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○暴行に起因する神経原性ショックあるいは交感神経の異常興奮による急性循環不全がまれである
暴行との間に相当因果関係があるとされた事例
平成14年4月25日判決宣告
仙台高等裁判所 平成13年(う)第186号 傷害致死,傷害被告事件
(原審 仙台地方裁判所 平成13年(わ)第198号,平成13年10月24日判決宣告)
               主     文
     本件控訴を棄却する。
     当審における未決勾留日数中130日を原判決の刑に算入する。
               理     由
第1 本件控訴の趣意は,主任弁護人川原眞也作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対
  は,仙台高等検察庁検察官高井新二作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用す
   控訴趣意の第1は,事実誤認の主張であり,要するに,原判示第2に関し,被害者Aの直接
  った急性循環不全の原因としては,被告人らの暴行をきっかけとする神経原性ショック又は交
  異常興奮が可能性として指摘されるにとどまり,それが唯一の原因であると確定的にいえるも
  く,被告人らの暴行と被害者Aの死亡との間に因果関係があるとまでは断定できず,仮に,被
  暴行と被害者Aの死亡との間に条件的因果関係の存在が肯定されるとしても,相当因果関係が
  ではいえないから,原判決は事実を誤認している,というのである。
   控訴趣意の第2は,量刑不当の主張であり,要するに,被告人は,共犯者のBの誘いに乗っ
  犯行に及んだのであること,被告人らが被害者Aに対し加えた暴行は死亡に直結するようなも
  く,極めて不幸な偶然が加わったものであり,被告人自身は被害者Aに対してさほどの暴行を
  ないこと,被害者Aとの関係では,遺族に対し2500万円が支払われて示談が成立し,遺族
  罰を望まない旨の意思を示しており,被害者Cの関係では,150万円が支払われ,同人は被
  めに嘆願書を作成していること,被告人は本件を深く反省していることにかんがみると,被告
  3年に処した原判決の量刑は重すぎて不当である,というのである。
第2 そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
1 事実誤認の主張について
  (1)原審記録によれば,共犯者B及び被告人の被害者Aに対する暴行の状況は,まず共犯者B
   者Aの太股付近を2,3回足蹴りし,膝をついた同人の左脇腹,背中,左肩付近を数回足蹴
   のめりに倒れ,横になって海老のように身体を丸めた同人の腹部から胸部を数回足蹴りし,
   身体を丸めた被害者Aの背中を2,3回蹴りつけ,更に被告人と共犯者Bが被害者Aの頭部
   足蹴りし,その後,立つよう命じられた被害者Aが起き上がり,逃げ出そうとして数歩進ん
   ところを,被告人が腰部付近を2,3回足蹴りしたというものであること,被害者Aは,こ
   を受けている最中及びその直後にはうめき声を出していたが,それから間もなく意識喪失状
   病院に運ばれた時点では,呼吸停止,心停止,瞳孔散大の状態にあり,人工呼吸,心臓マッ
   の蘇生が試みられたが,そのまま死亡が確認されたこと,被害者Aの身体には,頭部,顔面
   胸腹部,背部,上肢,下肢に多数の皮膚の暗紫色等の変色,表皮剥脱,皮下出血及び皮下軟
   血が存し,顕著なものとしては,左側頭筋の比較的厚層の出血,左鎖骨部から左肩部・左側
   にかけて広がるやや強い皮下出血,左肩部の暗紫色変色,背部上端の左内側方の鶏卵大の暗
   し淡紫色の点状皮膚出血の集簇が存在することが,それぞれ認められる。
  (2)上記のとおり,被害者Aは,共犯者B及び被告人から頭部,顔面,胸腹部,背部という枢
   む全身を多数回にわたり足蹴りされ,その結果上記のような筋肉内出血,皮下出血等の傷害
   いるのであるが,検視調書及び検視をした医師の検察官に対する供述調書によれば,頭部及
   CT撮影の結果からも死因に直結するものは認められず,外傷からも死因になるものは認め
   というのであり,また,被害者の死体を解剖した医師D作成の鑑定書によっても,頭部,左
   面等に損傷を認めたが,骨折や諸臓器自体の損傷はなく,皮下出血の程度も全体から見れば
   り,これら損傷全てを総合しても死因足り得ないというのである。しかしながら,上記医師
   鑑定書及び同人の検察官に対する供述調書(以下,両者を併せて「D鑑定」という。)によ
   害者Aの死因は,急死の三徴候が見られることなどから,急性循環不全であると考えられ,
   循環不全の原因については,酩酊度は比較的軽度であり,乱用薬物スクリーニング検査結果
   は検出されておらず,肉眼的ないし組織学的な検索において特に器質的疾患は見られないの
   所見からは見出せないものの,頭部・左肩部・背面などに損傷が存し,これら損傷の受傷直
   は間もなくに急激な循環不全状態に陥っており,心臓を含め特に器質的疾患は存在せず,薬
   されていない一方,血液中から軽度酩酊レベルのエタノールが検出されており,受傷中ある
   後間もなく全身虚脱の状況になっている点を考えると,側頸部や上腹部といった迷走神経の
   位への局所的な圧迫・打撲による神経原性ショックによる心停止か,外傷による疼痛,受傷
   的興奮,精神緊張などによって誘発された交感神経の異常興奮によるアドレナリンやノルア
   ンといった神経伝達物質の多量放出による急性循環不全のいずれかが,可能性として考えら
   いうのである。
  (3)上記D鑑定による被害者Aの死因である急性循環不全の原因については,被害者Aに加え
