弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
       事   実
当事者の主張および証拠の関係は、別紙要約書記載のとおりである。
       理   由
一 成立について争いのない甲第一号証(本件特許公報)によると、
本件特許発明は、
(一)1 棒材支承用の傾斜する棚板の下降端に平行する回転軸に取り付けられ、
外周に多数の切込み溝を有する一個または数個の取出し輪と
2 順次送り出される棒材の後方末端の通過に関連して電磁的に作動し、ラチエツ
ト機構を介して、1記載の取出し輪を回転する取出し用摺動杆と、
3 1記載の取出し輪の切込み溝にくわえられて送出し線上にある棒材を支承して
遊転する二個の送出し用受け輪と、
4 工作機のチヤツク等の開閉に関連して電磁的に作動する送出し用摺動杆によつ
て揺動され、その下端にある抑え転子で、それぞれ対応する送出し用受け輪に、前
記送出し線上にある棒材を押しつけて送出する二個の抑えレバーと
を具備する。
(二) 棒材自動供給装置
であることをその構成の要件とするものであると認められる。
二 原告は、当事者間に争いのない本件特許発明の特許請求の範囲のうち、棒材支
承用の棚板から棒材を送出し線上に送出する装置について本件特許発明の構成に示
される手段は、成立に争いのない甲第二号証に示されるような公知の手段の置換に
すぎず、この構成は格別の意味を有しないものであるから、本件特許発明の要部
は、(1)送出し線上にある棒材を支承して遊転する二個の送出し用受け輪(2)
工作機のチヤツク等の開閉に関連して電磁的に作動する送出し用摺動杆によつて揺
動され、その下端に装備された抑え転子でそれぞれ対応する送出し用受け輪に前記
送出し線上にある棒材を押しつけて送出する二個の抑えレバーであると主張する。
 原告の主張する右要部なるものの意味が、本件特許発明の構成のうち原告の主張
する要部以外の部分が本件特許発明の構成の要件をなすものではない、すなわち原
告主張の要部さえ具備していればそれ以外の部分を備えていなくても本件特許発明
の技術的範囲に属するという意味であるとすれば、原告の右主張は、特許法第七〇
条、第三六条五項の規定にかんがみて、その採りえないことは明らかである。すな
わち、同法第七〇条によれば、「特許発明の技術的範囲は、願書に添附した明細書
の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならず」、同第三六条第五項によれ
ば、「……特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くこ
とができない事項のみを記載しなければならない。」のに、原告の右主張によれ
ば、本件特許請求の範囲には、本件特許発明の構成に欠くことができない事項以外
の事項の記載があり、本件特許発明の技術的範囲を明細書の特許請求の範囲の記載
に基づいて定めることができなくなるからである。
 原告は、また、特許発明の技術的範囲は明細書の特許請求の範囲の記載に基づい
て定めなければならないということは、特許請求の範囲の記載によつてのみ定めな
ければならないことを意味するものではなく、発明の詳細な説明の記載を参照して
定めなければならない場合もあるし、特許請求の範囲が公知事実を含んでいる場合
に、公知事実を除外して技術的範囲を定めるべき場合もあるところ、本件の場合、
前認定の一の(一)の1および2の要件は公知の事実であり、かつ、1および2
と、3および4とはそれぞれ独立した別個の装置であつて、その目的とする作用効
果もまた別個のものであり、しかも、本件特許発明の目的とする作用効果は、右3
および4の装置の作動によつて生ずるものであり、3および4のみが本件特許発明
の技術的範囲であると解すべきであると主張する。
 しかしながら、前掲甲第一号証(本件特許公報)の発明の詳細な説明の項の記載
を参照しても、本件特許発明の構成要件を前認定とは異なつたように認定すべきで
あるとの理由は発見できず、また、そのように認定すべき証拠もない。また、特許
