と評価され,2億3500万円の保全不足となり,証書預りの通知預
金及び定期預金1億7400万円を考慮しても,6100万円の保全
不足となり,株式及び倉荷証券の価格変動リスクのある担保ながら,
時価ベースでは資金に見合う担保をとっていること,③既存の授信限
度額9億円(株式投資枠,一部小豆買付け)及び本件の5億円の授信
(小豆買付け)は,共に銀行融資の対象としては消極であるものの,
ⅰ資金に見合う担保を申し受けしていること,ⅱ本件5億円について
は,融資対象倉荷証券の売却により回収し,ベッタリ化しない点につ
き申入れ済みであること,ⅲ経営者であるK社長については,本件文
化ホール建設時や西帯ニュータウンへのスーパー出店時にもみられる
ように,地元での影響力,実力はかなり大きい人物であり,従来同様
「保全重視」「使途,回収財源,保全を確認しつつの是々非々」の対
応が必要であり,本件については保全より融資可と考えるという趣旨
の記載がある(甲4の1,7)。
    (ウ) さらに,上記諸貸出申請書には,営業店意見として,①本件は,
ミヤシタの関連会社であるコウシン商事が,北海道産磨小豆を購入す
るに際し,資金調達力の弱い同社に購入資金を転貸するものであるこ
と,②ミヤシタは,長崎屋系列の内装工事関係を一手に受注している
が,当期は好調な個人消費に支えられ,同社系列会社の出店,改装が
盛んであったことで,大幅増収となっており,2月決算時点では,売
上高1億2000万円,経常利益1500万円を見込んでいること,
③来期に向けても順調に受注が入っており,3ないし5月で5億50
00万円の工事の受注があること,④保全不足が大きいが,業況好調
であり,購入物件の売却も確定していることから,回収財源は確保さ
れること等の記載がある(甲4の3)。
    (エ) 上記諸貸出申請書に添付されて被告Cに回付された資料の中に
は,ミヤシタの取引現況表があり,ミヤシタの業種が建設業で,主扱
品が室内装飾,ディスプレイであり,昭和63年3月決算期の売上高
が8億3100万円,経常利益が1000万円であることが記載され
ているほか(甲4の2,証人H),ミヤシタ関連預金明細と題する書
面があり,これには,保全額は,証書預りの通知預金及び定期預金合
計1億7383万7000円,根抵当権1億4578万4000円,
未登記扱根抵当権9261万2000円,倉荷証券(既存分234
枚)2億1446万4000円,倉荷証券(予定分554枚)5億0
481万7000円及び有価証券2億0740万6000円,合計1
3億3892万円であり,総授信額14億円に対して6108万円の
不足となる旨の記載がある(甲4の9)。
(オ) 上記申請書には,本件につきダブルチェック案件であるが,省略
協議済みと記載され,担当本部長決裁として,被告Cが押印をしてい
る。
   イ 別紙小豆融資一覧表の番号3及び4記載の融資について
    (ア) この融資に係る諸貸出申請書(申請日平成元年2月1日,本部起
案日同月2日,決定通知書同月9日)には,限度額又は金額として,
それぞれ3億5000万円及び2億円,実行予定日としてそれぞれ平
成元年2月2日及び同月6日,最終期限としていずれも同年5月31
日,期間としてそれぞれ119日,115日,使途・貸出条件とし
て,①コウシン商事への転貸資金であること,②限度外扱いとするこ
と,③保証人の保証限度を19億5000万円に引き上げること,④
証書(ユーロ円口)は,ロンドン支店,香港支店又はシンガポール支
店を勘定店とする本部指示取引とすること,⑤担保条件として,北海
道産磨小豆30キログラム詰め80袋の倉荷証券1123枚(時価1
2億9895万6000円,実担価格10億3916万4000
円),昭和63年産の中華人民共和国産天津赤小豆60キログラム詰
め40袋の倉荷証券127枚(時価1億0186万円,実担価格81
48万8000円)及び昭和63年産の中華人民共和国産東北赤小豆
60キログラム詰め40袋の倉荷証券77枚(時価4620万円,実
担価格3696万円)を担保取得することが記載され,担保条件補記
として前記ア(ア)と同様の記載がされている。本件扱い後,総授信残
高が19億5000万円となり,本件扱い後の保全状況は,根抵当権
1億4500万円を考慮すると,18億0500万円の保全不足とな
るが,このほかにも未登記扱いの9200万円の根抵当権,18億7
600万円の倉荷証券が担保としてあり,保証人のK社長(保証限度
額19億5000万円)には1800万円の預金(内定期預金は17
00万円)がある旨の記載があり,さらに,営業店意見として,①ミ
ヤシタの子会社であるコウシン商事の小豆買付資金として本件申込み
となったこと,②保全は,1月納会で現物受けした小豆の倉荷証券計
1327枚を添担保として申し受けすること,③コウシン商事では,
専任のディーラーを設けて手広く商いを行っており,12月末の中間
見通しでは,5ないし6億円の利益を上げていること,④添担保扱い
ではあるが,相応の保全がとれることから,採り上げたいことが,起
案備考として,①コウシン商事の小豆買付資金であり,本件扱い後,
小豆資金の累計が10億5000万円になること,②本件の倉荷証券
の時価が14億4700万円で,実担価格が11億5700万円であ
ること,③保全より融資可と考えること等がそれぞれ記載されている
(甲5の1,4)。
    (イ) 上記諸貸出申請書に添付されて被告Cに回付された資料の中に
は,主扱品を除き,上記ア(エ)と同旨の記載のあるミヤシタの取引現
況表があるほか(甲5の3),ミヤシタ保全状況と題する書面があ
り,これには,保全額は,通知預金及び定期預金合計1億7383万
7000円,根抵当権1億4578万4000円,未登記扱い根抵当
権9261万2000円,倉荷証券(既存分788枚)7億1928
万1000円,倉荷証券(今回分1327枚)11億5761万20
00円及び有価証券2億0740万6000円,合計23億2269
万5000円であり,総授信額19億5000万円を5億4653万
2000円上回ることとなる旨の記載がある(甲5の7)。
(ウ) 上記申請書には,担当本部長決裁として,被告Cが押印をしてい
る。
   ウ 別紙小豆融資一覧表5ないし7記載の融資について
    (ア) この融資に係る諸貸出申請書(申請日平成元年2月2日,本部起
案日同月6日,決定通知書同月13日)には,限度額又は金額として
それぞれ4億円を3口,実行予定日としてそれぞれ平成元年2月6
日,同月9日,同月14日,最終期限としていずれも同年5月31
日,期間としてそれぞれ115日,112日,107日,使途・貸出
条件として,①コウシン商事への転貸資金であること,②限度外扱い
とすること,③保証人の保証限度を31億5000万円に引き上げる
こと,④証書(ユーロ円口)は,ロンドン支店,香港支店又はシンガ
ポール支店を勘定店とする本部指示取引とすること,⑤担保条件とし
て,今回コウシン商事が現受けした小豆倉荷証券1111枚のうち7
00枚(推定時価7億5600万円,実担価格6億0400万円。)
を添担保として申し受けし,残りの411枚は後日申受け予定である
ことが記載され,担保条件補記として,前記ア(ア)と同様の記載がさ
れているほか,本件扱い後,総授信残高が31億5000万円とな
り,本件扱い後の保全状況は,根抵当権1億4500万円を考慮する
と30億0500万円の保全不足となるが,このほかにも,未登記扱
いの9200万円の根抵当権,24億8100万円の倉荷証券があ
り,保証人のK社長(保証限度31億5000万円)には1800万
円の預金(内定期預金は1700万円)がある旨の記載があり,さら
に,営業店意見として,ⅰコウシン商事の小豆買付資金への転貸資金
としての申込みであり,同社では,従来2222枚の倉荷証券を保有
していたが(内拓銀入担2115枚),今回の現受けにより,保有倉
荷証券は3333枚になったこと,ⅱ1月末時点でのミヤシタからコ
ウシン商事への短期貸付金は36億円で,拓銀と株式会社北洋銀行か
らの借入金は26億円(商業手形を除く。)であるから,差額の10
億円については別途調達している模様であり,小豆買付資金としての
貸付けは29億2000万円で,大半は先物市場で運用されているこ
と,ⅲコウシン商事では7月末で手仕舞う予定であるが,5ないし6
月から売り始める意向であるので,本件の最終期日はとりあえず5月
31日とすること,ⅳ市況は上昇気運にあり,回収財源が明確なこと
から採り上げたいことが記載されている(甲6の1,5)。
    (イ) 上記諸貸出申請書には,起案備考として,①ミヤシタ及びK社長
については長崎屋と太いパイプがあり,ミヤシタが,長崎屋及びその
系列会社の内装工事関係を一手に受注し,K社長が,長崎屋持株会の
理事長を務めていること,②K社長が代表取締役を務めるサンランド
開発が,帯広市民文化ホールのオーナーとなり,それを帯広市に賃貸
していたり,西帯ニュータウンへのスーパー出店をめぐって地元企業
