弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 原判決中、被告人A・同Bに関する部分を破棄する。
     二、 被告人Aを懲役六月に処する。
     三、 被告人Bを懲役三月に処する。
     四、 被告人Bに対し、二年間右刑の執行を猶予する。
     五、 被告人Bから金一万一五〇〇円を追徴する。
     六、 原審及び当審における訴訟費用は、全部、被告人両名の連帯負担
とする。
         理    由
 弁護人鶴田英夫が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人提出の控訴趣意書
(但し、第四点の七及び第二点を除く。)に記載のとおりであるから、これを引用
する。
 第一、 控訴趣意第一点の中、第一(被告人Aに関する事実誤認)についての判
断。
 一、 原判決が、「被告人Aは、原判示議員選挙に際し、その候補者Cの為め
に、その選挙運動全般の指揮を為し、その総括主宰者であつたもの」と認定の上、
公職選挙法第二二一条第三項を適用して処断していることは、所論指摘のとおり、
原判決文により明らかである。
 論旨は、被告人Aが総括主宰者であるとする原判決の認定を争うのである。
 二、 そこで、原判決が同被告人を総括主宰者であると認定する積極資料とした
と考えられるものを、原判決の掲げる証拠の中から拾い上げてみると、
 (1) まず、同被告人は、「自分が総括主宰者であつた」旨警察・検察庁にお
いて供述していることがうかがわれる。すなわち、司法警察員に対する供述調書
(記録三冊一五二二丁、一五三〇丁、一六一二丁等)、検察官に対する供述調書
(三冊一六三〇丁)によれば、同被告人は、「自分は、候補者から選挙運動を頼ま
れたわけではないが候補者とは義兄弟(被告人Aの妻は候補者Cの妻である被告人
Bの妹にあたる。)の間柄にあるので、候補者の選挙参謀格として、姉のBと二人
して、選挙運動の全般にわたつて一切の釆配をふるつた」旨の供述記載が認めら
れ、
 (2) ことに、同被告人は、逮捕後三日目に当る昭和三二年五月二五日附の司
法警察員に対する供述調書(三冊一五二七丁以下)によれば、運動員役割区域表と
題する一覧表を作成して警察員に差し出していることが認められる。この表による
と、
<記載内容は末尾1添付>
 と記載されていることが分る。
 (3) 被告人の右供述記載あるいは右一覧表の記載と照応して候補者Cの検察
官に対する供述調書(三冊一九四六丁)によると、「今度の選挙については、義弟
の被告人Aが中心となつて、妻のBと二人で相談して、全般的のことをやつてくれ
たが、私がとくに頼んだわけではない。しかし、実際にやつてくれていたので、任
せつきりにしておいた」旨の供述記載が認められる。
 (4) そこで、さらに進んで、原判示選挙における同被告人の地位・役割・行
動等の実際を記録に基いて検討すると、
 (イ) 第一に、選挙告示の直前である昭和三二年五月六、七日頃候補者宅で、
被告人A・同Bの外D・Eの四名が、いわゆる選挙作戦会議ともいうべき会合をし
たときの模様について、原判決の掲げる右四名の検察官に対する各供述調書による
と、右四名が集つたその席上、被告人Aは、社宅関係の選挙運動員予定者の名前を
挙げ、『各運動員に金二、〇〇〇円づつ金を配つて運動を依頼しよう』と提案し、
Dを除いて、被告人B及びEの賛成を得て、いわゆる買収の謀議を遂げた
 ことが認められ、
 (ロ) 原判決の掲げる証拠の中、被告人両名の司法警察員・検察官に対する各
供述調書及びE・F・G・H・I・J・Kらの検察官に対する各供述調書等による
と、
 被告人Aは、前記謀議を実行に移す段階においても、自ら主となつて、右選挙運
動員予定者に各二、〇〇〇円づつの選挙運動報酬を配り、原判示選挙運動期間(一
週間)中、毎晩のように選挙事務所に詰めており、選挙人の名前を書き入れてある
L社宅関係の地図を用意しておいて、L社宅関係の運動員から報告を聞く際、その
運動員らに『同候補者に絶対確実と思われる票には○印、反対に、全然駄目だと思
われる票には/印、手を打てば望があると思われる票には△印をつけてくれ』と依
頼し、その中、△印のついた者の中から、金をやればものになると思われる者を選
び出して被告人Bと共謀して、この者に対する投票買収資金として、一票当り五〇
〇円づつを封筒に入れて、右各選挙運動員に渡した。