請求範囲の中に公知事実が含まれている場合に、その公知事実を除外して技術的範
囲を定めるべきこととすると、本件特許発明におけるように、「特許請求の範囲に
記載された発明」が、公知の技術的要素を含む複数個の技術的要素の結合からなる
ものである場合、その発明と、その公知の技術的要素を除外した爾余の技術的構成
とは、技術として別個のものであるから、特許請求の範囲において発明の対象とさ
れない技術内容について、権利を肯認する結果を生ずるのみならず、被告が主張す
るように、公知の事実が多くなるほど特許発明の技術的範囲が拡大するという不合
理を生ずるし、しかもなお、特許請求の範囲に含まれている事実が公知であるかど
うかは、しかく争いなく容易に判明するものでない場合が多く、したがつて、特許
発明の技術的範囲が容易に一義的には定められないという、特許制度にとつてまこ
とに都合の悪いことになつてくる。したがつて、仮りに前認定の1および2の構成
が公知であつても、本件特許発明の構成要件からこれを除外すべき理由はない。さ
らに、特許発明の技術的範囲が特許発明の目的とする作用効果のみから定められる
べきものでないことはいうまでもないところであるから、原告の右主張は、すべて
理由がない。
三 被告が本件物件を販売していること、本件物件が別紙説明書および図面記載の
とおりの構造を有するものであることは当事者間に争いがない。これによれば、本
件物件は、棒材自動供給装置ではあるが、前認定の本件特許発明の構成要件中1の
「棒材支承用の傾斜する棚板の下降端に平行する回転軸に取り付けられ、外周に多
数の切込み溝を有する一個または数個の取出し輪」も、また同じく2の「順次に送
出される棒材の後方末端の通過に関連して電磁的に作動し、ラチエツト機構を介し
て、1記載の取出し輪を回転する取出し用摺動杆」をも具備しておらず、同4の
「電磁的に作動する送出し用摺動杆」をも備えていないから、本件物件が、原告の
主張するように、前認定の本件特許発明の構成要件3および4に相当する、送出し
線上にある棒材を支承して遊転する二個の送出し用受け輪(別紙説明書および第二
図の送りロール1、2)、工作機のチヤツク等の開閉に関連して作動する送出し用
摺動杆(同21)によつて揺動される二個の抑えレバー(同アーム19およびレバ
ー21の一部)がその下端に装置された抑え転子(同ロール17、18)でそれぞ
れ対応する送出し受け輪(同送りロール1、2)との間に棒材を抑えつけ、抑えレ
バーの揺動によつて棒材(同A)を送出する機構を有するとしても、本件物件は、
本件特許発明の技術的範囲に属しないものといわなければならない。
 原告は、取出し機構について、本件特許発明の構成に示される手段および本件物
件の手段の両者いずれも従来公知の手段であり、本件物件はこの公知の手段を単に
置換したものにすぎず、しかも、その作用効果は同一であつて、この取出し機構の
差異をもつて、本件物件が本件特許発明の権利を侵害していないという被告の主張
は当らないといい、また、送出し機構ならびに取出し部と送出し部を連結する連係
作動部の構造について、電磁的な作動を利用するか機械的部材を用いるかは、設計
者が必要に応じて適宜いずれを採るかを決めるべき設計上の問題にすぎず、本件物
件は本件特許発明の均等物である趣旨の主張をしている。しかしながら、右のよう
な主張は、本件特許発明が数個の独立した発明を包含していることを前提としての
みできる立場であつて、本件特許発明を一つの発明とみるとき、本件物件をその均
等物とみることはできない。原告の主張は理由がない。
四 以上説明のとおり、本件物件は、本件特許発明の技術的範囲に属さないものと
認められるから、これが属することを前提とする原告の本訴請求は理由がない。よ
つて、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八
九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 荒木秀一 高林克己 野澤明)
(別紙)
要約書
第一 当事者の申立
原告