グループと長崎屋系列のサンドールが競合し,結果的にサンドールの
出店が決まったが,この背後にK社長の影響があったとされているな
ど,ミヤシタ及びK社長は地元で大きな影響力を有していること,③
ミヤシタの系列会社には,不動産賃貸,管理業を行う株式会社ノアビ
ルディング及びサンランド開発並びに穀物取扱いの仲介業のほか商品
相場の取扱いを行うコウシン商事があること,④従前の小豆資金融資
の経緯について,コウシン商事への転貸資金として,平成元年1月2
0日付けで5億円の証書貸付け,同月26日付けで5000万円の手
形貸付け,同年2月1日付けで5億5000万円の証書貸付けが申請
され,実行されてきたこと,⑤倉荷証券担保について,拓銀の規程で
は正式担保としているが,本件では,倉荷証券への裏書を留保扱いと
して念書を申し受け,拓銀契約倉庫以外の発行した倉荷証券を担保取
得することを認め,拓銀担保取得についての倉庫会社宛て通知及び倉
庫会社の承諾申受けを免除するという規程外扱いがあるため,添担保
としているが,法律上は,譲渡担保として占有が第三者対抗要件であ
り,実際上も出庫には倉荷証券の呈示が必要なことから,担保として
の効力は見込めるものの,担保価値については,価格変動リスクのあ
る担保であり,安全性に若干欠けること,⑥本件扱い後の保全バラン
スについて,ミヤシタに対する融資のみについてみると,総授信額3
1億5000万円となるところ,正式担保は根抵当権1億4500万
円で,30億0500万円の保全不足となるが,これに添担保(未登
記扱いの根抵当権9200万円,倉荷証券24億8100万円,株式
2億0700万円。)を含めて考慮すると,保全額合計は29億25
00万円となり,2億2500万円の保全不足となり,さらに,時価
ベースで考えると,根抵当権1億6700万円,未登記扱根抵当権9
200万円,倉荷証券31億0200万円,株式2億9800万円,
合計36億5900万円となり,保全額が総授信額を5億0900万
円上回ること,⑦本件は,保全面については,倉荷証券を担保に申し
受けることにより,裏付けはほぼ確保されていること,小豆相場の動
向については,現時点で確固とした判断はできかねるが,過去の推移
をみても,1袋の平均単価は1万3000円ないし1万4000円台
で底堅い動きを示していること,季節的には5ないし6月がピークと
なり,本年もある程度の高値が予想されることから,懸念は少ないと
考えられること,借主は,7月に手仕舞う予定であり,比較的短期の
取引であり,ベッタリ化しないこと,借主グループの資産状況からみ
て,万一損失が発生しても,補填については懸念ないものと判断され
ること,少なくとも,借主は従来拓銀に対して不義理はなかったこと
から,資金使途等若干問題はあるものの,採上げ可と考えること,⑧
今後の対応方針について,借主から,今後の相場動向によっては,更
に3ないし5億円程度の追加融資が発生する旨申入れがあるが,拓銀
としては,保全重視,かつ,使途,回収財源を確認しつつ,是々非々
の対応で臨むこと等が記載されている(甲6の2)。
    (ウ) 上記諸貸出申請書の添付書類の中には,十勝産の小豆の現物取引
の相場表があり,これによれば,昭和61年の相場は,1袋(30キ
ログラム)当たり,高値が1万2000円(1月)から1万6800
円(8月)までの間で,低値が1万1400円(1月)から1万53
00円(9月)までの間で,平均値が1万1680円(1月)から1
万5990円(9月)までの間でそれぞれ推移し,昭和62年の相場
は,1袋(30キログラム)当たり,高値が1万3600円(1月)
から1万5100円(11月)までの間で,低値が1万3000円
(1月)から1万4400円(12月)までの間で,平均値が1万3
430円(8月)から1万4620円(12月)までの間でそれぞれ
推移し,昭和63年の相場は,1袋(30キログラム)当たり,高値
が1万4200円(12月)から1万7600円(5月)までの間
で,低値が1万3800円(11月及び12月)から1万6800円
(5月)までの間で,平均値が1万4030円(12月)から1万7
240円(5月)までの間でそれぞれ推移していたことが分かる。ま
た,上記添付書類には,北海道穀物商品取引所における先物取引約定
値段(平均値)の表があり,これによれば,昭和63年5月限月分か
ら平成元年7月限月分までの先物取引相場は,1袋当たり1万264
0円から1万5580円までの間で推移していたことが分かる。上記
添付書類の中には,小豆の年間国内消費量が150万俵ないし160
万俵である旨の記載もある(甲6の2)。
    (エ) 上記諸貸出申請書の添付資料の中には,上記ア(エ)記載のミヤシ
タの取引現況表がある(甲6の3)ほか,ミヤシタ保全状況と題する
書面があり,これには,保全額は,通知預金及び定期預金合計1億7
383万7000円,根抵当権1億4578万4000円,未登記扱
根抵当権9261万2000円,倉荷証券(既存分2115枚)18
億7689万3000円,倉荷証券(2月8日予定分約700枚)約
6億0400万円,倉荷証券(2月8日以降予定分約411枚)約3
億5500万円及び有価証券2億0740万6000円,合計34億
5553万2000円であり,総授信額31億5000万円を3億0
553万2000円上回る旨の記載がある(甲6の7)。
(オ) 上記申請書には,一部追認扱いとの記載があり,担当本部長であ
る被告C,副頭取である被告B及び被告E並びに頭取である被告Aが
それぞれ押印をしている。
   エ 別紙小豆融資一覧表の番号8記載の融資について
    (ア) この融資に係る諸貸出申請書(申請日平成元年2月20日,本部
起案日同月23日,決定通知書同年3月15日)には,限度額又は金
額として5億円,実行予定日として同年2月21日,最終期限として
同年5月31日,期間として100日,使途・貸出条件として,①コ
ウシン商事への転貸資金,②限度外扱いとすること,③保証人の保証
限度を36億5000万円に引き上げること,④証書(ユーロ円)
は,ロンドン支店,香港支店又はシンガポール支店を勘定店とする本
部指示取引とすること,⑤担保条件として,北海道産磨小豆30キロ
グラム詰め80袋の倉荷証券17枚(時価1970万円,実担価格1
576万円)及び110枚(時価1億2400万円,実担価格992
0万円)を担保取得することが記載され,担保条件補記として前記ア
(ア)と同様の記載がされているほか,本件扱い後総授信残高が36億
5000万円となり,本件扱い後の保全状況は,根抵当権1億450
0万円を考慮すると35億0500万円の保全不足となるが,このほ
かにも,未登記扱いの9200万円の根抵当権,30億4100万円
の倉荷証券が担保としてあり,保証人のK社長(保証限度36億50
00万円)には,1800万円の預金(内定期預金は1700万円)
がある旨の記載がある(甲7の1,4)。
    (イ) また,上記諸貸出申請書には,営業店の意見として,①コウシン
商事の小豆買付資金への転貸資金としての申込みで,穀物取引所の2
月納会が22日に予定されており,その決済資金として転貸するもの
であること,②ミヤシタの業況は,売上高順調に進展しており,決算
では売上高12億円,経常利益1500万円を見込んでいること,③
コウシン商事では,例年,現受けした小豆をホクレンに転売してお
り,現在のホクレンの買入価格は1万5500円前後で,ミヤシタの
平均現受価格約1万4500円を上回っているが,ミヤシタとして
は,中国産小豆不作,新天皇即位で今後一層の高値を予想しており,
5ないし6月ころまで保有の後に売却する意向であること,④相応の
保全が確保されており,引き続き支援したいことが記載されているほ
か,起案備考として,(1)コウシン商事の小豆買付資金としての申込
みであり,本件により,小豆資金としての貸出額が累計で27億50
00万円となること,(2)総授信額36億5000万円に対し,本件
扱い後のミヤシタの保全状況は,時価ベースでは,根抵当権(未登記
扱いを含む。)2億6800万円,株式2億2900万円,倉荷証券
(合計3353枚)38億円,合計42億9700万円,実担価格ベ
ースでは,根抵当権1億4500万円,未登記扱根抵当権9200万
円,株式1億8300万円,倉荷証券(合計3353枚)30億39
00万円,合計34億5900万円となること,(3)本件保全の大部
分を占める倉荷証券には,ⅰ規程に定める拓銀契約倉庫以外の倉庫の
発行する倉荷証券を担保として申し受けていること,ⅱ倉荷証券への
コウシン商事の裏書を留保していること,ⅲ倉庫会社と担保取得に関
する契約を締結しないこと,ⅳ倉荷証券の担保申受けに当たり,担保
品受入通知及び倉庫会社からの承諾書申受けを行わないこと,ⅴ商品
価格が下落した場合に追担差入れも含め,ミヤシタがそれに耐え得る
か疑問であること等の問題点を含むものであるが,法律的には,質権
又は譲渡担保の場合でも,担保差入証を徴求し,譲渡裏書を求めて引
渡しを受け,保管するのみで足り,倉庫会社への通知は要件ではない
