弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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(省略)
主文
被告人を懲役7年以上12年以下に処する。
未決勾留日数中360日をその刑に算入する。
理由
[罪となるべき事実]
第1被告人(当時16歳)は,Aとの間で,Aから大麻合計約2gを代金1万3
000円で譲り受ける約束をした上,みだりに,
1平成25年7月28日頃,岡山県津山市内マンションにおいて,Aから,大
麻合計約2gの代金として1万3000円を支払って,大麻草約1gを譲り受
け,
2同年8月6日頃,同市内のレストラン駐車場において,Aから,大麻草約0.
5gを譲り受けた。
第2被告人(当時17歳)は,平成26年5月,Bと知り合い,その頃から同年
7月頃まで交際していた。被告人は,同年6月頃,Bから,Bの父親が暴力団
の幹部であり,大麻1㎏を無償で入手することができるなどという話を聞き,
大麻を売って金を稼ごうと考え,当時の勤務先を辞め,大麻を付けで買うなど
するようになった。ところが,被告人は,同年8月半ば頃,兄からBの父親が
暴力団関係者ではないことを聞かされ,Bに対し,被告人にした話がうそかど
うか確認したが,Bはうそであるとは認めなかった。そこで,被告人は,Bに
直接謝罪させようと考え,同月20日,誕生日プレゼントを渡すことを口実に
して,Bを呼び出した。
被告人は,
1同日午後5時頃,同市内の歩道上に駐車中の軽四乗用自動車(以下,単に
「軽四自動車」という。)内において,B(当時26歳)が,被告人に謝罪し
ないばかりか,カッターナイフを右手で取り出し,左手で被告人を押すなどし
て降車を求めたことなどに激高し,Bに対し,殺意をもって,その前頸部に
持っていた万能はさみの片刃(刃体の長さ約6.9cm。(省略))を1回突
き刺し,よって,その頃,同所において,左総頸動脈,左内頸静脈及び左鎖骨
下静脈の損傷による失血によりBを死亡させた。
2業務その他正当な理由による場合でないのに,前記第2の1記載の日時場所
において,前記万能はさみの片刃1本を携帯した。
3前記第2の1記載の日時場所において,B所有の現金7000円を窃取した。
4同日午後5時6分頃,Bの死体を積載した軽四自動車を運転し,前記第2の
1記載の歩道上から同市内の山道脇までBの死体を運搬した上,同日午後5時
30分頃,同所において,軽四自動車を放置してBの死体を遺棄した。
5同日午後5時6分頃,同市内の道路において,公安委員会の運転免許を受け
ないで,軽四自動車を運転した。
[証拠の標目]
(省略)
[事実認定の補足説明]
本件の事実認定に係る争点は判示第2の1における殺意の有無である。
関係証拠によれば,被告人は,万能はさみの片刃(刃体の長さ約6.9cm。以
下,単に「はさみの片刃」という。)を右手で逆手に持ち,軽四自動車の助手席に
座り込みながら,運転席に座っていたBの上半身に刺さることを認識しながら,手
加減することなく力一杯振り抜いたこと,その結果,はさみの片刃をBの前頸部に
刺してBを失血死させたことが認められる。このような被告人の行為は,Bを死亡
させる危険性の高い行為であることは明らかであり,被告人はそのような自らの行
為を認識していたのであるから,被告人に殺意があったこともまた明らかである。
弁護人は,被告人は,うそをついたBに謝罪をさせたかっただけで,一定の危害
を加えることは想定していたが,殺害することまでは考えておらず,Bを殺害する
動機はなかったこと,被告人は,はさみの片刃について,Bからの攻撃に対抗する
ための護身用のために自宅から持ち出したことなどを指摘して,被告人には殺意が
認められないと主張するが,弁護人の前記指摘は,いずれも被告人が計画的に犯行
に及んだものではないことをうかがわせる事情にすぎない。被告人は,その供述に
よっても,犯行の直前,Bが謝罪しないばかりか,カッターナイフを取り出したこ
とに激高したものであり,Bに対して激しい怒りを抱いていたものと認められる
(なお,Bがカッターナイフを取り出したなどという被告人の供述は,軽四自動車
の運転席ドア内側のポケットからカッターナイフが発見されていること,被告人
は,Bがカッターナイフを取り出したというものの,刃は出ておらず,それで被告
人を攻撃することもなかったとも述べており,被告人に一方的に有利な内容ばかり
を供述するものではないことなどから,信用できる。)。このような動機に関する
事情は,むしろ被告人が殺意を有していたことを裏付けるものといえる。その余の
弁護人の指摘する事情を検討しても,当裁判所の判断は左右されない。
以上によれば,被告人には殺意が認められ,殺人罪が成立する。
[法令の適用]
罰条
判示第1の1,2の行為
包括して大麻取締法24条の2第1項
判示第2の1の行為刑法199条
判示第2の2の行為銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条
判示第2の3の行為刑法235条
判示第2の4の行為刑法190条
判示第2の5の行為道路交通法117条の2の2第1号,64条1項
刑種の選択
判示第2の1の罪有期懲役刑を選択
判示第2の2,3,5の各罪
いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示
第2の1の罪の刑に法定の加重)
宣告刑少年法52条1項(本件は,平成26年法律第23号
の施行前の行為と施行後の行為が併合罪関係にある場
合であり,これらの行為のうち,同法施行後の行為に
係る罪のみについて同法による改正後の少年法52条
1項の規定を適用することとした場合に言い渡すこと
ができる刑が,平成26年法律第23号施行前の行為
を含むこれらの全部の行為に係る罪について同法によ
る改正前の少年法52条1項及び2項を適用すること
とした場合に言い渡すことができる刑より重い刑とな
るときであるから,平成26年法律第23号附則2条