「被告は、別紙説明書および図面記載の装置を装着した機械を販売してはならな
い。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求める。
被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。
第二 請求の原因
一 原告は、
左記特許発明(以下「本件特許発明」という。)の特許権者である。
発明の名称 棒材自動供給装置
出願日 昭和三八年一二月二〇日
出願番号 昭三八―六八三〇三号
出願公告日 昭和四二年三月一日
出願公告番号 昭四二―五〇三三号
特許登録日 昭和四二年七月二四日
登録番号 第四九八一一四号
 そして、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項には、つぎのとおりの記載
がある。
「棒材支承用の傾斜する棚板の下降端に平行する回転軸に取付けられ外周に多数の
切込み溝を有する一個又は数個の取出し輪と、順次に送出される棒材の後方末端の
通過に関連して電磁的に作動しラチエツト機構を介して前記取出し輪を回転する取
出し用摺動杆と、前記取出し輪の切込み溝にくわえられて送出し線上にある棒材を
支承して遊転する二個の送出し用受け輪と、工作機のチヤツク等の開閉に関連して
電磁的に作動する送出し用摺動杆によつて揺動されその下端に有する抑え転子でそ
れぞれ対応する送出し用受け輪に前記送出し線上にある棒材を押しつけて送出する
二個の抑えレバーとを具備することを特徴とする棒材自動供給装置。」
二 右特許請求の範囲のうち、棒材支承用の棚板から棒材を送出し線上に送出する
装置について、本件特許発明の構成に示される手段は、従来公知の手段の置換にす
ぎず(甲第二号証参照)、この構成は格別の意味を有しないものであるから、本件
特許発明の要部は、
 棒材自動供給装置における、
(1) 送出し線上にある棒材を支承して運転する二個の送出し用受け輪
(2) 工作機のチヤツク等の開閉に関連して電磁的に作動する送出し用摺動杆に
よつて揺動され、その下端に装置された抑え転子でそれぞれ対応する送出し用受け
輪に前記送出し線上にある棒材を押しつけて送出する二個の抑えレバーである。
三 しかして、本件特許発明は、前記二つの要部をもつことにより、つぎのような
作用効果をあげることをその目的とするものである。
 すなわち、本件特許発明は、
(1) 工作機のチヤツク等の開閉に関連して送出し用摺動杆(別添特許公報図面
番号29)を作動し、
(2) その作動によつて二個の抑えレバー(同34、35)が揺動され、
(3) その下端に取りつけられた抑え転子(同32、33)で、それぞれ対応す
る送出し用受け輪(同26、27)との間に棒材を押しつける、
 すなわち、工作機のチヤツク等が開いている時に、抑え転子と送出し用受け輪と
の間に棒材をはさんで、抑え転子で棒材を抑えつけると、棒材と抑え転子との間お
よび棒材と送出し用受け輪との間に摩抑力が働き、棒材を工作機の方向に確実に送
り出す作用をするのである。この作用により、工作機のチヤツク等が開いている間
に棒材が確実に送られ、前記のチヤツク等が閉つている時は、棒材は停止して、工
作機の工作に応じた棒材の供給が行われる作用が起る。
 したがつて、本件特許発明の前記要部に、前記棚板から棒材を送出し線上に送出
する機構を付加することによつて、多数の被加工棒材を傾斜する棚板上に並列載置
し、最初の一本のみを工作機にセツトしておけば、工作機への供給は、棚板上の棒
材がなくなるまで、まつたく自動的に行われ、工作機作業の能率を向上し、かつ、
作業員を節減する効果が得られるのである。
四 被告が販売している機械は、別紙説明書および図面記載のとおりの構造を有す
るものである。
(一) 右機械(以下「本件物件」という。)は、つぎのとおりの構造上の特徴を
有している。
(1) 棒材自動供給装置を備える機械である。
(2) そして、この棒材自動供給装置は、
(イ) 送出し線上にある棒材を支承して遊転する二個の送出し用受け輪(別紙説
明図第二図の送りロール1、2)