こと,裏書について念書を申し受けていることから,有効と解される
し,経済的には,時価ベースでは保全フルカバーであるが,価格の不
安定な商品であるだけに,価格変動のリスクは避けられないものの,
過去及び現状の値動きが堅調であること,先物でなく現物を確保して
いることから,懸念が少ないと考えられること,ⅳミヤシタに対する
授信は財テクの一種であるが,商品担保申受けにより,保全が確保さ
れていること,比較的短期の貸出しであること,K社長の実力がある
ことから,採上げ可としたい旨の記載がある(甲7の2)。
    (ウ) 上記諸貸出申請書の添付資料の中には,前記ア(エ)と同旨の記載
のあるミヤシタの取引現況表があるほか(甲7の3),ミヤシタ保全
状況と題する書面があり,これには,保全額は,通知預金及び定期預
金合計1億7383万7000円,根抵当権1億4578万4000
円,未登記扱根抵当権9261万2000円,倉荷証券(既存分32
26枚)29億2674万9000円,倉荷証券(新規127枚)1
1億4960万円,及び株式1億8487万9000円,合計36億
3882万1000円であり,総授信額36億5000万円に対して
1117万9000円の不足となるが,株式売却代金5400万円が
流動性預金に滞留しており,3月6日期日の手形貸付け5000万円
の返済に充当する予定であるので,実際は+3882万1000円と
なる旨の記載がある(甲7の6)。
    (エ) 上記申請書には,担当本部長である被告C,副頭取である被告B
及び被告E並びに頭取である被告Aの各押印がある。
  (5) 次に,銀行の融資に関与する取締役の注意義務について検討する。
    銀行は,大衆から広く預金を受け入れ,これを原資として,企業や個人
等に対して必要な資金を供給するというわが国の経済活動の中枢を占める
資金仲介機能を有することから,銀行法を始めとするさまざまな規制を受
け,内閣総理大臣(平成元年当時は大蔵大臣)の免許を受けなければこれ
を営むことができないものとされている。したがって,銀行が,その業務
として融資を行うに当たっては,株式会社としての営利性の観点に立って
利潤の追求を図ることは当然のことではあるけれども,他方で,大衆から
受け入れた莫大な資金を背景に免許を受けて貸付業を行うという側面から
は,その業務内容そのもののほか,その業容や業績も公共の利害に深く関
わっているというべきであり,このためその健全かつ適正な業務の運営が
求められる結果,一般の企業と比べて安全性や確実性の要請が一層強く働
くことは否めないところであるし,また,銀行業の免許を受けたわが国の
代表的な金融業者としては,広く国民経済の健全な発展に寄与することが
期待されているものということができる。特に全国規模でその営業活動を
行っている都市銀行においては,そのような期待が一層強く寄せられてお
り,銀行の側でもそのような期待に応えるべく,業務の健全性と信用の維
持に務めてきたところと考えられる。そして,そのような役割が期待され
る銀行の取締役としては,当然,委任者である銀行が受けるそのような期
待に応えるべく,その職務を行うことが求められていることはいうまでも
ない。
    もとより,株式会社の取締役は,経営の専門家として会社の経営を委任
されている者であるから,その任務を遂行するため,専門的な知識と経験
に基づき,合目的的で総合的,政策的な判断をすることが常に求められて
いるのであって,その判断が広範な裁量に委ねられていることはいうまで
もない。したがって,銀行の取締役が決裁した融資が,結果的に回収不能
となり,銀行に損害をもたらしたとしても,それだけで直ちに取締役に善
管注意義務違反ないし忠実義務違反があったということはできない。取締
役の広範な裁量に照らせば,融資の時点における判断として,例えば,融
資の相手方の信頼性や将来性が高く,また,融資対象である事業や設備投
資の社会的有用性あるいは将来性が肯定されるといった場合には,将来の
回収可能性に不安が残り,融資時点においては確実な担保を徴することが
できないときでも,広く産業を保護育成するという観点から,当該企業の
将来性への投資という趣旨で,融資に踏み切ることも,その裁量の範囲内
にある相当な判断ということができる場合が多いと思われる。他方,この
ような場合には当たらず,融資金の使途が本業外に関わるいわゆる財テク
であって,社会的に有用な産業の保護育成に資することにもつながらず,
しかも,本業での利益をもって回収に充てることができず,かつ,類型的
に回収不能の危険性が少なくないと容易に予想することができるにもかか
わらず,十分な担保を取ることなく融資を実行し,あるいはこれを知りな
がら放置するというようなことは,その裁量を逸脱した判断として,善管
注意義務違反ないし忠実義務違反に当たるというべきである。
    証拠(甲109の1,2)によれば,拓銀においては,平成2年4月2
4日付けで,従前の通牒を統合した「貸出運営上の留意点」と題する書面
が作成されているところ,その内容に照らすと,その当時の拓銀における
融資の基本的な姿勢を示すものと考えられる。この書面によれば,授信管
理上の留意点として,借入申込みを受けたときは,貸出先の外見だけにと
らわれず貸出先の信用力や将来性の調査の結果に基づき,企業内容,事業
計画,資金使途,回収財源,商業手形の成因調査等に基づく判断を優先さ
せ,担保や保証は補完的な判断材料とすることをもって基本姿勢とし,回
収財源,返済能力の検討については,貸出金は貸出先から約束どおりに約
定利息を含めて全額回収するものであり,運転資金は売上代金によって,
設備資金は内部留保(純利益+減価償却等-配当・役員賞与等)によって
回収することが基本であるとし,財テク,為替投機については,時として
企業の死命を制するので,その規模が会社の体力を超えたものでないか,
潜在的な損失を内包していないかなど十分な注意を払って調査をすべきで
あるとされている。拓銀に長年勤務し,融資の審査を行ってきた関係者
も,融資は総合判断であり,融資先の人物の評価が重要であることを一致
して供述している(証人J,被告A本人)。
  (6) 以上の認定判断に基づき,本件小豆融資に関係する被告らの責任につ
いて検討する。
   ア 本件小豆融資の資金使途は,いずれもミヤシタの子会社であるコウシ
ン商事の小豆買付資金への転貸資金であるところ,小豆は古くから投機
性の高い相場商品として知られており,本件小豆融資の各諸貸出申請書
からもその点を読み取ることができる。また,上記諸貸出申請書に添付
されているミヤシタの取引現況表には,ミヤシタの業種が建設業であ
り,主扱品が室内装飾,ディスプレイであることが明記されているか
ら,ミヤシタがコウシン商事を通じて行おうとしていた小豆買付けが,
事業資金とか設備資金といった本来の業務に関わる使途なのではなく,
小豆相場の変動を利用して,小豆を安価で買い付け,将来高値で転売し
て差額を利得するという意味での投機購買であることは明らかであっ
た。また,上記取引現況表をみれば,ミヤシタが当時,売上高8億31
00万円,経常利益1000万円の規模の会社であったことは明らかで
あったところ,ミヤシタに対しては,既に,融資枠として9億円の貸付
けがありその使途も株式の購入と小豆資金に使用されているという状況
のもとで,当初の5億円の融資(別紙小豆融資一覧表1及び2の融資)
を行う時点ですら,既にミヤシタの年間売上高の半年分以上の,また,
経常利益の50年分にも上る資金を,本業に関わりのない相場の投機資
金として新たに融資しようとするものであり,その後の融資は,更にそ
の融資金額を増大させていくもので,結局,本件小豆融資の額は,わず
か1か月の間に,年間売上高の3倍以上,年間経常利益の実に275年
分に当たる総額27億5000万円にも上る莫大な金額にまで達した。
     このように,本件小豆融資は,ミヤシタに対し,その年商及び経常利
益をはるかに超える金融上の授信を行おうとするものであることに加
え,目的となる小豆の相場の変動により,類型的に回収不能となる危険
性の少なくない使途に係るものであることが明らかであったというべき
であるから,融資を承認することは,十分な保全措置がない限り,取締
役としての善管注意義務に抵触する行為であるというべきである。
   イ そこで,その保全状況をみると,当初の5億円の融資(別紙小豆融資
一覧表1及び2の融資)については,既存の貸付分と併せて14億円の
融資となる担保が13億3900万円とされ,そのうち7億1900万
円分がミヤシタの買い付けた小豆の倉荷証券を担保とするものであり,
この新たな5億円の貸付けに伴い追加取得した担保はすべて小豆の倉荷
証券であった(K社長の個人保証の増額については,それに見合う裏付
があると認め得る証拠はない。)。しかも,その際に担保として差し入
れる倉荷証券は,554枚で,既存分を併せると788枚(1枚当たり
2400キログラムなので,1891.2トン)にも上るところ,諸貸
