弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年5月30日判決言渡
仙台高等裁判所 平成13年(ネ)第115号 火災保険金請求控訴事件
(原審・福島地方裁判所郡山支部 平成10年(ワ)第414号)
平成14年2月7日口頭弁論終結
 主    文
     本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人東京海上火災保険株式会社(以下「被控訴人東京海上」という。)が控訴人に対し
  00万円及びこれに対する平成9年4月23日から支払済みまで年6分の割合による金員の支
  のあることを確認する。
 3 被控訴人全国生活協同組合連合会(以下「被控訴人全国生協連」という。)は控訴人に対し
  80万円及びこれに対する平成9年4月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支
 4 被控訴人ウインタートウルスイス・インシュアランス・カンパニー(以下「被控訴人ウイン
  ウルスイス」という。)は控訴人に対し,2000万円及びこれに対する平成9年4月23日
  払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
6 仮執行の宣言
第2 事案の概要
   事案の概要,争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者双方の主張は,次のとおり当
  ける控訴人の被控訴人ウインタートウルスイスに対する追加主張及び被控訴人らの追加主張を
  るほか,原判決の「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし
  決21頁9行目の「3453万9000円」を「3455万9000円」と改める。
 1 控訴人の被控訴人ウインタートウルスイスに対する追加主張
   控訴人が被控訴人ウインタートウルスイスのHに対し,保険に入っているのは被控訴人東京
  被控訴人ウインタートウルスイスだけである旨回答したのはBの指示によるものである。Bは
  が既に本件・契約(被控訴人全国生協連との契約)を締結していたことを知っていたのである
  そのことにより控訴人の保険金請求権が失われるのであれば,それはBの不法行為によるもの
  Bは被控訴人ウインタートウルスイスの代理店であるから,同被控訴人には民法715条の使
  任がある。
 2 被控訴人らの追加主張
  損害保険契約は,偶然の事故によって生ずる損害を填補するものであるから(商法629条
  険事故の偶然性の立証責任は,保険金を請求する側にあるというべきである。最高裁判所は傷
  についてこのことを明らかにしているが(平成13年4月20日判決),その判示は損害保険
  妥当する。本件火災については,その偶然性を疑わせる多くの事実があるのであって,本件火
  然の事故であることの立証責任は控訴人にある。
第3 判断
 1 争点(3)(故意・重過失による免責)について
 (1) 前記争いのない事実(原判決の「事実及び理由」第二の一)と証拠(甲9,15,16,
   22,24ないし26,27の1ないし17,39の2ないし5,乙14の2ないし5,丁
   23の1・2,30,証人D,同I(当審),控訴人(原審))及び弁論の全趣旨によれば
   事実を認めることができる。
   ア 本件建物の構造等
   (ア) 本件建物は,昭和59年8月中旬ころ約1355万円(住宅ローンの借入金1200
     で新築され,平成5年ころ増築された木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建の建物であった。本
     の1階南側には幅約1.2メートルの広縁(廊下)が設けられ,広縁と北側の8畳間
     及び6畳間(客間)との間には障子戸,広縁と南側の庭との間にはアルミサッシのガラ
     (高さ1.76メートル)8枚,その上部に高さ36センチメートルの小ガラス戸(欄
     枚があった。なお,地上からガラス戸の上部までの高さは2.37メートルで,その上
     があり,欄間は窓枠の上部に設置されていた。
     本件建物は,北側の東西に走る4メートルの村道に面した土地上にあり,本件火災当
     道側には物置小屋(ただし,平成4年3月の後記火災によって建て替えられたもの)が
     南側は畑及びこれに続く田となっており,東側及び西側に隣接する土地及び村道の北側
     宅等があった。
   (イ) 控訴人は昭和59年4月,本件建物の建築資金として東邦銀行から1200万円を借
     たが,平成4年12月15日,会津信用金庫からの借入金によりこれを返済し,同月1
     同金庫に対し,本件建物につき債権額を1300万円とする抵当権を設定し,その旨の
     経由した。
      なお,平成元年2月5日ころ,本件建物の東側に隣接して建てられていたJ方の物置
     ら出火し,本件建物の東側の窓付近に被害があった。控訴人はこの火災により,被控訴
     海上から20ないし30万円の火災保険金の支払を受けた。同年3月24日ころ,上記
     母屋から出火し,同建物が全焼したが,控訴人方建物への被害はなかった。平成4年3
     午前0時10分ころ,控訴人方の物置小屋から出火し,同建物が全焼した。控訴人はこ
     により,被控訴人東京海上から約500万円の保険金の支払を受けた。
 イ 本件火災当日の状況
     控訴人は,本件火災当日,午前6時ころ起床し,1階8畳間の南東側に置かれていた石
    ーブにアルミニウム製のやかんを乗せて点火した。7時ころやかんのお湯が沸いたので水
    ットに入れ,再びやかんに水を入れて石油ストーブの上に乗せ,スイッチが入れられてい
    こたつで朝食を食べた。控訴人の妻は,控訴人の食事中,石油ストーブの前に置かれてい
    団に座ってテレビを見ていたが,7時15分ころ仕事に出かけるために本件建物を出た。
    は8時10分ころ,北側の洗面所の出入口を出て仕事先に向かった。