(ロ) 工作機のチヤツク等の開閉に関連して作動する送出し用摺動杆(同21)
によつて揺動される二個の抑えレバー(同アーム19およびレバー21の一部)が
その下端に装置された抑え転子(同ロール17、18)で、それぞれ対応する送出
し用受け輪(同送りロール1、2)との間に棒材を抑えつけ、上記抑えレバーの揺
動によつて棒材(同A)を送出する機構を有し、
なお棚板から棒材を送出し線上に送出する機構を備えている。
(二) その作用効果は、
(1) 工作機のチヤツク等の開閉に関連して送出し用摺動杆が作動し、
(2) その作動によつて、二個の抑えレバーが揺動され、
(3) その下端に有する抑え転子でそれぞれ対応する送出し用受け輪との間に棒
材を押しつけるものであつて、工作機のチヤツク等が開いている時に、抑え転子と
送出し用受け輪との間に棒材をはさんで抑え転子で棒材を押えつけると、棒材と抑
え転子との間および棒材と送出し用受け輪との間に摩擦力が働いて棒材を送出する
ことになり、本件特許発明の要部とまつたく同一の作用効果をあげるものである。
五 本件物件は、本件特許発明の要部を構成する前記第二の二の(1)および
(2)の要件を備えていることは明らかであり、その作用効果も、第二の四の
(二)記載のとおり、本件特許発明の目的とする第二の三記載の作用効果と同一で
あるから、被告販売の機械は、本件特許発明の技術的範囲に属するものである。
六 よつて、被告の本件物件の販売の差止を求める。
第三 被告の答弁ならびに主張
一 請求原因一を認め、同四の事実のうち、被告が本件物件を販売している事実は
認める。その余の原告の主張は、すべて争う。
二 特許発明の技術的範囲は、明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなけ
ればならない(特許法第七〇条)が、本件特許発明の特許請求の範囲の記載による
と、
本件特許発明の要件は、
(1) 棒材支承用の傾斜する棚板の下降端に平行する回転軸に取り付けられ外周
に多数の切込み溝を有する一個または数個の取出し輪
(2) 順次に送り出される棒材の後方末端の通過に関連して電磁的に作動しラチ
エツト機構を介して前記取出し輪を回転させる取出し用摺動杆
(3) 前記取出し輪の切込溝にくわえられて送出し線上にある棒材を支承して遊
転する二個の送出し用受け輪
(4) 工作機のチヤツク等の開閉に関連して電磁的に作動する送出し用摺動杆に
よつて揺動されその下端に有する抑え転子でそれぞれに対応する送出し用受け輪に
前記送出し線上にある棒材を押しつけて送出する二個の抑えレバー
を具備していることである。
三 本件特許発明と本件物件とを対比してみると、両者は、まつたく異るものであ
る。
(一) 構造
(1) 取出し機構
 本件特許発明においては、外周に多数の切込み溝を有する棒材取り出し輪15
(以下本件特許発明の説明に付する番号は、別添特許公報記載の番号である。)を
回転させて棒材を取出す構造であるのに対し、
 本件物件においては、爪44′(以下本件物件の説明に付する番号は、別紙説明
書および図面の番号である。)および爪片39を交互に出し入れする構造によつ
て、棒材を一本づつ取り出すものであり、その技術的発想がまつたく異なる。
(2) 送出し部の構造
 本件特許発明においては、第三の二の(3)および(4)記載のとおり、遊転す
る送出し用受け輸26、27と、工作機のチヤツクの開閉に関連して電磁的に作動
する送出し用摺動杆29によつて揺動され、その下端には前記送出し用受け輪2
6、27に対応する抑え転子32、33を有する抑えレバー34、35を有するも
のであるのに対し、
 本件物件においては、常時回転ロール1、2と工作部のチヤツクの開閉にともな
うワイヤー46の動きにより本体の軸を中心に回動する回動体31、その回動体3
1に枢着してある受動盤32、本体に枢着され、モーター14の動力により常時回
転している伝導盤9、同じく回動体31に枢着してあるカム29、そのカム29に
対応するコロ28、このコロ28の動きにともなつてレバー21を背圧するための