出申請書によると,当時の小豆の国内消費量が年間150ないし160
万俵,すなわち1俵当たり60キログラムで計算すると9万ないし9万
6000トンであったというのであるから,それを融資期間の3か月以
内に売却処分するとすると,国内消費量の約8パーセント(1,891.2
÷(90,000÷12×3))の小豆を市場に売りに出す計算となる。その後の
融資は更に多くの小豆の倉荷証券のみを担保として受け入れるものであ
って,本件小豆融資により,拓銀が担保として取得した倉荷証券の数量
は,最大で3353枚,8047.2トンの小豆にも相当し,最終融資
分の融資期間である約4か月間にこれをすべて売却処分すると考える
と,国内消費量の約4分の1の小豆を市場に売りに出す計算とな
る(8,047.2÷(90,000÷12×4))。
     本件小豆融資は,ミヤシタの本業の資金の融資ではないから,その回
収は挙げてその買付けに係る小豆の処分に係るところ,上記のような莫
大な量に上る小豆を約定のような短期間のうちに処分するとすれば大幅
な値崩れがおこることは必至というべきである。融資金の返済は,担保
としてとる小豆を売却換価して得た利益から行うことが予定されている
わけであるが,その値下がりにより融資金の回収ができないという事態
が生じた場合には,その担保そのものも値下がりをしているため,実質
的には,担保としての機能を果たしていないというほかはないのであ
る。
また,小豆は,前記のとおり価格変動の大きい商品であり,その処分
のためには,変動する相場の状況に応じた機敏な対応が必要となるにも
かかわらず,前記のように担保に取得した小豆の倉荷証券については,
コウシン商事から念書を徴求しているとはいえ,その裏書を留保する扱
いとし,機敏な担保実行を困難とするような担保取得方法を容認してい
るのであって,後の回収作業を困難にさせる難題を残した取扱いであっ
たといわざるを得ない。
   ウ ところで,銀行法10条2項は,銀行の行うことのできる付随業務と
して,投資の目的をもってする有価証券指数等先物取引や金融先物取引
等の受託を挙げており,銀行が先物取引を行うことを禁じているわけで
はないことからして,また,銀行も営利会社であることからしても,投
機目的の相場資金を貸し付けることそのものが許されないということは
できない。
     しかし,本業でもない投機相場への資金融資は,社会的に有用な産業
の育成,あるいは国民経済への貢献といった本来都市銀行に強く期待さ
れる目的のための融資ではない以上,単なる利潤の追求という金融ビジ
ネスの観点から,銀行としての回収の安全性や確実性の要請が一層強く
働くところであり,特に本件のように経常利益を大幅に上回る金額に係
る莫大な量の相場商品の買付代金の融資にあっては,それ自体の処分動
向によってさえ買付商品の価値が大きく変動することも予想されなくは
ないのであって,その商品の担保価値を重視することはできず,それ以
外の担保が相当程度にあるため相応の保全措置が講じられていると判断
される場合に限って,融資を行うことが許されると解するのが相当であ
る。
     なお,上記の諸貸出申請書中の記載及び被告E本人の供述中には,平
成元年当時あるいはそれ以前の小豆の相場は比較的安定をしていたとの
部分があるが,本件小豆融資がされた当時のそれは,ミヤシタが買い付
けた小豆が市場に出回らない状態での市場における価格にすぎないし,
もともと相場取引自体が先行きが不透明で価格の大幅な変動を期待して
投機が行われる傾向が強いことは公知の事実というべきであるから,結
果として相場の変動が大きなものとはならなかったとしても,何ら前記
判断を左右するものではない。
エ そうすると,本件小豆融資は,いずれも,本業での利益をもって回収
に充てることができず,かつ,類型的に回収不能の危険が少なくないと
容易に予想することができるような融資であるにもかかわらず,十分な
担保を取ることなく実行されたものということができるから,これを行
うことは,取締役としての善管注意義務に反するというべきである。
  特に,被告Cは,担当本部長として,別紙小豆融資一覧表1ないし4
の融資を専決したところ,本来要求されているダブルチェックを,主と
してミヤシタが資料申受けや追加説明聴取の困難な先であるという不可
解な理由で省略してまで決裁を急いだものであるが,むしろ,ミヤシタ
の本業でもない小豆の相場資金融資という使途に鑑みれば,一層の慎重
な調査及び審査を求めるのがその職責に属することというべきであり,
仮にその供述するようにK社長の悪評を知らなかったとしても,そのよ
うな慎重な調査を命じていれば,容易に過去の消極的な融資方針が判明
し,引き続きミヤシタに対しては消極姿勢を貫くべきであることが明ら
かとなったと考えられるにもかかわらず,かえって,審査部局に圧力を
かけたと受け取られかねない軽率な行動をとって,審査を督促したもの
であるから,その責任は重大である。
  また,被告A及び被告Eは,いずれも,昭和50年代にその業務を行
う過程で,K社長の特異な言動に接し,その悪評を見聞しているのであ
るから,本件当時もその人物像を十分に知っていたか,仮に過去のこと
として忘却していたとしても,本件の融資の目的及び金額自体が異例の
内容であることに思いを致せば,融資先が過去に問題案件とされ,人物
としても信を措けないK社長の経営に係るミヤシタであることは容易に
想到することができたはずであり(そうでなければ,そのこと自体が,
その経歴に照らして職責を果たしていないと言っても過言ではな
い。),より慎重な検討を行うべきであったにもかかわらず,これを放
置して融資を実行させ,あるいはこれを放置した責任は重大である。
  被告Bがミヤシタの悪評を耳にしていたことを直接示す証拠はない
が,本件の融資の目的及び金額自体が異例の内容であることに照らせ
ば,漫然と融資を承認したことの責任は大きいというべきである。
オ なお,被告Eは,被告Eが諸貸出申請書に押印をしたのは,既に融資
のためのユーロ円の手配がされた後であり,また,頭取の決裁後であっ
たから,その時点では当該貸出しの実行を中止させることは不可能であ
ったと主張する。
  証拠(甲6の1,11,12の1ないし3,甲7の1,10,乙ロ2
4,25,被告E本人)によれば,被告Eが別紙小豆融資一覧表6ない
し8の融資に係る諸貸出申請書に押印を求められた時点では,既に融資
の原資となるユーロ円の手配がされていて,その時点ではこれを撤回修
正することは拓銀の国際金融社会における信用を悪化させるため事実上
不可能な状態であり,また,被告Eが出張中であったことから,既に頭
取である被告Aの決裁が終わっていたことが認められるが,それらの融
資を行うべきものではないことは上記のとおりであるから,被告Eは,
上記融資に係る諸貸出申請書を見た時には,取締役として,代表取締役
に対し,上記のような融資の問題点を指摘して,これを速やかに終了さ
せるべく,早期の全額回収を指示させるなり,期限到来の際には必ず回
収の措置を講じるように指示手配することを求めるべきであったと考え
られるのに,何らの措置を執ることなく漫然と事後承認の押印をしてこ
れを放置したのであるから,取締役としての善管注意義務違反の責めを
免れることはできない。
  (7) 以上によれば,被告Cは,本件小豆融資の全部を,また,被告A,同
B及び同Eは,別紙小豆融資一覧表の6ないし8を,それぞれ決裁し,あ
るいはこれを認め,あるいはこれを漫然放置して,取締役としての善管注
意義務に違反したものというべきであるから,その各関与に係る融資によ
って,拓銀が被った損害を(別紙小豆融資一覧表6ないし8記載の融資に
ついては連帯して)賠償すべき責任を免れない。
 4 争点(4)(本件乾繭融資の違法性及び関与した取締役の責任)について
  (1) 本件乾繭融資の決裁状況について,後掲各証拠によれば,以下の事実
が認められる。
   ア(ア) 別紙乾繭融資一覧表の番号1及び2記載の融資に係る諸貸出申請
書には,限度額又は金額として2億5000万円,実行予定日として
平成4年2月19日以降,最終期限及び期間として実行後1か月内,
使途・貸出条件として,①コウシン商事への転貸資金であること,②
貸出金額内の分割貸出しを認めること,③担保として不動産添担保
(賃貸建物)を取得し,登記留保条項付扱いとすること,営業店意見
として,ⅰコウシン商事への転貸資金申込みであること,ⅱ乾繭相場
維持のため現物買付けをするものであること,ⅲ今回については,積
増しではないため,乾繭証券現物が入ってくる予定(予定枚数333
枚)であること,ⅳ乾繭相場については,今年になり,依然1キログ
ラム3000円前後で変化のないこと,ⅴ今後現物での買取りを進
め,証券を確保し,本年6ないし7月までには投資を手仕舞いとする
予定であること,ⅵ本件支援に当たり,本件文化ホール(建物のみ)
を添担保として申し受けておくもので,今回の乾繭の証券と合わせ,
保全をとるものであること,ⅶ極力今回をピークと考え,ミヤシタに