 このようにして、原判示のとおり、被告人両名が共謀して、選挙運動報酬あるい
は投票買収資金として各選挙運動員に渡した一〇万円余りの現金の大半は、被告人
Aが、自ら各選挙運動員にその依頼をして手渡している
 ことが明らかに認められるのである。
 三、 ここで、目を転じて、原判示議員選挙の規模・態様・地盤・候補者の経
歴・選挙運動方法得票数等、原判示議員選挙のいわば客観的状勢ともいうべきもの
一般を、原判決の掲げる証拠及び原裁判所の取り調べた証拠に基いて概観すると
き、
 原判示議員選挙において、前記候補者は、第N区、すなわちM地区から立候補し
た新人であり、議員の定員七名のところに九名の立候補者が立ち、右候補者は、二
八七票の得票を獲得して、第六位で当選した。そして、右第N区の有権者総数は、
三、〇一〇票であり、その色分けは、大別して、O鉱業所の従業員関係の票約八〇
〇票、その余の約二、二〇〇票は一般農村部落関係者の票とに区別できる。
 右候補者は、当該地区の出身で、昭和一六年頃からO鉱業所に勤務し、立候補直
前頃までの一年間は、同鉱業所従業員労働組合副委員長をつとめており、右従業員
労働組合所属の各組合員が個人的に応援するという後だてがあつて出馬することを
決意したものである。しかし、同候補者は、かつて地元の青年学校の指導員、農協
役員、農業委員等を勤めた関係、あるいは、右鉱業所を地盤として他にも有力なP
(同鉱業所Q課長)が立候補していた関係から、一般農村部落(有権者総数の約三
分の二を占める)の縁故票もまた、選挙運動の対象、従つて、得票の予定に加えて
いたものと認められる。
 そして、右候補者は、選挙運動期間の一週間、街頭演説と個々面接に重点を置い
て選挙運動をなし、届出の選挙費用の総額は、ポスター代・新聞広告代・マイク
代・茶菓代・弁当代等で約二一、〇〇〇円であつた
 ことが認められる。
 四、 右選挙状勢を参酌しながら、二に記載した積極資料を検討すると、
 (1) 被告人Aが、候補者の妻である被告人Bと共謀して、O鉱業所関係者を
対象に、総額一〇万円以上の現金を配つたことは、前記のとおりであるが、右現金
の供与・交付に関する限り、被告人Aと被告人B両名間に、一方が他方の上位を占
め、指揮する立場にあつたものと認めることは困難である。
 なるほど、被告人両名を含む四名が集つた、前記のいわゆる選挙作戦会議ともい
うべき会合の席上、現金を配ろうと提案し、かつこの会合での主導権を握つていた
と認められる者は、他ならぬ被告人Aであり、この方針を実行に移す段階におい
て、現金一〇万円余の大半は、被告人Aの手を通じて各選挙運動員に手渡したこと
は、前記のとおりである。さらに、被告人Aは、鉱業所社宅関係の運動員からの報
告を徴し、いわゆる票読みをしているが、これとても、買収との関連においてなさ
れたものであることが明らかである。(これに反して、一般農村部落関係の票読み
をしたことは、認められない。Dの司法警察員に対する供述調書は信用できな
い。)被告人Aが、このように、いわゆる買収について、主導権を握つていたこと
が認められるのであるが、それだからといつて、同被告人が、被告人Bに比べて、
その上位を占め、これを指揮する立場にあつたものと認めるには未だ足りないもの
というべきである。
 (2) つぎに、被告人Aが関係した選挙運動の種類・範囲は、右のとおり、選
挙区中の一部であるO鉱業所関係者の票だけに限られていること及び違法な選挙運
動に限られていることを指することができる。
 農村部落関係者への選挙運動を担当したと認められる主な者はDであると、一件
記録上認められ、被告人Aが、農村部落関係者への選挙運動を直接担当したと認め
得る証拠は全く見当らない。かつ、右Dの司法警察員・検察官に対する各供述調書
をもつてしても、未だ被告人Aが、Dを指揮した形跡は全く見当らない。その他こ
のことを認めるに足る証拠は一件記録上存在しない。
 (3) 被告人Aが、前記候補者自身から選挙運動を依頼された事実は、証拠上
認められない。なお、同被告人が、右候補者が自ら担当して力を注いでいたと認め
られる街頭演説や個々面接の選挙運動に関知していたことは、証拠上認められな
い。
 五、 このように見てくると、被告人Aが、たとえ警察あるいは検察庁で、自己
が総括主宰者であつた旨を供述しているとしても、同被告人のなした選挙運動の種
類・範囲、役割・地位・立場についての比較検討、候補者とのつながり等を選挙状
勢一般を参考にしながら総合して考察するとき、原判決の掲げる証拠をもつてして
