弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2被控訴人の上記敗訴部分に係る請求を棄却する。
3訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1本件控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要等
1事案の概要
,,本件は被控訴人が公有水路の整備費用を寄付金として損金の額に算入して
法人税の確定申告をしたところ,控訴人がこれは繰延資産であるとして損金算
入を一部否認して,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたため,被
控訴人が,裁決により一部取り消された後のこれらの処分の取消しを求めた事
件である。
被控訴人は,所得金額1億2388万7436円,税額4003万1100
円とする申告をしたが,控訴人は,所得金額2億1813万8222円,税額
7235万5200円,過少申告加算税の額323万2000円とする更正処
分等をしたため,被控訴人が審査請求をし,国税不服審判所長は,所得金額2
億1515万1735円,税額7133万0300円,過少申告加算税の額3
12万9000円とする更正処分等一部取消しの裁決をした。原審は,申告の
額を超えない部分の取消しを求める部分を却下したが,所得金額1億2490
万9999円,税額4036万0700円,過少申告加算税の額3万2000
円を超える部分の更正処分等を取り消して,その余の請求部分を棄却した。そ
こで,控訴人がこれを不服として控訴した。
2前提となる事実等(証拠を挙げない箇所は争いがない事実等である)。
()被控訴人による水路の整備等1
ア被控訴人は,昭和28年4月24日に設立された清涼飲料水の製造販売
等を目的とする法人であって,法人税法上の同族会社である。
イ被控訴人は,平成12年10月6日,肩書住所地周辺の土地(前原市α
×番1ほか32筆。以下「新工場建設用地」という)に工場,倉庫及び。
事務所(以下「新工場」という)を建設するため,福岡県知事から都市。
(「」。),計画法に基づく開発行為の許可以下本件開発許可というを受け
その後,同年11月15日,平成13年1月16日,同月29日,同年8
月8日及び平成14年2月8日に開発行為の変更許可を受けた。
ウ被控訴人は,本件開発許可を受けるとともに,前原市とも上記開発行為
に関する協議を行い,この協議に基づき,新工場の敷地外の土地を公園に
整備し(以下,この費用を「公園整備費用」という,また,新工場建。)
設用地周辺の農業用水路(以下「本件用水路」という)の整備工事をし。
た(以下,この費用を「本件用水路整備費用」という(乙2)。)。
エ新工場建設前の新工場建設用地付近の状況は,別紙図面2のとおりであ
り,同建設後の同付近の状況は,別紙図面1,3のとおりである(同図面
1,2の方位は向かって右側が南で,左側が北であり,また,河川や用水
路は南が上流で北方に向かって流れている。本件用水路は,別紙図面。)
1の水色で表示した水路であって,いずれも前原市が所有するものである
(本件用水路のうち,新工場建設用地の中央を南北に走っている用水路を
「中央用水路,新工場建設用地の南端を東西に走って東角から北方に走」
る用水路を「南側用水路」という(甲15,19の29,乙11,原。)。
審における被控訴人代表者)
()法令等3
ア寄付金
法人税法37条(同条につき,平成14年法律第79号による改正前の
もの。以下同じ)は「寄附金の額は,寄附金,拠出金,見舞金その他い,
ずれの名義をもってするかを問わず,内国法人が金銭その他の資産又は経
済的な利益の贈与又は無償の供与(かっこ内は省略)をした場合における
当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は経
済的な利益のその供与の時における価額によるものとすると規定し7。」(
項,その損金算入について「内国法人が各事業年度において支出した),
寄附金の額(かっこ内は省略)の合計額のうち,その内国法人の資本等の
金額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところによ
り計算した金額(かっこ内は省略)を超える部分の金額は,その内国法人
の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない(2項)。」
が,国又は地方公共団体に対する寄附金の場合「寄附金(その寄附をし,
た者がその寄附によって設けられた設備を専属的に利用することその他特
別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く)の額の合。
計額」は,前項に規定する寄附金の額の合計額(以下「損金算入限度額」
という)に算入されず,支出額全額が損金の額に算入されると規定する。
(3項1号。)
イ繰延資産
(ア)法人税法2条24号は,繰延資産を「法人が支出する費用のうち支,
出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをい
う」と定義し,法人税法施行令14条(同条については,平成18年政。
令第125号による改正前のもの。以下同じ)1項9号イは,繰延資産の
1つとして「自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は,
改良のために支出する費用」で「支出の効果がその支出の日以後1年以上
に及ぶもの」を掲げている。
(イ)法人税法基本通達8−1−3は,法人税法施行令14条1項9号イに
ついて令14条第1項第9号イ公共的施設の負担金に規定する自,「()『
己が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用』とは
次に掲げる費用をいう」とした上で「()法人が自己の必要に基づいて。,1
行う道路,堤防,護岸,その他の施設又は工作物(かっこ内は省略)の設
置又は改良(かっこ内は省略)のために要する費用(かっこ内は省略)又
は法人が自己の有する道路その他の施設又は工作物を国等に提供した場合
における当該施設又は工作物の価額に相当する金額」と定めている(甲。
22)
()申告4
ア被控訴人は,平成13年1月1日から同年12月31日までの事業年度
(以下「本件事業年度」という)に係る法人税について,法定申告期限。
までに,所得金額1億2388万7436円,税額4003万1100円
とする青色の確定申告をした(以下「本件申告」という。。)
イ本件申告の内容は,概ね,以下のとおりである(乙1。)
(ア)本件用水路整備費用
支出金額は1億0724万4072円(税抜き価格は1億0218万
7697円)である。
(イ)公園整備費用
支出金額(税抜き価格)は合計4582万6165円であり,そのう
ち,①公園用地の取得価額は1794万4951円,②道路用地の取得
価額は809万1571円,③その他の公園整備費用は1978万96
43円である。本件事業年度におけるこれら繰延資産の償却額は,全体
で543万8844円(償却期間はいずれも72月,そのうち上記①)
につき299万0825円,上記②につき134万8595円,上記③
につき109万9424円である。
(ウ)所得金額
本件用水路整備費用の支出金額(税抜き価格)1億0218万769
7円と公園整備費用の償却額543万8844円を損金に算入すると,
本件事業年度の所得金額は1億2388万7436円になる。
(エ)同族会社の留保金に対する課税
本件事業年度における留保所得金額は1億2089万0384円であ
り,そのうち課税留保金額は3345万6000円であって,これに対
する税額は351万8400円になる。
(オ)税額
本件事業年度における税額は4003万1100円になる。
()更正処分等5
ア控訴人は,平成14年9月24日付けで,所得金額2億1813万82
22円,税額7235万5200円とする更正処分及び過少申告加算税の