     本件火災の発生当時,本件建物には洗面所の出入口に鍵は掛けられていなかったが,そ
    出入口の鍵は掛けられていた。なお,玄関には猫が出入りできるだけの隙間が開けられて
   ウ 本件火災の状況
     本件火災は午前8時40分ころ出火し,8時58分ころ,付近の住民の通報により消防
    って覚知され,9時31分ころ鎮火した。本件建物は,全体が一様に焼き(全焼)してい
    南側の焼きが激しく,軒裏から垂木・野地板まで焼け落ちていた。特に,南側の6畳間及
    間は,柱が炭化した状態であり,天井と二階の床下は焼け落ち,屋根裏・野地板まで焼失
    方の部屋の境の広縁側(8畳間の南東角)の柱(通し柱)は全部が炭化して二つに折れ,
    トーブ付近の上部の根太はほとんど焼け落ちていた。広縁は,居間や客間の石油ストーブ
    床板に焼け落ちている部分があるが,梁や根太までは焼き切れていなかった。消防署作成
    原因調査報告書(甲25。以下「報告書」という。)によれば,石油ストーブの周囲の焼
    しいことなどから,出火箇所は1階8畳間と断定されている。上記のとおり,本件火災は
    人が本件建物を出て約30分後には出火し,消防署員が火災の連絡を受けて現場に到着し
    は既に火災の最盛期を過ぎており(甲26),報告書は,非常に短時間で延焼拡大したこ
    件火災の特徴であるとしている。
 (2) 本件火災の出火原因について
  ア 石油ストーブからの失火の可能性について
    前記認定のとおり,本件火災においては石油ストーブの周囲の焼きが激しかったから,
    石油ストーブからの失火の可能性が考えられる。控訴人は本件訴訟において,石油ストー
    してから家を出たと思う旨供述し(原審及び当審),第三者による放火を主張するが,控
    被控訴人らに提出した保険金請求のための書面(乙6の3,丙5の1・2,同6)には,
    ーブの消し忘れ」を出火原因として記載していた。
    この点につき,報告書(甲25)は,ストーブの上に置いたやかんが熱により溶け,そ
    が燃焼筒をふさいで異常燃焼を起こしたと推定することは,控訴人が家を出た後わずかの
    の出火であることから考えられないとしている。また,当審証人I作成の「鑑定書」と題
    面(丁23の1・2。以下「I意見書」という。)も,アルミニウムの融点は660.5
    るから,点火されたストーブの上に置かれたやかんの水がなくなったとしても,やかんに
    れた熱は室内の空気中に放散され,融点にまで上昇することはあり得ないとしている。
    次に,報告書は,ストーブの前に置いた座布団がストーブの輻射を受けて発火したとす
    は,常時その場所に猫が座るため座布団を置いている事実などから,(推定はできるが)
    には至らないとしている。そして,上記の石油ストーブを製作した会社からの回答(甲4
    よれば,ストーブ前面の温度はJIS規格で厳しく規定されているため,ストーブの前1
    チメートルくらいに置かれた座布団が反射熱で発火することはないものと認められる。な
    記回答によれば,ストーブの上面板の温度は,高めにみても500℃以下(アルミニウム
    以下)であるから,ストーブの上に置いたやかんが溶けるということは,同回答によって
    される。
    本件の場合,以上のほかに考え得る発火原因はないから,本件火災が石油ストーブから
    によって発生した可能性は認められないというべきである。
  イ 第三者による放火の可能性について
    控訴人は,本件火災の原因について第三者による放火を主張し,当審での本人尋問(第
    において,西側隣家のK(控訴人の当審供述(第1回)及び弁論の全趣旨によれば,平成
    3月ころ死亡)が本件建物の南側ガラス戸の上の欄間から発火物を投げ入れて放火した可
    ある旨供述する。
    しかしながら,前記認定のとおり,本件建物の南側ガラス戸の上の欄間は地上から2.
    ートルを超える場所に設置されており,控訴人が主張するように,第三者がガラス戸の外
    走りに置かれていた踏み石を利用して,換気のため開けてあったという欄間の隙間から発
    投げ入れるというのは相当に困難というべきであろう。なお,控訴人はKの身長は170
    メートル近くあった旨供述するが,丁24によれば160センチメートル程度である。ま
    記認定のとおり,ガラス戸の内側には広縁(廊下)があり,8畳間との間には障子戸があ
    ら,投げ込まれた発火物は障子戸に遮られて廊下に落ちることが十分に考えられるが,広
    火場所でないことは焼きの状況から明らかである(後記のとおり,出火場所は石油ストー
    後ろ付近と推定される。)。控訴人は,廊下で火がつけば障子戸や天井に燃え移り,本件
    至った可能性がある旨主張するが,前記認定のとおり,本件火災においては石油ストーブ
    の焼きが激しかったのであり,この点を合理的に説明することができない。そして,証拠
    4,25)によれば,Kは平成2年4月28日,北会津農業協同組合の理事に就任して活
    また,消防団の副分団長,b地区の区長及び村の体育協会の副会長などを勤め,地域の住
    望のあったことが認められ,同人が控訴人宅に放火をするような人物であり,その動機が
    ことをうかがわせる証拠はない。控訴人は当審において,Kを放火した人物と名指しする
    (同人が死亡したことによるものと思われる。),同人の人格非難にわたる陳述書(甲5
    提出しているが,一方的な推測・判断であって,何ら明確な根拠がないというべきである
    なお,報告書は,第三者による放火の可能性は考えられないとし,本件火災の原因の調
    たった消防署職員(証人D)の証言も同旨である。
    以上のとおりであって,控訴人の主張する第三者(K)による放火の可能性を認めるに
    証拠はない。
  ウ その他の可能性について
   (ア) 報告書は本件火災の原因を不明としているが,I意見書は,証拠資料として提出され
     本件建物のそれぞれの箇所の焼き状態の写真等を分析した結果,本件火災の出火場所
