弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告Aに対し,165万円及びこれに対する平成h年4月23日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,165万円及びこれに対する平成h年4月23日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを10分し,その7を原告らの負担とし,その余を被告の
負担とする。
5この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1原告A
被告は,原告Aに対し,550万円及びこれに対する平成h年4月23日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
2原告B
被告は,原告Bに対し,550万円及びこれに対する平成h年4月23日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,被告が設置するC高等学校(以下「被告高校」という。)に在学し
ていた原告A及び原告Bが,被告高校の校長であるE(以下「E校長」とい
う。)が平成c年4月16日付けで原告らに対して退学処分(以下「本件退学
処分」という。)をしたことにより精神的苦痛を受けたと主張して,被告に対
し,主位的に不法行為(使用者責任)に基づき,予備的に債務不履行に基づき,
それぞれ550万円及びこれに対する不法行為の日の後(訴えの変更申立書送
達の日の翌日)である平成h年4月23日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2前提事実(証拠等を掲記した事実のほかは争いのない事実)
当事者
ア原告らについて
原告らは,いずれも,被告が設置運営するD中学校を卒業して,被告と
在学契約を締結し,平成a年4月,被告高校に入学した。平成b年4月
(以下,平成b年の出来事については年の記載を省略する。),原告らは,
被告高校のハ組に進級した。なお,原告らは,D中学校及び被告高校にお
いて,本件退学処分以前に懲戒処分を受けたことはない。
イ被告について
被告は学校法人であり,D中学校及び被告高校を設置運営して6年間
の一貫教育を実施している。4月1日当時,被告高校における学級編制
及び収容定員は,第1学年から第3学年まで,いずれも8組360人と
定められていた。なお,ロ組からニ組までは理系クラスであった。
4月1日当時,被告高校の校長はE校長であり,ハ組の担任教諭は,
F(以下「F担任」という。)であった。
被告高校の学則の定め(乙31)
被告高校の学則には,以下の各規定がある。
ア懲戒
「第31条校長および教員は,生徒がこの学則その他本校の定める諸規
程を遵守せずその本分に反する行為のあったときは懲戒を加えることが
できる。ただし,体罰を加えることはできない。
2懲戒は,退学,停学および訓告とする。
3懲戒のうち,退学,停学及び訓告の処分は,校長がこれを行う。ただ
し,退学は次の各号の一に該当する者に対してのみこれを行うことがで
きる。
性行不良で,改善の見込みがないと認められる者
学力劣等で,成業の見込みがないと認められる者
正当の理由がなくして,出席常でない者
学校の秩序を乱し,その他生徒としての本分に反した者」
イ出席停止
「第32条前条に規定するもののほか,生徒が性行不良で他の生徒の教
育に妨げがあるとき,教育上必要な場合に限り,保護者に対しその生徒の
出席停止を命ずることがある。」
自宅待機通知
ア10月26日,被告高校は,保護者から「理系クラスでいじめがあるの
ではないか。」との指摘がされたことを契機として,いじめについての調
査を開始した。その中で,E校長は,原告らがいじめに関与していると判
断した。
イE校長は,11月1日,F担任を通じて,原告Aの法定代理人母である
G(以下,原告Aの法定代理人父又は同母を「原告Aの保護者」というこ
とがある。)に対し,原告Aを自宅待機とするよう通知した。
ウE校長は,同日,F担任を通じて,原告Bの法定代理人母であるH(以
下,原告Bの法定代理人父又は同母を「原告Bの保護者」ということがあ
る。)に対し,原告Bを自宅待機とするよう通知した。
エ被告は,原告らに対し,自宅待機を通知した11月1日以降,被告高校
への立入りを拒否した。
退学処分(乙7,8)
原告らは,それぞれ,平成c年4月16日付けで被告から退学処分を受け
た(本件退学処分)。
3争点及び当事者の主張
本件退学処分が違法であるか
【被告の主張】
ア原告Aの退学事由の存在
原告Aは,遅くとも9月30日以降,原告B,I,J,K及びLと共
に,被告高校ハ組に在籍していたMに対し,人身事故で死亡した者の遺
体という意味で「マグロ」と呼ぶなどの侮辱表現をする,はやし立てる,
Lに指示又は共謀してMに対する股間叩きを行わせるなどのいじめ行為
を繰り返し行っていた。また,原告Aは,10月18日,剣道の授業中
に試合と称してMを滅多打ちにしているJを他の生徒とともにあおるな
ど,他の加害生徒のMに対する暴行をあおる行為も繰り返し行っていた。
原告Aは,9月20日以降の時期において,Jに依頼され,JがMの顔
面に制汗スプレーを噴射している場面を,被告高校への持込みが禁止さ
れている携帯電話で動画撮影し,これをLINE上にアップロードして,
被告高校の当時のe年生の多く(100名程度)が閲覧することができ
る状態に置いた。
また,原告Aは,被告高校がMへのいじめ問題について調査を開始し
た10月28日に,J,K及びLの3名を,証拠隠滅のためにLINE
グループから退会させた。
原告Aは,上記のとおり,Mに対するいじめに深く関与したにもか
かわらず,その多くを認めず,いじめに関与したことについて十分に反
省しなかった。また,原告Aは,d年生の時に雀の死骸を他の生徒の筆
箱に入れ,学年主任からの指導を受けたことがあり,e年生になっても,
朝のホームルームの時間にF担任から注意を受けないと話を聞かない姿
勢が目立つなど,被告高校の教諭からの指導を受け入れることも拒絶し
ていた。
これらによれば,原告Aは,被告高校学則の退学事由である「学校の
秩序を乱し,その他生徒としての本分に反した者」(被告高校学則31
条3項4号)に該当する。
イ原告Bの退学事由の存在
原告Bは,遅くとも9月30日以降,Mに対し,原告A,I,J,K
及びLとともにいじめ行為を繰り返していた。原告Bは,10月上旬,
朝のホームルーム前の時間に,Mに対し,手拳で思い切り20回から3
0回程度殴打した。また,原告Bは,その他の機会にも,Mの後頭部を
殴る,顔から肩にかけての部分を突然定規で叩く,椅子を投げるなどの
暴行を加えた。原告Bは,Mに対して人身事故で死亡した者の遺体との
意味で「マグロ」と呼ぶなどの侮辱表現をしたほか,IがMをベルトで
叩く際に,「さん,にい,いち」と発言して合図を送り,Iの暴行をあ
おるなど,Mに対する攻撃行為をはやし立てたりあおったりした。さら
に,原告Bは,10月18日,Jに依頼されて,剣道の授業中,試合と
称してMを滅多打ちにしているJを他の生徒とともにあおり,さらに,
その場面を被告高校への持込みが禁止されている携帯電話で撮影し,動
画をLINEグループのトークルーム上にアップロードして,被告高校
の当時のe年生の多く(100名程度)が閲覧することができる状態に
置いた。なお,Mは,Jの上記暴行により,全治2週間を要する左手背
