弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人服部喜一郎の上告理由第一点について。
 論旨は、本件所有権移転登記手続が大正二年以降約四〇年もの長い間放置されて
いたのにその特別事情を判示しなかつたのは理由不備だというけれども、原判示D
はEに対し貸金債務の弁済に代えて本件山林の所有権を移転し、引渡も了したが、
Eは諸事にとりまぎれてその登記を経なかつたけれども爾後その相続人I、被上告
人と代々右山林を占有管理、使用収益して現在に至りその間少くも昭和二五年頃ま
で被上告人方に対しこのことにつき別段の異議が述べられたことはなかつた趣旨を
原審は認定しているのであつて、上告人と被上告人側の双方に数回の相続が行われ
本訴において右移転登記が訴求されるに至つた理由は充分首肯できる。所論は理由
がない。
 同第二点について。
 論旨は、採証法則違背をいうが、所論の、EがFに対し数回に合計一五〇円の貸
金をなし、その弁済前にFが死亡したので相続人DがEに対し本件山林の所有権を
右貸金の代物弁済として移転した旨の事実は原判決挙示の証拠によつて認定できな
いことはない。上告人親権者J(第二回)の供述は原審の採用しないところであり、
各証人の証言内容についての所論は証拠の取捨判断の非難に帰する。所論は採用で
きない。
 同第三点について。
 論旨は、本件山林の公租公課を被上告人側で負担した事実を判断しない理由不備
をいうが、公租公課を被上告人側において支払はなければ右山林が被上告人のもの
といえないわけのものではない。乙一号証は、村長作成名義の上告人所有本件山林
の固定資産税額は金一〇円である旨の証明書であるが、同書証は原審の採用してい
ないところであり、これが原判決挙示の証拠を採用し判示事実を認定する妨げとな
るべき理由はない。論旨は採用できない。
 同第四、第六、第七点について。
 論旨は本件貸金債権特定の点につき釈明義務違背、判断遺脱、理由不備をいうけ
れども、原判決は、上告人の曾祖父Fが、晩年ごろEに対し数回に借受けた合計一
五〇円の貸金債務を負担したことを証拠によつて認定しているのであり、右両名間
に本件以外に貸金その他の金銭債務関係があつたことを窺うに足る資料なく、本件
代物弁済は、右貸金債務の給付に代えてなされたものと認定していること原判決の
全趣旨に照らして明らかである。論旨は採用できない。
 同第五点について。
 論旨は、本件貸金債務の弁済期の点について審理不尽理由不備をいうが、原判決
は本件貸金債務に返還時期の定めはなかつた趣旨を判示していること判文上明らか
であるから、借主たるFないしその相続人Dは民法五九一条二項により何時でもこ
れを返還することができる、のみならず、本件代物弁済は、E承諾の下になされた
ことは原審の認定したところであるから、原判決は相当であり、論旨は採用できな
い。(論旨引用の大審院判例は本件に適切でない。)
 同第八点、第一〇点について。
 論旨は民訴二三二条違反をいうが、記録によると、第一審昭和三一年一月二三日
の口頭弁論で、被上告人は先にした贈与の主張を撤回し代物弁済の事実を陳述した
のに対し、上告人は右撤回に異議ない旨陳述し代物弁済の事実を否認していること、
被上告人は原審同三一年九月一三日の口頭弁論で、売買による所有権移転登記手続
を訴求し、更に、同三二年五月一六日の口頭弁論で、代物弁済による所有権移転手
続を訴求する趣旨に訂正陳述したのに対し、上告人において異議を述べた事跡なく、
直ちに応訴していることが明らかである。しかし、右のように、贈与というのを代
物弁済としたからといつて所有権移転登記手続を求めその原因として所有権を主張
することに変りはないから、右は請求の趣旨、原因を変更したものということがで
きない。のみならず、上告人が右の如く異議を述べないで応訴しているのであるか
ら(昭和二七年(オ)二八号同三一年六月一九日第三小法廷判決、集一〇巻六号六
五五頁参照)、結局、原判決には所論の違法はない。論旨引用の判例はいずれも事
案を異にし本件に適切でない。
 同第九点について。
 所論は、原判決が論旨引用の乙各号証の立証趣旨を誤解し判断を遺脱したという
が、原判決は挙示の諸証拠により判示事実を認定し、所論乙号証によつても右認定
を左右するに足りないとしていること判文上明らかであるから、所論は結局証拠の
取捨判断の非難に帰し、採用することができない。
 同第一一点について。
 本件土地(山林)上の立木が立木法の適用を受けるものであること、その他、地
盤から独立して物権の客体たるべきものである事情は原判決の認定しないところで
ある。原判決は原審被控訴人Gが被上告人所有の本件土地上の立木を伐採して訴外
Hに売却した行為が不法行為に当る旨判示したに過ぎず、右伐採されない、未だ生
立する本件地上の立木の所有権が右訴外人に移転した趣旨を認定していないこと判
文上明白である。所論は判示を正解せざるに出でたもので採用すべき限りでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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