念達し,早期売却を促すとともに回収を図ることが記載されているほ
か,本件扱い後,総授信残高が54億6000万円となり,本件扱い
後の保全状況は,根抵当権1億8400万円及び有価証券8100万
円を考慮すると51億9500万円の保全不足となり,これに加えて
乾繭倉荷証券(添担保)23億4100万円を考慮しても28億54
00万円の保全不足となる旨の記載がある。そして,上記諸貸出申請
書の表紙には,融資の相手方が要注意先である指定管理先(信用リス
クが顕在化する懸念のある先,業況不透明先で所管部が指定した先)
であることを示す記載がある(甲8の1の1,2,甲44の1,証人
J)。
    (イ) また,上記諸貸出申請書には,起案備考として,①乾繭資金(増
額扱い)で,現物を買い付けるものであること,②添担保として乾繭
倉荷証券333枚(時価2億5800万円)及び本件文化ホール建物
(実担価格ゼロ)を申し受けること,③拓銀として,ミヤシタに対し
乾繭の最終手仕舞いをさせるために,本件を含む合計5億円を採上げ
とすること,④資金使途,保全面を勘案し,拓銀の支援は本件が限界
(ピーク)であること及び早期に手仕舞いして返済してもらうことを
平成4年2月28日にK社長に対して副頭取(被告C)より申入れし
て頂く予定であること,⑤ミヤシタの総借入額が,同社の年商14億
円の7.4倍に相当する104億円に上ること,⑥北洋銀行への利払
いがストップしている模様であることが記載されている(甲8の1の
1,2)。
    (ウ) 上記諸貸出申請書の添付資料の中には,ミヤシタの取引現況表が
あり,ミヤシタの業種が建設業で,主扱品が内装・室内装飾工事及び
看板工事であり,平成3年2月決算期の売上高が14億2500万
円,経常利益が1900万円であることが記載されているほか(甲8
の2),「(株)ミヤシタ乾繭倉荷受払,売買,保全状況」と題する資
料があり,別紙乾繭融資一覧表の番号1及び2記載の融資の実行後,
保全として預け入れられている乾繭倉荷証券の枚数は,3015枚
で,時価23億4100万円であるから,28億5400万円の保全
不足となる旨の記載がある(甲8の3)。
    (エ) 上記諸貸出申請書の添付資料の中には,担保品カード(不動産)
及びその付表があり,①不動産添担保として差し入れられた本件文化
ホールは,登記留保条項扱いであること,②極度額は2億5000万
円であるが,建物の時価は42億5033万7000円,40パーセ
ントの担保掛目を適用した後の担保価格は17億0013万4000
円であるところ,本件文化ホールについては,第1順位の担保権者と
して帯広市が63億4738万4000円の賃借権を有しているた
め,第2順位の拓銀が有する根抵当権の実効担保価格は0円となるこ
とが記載されている(甲8の5,6)。
(オ) 上記諸貸出申請書及びその添付資料中には,賃借権者である帯広
市が支払う賃料額の記載はない(甲8の1の1ないし8の8)。
   イ(ア) 別紙乾繭融資一覧表の番号3記載の融資に係る諸貸出申請書に
は,限度額又は金額として3億5000万円,実行予定日として平成
4年3月17日,最終期限として同年4月17日,期間として1か
月,使途・貸出条件について,①コウシン商事への転貸資金(乾繭資
金)であること,②乾繭売却によって回収すること,③添担保とし
て,本件により買い取る乾繭倉荷証券447枚を申し受けること,④
添担保として本件文化ホール(建物のみ)を申し受け,極度額3億5
000万円で登記留保条項付扱いとすること,⑤保証人をミヤシタ代
表取締役のK社長とし,一般限度44億円を9億5000万円増額し
て53億5000万円とすることが記載されており,また,営業店意
見として,ⅰコウシン商事(子会社)への転貸資金であること,ⅱ本
件は,例月の乾繭市場納会による先物決済資金であること,ⅲ買い取
った乾繭は447枚で,倉荷別に分割され,拓銀に添担保として入担
となること,ⅳ今後は,一部倉荷証券を生糸の加工業者へ回し,委託
加工して製品とすること,ⅴ乾繭を加工することにより,在庫量の減
少と乾繭の品質低下を抑え,乾繭の原価で2800円ないし3200
円を維持できること,ⅵ乾繭保有数約3200枚(1枚60キログラ
ム)からすると,キログラム当たりの平均投資額4800円で約46
億円,現在の価格に換算してキログラム当たり2800円となり,約
26億円で,損失分(含み損)約20億円程度となることが記載され
ているほか,本件扱い後,総授信残高が58億0900万円となり,
本件扱い後の保全状況は,根抵当権1億8400万円及び有価証券8
100万円を考慮すると55億4400万円の保全不足となり,これ
に加えて乾繭倉荷証券(添担保)25億9900万円を考慮しても2
9億4500万円の保全不足となる旨の記載がある。そして,上記諸
貸出申請書の表紙には,融資の相手方が要注意先である指定管理先で
あることを示す記載がある(甲9の1)。
    (イ) また,上記諸貸出申請書には,起案備考として,①乾繭資金(増
額扱い)であること,②添担保として,乾繭倉荷証券447枚(時価
約3億6600万円)及び本件文化ホール建物のみ(実担ゼロ)を申
し受けること,③資金の回収について,ミヤシタでは,今後乾繭の一
部を生糸に加工し,回収に向ける意向であるが,従来から「本件限
り」の約束の下で貸増しさせられてきた経緯にあり,今後の回収に問
題を残していること,④乾繭を生糸に加工するメリットとして,品質
保持が改善され,保管コストが軽減されることが記載されている(甲
9の1)。
    (ウ) 上記諸貸出申請書の添付資料の中には,上記ア(ウ)記載のミヤシ
タの取引現況表があるほか(甲9の2),「(株)ミヤシタ乾繭倉荷受
払,売買,保全状況」と題する資料があり,別紙乾繭融資一覧表の番
号3記載の融資の実行後,保全として預け入れられている乾繭倉荷証
券は,3174枚で,時価25億9900万円であるから,29億4
500万円の保全不足となる旨の記載がある(甲9の10)。
    (エ) 上記諸貸出申請書の添付資料の中には,補申と題する資料があ
り,乾繭を生糸にする理由として,①月数の経っている繭について
は,品質保持のため,生糸に加工することにより,キログラム当たり
の価格を維持できること,②安価で買い取った乾繭については,生糸
加工により,値を上げることができること,③乾繭の現物の在庫減ら
しができること,④乾繭にて保管する場合,倉庫料がかかり,経費が
かかるが,生糸の場合,現物ができ上がるまで加工業者預りとなり,
その間,倉庫料がかからないこと,⑤生糸として製品となった場合,
乾繭よりも保管料が極めて安く,諸経費が減少し,負担軽減となるこ
と等の記載があり,また,生糸加工による価格の増減について,①乾
繭倉荷証券1枚(300キログラム)からとれる生糸の量は,平均す
ると,その40パーセントの120キログラムであること,②生糸の
加工賃は1キログラム当たり3800円,120キログラムで45万
6000円であること,③生糸の販売価格は,1キログラム当たり1
万0700円から1万2000円,120キログラム当たり128万
4000円から144万円であること,④生糸加工をすると,乾繭1
キログラム当たり2760円から3280円の販売利益が見込めるこ
と,⑤乾繭より安定した価格で売買でき,市場面では,業者が多くな
り,流通しやすくなること,⑥ミヤシタ保有の乾繭の平均価格は,1
キログラム当たり4800円(諸経費を含む。)で,今後は諸経費部
分が減少すること等の記載があるほか,「今,蚕糸繭業界及び繭糸相
場市場が最も注目していること。」と題する添付資料には,豊橋,前
橋両指定倉庫の在庫は約4000枚あり,これは1か月の製糸使用原
料(乾繭使用量)に相当する旨の記載がある(甲9の3)。
  (2) そこで,以上の認定と前記3の認定判断に基づき,本件乾繭融資に関
係する被告らの責任について検討する。
   ア 本件乾繭融資の使途は,いずれもミヤシタの子会社であるコウシン商
事の乾繭買付資金への転貸資金であるところ,乾繭も投機性のある相場
商品として知られており,価格変動の危険の伴う商品であることは,上
記諸貸出申請書の記載からもその点を読み取ることできる。また,上記
諸貸出申請書に添付されているミヤシタの取引現況表には,ミヤシタの
業種が建設業であり,主扱品が内装・室内装飾工事及び看板工事である
ことが明記されているから,ミヤシタがコウシン商事を通じて行おうと
していた乾繭買付けが,事業資金とか設備資金といった本来の業務に関
わる使途ではなく,乾繭相場の変動を利用して,乾繭を安価で買い付
け,将来高値で転売して差額を利得するという意味での投機購買であ
り,ミヤシタの本業から離れた取引であることは明らかであった。ま
た,融資先であるミヤシタは,指定管理先とされる信用リスクが顕在化
する懸念のある取引先で,当時売上高14億2500万円,経常利益1
900万円の規模の会社にすぎないのに,本件乾繭融資は,当初の分が