額を323万2000円とする賦課決定処分をした(その明細は別紙1の
とおりである。以下,これらを併せて「本件更正処分等」といい,更正処
分だけを指すときは「本件更正処分」という。。)
イ本件更正処分等に付記された理由は,概ね,以下のとおりである(乙。
2)
(ア)本件用水路整備費用
本件用水路整備費用は,新工場の建設に際して行った開発許可申請に
おいて,都市計画法32条に基づき前原市の同意協議を求めるために支
出したものであり,自己が便益を受けるために支出する費用であること
から,繰延資産に該当し,その支出の効果が及ぶ期間は,法人税基本通
,()。,達7−3−11の2()の定めにより96月8年になるそこで3
本件事業年度の償却限度額は,別紙2のとおり,895万9474円に
なる。
(イ)公園整備費用
①公園用地の取得価額の償却期間は96月,②道路用地の取得価額の
償却期間は72月,③その他の公園整備費用の償却期間は96月である
から,本件事業年度における繰延資産の償却額は,全体で441万62
81円,そのうち上記①につき224万3118円,上記②につき13
4万8595円,上記③につき82万4568円である。
(ウ)所得金額
被控訴人が損金経理を行った合計1億0762万6541円(1億0
218万7697円+543万8844円)から,本件事業年度の償却
限度額である合計1337万5755円(895万9474円+441
万6281円)を差し引いた額9425万0786円については,繰延
資産の償却超過額として本件事業年度の損金の額には算入されない。そ
こで,本件事業年度の所得金額は2億1813万8222円になる。
(エ)同族会社の留保金に対する課税
a本件事業年度の留保所得金額は,上記()イ(エ)の1億2089万4
0384円に,上記(ウ)の留保額9425万0786円を加算し,こ
れから,法人税額並びに当該法人税額に係る地方税法の規定による道
府県民税の額として法人税法施行令140条の規定により計算した金
額の合計額7820万1941円を控除した1億3693万9229
円になる。
b本件事業年度の留保控除額は,法人税法67条3項1号の規定によ
り計算した金額7648万9667円となるから,本件事業年度の課
税留保金額は,これを,上記aの1億3693万9229円から控除
した金額6044万9000円となり,これに対する税額は756万
7350円になる。
cそこで,上記()イ(エ)の351万8400円と上記bの756万4
7350円との差額404万8950円が本件事業年度の課税留保金
額に対する税額の増加額になる。
(オ)税額
本件事業年度における税額は7235万5200円になり,過少申告
加算税の税額は,この金額と本件申告に係る税額4003万1100円
との差額3232万4100円の10%である323万2000円にな
る。
()審査請求6
ア被控訴人は,平成14年11月21日,国税不服審判所長に対して審査
請求をし,同所長は,平成15年6月12日付けで,本件更正処分等のう
ち,本税の額を102万4900円,加算税の額を10万3000円につ
いて取り消す旨の裁決をしたその明細は別紙3のとおりである以下本(。「
件裁決」という。。)
イ本件裁決の理由は,概ね,以下のとおりである(甲2)。
(ア)本件用水路整備費用は,開発行為を実施することによる災害防止の
観点等からの用水路の拡幅及び被控訴人が新工場建設用地を有効利用す
るという自己が便益を受けるための公共施設の工事費用の支出であると
認められ,当該支出には対価性があることから,法人税法37条3項1
号により損金の額に算入される寄附金には該当しない。
(イ)また,本件用水路整備費用により設置された用水路は,前原市の所
有であることから,当該費用は,法人税法施行令14条1項9号イに規
定する自己が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する
費用に該当する。
(ウ)なお,控訴人は,被控訴人が本件用水路整備費用の支出の対価とし
て本件開発許可を得るという特別の利益を受けていることを理由とし
て,本件用水路整備費用が繰延資産に該当し,寄附金に該当しないとし
ているが,宅地開発等に関連して支出されたものであっても,開発区域
外であり,かつ,利用関係もない公共的施設の建設等のように対価性の
認められない支出があることにかんがみれば,当該理由は相当でなく,
その趣旨から法人税基本通達7−3−11の2は,本文かっこ書におい
て,当該負担金等から純然たる寄附金の性質を有するものを除いている
ところである。
(エ)本件用水路整備費用により設置された用水路については,減価償却
資産の耐用年数等に関する省令別表第1に掲げる構築物のコンクリート
造の下水道に該当しその耐用年数は15年と定められている。そして,
公共施設の設置又は改良のために支出する費用は,法人税法基本通達8
−2−3(繰延資産の償却期間)において,その施設又は工作物がその
負担した法人に専ら使用されるものではないときは,その施設又は工作
物の耐用年数の10分の4に相当する年数を基礎として償却することに
取り扱われているから,本件用水路整備費用である繰延資産の本件事業
年度における償却限度額(償却期間72月)は,別紙4のとおり,11
94万5961円になる。
(オ)そこで,本件用水路整備費用に係る繰延資産の本件事業年度におけ
る償却限度超過額は9024万1736円(1億0218万7697円
−1194万5961円)になるから,この金額と,控訴人が算定した
上記()イ(ウ)の9425万0786円から公園整備費用の差額1024
万2563円を控除した9322万8223円との差額298万648
7円については,本件事業年度の損金の額に算入すべきである。
(カ)本件用水路整備費用以外の金額については,被控訴人及び控訴人の
双方に争いはなく,当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由
は認められないから,本件事業年度の所得金額は2億1515万173
5円になる。そして,別紙3のとおり,税額は7133万0300円に
なり,過少申告加算税の額は312万9000円になる。
()被控訴人は,本件用水路整備費用の損金算入に関するもの以外の,公園7
整備費用の損金算入額,同族会社の留保金課税に関する留保所得金額及び課
税留保金額等並びに税額等の計算方法等については争わない。
3争点
()本件用水路整備費用は,法人税法上,寄附金と繰延資産のいずれに当た1
るか。
()控訴人らの主張は本件更正処分の付記理由と異なるものとして許されな2
いか。
4争点に関する当事者の主張
()争点()(寄附金か繰延資産か)について11
(控訴人の主張)
ア法令等の解釈
(ア)寄附金
a寄附金が法人の事業に関連を有しない場合は,利益処分の性質を持
つものと考えられるので,法人税法37条1項は「内国法人が,各,
事業年度において寄附金を支出した場合において,その寄附金の額に
つきその確定した決算において利益又は剰余金の処分による経理(か
っこ内は省略)をしたときは,第3項各号(かっこ内は省略)に規定
する寄附金の額を除き,その経理をした金額は,その内国法人の各事
業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない」と規定し,。
他方,法人が,その支出した寄附金につき損金経理をした場合,その
うちどれだけが費用の性質を持ち,どれだけが利益処分の性質を持つ
かを客観的に判断することは困難であることから,法人税法は,行政
的便宜及び公平の維持の観点から,統一的な損金算入限度額の制度を
設け,同法37条2項において「内国法人が各事業年度において支,
出した寄附金の額(かっこ内は省略)の合計額のうち,その内国法人
の資本等の金額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定
めるところにより計算した金額(かっこ内は省略)を超える部分の金