挫傷,左肘関節打撲及び挫傷の傷害を負った。
原告B
わらず,いじめ行為への関与を否定し,反省する態度を示さなかった。
また,原告Bは,担任や科目の教諭からの指導を受けていたにもかかわ
らず授業妨害を繰り返しており,被告高校の指導を受け入れることを明
確に拒絶している。
これらによれば,原告Bは,被告高校学則の退学事由である「学校の
秩序を乱し,その他生徒としての本分に反した者」(被告高校学則31
条3項4号)に該当する。
ウ本件退学処分について裁量権の逸脱濫用がないこと
退学処分とすることもやむを得ない事情があったこと
被告は,被告高校の設置者として学校での事故発生を防止し,被告高
校に通学する生徒について,いじめ等の加害行為から生徒の生命,身体
の安全を保護するべく配慮する義務を負う。被告高校の校長の懲戒権は,
同義務を履行するためのものであり,その裁量は,被告高校が私立学校
であること,義務教育課程ではないこと,被告高校が教育の専門的機関
であることから,広範である。
Mは,I,J,K,L及び原告らから構成される6名のグループによ
るいじめ行為により,「普通の人だったら自殺しているんじゃないでし
ょうか。」と述べ,自殺をほのめかす程精神的に追い詰められ,また,
被告高校に通学したくないとの思いに至っていた。Mは,LINEに登
録しておらず,LINEのトークルーム上にアップロードした動画を見
たことはないが,Mのあずかり知らないところでいじめの被害に遭って
いる場面の動画をアップロードすることは,いじめ行為を助長させるも
のであるとともに,Mに対する周囲の評価を低下させ,名誉を毀損する
行為であるといえる。Mの原告らに対する恐怖心は払拭されていない一
方,原告らは,Mへのいじめ行為への関与を認めず,反省もしなかった
から,原告らを復学させた場合,原告らが再びMに対するいじめを行っ
たり,報復行為を行ったりする蓋然性があった。このような原告らにつ
いて,被告高校の教諭らが絶えず監視をすることは人員的にも物理的に
も困難であったから,原告らを退学処分とすることもやむを得ない事情
があった。
平等原則違反について
本件退学処分は,原告らが,Mがいじめられている場面を動画で撮影
し,LINE上にアップロードするというMの名誉や自尊心を著しく侵
害する悪質性の高い行為を行ったことを理由とするものである。Mを
「マグロ」と呼んだ生徒や,M以外の生徒に対して股間を叩いた生徒が
存在したことは事実であるが,原告らの行為は,動画が流通する可能性
を生じさせるものであり,前記のいじめグループに属していない他の生
徒の行為と比較対象とならないほど悪質であるから,本件退学処分は何
ら平等原則に違反するものではない。
なお,原告らは,被告高校の生徒であるN及びOがMの写真を加工し
た動画をツイッターやユーチューブにアップロードしたと主張するが,
どのような内容の動画であるかは明らかでないし,そのような事実があ
るとしても,本件退学処分とは直接関係しない。また,被告高校の生徒
であるPがIのMに対する暴行をあおったとの事実はない。
比例原則違反について
本件退学処分は,原告らが,Mがいじめられている場面を動画で撮影
し,LINE上にアップロードするというMの名誉や自尊心を著しく侵
害する悪質性の高い行為を行ったことを理由とするものである。原告ら
の行為の悪質性に照らせば,本件退学処分は比例原則に反するものでは
ない。
二重処罰の禁止原則違反について
原告らは,平成b年11月1日以降,原告らが自宅待機となったこと
が通学拒否処分に当たると主張するが,自宅待機は,家庭内でいじめ行
為について話し合い,反省を深めるためのものであり,被告高校は,原
告らに対して自宅待機をすべきという事実上の勧告をしたにすぎない。
被告は,原告らの保護者から自宅待機について承諾を受けたことも考慮
すると,このような自宅待機は適法であり,無期限の停学処分や退学処
分に準じる懲戒処分であるということはできないから,本件退学処分は
二重処罰には当たらない。
適正手続違反について
被告高校は,10月28日以降,M及び原告ら以外の生徒の事情聴取
を行い,原告らのいじめ行為について調査を行った。被告高校のQ教諭
及びR教諭は,10月29日,原告らに対し,それぞれ,被告高校の面
談室内で,Mに対するいじめの有無や,動画の撮影,LINEへのアッ
プロード等について尋ねる中で,弁解の機会を十分に与えた。なお,Q
教諭及びR教諭が原告らに対して暴言,強迫,強要を行ったことはなく,
原告Aが作成した書面(乙6の1・2)及び原告Bが作成した書面(乙
13の1・2)は,強迫により作成されたものではない。
また,被告高校は,原告らに対し,それぞれ,平成c年3月11日付
けの通知書により,同月19日までの猶予を与えたところ,原告らは,
同月17日付け書面で弁解をした。
このように,被告高校は,十分な調査を行い,原告らに十分な弁解の
機会を与えた上で本件退学処分を行ったから,手続に瑕疵はない。
【原告らの主張】
ア原告Aの退学事由の存在について
原告AがMに対するいじめを行ったことはない。原告Aが日常的にM
を「マグロ」と呼んだ事実はない。また,Mは,多くの生徒からマグロ
と呼ばれていたが,これを侮辱とは受け取っていない。Mに対するはや
し立てや暴力をあおる行為は,そもそも内容が特定されておらず,退学
事由とはならないし,原告Aがそのようなことをした事実もない。原告
Aの発言を端緒としてMに対する暴行が開始されることはなく,LがM
の股間を叩いたことについて,原告Aが事前に指示又は共謀したという
事実もない。原告Aは,Jに頼まれて,1度だけ,JがMにスプレーを
噴射している際に携帯電話で動画を撮影し,ハ組の生徒26名程度が参
加しているLINEグループのトークルーム上にアップロードしたが,
この動画には,Mの後頭部とJの顔しか映っておらず,JがMにスプレ
ーを噴射している場面は映っていない。JがMの顔面に制汗スプレーを
噴射している場面の動画は,Kが撮影してLINE上にアップロードし
たものであり,原告Aが撮影したものではない。また,JがMに対して
スプレーを噴射することにつき,原告Aは何ら関与していない。なお,
学校内での携帯電話の所持禁止は,被告高校で徹底されておらず,多く
の生徒が所持していた。
原告Aは,他の生徒に頼まれてLINEグループのメンバーを退会さ
せたことはあるが,LINEグループは,もともと自由に退会すること
ができるものであるし,グループのメンバーであったからといって,い
じめ行為への関与が疑われることもないから,グループのメンバーを退
会させる行為は,証拠隠滅行為には当たらない。
原告Aは,雀の死骸を他の生徒の筆箱に入れたことはあるが,これは
平成a年6月28日の出来事であり,十分に反省している。そもそも,
被告高校の教諭の指導と,被告が主張するMに対するいじめは無関係で
あり,雀の死骸を他の生徒の筆箱に入れた件は,退学事由とはならない。
また,原告Aは,これまでに問題行動を起こして被告から懲戒処分を受
けたことはなく,動画の撮影をしたことについては,十分に反
省している。
イ原告Bの退学事由の存在について
原告Bが,Mに対するいじめを行ったことはない。原告Bが日常的に
Mを「マグロ」と呼んだ事実はない。Mに対するはやし立てや暴力をあ
おる行為は,そもそも内容が特定されておらず,退学事由とはならない
し,原告Bがそのようなことをした事実もない。IがMの胸に軽くベル
トを当てる時に,原告Bが「さん,にい,いち」と発言したことはある
