弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山中善夫、同横路孝弘、同江本秀春、同横路民雄、同馬杉栄一、同黒
木俊郎の上告理由について
 一 原審の適法に確定したところによれば、本件の事実関係はおおむね次のとお
りである。
 1 公職選挙法の一部を改正する法律(昭和二七年法律第三〇七号)の施行前に
おいては、公職選挙法及びその委任を受けた公職選挙法施行令は、疾病、負傷、妊
娠若しくは身体の障害のため又は産褥にあるため歩行が著しく困難である選挙人(
公職選挙法施行令五五条二項各号に掲げる選挙人を除く。以下「在宅選挙人」とい
う。)について、投票所に行かずにその現在する場所において投票用紙に投票の記
載をして投票をすることができるという制度(以下「在宅投票制度」という。)を
定めていたところ、昭和二六年四月の統一地方選挙において在宅投票制度が悪用さ
れ、そのことによる選挙無効及び当選無効の争訟が続出したことから、国会は、右
の公職選挙法の一部を改正する法律により在宅投票制度を廃止し、その後在宅投票
制度を設けるための立法を行わなかつた(以下この廃止行為及び不作為を「本件立
法行為」と総称する。)。
 2 上告人は、明治四五年一月二日生まれの日本国民で、大正一三年以来小樽市
内に居住し、公職選挙法九条の規定による選挙権を有していた者であるが、昭和六
年に自宅の屋根で雪降ろしの作業中に転落して腰部を打撲したのが原因で歩行困難
となり、同二八年の参議院議員選挙の際には車椅子で投票所に行き投票したものの、
同三〇年ころからは、それまで徐々に進行していた下半身の硬直が悪化して歩行が
著しく困難になつたのみならず、車椅子に乗ることも著しく困難となり、担架等に
よるのでなければ投票所に行くことができなくなつて、同四三年から同四七年まで
の間に施行された合計八回の国会議員、北海道知事、北海道議会議員、小樽市長又
は小樽市議会議員の選挙に際して投票をすることができなかつた。
 二 上告人の本訴請求は、在宅投票制度は在宅選挙人に対し投票の機会を保障す
るための憲法上必須の制度であり、これを廃止して復活しない本件立法行為は、在
宅選挙人の選挙権の行使を妨げ、憲法一三条、一五条一項及び三項、一四条一項、
四四条、四七条並びに九三条の規定に違反するもので、国会議員による違法な公権
力の行使であり、上告人はそれが原因で前記八回の選挙において投票をすることが
できず、精神的損害を受けたとして、国家賠償法一条一項の規定に基づき被上告人
に対し右損害の賠償を請求するものである。
 三 国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個
別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたと
きに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。し
たがつて、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上
違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負
う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であつて、当該立法の内容の違憲性
の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉
があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるもので
はない。
 そこで、国会議員が立法に関し個別の国民に対する関係においていかなる法的義
務を負うかをみるに、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、国会は、国
民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ、議員の
自由な討論を通してこれらを調整し、究極的には多数決原理により統一的な国家意
思を形成すべき役割を担うものである。そして、国会議員は、多様な国民の意向を
くみつつ、国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているのであ
つて、議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためにも、国会議
員の立法過程における行動で、立法行為の内容にわたる実体的側面に係るものは、
これを議員各自の政治的判断に任せ、その当否は終局的に国民の自由な言論及び選
挙による政治的評価にゆだねるのを相当とする。さらにいえば、立法行為の規範た
るべき憲法についてさえ、その解釈につき国民の間には多様な見解があり得るので
あつて、国会議員は、これを立法過程に反映させるべき立場にあるのである。憲法
五一条が、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で
責任を問はれない。」と規定し、国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除
しているのも、国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとど
めるのが国民の代表者による政治の実現を期するという目的にかなうものである、
との考慮によるのである。このように、国会議員の立法行為は、本質的に政治的な
ものであつて、その性質上法的規制の対象になじまず、特定個人に対する損害賠償
責任の有無という観点から、あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を
法的に評価するということは、原則的には許されないものといわざるを得ない。あ
る法律が個人の具体的権利利益を侵害するものであるという場合に、裁判所はその
者の訴えに基づき当該法律の合憲性を判断するが、この判断は既に成立している法
律の効力に関するものであり、法律の効力についての違憲審査がなされるからとい
つて、当該法律の立法過程における国会議員の行動、すなわち立法行為が当然に法
的評価に親しむものとすることはできないのである。
 以上のとおりであるから、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体
に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係で
の法的義務を負うものではないというべきであつて、国会議員の立法行為は、立法
の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法
を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償
法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。
 四 これを本件についてみるに、前記のとおり、上告人は、在宅投票制度の設置
は憲法の命ずるところであるとの前提に立つて、本件立法行為の違法を主張するの
であるが、憲法には在宅投票制度の設置を積極的に命ずる明文の規定が存しないば
かりでなく、かえつて、その四七条は「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の
選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定しているのであつて、これが
投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原則として立法府である国会の
裁量的権限に任せる趣旨であることは、当裁判所の判例とするところである(昭和
三八年(オ)第四二二号同三九年二月五日大法廷判決・民集一八巻二号二七〇頁、
昭和四九年(行ツ)第七五号同五一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二二
三頁参照)。
 そうすると、在宅投票制度を廃止しその後前記八回の選挙までにこれを復活しな
かつた本件立法行為につき、これが前示の例外的場合に当たると解すべき余地はな
く、結局、本件立法行為は国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けるもので
はないといわざるを得ない。
 五 以上のとおりであるから、上告人の本訴請求はその余の点について判断する
までもなく棄却を免れず、本訴請求を棄却した原審の判断は結論において是認する
ことができる。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない点につき原判決を非難す
るものであつて、いずれも採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    和   田   誠   一
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    矢   口   洪   一
            裁判官    高   島   益   郎

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