弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(行ケ)第95号 審決取消請求事件
平成15年11月27日口頭弁論終結
            判       決
   原     告    三伸プラスチック株式会社
    訴訟代理人弁理士    鈴 木 正 次
    同       涌 井 謙 一
    被        告  特許庁長官 今井康夫
    指定代理人       鈴 木 美知子
    同       山 崎 勝 司
    同       小 曳 満 昭
    同       涌 井 幸 一
          主       文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が不服2000-13516号事件について平成15年2月3日にし
た審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,平成11年8月3日,名称を「封緘付キャップ」とする発明につき
特許出願(平成11年特許願第220075号。以下「本件出願」という。)を
し,平成12年7月21日に拒絶査定を受けたので,平成12年8月25日,これ
に対する不服の審判を請求した。
 特許庁は,これを不服2000-13516号事件として審理した。原告
は,この審理の過程で,平成12年8月25日付けの手続補正書により明細書の特
許請求の範囲及び発明の詳細な説明の補正(以下,審決と同様に「本件補正」とい
う。)をした。特許庁は,審理の結果,平成15年2月3日,本件補正を却下する
とともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年2月18
日,その謄本を原告に送達した。
2 本件補正前の特許請求の範囲【請求項3】(別紙図面A参照)
「キャップに壜口外壁部と弾力当接する弾性変形手段を設けると共に,合成樹
脂製のキャップに封緘環を嵌着固定したキャップにおいて,キャップの下端面に設
けた環状溝に,封緘環の環状嵌合部を嵌入掛止して,前記キャップと封緘環とを一
体化し,該封緘環は連結筒と掛止筒とを切断容易な連結線で連結したことを特徴と
する封緘付キャップ。」(以下,この請求項3の発明を審決と同様に「本願発明」
という。)
3 本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】(別紙図面A参照)
「キャップに壜口外壁部と弾力当接する弾性変形手段を設けると共に,合成樹
脂製のキャップに封緘環を嵌着固定したキャップにおいて,キャップの下端面に設
けた環状溝に,封緘環の環状嵌合部を嵌入掛止して,前記キャップと封緘環とを一
体化し,該封緘環は連結筒と掛止筒とを切断容易な連結線で連結し前記掛止筒に
は,壜口部の環状鍔と掛止する上向掛止片を設けたことを特徴とする封緘付キャッ
プ。」(以下,この請求項3の発明を審決と同様に「本願補正発明」という。)
4 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,①本願補正発明は,特開平8
-244806号公報(甲第3号証。以下,審決と同様に「引用例」という。)に
記載された発明(以下「引用発明」という。別紙図面B参照)及び周知技術に基づ
いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項
の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,
本件補正は却下されるべきものである,②本願発明も,本願補正発明についての理
由と同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明を
することができたものである,とするものである。
 審決が,上記結論を導く過程において,本願補正発明と引用発明との一致点
及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点
「合成樹脂製のキャップに封緘環を嵌着固定したキャップにおいて,キャップ
の下端面に設けた環状溝に,封緘環の環状嵌合部を嵌入掛止して,前記キャップと
封緘環とを一体化し,該封緘環は連結筒と掛止筒とを切断容易な連結線で連結し前
記掛止筒には,壜口部と掛止する上向掛止片を設けたことを特徴とする封緘付キャ
ップ。」
相違点
「本願補正発明において「キャップに壜口外壁部と弾力当接する弾性変形手段
を設ける」のに対し,引用例には,上記弾性変形手段を設けることについて記載さ
れていない点。」(以下,審決と同様に「相違点1」という。)