は、未だ被告人Aを総括主宰者と認定するには不十分というべきである。当裁判所
における事実取調の結果によつても、この認定を左右するに足る証拠を見出すこと
ができない。
 むしろ、候補者Cは、原審第七回公判廷で「選挙についての総責任者は自分であ
る」と供述していることが、右公判調書の記載によつて認められるが、一件記録に
現われたすべての情況を検討するとき、この供述記載こそ、採用に値するものとの
結論に到達せざるを得ない。
 それにもかかわらず、原判決が被告人Aを原判示議員選挙における選挙運動を総
括主宰した者と認定したのは、事実を誤認した違法があるというべきであり、この
誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決の中同被告人に関する
部分は、全部破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第二、 控訴趣意第一点の中、第二(被告人Bに関する事実誤認)についての判
断。
 一、 原判決が、「被告人Bは、原判示選挙に際し、候補者の為めに、その選挙
費用全部の出納を為し、その出納責任者であつたもの」と認定の上、公職選挙法第
二二一条第三項を適用して処断していることは、所論指摘のとおり、原判決文によ
り明らかなところである。
 論旨は、「被告人Bを出納責任者と認定した原判決には、採証法則に反する違法
もしくは事実誤認の違法がある。」と主張する。
 二、 (1) 原判決の掲げる証拠の中、R町選挙管理委員会委員長の検察官に
対する昭和三二年(以下、原則として、昭和三二年を省略し、単に月日だけで表示
することとする。)五月二五日附回答書(一冊八五丁)とCの検察官に対する六月
二二日附供述調書(三冊一九四五丁表)によれば、「原判示町議会議員選挙に当つ
て、その候補者Cは、立候補届出と同日の五月一一日、自ら出納責任者となる旨届
け出ている」ことが極めて明らかであるとともに、「その後における出納責任者の
異動のなかつた」こともまた一件記録上明らかである。
 (2) ところが、被告人Bに対する起訴状(一冊二八丁)によれば、その冒頭
において、「同被告人は、事実上出納一切の掌に当つていたものである」と記載さ
れ、その罪名及び罰条の欄に、公職選挙法第二二一条第三項を掲げているととも
に、原判決の掲げる関係証拠の中にも、同被告人の検察官に対する六月二〇日附供
述調書(三冊一七七三―四丁)によると、右と同じ趣旨の供述記載が認められる。
 (3) 従つて、右の(1)と(2)に記載したところを参酌して原判決文を読
むならば、原判決が「被告人Bが出納責任者である」旨認定判示した趣旨は、公職
選挙法第一八〇条第三項に基いて、当該選挙管理委員会に届出のなされた出納責任
者は、候補者本人であつて、右被告人ではないが、同被告人が事実上の出納責任者
であるという意味のものであることが、容易に理解できるのである。
 三、(一) そこで、まず、公職選挙法(以下単に法という。)第二二一条第三
項にいわゆる出納責任者のうちに、原判決のように、事実上の出納責任者が含まれ
るものであるかどうかを検討することとする。
 (二) 出納責任者の意義について。
 (1) 法第二二一条第三項にいう出納責任者の意義を考えるに当り、公職選挙
法の罰則規定を通覧するとき、出納責任者という文言は、各処に散見される。すな
わち、第二二一条・第二二二条・第二二三条の各第三項(買収及び利害誘導罪)、
第二二三条の二第二項(新聞紙・雑誌の不法利用罪)、第二二四条の二第二項(お
とり罪)、第二四七条(選挙費用の法定額違反)、第二五一条の二第一項・第二項
(当選無効)、第二五三条の二第一項(刑事事件の処理)、第二五四条(当選人等
の処刑の通知)等に現われている。しかし、出納責任者の意義・定義については、
公職選挙法上明文が存在しない。ところで、右各条文に現われた出納責任者の意義
を各別異に解釈しなければならない合理的な根拠も見出し難いところであるから、
法第二二一条第三項にいわゆる出納責任者の解釈に当つても、右各条交すべてに妥
当するよう統一的に解釈すべきであると考える。
 (2) 公職選挙法は、出納責任者の選任・届出・地位及び職務その他につい
て、第一八〇条にはじまつて第一九条までの一〇ケ条以上の規定を設けている。そ
こで、まず、これらの規定の内容を同法の罰則規定と関連させながら考えてみる
と、
 (イ)第一八〇条から一八三条の二までの五ケ条は、順次出納責任者の選任と届
