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平成24年10月3日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(行ケ)第10197号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年9月19日
判決
原告X
同訴訟代理人弁理士中川邦雄
被告特許庁長官
同指定代理人小林正和
渡邉健司
守屋友宏
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2011-7921号事件について平成24年4月24日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1の商標登録出願に対する後記2のとおりの手続において,
原告の拒絶査定不服審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審
決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとお
りの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1本願商標
(1)原告は,平成21年8月18日,別紙のとおりの構成からなり,第30類
「茶,コーヒー及びココア,菓子及びパン,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,
サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,
べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ」を指定商品とする商標(以下
「本願商標」という。)の登録出願(商願2009-62908号)をした(甲1,
弁論の全趣旨)。
(2)原告は,平成22年4月2日付けの手続補正書により,指定商品を第30
類「鉾田市産のバウムクーヘン」と補正した(乙3)。
2特許庁における手続の経緯
(1)原告は,平成23年1月18日付けの拒絶査定を受けたので,同年4月1
4日,これに対する不服の審判を請求した(甲3)。
(2)特許庁は,原告の請求を不服2011-7921号事件として審理し,平
成24年4月24日に「本件審判の請求は,成り立たない。」とする本件審決をし,
同年5月8日,その謄本は原告に送達された。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本願商標は,商標法3条1項3号に該当し,かつ,
同条2項の要件を具備しないものであるから,登録を受けることができない,とい
うものである。
4取消事由
商標法3条1項3号該当性に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1本件審決が,本願商標は自他商品の識別標識とは認識し得ないものとして商
標法3条1項3号に該当すると判断したのは,本願商標に対する同号の適用を誤っ
たものである。
(1)商標法3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質等を普通に用いら
れる方法で表示する標章のみからなる商標は,識別力がない旨を規定している。か
かる記述的商標は一般的に使用されるため自他商品等の識別力を有しないからであ
る。
(2)本願商標は,指定商品の産地,販売地,品質等を表示するものではない。
本願商標が「鉾田市産のバウムクーヘン」であるなら,鉾田市で製造されたバウ
ムクーヘンであること,すなわちバウムクーヘンの産地及び販売地であることを需
要者に直感させるであろうが,本願商標は,漢字,平仮名文字又は片仮名文字のみ
からなる構成態様ではなく,大文字の欧文字10文字を一体不可分に横方向に一連
一体に配置した構成態様の商標である。本願商標は,産地,販売地,品質等を直接
的に表示していない。
そして,当該商標が,商品の産地,販売地,品質等を表示しているか否かを判断
するには,当該商標全体を観察した上で当該商標全体から品質,生産地,販売地等
を直接的に表示しているか否かを基準に判断されるべきである。
ところが,本件審決は,本願商標の全体を観察することなく,「HOKOTA」
の部分と「BAUM」を分離して観察し,本願商標は品質,産地,販売地等を表示
している商標であると結論づけたもので,余りにも横暴な判断である。
(3)本願商標は造語であり,特定の観念を生じることがないのであり,品質,
生産地,販売地等を連想させるものではない。
本願商標は,欧文字の大文字で一体不可分かつ一連に「HOKOTABAUM」
と横書きした構成態様であり,「HOKOTA」と「BAUM」に分離して観察が
できない商標である。
(4)「普通に用いられる方法」とは,現実の使用態様が普通に使用されると認
められるような方法をいう。「普通に用いられる方法」であるか否かは,商標の構
成により判断され,極めて特殊な態様,例えば,普通名称をローマ字又は仮名文字
で表示する商標である場合には商標法3条1項3号には該当しない。
このことからすれば,本願商標は,商標全体がローマ字で表示されていることか
