弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人A1の本件上告を却下する。
     その余の上告人らの本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 一 上告人A1の上告について
 右上告人は上告理由書を提出しないので、その上告は不適法であって却下を免れ
ない。
 二 上告人A2、同A3、同A4、同A5、同A6、同A7、同A8、同A9、
同A10、同A11の代理人斎藤尚志、同浅野晋の上告理由第一について
 原審の適法に確定したところによれば、原判決別紙物件目録一記載の土地(以下
「本件土地」という。)は昭和二二年ころDが売買によって取得し、また、本件土
地上の建物(以下「本件建物」という。)はそのころDの父であるEが売買によっ
て取得したものであるところ(なお、被上告人は昭和二四年にDと婚姻した。)、
Dは中華人民共和国の国民であり、昭和五一年一一月三日上海市で死亡し、E(台
湾出身)は昭和五三年五月三一日東京で死亡した、というのである。
 被上告人の本訴請求は、被上告人が、Dの相続人は夫である被上告人と四人の子
であり、右相続人らの遺産分割協議により、本件土地は被上告人の単独所有になっ
たと主張して、本件建物の共有者(Eの相続人)らに対し本件土地の明渡し等を請
求するものであるが、上告人らは、Dの相続に適用されるべき法律は、法例(平成
元年法律第二七号による改正前のもの。以下、同じ。)二五条により、Dの本国法
である中華人民共和国法であると主張し、論旨は、この点に関する原審判断につき
法令違背をいうものである。
 そこで検討すると、Dの相続に適用されるべき法律は、法例二五条により、同人
の本国法である中華人民共和国法となるべきところ、中華人民共和国においては、
一九八五年(昭和六〇年)に中華人民共和国継承法(以下「継承法」という。)が
制定されて同年一〇月一日から施行され、同法三六条は、中国公民が中華人民共和
国外にある遺産を相続するときは、不動産については不動産所在地の法律を適用す
る旨規定している。そして、原審の確定したところによれば、(1) 継承法を制定
した人民議会において、「同法施行前に開始した相続については、施行前に既に遺
産が処理されている場合は改めて処理しないが、施行時に未処理の場合は同法を適
用する」旨説明されている、(2) 中華人民共和国最高人民法院は、同法の運用に
ついて見解を示し、「人民法院は、同法が発効する以前に既に受理し、発効時にま
だ審結していない継承案件に対して同法を適用する」としている、(3) これは、
同法発効前の継承案件に対する法律適用問題についての基本原則と精神は同法の内
容と一致しているとの考えに基づくものである、というのである。
 したがって、右によれば、D(昭和五一年一一月三日死亡)の相続問題が継承法
の発効した時点で未処理であったとすれば、同法の規定がさかのぼって適用される
こととなる。
 ところで、原審の確定したところによれば、被上告人はDの死亡後、中華人民共
和国上海市高級人民法院に対して相続関係の証明を求めたところ、同法院の公証員
は、昭和五一年一二月二九日付けで継承権証明書を発行し、日本にあるDの相続財
産(本件土地)については、Dの夫である被上告人及びその子四名が継承すべき旨
を証明した、というのである。しかしながら、継承法一〇条は、法定相続の第一順
位者として配偶者、子、父母を規定しているところ、関係資料によれば、中華人民
共和国においては、相続人の範囲及び相続の順位などについては、継承法の制定以
前から同法の規定するところと同一の慣行ないし法原則が存在したとされるのであ
って、そうだとすれば、Dの相続については、その父母もまた第一順位の法定相続
人となるべきものである。前記継承権証明書は、当時生存していたDの父であるE
については何ら触れるところがないが、同人が相続人とならないことまでを証明し
ているとするには疑問があるといわなければならない。
 被上告人は、前記継承権証明書により、Dの相続人は被上告人とその子四名であ
り、右五名の遺産分割協議により、被上告人が本件土地を相続したと主張するが、
前示のとおり、右証明書の内容に疑問があるのであって、これに基づく遺産分割協
議の効力もまた直ちには認め難いといわなければならない。そうだとすれば、Dの
相続問題は、継承法が発効した時点において未処理であったというを妨げない。
 以上によれば、Dの国外財産(本件土地)の相続については、継承法の規定がさ
かのぼって適用され、同法三六条及び法例二九条の規定により、反致される結果、
結局、不動産所在地法である日本法が適用されるべきこととなる。原判決はこの趣
旨をもいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
 同第二について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する
証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、三九九条一項二号、三九八条一項、九
五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    大   野   正   男
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    千   種   秀   夫

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