調節ネジ24、背圧されるレバー21、そのレバーの短方向に枢着してあるアーム
19、アームに枢着されるローム17、18を有する構造であり、
 両者を対比すると、本件特許発明においては右の各部分が電磁的な作動を利用し
て連動するのに対し、本件物件においては機械的構造を有機的に結合して連動する
機構によつているのである。
 両者の構造上の違いはこの点からも明らかである。
(3) 取出し部と送出し部を連絡する連係作動部の構造
 本件特許発明においては、順次に送出される棒材の後方末端の通過に関連して電
磁的に作動する摺動杆7、
ラチエツト機構により取出し輪15が断続的に回転するための爪片6、爪片6を取
出し輪15の棘歯に圧接するスプリング9より成り、
 本件物件のそれについてみると、送出し部にあるロール1、2、ロール17、1
8、アーム19、レバー21、調節ネジ24、コロ28、カム29、回動体31、
受動盤32、伝導盤9、受動盤下方に、回動体に軸設してあるカム33、このカム
に衝合するコロ36、同箇軸35′、ロツド37、連結杆48、取出し部の軸41
の構造が有機的に結合し、かつまた、取出し部と送出し部の機構の動きにも有機的
に結合する構造となつている。
 両者を対比すれば、本件特許発明のものは、電磁的機構およびラチエツト機構に
よつて、取出し部と送出し部を結合するものであるのに対し、本件物件のそれは、
機械的構造により、各部品を連動させることにより、それぞれの部品の動きが、有
機的に結合されている構造のものである。
 この点も、両者は、まつたく異なる構造であることは明らかである。
(二) また、本件物件においては、取出し部、送出し部、その連係作動部を機械
構造上有機的に結合させ、取出し部、送出し部、連係作動部の全体的動きも、いわ
ゆるシーケンス動作によつているものであり、この点にも技術上の特徴があるので
ある。
 電磁機構を採用した本件特許発明とはまつたく発想を異にし、考え方を異にする
ことは明らかである。
四 右のとおり、構造的にみても本件特許発明の技術的範囲と本件物件の技術内容
とは、まつたく異なるものであるから、棒材供給という共通の目的に奉仕するとこ
ろがあるからといつて、本件物件の技術が本件特許発明の権利範囲に含まれるとい
う論は、成り立たない。
 特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであ
り、したがつて、それは、発明の構成から定められるべきものであり、目的から判
断されるものではない(特許法第七〇条、第三六条第二、四、五項)。
 まして、原告の挙げる公知技術によれば、すでに本件特許発明の出願時以前にお
いて、電磁的連動機構のものも機械的連動の機構のものもあつたということである
ならば、なおさらのこと、原告は、右のうちの電磁的連動機構を当然の前提とする
技術を特許出願したものであると考えるべきであり、(両者を含むものであればそ
のような表現をとるべきである。ただし、両者を含んだ表現をとつた場合にもな
お、特許が付与されたかどうかはきわめて疑わしい。)その前提から外れている被
告製品についてまで権利を行使しうべき限りではない。
五 さらに、実用新案公報実公昭二七―七五八一号(乙第一号証)には本件の特許
発明の要件の一である棒材の送出し機構に関する技術が開示されており、この部分
も公知ということになるのであるが、原告の主張によれば、公知の部分が多くなれ
ばなるほど権利範囲が拡大するもののごとくであり、このような考え方が当を得て
ないことはいうまでもない。
 公知資料がある場合、それを、特許発明の技術的範囲を確定するに当つて、斟酌
することは当然であるが、そのような公知資料の存在によりかえつて技術的範囲が
拡大するというのは、技術的範囲の正当な解釈態度ではないこと明らかである。
第四 被告の主張に対する原告の反論
一 特許発明の技術的範囲(構成要件)は、明細書の特許請求の範囲の記載に基づ
いて定めなければならないが、これは特許請求の範囲の記載によつてのみ定めなけ
ればならないことを意味するものではない。発明の詳細な説明の記載を参照して定