「本願補正発明において掛止筒の上向掛止片が「壜口部の環状鍔」と係止する
のに対し引用例に記載された弾性係合部の折返上端は壜口部のアンダーカット部に
係合するとされている点。」(以下,審決と同様に「相違点2」という。)
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決は,本願補正発明と引用発明との相違点を看過し(取消事由1),相違
点1及び2についての判断を誤ったものであり(取消事由2ないし4),これらの
誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消される
べきである。
1 取消事由1(封緘環に係る相違点の看過)
 審決は,本願補正発明と引用発明との封緘環に係る次の相違点を看過し,こ
の相違点についての判断を遺脱した。
(1)本願補正発明は,掛止筒(弾性との特定がない。)に上向掛止片を設けたも
のであるのに対し,引用発明においてこれに対応する部分は,V字状の弾性係合部
である。両者は,この点でも相違する。
(2)本願補正発明は,連結線が,連結筒と掛止筒とを上下に連結している。こ
れに対し,引用発明は,複数のブリッジ部が,係合突部の内面下部と弾性係合部の
外面上部とを横方向に連結している(引用発明のブリッジ部は,引用例に「係合突
部と弾性係合部の間の上下方向の移動に自由度をもたせて装着時のブリッジ部の破
断が起こりにくくする」(甲第3号証【0011】)と記載されていることからし
て,横方向に配置することが要件となっていると解すべきである。)。両者は,こ
の点でも相違する。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
 審決は,相違点1に関し,「合成樹脂製の壜キャップにおいて,キャップの
弛みを防止するために,壜口外壁部に弾力的に当接する弾性変形手段を設けること
は,本願出願前周知の技術的事項であり[必要であれば,原査定の拒絶の理由に引
用された実願昭52-155363号(実開昭54-81849号)のマイクロフ
ィルム(判決注・本訴甲第4号証,以下「甲4文献」という。),及び実願昭53
-152544号(実開昭55-69057号)のマイクロフィルム(判決注・本
訴甲第5号証,以下「甲5文献」という。)等参照],上記の周知技術を,キャッ
プの弛み防止の目的で,引用例に記載されたような未開封プルーフリング(封緘
環)を係着したキャップに適用することは,当業者が容易になし得る事項であり,
その効果も,周知の技術的事項から予測しうる範囲内のものである。」(審決書4
頁4段)と認定判断した。
 しかし,甲4文献及び甲5文献に記載された技術は,単なる公知技術であ
り,周知の技術ではない。審決は,公知技術を周知技術と誤認した結果,引用発明
に公知技術を設けることについての検討をすることなく,上記のとおり判断したも
のである。審決の上記判断は,誤りである。
 甲5文献に記載された公知技術は,金型が外れやすく,かつ,材質上も適度
の弾性を保つ材質がなく,また,金型を容易に外す工夫もなかった昭和55年当時
の技術では,実現不可能であった。同公知技術は,このように,公開公報に記載さ
れてはいたものの,具体的製品にすることができなかったため,当業者がだれでも
必要に応じて採用できる技術とはなっていなかった。このようなものを周知技術と
いうことはできない。
 被告は,甲4文献及び甲5文献に記載された構造は,これら文献の公開の日
から本願出願の日までの20年余にわたって当業者に知られていたのであり,この
ことは,上記技術が周知技術であるとするに十分である,と主張する。
 しかし,被告の主張とは逆に,引用発明に甲4文献及び甲5文献記載の公知
技術を組み合わせることが,20年間も実現されなかったということは,この組合
せの困難性を明白に物語るものである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
 審決は,相違点2について,「本願補正発明の「上向掛止片」及び引用例に
記載された「折返上端」はいずれも掛止筒或いは弾性係合部が,開封に際してキャ
ップ本体と共に上昇するのを阻止するために壜口部に係合するものであり,対応す
る壜口部に上下方向の段部があればそこに係止するのは当然である。すなわち引用
例に記載されたような弾性係合部を備えたキャップを,壜口部に環状鍔部のあるよ
うな壜に適用する場合に瓶口部のアンダーカット部に係合するようにされていた折
返上端を,本願補正発明における上向掛止片のように環状鍔部に掛止するようにす
ることは,当業者が実施に際して適宜なし得る設計的事項に過ぎない。」(審決書