が,Iの行為は暴行とは評価することができず,これに対して「さん,
にい,いち」と発言したことは,Mに対する暴行をあおったものとはい
えない。原告Bが机に伏していたMの肩を定規で軽く叩いて起こそうと
したことはあるが,Mは何の反応も示しておらず,およそ暴行と評価で
きるものではない。原告BがMと押し合いになったことはあるが,それ
は,学校内でスパナを所持しているMに対し,原告Bが「何でスパナ持
って来とん。」と尋ねたところ,Mが原告Bに殴りかかってきたため,
原告BがMを押し返したことにより押し合いになっただけである。その
他に,原告BがMに対して暴行を加えた事実はない。
原告Bは,10月18日,Jから剣道の授業の動画の撮影を依頼され
て,剣道の試合の様子を撮影し,この動画をLINEにアップロードし
たことはあるが,それは,Jに対して反則技の喉突きをしたMが,周り
の生徒から謝罪するように言われている場面であって,MがJから滅多
打ちにされている場面ではない。仮に,JがMに対し,防具を付けてい
ない部位を狙って竹刀で叩く暴行を行っていたとしても,原告Bはその
ことを認識していない。なお,学校内における携帯電話の所持禁止は,
被告高校で徹底されておらず,多くの生徒が所持していた。
原告Bは,これまでに問題行動を起こして被告から懲戒処分を受けた
ことはなく,動画の撮影をしたこと及び動画をLINEにアッ
プロードしたことについて十分に反省している。
ウ本件退学処分について裁量権の逸脱濫用があること
退学処分とすることもやむを得ない事情はないこと
原告らの行為は軽微であり,また,それぞれ1回限りのものであるか
ら,重大,悪質であるとはいえない。Mは,LINEには登録しておら
ず,原告らが動画をアップロードしたLINEグループにも入っていな
いから,原告らがそれぞれ撮影した動画の存在を知らず,原告らが撮影
した動画により名誉や自尊心を侵害されることや,それにより精神的苦
痛を受けることもない。Mは,精神的に追い詰められた様子はなく,い
じめた相手に対しては復讐しようとする性格であったから,原告らが復
学したとしても,Mが自殺や登校拒否をする可能性はなかった。
10月18日以降,Mに対するいじめは止んでいた。原告らは,いず
れも,過去に問題行動を起こして被告から懲戒処分を受けたことはなく,
自らが行った動画の撮影及びアップロードについては,事実関係を認め
た上で十分に反省しており,原告らの両親による指導も十分に期待でき
るから,被告高校に復学したとしても,Mに対する加害行為や報復行為
を行う蓋然性はない。原告らについて,改善の見込みがなく,学外に排
除することが教育上やむを得ないという事情は認められない。
平等原則違反について
被告高校の生徒であるN及びOは,Mを撮影した動画を編集し,Mの
写真を加工した静止画を作成したほか,これらをツイッターやユーチュ
ーブにアップロードしたが,被告高校はN及びOを退学処分にしていな
い。また,PはIのMに対する暴行をあおったが,被告高校はPを処分
していない。さらに,Mを「マグロ」と呼ぶ生徒は多数いるが,被告高
校はこれらの生徒に対して何らの調査や処分をしていない。原告ら以外
の生徒については何ら調査や処分をせず,原告らのみを退学処分とした
ことは著しく平等原則に反する。
比例原則違反について
Kは,M以外の生徒の股間を叩いたことについて,被告から厳重注意
処分を受けた。原告らの行為の悪質性はこれに比べてはるかに低いにも
かかわらず,原告らは被告から本件退学処分を受けた。被告高校のE校
長は,極めて悪質性の低い行為に対して退学処分を選択しており,比例
原則に違反する。
二重処罰の禁止原則違反について
被告は,原告らがMに対するいじめ行為を行ったことを理由として,
11月1日から原告らの通学を拒否する旨通知し,平成c年4月16日
まで原告らの通学を拒否した。これは,無期限の停学処分又は退学に準
じる懲戒処分である。本件退学処分は,上記通学拒否と同じ事実を理由
とする懲戒処分であるから,二重処罰の禁止原則に違反するものであり,
違法である。
適正手続違反について
Q教諭及びR教諭は,原告らに対し,「お前がやったこと知っとるこ
とを全部書け。」,「Cやめろや!」,「教師なめるなよ!」,「お前
絶対退学にさせてやるけぇの。」等と大声を出して怒鳴り,強迫して反
省文を書かせた。
被告高校のE校長は,Mから簡単に事情を聴いた教諭らから聞いた情
報と,原告らが作成した動画の撮影及びアップロードに関する反省文だ
けを資料として,その他の事実調査をせず,調査書等の書面も作成しな
いまま,原告らがMに対するいじめを行ったと認定し,原告らを自宅待
機させた。また,被告高校は,自宅待機から約2か月後の平成c年1月
になってようやく生徒らから事情聴取を行い,同年2月にMから事情聴
取を行ったが,E校長は,曖昧な内容の聴取結果等をもとに本件退学処
分をした。被告は,原告らの弁明を聞かず,退学処分を行うことを通告
した上で,原告らに対して弁解を求めているが,退学処分とすることを
決定している以上,弁明の機会を与えたことにはならない。
このように,被告高校のE校長は原告らに弁明の機会を与えず,十分
な調査もしないまま本件退学処分をしたから,本件退学処分は,適正手
続に違反するものであり,違法である。
エ本件退学処分をしたE校長の行為は,民法709条の不法行為を構成す
るから,E校長の使用者である被告は,原告らに対し,民法715条の使
用者責任を負う。
本件退学処分は,在学契約上の債務不履行であるから,被告は,原告ら
に対し,債務不履行責任を負う。
原告らの損害額
【原告らの主張】
本件退学処分は,正当な根拠を著しく欠く違法な処分であり,原告らは,本
件退学処分により,平成c年4月17日以降,被告高校に通学することができ
ず,f年生という貴重な時期に,他の生徒とともに学び高め合ったり,学校行
事に参加したりすることができなかった。また,原告らは,同時に入学した生
徒らと共に被告高校を卒業することもできなかった。
原告らは,本件退学処分により名誉を侵害されるとともに,本件退学処分に
よって,高校中退者として将来就職等において不利益を受けるおそれも生じた。
以上によれば,原告らは,被告高校のE校長がした本件退学処分により,多
大な精神的苦痛を受けた。これに対する慰謝料は,各原告につき500万円を
下らない。また,弁護士費用は,各原告につき50万円が相当である。
【被告の主張】
争う。原告らは被告高校への復学を希望していない。原告らは,平成c年7
月7日付け広島地方裁判所平成c年(ヨ)第i号事件の仮処分決定により現実
に通学することができる状態になったにもかかわらず,同月10日に登校した
際,e年生の期末テストを受けることを拒否し,その後も自ら通学することを
放棄した。原告らに生じた損害は僅少である。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加え,証拠(甲7,9,10,18,19,23,25~
30,37~42,49~53,57~59,乙1,16,18,19,2
2,25,40,43,証人M,原告A本人,原告B本人及び後掲各証拠。
ただし,以下の認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,次
の事実を認めることができる。
ア生徒らの所属するクラスについて(乙24,37の1・2)
J,K,L及びMは,4月1日当時,被告高校のハ組に所属していた。
Iは,ロ組に所属していた。