     を1階8畳間の石油ストーブの横後ろ付近(意見書添付の見取図及び写真に◯で表示さ
     る部分)と推定し,本件火災の短時間における火炎の旺盛な立ち上がりから,その付近
     れた可燃物等への接炎出火と認めるのが妥当であるとしている。そして,石油ストーブ
     炬燵は出火原因とは認められないので,本件火災は,出火原因を明確にできない接炎出
     り,不審火といわざるを得ないと結論づけている。
     当裁判所は,I意見書の本件建物の焼き状態の写真等の分析結果は合理的かつ妥当な
     考えるので,本件火災の出火場所は1階8畳間の石油ストーブの横後ろ付近と推定する
     当と判断する。そして,前記認定のとおり,本件火災は非常に短時間のうちに延焼拡大
     ら,I意見書が指摘するとおり,出火場所付近に可燃物等があり,これから出火(接炎
     したものと推認するのが合理的である。出火場所付近にいかなる可燃物があったか,ま
     の可燃物がいかなる原因で発火したかは,証拠上明らかにすることができない(I証言
     29によれば,焼残物を精密に測定すれば,焼残物に含まれている油性成分を検出し,
     を特定することができるが,本件火災後の調査において,そのように精密な測定は行わ
     った。)。しかし,I意見書が述べるとおり,不審火といわざるを得ないものであり,
     災は自然的な出火ではなく,何らかの人為的な工作によるものと推認するのが相当であ
   (イ) ところで,前記争いのない事実(原判決の「事実及び理由」第二の一の2)と証拠
     4の1ないし5,丙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件建物に対する火災保険は,新
     の本件・契約(被控訴人東京海上との間の保険金1300万円の契約)のほか,平成4
     からは住友海上火災保険株式会社との契約と併せて保険金合計2000万円,平成5年
     らは被控訴人全国生協連との契約と併せて同合計4000万円,平成6年3月からは住
     の保険金額が増額されて同合計4030万円,同年11月からは被控訴人全国生協連と
     が本件・契約となって同合計4910万円,平成8年3月からは住友海上の保険金額が
     れて同合計5180万円,平成9年3月に住友海上との保険契約が失効したが,新たに
     れた本件・契約(被控訴人ウインタートウルスイスとの間の保険金1000万円の契約
     せて同合計5180万円となり,本件建物の建築価額(約1335万円)をはるかに上
     険金額となっていた。また,家財の火災保険についても,平成3年2月に締結された住
     との保険契約の保険金が1000万円(家族5人)であったものが,平成5年2月から
     訴人全国生協連の契約と併せて保険金合計2200万円,平成6年3月からは住友海上
     金額が増額されて同合計2220万円,同年9月からは被控訴人全国生協連の保険金額
     (本件・契約)により同合計2620万円,平成9年3月に住友海上との保険契約が失
     が,本件・契約(被控訴人ウインタートウルスイスとの間の保険金1000万円の契約
     せて合計2600万円(家族3人)となり,家族構成は当初の5人から3人と減少して
     に保険金額は当初の2.6倍となっていた。
  (ウ) 前記のとおり,本件火災は自然的な出火ではなく,何らかの人為的な工作によるものと
    れるが,第三者による放火の可能性が認められないことは前記のとおりであるから,上記
    をした者としては控訴人を疑わざるを得ない。そして,前記のとおり,控訴人には本件建
    築資金の借入金の返済のため会津信用金庫から借り入れた金員の返済債務があり,また,
    は本件建物及び本件家財につき多額の保険金額の取得を目的とする複数の保険契約を締結
    ることが認められるから,上記の工作をする動機の存在をうかがうことができる。
    もとより,本件証拠上,上記の工作をした者が控訴人であると断定することはできない
    しながら,前記のとおり,本件火災は不審火であり,何らかの人為的な工作によるものと
    れるのであるから,それが第三者の工作(放火)によるものと認められない限り,控訴人
    によるものと推認せざるを得ないのであって,この点に関する被控訴人らの主張・立証は
    分なものということができる。これに対し,控訴人は本件火災が第三者による放火である
    するが,その主張事実を認めることができないことは前記のとおりである。そうすると,
    災については,ひるがえって,保険事故の要件である偶然性を認めることができないとい
    ことにもなる。
    以上のとおりであるから,争点(3)についての被控訴人らの主張は理由がある。
 2 以上によれば,控訴人の被控訴人らに対する請求は,その余の争点について判断するまでも
  いずれも理由がないのでこれを棄却すべきである。
   そうすると,原判決は結論において相当であって,本件控訴はいずれも理由がないので棄却
  ととし,主文のとおり判決する。
   
仙台高等裁判所第二民事部
裁判長裁判官   大  内  俊  身
裁判官   栗  栖     勲
裁判官   比  佐  和  枝
【原審判決】
平成一〇年(ワ)第四一四号 火災保険金請求事件
口頭弁論終結日 平成一二年一二月一日
          主    文
     一 原告の請求をいずれも棄却する。
   二 訴訟費用は原告の負担とする。
    事実及び理由
第一 請求
一 被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告東京海上」という。)は、原告に対し、金一三
  円及びこれに対する平成九年四月二三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払う義
  ることを確認する。
二 被告全国生活協同組合連合会(以下「被告全国生協連」という。)は、原告に対し、金四二