額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に
算入しない」と規定している。ただ,法人税法37条3項は,国又。
は地方公共団体に対する寄附金等の寄附金については,公益に役立つ
ような寄附を奨励するための措置として,それが費用の性質を持つか
どうかとは関係なしに,その全額を損金に算入することとし,その柱
書で「前項の場合において,同項に規定する寄附金の額のうちに次,
の各号に規定する寄附金の額があるときは,当該各号に規定する寄附
金の額は合計額は,同項に規定する寄附金の額の合計額に算入しな
い」とした上で,各号において「国又は地方公共団体(かっこ内。,
は省略)に対する寄附金(その寄附をした者がその寄附によって設け
られた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をし
た者に及ぶと認められるものを除く)の額の合計額(1号)等の。」
寄附金について規定し,これらの寄附金は,損金算入限度額の適用さ
れる寄附金から除かれる結果,その全額が損金に算入されることにな
る。
bそして,一定の支出が,寄附金に該当するかどうかの判断について
は「寄附金とは,その名義のいかんを問わず,金銭その他の資産又,
は経済的な利益の贈与又は無償の供与をいう。寄附金は,一般的に事
業活動に関係なく無償でする財産の出捐,すなわち財産の贈与である
から,現実に寄附金であるかどうかは,事業活動に直接又は明白な利
益を与えるために支出されたかどうかを基礎として判定する必要があ
る。したがって,広告宣伝費及び見本品の費用その他これらに類する
費用並びに交際費,接待費及び福利厚生費とされるべきものは寄附金
に含まれない(乙30・2019の8頁)とされている。したが。」
って,法人の事業活動に関連しない純然たる贈与であれば寄附金に該
当するが,受ける利益の対価の支出であれば寄附金には該当しない。
(イ)繰延資産
法人税法2条24号,法人税法施行令14条1項9号イは「自己が,
便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出す
る費用」で「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」を繰
延資産のつとしている。繰延資産は,その実質は費用の前払であるか1
ら,費用収益対応の原則からすれば,支出の年度にその全額を費用に計
上するのではなく,その効果が持続する期間にわたって償却すべきもの
,,「」,でありそうであればこの自己が便益を受けるの意義についても
費用収益対応の原則の観点から,その公共的施設又は共同的施設が当該
法人の事業において収益の実現に寄与することをいうものと解すべきで
ある。
(ウ)寄附金と繰延資産との関係
a寄附金は,それが法人の事業に関連を有しない場合は利益処分の性
質を持つとともに,法人が,その支出した寄附金につき損金経理をし
た場合であっても,そのうちのどれだけが費用の性質を持ち,どれだ
けが利益処分の性質を持つかを客観的に判断することは困難であると
いう性格を有するのに対し,繰延資産は本質的に前払費用としての性
格を有するということができる。ただ,法人税法37条3項各号に規
定される寄附金については,損金算入限度額の適用される寄附金から
除かれる結果,その全額が損金の額に算入されるが,これは,あくま
で,公益に役立つような寄附を奨励するための措置として,それが費
用の性質を持つかどうかとは関係なしにその全額を損金に算入するこ
ととしているのであって,上記のような寄附金の基本的性格が否定さ
れるわけではない。したがって,繰延資産のように,事業との関連を
有し,その前払費用としての性格が明らかである支出については,仮
にこれを法人が国等に対する寄附金として処理した場合であっても,
上記のような寄附金の基本的性格(利益処分であるのか,それとも費
用としての性質を有するのかを客観的に判断するのが困難であるこ
と)を有しない支出である以上,寄附金に関する法令の定めを適用す
るのではなく,費用収益対応の原則に従い,その効用が持続する期間
にわたって償却すべきである。すなわち,一定の支出が費用の前払を
本質とする繰延資産に該当するという以上,同支出は寄附金という概
念自体から除外されることになる。
b被控訴人は,法人税基本通達7−3−11の2は,まず支出から寄
附金を除外し,寄附金に該当しない支出に対し各号において繰延資産
かどうかを判断することを求めていると主張する。しかし,同基本通
達は「法人が固定資産として使用する土地,建物等の造成又は建築,
等(以下7−3−11の2において「宅地開発等」という)の許可。
を受けるために地方公共団体に対してその宅地開発等に関連して行わ
れる公共的施設等の設置又は改良の費用に充てるものとして支出する
負担金等」という特殊な金員について,固定資産の取得価額と繰延資
産のいずれに振り分けるかを定めた通達であって,抽象的一般的に繰
延資産と寄附金との振り分けの基準を明らかにしたものではない。ま
た,同通達が上記負担金等の範囲から「純然たる寄附金の性質を有す
るものは除く」と定めているのは「どう見ても純然たる寄附金と。,
しかいいようのない金銭又は施設が当該市町村に提供される」ような
場合を同通達の適用対象から除外する趣旨であり「例えば,ゴルフ,
,,場建設に関連して地元の小学校にプールの建設資金を寄附するとか
企業自体としては全く利用関係を持たない地区の簡易水道の建設工事
費の一部を負担するというような事例」のように「動機は宅地開発,
等に関連するものであっても,客観的にみて純然たる寄附金として市
町村に提供される金銭その他の資産については(中略)一般の例に,
より,地方公共団体に対する寄附金として取り扱われることはいうま
でもないところであり,本通達の本文かっこ書においても,念のため
そのことについて触れられている(乙3・5枚目)にすぎない。。」
このように,同通達の上記除外規定は,被控訴人が主張するように,
繰延資産に該当し得る支出等の中から寄附金に該当するものを除外す
るという趣旨に出たものではなく,初めから「純然たる寄附金」であ
ることが明らかで繰延資産等に該当する余地が全くない支出等につい
て,念のため,同通達の適用対象外であることを明示したものにすぎ
ない。
(エ)原判決は「自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置,
又は改良のために支出する費用であっても,寄附金に該当するものは繰
延資産とならないところ,国又は地方公共団体に対する寄附金の場合,
原則としてその寄附金の合計額全体が損金に算入され,例外的に,その
寄附した者がその寄附によって設けられた設備を専属的に利用すること
その他特別の利益がその寄附した者に及ぶと認められる場合は除かれて
(),,いることからすれば法人税法37条3項1号繰延資産となるのは
その費用を負担した法人が,その施設を専ら使用する場合又は一般の者
と比較して特別の便益を受ける場合であって,一般の者と同程度の便益
。」。を受けるにすぎないものは寄附金になるものと解されると判示する
しかし,法人税法37条3項は,その柱書の規定文言からも明らかなよ
うに,同項各号に規定する寄附金を,同条2項の例外として,同項に規
定する損金算入限度額の計算の適用対象外とする旨を定めているのであ
るから,このような例外的な取扱いがなされる「国又は地方公共団体に
対する寄附金」の範囲からさらに除くものとされる「その寄附した者が
その寄附によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の
利益がその寄附をした者に及ぶと認められるもの(同条3項1号かっ」
こ書)については,同条2項に規定する原則に戻って,損金算入限度額
の計算の適用対象となるにすぎないのであって,そのような意味を超え
て,同条3項1号のかっこ書の規定が,繰延資産の範囲を画する規範を
定めたものであると解する根拠はない。
イ本件用水路整備費用の繰延資産該当性
