弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人等に関する部分を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人古川毅の上告趣意及び被告人等の各上告趣意は、重複するところもあるが、
要するに次の五つの主張に帰するのである。
一、被告人等の捜査官に対する自白調書(以下単に自白調書という)は、捜査官の
強制、拷問、利益誘導によつてなされた任意性なき自白を録取したものであつて、
かかる証拠能力なき自白調書を採証して事実を認定した原判決は、刑訴法三一九条
に違反し、ひいては憲法三八条に違反する。
二、第一審裁判長が、自白調書の任意性に関する証人尋問に際し、被告人等の反対
尋問を不当に制限したのは、刑訴法二九五条を乱用したものであり、ひいては憲法
三七条二項に違反する。
三、本件において、汽車往来危険の訴因につき、なんら訴因罰条の変更手続を採ら
ないで暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の事実を認定したのは、被告人等の防禦権
の行使の機会を失わしめたものであつて、憲法三一条、三二条に違反する。
四、本件ラムネ弾につき、爆発物取締罰則にいわゆる爆発物に該当するとした原判
断は、憲法三六条に違反する。
五、被告人A、同Bにつき、緊急逮捕の要件が具備しないのに、緊急逮捕したことは、
刑訴法二一〇条の乱用であり、憲法三三条に違反する。
 弁護人及び被告人等が第一審以来強調するのは右一の主張であつて、この点は、
当審においても審判の核心をなすべきものである。よつて、記録を検討するに、本
件第一審においては、汽車往来危険罪における危険性の有無、本件ラムネ弾が爆発
物に該当するか否かについての鑑定等に証拠調が集中し、自白調書の任意性に関す
る立証としては、取調立会の検察事務官であつたC、同D、同E、同F並びに取調警察
官であつたG、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N、同O、同P、同Qを証人として
尋問しているにすぎないことが明らかである。右証人等はすべて被告人等に対する
所論の強制、拷問、利益誘導を全く否定する旨の証言をしているが、これに対する
被告人側の反対尋問は極めて不活発であつて、なんら核心に触れる追及はなされて
おらず、右証人等は、反対尋問に対しても、強制、拷問、利益誘導の事実を否定し
ているのである。もつとも、証人Nに対する第一審相被告人Rの反対尋問に対し、ま
た、証人Qに対する被告人Bの反対尋問に対し、これを制限した第一審裁判長の訴訟
指揮には適切でなかつたところもないではないが、しかし他の証人等に対する反対
尋問に際しては、かかる制限の措置はなんらなされなかつたのであつて、被告人側
の防禦権の行使は全体として不充分であつたと認めざるを得ない。この点について
は、被告人等に対する本人質問も行なわれていないから、本件記録に関するかぎり、
捜査段階における所論の強制、拷問、利益誘導は、これを疑うべき証跡は認められ
ないのであつて、この点に関する原判断には、所論の違法は存しないといわなけれ
ばならない。
 しかしながら、本件は、第一審において相被告人Rが病気のため分離されている
のであるが、相被告人Rの分離後の公判において、本件の被告人等は自白調書の任
意性に関する証人として出廷し、捜査官の取調の状況について詳細な証言をしてい
る模様である。その公判手続の全体はもとより当裁判所の知るところではないが、
弁護人側は、当審において、第一審相被告人Rの公判における被告人等の証言を記
載した証言速記録謄本を含む書面の取調を求めた。右書面は、当裁判所において公
判にこれを顕出したのみであり、事実審におけるがごとき証拠調の方法は採つてい
ないが、被告人等の捜査官に対する自白調書の任意性に関する原判断の当否を判断
する資料に供することは許されるものと解すべきところ(昭和二九年(あ)第一六
七一号同三四年八月一〇日大法廷判決、刑集一三巻九号(上)一四一九頁参照)、
右証言速記録謄本によれば、被告人S、同T、同A、同U(現姓V)、第一審相被告人R
は、いずれも警察署における取調に際しては、手錠をかけられ、正座をさせられ、
その他各般の不当な処遇を受けたというのである。もつとも、同じく当審において
弁護人側から申請があり、公判にこれを顕出した第一審相被告人Rの公判における
証人G、同W、同Nの証言速記録謄本によれば、取調警察官であつた右証人等は、い
ずれも手錠をかけて取り調べた事実その他被告人等の主張する不当な処遇を否定し
ているのであるが、正座の点は必ずしもこれを否定せず、ただこれを強制したこと
はないと証言していることが窺われるのである。勾留されている被疑者が、捜査官
から取り調べられる際に、手錠を施されたままであるときは、特段の事情のないか
ぎり、その供述の任意性につき一応の疑いをさしはさむべきであるとすることは、
当裁判所の判例(昭和二五年(れ)第六二二号同二六年八月一日大法廷判決、刑集
五巻九号一六八四頁、昭和三七年(あ)第二二〇六号同三八年九月一三日第二小法
廷判決、刑集一七巻八号一七〇三頁参照)とするところである。従つて、本件にお
いて、被告人等の取調に際し、捜査官が手錠を施したままであつたか否か、並びに
これを施用したままであつたとしても、その供述の任意性を肯定すべき特段の事情
が存したか否かの点その他被告人等の自白調書の任意性の有無については、なお審
理を尽くすべき必要があると認められる。(本件被告人等の前記速記録謄本におい
ては、警察官の取調の際における手錠の施用の点等について証言し、検察官の取調
の際の状況については直接には触れていないが、検察官の取調についても、警察官
の取調の際における影響が遮断されていることが認められないかぎり同様の問題が
ある。昭和二四年(れ)第二七八〇号同二七年三月七日第二小法廷判決、刑集六巻
三号三八七頁参照)
 然りとすれば、原判決は結果的に審理不尽の違法をきたし、右違法は決判に影響
を及ぼすことが明らかであり、これを破棄しなければ著しく正義に反するといわざ
るを得ない。よつて、他の論旨についての判断を省略し、刑訴法四一一条一号、四
一三条本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 神谷尚男公判出席
  昭和四一年一二月九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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