  円及びこれに対する平成九年四月二三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 被告ウインタートウルスイス・インシユアランス・カンパニー(以下「被告ウインタートウ
  ス」という。)は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年四月二三日から支
  まで年六分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、原告が、被告らに対し、火災により建物及び家財が焼失したとして、火災保険契約
  は火災共済契約に基づき、保険金・共済金の支払等を請求した(商事法定利率による遅延損害
  求を含む。)のに対して、被告らが、公序良俗違反による契約の無効、故意又は重過失による
  を主張して、争っている事案である。
 一 争いのない事実(一部証拠(甲一、二、六、九、二四、乙七、丙八の1、丁一六、A 、原
  び弁論の全趣旨により認定した事実を含む。)
1 原告は、昭和五九年八月中旬ころ、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。
   築した。
2 原告は、被告らとの間で、次のとおり火災保険契約及び火災共済契約(これらの契約を合
   以下「本件各契約」という。)を締結した。
・ 昭和五九年四月一八日、被告東京海上との間で、別紙保険目録・記載の火災保険契約
     「本件・契約」という。)を締結した。
・ 平成六年九月一九日、被告全国生協連との間で、別紙保険目録・記載の火災共済契約
     「本件・契約」という。)を締結した。
・ 平成九年三月一二日、被告ウインタートウルスイスとの間で、別紙保険目録・記載の火
    契約(以下「本件・契約」という。)を締結した。
3 本件・契約に基づく火災保険金請求権については、平成四年一二月二九日、会津信用金庫
   者とする質権設定契約が締結され、被告東京海上は、同月三〇日、右質権設定契約につき承
   た。
4 平成九年四月二三日、本件建物が火災により全焼し(この火災を以下「本件火災」という
   本件建物内にあった家財道具(以下「本件家財」という。)も焼失した。
二 争点
 本件の争点は、・本件・及び・契約は、公序良俗違反により無効となるか、・本件・契約は
  義務違反により解除されたか、・本件各契約につき、本件火災が原告の故意又は重過失により
  れたものであるとして、保険金の支払が免責されるか、・本件・契約につき、不実申告を理由
  金の支払が免責されるか、・本件・契約につき、親族の一部が居住していないということで、
  が減額されるか、・本件各契約につき、実際の被害金額にかかわらず、保険金額・共済金額と
  められた金額の支払がなされるべきか、・原告の被害金額はいくらか、・本件各契約に基づく
  険金及び火災共済金は、按分の形で支払がなされるべきかという点についてである。
・ 争点・(公序良俗違反による無効)について
1 被告全国生協連の主張
 本件・契約は、原告が火災共済金の不正取得を目的として締結したものであるから、公
    に反し無効である。また、仮に、右契約締結時においては不正取得目的が認められなかっ
    ても、契約継続中に不正取得目的が発生しているのであり、したがって、公序良俗違反に
    契約は失効しているものといえる。
2被告ウインタートウルスイスの主張
 本件各契約における保険金額の合計額と本件建物及び家財一式の価格とを対比すると、
    付保状況というのは、危険の分散の限度をはるかに超えており、極めて異常・不自然であ
    本件・契約は、公序良俗に反し無効というべきである。また、右契約は、原告が、実損害
    の保険金・共済金を不正に取得する目的で締結したものと推認することができるので、こ
    らも、公序良俗に反する無効な契約であるといえる。
3 原告の主張
保険金額の合計額が、たまたま実損額よりも多額であったというだけでは、契約の無効
    にはならないし、原告には、保険金を不正に取得する目的というものは、全く認めること
    ない。
・ 争点・(告知義務違反による解除)について
1 被告ウインタートウルスイスの主張
本件・契約についての約款の一五条には、保険契約者が故意又は重大な過失によって、
    種の保険の有無・内容を被告ウインタートウルスイスに告知せず、又は、不実のことを告
    ときは、同被告は、右契約を解除することができる旨規定されている。そして、原告は、
    契約を被告全国生協連との間で締結している事実につき、被告ウインタートウルスイスに
    知すべき義務があったにもかかわらず、故意に右事実を隠して、本件・契約を締結したも
    ることから、同被告は、平成一〇年一〇月一七日、右契約を解除した。
 なお、右解除に関しての除斥期間というのは、単に不告知の事実を知ったというだけで
    しないのであり、そのためには、被告ウインタートウルスイスが、重複契約の存在を知り
    それが告知事項であることを認識していたかあるいは重大な過失によりそれが告知事項で
    とを認識していない場合であって、諸般の事情から、不正利得目的又は保険事故招致等の
    危険の存在が、単なる漠然たる不安の程度を超えてある程度具体的に推認される程度に至
    ることが必要であるから、同被告の解除権は消滅していないのである。
2 原告の主張
保険契約を締結する際に、他の保険会社との間の保険契約が存在していても、当該保険
    は何らの損害を与えるものではないから、告知義務違反は、契約の解除をもたらすほど強
    を有するものではない。また、被告ウインタートウルスイスの代理人Bは、平成五年三月
    で、被告全国生協連との間の本件・契約が締結されている事実を知っていたのであるから
    に告知義務違反があったとはいえない。さらに、本件・契約の約款の一五条二項四号には
    ウインタートウルスイスが告知されなかった事実を知った日から保険契約を解除しないで
    を経過した場合には、解除することができない旨規定されているのであり、同被告の解除