本件用水路整備費用は,以下のとおり,被控訴人の事業において収益の
実現に寄与しているから繰延資産に該当する。
(ア)本件用水路の位置関係・機能による便益
a本件用水路は,別紙図面1のとおり,すべて被控訴人の新工場建設
用地に接着しており,このような本件用水路の位置関係及びその役割
からすると,本件用水路の整備によって第1次的に便益を受けるのは
被控訴人である。すなわち,用水路の整備が不十分であれば,用水路
からの溢水,用水路の決壊等の被害が生ずる危険があり,これにより
敷地への浸水,地盤の崩落等の被害にさらされるのは,被控訴人の新
工場だからである。
被控訴人は,本件用水路からの溢水や工事用敷地への浸水はあり得
ないと主張する。しかし,本件用水路には,雨水のみならず,上流の
,,,土砂木材及びゴミ等が流入することにより容易に溢水することは
経験則上明らかであり,また,工場の基礎工事が不十分であれば,地
盤の崩壊の危険が生じることもあり得るのであって,本件用水路の整
備によって,被控訴人が便益を受けているのは明らかである。
b新工場建設用地が埋立てにより堤防よりも1m高くなったため,新
工場建設用地南側の上流地域の水田に水没の危険を生じさせたこと
,,,,は被控訴人も自認しているところ南側用水路の水は周囲のβ川
γ川には注がず,すべて中央用水路に注ぐ構造になっており(甲19
の3・6,南側用水路及び中央用水路の深さ及び幅が水量に応じて)
拡張されていることから,河川氾濫による被控訴人の損害を回避する
とともに,周辺住民に対する損害賠償責任を回避する役割を担ってい
るのであり,将来の賠償問題が生ずるおそれを極力回避することを視
野に入れて,本件用水路の整備を行ったものである。
(イ)本件開発許可を受けるための不可欠の費用であること
a前原市開発行為等に関する指導要綱(乙7)18条は,1項におい
て「事業主は,開発事業施行前に地元住民及び利害関係者に対し,,
開発等の計画,工事の施工方法,災害及び公害の防止対策,その他に
,,ついて協議し開発事業に伴う紛争が生じないよう留意するとともに
紛争が生じた場合は責任をもってこれを解決しなければならない,。」
2項において「事業主は前項の協議の際必要なものについては,同,
意又は承諾を得なければ開発事業に着手してはならない」と規定し。
ている。また,都市計画法32条1項は「開発許可を申請しようと,
する者は,あらかじめ,開発行為に関係がある公共施設の管理者と協
議し,その同意を得なければならない」と規定している。したがっ。
て,被控訴人が新工場建設用地の開発許可を受けるためには,地元住
民及び前原市の同意が不可欠であった。
b被控訴人の新工場は,γ川とβ川とに挟まれた約7万㎡の中州部分
を埋め立てて建設されたのであるが,この中州部分は,従来,大雨の
際に遊水機能を果たしていたことから,新工場建設に当たって,近隣
の住民から,大雨等による洪水被害等の発生を懸念し,万全の対策を
講じることや被害発生時には十分な補償を行うことを要望する意見書
が被控訴人に提出されていた(乙8,9。そこで,被控訴人は,近)
隣住民との協議を行い,洪水被害等の発生を防止するための万全の対
策を講じる約束をしなければ,地元住民の同意,ひいては,前原市の
同意を得ることはできなかった。こうした状況下において,被控訴人
は,近隣住民の,水路の位置を変えないで,しかも,水害発生防止の
ため拡幅・補強をしてもらいたいとの強い要望を受け入れ,本件用水
路の拡幅・補強工事を行ったものである。そうすると,本件用水路の
整備が地元住民の強い要望によるものであるとしても,これを受け入
れなければ,新工場建設用地の埋立ての同意を得ることができず,ひ
いては,前原市から本件開発許可を得ることは不可能であったのであ
るから,本件用水路整備費用は,前原市から本件開発許可を受けるた
めに不可欠の対価であった。
(ウ)暗渠構造
a被控訴人は中央用水路を暗渠構造としているが,これも,用水路上
部を通路として有効活用するための費用であるから,被控訴人が便益
を受けるためのものである。すなわち,建設省所管国有財産事務の手
引(乙6・77頁)によれば,付替水路は原則として開渠とすべきと
ころ,被控訴人は中央用水路に分断されている新工場建設用地を有効
,,利用するための通路を確保する必要から地元住民の了解を得た上で
前原市長に対し,原則に反した暗渠構造を許可するよう求めている。
被控訴人は,元々,新工場建設用地を分断する中央用水路の付替えを
希望していたが,地元住民の反対からこれがかなわず,その代替手段
として,中央用水路を残し,原則として許可されない暗渠構造とする
ことを計画し,自ら地元住民の了解を得た上で,前原市長に許可を求
めたのである。このように,新工場建設用地を分断する中央用水路を
暗渠構造にすることによって,新工場が東側と西側に分断されること
を防ぎ,中央用水路の上部を通路として有効利用することも可能にな
るのであるから(自動車荷重25tのトラックが通行可能の程度に整
備された,被控訴人が便益を受けるために中央用水路の整備費用。)
が支出されたことは明らかである。また,新工場建設用地は,一体利
用が可能となったことにより,1㎡当たり2470円ないし3540
円も地価が上昇した。
,,被控訴人は被控訴人が中央用水路の一部の上を通行しているのは
前原市長から通路の占用許可を受け,3年間40万0876円の使用
料を支払って得ている便益であり(甲14の1,中央用水路から受)
ける便益には当たらないと主張する。しかし,上記使用料は,中央用
水路の上部の通路を被控訴人が独占的・排他的に使用することの対価
にすぎないのであり,中央用水路を暗渠構造にしなければ,被控訴人
がその上部を通路として利用することはできず,したがって,独占的
・排他的使用の許可を得ることもできなかったのであるから,中央用
水路を暗渠構造とするための費用が,被控訴人に便益を与えているこ
とは明らかである。
b被控訴人は,暗渠構造にした理由の1つを,被控訴人の従業員の転
落防止としており,まさに被控訴人の便益を図ることにあったことを
自認するものである。また,付近住民の転落防止というもう1つの理
由については,将来の賠償問題を極力回避するという視点が含まれて
おり,これも被控訴人の便益と評価することができる。
c被控訴人は,新工場建設の際,工場立地法による緑地の制限があり
(工場立地に関する準則2条によって,緑地面積の敷地面積に対する
割合は20%とされている,中央用水路上の通路部分以外が緑地。)
帯であり,この緑地帯部分を含めて工場立地法の制限をクリアするこ
とを前提として,工場立地法に基づく申請書等を作成していた。被控
訴人は,中央用水路を暗渠構造にすることによって,その上部の通路
以外の占用許可を受けていない部分を造成計画の段階で,緑地帯とし
て確保して,工場立地法に基づく緑地面積率をクリアしたのであり,
占用許可を受けていないといいながら,中央用水路の通路部分以外の
緑地帯からも便益を受けているのである。
被控訴人は,中央用水路が設置されていなければ,その上の緑地部
分に相当する分を工場の外縁部に設置すればよいだけであると主張す
る。しかし「A工場」工場全体見取図(乙11・5枚目)及び緑地,
求積図(乙13の3)によれば,工場の外縁部はすべて緑地帯となっ
ており,しかも,中央用水路が暗渠構造から開渠構造になる部分にお
いて,新たな建物が建築中であり,新たに中央用水路上部の緑地帯部
分に相当するだけの緑地帯を設置する遊休地はない。
(エ)中央用水路等に排水していること
被控訴人は,工場排廃水及び生活廃水を浄化施設から中央用水路に,
ボーリングの水質検査の余水を南側用水路にそれぞれ排水しているので
あり,この点でも,被控訴人が本件用水路から便益を得ていることは明
らかである。
被控訴人は,前原市の行政指導に従って,浄化施設から距離が長い中
央用水路までパイプを敷設せざるを得なくなったから,中央用水路に排
水することにより便益を受けたのではなく,逆に不利益を受けたと主張
する。しかし,被控訴人主張のような行政指導がなされた事実はなく,