イMに対するいじめ
Mは,d年生の2学期以降,Iから,突き飛ばす,肩をぶつける,殴
る等の攻撃行動を受けるようになり,これをいじめと受け止めていた。
e年生進級後も,Mは,Iから突き飛ばされる等の攻撃行動を受けて
いた。Mには,5月頃から,過敏性腸症候群のような症状がみられるよ
うになった。e年生の1学期には,原告Bが「さん,にい,いち」と発
言し,その発言を受けて,IがMをベルトで叩いたことがあった(乙1
5,26)。
9月20日頃以降,Jも,Iの行動を真似てMに対する攻撃行動に加
わるようになり,Mに対し,ティッシュ箱様のもので頭部を叩くなどし
ていた。また,Jは,Kとともに,化学や現代社会の授業中に,Mにス
ーパーボールや消しゴムを投げつけたり,Mをはやしたてて嘲笑したり
するようになった。Lは,教室内で,当時クラスで流行っていた股間叩
きゲームを,近くにいたMに対して行ったことがあり,その際,怒った
Mは,「死んでわびろ。」と連呼した。教室内にいた同級生らは,その
場面を見て嘲笑していた。
また,Kは,6,7回程度,Mに対する被告高校内における攻撃行動
を撮影した動画を編集したものを,LINE(無料でチャットをするこ
とができるコミュニケーションアプリの名称)内にある被告高校の同学
年の生徒らで構成されるグループのトークルーム(グループに登録され
たメンバーのみが閲覧可能なチャットルームの名称)上にアップロード
した。もっとも,Mは,Kが動画撮影をしていたことや,動画をLIN
Eにアップロードしていたことは,認識していなかった。
原告Aは,JらがMに対して攻撃行動をするのをあおったことがあっ
た。
原告Bは,Mが被告高校にスパナを持ってきていたので,そのことに
ついて,Mをからかったことがあった。また,原告Bは,机で寝ている
Mの肩付近を定規で叩いたことがあった(乙4,6の2,11の1・2,
12の1・2,13の1・2,15,34,36,37の1・2)。
10月4日,Mは,クラスの日直日誌(甲5)に,「人身事故の遺体
をマグロというそうだ。遺体がマグロの切り身みたいだかららしい。」,
「それはさておき,最近Jがウザい。化学や現社の時間はさわぐし,休
けい時間中は俺にちょっかい出してきやがる。言い方は悪いが,死んで
ほしい。いや,本気で殺したいとさえ思うこともある。俺が手を出す前
に先生が何らかの処分を下してくれるとうれしいです。俺もしばらくは
耐えるので,お願いします。このページは先生が取り外して保管してお
いて下さい。また絶対に親には言わないで下さい。」と記載した上で,
F担任に提出した。上記日誌は,F担任が閲読する前に何者かによって
切り取られ,以後,Mは,クラス内で「マグロ」と呼んでからかわれる
ようになった。なお,I,J,K,L及び原告ら以外の同級生の中にも,
Mのことを「マグロ」と呼んでからかっていた者が複数名いた(甲17,
乙11の1)。
9月又は10月頃,IがMに対して攻撃行動をした際,Mがラッカー
を手に持って「こいつで失明させてやるよ。」と言いながらIを追い回
したことがあった。Jは,これを受けて,10月頃,Mの真似をするよ
うに,ハ組の教室内で,「こいつで失明させてやるよ。」と言って,着
席しているMの顔面にスプレータイプの制汗剤を噴射した。原告Aは,
Jから動画を撮るように依頼されたため,スプレー缶を噴射するJの様
子を動画で撮影し,LINEグループのトークルーム上にアップロード
した。当時,被告高校の約26名の生徒がこのグループに登録しており,
この動画を閲覧することができた。Mは,当時,原告Aが動画を撮影し
ていることも,動画がLINEグループのトークルーム上にアップロー
ドされていることも認識していなかった(乙6の1,11の1,35)。
原告Aは,9月19日,ツイッター(140文字以内の「ツイート」
と称される短文の記事を投稿できる情報サービス)上に,「あいつだけ
は殺す!失明させてやるわ!へへへへ見せしめにやっちゃる!byM」
との記事を投稿し,10月5日,ツイッター上に,「M俺に殴りかかっ
てこんかなーーーーー笑」との記事を投稿した(乙34,35)。
10月18日,体育の授業で剣道の試合を行った際,Mが,Jに対し
て反則技の喉突きをしたため,観戦していた同級生らから「マグロ,せ
こいで。」,「謝れ。」などと非難されたことがあった。この試合中,
Jが,Mの防具をつけていない左腕等を意図的に狙って攻撃したために,
Mは負傷した。
この剣道の授業開始前,Jは,原告Bに対し,「これから試合をする
ので動画を撮ってほしい。」と依頼しており,原告Bは,JとMが互い
に激しく打ち合っている対戦場面を携帯電話で撮影し,LINEグルー
プのトークルーム上にアップロードした。当時,被告高校の約100名
の生徒がこのグループに登録しており,この動画を閲覧することができ
た。
原告A及びJは,同日,ツイッター上で,「あんね,剣道って武道だ
よ?竹刀での殴り合いじゃないよ?今日の剣道の授業爆笑やったわ(原
告A)」,「殴り合いだよ(J)」,「マグロづき!!!おりゃっ!あ
ちゃーーーーー(原告A)」,「あいつのつきは質高杉だわ笑笑
(J)」,「まぁ,25倍返ししてやりましたけどね(J)」,「やら
れたらやり返す,倍返しだ!これからもやり続けるよ(J)」,「やっ
た,たのしみ(原告A)」,「任せとけ。俺は殿堂入りしたけ今度はあ
んたの番よ(J)」,「俺はやらねえよ笑(原告A)」,「傍観希望ス。
あいつから俺に手出してきたら髪の毛掴みで顔面殴ってやりますよ(原
告A)」などとやり取りした(乙11の1,13の1,19,33)。
また,原告Aは,10月19日,ツイッター上において,Jの投稿に
返信する形で,「M,打撲かな?ばくわら大袈裟だろw」との記事を
投稿した(乙29)。
ツイッター上には,「@ore_maguro」とのアカウント名で
ユーザー登録がされているが,このアカウントを使用しているのはMで
はない。同アカウントのユーザー名は,「Mマグロ」であり,Mの写
真を加工した画像がプロフィール画像に登録されている。同アカウント
のユーザーは,10月18日,「今日は剣道の授業の時にJに腕を負傷
された。俺も首をついてやったけどな」という記事及び「俺が手を下す
前に先生から何らかの下してくれると嬉しいです。俺もしばらくは耐え
るので。お願いします。マグロ伝「M記」第3章」という記事を投稿し
た。
原告Aは,@ore_maguroのアカウントをフォローし,10
月20日,これに対して返信をしたことがあった(乙27,28,48
~50,53)。
また,原告Aは,10月24日,ツイッター上に,「もうさ,学校ま
じなくなれ」との記事を投稿した(乙23)。
同級生の中には,Mの画像を加工した静止画を作っていた者がいたが
(I,J,K,L及び原告ら以外の者である。),これらの者は,退学
処分を受けていない。
原告Bは,e年生になるまで,I,J,K,L及び原告Aのうち,い
ずれとも,同じクラスになったことがなかった。また,原告Bは,e年
生になっても,同人らと,クラスメート以上の親しい関係にはならず,
学校外に一緒に遊びに行ったこともなかった。なお,原告Bは,ツイッ
ターを利用していない。
ウいじめの発覚
の剣道の対戦時,Mが負傷したため,F担任は,Mを整形外
科医院に連れて行った。診断結果は,全治2週間の左手背挫傷,左肘関
節打撲及び挫傷であった(乙3)。病院への往復の車内で,Mは,F担
任に対し,「J君とK君が,化学の授業中にスーパーボールを投げてく