4頁末段~5頁1段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
 本願補正発明は,上向掛止片を,壜口部の環状鍔と掛止する。そのため,掛
止が確実であり,確実に封緘の目的を達成することができる。これに対し,引用発
明は,V字状弾性係合部の内板部26の上端が壜口部のアンダーカット31に係止
している。そして,壜口部のアンダーカットは,曲面に形成されている。そのた
め,弾性係合部が上方に引き上げられると,内板部26の先端がアンダーカットの
曲面に沿って壜口部の外側に移動して,外れるおそれがある。当業者は,引用発明
を知っているだけでは,本願補正発明のこのような構造を容易に発明することはで
きない。
4 取消事由4(相違点1及び相違点2に係る各構成の組合せについての判断の
遺脱)
 引用例には,弾性変形手段を付加する点についての記載がなく,甲4文献及
び甲5文献には,封緘についての記載がない。それにもかかわらず,審決は,相違
点1及び相違点2に係る各構成を組み合わせることの容易性について判断をしてい
ない。
 本願補正発明では,キャップのみが意に反して回転して封緘が解除されるこ
とがないように,「キャップと封緘環とを一体化し」(請求項3)との構成を備え
ている。すなわち,本願補正発明においては,相違点1に係る構成と相違点2に係
る構成とは一体不可分の関係にあり,相違点1に係る構成がなければ,相違点2に
係る構成の作用効果が不確実になるのであるから,相違点1及び相違点2に係る各
構成を組み合わせることの容易性についての判断も必要となるのである。
第4 被告の反論の骨子
 審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(封緘環に係る相違点の看過)について
 審決の相違点の認定に誤りはない。原告の主張はすべて争う。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
 甲4文献及び甲5文献には,本願補正発明におけると同じくキャップの弛み
を防止することを目的として,①キャップの螺旋条に溝を設けること(甲4文献)
と,②キャップの端面に壜口外壁の鍔部と弾力当接する弾性突片を設けること(甲
5文献)が記載されているのであるから,キャップが具体的製品になったか否かに
かかわらず,その構造は,これら文献の公開の日から本願出願の日までの20年余
にわたって当業者に知られ得る状況に置かれていたのである。このことは,上記技
術が周知技術であるとするに十分なことというべきである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
 本願補正発明の上向掛止片及び引用発明の弾性係合部の折返上端である内板
部は,いずれも,掛止筒あるいは弾性係合部を開封するに際して,キャップ本体と
ともに上昇するのを阻止するために壜口部に係合するものである。そして,これら
掛止する部材に対応する壜口部に上下方向の段差があれば,そこに掛止する部材を
係止するのは当然のことである。
 そうだとすると,引用発明のような弾性係合部を備えたキャップを,壜口部
に環状鍔部のあるような壜に適用する場合に,瓶口部のアンダーカット部に係合す
るようにされていた弾性係合部の折返上端である内板部を,本願補正発明における
上向掛止片のように環状鍔部に掛止するようにすることは,当業者が実施に際して
適宜なし得る設計事項にすぎないことが明らかである。
4 取消事由4(相違点1及び相違点2に係る各構成の組合せについての判断の
遺脱)について
 キャップに弾性変形手段を設けることと,封緘環を設けることとは,両者の
間に機能的に相互に関連する点はなく,それぞれが独立してその目的と効果を持つ
ものである。すなわち,相違点1と相違点2とはそれぞれに係る構成が密接不可分
に関連するものではない。このようなとき,両者の組合せについて検討する必要は
ない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(封緘環に係る相違点の看過)について
(1)原告は,審決が,本願補正発明は,掛止筒(弾性との特定がない。)に上向
掛止片を設けたものであるのに対し,引用発明においてこれに対応する部分は,V
字状の弾性係合部である,との相違点を看過した,と主張する。
 確かに,本願補正発明の掛止筒に相当する引用発明の弾性係合部は,弾性
である。しかし,本願補正発明も,「掛止筒には,・・・上向掛止片を設けた」
(甲第2号証の2,請求項3)ものであるにすぎず,その掛止筒には,弾性との限
定も非弾性との限定もなく,本願出願の願書に添付した明細書(以下「本願明細
