弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A、同Bに関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役壱年に、同Bを懲役八月に処する。
     但し、裁判確定の日から夫々参年間右各懲役刑の執行を猶予する。
     原審訴訟費用は全部被告人両名及び、被告会社の連帯負担とする。
     被告会社の本件控訴はこれを棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾添附の被告会社及び被告人Aの弁護人古明地為重、被告人
Bの弁護人沖田誠各作成名義の控訴趣意書のとおりであり、これに対し次のとおり
判断する。
 古明地弁護人論旨第一、無罪理由、沖田弁護人論旨第一点
 原判示挙示の証拠を綜合すれば、原判示の如く被告人A、同Bは共謀の上被告会
社の業務として原判示の如く預り金をした事実を認めるに十分である。ところで、
所論は本件金員の受入は不特定多数人からの預り金ではなく、株主相互金融組織に
基づく特定人からの株式に対する出資金である旨主張するのであるが、貸金業等の
取締に関する法律第七条にいう貸金業者がしてはならない預り金とは、不特定多数
の者から金銭を受け入れ、後日これをその人に返還するもので(但し金銭とはかぎ
らない。)名義の如何にかかわらず、預金、貯金、掛金と経済上同性質を有するも
のと解せられるから、株式会社の株式を所有して株主となり、株金の払込をするの
はもとよりここに云う預り金とならないことは、株式の数は株主募集の都度一定し
ていて特定しているのみならず、この株金の払込は預金、貯金、掛金と経済上同性
質を有するものとは認められないから<要旨第一>である。しかし株主名義で一定額
の出金をしたものに限つて会社は金銭の貸付をするという仕組のものば、株 第一>主というても所謂株式を所有するものではなく、単に一定額の金銭を出金する
という丈のことで、この出金も後日金銭或はこれに代るもので返還されるのであ
り、たとえ株主として応募したもののに貸付は限定されるのであるというてもその
人員は何等制限特定されることはないのであつて、多々益々よしとするものである
から、このようなものは不特定多数人を対象とするものというべく、このような人
からの出金の受入は所謂預金、貯金、掛金と経済上同性質を有する預り金を為すも
のと認めなければならないのである。
 今本件について見ると、原審が取り調べた全証拠によると本件金員の受入は株式
に対する払込金では勿論なく、前述の如き株主名義をもつてする不特定多数人から
の預り金であることはまことに明白であつて、所論のようヒ特定人からの株式に対
する出資金とは到底認めるに由ないものである。
 又被告人Aは株主相互組織によるものは法令違反にならないものと信じていた旨
主張するのであるが、本件株主相互金融組織によるというのは前説明のとおりのも
のであるから、同被告人がこれは貸金業等の取締に関する法律第七条違反にならな
いと信じていたとしてもそれは単に法律の誤解にすぎないものであつて、事実の錯
誤があつたものとは認められないのである。(同被告人の司法警察員に対する昭和
二八年一二月一九日及び同月二一日附各供述調書によれば、本件所為が株式取得と
いう名義で掛金を為さしめる不特定多数人を勧誘対象するものであることを認めて
いるのである。) 更に所論は被告人Bは被告会社のC営業所長となつたことはな
い旨主張するのであるが、なる程原審並に当審において取り調べた全証拠によつて
も同被告人が正式にC営業所長に就任した事実はこれを確認し得ないところであ
る。けれどもC営業所長であつた同被告人実弟Dが同営業所に出勤していた当時か
ら所謂所長代理として原判示の如き同営業所の業務に従事しており、Dが同営業所
から去つた昭和二七年一二月頃からは事実上所長と同一業務に徒事していたもので
あることは証拠によつて明瞭である。よつて原判決が同被告人をC営業所長と認定
したことは事実を誤認したものとしても、実質上は所長と同一の業務に従事してい
たのであるからその誤認は何等判決に影響を及ぼすものとは認められない。
 次に法律上本件預り金を為す主体は被告会社であり、貸金業等の取締に関する法
律第一八条第二号は預り金を為した者を処罰する規定であることは所論のとおりで
ある。
 <要旨第二>しかし、右第一八条第二号に預り金を為した者というのは預り金の主
体という法律上の効果が帰属するものをいうのではなく、現実に預り金
をする行為者をいうのであり、法人にあつては会社の機関(代理人、使用人を含
む。)として行為を為す自然人であり又、個人にあつても人の代理人、或は使用人
として現実に預り金を為す者をいうのであることは同法の解釈上自明のことであ
る。従つて本件においても被告会社の機関として預り金という行為を現実にした被
告人等両名が右第一八条第二号所定の責を負うべきものであつて、被告会社は同法
第二一条の規定によつて責を負うにすぎないのである。被告人等両名の所為をもつ
て単に被告会社の所為を幇助した従犯であるとは到底認めることはできない。
 その他本件記録を精査しても所論その余の事実を認めて原審の認定を覆すに足る
証拠は発覚できない。原判決には所論のような事実誤認の存するものとは認められ
ない。論旨はすべて理由がない。
 (その他の控訴理由は省略する。)
 (裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

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