めなければならない場合もあるし、また、特許請求の範囲が公知事実を含んでいる
場合に公知事実を除外して技術的範囲を定めるべき場合もある(大審院昭和一二年
(オ)一一四一号)。
 本件の場合、被告が第三の二で主張する(1)および(2)の要件は公知の事実
であり、かつ、(1)および(2)と(3)および(4)とはそれぞれ独立した別
個の装置であつて、その目的とする作用効果もまた別個のものであり、しかも、本
件特許発明の目的とする作用効果は、右(3)および(4)の装置の作動によって
生ずるものであり、(3)および(4)のみが、本件特許発明の技術的範囲である
と解すべきである。
二 被告は、本件特許発明にかかる装置と本件物件の構造とは、まったく異なるも
のであると主張する。
しかし、
(一) まず、取出し機構を対比してみると、
 本件特許発明は、棒材取出し輪15を回転させて棒材を一本づつ取り出す構造で
あるのに対し、本件物件においては、軸41を回転させ、この軸の回転により爪4
4′および爪片39を回転させて棒材を一本づつ取り出すものであり、両者は、そ
れぞれ回転軸の回転運動を利用している点において、まったく同一の技術思想にも
とづいている。
 また、取出し機構については、本件特許発明の構成に示される手段および本件物
件の手段の両者いずれも従来公知の手段であり、本件物件はこの公知の手段を単に
置換したものにすぎず、しかも、その作用効果は同一であつて、この取出し機構の
両者の差異をもつて、本件物件が本件特許発明の権利を侵害していないという主張
は当らない。
(二) 次に送出し機構についてみると、
 被告は、両者の差異について、「本件特許発明においては電磁的な作動を利用し
て連動するのに対し、本件物件においては機械的構造を有機的に結合して連動する
機構によつている」点において、両者の構造上の違いが明らかであると主張してい
る。しかし、一般的に、出願の時点における技術水準において、機械装置中にはそ
の一部として電磁的な機構が多く使用され、また、電磁部材中にも機械的な部材が
使用されるのは(例えば復元用のスプリングなど)、きわめて常識的なことであ
り、それを区別するのは困難である。機械装置において、機械的な部材を電磁的な
部材に、また電磁的な部材を機械的な部材に置き換えることは、単に当該技術者が
必要によつて選択する設計上の問題にすぎない。
(三) 取出し部と送出し部を連結する連係作動部の構造についてみると、
 被告は、「本件特許発明のものは電磁的機構およびラチエツト機構によつて取出
し部と送出し部を連結するものであるのに対し、本件物件のそれは機械的な構造に
より各部品を連動させることにより、それぞれの部品の動きが有機的に結合されて
いる構造のものである。」から、「両者はまつたく異なる構造であることが明らか
である。」と主張する。しかし、
前述のように電磁的な部材と機械的な部材とは均等物であり、また、回転運動を利
用する機構において、一方向の回転運動を行なうものにおいては、(ラチエツト機
構を用いるのは設計上の常識であり、往復運動を行なうものにおいては、ラチエツ
ト機構を必要としないことも設計上の常識であり、この両者は、その作用効果にお
いてまつたく差異を有せず、設計者が必要に応じて適宣、いずれを採るか決めるべ
き設計上の問題にすぎない。
 したがつて、両者はまつたく異なる構造を有するとする被告の主張は妥当ではな
く、両者は、均等である。
(四) 本件物件における「シーケンス動作」について、
 被告は、「本件物件においては取出し部、送出し部、連係作動部の全体的動き
も、いわゆるシーケンス動作によつているものであり、この点にも技術上の特徴が
ある」と主張しているが、シーケンスという語は作動順序という意味であり、シー
ケンス動作とはあらかじめ定められた順序に従つて作動が行なわれるという動作を
意味するものであつて、この点両者は全く差異がない。
三 これを要するに、本件特許発明の技術的範囲と本件動作の技術内容は、目的、
作用、効果のみならず、構造的にも全く均等のものであるといえる。
第五 立証(省略)
(別紙)
説明書