るので,厳罰にして欲しい。」と言った。F担任が,「他におらんの
か?」と質問したところ,Mは,数秒間沈黙した後,「とにかく,Jと
Kは許せない。」と答えた。
同月21日,F担任がJ及びKをそれぞれ呼び出して,事実確認をし
たところ,2名とも,授業中にMに対してスーパーボールを投げたこと
を認めたので,F担任は同人らに対し,注意をした。
10月26日,学級懇談会が行われた際,イ組の生徒の保護者が,副
担任であるS教諭に対し,理系クラスでいじめが行われているのではな
いかという指摘をした。また,その保護者は,2人の生徒が特定の生徒
をいじめ,別の生徒1人が,いじめの場面を撮影していることをS教諭
に伝えた。
E校長は,保護者からいじめについての指摘があったことをT副校長
から報告を受け,同人に対し,詳しく調べるように指示をした。それを
受けて,10月28日朝,生活指導係でホ組の副担任でもあるR教諭が,
Mと話をしたところ,Mは,①d年生のときからIといざこざがあり,
9月20日頃の文化祭頃からIがちょっかいを出すようになったこと,
②Iの影響を受けてJもちょっかいを出すようになり,スプレーを顔面
に吹き付けたり,授業中に物を投げたりするようになったこと,③Kも
化学の授業中に物を投げるようになったこと,④Lも股間を触るなどし
たことがあることを述べ,上記4名にいじめられていると訴えた。R教
諭は,Mがこのような話をしたことを学年会で報告し,各クラスの担任
やS教諭,R教諭,e年生の学年主任であるQ教諭が,Mから名前の挙
がった4名に対して事情聴取を行うこととなった。
10月28日午後,R教諭らが上記4名に対し事情聴取を行った。I
は,Mをビニール棒で叩いたことがあると認め,Kも,授業中にMにス
ーパーボールを投げるとともに,動画を撮影して編集し,LINEのト
ークルーム上にアップロードしたり,Mを「マグロ」と呼んでからかっ
たりしたことを認めた。Lは,g年生の頃から流行っていた股間叩きゲ
ームをMに行ったことがあり,また,JがMに対してけんか腰になって
いるときに,Jをあおったことがあると述べた。上記3名は,いじめに
関与した者として,原告らの名前を挙げなかった。Jは,自ら携帯電話
でMに対する攻撃行動の場面を撮影し,何度もトークルーム上にアップ
ロードしたことがあると述べるとともに,原告らもMに対する行為の場
面を撮影したことがあると述べた。
エいじめ発覚後の経緯
J及びLが事情聴取を受けた10月28日,原告Aは,J及びLから,
LINEのグループから退会したいと頼まれたので,同人らを退会させ
た。さらに,原告Aは,Jと相談の上で,Kについても退会させた。J,
L及びKは,LINEグループを退会して以降,当該グループのトーク
ルームを閲覧することはできなくなった。
同日,ツイッター上に,原告Aは,「授業うるさい→集中力わやな
い→休憩時間小学生→人イジリ→終わってる。これがハ組の現状。」
との記事を投稿した。また,Jは,「こういうのには全く関わらない
Aくん。あーーー,ちくればよかったわ」との記事を投稿した。
F担任は,事情聴取の際に原告らの名前が出たことをT副校長に報告
し,同月29日に原告らから話を聞くこととした(乙2,6の1,2
1)。
10月29日,Kが携帯電話を持参したので,F担任,U教諭,S教
諭及びR教諭が動画の確認をした。F担任らは,携帯電話に保存されて
いる動画を別の媒体に保存せず,Kに対し,全ての動画を消去させた。
Q教諭及びR教諭が原告らをそれぞれ面談室に呼び出して話を聞いた
ところ,原告Aは,JがMに対して制汗スプレーを噴射している場面を
撮影したことを認め,原告Bは,JとMの剣道の試合の場面を撮影した
ことを認めた。
面談の際,R教諭らは,原告らに指示して反省文(乙6の1・2,1
3の1・2)を提出させたが,原告らがそれぞれ撮影したことを認めて
いた動画の内容について,詳しく確認せず,携帯電話に保存されていた
動画やトークルーム上にアップロードされた動画と照合することもなか
った。R教諭らは,原告らに対し,携帯電話に保存された動画を消去す
るように指示したので,原告らは,動画を消去した。また,R教諭らは,
原告らがどのLINEグループのトークルームに動画をアップロードし
たかについて,確認しなかった。
被告高校は,10月29日以降,いじめ防止委員会(構成員は校長,
副校長,学年主任ら)が中心となって,Mに対するいじめの問題につい
て対応を協議した。E校長は,10月30日,原告らを含む6名につい
て,仮に反省したとしても,通学は認めず,進路変更の準備が完了す
るまで自宅待機を継続することを決めた。
原告らは,11月1日まで,面談室で自習等をして過ごした。なお,
この時点までに,Mが,R教諭らに対し,原告らからいじめを受けてい
ると申告したことはなかった。
オ自宅待機通知
F担任は,11月1日,被告高校において,原告B及びHと面談し,
原告Bが,剣道の授業でMが怪我をした場面を撮影してLINEグルー
プのトークルーム上にアップロードしたことを伝えるとともに,以前か
らMに対していじめ行為を繰り返していた生徒らのうちの一部の生徒に
頼まれて動画を撮影したのであるから,原告Bもいじめに加担したこと
になるとの見解を示し,今後は自宅待機をするよう求めた。面談の場で,
F担任から原告Bの今後の処遇についての話は出ず,家庭訪問の時期や,
復帰の可否が決まる時期について具体的な言及がないまま,面談は30
分程度で終了した。
F担任は,11月1日,Gに対し,電話で,「明日から自宅待機で
す。」と告げた。
11月5日,原告Aの保護者ら及び原告Aは,被告高校において,F
担任と面談した。F担任は,原告Aについて,ひどい画像を撮ってLI
NEグループのトークルーム上にアップロードしたという話をするとと
もに,これからは自宅待機をするように求めた。面談の場で,原告Aの
今後の処遇についての話は出ず,F担任から家庭訪問の時期や,復帰の
可否が決まる時期について具体的な言及がないまま,面談は30分程度
で終了した。また,F担任は,同日,原告Aが教室等に置いていた荷物
を全て持ち帰らせた。
被告は,11月1日以降,L,J,K及びIに対しても,自宅待機を
指示した。
カ自宅待機通知後の経過
T副校長,Q教諭及びF担任は,11月13日,Mの自宅を訪問し,
Mの両親に対し,Mに関するいじめの件について報告した。11月15
日に開催されたいじめ防止委員会においては,原告ら加害生徒に進路変
更を求める方法しかないとの意見が出た。
E校長は,11月19日,原告らを含む6名は退学処分が相当である
が,自主的な転校を促して退学処分を避けるため,進路変更勧告をする
ことを決定した。E校長は,Mから被害申告のあった4名と,そのうち
の1人であるJから動画撮影に関与したとして名前が挙がった原告らを
合わせた合計6名が,Mに対するいじめを行っているグループであると
判断し,そのグループに所属している各人がどのような行為を行ったか
にかかわらず,いじめは絶対に許されるべきではなく,グループの構成
員全員について退学処分が相当であると考えていた。
その一方で,E校長は,上記6名以外の生徒については,いじめグル
ープに所属していないと考えており,クラス内でMのことを「マグロ」
と呼んでいた者,Mに対する攻撃行動をあおるような言動をしていた者,
Mの画像を加工した静止画を作っていた者については,Mに対するいじ
め行為を行っていたものとは判断しなかった。
F担任は,11月21日,Hに対し,電話で,「校長が退学処分を下
したら,生徒の経歴に傷がつくから,進路変更をお勧めします。」,