また,仮にそのような行政指導があったとしても,被控訴人は,開発許
可を受けるためにこれに従い,福岡県知事に対しては,自ら「新工場の
汚水は浄化槽にて処理を行い中央の水路に放流する」旨記載した開発行
為許可申請書を提出するなどこれを受忍しているのであるから,行政指
導に不満があるからといって,被控訴人が便益を得ていることを否定す
ることはできない。
ウ本件用水路整備費用が寄附金に該当しないもうつの理由1
(ア)法人税法上の「寄附金の額」とは,内国法人が金銭その他の資産又
は経済的利益の増加又は無償の供与をした場合の当該金銭若しくは金銭
以外の資産又は当該経済的な利益の価額をいうものと解されるところ
(同法37条6項,本件用水路整備費用は,本件用水路の整備工事に)
係る現地調査,図面作成,施工,材料の仕入れ等の対価である請負代金
等として,各業者に対して支出されたものであって,その支出が「金銭
その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与」に当たると解する
余地はなく,また,前原市に対して支出されたものでもないから,これ
を「前原市」に対する「寄附金の額」に該当するものと解することはで
きない。
(イ)被控訴人は,本件用水路に附合した当該工作物が前原市に寄附され
たので,本件用水路整備費用は寄附金に該当すると主張する。しかし,
当該工作物が本件用水路に附合しているとしても,被控訴人自身はこれ
を受け取っていないのであるから,当該工作物が被控訴人から前原市に
寄附されたということはできない。また,仮に当該工作物が前原市に寄
附されたとしても,それは「平成13年12月14日及び平成14年,
3月6日付け工事完了公告後」のことであって,本件事業年度の終了後
である。
(被控訴人の主張)
ア法令等の解釈
(ア)寄附金と繰延資産との関係
a当該支出が寄附金か繰延資産かを判断するに当たっては,繰延資産
となるかどうかの判断に先立ち,まず,寄附金に該当するかどうかが
判断されなければならないところ,本件用水路整備費用は「金銭そ,
の他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(法人税法37」
条6項)であって寄附金に該当し,かつ「前原市」に対する寄附金,
に該当するから,その全額が損金になるのであり,繰延資産かどうか
の判断は不要である。
bこの点,法人税基本通達7−3−11の2は,本文において「法,
人が固定資産として使用する土地,建物等の造成又は建築等(以下7
−3−11の2において「宅地開発等」という)の許可を受けるた。
めに地方公共団体に対してその宅地開発等に関連して行われる公共的
施設等の設置又は改良の費用に充てるものとして支出する負担金等
(・・・純然たる寄附金の性質を有するものを除く・・・)の額につ
いては,その負担金等の性質に応じてそれぞれ次により取り扱うもの
とする」とし,各号において「例えば団地内の道路,公園又は緑。,
地,公道との取付道路,雨水調整池等のように直接土地の効用を形成
すると認められる施設に係る負担金等の額は,その土地の取得価額に
算入する「例えば上水道,下水道,工業用水道,汚水処理場,団。」
地近辺の道路等のように土地又は建物等の効用を超えて独立した効用
を形成すると認められる施設で当該法人の便益に直接寄与すると認め
られるものに係る負担金等の額は,それぞれその施設の性質に応じて
無形減価償却資産の取得価額又は繰延資産とする「例えば団地の。」
周辺又は後背地に設置されるいわゆる緩衝緑地,文教福祉施設,環境
衛生施設,消防施設等のように主として団地外の住民の便益に寄与す
ると認められる公共的施設に係る負担金等の額は,繰延資産とし,そ
の償却期間は8年とする」と規定しており,この通達は,上記のと。
おり,本文かっこ内において,まず支出から寄附金を除外し,寄附金
に該当しない支出に対し各号において繰延資産かどうかを判断するこ
とを求めている。
(イ)仮に本件用水路整備費用について繰延資産かどうかの判断が必要で
あるとしても,法人税法基本通達8−1−3(公共的施設の設置又は改
良のために支出する費用)は「令14条第1項第9号イ(公共的施設,
の負担金)に規定する『自己が便益を受ける公共的施設の設置又は改良
のために支出する費用』とは次に掲げる費用をいう」として,その()1
に「法人が自己の必要に基づいて行う道路,堤防,護岸,その他の施設
又は工作物の設置又は改良のために要する費用」と定めている。そうす
ると,繰延資産となるためには,公共的施設等の設置又は改良の動機・
目的が「自己の必要に基づいて」いることを要するのであって「自己,
の必要に基づいて」いない設置又は改良により,結果的に何らかの便益
を受けても,繰延資産とはならないと解される。すなわち,自己以外の
者の必要に基づいて公共的施設等の設置又は改良のために費用を支出し
たことにより,自己に反射的・副次的・派生的な利益が帰属しても,そ
の費用は法人税法施行令14条1項9号イにいう「自己が便益を受ける
公共的施設の設置又は改良のために支出する費用」とはいえない。そし
て,本件用水路の設置又は改良は,付近住民の要望に基づくものである
ことが明らかであり,被控訴人の「自己の必要に基づいて」行われたも
のではない。したがって,本件用水路整備費用は,同条項の繰延資産で
はなく,単純な寄附金にすぎない。
イ上記控訴人の主張イに対する反論
(ア)本件用水路の位置関係・機能による便益
a被控訴人は,新工場建設用地を造成するに際し,その東側に接する
β川と西側に接するγ川の堤防より約1m高くなるように埋め立て
た。そのため,水路からの溢水や工場敷地への浸水はあり得ない。ま
た,水路自体の決壊や地盤の崩壊を防ぐためであれば,水路に沿って
擁壁を設置すればよいのである。被控訴人が本件用水路を整備したの
は,大雨が降った場合に新工場建設用地により雨水がせき止められ,
南側上流地域にある水田が水没することを防ぐためである。
b控訴人は,南側用水路の拡幅について,被控訴人が河川氾濫の際の
農作物に対する被害の補償責任を回避するという意味で便益を受けて
いると主張するが,被控訴人は,付近の田畑の農作物に対する被害を
防止すべく拡幅を行ったのであり,それにより補償責任が回避される
というのは派生的効果に過ぎない。
(イ)本件開発許可を受けるための不可欠の費用であること
控訴人の主張は,控訴人が本件更正処分等において行った主張と同趣
旨であるが,それが不当であることは,上記2()イ(ウ)の本件裁決の6
判断からも明らかである。なお,乙3(法人税基本通達逐条解説)の5
枚目には,本件裁決が引用する法人税法基本通達7−3−11の2の解
説として「動機は宅地開発等に関連するものではあっても,客観的に,
みて純然たる寄附金として市町村に提供される金銭その他の資産につい
ては,むろんここでいう開発負担金には含まれない」と記載されてい。
る。
(ウ)暗渠構造
a中央用水路には,南側の暗渠部分と北側の開渠部分があるが,控訴
人の主張は,開渠部分には当てはまらない。
b中央用水路のうち暗渠部分は,現在,その上部は通路部分と緑地帯
部分からなっている。通路部分については,通路として利用するため
,,,,だけであれば橋梁構造でもよく現に工場への引込み道路のうち
β川をまたぐ部分には橋が架けられている。控訴人の主張は,暗渠に
しなければ通路にできないことを前提にするようであるが,そのよう
なことはない。なお,被控訴人が中央用水路の一部の上を通行してい
るのは,前原市長から通路の占用許可を受け,3年間40万0876
円の使用料を支払って得ている便益であり(甲14の1,中央用水)
路から受ける便益には当たらない。
c中央用水路のうちの南側部分は,造成計画の段階で,既にボックス
カルバートを採用することが決定され,暗渠構造にすることになって
いたのであり,それは,通路以外の部分を緑地帯にするためであった
と考えられる。すなわち,現在の新工場建設用地の地表は,ボックス
カルバートの底面(もとあった素掘りの水路の底の高さと同じ)から
計ると約3mの高さであるから,被控訴人の従業員(工場用地に接す