   行の態様,同人の受傷の状況,同人が意識喪失に至る経過,特に同人が暴行を受けた後短時
   喪失状態に陥っていること,さらには,同人には特に健康上問題となる既往症や薬物の影響
   行以外の死亡原因の存在が窺われないことを考慮すると,その医学的機序の点を含めて十分
   るものであり,当審でのDに対する証人尋問の結果によっても,それは是認できる。そうす
   害者Aは,共犯者B及び被告人の暴行を受けたことによって神経原性ショックあるいは交感
   常興奮により急性循環不全に陥り,その結果死亡するに至ったと認定することができる。
  (4)所論は,被告人らの暴行と被害者Aの急性循環不全による死亡との間に条件的な因果関係
   れるとしても,神経原性ショックあるいは交感神経の異常興奮による急性循環不全の発生が
   れであり,通常一般人の予想できないことであるから,被告人らの暴行と被害者Aの急性循
   よる死亡との間には相当因果関係は存在しない,というべきであるという。
    しかしながら,先に認定したとおり,共犯者B及び被告人が被害者Aに加えた暴行は,頭
   胸腹部,背部という人体の枢要部を含む全身を多数回足蹴りしたというものであり,これに
   の枢要部を含む全身に多数の皮下出血等の創傷が形成されているのであり,なるほど,その
   が,例えば直接脳内出血あるいは内臓損傷等の死に直結する傷害を負わせるものではなかっ
   も,こうした全身に及ぶ多数回にわたる執ような暴行,とりわけ地面に横たわり動かなくな
   状態において,頭部を含め上半身を靴履きのまま蹴る暴行を加えているのであるから,通常
   判断でも,場合によっては死の結果をもたらすことがあると予想することができるといえる
   例え本件のごとく致死がまれな事例であったとしても,それは予測可能な範囲を逸脱するも
   いといえる。そうすると,共犯者B及び被告人による暴行と被害者Aの死亡との間に刑法上
   係を認めた原判決の判断は是認することができる。
  (5)したがって,被告人らの暴行と被害者Aの死との因果関係の存否について,原判決の事実
   う論旨は理由がない。
 2 量刑不当の主張について
   本件は,共犯者B及び被告人において,飲酒しての帰り,通り掛かった被害者C及び被害者
  を掛けたことで,言い掛かりを付けられたものとして腹を立て,同人らが謝って去ろうとした
  の虫が治まらないとしてこれを追い掛け,制裁として,路上あるいは連れ込んだ駐車場におい
  に共謀の上,被害者C及び被害者Aの2名に対し殴る,蹴るの暴行を加え,その結果,被害者
  約10日間を要する傷害を負わせ,被害者Aを急性循環不全に陥らせて死亡させたという傷害
  致死の事案である。
   被告人と共犯者Bは,被害者らがかなり年下であることを知りつつ,その態度が生意気だと
  し,腹立ち紛れの制裁のため暴行を加えたものであって,犯行の動機に全く酌量の余地はない
  被告人と共犯者Bは,被害者らがいったん謝罪し立ち去ろうとしたのに,その後を追い,路上
  人目につかない駐車場にわざわざ連れ込んだ上,無抵抗で声も立てずに痛さに耐えている被害
  し,一方的なかつ容赦のない暴行を加え,倒れて動けなくなった後までも更に多数回にわたり
  るのであって,犯行の態様は執ようで残忍とさえいえるのであり,悪質である。本件により,
  に加療約10日間の左顔面打撲等の傷害を負わせ,被害者Aを急性循環不全に陥らせて無惨に
  るに至らせたものであって,結果は余りに重大である。死亡した被害者Aは,被告人らの暴行
  いる間大きな恐怖感を抱きつつ,肉体的苦痛に耐えていたであろうことは想像に難くなく,そ
  時わずか16歳であり,これからまだまだ実りのある人生を送ることができた身でありながら
  な暴行により突如命を奪われたのであって,その無念さ,恨みは察するに余りある。また,最
  を理由も事情も分からないうちに奪われた両親の悲しみ,犯人に対する怒りははなはだ大きく
  がら被害感情は厳しいものがある。被告人は,共犯者Bの誘いに応じて被害者らに積極的に暴
  ることを図り,確かに亡くなった被害者Aに対しては,共犯者Bの暴行が激しかったとはいえ
  共謀の上暴行を加える相手をたまたま分担したにすぎず,被告人自身も倒れている同被害者に
  えており,被告人の本件での役割が,共犯者Bと比較して軽いということはできない。以上に
  被告人の刑事責任は重いというべきである。
   そうすると,死亡した被害者Aに対する暴行の程度は,それ自体が直接死因たる損傷をもた
  な過酷なものではなく,その死はまれな原因によること,被害者Aの遺族との間で,被告人の
  500万円を支払って示談が成立していること,傷害の被害者Cとの間でも150万円で示談
  同人からは嘆願書が提出されていること,被告人は,当初から事実を素直に認め,真摯な反省
  深い後悔の情を示していること,被告人には妻子がいることなど,被告人にとって酌むべき事
  しても,被告人を懲役3年に処した原判決の量刑が重すぎるということはない。量刑不当の論
  がない。
第3よって,控訴の趣意は理由がないので,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審にお
  勾留日数の算入につき刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。
平成14年4月25日
  仙台高等裁判所第1刑事部
      裁判長裁判官   松  浦     繁
         裁判官   根  本     渉
         裁判官   春  名  郁  子

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