「上が決めた処分なので覆りません。」などと告げた。
11月22日,Vは,F担任に電話をかけ,進路変更について納得が
できない旨を伝えるとともに,原告Bが撮影したという動画を見せるよ
うに求めたが,F担任はこれを拒否した。また,F担任は,被告高校で
面談の上説明をしてほしいというVの申出を断った。
F担任は,11月22日,Gに対し,電話で,「6人全員進路変更し
てもらうことになりました。」と告げた。
同月25日,Gが,F担任に電話したところ,F担任は,「長期にわ
たる組織的な陰湿ないじめである。」,「M君の安全を守るためには進
路変更せざるを得ない。」などと発言した。
キ原告らと被告との交渉(甲1,2)
原告らは,平成c年1月6日付け要請書(甲1)により,被告高校に対
し,自主退学を勧告した理由等の説明や復学を求める旨の要請をした。被
告は,原告らに対し,進路変更のための自宅待機が現在まで続いている旨
が記載された同月15日付け連絡文書(甲2)を送付し,復学の要請を断
った。E校長は,上記要請書(甲1)を受け取り,原告らが通学を希望し
ていることを認識したが,原告らの通学を拒否した。
ク退学処分(甲3,4,乙7~10)
被告高校は,原告らに対し,それぞれ,平成c年3月11日付け通知
書(甲3,4)により,同人らを退学処分にすることとしたこと及び弁
明がある場合には同月19日までに文書により送付することを通知した。
原告Aの両親及び原告Bの両親は,被告高校に対し,上記通知書につい
て,退学処分は容認できないとの同月17日付け返答書(乙9,10)
をそれぞれ提出した。
被告高校校長は,平成c年4月16日,原告らを退学処分とした(本
件退学処分)。
ケ仮処分決定及び原告らの登校(甲61)
原告らは,平成c年4月頃,f年生クラスへの仮の復学,予備的に被告
高校への仮の復学を求めて仮の地位を定める仮処分命令の申立てを行った
(広島地方裁判所平成c年(ヨ)第i号仮の地位を定める仮処分命令申立
事件)。同裁判所は,平成c年7月7日,上記申立てを一部認容し,原告
らが被告高校に登校したときは,原告らを被告高校に復学した生徒として
扱わなければならないとの決定をした。
原告らは,上記決定を受けて,平成c年7月10日,被告高校に登校し
た。原告らはいずれも,e年生の単位を修得したとの認定を受けておらず,
f年生に進級していないとされたため,教諭らからe年生の期末試験を受
けるように指示されると,これを拒んで帰宅した。原告らは,いずれも,
その後,被告高校に登校しなかった。
事実認定の補足説明
ア被告は,原告AがLに指示又は共謀するなどして,いじめ行為を繰り返
していたと主張し,証人Mは,自分が受けたいじめ行為のうち,原告Aが
L及びJに「L行けや。」,「J来いや。」などと指示してから攻撃行為
が始まることが7,8割を占めていたと証言する。
しかし,これを裏付ける的確な証拠はない(T副校長の陳述書(乙19)
には,他の生徒が,原告Aが上記のような行為を繰り返していたと述べて
いたとの記載があるが,他方で,Lが自らMをからかうなどして攻撃して
いたことが聴取結果として記載されており,このことは,原告AがMに対
するいじめを主導していたことと整合しない。)。仮に,原告Aが証人M
が証言するような行為を繰り返していたのであれば,Mは教諭に対してそ
のような事実を申告するのが自然であるところ,前記ウ,エ認定の
とおり,Mは,いじめの発覚時,教諭らからの問いかけに対し,原告Aか
らいじめを受けていることを申告したことがなかったから,Mの上記証言
は,Mの事後の行動に照らして不自然であり,信用できない。よって,被
告の上記主張は採用できない。
イ被告は,原告BがMに対し,手拳で思い切り20回から30回程度殴る
暴行や,Mの後頭部を殴る暴行,椅子を投げる暴行を加えたと主張し,証
人Mは,平成h年7月7日の証人尋問において,これに沿う証言をする。
しかし,証人Mの上記証言を裏付ける的確な証拠はない(T副校長の陳
述書(乙19)には,他の生徒が,9月下旬から10月上旬にかけて,J
がMを攻撃している時に原告Bがこれに加わり,Mの顔面を殴ることが4,
5回あったと述べたとの記載があるが,当該生徒の名前が伏せられている
上,このような伝聞による供述が真実であることを裏付ける証拠はな
い。)。
仮に原告BがMを手拳で思い切り20回から30回程度殴るという相当
強度の暴行をしたのであれば,他の生徒はこれを目撃し,Mは相応の傷害
を負うはずであり,他の生徒らが教諭に対して通報するか,Mが教諭らに
対して被害申告すると考えられるが,Mが暴行により負傷したことを裏付
ける写真,診断書等の証拠はなく,他の生徒が教諭らに対して原告Bの暴
行を通報したことや,Mが教諭らに対して暴行による被害を申告したこと
を認めるに足りる証拠はない。
また,暴行態様についてみると,Mの平成c年2月10日付け陳述書
(乙18)には,10月上旬の朝のホームルーム前の時間に原告Bから拳
で殴られた回数は10回程度であったとの記載があり,暴行の態様に関す
る重要な事柄についてMの陳述及び証言は変遷している。証人Mは,変遷
の理由について,同陳述書作成時には記憶の整理がついていなかったため
であると証言するが,平成b年10月頃の出来事の記憶が,平成h年7月
になって,平成c年2月の時点よりも鮮明になるとは考えがたい。したが
って,Mの上記証言は信用できず,他に上記の事実を認めるに足りる証拠
はない。
ウ被告は,原告Bは,10月18日の剣道の授業でJが一方的にMを滅多
打ちにする場面を動画撮影したと主張する。
しかし,前記認定エ及び証拠(乙15)によれば,原告Bは,上記
剣道の授業中,MがJに反則技である喉付きをしたために,同級生らから
「謝れや。」等と言われている場面や,JがMの左腕等を狙って攻撃した
場面を撮影したことが認められるが,これら一連の場面は,JがMを一方
的に攻撃したものと評価することはできないから,被告の上記主張は採用
することができない。
エ原告Aは,Mに対して,「マグロ」と呼んだことはないと主張し,本人
尋問においてもこれに沿う供述をする。
しかし,前記イ,認定のとおり,①複数の同級生がMのことを人
身事故の遺体に例えて「マグロ」と呼んでからかっていたこと,②Mの写
真が加工された画像をプロフィール写真とし,Mマグロという名前をユー
ザー名とする@ore_maguroのアカウントがユーザー登録されて
おり,同アカウントのユーザーは,Mの日誌(甲5)の内容や,Mの剣道
の試合での行動(喉突きをしたこと)に沿う内容の記事を投稿しているこ
とからすれば,M以外の生徒が,Mの行動や発言を嘲笑するために@or
e_maguroのアカウントを作成したことが推認される。また,上記
イ,認定のとおり,原告Aは,Mが剣道の試合で負傷した10月1
8日に,ツイッター上で,Jと剣道の試合について会話し,その中で「マ
グロづき」との表現を用いたこと,上記アカウントをフォローし,これに
対して返信をしていることからすれば,原告Aは,Mがクラス内で「マグ
ロ」と呼んでからかわれていることを認識した上で,Mを嘲笑する目的で,
自ら積極的に「マグロ」との呼称を用いていることが認められる。よって,
原告Aの上記主張は採用することができない。
2争点1(本件退学処分が違法であるか)について
原告Aに対する本件退学処分が違法であるかについて
ア原告Aの懲戒事由の存在について
前記1イ認定のとおり,①Mは,d年生の頃からIから攻撃行動を受