2億5000万円で,結局合計6億円もの金額を融資しようというもの
で,その結果総授信残高が58億0900万円にも上るという,その時
点でさえ,既に,ミヤシタの年間売上高の4年分,経常利益の実に30
0年分にも上る莫大な授信行為を行おうとするものであった。さらに,
別紙乾繭融資一覧表の番号1及び2記載の融資の諸貸出申請書には,ミ
ヤシタが北洋銀行に対する利払いを停止している模様というミヤシタの
信用不安の疑いが指摘されていたのである。
   イ このように,本件乾繭融資は,信用不安のあるミヤシタに対し,その
年商及び経常利益をはるかに超える金融上の授信を行おうとするもので
あることに加え,目的となる乾繭の相場の変動により,類型的に回収不
能となる危険性の少なくない使途に係るものであることが明らかであっ
たというべきであるから,融資を承認することは,十分な保全措置がな
い限り,取締役としての善管注意義務に抵触する行為であるというべき
である。
     なお,被告B,同C,同D,同F及び同Gは,乾繭は加工すると生糸
になるところ,生糸は当時の蚕糸価格安定法によって公的に価格管理さ
れていたから,価格が暴落するおそれはなく,また,平成4年当時の生
糸及び乾繭の価格は最低価格以上で安定して推移していたと主張する。
たしかに,生糸については当時施行されていた蚕糸価格安定法による価
格の下支えがあったけれども,証拠(甲12の1,甲13の1,甲2
1,34,乙ニ2,3の1ないし5)によれば,蚕糸業振興審議会繭糸
価格部会の答申に基づく平成元年3月から平成5年3月までの生糸の安
定基準価格は1キログラム当たり1万0400円であるところ,被告F
及び同Gの試算によれば,その基準価格から計算した乾繭の最低価格は
1キログラム当たり2640円というのであるが,横浜商品取引所の発
行に係る乾繭取引案内のパンフレットによると,横浜乾繭先限月足にお
ける1キログラム当たりの価格の状況をみても,昭和53年9月で66
24円,昭和59年9月で3299円,平成元年6月で8163円,平
成5年1月で1908円と大きな変動がみられ,生糸の基準価格を前提
とする乾繭価格をも大きく下回ることもあったと認められること(ちな
みに,甲8の3によれば,本件乾繭融資の当時,拓銀では,倉荷証券1
枚300キログラム当たり77万6000円,すなわち1キログラム当
たり2586円と評価していた。),実際,平成2年10月12日のた
くぎんファイナンスの貸出稟議書にも,乾繭の市況について,対前年同
期比較で45パーセント安の底値であるとの指摘がされていること,ミ
ヤシタも乾繭相場を始めるに際して60パーセント以上の値上がりを期
待していたこと,平成8年1月16日付け拓銀の稟議書は,本件乾繭融
資による損失が発生した理由として,乾繭の整理に入った時期に相場が
下落したことを挙げ,その理由について,市場で投機筋が所有している
ことが知れ渡ったため実業家が投げ売りを見込み,売りに転じたために
相場が下落したとの新聞報道があると指摘していることが認められるか
ら,生糸に対する下支えの措置が講じられていたからといって,その原
料である乾繭自体の相場価格が安定したものであるとか,暴落するおそ
れがないなどとはいい難いのであって,上記被告らの主張は採用するこ
とができない。
   ウ そこで,その保全状況をみると,その大部分が融資対象たる乾繭の倉
荷証券を担保として取得するというもので(K社長の個人保証の増額に
ついては,それに見合う裏付があると認め得る証拠はない。),別紙乾
繭融資一覧表の番号1及び2の融資の際に担保として預け入れる倉荷証
券は333枚で,既存分と併せると約3000枚(1枚当たり300キ
ログラムなので,約900トン),同番号3の融資の際には担保として
更に447枚の預入れを受けることとなっていたから,その総量は約3
500枚(約1000トン)にも上る。横浜商品取引所の発行に係る平
成11年ころにおけるパンフレット(甲34)によれば,前年における
原料繭供給量は国内収繭量1979トン,外国産輸入繭2511トン,
合計4490トンで,前年に比べて34パーセント減であったというの
である。単純に毎年34パーセントの供給量減があったとみると平成4
年当時の国内供給量は年間約5万4000トン,月間約4500トンと
いう計算になり,拓銀が担保にとった総量約3500枚(約1000ト
ン)の倉荷証券を融資期間の1か月以内に処分するため売却するとなる
と,国内供給量の2割以上(1,000÷4,500)の乾繭を市場に売りに出す
計算となる(前記諸貸出申請書添付の補申(甲9の3)によれば,約4
000枚の在庫は1か月の製糸使用原料に相当するとの記載があ
る。)。なお,乾繭は生糸に加工すれば,在庫量の減少による保管費用
の軽減と品質低下を防ぐことができるのであるが,上記のように莫大な
量の乾繭を短期間で生糸に加工できるとは到底考えられず,平成4年2
月28日の段階で,K社長は,乾繭の早期処分を迫られて,その売却に
努める一方,乾繭を毎月45枚ずつ生糸に加工して処分する意向を示し
ていることからも,この点がうかがわれる(甲40)。
     本件乾繭融資は,ミヤシタの本業に係る資金の融資ではないから,そ
の回収は挙げてその買付けに係る乾繭の処分に係るところ,上記のよう
な莫大な量に上る乾繭を約定のような短期間のうちに処分するとすれば
大幅な値崩れがおこることは必至というべきである。融資金の返済は,
担保として取る乾繭を売却換価して得た利益から行うことが予定されて
いるわけであるが,その値下がりにより融資金の回収ができないという
事態が生じた場合には,その担保そのものも値下がりをしていることに
なるため,実質的には,担保としての機能を果たしていないというほか
はない。
     また,乾繭も,小豆と同様,価格変動の大きい商品であって,その処
分のためには,変動する相場の状況に応じた機敏な対応が必要となるに
もかかわらず,担保として取得した乾繭の倉荷証券について,コウシン
商事の裏書を留保する扱いをし,機敏な担保実行を困難にさせるような
担保の取得方法を容認しているのであって,この点においても,後の回
収作業を困難にさせる難題を残した取扱いであったといわざるを得な
い。そして,本業でもない投機相場への資金融資は,社会的に有用な産
業の育成,あるいは国民経済への貢献といった本来都市銀行に強く期待
される目的のための融資ではない以上,単なる利潤の追求という金融ビ
ジネスの観点から,銀行としての回収の安全性や確実性の要請が一層強
く働くところであり,特に本件のように経常利益を大幅に上回る金額に
係る莫大な量の相場商品の買付代金の融資にあっては,それ自体の処分
動向によってさえ買付商品の価値が大きく変動することも予想されなく
はないのであって,その商品の担保価値を重視することはできず,それ
以外の担保が相当程度にあるため相応の保全措置が講じられていると判
断される場合に限って,融資を行うことが許されると解するのが相当で
ある。
エ ところで,本件乾繭融資に当たっては,添担保として,本件文化ホー
ルに登記留保の条件で根抵当権の設定を受けているので,その根抵当権
による回収可能性について検討をするに,証拠(甲81の1,甲84,
85,87)によれば,以下の事実が認められる。
 (ア) 本件文化ホールの敷地を所有する株式会社サンランドは,その土
地上に本件文化ホールを建築し,これをK社長が代表者を務めるサン
ランド開発に代金35億円で売却した上,30年間その敷地を無償で
使用させること,上記売買代金は16年半にわたる分割払いとし,サ
ンランド開発が本件文化ホールを帯広市に賃貸して得る賃料につい
て,その一部を株式会社サンランドが代理受領することにより決済す
ること,また,サンランド開発は株式会社サンランドの指定する金融
機関が本件文化ホールに根抵当権を設定することに同意すること,サ
ンランド開発は株式会社サンランドの承諾なくして本件文化ホールの
所有権移転,賃借権設定,形状変更その他株式会社サンランドに損害
を及ぼすべき行為をしてはならないことを合意した。
 (イ) 他方,サンランド開発は,帯広市との間で本件文化ホールの賃貸
借契約を締結し,その中で,同社は,帯広市に優先する抵当権等の担
保物権の登記をしてはならないものと定められている。
 (ウ) 株式会社サンランドが,上記売買代金の回収につき,本件文化ホ
ールに担保権を設定せずに,代理受領の方法で帯広市の支払う賃料か
ら回収することとしたのは,帯広市の側で,本件文化ホールに担保権
が設定されることに反対をしたためである。
 上記事実に基づき検討すると,まず,本件文化ホールの敷地使用権は
使用貸借とされていて,拓銀が同建物に根抵当権を設定することについ
て地主である株式会社サンランドの承諾を得たとの証拠はないから,根
抵当権を実行した場合に,サンランド開発の有する敷地利用権を援用し
て地主に対抗することができない可能性があるなど,それ自体の担保価
値には大いなる疑問があり,また,株式会社サンランドとサンランド開