 第一図は全体の側面図、第二図は作動状態の説明図、第三図は第二図のa―a線
断面図、第四図は棒材載置機構の説明図である。
 棒材Aの送り軸線Bに沿つて、これと平行に一対の送りロール(1)、(2)を
設け、それぞれの送りロール(1)、(2)の第一、第二軸(3)、(4)に取付
けた歯車(5)、(6)と噛合する第一のビニオン歯車(7)を第三の軸(8)に
固定する。
 この軸(8)に摩擦クラツチの伝導盤(9)および平歯車(10)を固定すると
ともに、これと噛合する第二ビニオン歯車(11)およびVプーリー(12)を固
定した第四の軸(13)を設ける。モーター(14)のプーリー(15)と前記V
プーリー(12)間にVベルト(16)を巻装する。
 前記ロール(1)、(2)に対応させてロール(17)、(18)をアーム(1
9)に枢着する。また、
鈎針状のレバー(21)を設け、このレバー(21)の折曲部を第五の軸(20)
′に軸支させ、かつ、その短い部分の先端を前記ロール(17)の軸(20)に枢
着する。レバー(21)の長い部分はアーム(19)とほぼ平行となるように配置
し、このレバー(21)とアーム(19)との開放端間に強い圧縮スプリング(2
2)およびこれと平行して比較的弱い引張りスプリング」(23)を介在させる。
さらに、レバー(21)の背部と接する調節ネジ(24)を持つた押圧杆(25)
を第六の軸(26)に回動可能に支持させ、押圧杆(25)と連動しかつ先端にコ
ロ(28)を有する操作杆(27)を設ける。
 このコロ(28)と衝合できる円盤カム(28)を上端に固定した回転軸(3
0)を設け、この回転軸(30)の下方は回動体(31)を貫通して前記摩擦クラ
ツチの伝導盤(9)と衝合できる受動盤(32)およびカム(33)を固定すると
ともに、回動体(31)と受動盤(32)間に回転軸(30)に巻装し、かつ、両
端を回動体(31)および受動盤(32)に少しく埋没させたコイルスプリング
(34)を設ける。前記回動体(31)は、フレームCの適当個所に枢着された回
動可能なものであり、その一端より外方に突出させてピン(45)を設け、このピ
ン(45)に一端を、他端を図示しない自動旋盤のチヤツクの開閉と連動して機械
的に引張られるワイヤー(46)を設け、さらに、このワイヤー(46)とは反対
方向に一端をピン(45)に他端をフレームCに取り付けたコイルスプリング(4
7)を設ける。回転軸(30)のカム(33)と衝合できるコロ(36)を末端に
持つた円筒軸(35)′を第七の軸(35)に設け、円筒軸(35)′の上方にこ
れと直角方向にロツド(37)の一端を固着する。
 また、前記棒材Aの送り線Bを挾んで対応させた一対の支柱(38)を軸線Bと
同一方向にそれぞれ一定間隔で複数個設ける。S字形の爪片(39)は、その先端
が送り軸線Bより少し前方に突き出るようにし、その爪片(39)の末端には、垂
直なロツド(40)の上端が枢着する。
軸線Bの下方にこれと平行な第八の軸(41)を設け、該軸(41)にこれと直角
方向に回動杆(42)を固定するとともに、回動杆(42)の先端に前記ロツド
(40)の末端を枢着する。また、回動杆(42)とは反対方向に回転杆(42)
′を設け、その先端に垂直な作動杆(44)の末端を固定し、その上端は軸線B方
向に爪(44)′を突出させ、作動杆(44)の回動時この爪(44)′の先端が
爪(39)の先端より下方に段ちがいとなつて軸線Bよりやや突出できるようにす
る。第八の軸(41)の前方には、上方に突出させて連結杆(48)を設け、この
杆(48)を前記円筒軸(35)′のロツド(37)と係合させる。
 なお、前記支柱(38)および第一ないし第八の軸は、フレームCの適宜位置に
支承させた構成よりなる棒材供給装置である。
 作用を説明すると、送り出すべき棒材Aは、複数個の支柱間に垂直状態で挿入さ
れており、作動杆(44)の爪(44)′上に載置されている。また、送りロール
(1)、(2)は、モーター(14)よりの回転力がVプーリー(15)、ベルト
(16)、Vプーリー(12)、第四の軸(13)、第二ピニオン歯車(11)、