る部分)や付近の住民(道路に接する部分)の転落を防ぐため,暗渠
構造にし,地表に樹木を植栽して緑地帯にすることにしたと考えられ
る。なお,被控訴人は,緑地帯部分の占用許可を受けておらず,同部
分を使用することはできない。
d大規模開発の場合,開発区域内にある水路や里道等の公共施設は付
。,,替え又は払下げを行うのが通常である本件の場合里道については
払下げがなされたが,被控訴人としては,水路についても付替えを行
い,中央用水路の位置にあった素掘りの水路を閉鎖し,上流(南側)
からの水をβ川に排水する予定であったが,周辺の住民が従前の位置
,,に水路を残すように強く要望したため被控訴人がこれを受け入れて
中央用水路が設置されたのである。したがって,中央用水路を暗渠構
造にするかどうかという以前に,中央用水路が残り,工場用地がこれ
によって2分されたこと自体が被控訴人にとって不利益となるのであ
る。
e控訴人は,中央用水路の上に設置された緑地部分を加えないと全体
の緑地部分の面積が新工場建設用地の面積の20%を超えないと主張
,,するが緑地部分の面積を工場用地の20%以上にしさえすればよく
これをわざわざ工場用地の中央部に設置しなければならないというこ
とはなく,中央用水路が設置されていなければ,その上の緑地部分に
相当する分を工場の外縁部に設置すればよいのであるから,新工場建
設用地を分断する中央用水路上の緑地部分は,新工場の利便性を阻害
するものである。
(エ)中央用水路等に排水していること
a被控訴人は工場廃水及び生活廃水を浄化施設から中央用水路に,ボ
ーリングの水質検査の余水を南側用水路にそれぞれ排水しているが,
被控訴人としては,中央用水路の拡幅がなくても,これらの排水をす
ることができたのであるから,中央用水路の拡幅によって便益を受け
たことにはならない。ボーリングの水質検査の余水の南側用水路への
排水は一時的なものにすぎないし,また,南側用水路の拡幅がなかっ
たとしても当然行うことのできる性質の排水である。
b被控訴人の浄化施設は,新工場建設用地の東南角に位置しており,
被控訴人としては,浄化施設から直接東側のβ川に放流するほうが,
パイプ敷設の距離が短く費用も安いにもかかわらず,前原市の行政指
導に従って(甲10・5項,甲11・3項,浄化施設から遠い中央)
用水路までパイプを敷設せざるを得なくなり,そのための費用も増大
したのであって,中央用水路に放流することによって便益を受けるど
ころか,不利益を受けたのである。
ウ上記控訴人の主張ウに対する反論
(ア)被控訴人は,各業者に対して請負代金等を支払ったのであるが,被
控訴人はこれらの工作物を自ら受け取ることなく,すべて前原市の所有
に属する本件用水路上に設置されているから,これらの工作物は,平成
13年12月14日及び平成14年3月6日付け工事完了公告後,前原
市の本件用水路の所有権と附合して(民法242条,いずれも前原市)
に所属している。したがって,被控訴人による各業者に対する請負代金
等の支出によって製造された工作物が前原市に寄附されたことは明らか
である。
(イ)控訴人は,前原市に寄附されたのは本件事業年度の終了後であると
主張するが,附合の効果は,本件用水路の工事が施工されるごとに生じ
ており,これは本件事業年度内のことである。
()争点()(付記理由)について22
(被控訴人の主張)
本件申告は青色であるところ,本件更正処分には,本件用水路整備費用が
繰延資産に該当する理由について「用水路整備費用についても,新工場の,
建設に際して行った開発許可申請において,都市計画法第32条に基づき前
原市の同意協議を求めるために支出したものであり,自己が便益を受けるた
めに支出する費用であることから,繰延資産に該当することとなります」。
と付記されているそして上記()の被控訴人の主張イの(ア)(ウ)(エ)。,,,1
及びウは上記付記理由と同一性のないものであり,同イの(イ)は上記付記理
由を大幅に拡充し拡張したものであって同一性がなく,いずれの主張も許さ
れない。
(控訴人の主張)
控訴人は,本訴において,繰延資産該当性に係る本件用水路整備費用の対
価性に関して,本件更正処分時には明示しなかった根拠を付加しているが,
訴訟においては,納税義務者の主張に応じて,詳細な根拠をもって反論する
必要から,更正処分時に明示されなかった根拠を付加することも訴訟活動に
は不可欠であるから,このことをもって,更正処分庁の恣意抑制及び不服申
立ての便宜といった理由付記制度の趣旨を没却することにはならない。実質
的に考えても,本件における争点は,被控訴人が本件用水路整備費用を支出
した理由及び被控訴人がこれにより便益を受けているかという点に限られて
おり,被控訴人の防御に不利益をもたらすような理由が付加されたものでは
ない。したがって,上記()の被控訴人の主張イ(ア)ないし(エ)を主張する1
ことは許される。
第3争点に対する判断
1争点()(寄附金か繰延資産か)について1
()証拠(甲2,8,9の1・2,12,14の1・2,15ないし17,11
,,,,,,8の1ないし319の1ないし2920の1ないし7212325
31ないし36,乙5,7ないし12,13の1ないし3,14,15,19
の1ないし3,32,原審における被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。
ア新工場建設前,新工場建設用地は,西側のγ川と東側のβ川とが合流する
水田約7万㎡のほぼ三角形の土地であった。素掘りの水路であった中央用水
路とU字溝の水路であった南側用水路は,上記水田及びその南側の水田の農
業用水や雨水を排水し,大雨のときには新工場建設予定地の水田は冠水する
ことがあり,これにより,この水田が遊水機能を果たしていた。
イ被控訴人は,新工場建設用地を造成するためこの水田を埋め立て,かつ,
同建設用地を一体として利用するため,中央用水路の素掘りの水路を閉鎖し
て,用水路の付替えを行い,南側から流れてくる水をβ川に排水することを
計画していた。ただ,これを実現するためには,新工場建設用地の農業振興
地域からの除外,都市計画法32条(公共施設の管理者の同意等)に基づく
前原市長の同意,前原市開発行為等に関する指導要綱5条(事業主は,関「
係法令等による申請又は届出を行う前若しくは開発事業を施行する前に,本
要綱に基づく公共・公益施設の基本計画及び費用負担ならびに維持管理等に
ついて協議し,市長の同意を得なければならない。なお,計画変更等につい
ても同様とする,6条(1項「前条の協議の結果,合意に達した協議事。」)
項について,事業主は,市長との間に協議書を締結しなければならない,。」
2項「事業主は,前項の協定書の締結後でなければ当該事業に着手してはな
らない,18条(1項「事業主は,開発事業施行前に地元住民及び利害。」)
関係者に対し,開発等の計画,工事の施工方法,災害及び公害の防止対策,
その他について協議し,開発事業に伴う紛争が生じないよう留意するととも
に,紛争が生じた場合は責任をもってこれを解決しなければならない,。」
2項「事業主は前項の協議の際必要なものについては,同意又は承諾を得な
ければ開発事業に着手してはならない)に基づく協議や同意等といった。」
手続を履践する必要があった。
ウ上記手続の履践のため,被控訴人が福岡県,前原市及び地元住民との間で
行った協議等の経過は次のとおりである。
(ア)δ,ε,ζ及びηの農区長並びに行政区長は,平成7年9月,農業
振興地域除外申請について「①申請の場所はγ川・β川の中間にあた,
り大雨の場合は遊水機能を果たしていた所であるが,埋め立てることに
より大雨の場合,急激な水の増加による河川の堤防の浸食又は決壊を懸
念している。よって,河川管理の県河川課及び前原市土木事務所,市関
係各課の適切な埋立て指導と河川の堤防の万全を期すため護岸の強化を
お願いする。②遊水地(調整地機能)−当該所有地北側9500㎡は遊
水地機能を果たすため,現在地の高さの開発がなされるようであるが,
果たしてこの程度の面積でよいか市当局の検討と指導を強くお願いす