発との間の合意によれば,建物所有者であるサンランド開発は,株式会
社サンランドの指定する金融機関が本件文化ホールに担保権を設定する
ことを了解するとともに,その承諾なくして同社に損害を及ぼす行為を
しないことを約しているのであるから,サンランド開発が,拓銀に対し
て本件文化ホールについて根抵当権を設定した場合でも,当事者間にお
ける内部的な効力にとどめ,対外的な効力を有することになる登記手続
は行わないことを前提としていたものと考えられる。拓銀側もこうした
事情を承知の上で,登記留保の取扱いを了解し,また,本件文化ホール
には帯広市の賃借権があることから,実質担保価値はゼロと査定したも
のと解される。実際,本件乾繭融資に係る諸貸出申請書においては,本
件文化ホールの実質担保価値はゼロであることが明記され,関係被告ら
はそれを前提に,すなわち,本件文化ホールの実質的担保価値はないこ
とを前提に決裁をしているのである。
 ところで,拓銀が本件文化ホールに根抵当権の設定を受けた場合に
は,根抵当権者の物上代位に基づき,賃借人である帯広市がサンランド
開発に支払う賃料を優先的に取得することができる効力があることにな
るが,上記のように,拓銀の側も,根抵当権について登記を経由してそ
の権利を対外的に主張することができないことを承知の上で,担保取得
したものと考えられるのであるから,その根抵当権をもって,第三者で
ある株式会社サンランドに対抗することはできず,また,登記が経由さ
れていないままにその物上代位権を行使しようとすることは,執行実務
上も大きな障害を伴うものである。他方で,本件乾繭融資に係る諸貸出
申請書には,帯広市が支払う賃料額の記載すらないことに照らすと,関
係被告がその賃料の物上代位による保全の可能性を考慮して決裁をした
とは考えられない。
 したがって,本件文化ホールについて根抵当権の設定を受けたこと
は,本件乾繭融資の保全を検討するについては,特に関係被告らに有利
な事情として考慮すべきものではないということになる。
オ そうすると,本件乾繭融資は,いずれも,本業での利益をもって回収
に充てることができず,かつ,類型的に回収不能の危険が少なくないと
容易に予想することができるような融資であるにもかかわらず,担保と
して取得するものは,実質的には担保価値のない本件文化ホールと,担
保として考慮すべきではない相場商品である倉荷証券だけであったので
あるから,実質的には何の担保を取ることもなく実行されたに等しく,
これを行うことは,取締役としての善管注意義務に反するというべきで
ある。
なお,本件乾繭融資は,いずれも事後決裁により処理されていたもの
であるところ,被告B,同F,同C,同G及び同Dは,いずれも,これ
について,何の異議も述べることなく決済印を押捺しているのである。
しかし,本件乾繭融資はいずれも行うことの許されないものであるか
ら,別紙乾繭融資一覧表の番号1及び2の融資の追認を求められた上記
被告らは,これを拒否し,代表取締役頭取であった被告Bにおいては,
直ちにその早期回収を指示し,あるいはその弁済期には確実に回収をす
るよう指示するなどの措置を講じ,さらに,同種の融資申請については
必ず事前の決裁を指示してこれを励行させ,もって,更なる不当な融資
が事後決裁のもとに行われることのないようにすべきであり,被告F,
同C,同G及び同Dにおいては,頭取である被告Bに対して,そのよう
な措置を講じること求めるべきであった。しかるに,上記被告らは,そ
のような措置を講じることなく,漫然,融資を追認してこれらを放置し
たものであるから,本件乾繭融資の実施により拓銀が被った損害の賠償
責任を免れるものではない。また,証拠(甲8の1の1,2,乙ニ10
の1,2,乙ニ11,12の1,2,乙ニ13,被告F本人,被告G本
人)によれば,被告F及び被告Gが別紙乾繭融資一覧表の番号1及び2
の融資に係る諸貸出申請書に押印を求められた時点では,既に頭取であ
る被告Bの決裁が終わっていたことが認められるが,前同様の理由によ
り,その責任を免れる理由とはならない。
  (3) 以上によれば,本件乾繭融資の全部を容認してこれを放置し,その後
の事後決裁をも放置した被告B,同F,同C,同G及び同Dは,取締役と
しての善管注意義務に違反したものというべきであるから,これによっ
て,拓銀が被った損害を連帯して賠償すべき責任を免れない。
特に,被告Cは,本件小豆融資のときからミヤシタの相場取引に関する
融資に関与して,拓銀に回収不能の損害をもたらしたことを十分に承知し
ていたのに,その損失を補填する目的でミヤシタが乾繭の相場取引をする
という性懲りもない投機行為に走るのを止めることもせずにこれを推進す
べく,帯広支店に連絡までして本件乾繭融資の道を開いたものであり,ま
た,別紙乾繭融資一覧表の番号2の融資に当たっては,審査部局から,こ
れを最後とすることをK社長に念を押すよう求められていたのに,結局
は,同番号3の融資まで行うことを許容するなど,その責任は誠に重大で
ある。
    また,被告Bも,本件小豆融資に関わった者であり,その回収が滞って
いることを知った以上は,頭取として,それ以上のミヤシタに対する相場
資金の供給を阻止すべきであるのに,漫然事後決裁を放置して融資を許容
したもので,その責任は重い。
    被告F,同G及び同Dがミヤシタの悪評を耳にしていたことを直接示す
証拠はないが,本件の融資の目的及び金額自体が異例の内容であることに
照らせば,漫然と融資を放置し,事後決裁を放任していたことの責任は大
きいというべきである。
 5 争点(5)及び(6)(結果発生との因果関係及び過失相殺)について
  (1) 上記認定によれば,本件小豆融資及び本件乾繭融資は,いずれも,関
係被告がその取締役として負う善管注意義務に違反する行為の結果,貸付
けが実行され,あるいは,これがそのまま放置されたものであるから,そ
の義務違反行為によって貸付けが行われ,あるいは,これが放置された時
点で,拓銀には同額の損害が発生したと認められる。したがって,その
後,その融資に係る金員が現実に回収された場合に初めて,その損害が填
補されたと解することができる。
    ところで,本件小豆融資及び本件乾繭融資のうち別紙乾繭融資一覧表の
番号3を除く融資は,その融資期間が経過する際に,新たに貸付手続が行
われているから,形式的にはその融資金は回収されたことになるわけであ
るが,実質的には拓銀がその融資による損害の補填を受けていない以上
は,その損害が弁済されたと認めることはできない。新たな貸付けの決裁
が行われたことは,その決裁に関与した者に別途責任が生ずる余地はある
が,そうであるからといって,そのことのゆえに,実際に本件の各融資の
決裁に関与して,拓銀から現実の融資を実行することを許容した被告らが
免責されるいわれはない。
  (2)被告らは,拓銀に回収業務の懈怠があったことが,本件の各融資の回
収不能を来した原因であり,被告らの義務違反と結果の発生との間には因
果関係がないと主張するが,上記のとおり,被告らの各義務違反により,
拓銀にその融資に係る金額相当の損害が発生したものであって,その後の
回収の過程で不手際があったとしても,既に発生した損害に消長を来すも
のではない。
  (3) もっとも,証拠(甲23の6,7,乙ロ17の1ないし3)によれ
ば,本件小豆融資に関し,平成元年12月21日には,本件小豆融資と平
成元年5月31日に融資した2億円の合計25億5000万円の残高10
億6000万円の債務と,貸付限度枠内の7億7000万円の債務が残存
し,その担保として,小豆の倉荷証券として処分前のものが13億954
8万8000円分残っているほか,貸付限度枠の貸付けの際に担保として
取った根抵当権や株式及び預金があったところ,平成2年3月20日の時
点では,上記の10億6000万円の債務は8億4000万円と2億20
00万円の減額となり,貸付限度枠の債務は限度廃止となって完済となっ
ているところ,この間担保について,小豆の倉荷証券がすべて担保から除
外されて処分済みとなっているのに,貸付限度枠内の債務に係る担保は特
に減少した様子もないことが認められる。この事実によれば,平成元年1
2月の時点で残っていた小豆の倉荷証券が売却され,その代金のうち2億
2000万円が本件小豆融資に係る残債務に,うち7億7000万円が貸
付限度枠内の債務全額に,それぞれ充当されたものと推認される。原告が
主張するように,拓銀がミヤシタから徴した担保は,現在及び将来の債務
を担保する根担保であるから,いずれの担保による処分代金をどの債務に
充当しても,対債務者との関係では問題はないと考えられるけれども,小
豆の倉荷証券は,本件小豆融資及び平成元年5月31日の2億円の融資
(甲23の2)に際して新たに徴した担保であるとうかがわれる(甲4の
1,9によれば,本件小豆融資に先立つ貸付限度枠内での融資に際して,
小豆の倉荷証券を234枚担保に徴していることが認められるが,最も早
い時期に徴した小豆の現物の担保であること,その後その限度枠の債務が