ら,本号に該当しないと判断されるべきである。しかも,「H,O,A」のローマ
字のスペルに特徴を有する特殊字体を使用したものであることに鑑みれば尚更であ
る。本願商標の全体を観察すれば,本願商標を構成する欧文字が一般に使用されて
いる欧文字ではないことが判然とする。
(5)指定商品の産地,販売地,品質等を間接的に表示する商標は,本号に該当
しない。
本願商標を構成する「HOKOTA」の構成部分は,地名表示であれば「鉾田」
と表示すべきであるが,欧文字であるから間接的に表示したものである。
(6)本願商標の指定商品について,産地,販売地,品質等を表示するとして一
般的に使用されている事実はない。
鉾田市が,バウムクーヘンの産地,販売地として知られている地域でも全くな
い。すなわち,鉾田市が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,取引者,需
要者に認識されているとはいえず,鉾田市では製造販売もされていない。また,イ
ンターネットで検索しても,本願商標の指定商品「鉾田市産のバウムクーヘン」の
産地,販売地,品質等の表示として「普通に用いられる方法」で表示している事実
は見られず,原告のホームページに散見されるのみである。
このように,本願商標は,取引上普通に使用されているものではなくその事実も
存在しない。
(7)ローマ字の「HOKOTA」は,茨城県中東部,鹿島灘に面する鉾田市の
みを意味するものではなく,鉾田との姓(苗字)をも意味することもあるように,
欧文字で表示した場合には複数の観念が生ずるものである。
(8)以上のとおり,本願商標は,商標法3条1項3号に該当しないことは明ら
かであり,当然に自他商品識別力を具有するものである。
2本件審決は,一体不可分商標である本願商標を「HOKOTA」と「BAU
M」に分離して観察をしたが,このような観察をすることは違法である。
本願商標は,一連に横書きした欧文字の大文字10文字のみからなり,しかも一
体不可分の文字商標である。すなわち,本願商標は,「HOKOTA」と「BAU
M」の2つに分離させて観察するものではなく,「HOKOTABAUM」の全体
を一体として観察されるべきである。
本願商標の「HOKOTA」の構成部分と「BAUM」の構成部分間にはスペー
スがないに等しいからである。もしあったとしても,本願商標を出願した際に商標
見本を提出したように,「HOKOTABAUM」として一体として使用する意思
を明示したものである。法は,一般に商標登録出願人は,願書に商標登録を受けよ
うとする商標を添付して特許庁長官に提出して出願をすることを義務付けている
(商標法5条1項2号)。
そして,本願商標の文字部分が,「取引者,需要者に対し商品の出所識別標識と
して強く支配的な印象を与える部分」か「取引者,需要者に対し商品の出所識別標
識として強く支配的な印象を与えない部分」かを決定することが極めて重要である。
しかしながら,欧文字の大文字で一連に横書きし一体不可分である本願商標を,
「HOKOTA」と「BAUM」に分離させて観察することはできない。本件審決
は無理に本願商標を「HOKOTA」と「BAUM」に分離させて観察をしたもの
で,不合理である。
3本件審決は,登録出願に係る商標が,商標法3条1項3号に該当するもので
あるかどうかの判断は,当該商標の構成態様に基づいて,個別具体的に判断される
べきものであると判断したが,同号の適用を誤ったものである。
(1)原告は,「HOKOTA/BAUM」の商標登録(以下「別件商標」とい
う。甲8)を受けたが,別件商標の構成は,上段に欧文字の大文字で「HOKOT
A」と横書きし,下段に欧文字の大文字で「BAUM」と横書きした文字商標であ
り,これに類似する本願商標は当然に登録されるべきである。
(2)「バウム」の前に「品質」を表示する用語が付加された商標や,本願商標
の構成と極めて類似した構成態様の商標が,多数登録されている(甲9~32)。
審査には統一性が必要不可欠である。
4本件審決の判断は,「取引の実情」を無視したものである。
(1)鉾田市の特産品を販売している「鉾田市特産品直売所さんて旬菜館」に
おいても,「バウムクーヘン」に本願商標を付して直売されていない。鉾田市では,
本願商標を付したバウムクーヘンが製造販売されていない。
(2)インターネットで「HOKOTABAUM」と入力して検索しても,本願
商標の指定商品「鉾田市産のバウムクーヘン」の品質等の表示として「普通に用い
られる方法」で表示している事実は見られない。本願商標は,産地表示,販売地表
示,品質表示等として一般的に使用されている事実はなく,取引上普通に使用され
ているものではない。
(3)本願商標は,「HOKOTA」の後部に「BAUM」が結合している構成
態様から,直ちに特定の商品の品質等を直接的かつ具体的に表示したものではない
し,特定の商品の品質,生産地,販売地等を具体的に表示するものとして,一般に
理解されている商標であるとは認め難い。
したがって,本願商標をその指定商品に使用しても,これに接する取引者,需要
者をして,商品の産地,販売地,品質等を普通に用いられる方法で表示するものと
して認識させるものではなく,自他商品の識別標識としての機能を果たしている。