ただし書により,その重い刑をもって言い渡すことが
できる刑とする。)
未決勾留日数の算入刑法21条(360日)
訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
なお,判示第1の1,2の犯行により被告人が譲り受けた各大麻草については,
証拠によれば,被告人が全量費消しているから,没収の言渡しをしない。
[処分及び量刑の理由]
1少年法55条に基づく家庭裁判所への移送の可否
弁護人は,被告人が本件各犯行に及んだ動機には,幼少時の母との離別体験
や不安定な家庭環境の影響による被告人の精神的な未熟さが影響していること,
本件殺人は突発的なものであり,被害者がカッターナイフを取り出すなどした
ことに対する程度を越えた防衛と対抗という面があること,被告人には本件各
犯行の一部について自首が成立すること,少年審判時よりも被告人の内省が深
まっており,家族関係も改善しつつあること,被告人の問題点を改善するには
少年院での教育が有効であることなどから,少年法55条に基づき,本件を家
庭裁判所に移送するのが相当であると主張する。
殺人についてみると,本件は被害者の言動をきっかけとした突発的な犯行で
はあるが,被告人は,被害者の上半身に刺さることを認識しながら,はさみの
片刃を握った手を力一杯振り抜き,被害者を殺害しているのであって,態様は
危険で悪質性の高いものである。
確かに,少年調査記録(省略)や,弁護人請求の私的鑑定人の公判供述等に
よれば,被告人には,規範意識が低く,適切な問題解決能力が備わっていない
など精神的に非常に未熟な面がある。このような被告人の資質が,本件各犯行
の動機に影響を与えていることは否定できないところ,不安定で規範意識の育
ちにくい家庭環境や両親等の被告人に対する関わりが不十分であったことなど
が背景にあるものと考えられる。被告人は,平成26年3月には交友関係のト
ラブル等から腹部を果物ナイフで刺して自殺未遂をするに至っているが,その
後も両親等から適切な支援等を受けることができていない。少年である被告人
が,このような資質上の問題を有していることは一定程度被告人に有利に考慮
することはできるが,被告人の知的能力,生活歴等も踏まえると,その責任を
大きく減少させるものとはいえない。
また,被害者は当時26歳の成人であったところ,当時17歳の少年であっ
た被告人に対し,大麻の売人となることを唆すかのようなうそを言い,うそで
あることを知った被告人から謝罪を求められてもこれを拒絶し,カッターナイ
フを持ち出すなどしており,被害者に適切さを欠いた言動があったといわざる
を得ない。もっとも,そもそも大麻の取引自体が違法で反社会的な行為であり,
被害者にうそをつかれたとはいえ,そのような取引で利益を得ようと考えたこ
とについては,酌むべき事情があるとはいえない。また,被害者は,カッター
ナイフを取り出してはいるものの,被告人に対し,降車を求めただけであり,
危害を加えようとしたものではなく,その余の言動を考慮しても,被害者に殺
されなければならないような落ち度があったとまではいえない。
そして,被告人は,判示第2の1,2,4,5の各罪について,犯行の数日
後に自首しているが,他方で,被害者を殺害した直後,被害者の財布から現金
を窃取し,死体を遺棄する等の各犯行を行っている。被告人は,死体遺棄現場
から立ち去る際,死体を燃やそうとして軽四自動車内に火を付けた上,後日,
死体遺棄現場に戻り,凶器や被害者の携帯電話機を捨てるなどの罪証隠滅行為
にまで及んでいる。犯行後の情況は悪質である。
そうすると,その余の弁護人の主張を検討しても,本件各犯行に及んだ被告
人を保護処分に付することが社会的に許容されるような特段の事情があるとは
到底認められない。大麻取締法違反は殺人の動機と関連しており,また,その
余の各犯行は,殺人と一連のものであるから,被告人に対しては,全体として
刑事処分を科すのが相当である。
2量刑の理由
殺人については,前記のとおり,態様は危険で悪質性の高いものである。犯行
により被害者の尊い命が奪われたものであって,結果は極めて重大であることは
いうまでもない。まだ年若い被害者を失った遺族らの悲しみは深く,意見陳述を
して厳しい処罰感情を示しているのも当然である。前記のとおり,被告人は,資
質上の問題の影響や,被害者の言動がきっかけとなって犯行に及んだものであり,
この点については,被告人に有利に考慮することはできるが,被告人の責任を大
きく減少させるような事情は認められない。その上,犯行後の情状も悪質である。
以上の事情に,同種事案の量刑傾向(ただし,平成26年法律第23号による
改正[以下「平成26年改正」という。]前の少年法によるもの)や平成26年
改正の趣旨も踏まえると,本件は,少年である被告人が被害者1名を殺害した事
案の中では,軽い部類に属するものとはいえず,平成26年改正前の少年法に定
める不定期刑の上限(懲役5年以上10年以下)を下回るものではないが,平成
26年改正後の少年法に定める不定期刑の上限(懲役10年以上15年以下)を
科すべきとまでは評価できない。
そして,被告人が本件について事実関係を素直に供述し,私的鑑定を経て自ら
の問題点に向き合おうとするなど反省の態度と更生への意欲を示しており,少年
審判時よりも内省が深まっていることがうかがわれること,父親に促されたにせ
よ本件各犯行の主要な部分につき自首が成立すること,情状証人として出廷した
父母が,私的鑑定の結果も踏まえて,これからは被告人に対する関わりを深める
などして家庭環境を見直す旨供述していること,被告人にはこれまでさしたる非
行歴がないことなどを考慮して,主文の刑が相当であると判断した。
(求刑懲役10年以上15年以下)
平成28年2月9日
岡山地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官松田道別
裁判官國井香里
裁判官青木勇人

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