    に消滅していた。
・ 争点・(故意・重過失による免責)について
1 被告東京海上の主張
   本件・契約においては、契約者の故意又は重大な過失によって火災が発生した場合には
    金を支払わないこととされているところ、本件火災は、原告の故意又は重大な過失によっ
    したものであるから、被告東京海上は、免責されるべきである。
すなわち、原告は、火災保険金は比較的容易に受給し得るとの認識を有していた可能性
    こと、被告全国生協連との間の本件・契約に関しては、原告が積極的に加入していること
    は、超過保険で実損額以上の利得をしようと考えていたこと、原告は、本件火災当時、経
    厳しい状況にあり、定年を迎えた後はさらに厳しくなることが確実に予想されていたこと
    火災に関しての状況、原告の本件火災後の言動等からすれば、本件火災は、原告が何らか
    をしたことによって発生したものと推認することができ、故意免責の主張が認められるべ
    る。
2 被告全国生協連の主張
本件・契約に適用される被告全国生協連の火災風水害等共済事業規約(以下「事業規約
    う。)二二条一項・では、共済の目的につき損害が生じた場合であっても、その損害が、
    約者の故意又は重大な過失によって生じた損害に該当するときは、共済金を支払わない旨
    れている。また、本件火災は、第三者による放火ではなく、原告がストーブの火を消さな
    こと(消し忘れを含む。)に起因して発生したもので、原告の故意又は重過失によるもの
    右免責事由に該当するから、被告全国生協連には、右契約に基づく共済金の支払義務はな
 すなわち、本件火災の原因は、ストーブの炎によるやかんの空焚き又はストーブから座
    の引火が出火原因であると推定することができる。そして、原告の経済的状態、火災保険
    共済への加入状況、加入している保険金の額、第三者による放火の可能性がないこと、原
    去の火災保険金の取得歴、本件火災発生前後の原告の不自然な行動等を総合すれば、原告
    があったことが推認される。また、仮に、故意による免責の主張が認められないとしても
    は、石油ストーブの周辺にある発火物(空やかん、座布団等)の除去やストーブの消火、
    等を怠り、石油ストーブの消火をすることなく出勤し、本件火災を発生させたものであっ
    告には、ストーブの消し忘れにつき重大な過失があったものといわざるを得ない。
3 被告ウインタートウルスイスの主張
   本件火災は、原告の故意又は重過失によって招致された人為的な火災であり、本件・契
    款の二条一項の規定により、被告ウインタートウルスイスは、保険金の支払を免れるもの
 すなわち、本件火災の出火原因、この点に関する原告の説明、本件各契約の締結の経緯
    の過去の火災保険金の取得歴、原告が本件火災による損害につき過大な申告をしたこと等
    情を考慮するならば、本件火災は、原告の故意によって惹起されたものと推認するのが相
    る。また、仮に、故意によるものではないとしても、原告は、本件火災がストーブの消し
    よるものであることを自認していたのであるから、重大なる過失によって本件火災を惹起
    ものといえる。
4 原告の主張
   原告は、ストーブを消した上で出勤しており、消し忘れたということはない。本件火災
    三者による放火によるものであって、原告には重過失はなく、ましてや故意などというも
    いのである。
 すなわち、本件火災の第一発見者というのは、原告宅の西側の二軒先の住人であるが、
    西隣の住人が、直ちに本件火災に気付くのが当然であると考えられること、その西隣の住
    うのは、アルコール中毒気味の無職の人間であること、原告宅の敷地の周囲には塀が全く
    ら、その敷地内に立ち入ることは極めて容易であること、近所の者であれば、原告方の戸
    等についても知っていた可能性があることなどの点からするならば、第三者の放火によっ
    火災が発生したものというべきである。
   また、本件の場合、ストーブを消し忘れたとしても、そこから発火する可能性というの
    て少ないものといえる。ストーブの近くには、燃えやすいものはなかったし、仮にやかん
    きになったとしても、やかんが溶けるというようなことはあり得ないのである。このよう
    にストーブが出火元であったとしても、原告には重過失はないのである。
・争点・(不実申告による免責)について
1 被告ウインタートウルスイスの主張
 原告は、本件・契約に基づいて被告ウインタートウルスイスに対し保険金を請求するに
    損害につき過大な不実申告をしているのであるから、同被告は、右契約の約款の二四条四
    り、保険金を支払う義務はないものである。
2 原告の主張
原告は、再取得価額を申告をしたのであって、不実の過大申告であるとはいえない。
・ 争点・(不居住による減額)について
1 被告全国生協連の主張
 原告は、親族の人数を四名として本件・契約の申込みをしているが、平成九年四月一日
    約の更新時には、本件建物の居住者は三名となっているから、家財についての一名分に関
    事業規約二三条一項・及び一五条二項により無効である。したがって、右契約における家
    いての保障額は、一六〇〇万円から一名分の四〇〇万円を控除した一二〇〇万円に減額さ
    とになる。
 2 原告の主張
家財についての保障額が、一六〇〇万円から一二〇〇万円に減額されたことは認める。
    被告全国生協連に対して、家財につき一二〇〇万円を請求するものである。
・ 争点・(定められた金額の支払の有無)について
1 原告の主張
被告全国生協連との間の本件・契約においては、全焼の場合には、実際の被害金額にか
    契約上共済金額として定められた金額が、共済金として支払われることになる。
2 被告東京海上の主張
 本件・契約における保険の目的は、本件建物についてのみであり、そして、そもそも原
    する本件建物に関する損害額が、四一九万四〇三円である以上、支払うべき保険金という
    該金額以上にはなり得ない。
3 被告全国生協連の主張