書」という。)の発明の詳細な説明にも,本願補正発明の掛止筒を弾性のものある
いは非弾性のものに限定して解すべきであると認めるべき記載もない。このよう
に,本願補正発明の掛止筒は,弾性のものも非弾性のものも含むことが明らかであ
る。したがって,審決が,本願補正発明の掛止筒と引用発明の弾性係合部とを一致
点と認定し,弾性係合部の弾性について相違点と認定しなかったことには,何の誤
りもない。原告の主張は失当である。
(2)原告は,本願補正発明は,連結線が,連結筒と掛止筒とを上下に連結して
いるのに対し,引用発明は,複数のブリッジ部が,係合突部の内面下部と弾性係合
部の外面上部とを横方向に連結している,との相違点を看過した,と主張する。
  引用例には,「このブリッジ部は係合突部の内面下部と弾性係合部の外面
上部とを結ぶ複数のブリッジからなる。・・・ブリッジの本数および形状は上記の
目的を達成しうるものであればよいが,本数は2本以上,通常は4~20本程度が
適当である。形状は断面が円,楕円,正方形,長方形,長板状等如何なる形状であ
ってもよい。連結方向も半径方向に限定されず,例えば斜めであってもよい。」
(甲第3号証【0011】)との記載がある。これによれば,引用発明におけるブ
リッジ部の連結の方向は,半径方向に限られず,少なくとも上下方向に斜めであっ
てもよいことが明らかである。一方,引用発明のブリッジ部に相当する本願発明の
連結線については,特許請求の範囲には,「封緘環は連結筒と掛止筒とを切断容易
な連結線で連結し」と記載されているだけで,その連結方向についての限定的な記
載は一切ない。また,本願発明の実施例のものは,連結筒と掛止筒とを上下方向に
連結しているものの(甲第2号証の1,9頁【図4】,10頁【図15】参照),
本願明細書の発明の詳細な説明を見ても,「連結筒と,掛止筒を切断容易な連結線
で連結する」(甲第2号証の1,7頁【0004】)との記載,あるいはこれとほ
ぼ同旨の記載が数か所にある(甲第2号証の1,7頁【0005】,【000
7】,【0011】)だけで,本願発明の「連結線」が上下方向のものに限定され
ることを示す記載はない(本願明細書の【0017】には,「連結筒9の下面には
連結線12により掛止筒11の上端部を連結したもので」との記載があるものの,
これは,【実施例2】の説明にすぎない。)。このように,本願発明の「連結線」
は,特許請求の範囲の記載及び本願明細書の発明の詳細な説明の記載からして,上
下方向のものに限定されず,斜め方向のものも,横方向のものも含まれ得ることに
なるのであるから,審決が,本願発明の「連結線」と引用発明の「ブリッジ部」と
を一致点と認めたことについては,何らの相違点の看過もない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(1)原告は,審決が,「合成樹脂製の壜キャップにおいて,キャップの弛みを
防止するために,壜口外壁部に弾力的に当接する弾性変形手段を設けることは,本
願出願前周知の技術的事項であり」(審決書4頁4段)と認定したことにつき,同
技術は,単なる公知技術であり,周知の技術ではない,甲5文献に記載された公知
技術は,金型を容易に外す工夫もなかった昭和55年当時の技術では,実現不可能
であり,具体的製品にすることができなかった,と主張する。
 しかしながら,甲5文献には,「合成樹脂製ねじキャップの大径裾部内周
面に,壜口の雄ねじ外周に接触することなく,かつ雄ねじ外径よりも大きな外径を
有する壜口のネックリング部の下面以外の周面に密接する当接片を設けたねじキャ
ップの弛み防止装置。」(甲第5号証の全文補正明細書1頁4行~8行)との記載
があり,審決が認定した「合成樹脂製の壜キャップにおいて,キャップの弛みを防
止するために,壜口外壁部に弾力的に当接する弾性変形手段を設けること」との技
術事項が開示されていることが明らかである。
 甲4文献にも,「壜口部Bのネジ3に螺合し得るネジ山1をその内壁面に
突設してなる栓Aに於て,前記ネジ山1の中央部に深い溝2を穿設して構成してな
る栓戻り防止栓。」(甲第4号証1頁5行~8行)との記載があり,審決が認定し
た上記技術事項が開示されていることが明らかである。
 甲4文献及び甲5文献が,それぞれ昭和54年,昭和55年に公開され,
頒布されたものである以上,上記各技術は,本件出願当時,キャップの技術分野に
おける当業者に十分に知られていたものというべきであり,審決が上記技術を周知
と認定したことに何ら誤りはない。
 仮に,原告が主張するように,甲5文献に記載されたものが当時の技術で
は実現されたことがなく,具体的製品にならなかったとしても,甲5文献には上記