また,商品の産地,販売地,品質等の誤認を生ずるおそれもない。
(4)原告は,平成23年5月にブリュッセルで開催された「モンドセレクショ
ン」で金賞を受賞し,茨城新聞に掲載された。これにより,「HOKOTABAU
M」は,一躍有名になり売上額も上昇している。このことは,本願商標が商標とし
て認められたこと,すなわち,「普通に用いられる方法」でないことを裏付けるも
のである。
その後も,原告は,ITQI(国際味覚審査機構)及びDLG(社団法人ドイツ
農業協会)の賞を受賞した。受賞した包装容器に印刷されていた商標は,本願商標
に類似する別件商標であったが,このように,世界的に有名な賞を受賞することは,
本願商標及び別件商標が世界に向けての取引において重要な役割を果たしているか
らである。
5本件審決が,本願商標が自他商品の識別力を有しないとして,普通に用いら
れる方法で表示する標章のみからなるにすぎない本願商標からは,その指定商品と
の関係により,「鉾田市産のバウムクーヘン」であることを取引者,需要者をして
容易に認識させるにすぎないものであると認定したことは,誤りである。
(1)本願商標が,自他商品識別力を具有するか否かは,「HOKOTABAU
M」全体から判断されるべきである。「鉾田」及び「鉾田市」の事実が存在したと
しても,本願商標の構成態様は一体不可分の商標で造語であり,かつ,「HOKO
TA」と「BAUM」に分離して観察ができない商標であるから,本願商標が産地
表示,販売地表示及び品質表示であると決めつけることは合理的ではない。
(2)本件審決の「証拠調べ通知の内容」に列挙されているのは,本願商標が商
標法3条1項3号に該当することを根拠付ける理由とはならないものばかりである。
6なお,商標法3条2項に係る本件審決の判断は,認める。
〔被告の主張〕
1本願商標及びその指定商品について
本願商標は,ややデザイン化された「HOKOTABAUM」の欧文字を横書
きしてなり,第30類「鉾田市産のバウムクーヘン」を指定商品とするものである
ところ,その構成中「HOKOTA」と「BAUM」の各文字部分は,半角ほどの
空白を空けて配されていることから,それぞれ視覚上容易に分離されて認識される
ものといえる。また,近時の商業広告等におけるレタリング文字の発達・普及に伴
い,文字の一部ないし全部をデザイン化して表現する方法が広く採用されている実
情からすれば,本願商標は,普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるも
のということができる。
2本願商標の商標法3条1項3号該当性
(1)「HOKOTA」が「鉾田市」を理解させること
我が国において,市の名称を欧文字で表す事例は,広く見受けられる。
また,「HOKOTA」又は「Hokota」は,「鉾田市」を理解させる語と
して,使用されている例が見受けられる。
さらに,「ほこた」の語は,「茨城県中東部,鹿島灘に面する市」以外の意味を
有しないものであり,日本人名事典に掲載がなく,日本地名事典には「鉾田市」以
外の地名が掲載されていないこと等からすれば,「HOKOTA」の文字から「鉾
田市」以外のものを理解することは困難であり,本願商標の構成中「HOKOT
A」の文字部分は,特に,本願商標の指定商品との関係においては,「鉾田市」を
容易に理解させるというべきである。
(2)「BAUM」が「バウムクーヘン」を理解させること
バウムクーヘンを取り扱う業界において,「バウムクーヘン(BAUMKUCH
EN)」を理解させる語として,「BAUM」又は「Baum」が使用されている
実情があるから,本願商標の構成中「BAUM」の文字部分は,「バウムクーヘ
ン」を容易に理解させるというべきである。
(3)ある地域で生産されるバウムクーヘンを「○○BAUM」,「○○バウ
ム」等と表していること
「ある地域(例えば○○)で生産されたバウムクーヘン」を表す語として,「○
○BAUM」や「○○バウム」(○○は地名)等という構成で使用されている実情
が見受けられる。
(4)以上からすれば,本願商標の構成中の「HOKOTA」及び「BAUM」
の文字部分は,それぞれ「鉾田市」及び「バウムクーヘン」を理解させるものであ
るから,本願商標は,「鉾田市産のバウムクーヘン」ほどの意味合いを容易に認識
させるものといえる。そうすると,本願商標を,その指定商品「鉾田市産のバウム
クーヘン」に使用しても,これに接する取引者,需要者は,本願商標について,
「鉾田市産のバウムクーヘン」であることを表したものと理解するにとどまり,自
他商品の識別標識とは認識し得ないものといえる。
よって,本願商標は,単に商品の品質又は産地を普通に用いられる方法で表示す
る標章のみからなるものということができる。
(5)小括
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。
3原告の主張に対する反論
(1)原告は,本願商標は,「HOKOTA」と「BAUM」の2つに分離させ
て観察するべきではない旨主張する。
しかし,本願商標は,その構成中の「HOKOTA」と「BAUM」の各文字部
分が,半角ほどの空白を空けて配されていることから,各文字部分が視覚上容易に
分離されて認識されるものというべきである。
(2)原告は,本願商標は,ローマ字で表示され「H,O,A」のローマ字のス