る。③埋立て高−遊水地以外の工場敷地の埋立ては堤防より20㎝以内
の埋立て程度を要望する」などといった意見を出した(乙9。。)
(イ)θ町内会は,平成7年10月,農業環境及び災害防止の観点から,
「①β川・γ川の合流地点の農地を埋め立てるに際し,大雨による上流
からの洪水により農地・農作物等に被害が発生しないよう,用水路の拡
幅を含めての工事について十分な調査を行い工事に着手すること,②被
控訴人が埋立工事を行った後,大雨等による河川決壊等で農地,農作物
等に被害が発生した場合,被控訴人は地権者に対し十分な補償を行うこ
と」などの条件を付けて,農業振興地域除外申請を承諾した(乙8。)
(ウ)地元農業委員,ι行政区長及びι農区長・水利委員は,平成7年1
1月6日,上記(イ)と同様な条件を付けて,農業振興地域除外申請を承
諾した(甲12。)
(エ)被控訴人は,平成11年10月18日に,福岡県土木部用地課と協
議を行い,その際,福岡県は,被控訴人に対し「①中央用水路は,計,
画では暗渠であるが,管理上の問題があるため,原則として認められな
いものの,暗渠であっても適切な維持管理ができる構造であれば認める
ことも考えられるため,暗渠にできるのかどうか,できるとすれば,ど
のようなものかについて検討すること,②中央用水路には外部から入れ
るようにする必要があること,③中央用水路は,全面占用することはで
きないが,必要最小限の横断通路部分の占用は可能であること」などを
伝えた(甲2。)
(オ)被控訴人は,平成11年11月3日,δ校区役員との間で協議事項
を取りまとめたが,その内容は「①埋立て・造成計画については,悪,
質土による埋立ては行わないよう厳重管理し,造成の高さは堤防なみの
造成高とすること,②雨水排水路については,東の本溝は600のO
現況どおりとし,西の本溝は1500角の暗渠とすること,③移転予定
地南側農地冠水補償については,洪水時,造成が原因で冠水し,被害が
発生したものについては,誠意をもって補償に当たること」などであっ
た(甲9の1・2。)
(カ)被控訴人は,前原市長に対し,平成11年11月8日付けの「中央
水路の暗渠化及び堤防敷き埋立,公園の設置について協議書(乙5)」
を提出した。その内容は「①用水路について,地元協議の中で,付替,
えを含めたルートの変更を要望してきたが,現況どおりとの地元の要望
が強く,現在の位置を変えずに施工することとする。②新工場建設用地
の利用の面から,中央用水路を暗渠構造とすることで地元の了解を得て
いる。③用水路敷きについて必要最小限の幅を通路として占用許可を得
たい」というものであった。。
(キ)被控訴人は,平成12年6月12日,前原市長に対し,都市計画法
32条(公共施設の管理者の同意等)に基づいて,開発行為に関する協
議を求めたところ,前原市農林土木課長は,同月23日,同条協議書締
結の事前確認として「①大雨等の被害に関し,関係者と十分協議する,
こと,②中央用水路に布設するボックスカルバートについては,一体利
用しないことで施工に同意すること,③占用については,必要最小幅で
申請を行うこと」という条件を付して同意した(乙10。)
エ被控訴人代表者は,平成12年6月6日,新工場建設用地内の里道(雑種
地2637.39㎡)について,国との間で売買代金1530万円とする売
買契約を締結した(甲25。また,被控訴人は,中央用水路の上の一部を)
通路として使用するため,前原市長に対し,平成12年6月22日付けで占
用申請を行い,同市長は,平成13年3月8日付けで占用許可をした(甲1
4の1・2。占用許可面積376.7㎡,占用許可期間・平成12年11月
,)。,15日から平成15年3月31日まで使用料40万0876円その後
平成15年5月19日付けで,占用許可期間同年4月1日から平成18年3
月31日までの占用許可がなされている(乙32。)
オ被控訴人は,地元住民等の要望を受け入れ,用水路の付替えはしないこと
とし,大雨が降った場合に,南側上流域の農地や農作物に水没による被害が
及ばないように,水害防止を可能とする程度の流量を確保した上で,既存の
中央用水路と南側用水路を整備することにした。そして,新工場は平成14
年2月ころに完成し,翌3月ころから稼動を開始した。
カ本件用水路等の工事内容や利用状況等は次のとおりである。
(ア)新工場建設用地全体は,河川が増水しても新工場が冠水することの
ないよう,両川岸の堤防より約1m高くなるように埋め立てられ,2な
いし3mの盛り土がなされた。そのため,新工場建設用地は南側の水田
よりも一段高くなっている。
(イ)中央用水路に施工された工事内容は,既存の水路を掘削し,コンク
リート製の基礎を造り,その上部に1辺1.5mのボックスカルバート
を埋め込み,その上に約2.5m覆土し,表面をコンクリート敷きとし
て,7か所の通路以外は,周囲を縁石で囲ってその内側に植栽し,緑地
帯にするというものであった。被控訴人は,この暗渠部分のうち,占用
許可をもらった道路部分を舗装して通行に使用し,また,上記緑地帯に
ついては,工場立地法(乙12)に基づき,平成13年2月20日付け
,,で福岡県知事に対し中央用水路上の緑地帯の面積を含めた緑地面積の
敷地面積に対する割合が20%を超えている旨を届け出た(乙13の1
ないし3。なお,使用許可を受けていない緑地帯部分との間に柵等は)
なく,立入りは容易であり,工場と一体となって使用されている。
(ウ)中央用水路は,別紙図面1の①から②までは暗渠となっており,同
②から北側は開口となっている。大雨のときのために,同③に調整池が
設けられており,ここに貯水された雨水は中央用水路の開口部に流れ込
むようになっている。被控訴人は,工場廃水は新工場建設用地の東南角
に設置した排水の排水処理設備で,生活廃水は中央用水路近くに設置し
た浄化槽でそれぞれ浄化し,これを中央用水路に排水している。
この点について,被控訴人は,β川に放流するほうが安価であるにも
かかわらず,前原市の行政指導があったため中央用水路に排水すること
になったと主張し,なるほど,甲10,11によれば,福岡県及び前原
市が中央用水路に排水することを求めていたことがうかがわれるが,そ
の趣旨が,用水路の付替えはできないので残存する中央用水路に排水す
ることを求めているのか,中央用水路の残存が確定したので当然にここ
に排水することを求めているのか,或いは,排水の方法としては中央用
水路とβ川があるがそのうち中央用水路に排水するよう求めているのか
(被控訴人の主張はこの趣旨と考えられる,いずれの趣旨か不明で。)
あり,他に被控訴人の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(エ)南側用水路は,主として,新工場建設用地の南側の水田が水没しな
いように幅,深さ40㎝のU字溝がそれぞれ1.2mに拡幅されたもの
であり,また,被控訴人は,新しく掘った井戸の水質検査で余った水を
一時的に排水している。そして,南側の水田から南側用水路に流入した
水は西から東に流れ,中央用水路に流入するとともに,さらに東に流れ
て北に向きを変えβ川に流入している。
()以上の事実及び上記第2の2の事実に基づいて検討する。2
ア本件用水路が整備された理由
新工場建設用地は,もと水田であって,大雨のときには遊水地としての
機能も有していたところ,被控訴人が同建設用地に新工場を建設するとす
れば,同建設用地は埋め立てられて高くなるため,地元住民等は,本件用
水路の拡幅整備,調整池の設置,埋立て高を低くすることなどを要望し,
それでも冠水被害があった場合には補償をするよう求めてきた。そこで,
被控訴人は,これらの要望に答えるため,その趣旨に沿って本件用水路を
拡幅整備した。一方,中央用水路については,被控訴人は当初その閉鎖を
計画していたが,防災上困難なことからこれを存続させることになり,そ
,。,,のため新工場建設用地は分断されることになったそこで被控訴人は
水路は開口を原則としているが(乙6,同建設用地を一体として利用す)
るため,地元住民等の同意を得て,中央用水路のうち新工場敷地部分を貫