技術事項が発明として明確に記載されていたのであり(甲第5号証),甲5文献に
接した当業者が,審決が認定した限度において,その技術事項を明確に理解するこ
とができるものである以上,原告が主張するようなことは,審決が周知技術を認定
することを妨げる理由とはならない。
(2)原告は,引用発明に甲4文献あるいは甲5文献に記載された公知技術を組
み合わせることが,20年間も実現されなかったということは,この組合せの困難
性を明白に物語るものである,と主張する。
 しかし,引用発明の封緘付キャップも,壜口部に装着するキャップである
以上,その弛みを防ぐことは自明の課題であるから,上記周知技術を,キャップの
弛み防止の目的で,引用発明に適用して本願補正発明の相違点1に係る構成とする
ことは,当業者が容易になし得る事項であり,これと同旨の審決の判断に誤りはな
い。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
 原告は,本願補正発明は,上向掛止片を壜口部の環状鍔と掛止するので掛止
が確実であるのに対し,引用発明は,弾性係合部の内板部を曲面に形成されるアン
ダーカットに係止するので外れるおそれがある,と主張する。
 しかし,壜口部に環状鍔部のあるような壜は,例示するまでもなく,本件出
願前に周知であり,この壜口部の環状鍔部は,壜口部の上下方向における段差であ
ることが明らかである。そして,上下方向における段差であれば,引用発明におけ
る壜口部のアンダーカットと同様に,係止部の役割を果たし得ることも明らかであ
る。したがって,弾性係合部の内板部を,壜口部の上下方向における段差部分に係
合させる引用発明のような封緘付キャップを,上記周知の壜を用いて,壜口部の上
下方向の段差部分である環状鍔部に掛止するようにすることは,当業者が必要に応
じて適宜なし得る設計事項にすぎないことが明らかである。
 原告が主張する効果の差異は,当業者が適宜なし得る設計的事項の範囲内の
構成から十分に予想し得るものにすぎない。審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(相違点1及び相違点2に係る各構成の組合せについての判断の
遺脱)について
 原告は,引用例には,弾性変形手段を付加する点についての記載がなく,甲
4文献及び甲5文献記載の公知技術には,封緘についての記載がないにもかかわら
ず,審決は,相違点1及び相違点2に係る各構成を組み合わせることの容易性につ
いて判断をしていない,と主張する。
 審決は,本願補正発明と引用発明との一致点として,「キャップの下端面に
設けた環状溝に,封緘環の環状嵌合部を嵌入掛止して,前記キャップと封緘環とを
一体化し」(審決書4頁10行~12行)た点を認定し,引用発明を「キャップと
封緘環とを一体化し」たものと認定した上で,相違点1及び相違点2について,上
記のとおり,判断したものであることは明らかである。
 このように,審決は,引用発明について,本願補正発明と上記のような一致
する構成があることを前提とした上で,上記のとおり,相違点1に係る構成に関
し,自明の課題を解決するために周知の技術を用いて本願発明の構成に至ることは
容易であると判断し,相違点2についても,単なる設計的事項であると判断したも
のである。審決の「本願補正発明は引用例に記載された発明及び周知技術に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書5頁2段)との
判断は,引用発明について,相違点1と相違点2に係る各構成を組み合せることが
容易に想到し得ることかどうかについての全体的判断も踏まえた上での判断である
と解するのが相当であり,上記各相違点に係る各構成同士の間に,格別,両者を組
み合わせることを困難にする事情は認められないことに照らすと,審決の上記判断
は,正当ということができる。
5 結論
 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由
がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原
告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7
条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官    山  下  和  明
          裁判官     設  樂  隆  一
        裁判官    高  瀬  順  久
 
(別紙)
図面A図面B

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