出、解任と辞任、異動、職務代行、届出の効力発生について規定しているが、しか
し、これらの規定に対する罰則は、いずれも設けられていない。
 (ロ) 第一八四条は、出納責任者又は職務代行者は、選任・異動等の届出がな
された後でなければ、選挙運動のために公職の候補者のため寄附を受け又は支出を
することができないと規定し、第一八七条第一項は、選挙運動に関する支出は、原
則として、出納責任者でなければすることができないと規定し、
 右各条項に違反した者は、それぞれ第二四六条第一号・第四号によつて処罰を受
ける立前になつている。ところで、投票買収費や運動報酬等の違法な選挙運動費用
の支出は、第二二一条の罪を構成することが明らかであることから考えて、及び第
一八五条(会計帳簿の備付と記載)・第一八八条(領収書等の徴収と送付)・第一
九九条(収支報告書の提出)等の前後の規定の関連から考えて、右第一八四条ある
いは第一八七条にいう選挙運動に関する支出とは、適法な選挙運動費用の支出を意
味し、買収費等の違法な選挙運動費用の支出はこれに含まれないことが分る。この
ことも、出納責任者の語義の解釈に当つての一参考になるものと考える。
 (ハ) 第一八五条から第一九一条までの規定(但し、前出第一八七条を除
く。)の六ケ条は、出納責任者の地位 及び職務について規定する。
 これらの規定によつて、出納責任者としては、
 会計帳簿を備え、所定の事項(選挙運動に関するすべての寄附及びその他の収入
並びに支出)を記載すること(第一八五条)、選挙運動に関するすべての支出につ
いて領収書その他の支出を証すべき書面を徴すること(第一八八条)、選挙運動に
関しなされた寄附及びその他の収入並びに支出について所定の報告をすること(第
一八九条第一項)、出納責任者の辞任・解任の場合の事務引継(第一九〇条)、帳
簿及び書類の保存(第一九一条)
 をしなければならないことをそれぞれ命ぜられているとともに、これらの各規定
に違反した場合には、それぞれ第二四六条第二号及び第五号から第七号までの規定
によつて処罰される立前となつている。
 (3) 要するに、公職選挙法は、選挙運動に関する収支についての責任を明ら
かにするために、公職の候補者が出納責任者一人を選任して届け出なければならな
いものとし、もつて、選挙運動に関する収支についての一切の権限と義務を挙げて
右出納責任者に負わせることとしていることをうかがうことができる。出納責任者
の身分が、あるいは刑の加重原由ともなり、あるいは当選無効の原由ともなり得る
のは、右の法意から理解されるべきである。そして、法は、出納責任者の各種職
務・義務を各個別に具体的に規定し、もしこれに違反したときには、その義務違反
を個別的にとらえて処罰する立前をとつているのである。
 <要旨>このように見てくると、法第二二一条第三項にいう出納責任者とは、同法
第一八〇条あるいは第一八二条により、出納責任者として選任・届出のなさ
れた者をいい、同出納責任者には右選任・届出のない事実上の出納責任者を含まな
いと解すべきである。
 (三) ひるがえつて、本件について考えると、法第一八〇条第三項により、当
該選挙管理委員会に届けられた出納責任者が候補者C本人であることは上記説示の
とおりである。そして、原判決の認定によれば、被告人Bは、事実上の出納責任者
であるというのであるから、同被告人は、法第二二一条第三項にいう出納責任者に
当るものではないというべきである。それにもかかわらず、原判決が、同被告人を
右条項にいう出納責任者であるとして処断したのは、判決に影響を及ぼすことの明
らかな、法の解釈適用を誤つた違法があるから、原判決の中、同被告人に関する部
分は、全部破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第三、 控訴趣意第三点(法令の解釈適用の誤)についての判断。
 一、 原判決が、被告人Bから金一万一五〇〇円を追徴し、その理由として、
「被告人Bにおいて返還を受けた、原審相被告人Sの収受した利益たる金一万円、
Tの収受した利益たる金一〇〇〇円、Fの収受した利益たる金五〇〇円の合計一万
一五〇〇円の没収のできないことが、証拠上、明白であるから、公職選挙法第二二
四条に従つて、右価額を追徴する」旨説示していることは、所論の摘示するとおり
である。
 二、 公職選挙法第二二四条にいわゆる「前四条の場合において収受し又は交付
を受けた利益」は、没収し、又は追徴するとは、収受し又は交付を受けた者から没