通する部分を暗渠構造に整備し,その上部に飛び飛びに緑地帯を設置して
各緑地帯の間を舗装し,この舗装部分について,占用許可を得た上で通行
に使用している。また,南側用水路の北側に有刺鉄線の柵を設けて工場内
への侵入ができないようにしているが,同水路中央付近からの中央用水路
への流入排水もできるように一体として使用がされている。
イ繰延資産に該当する理由
法人税法施行令14条1項9号イは,繰延資産の1つとして「自己が,
便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する
費用」で「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」を挙げて
いる。上記アのとおり,被控訴人は,南側の水田が水害に遭った場合の補
償負担を免れるために本件用水路の拡幅整備を行うとともに,新工場建設
用地を一体として利用するために中央用水路を暗渠構造に整備したもので
あるから,被控訴人が本件用水路の整備によって便益を受けることは明ら
かであり,しかも,その効果は支出の日以後1年以上に及ぶものと認めら
れる。なお,法人税法基本通達8−1−3は,法人税法施行令14条1項
9号イについて「令14条第1項第9号イ(公共的施設の負担金)に規,
定する『自己が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する
費用』とは次に掲げる費用をいう」とした上で「()法人が自己の必要。,1
に基づいて行う道路,堤防,護岸,その他の施設又は工作物(かっこ内は
省略)の設置又は改良(かっこ内は省略)のために要する費用(かっこ内
は省略)又は法人が自己の有する道路その他の施設又は工作物を国等に提
供した場合における当該施設又は工作物の価額に相当する金額」と定めて
いるところ,本件用水路の整備は,まさに被控訴人が自己の必要に基づい
て行ったものということができる。したがって,本件用水路整備費用は法
人税法上繰延資産に該当するというべきである。
これに対し,①平成14年11月,被控訴人は,前原市長,δ水利組合
長及びδ行政区長会会長に対し「本件用水路の整備工事については,完,
成後,地元農業者の農業用水路として専ら利用されており,被控訴人は利
用していないのであって,当初の工場建設に必要があったためではなく,
地元の要望に答えるものであったが,これに対する見解を求める」旨の。
照会に対し,いずれも,そのとおり相違ない旨を回答している(甲13の
1ないし4。また,甲2によれば,②前原市長は,本件更正処分等に関)
する審査請求手続の際の国税不服審判所からの照会に対し「本件用水路,
の整備については,法令又は条例等を根拠とするものではないが,開発区
域及び隣接地に未整備水路があり,開発申請に当該未整備水路の整備計画
がない場合は,行政指導として整備を要請することとしており,また,上
記①の回答をしたのは,中央用水路等については,地元の要望どおり,付
替えを行わず現況の位置とし,水路断面の決定が上流域からの流出量に大
,,きく作用されており開発区域内の水路占用を車両通行部分しか許可せず
被控訴人の敷地として一体利用できなくなっていることからである」旨。
を回答していることが認められる。しかしながら,これらの回答は上記認
定と矛盾するものではなく,本件用水路整備費用をもって繰延資産とする
判断を左右するものではない。
ウ寄附金に該当しない理由
法人税法上の寄附金とは,その名義のいかんを問わず,金銭その他の資
産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与のことであり(同法37条6
項,無償を要件とするものであるから,対価又はそれに相当する金銭等)
の流入を伴わないものを意味していると解すべきである。そうすると,本
件用水路整備費用は,上記アのとおり被控訴人に便益をもたらすものであ
るから,対価性があり,寄附金には該当しないというべきである。
なお,法人税法は,行政的便宜及び公平の維持の観点から,統一的な損
金算入限度額を設け,寄附金のうちその範囲内の金銭は費用として損金算
入を認め,これを超える部分の金額は損金に算入しないこととし(37条
2項,例外として,公益に役立つような寄附を奨励するための措置の1)
つとして,国又は地方公共団体に対する寄附金の場合,寄附をした者がそ
の寄附によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益
がその寄附をした者に及ぶと認められる場合を除いて,それが費用として
の性質を持つかどうかとは関係なしに,その全額が損金に算入されるとす
る(37条3項1号。そして,寄附をした者がその寄附によって設けら)
れた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に
及ぶと認められる場合が除外されているのは,それが形式上は寄附金であ
っても,対価性があることから,実質的には寄附金といえないため,全額
損金算入としては扱わないことにしたものである。したがって,上記規定
は繰延資産の範囲を定めるものではないし,また,その解釈によって繰延
資産の範囲を画定することもできないというべきである。
また,法人税基本通達7−3−11の2(乙3)は「法人が固定資産,
として使用する土地,建物等の造成又は建築等(以下7−3−11の2に
おいて「宅地開発等」という)の許可を受けるために地方公共団体に対。
してその宅地開発等に関連して行われる公共的施設等の設置又は改良の費
用に充てるものとして支出する負担金等」という個別具体的な場合におい
て,固定資産の取得価額と繰延資産のいずれに振り分けるかを定めたもの
にすぎず,同通達が「純然たる寄附金の性質を有するもの」を適用外と,
しているからといって,被控訴人主張のように,寄附金と繰延資産との振
り分け方法一般を定めているものと解することはできない。
2争点()(付記理由)について2
上記1のイの認定に対応する控訴人の主張は,本件更正処分の付記理由(上
記第2の2()のイ(ア))と異なるものである。しかしながら,いずれも,本5
件用水路整備費用が法人税法施行令14条1項9号イの「自己が便益を受ける
公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用」に当たると
する点は同一であって,ただ,付記理由では,新工場の建設に際して行った開
発許可申請において都市計画法32条に基づく前原市の同意協議を求めるため
に支出したことを理由としているのに対し,本件訴訟における控訴人の主張及
び当裁判所の認定は,被控訴人が南側の水田が水害に遭った場合の補償負担を
免れるために本件用水路の拡幅整備を行うとともに,新工場建設用地を一体と
して利用するために中央用水路を暗渠構造に整備したことを理由としているに
すぎず,事実に対する評価の仕方が異なるのみで,訴訟上被控訴人に格別の不
利益を与えるものとはいえない。そして,仮に一般的に青色申告についてした
更正処分の取消訴訟で更正処分の付記理由とは異なる主張が制限されるとして
も,このような場合には,その主張は許されるものと解すべきである。
3以上のほか,上記第2の2()ないし()の事実等,証拠(乙4)及び弁論の46
全趣旨によれば,被控訴人の本件事業年度における法人税について,所得金額
は2億1515万1735円,税額は7133万0300円,過少申告加算税
の額は312万9000円と認めることができる。
第4結論
以上によると,被控訴人の請求は原判決において却下された部分を除き失当
としてこれを棄却すべきであるから,これと結論を異にする原判決中,控訴人
敗訴部分を取り消し,被控訴人の請求を棄却することとする。
福岡高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官牧弘二
裁判官川久保政徳
裁判官増田隆久

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