1億3000万円減少していることに鑑みると,平成元年12月現在なお
残存していた倉荷証券は,その債務以外の債務,すなわち,本件小豆融資
に係る債務の担保として預け入れられたものと考えるのが相当である。)
ことからすると,上記の限度枠内の債務に充当された弁済金は,本件小豆
融資を実行したことから担保として差し入れられたもので,本件小豆融資
がなければ,それによる弁済もなく,したがって,既に発生していた限度
枠内の債務も弁済を受けることがなかったことになる筋合いのものである
ことを考えると,その内入金により拓銀には利得が生じていることから,
被告A,同B,同C及び同Eの主張は,この趣旨における損益相殺の主張
として,理由があるというべきである。
 そうすると,拓銀が本件小豆融資による回収不能とされた8億4000
万円の債務のうち,原告が現在高であると主張する8億3960万円から
上記の倉荷証券に係る小豆の売却代金7億7000万円を控除すると69
60万円となり,これを,別紙小豆融資一覧表の番号1ないし4の融資金
額合計10億5000万円(被告Cが責任を負うべき融資金)と同番号6
ないし8の13億円(被告A,同B,同E及び同Cが連帯責任を負うべき
融資金)及び平成元年5月31日の融資金2億円とに,その融資金元本額
に応じて按分すると,別紙小豆融資一覧表の番号1ないし4の融資金の残
金は,2865万8823円,同番号6ないし8の融資金の残金は354
8万2352円となる。
(4)また,証拠(甲9の1,甲10,証人H)によれば,本件乾繭融資の
うち,別紙乾繭融資一覧表の番号3に係る融資の際,担保として徴するこ
とが約束されその旨諸貸出申請書にも明記されていた乾繭の倉荷証券44
7枚のうち422枚が担保として預け入れられていなかったことが認めら
れる。これらの担保が貸出当時の条件どおり預け入れられていれば,一定
の金額が回収されたであろうと考えられるから,この担保取得手続の不手
際による損害まで,その融資の決裁に関与した被告らに負わせることは公
平ではないから,過失相殺の法理に照らし,その回収可能と想定される金
額については,上記被告らが負担すべき損害からこれを控除するのが相当
である。さらに,本件乾繭融資に当たり預け入れられたその他の倉荷証券
(前記の422枚を除くと,別紙乾繭融資一覧表の番号1及び2について
は333枚,同3については25枚。)についても,平成5年3月10日
までにすべて,処分のために払い出され,処分されていることは原告の自
陳するところであるから,それらについては,その処分価格について拓銀
に弁済があったと推定されるので,小豆について説示したところと同様,
損益相殺の法理に従い,上記被告らが負担すべき損害額から控除すること
が相当と判断する。
  そして,証拠(甲10)によれば,拓銀の帯広支店長が平成5年5月6
日に審査第一部長宛てに作成した本件乾繭融資の顛末を報告する文書の中
で,当時なお売却未了の乾繭について,今後の回収予定として一部生糸に
加工することをも含め,2364枚の倉荷証券により総額11億8764
万円の回収を見込んでいることが認められるから,上記の333枚及び4
47枚も同様の価格により回収できたものと推認して計算すると,その価
格はそれぞれ,1億6729万4467円,2億2456万6446円と
なる。
したがって,被告B,同F,同C,同G及び同Dが本件乾繭融資のう
ち,別紙乾繭融資一覧表の番号1及び2について,責任を負うべき損害額
は,融資額2億5000万円につき現在高であると原告が主張する2億4
920万円から1億6729万4467円を控除した8190万5533
円,同番号3について責任を負うべき損害額は,融資額3億5000万円
につき現在高であると原告が主張する3億4960万円から2億2456
万6446円を控除した1億2503万3554円となり,以上の合計は
2億0693万9087円となる。
(5) 次に,被告Eは,過失相殺として,本件小豆融資を実際に決裁した代
表者や回収を怠った者の過失があることから過失相殺を主張するが,被告
Eが拓銀において副頭取の職務にあって頭取の職務を補佐するものと定め
られているのに(乙ロ8の1),被告Eは,本件小豆融資について何の行
動も取っていないのであって,その業務の懈怠の責任が問われていること
及び取締役の責任が連帯責任とされていることに照らすと,他の関係者の
過失を斟酌して,その賠償額を軽減することは相当ではないというべきで
あり,被告Eの主張は理由がない。
 6 争点(7)(時効)について
  (1) 被告A,同B,同C及び同Dは,消滅時効を援用するので,以下,判
断する。
    一般に,株式会社と取締役との間の取締役任用契約は,委任契約であ
り,商人である株式会社の付属的商行為ということができるところ,商法
266条1項の定める取締役会の会社に対する責任は,委任契約に基づく
取締役の善管注意義務及び忠実義務の不履行責任に基礎を置くものと解す
ることができる。
    他方で,商法は,取締役の責任について特に規定を設け,266条1項
各号において取締役が責任を負う場合を個別的に列挙して取締役の責任を
明確化するとともに,その一部については無過失責任とした上,その責任
は連帯して負うべきものとし,同条5,6項においては,その責任の免除
を極めて厳格な手続のもとにのみ許容するなど,一般の債務不履行責任に
比較して,極めて厳格な責任を定めていて,これらは,その規定の趣旨に
照らして強行法規性を有するものと解される。このように商法が取締役に
対する責任を厳格に定めていることからすると,その責任は,一般の債務
不履行責任には止まらない特別の法定責任の性質をも有するものと考えら
れる。
    また,商法は,企業の取引活動の迅速性の要請から,短期消滅時効を規
定しているが,会社の内部関係というべき取締役の会社に対する損害賠償
責任に迅速性の要請が及ぶものとはいえないし,取締役の会社に対する責
任は必ずしも容易に判明するわけでもなく,商法自身が取締役同士がなれ
合う危険性のあることを想定していることは,監査役の訴訟権限について
説示したとおりであるから,商法が特に取締役の責任を厳格に定め,その
責任免除を厳しく制限して,責任追及の手続を実効あらしめるために諸々
の規定をもって臨んでいるのに,このような取締役の会社に対する責任を
短期の時効にかからせることは,そのような法の趣旨に明らかに反するも
のといわなければならない。
    したがって,商法266条1項各号に定める取締役の会社に対する責任
は,商法が特に定めた法定責任として,一般債権の時効期間である10年
の期間の経過によって時効により消滅すると解するのが相当である。
  (2) また,原告が本件訴えを提起したのが平成10年12月15日である
ことは,本件記録上明らかであり,本件債権譲渡が無権代理人によるもの
であるとしてみても,本件追認により,債権譲渡の効果は遡って有効とな
るから,いずれにせよ,本件の訴えの提起により,平成元年1月23日以
降に実行された本件小豆融資及び本件乾繭融資のすべてについて,時効が
中断していることは明らかである。
 7結論
   以上の認定判断によれば,原告の本件請求のうち,まず本件小豆融資に係
るものは,別紙小豆融資一覧表の番号1ないし4について,被告Cに対し,
2865万8823円,同番号6ないし8について,被告A,同B,同E及
び同Cに対し3548万2352円,次に,本件乾繭融資に係るものは,別
紙乾繭融資一覧表の番号1及び2については8190万5533円,同番号
3については1億2503万3554円(なお,被告Cは,原告が被告Cに
対してこの部分に係る請求を後に追加的に変更したことに異議を述べるが,
その変更は,請求の基礎に変更がなく,また,著しく訴訟手続を遅滞させる
ものでもないから,理由がない。),以上の本件乾繭融資に係るものの合計
2億0693万9087円とこれらに対する各訴状送達の日の翌日(被告
A,同B,同C,同E及び同Dについては,平成10年12月27日,被告
F及び同Gについては同月28日であることは本件記録上明らかである。な
お,被告Cに対する訴えの追加的変更に係る請求部分は,連帯債務者である
被告B及び同Dに対する訴状の送達により遅滞に陥った。)から各支払済み
まで,連帯して年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由が
あるが,その余は理由がない。
   よって,訴訟費用の負担について,民事訴訟法61条,64条,65条
を,仮執行の宣言について同法259条を各適用して,主文のとおり判決す
る。
    札幌地方裁判所民事第5部
        裁判長裁判官  佐 藤 陽 一
           裁判官  村 田 龍 平
  裁判官坂田大吾は,外国出張中のため,署名押印することができない。
        裁判長裁判官  佐 藤 陽 一

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