収又は追徴する趣旨であることは、所論のとおりである。しかしながら、その利益
が、収受し又は交付を受けた者から供与者又は交付者に返還せられた場合において
は、その供与者又は交付者から没収又は追徴する趣旨の規定でもあると解するのが
相当である。というのは、選挙運動もしくは投票の報酬としていつたん授受された
利益又は価額は、常に国庫に帰属させ、その授受者をして犯罪に関する利益を保持
し、又は回復させないというのが、法の精神であるからである。(大審院刑事判例
集九巻一一号七七二頁、最高裁判例集一〇巻九号一三二五頁参照)
 三、 そうしてみると、原判決が、被告人Bにおいて、相被告人Aと共謀の上、
原審相被告人S・T・Fに供与あるいは交付した選挙運動もしくは投票の報酬金
が、その後になつて、これらの者から被告人に返還されたものと認定し、この返還
された金一万一五〇〇円を返還を受けた被告人Bから没収することができないた
め、右法条に従つて、その価額の追徴を言渡したのは極めて正当である。原判決に
は、所論のような法令の解釈適用を誤つた違法は全く存在しない。論旨は理由がな
い。
 第四、 破棄自判。
 以上の理由により、量刑不当に関する論旨についての判断を省略して、刑訴法第
三九七条第一項を適用して、原判決を破棄した上、同法第四〇〇条但書に従い、本
件についてさらに判決する。
 一、 罪となるべき事実。
 当裁判所の認定する犯罪事実は、原判決中、理由の冒頭において、被告人両名の
なした選挙運動についての説明箇所中、被告人Aに関して、
 「その選挙運動全般の指揮を為し、その総括主宰者であつたもの」
 との部分を削り、
 被告人Bに関して、
 「その選挙費用全部の出納を為し、その出納責任者であつたもの」
 との部分を削り、
 いずれも右箇所に、
 「その選挙運動を為し、その選挙動者であつたもの」
 と各挿入して、訂正する外、すべて原判決と同一であるから、原判決中、被告人
両名に関する部分をここに引用する。
 二、 証拠の標目。
 原判決挙示の各証拠を引用する。
 三、 法令の適用。
 (一)(1) 被告人Aの原判示第一の(一)
 被告人Bの原判示第一の(一)及び同第二の各所為は、
 (イ) 立候補の届出前に選挙運動をなした点は、いずれも、公職選挙法第一二
九条に違反し、同法第二三九条第一号・刑法第六〇条(但し、Bの右第二の所為に
ついては、刑法第六〇条を適用しない。)
 (ロ) 選挙運動者に金員の供与をなした点は、いずれも、公職選挙法第二二一
条第一項第一号・刑法第六〇条(但し、Bの右第二の所為については、刑法第六〇
条を適用しない。)
 に該当し、
 (ハ) 以上の各所為は、いずれも、一個の行為で数個の罪名にふれる場合であ
るから、その各所為について、
 刑法第五四条前段・第一〇条
 を適用して、重い選挙運動者に金員の供与をなした罪の刑をもつて処断し、
 (2) 被告人両名の原判示第一の(二)の各所為は、
 公職選挙法第二二一条第一項第一号・刑法第六〇条
 に各該当するところ、
 (この中、(6)の一括供与・交付の所為は、包括して供与の一罪であると解す
る。)
 (3) 以上の各罪について、懲役刑を選択し、
 刑法第四五条前段の併合罪の関係にあるから、同法第四七条本文・第一〇条
 により、犯情の最も重い原判示第一の(二)の(2)の罪の刑に法定の加重をな
した刑期の範囲内で、
 被告人Aを懲役六月に、同Bを懲役三月に各処し、
 (二) 被告人Bに対しては、情状により刑の執行を猶予するのが相当であると
認めるので、刑法第二五条第一項を適用して、本裁判確定の日から二年間右刑の執
行を猶予し、
 (三) 被告人Bにおいて返還を受けた、原審相被告人Sの収受した利益金一万
円、Tの収受した利益金一、〇〇〇円、Fの収受した利益金五〇〇円、合計金一万
一五〇〇円の各没収ができないことが、証拠上明らかであるから、公職選挙法第二
二四条に従つて、右被告人から右価額を追徴し、
 (四) 原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法第一八一条・第一八二条によ
り、全部被告人両名の連帯負担とする。
 以上の理由により、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 藤井亮 裁判官 中村荘十郎 裁判官 横地正義)

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