けるようになり,これをいじめと受け止めていたこと,②9月20日頃以
降,IとJが中心となって,Mに対して叩くなどの攻撃行動を繰り返すよ
うになり,KとLもMに対する攻撃行動を行っていたこと,③Kは,複数
回にわたり,Mに対する攻撃行動を撮影した動画を同級生らのLINEグ
ループ上にアップロードしたこと,④Mが作成した日直日誌が何者かによ
って無断で切り取られ,複数の同級生がMのことを人身事故の遺体に例え
て「マグロ」と呼んでからかっていたことが認められる。これらによると,
Mは,遅くとも9月20日頃以降,ハ組において,同級生から,単なる冗
談やからかいの対象にされるにとどまらず,社会的相当性を逸脱したいじ
めを継続的に受けており,このことはハ組の生徒らの間に知られていたと
いうことができる。
そして,前記1イ,~認定のとおり,①原告Aは,Mに対する
攻撃行動をあおったことがあること,②原告Aは,Jに依頼されて,Jが
Mの顔面にスプレータイプの制汗剤を噴射する様子を撮影し,動画を多数
の生徒が閲覧することができるLINEグループのトークルーム上にアッ
プロードしたこと,③原告Aは,ツイッター上で,Jとの間で,体育の授
業中の剣道の対戦時におけるJのMに対する行き過ぎた攻撃行動を面白が
り,Mのことを嘲笑したり,Jが今後もMに対する攻撃行動を繰り返すこ
とを期待するかのようなやりとりをしていたこと,④ツイッターで,Mを
マグロと呼んだり,Mの行動を面白がるような投稿をしたり,Mを嘲笑す
るために作成されたアカウントをフォローし,これに返信したりしたこと
が認められ,原告Aが同級生に対してMに対する行き過ぎた攻撃行動をや
めるよう働きかけたことをうかがわせる証拠はない。
これらによれば,原告Aは,Mが同級生からいじめを受けていることを
認識した上で,Mに対するいじめを容認するだけでなく,これを助長する
行為を繰り返したということができる。このような原告Aの行為は,被告
高校の秩序を乱し,かつ,被告高校の教育方針に反するものである。
イ原告Aに対する本件退学処分が裁量権を逸脱濫用したものかについて
学校教育法及び被告高校学則31条によれば,被告高校の校長は,生
徒に対して懲戒処分をする権限を有しているところ,懲戒権者である校
長が生徒の行為に対して懲戒処分を発動するに当たって,その行為が懲
戒に値するものであるかどうか,また,懲戒処分のうちいずれの処分を
選ぶべきかを決するについては,当該行為の軽重のほか,本人の性格及
び平素の行状,上記行為の他の生徒に与える影響等の要素を考慮する必
要がある(最高裁昭和29年7月30日第三小法廷判決・民集8巻7号
1463頁,最高裁昭和49年7月19日第三小法廷判決・民集28巻
5号790頁参照)。学校教育法11条は,懲戒処分を行うことができ
る場合として,単に「教育上必要と認めるとき」と規定するのにとどま
るのに対し,これを受けた同法施行規則26条3項は,退学処分につい
てのみ4個の具体的な処分事由を定めており,被告高校の学則31条に
も上記と同旨の規定がある。これは,退学処分が,他の懲戒処分と異な
り,生徒の身分を剥奪する重大な措置であることに鑑み,当該生徒に改
善の見込みがなく,これを校外に排除することが教育上やむを得ないと
認められる場合に限って退学処分を選択すべきであるとの趣旨において,
その処分事由を限定的に列挙したものと解される。この趣旨からすれば,
同法施行規則26条3項4号及び被告高校の学則31条3項4号の「学
校の秩序を乱し,その他生徒としての本分に反した者」として退学処分
を行うに当たっては,その要件の認定につき他の処分の選択に比較して
特に慎重な配慮を要するというべきである。高等学校の生徒は,心身と
もに発達途上にあり,教育,指導上配慮の必要があるから,上記の諸事
情を考慮するに当たっては,当該高等学校における教育,指導の有無,
当該生徒の改善の見込み等についても考慮すべきである。
これを本件についてみると,原告Aは,上記ア認定のとおり,Mに対
するいじめを助長する行為を繰り返したが,原告AがMに対して直接的
に暴力を振るうなどの有形力の行使や暴言といった社会的相当性を逸脱
する言動に及んだことを認めるに足りる証拠はない。また,前記1ウ
,エ認定のとおり,Mは,①F担任からいじめに関与した者が
いないか尋ねられた際,JとKの名前を挙げたが,原告Aの氏名を挙げ
ず,②生活指導を務めるR教諭に対しても,いじめの加害者としてI,
J,K及びLの4名を挙げたが,原告Aの氏名を挙げなかったことが認
められる。これらによれば,原告Aのいじめへの関与の程度は必ずしも
大きくなく,Mも,原告Aがいじめの中心人物であるとは認識していな
かったといえる。そうすると,原告Aの行為は,悪質ではあるが,その
悪質性の程度が極めて高いとはいえない。
なお,被告は,原告AがJ,L及びKをLINEグループから退会さ
せたことが証拠隠滅行為に当たると主張する。しかし,LINEのグル
ープから退会しても,退会者がグループのトーク履歴を閲覧することが
できなくなるだけで,グループのトーク履歴は消えないし,原告Aらが
アップロードした動画を閲覧することも可能であることが認められる
(甲50)。したがって,原告AがJ,L及びKをLINEのグループ
から退会させたことは,これら3名のMに対するいじめへの関与の程度
が低いかのように装う行為であるということはできるが,証拠隠滅行為
に当たるとはいえず,被告の主張をそのまま採用することはできない。
前記1エ認定のとおり,原告Aは,被告高校に対して反省文(乙
6の1,2)を提出したが,当時,原告Aが被告高校に対し,Mに対す
るいじめを容認する言動に及んだり,教諭らからの指導を拒否する態度
をとったりしたことをうかがわせる証拠はない。
他方,前記1エ~,カ認定のとおり,①Mに対するいじめが
発覚した後である10月29日から自宅待機通知がされた日である11
月1日までの間の被告高校教諭らによる原告Aに対する働きかけは,事
情聴取を一度行い,あとは反省文を書くように要請することに終始して
おり,原告AがMに対するいじめに関与した経緯や,同級生らとの関係
等についての事情聴取はせず,原告Aが撮影したことを認めた動画の具
体的内容を確認することもなかったこと,②E校長は,自宅待機中の1
1月19日,原告Aは退学処分が相当であると考えて進路変更勧告を決
定したことが認められる。これらによれば,被告高校において,退学処
分に当たり,処分の前提となる事実の調査を行い,原告Aに対して弁明
の機会を与えたとは認められないし,原告Aに対して十分に反省を促し
て改善指導を行ったとも認められない。かえって,これらの事実によれ
ば,被告高校は,原告Aに対して自宅待機を指示した11月1日時点に
おいて,原告Aに改善が見込まれるかどうかにかかわらず,原告Aが被
告高校に通学することを認める意向を有しておらず,原告Aを学外に排
除しようとしていたことが推認される。
この点について,被告は,原告Aに対し,弁明の機会を与えたと主張
原告Aに対して退学処分を行うことを決定したことを通知する書面の中
で行われたものであり,原告Aの弁明の内容を踏まえて処分内容を決定
することは予定されていないから,被告高校が原告Aに対して実質的に
弁明の機会を付与したと評価することはできない。
以上によれば,原告Aの行為は極めて悪質であるとは認められず,原
告Aには改善が見込まれないとは認められないにもかかわらず,被告高
校は,十分な事実調査をせず,改善の機会を十分に与えず,本件退学処