 本件・契約における共済金額は、建物については坪あたり六〇万円、家財については一
    四〇〇万円というように金額が定められているが、いずれについても、対象物件が全焼し
    いって、右金額が実際の被害金額にかかわらず確定額として支払われるものではない。
4被告ウインタートウルスイスの主張
本件・契約においては、価額協定保険の特約が付されていないから、保険価額(時価)
    保険契約をしていても、保険金の支払については、保険価額(時価)を限度とすることに
・ 争点・(被害金額)について
1 原告の主張
本件火災による被害金額は、本件建物につき四一九万四〇三円(固定資産評価証明書
    号証)の金額)あるいは一六九〇万五〇〇〇円(鑑定書(乙第七号証)の金額)、本件家
    三四五五万九〇〇〇円である。
2 被告全国生協連の主張
 家財道具についての損害は、三四五三万九〇〇〇円もの多額にはならないのであって、
    たい過大申告である。また、同損害中には、同居していないCの家財も含まれている。
 3 被告ウインタートウルスイスの主張
 株式会社中央損保鑑定事務所の鑑定によれば、本件建物についての保険価額及び損害額
    〇万五〇〇〇円であり、家財一式の保険価額及び損害額は八〇〇万円である。
・ 争点・(按分支払によることの有無)について
1 被告東京海上の主張
 本件・契約においては、重複保険契約がなされた場合の保険金の支払額というのは、住
    険普通保険約款一三条一項により、他の保険契約がないものとして算出した本件・契約の
    額を、同じく他の保険契約がないものとして算出したそれぞれの保険契約の支払責任額の
    除した金額になる。
 2 被告全国生協連の主張
 被告全国生協連の事業規約二〇条六項には、火災等を事故とする法律に基づく他の契約
    合において、それぞれの契約について他の契約がないものとして算出された共済金等の支
    の合計額が損害の額を超えるときは、次の算式によって算出した額を支払う旨規定されて
支払共済金の額=損害の額×{被告全国生協連の共済金の額÷(被告全国生協連の共済
     他の契約の共済金等の額)}
 そして、本件・契約は、本件・契約及び本件・契約と重複して締結されている。したが
    件・契約において支払うべき火災共済金については、他の保険契約と按分して支払われる
    る。
3被告ウインタートウルスイスの主張
   本件・契約の約款の一三条一項には、本件建物及び本件家財の損害について火災保険金
    場合に、右建物及び右家財の損害に対し火災保険金を支払うべき他の火災保険契約がある
    いて、それぞれの火災保険契約につき他の火災保険契約がないものとして算出した支払責
    額が損害の額を超えるときは、次の計算式によって算出した額を火災保険金として支払う
    がある。
損害額×(この保険契約の支払責任額÷それぞれの火災保険契約の支払責任額の合計額
     うべき火災保険金の額
 したがって、本件・契約の火災保険金については、按分の形で分割されるべきである。
4 原告の主張
   本件各契約に基づく保険金の支払が、按分支払の方法によるべきことは認めるが、その
    定方法については不知。
第三 争点に対する判断
(争点・(故意・重過失による免責)について)
一 証拠(甲三、七、乙一、丙一)及び弁論の全趣旨によれば、本件・契約及び同・契約におい
  険契約者(原告)の故意又は重大な過失によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない
  れており、また、本件・契約においても、共済契約者(原告)の故意又は重大な過失によって
  害については、共済金を支払わないものとされていることが認められる。つまり、本件火災が
  故意又は重大な過失によって招致されたものである場合には、被告らは免責され、保険金ある
  金の支払いがなされないことになるのである。そこで、以下において、本件火災の発生が、原
  又は重大な過失によるものであるか否かという点につき検討して行くこととする。
二 証拠(甲一六、二〇、二二、二四~二六、乙五、六の3、一三の1、丙五の1、2、六、九
  1、2、丁一六、二二、D 、E 、原告)によれば、次に記載した各事実関係につき認める
  きる。
・1 本件火災現場は、人口約四〇〇名が密集しているa村b地区の集落内に位置しており、
    居住している住民同士というのは、概ね相互に顔見知りであって、集落内の者であるか外
    あるかということについては、概ね区別することができる。また、本件火災が発生したの
    時台であるが、この時間帯というのは、本件建物の近所で農作業に従事している者もおり
    内にある右建物付近の人通りも少なくないものと推認され、第三者が右建物付近をうろつ
    建物内に立ち入ろうとすれば、容易に住民の目に留まることになるが、そのころの時間帯
    うな様子を目撃した者はいない。
2 本件火災前において、本件建物付近を不審な者がうろついていたというような状況はな
    右火災当時、原告方は概ね平穏な生活を送っていたのであって、近隣の者から大きな恨み
    り、それらの者との間で大きなトラブルを抱えていたというようなこともなかった。そし
    自身も、本件火災発生当時において、本件建物に第三者が侵入し放火をするというような
    いては、全く予想していなかった。
・1 本件火災発生当日である平成九年四月二三日、原告は、午前五時五〇分ころ起床し、直
    建物一階南側中央部の八畳和室(以下「八畳和室」という。)内の一階南側東部の六畳和
    「六畳和室」という。)との境付近の南端に置かれてあった石油ストーブ(以下「本件ス
    という。)に点火し、その後、午前七時ころになり、アルミニウム製のやかんに水を入れ
    ーブの上に置いた(以下「本件やかん」という。)。本件ストーブの正面には、ストーブ
    ないし一〇センチメートルほど離れたところに綿製の座布団が敷いてあった(以下「本件
    という。)が、原告と同居していた同人の妻Fは、午前七時ころから、本件座布団の上に