歯車(10)、第三の軸(8)、第一ピニオン(7)、歯車(5)、(6)および
第一、第二の軸(3)、(4)をへて伝えられ、常時回転しているものであり、加
工途中の棒材Aは、送りロール(1)、(2)とロール(17)、(18)間にあ
り、その先端部は図示しない旋盤のチヤツクに支持されている。
 いま、一定寸法の棒材の加工が完了すると、前記旋盤のチヤツクが自動的に開
き、これと同時に、ワイヤー(46)の旋盤方向からの引張りが解除される結果、
回動体(31)、回転軸(30)、受動盤(32)、カム(33)は、反時計方向
に軸(30)を中心として旋回し、上端に設けたカム(29)と操作杆(27)の
コロ(28)とが係合する。これと同時に、受動盤(32)は、常時回転している
伝導盤(9)と係合して回転軸(30)を時計方向に廻す。このため、カム(2
9)の山部でコロ(28)を押圧し、操作杆(27)および押圧杆(25)を介し
て、調節ネジ(24)は、レバー(21)をその背部より押す。このレバー(2
1)は、スプリング(22)を介して、アーム(19)を押すので、アーム(1
9)のロール(17)、(18)は、軸線Bの方向に移動して、棒材Aを送りロー
ル(1)、(2)の間に挾み、このロール(1)、(2)の回転力によつて棒材A
を自動旋盤方向に送り出す。
 このとき、ロール(17)、(18)の移動距離が、棒材Aの存在によつてわず
かであるため、カム(29)の回転も規制されて約三〇度程度となり、回転軸(3
0)のカム(33)は、いまだ円筒軸(35)′のコロ(36)と接しない。
 棒材Aが一定の長さまで送られると、旋盤内の図示しないチヤツクが閉じ棒材を
支持する。これと同時に、前記ワイヤー(46)を引くので、回動体(31)、回
転軸(30)は旧位置に帰り、受動盤(32)と伝導盤(9)の係合も外れる。こ
れと同時に、スプリング(34)の復元力により、伝導盤(9)、回転軸(30)
を介して円盤カム(29)を反時計方向に回転させ、同カム(29)を元の位置に
帰すので、レバー(21)も調節ネジ(24)による背圧が解除されスプリング
(22)の復元力で旧位置に帰り、アーム(19)のロール(17)、(18)に
よる棒材Aの押圧が解除されるので、棒材Aに旋盤加工しうる状態となる。
 この加工が完了すると、再びチヤツクが開き、棒材Aを送り、ついで、チヤツク
が閉じ、加工する作業を順次行なう。
 いま、棒材Aの末端がロール(2)と(18)との間にきたとき、前記同様旋盤
のチヤツクの操作でワイヤー(46)の引張りが解除されると、このときは、ロー
ル(1)とロール(17)間に棒材が存在しないので、前記カム(29)が先の場
合と比較して大きく約九〇度回転する。この結果、回転軸(30)の末端のカム
(33)は、コロ(36)と接し、かつ、受動盤(32)の回転に連動するので、
第七の軸(35)の円筒軸(35)′も少し回転する。この結果、ロツド(37)
は、連結杆(48)を押圧し、該杆および第八の軸(41)を時計方向に廻すの
で、軸(41)に取り付けた回動杆(42)は連動され、その先端に設けたロツド
(40)を押し上げるので、S字形の爪片(39)は回転し、爪片(39)の先端
は軸線B方向に移動して、前記爪(44)′に載置されている棒材とその直上の棒
材の間に入る。これと同時に、回動杆(42)′の時計方向の回動により、作動杆
(44)も回動して爪(44)′は棒材を外すので、棒材はその自重により落下
し、軸線B上に位置する。
 この時落下した棒材Aの先端は、ロール(17)および送りロール(1)間上に
落ちる。ついで、いまだロール(18)と送り出しロール(2)間にある棒材を加
工すべくワイヤー(46)が引張られると、前記操作でロール(17)および送り
ロール(1)間が開き、落下した棒材はこの間に落ちて、以下軸線Bにそつて送り
出されるべく位置するとともに、受動盤(33)と伝導盤(9)の係合が外される
ことによつて、第八の回転軸(48)等はスプリングの作用で元位置に帰するもの
である。
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