分をしたということができる。よって,原告Aの一連の行為を被告高校
学則31条3項4号所定の「学外の秩序を乱し,その他生徒としての本
分に反した者」に該当すると認め,退学処分を選択した被告高校のE校
長の判断は,社会通念上合理性を欠くものというべきであり,原告Aに
対する本件退学処分は,被告高校の校長に認められた裁量権の範囲を逸
脱するものであるということができるから,その余の点について判断す
るまでもなく,その効力を是認することができず,違法である。そして,
E校長には過失があるから,E校長の原告Aに対する本件退学処分は民
法709条の不法行為を構成する。上記不法行為は,被告の事業の執行
についてされたものであるから,被告は,原告Aに対し,民法715条
の使用者責任を負う。
原告Bに対する本件退学処分が違法であるかについて
ア原告Bの懲戒事由の存在について
前記ア認定のとおり,Mは,遅くとも9月20日頃以降,ハ組におい
て,同級生から,単なる冗談やからかいの対象とされるにとどまらず,社
会的相当性を逸脱したいじめを継続的に受けており,このことはハ組の生
徒らの間に知られていたということができる。
そして,前記1イ,認定のとおり,①原告Bは,「さん,に
い,いち」と発言して合図を送り,それを受けてIがMをベルトで叩いた
ことがあったこと,②原告Bは,Mが被告高校にスパナを持ってきている
ことについて,Mをからかったことがあること,③原告Bは,机で寝てい
るMの肩付近を定規で叩いたことがあること,④原告Bは,Jから頼まれ,
JとMが激しく打ち合っている対戦場面を携帯電話で撮影し,Mに無断で,
動画を多数の生徒が閲覧することができるLINEグループのトークルー
ム上にアップロードしたことが認められ,原告Bが同級生に対してMに対
する行き過ぎた攻撃行動をやめるよう働きかけたことをうかがわせる証拠
はない。
これらによれば,原告Bは,Mが同級生からいじめを受けていることを
認識した上で,Mに対するいじめを容認するだけでなく,これを助長する
行為をしたということができる。このような原告Bの行為は,被告高校の
秩序を乱し,かつ,被告高校の教育方針に反するものである。
イ原告Bに対する本件退学処分が裁量権を逸脱濫用したものかについて
原告Bは,上記ア認定のとおり,Mに対するいじめを助長する行為を
したが,原告Bが日常的にMに対して直接的に暴力を振るったり,同級
生らの攻撃行動をあおったりしていたことを認めるに足りる証拠はない。
また,前記1ウ,エ認定のとおり,Mは,①F担任からいじ
めに関与した者がいないか尋ねられた際,JとKの名前を挙げたが,原
告Bの氏名を挙げず,②生活指導を務めるR教諭に対して,いじめの加
害者としてI,J,K及びLの4名を挙げた際も,原告Bの氏名を挙げ
なかったことが認められる。これらによれば,原告Bの行為は,いじめ
を助長させるものであるが,その関与は部分的なものであり,関与の程
度も必ずしも大きいものとはいえず,Mも,原告Bをいじめの関与の程
度が大きい人物であるとは認識していないといえる。そうすると,原告
Bの行為は,悪質ではあるが,その悪質性の程度が極めて高いとはいえ
ない。
前記1エ認定のとおり,原告Bは,被告高校に対して反省文(乙
13の1・2)を提出したが,当時,原告Bが被告高校に対し,Mに対
するいじめを容認する言動に及んだり,教諭らからの指導を拒否する態
度をとったりしたことをうかがわせる証拠はない。
他方,前記1エ~,カ認定のとおり,①Mに対するいじめが
発覚した後である10月29日から自宅待機通知がされた日である11
月1日までの間の被告高校教諭らによる原告Bに対する働きかけは,事
情聴取を一度行い,あとは反省文を書くように要請することに終始して
おり,原告BがMに対するいじめに関与した経緯や,同級生らとの関係
等についての事情聴取はせず,原告Bが撮影したことを認めた動画の具
体的内容を確認したこともなかったこと,②E校長は,自宅待機期間中
の11月19日,原告Bは退学処分が相当であると考えて,進路変更勧
告を決定したことが認められる。これらによれば,被告高校において,
退学処分に当たり,処分の前提となる事実の調査を行い,原告Bに対し,
弁明の機会を与えたとは認められないし,原告Bに対して十分な改善指
導を行ったとも認められない。かえって,これらの事実によれば,被告
高校は,原告Bに対して自宅待機を指示した11月1日時点において,
原告Bに改善が見込まれるかどうかにかかわらず,原告Bが被告高校に
通学することを認める意向を有しておらず,原告Bを学外に排除しよう
としていたことが推認される。
この点について,被告は,原告Bに対し,弁明の機会を与えたと主張
原告Bの弁明の内容を踏まえて処分内容
を決定することは予定されていないから,被告高校が原告Bに対して実
質的に弁明の機会を付与したと評価することはできない。
以上によれば,原告Bの行為は悪質であるとは認められず,原告Bに
は改善が見込まれないとは認められないにもかかわらず,被告高校は,
十分な事実調査をせず,改善の機会を十分に与えず,本件退学処分をし
たということができる。よって,原告Bの一連の行為を被告高校学則3
1条3項4号所定の「学内の秩序を乱し,その他生徒としての本分に反
した者」に該当すると認め,退学処分を選択した被告高校のE校長の判
断は,社会通念上合理性を欠くものというべきであり,原告Bに対する
本件退学処分は,被告高校の校長に認められた裁量権の範囲を逸脱する
ものであるということができるから,その余の点について判断するまで
もなく,その効力を是認することができず,違法である。そして,E校
長には過失があるから,E校長の原告Bに対する本件退学処分は,民法
709条の不法行為を構成する。上記不法行為は,被告の事業の執行に
ついてされたものであるから,被告は,原告Bに対し,民法715条の
使用者責任を負う。
3争点2(原告らの損害額)について
慰謝料について
原告らは,本件退学処分により,平成c年4月17日以降,被告高校か
ら排除され,被告高校における学校生活の機会を一方的に奪われたことが
認められる。その一方で,原告らがそれぞれMに対して行った行為が非難
に値するものであることは,慰謝料の算定において考慮すべきである。
その他,本件に現れた諸事情を考慮すると,原告らが本件退学処分によ
って被った精神的苦痛に対する慰謝料は,それぞれ150万円と認めるの
が相当である。
弁護士費用
本件事案の内容,認容額等を考慮すると,弁護士費用は,原告らそれぞ
れについて15万円と認めるのが相当である。
4結論
以上によれば,原告らの請求は,それぞれ,165万円及びこれに対する
平成h年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求め
る限度で理由があるから(なお,前記の事実関係の下では,不法行為による
損害額と債務不履行による損害額は同一であると認められるから,原告らの
予備的請求のうち上記認容額を上回る部分は,いずれも理由がない。),主
文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言については,相当でないからこ
れを付さないこととする。
広島地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官龍見昇
裁判官宮本博文
裁判官田中佐和子

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