    レビを見ており、そして、午前七時一〇分ころに、出勤するため本件建物から出た。午前
    本件やかんの中の水が沸騰したため、原告は、右やかんからポット及び急須の中へ湯を注
    かんを本件ストーブ上に戻して、午前八時一〇分ころ、出勤するために本件建物を出て行
    の際、勝手口については開錠したままであったが、本件建物の玄関口及び窓については、
    ていた。そして、その後、本件建物は不在となった。
2本件建物に関しては、同日の午前八時五〇分ころに、近隣の者が、右建物南側の八畳和
    から激しく黒煙と炎が噴き出しているのを発見している。また、消防隊が本件火災現場に
    午前九時ころの時点においても、本件建物の南側部分からの黒煙と炎の噴出が特に激しい
    況にあった。そして、本件建物は、消火作業が行われた結果、午前九時三一分に鎮火した
    全焼した。
・1 本件建物の本件火災後の状態ついては、本件ストーブの周囲の焼燬状況が最も激しく、
    南側を中心に延焼して行った様子がうかがわれる。
   すなわち、一階南側中央部の八畳和室及び東部の六畳和室に関しては、柱は炭化状態で
    トーブの後部にある柱にあっては、炭化して二つに折れてしまっている。また、本件スト
    部付近一帯については、天井及び二階部分の床下が焼け落ちており、屋根裏や野地板まで
    いて、これらの原形を確認することはできない。八畳和室の床部分については、畳は焼燬
    ほぼ原形を保っているが、本件ストーブの前部の畳に関しては、その焼燬の程度は激しく
    室の中央部に位置する掘ごたつの周囲は、本件ストーブの前部に比較して、やや炭化の程
    なっている。本件建物の二階部分の北側に位置する押入及び便所については、天板に焼跡
    るものの、原形を保っている。そして、本件建物の南側部分が、他の三方に比して焼燬の
    しく、窓から炎が噴出した痕跡についても、南側部分が中心となっている。
2 本件火災の鎮火後に行われた消防署による火災原因調査の際において、本件ストーブが
    いた付近から、油分は検出されなかったし、右ストーブ以外には、出火の原因となるよう
    見されなかったのであり、また、本件やかんと座布団以外には、発火物となり得ると考え
    うな物は存在しなかった。本件ストーブの灯油タンクについては、本件火災後においても
    いなかった。そして、本件ストーブが置かれていた周囲には、本件やかんの材質であるア
    ムが溶解して下まで流れ落ち、それが固まってできたものとみられる極めて小さなアルミ
    粒が、何個か落ちていた。また、本件建物内が荒らされているという様子は見受けられな
 3 本件ストーブの上に置かれた本件やかんが、空焚きの状態となりストーブの火力による
    し、その溶解したアルミニウムが流れ落ちて右ストーブの燃焼筒を塞ぎ異常燃焼を発生さ
    と推定することは、右ストーブの天板が、右やかんの材質であるアルミニウムを溶解させ
    要な温度にまで達し得る可能性というのが、極めて小さいこと、原告が本件建物を出て行
    出火までの時間というのが、長くても数十分間程度にすぎないこと、アルミニウム自体、
    りやすい材質ではないこと、右ストーブの燃焼筒の上部には右やかんが乗せられた天板が
    解したアルミニウムがこの天板に開いている穴を通過して燃焼筒の部分に流れ落ちたとし
    の量というのは右やかん全体の一部にとどまるものであって、多量であるとまではいえな
    らすれば、無理である。また、溶解して下まで流れ落ちたアルミニウムの粒のところから
    という点に関しても、以上の事実関係に加え、アルミニウムの粒が極めて小さく、他の物
    させるまでの威力がないことからして、考えられないところである。
 これに対し、本件ストーブの正面から約五ないし一〇センチメートルほど離れたところ
    件座布団が置かれていたが、この座布団がストーブの輻射熱を受け、加熱されて発火した
    いうのは、原告が、本件火災発生当日の午前五時五〇分ころ既に右ストーブに点火してい
    本件座布団は、右ストーブとかなり近接したところに置かれており、ストーブの輻射熱を
    受け得るような位置関係にあったこと、右ストーブが点火されてから出火に至るまでの間
    団については、Fが午前七時ころから一〇分間程度座っていたほかには、誰も使用してい
    ことからすれば、あり得るところである。本件座布団が本件ストーブの輻射熱を受け発火
    えた場合、本件火災発生に至るまでの時間的な間隔が一般的な場合に比して短時間であっ
    ことになるが、具体的状況いかんによっては、本件火災発生に至るまでの時間であっても
    ブの輻射熱による座布団の発火ということは、ある程度の可能性としてはあり得るのであ
・ 原告は、本件火災の鎮火後に行われた消防署による火災原因調査の際において、右火災発
   本件ストーブを消火したかどうかは分からない旨供述している。
 また、本件火災発生の翌日である平成九年四月二四日に、被告全国生協連の担当者に対し
   ストーブを消し忘れていた旨を話し、その後においても、同年七月一日、やはり同被告の担
   接をした際に、右ストーブを消し忘れたため出火した旨の話をし、同日ころ作成された同被
   「罹災状況報告書」(丙第六号証)上にも、同様に「ストーブの消し忘れ」との記載をして
   た、同月一七日ころに作成された同じく被告全国生協連宛ての「事故状況確認書」(丙第五
   及び2)にも、「私は、平成九年四月二三日早朝は低温のため、ストーブとこたつを使用し
   したが、ストーブの火を消し忘れて会社へ出勤してしまいました。」、「私のストーブの火
   れにより出火したものと考えます。」、「ストーブの火が消えていたかどうかわからない。
   た記載がなされている。
さらに、原告は、同年六月二日に被告ウインタートウルスイスが受領した「火災・新種保
   書兼支払指図書」(乙第六号証の3)上に、本件火災の原因が、本件ストーブの消し忘れで
   記載しており、また、同年九月一二日付けで、被告東京海上に対し、本件火災の原因に関し
   トーブが出火原因と考えている」、「ストーブを消したつもりが、消えていなかったのだと
   と回答している。
三 そこで、本件火災の発生原因について検討すると、右において認定した事実関係、とりわけ
  トーブの周囲の焼燬状況が最も激しく、そこから延焼して行った様子がうかがわれること、近
  八畳和室の付近から激しく黒煙と炎が噴き出しているのを発見していること、右ストーブが置
  た付近からは、ストーブ以外には、出火の原因となるような物は発見されず、また、本件やか
  団以外には、発火物となり得ると考えられるような物は存在しなかったこと、右ストーブ上に
  右やかんが、ストーブの火力による熱で溶解し、その溶解したアルミニウムが流れ落ちて右ス
  燃焼筒を塞ぎ異常燃焼を発生させた、あるいは、下まで流れ落ちたアルミニウムの粒のところ
  したということは、考え難いこと、右ストーブから近接した位置に置かれていた右座布団が、
  の輻射熱を受けて加熱され発火した可能性については、あり得るところであること、原告は、
  ブの消し忘れにつき否定していないことなどの諸点からするならば、本件火災の原因というの
  和室内に置かれた右ストーブの輻射熱によって、本件座布団が加熱され発火したことによるも
  と推認することができる。
四 以上において述べた諸点を前提として、本件火災が原告の故意によって惹起されたものであ
  につき検討するに、右火災が原告の故意によるものであることについては、未だこれを認める
  証拠はないものというべきである。
すなわち、原告の平成一〇年の給与収入は、二五八万五六四七円であり、また、同人の妻F
  給与収入は、一一四万一八三〇円であって、原告の分と妻の分とを合算すれば、給与収入の額
  は、三七二万七四七七円になるのであり、それに加えて、原告の義母Gも、同年の年金収入と
  六万八九〇〇円を得ていたのであり(甲三六の1~3、乙一三の1、原告)、原告が本件火災
  済的に切迫していた状態にあったとは認められない。また、本件各契約を初めとする火災保険
  済についての加入に至る経緯に関しても、それが全く合理性を欠くものとまでは認められない
  て、原告は、被告全国生協連に対して、火災共済についての加入申込みに際し、共済の保障開
  おいても他の火災保険等の契約が引き続いて存在する旨を申告しているという事実も存するの
  (丙二、原告)。さらに、原告が被告らに対し、本件火災に基づく保険金や共済金を請求する
  ことさらに悪意を持って自己が被った損害額を過大に見積もったということまで認めるに足り
  ない。そして、本件火災の発生原因についても、本件ストーブの輻射熱によって、本件座布団
れ発火したことによるものと推認されるのである。結局、原告の経済的状態、火災保険や火災
  加入状況、過去における火災保険金の取得歴、本件火災発生の前後の行動、本件火災の原因等
  情を考察しても、右火災が原告の故意に起因するものと認めることはできないのである。
五 原告は、前記第二の二の・の4のように、本件火災は、第三者の放火によって発生したもの
  きである旨主張している。しかしながら、前記二において認定した事実関係、さらには、出火
  る八畳和室というのは、直接には外部に面しておらず、廊下を挟んで建物の内側部分に位置す
  あること(甲二五)からするならば、本件火災が第三者の放火を原因として発生したというこ
  ては、否定すべきである。
 以下において、前記二のうちから、第三者の放火を否定する根拠として特に重要性を有して
  と考えられる点につき、具体的に指摘する。
・ 本件火災が発生した時間帯というのは、午前八時台というまさに昼間の時間帯である。
・ 本件火災が発生した時間帯に、第三者が本件建物付近をうろついたり、建物内に立ち入ろ
   ば、容易に住民の目に留まることになるところ、この時間帯にそのような様子を目撃した者
・本件火災当時、原告方は概ね平穏な生活を送っていたのであって、近隣の者から大きな恨
   たり、あるいは、それらの者との間で大きなトラブルを抱えていたというような事情もなか
・本件火災の発生原因は、本件ストーブからの輻射熱により、本件座布団が加熱されて発火
   によるものと推認される。
 なお、原告は、前記第二の二の・の4に記載した点を初めとして、本件火災は第三者の放火
   生したものであるとして、この点に関し種々の主張をしているが、その中には、単なる憶測
   るものと考えられる部分もあり、結局、第三者の放火によって本件火災が発生したとする原
   については、これを採用することはできないのである。
六 これまでに検討したところからすれば、本件火災というのは、原告の故意によって招致され
  は認められず、また、第三者による放火を原因として発生したという点に関しても、否定され
  り、結局、原告が八畳和室内に置かれた本件ストーブを消し忘れて出勤してしまったことに起
  右ストーブからの輻射熱によって、本件座布団が加熱され発火したことにより発生したもので
  められることになる。そこで、原告による本件ストーブの消し忘れということが、重大な過失
  価することができるか否かという点につき、考えて行く必要がある。
 この点に関しては、本件ストーブの正面から約五ないし一〇センチメートルほどという至近
  ころに、発火性を有する綿製の本件座布団が置かれており、そして、右座布団は、その位置関
  て、右ストーブの燃焼中、そこから発生する輻射熱をかなりの程度受け得るような状況にあっ
  らするならば、原告の本件ストーブの消し忘れというという点に関する注意義務違反について
  違反の程度は極めて大きいものと言わざるを得ない。したがって、原告には、本件火災の発生
  重大な過失があったものというべきである。
 そして、右の結論からすれば、被告らは、本件各契約に基づく保険金あるいは共済金の支払
  免責されるということになる。
七 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がな
   福島地方裁判所郡山支部
(別紙物件目録,保険目録省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