ペルに特徴を有する特殊字体を使用したものである旨主張する。
しかし,本願商標は,一見して「HOKOTABAUM」の文字を書してなる
ものと理解されるものであるし,商品の広告・宣伝等の様々な場面において図案化
された文字が使用されている昨今にあっては,普通に用いられる方法で表示する標
章のみからなるものというべきである。
(3)原告は,ローマ字の「HOKOTA」は鉾田の姓を意味することもあり,
鉾田市を直感させると特定した本件審決は穏当ではない旨主張する。
しかし,「鉾田」が「姓氏」等に掲載されていないことを踏まえれば,本願商標
が,その指定商品に使用されるときは,「HOKOTA」からは「鉾田市」が理解
されるとみるのが自然である。
(4)原告は,別件商標が既に登録されているほか,本件商標の構成態様と極め
て似ている構成の商標の先登録例があるから,本件商標は当然に登録されるべきで
ある旨主張する。
しかし,別件商標は,本願商標とはその構成態様について顕著な差異を有するも
のである(甲8)。また,原告が先登録例として示した登録商標の中には,例えば,
地名と商品の名称の組合せからなるものとは認められない商標や,商標法3条2項
の要件を具備しているとして,登録が認められた商標等を含むものであるし,出願
に係る商標が商標登録を受けることができるか否かは,審決時において,当該商標
の構成や指定商品等の事情に基づいて個別に判断するべきである。
(5)原告は,本願商標は,取引上普通に使用されているものではない旨主張す
る。
しかし,商標法3条1項3号は,取引者,需要者に指定商品の品質等を示すもの
として認識され得る表示態様の商標につき,それゆえに登録を受けることができな
いとしたものであって,その表示態様が,商品の品質を表すものとして必ず使用さ
れるものであるとか,現実に使用されている等の事実は,同号の適用において必ず
しも要求されない。
第4当裁判所の判断
1商標法3条1項3号について
(1)商標法3条1項3号は,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,
用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法
若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,
数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示
する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を規定し,同
条2項は,「前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果
需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの
については,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を規定
している。その趣旨は,同条1項3号に該当する商標は,特定人によるその独占使
用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章
であって自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものとして,商
標登録の要件を欠くが,使用をされた結果,自他商品識別力を獲得するに至った場
合には,商標登録を受けることができるものとしたものである。
(2)商標登録出願に係る商標が商標法3条1項3号にいう「商品の産地又は販
売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するという
ためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産さ
れ又は販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が
当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認
識されることをもって足りるというべきである(最高裁昭和60年(行ツ)第68
号昭和61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁)。
よって,審決時において,本願商標が指定商品の産地又は販売地を表すものと取
引者,需要者に広く認識されている場合はもとより,将来を含め,取引者,需要者
にその商品の産地又は販売地を表すものと認識される可能性があり,これを特定人
に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときには,その商標は商標
法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。
2本願商標の商標法3条1項3号該当性
(1)本願商標の構成
ア本願商標は,別紙のとおりの構成からなるものである。
これによれば,本願商標は,やや太字の書体で「HOKOTABAUM」と,
欧文字を横書きしたものである。そして,「HOKOTA」の部分と「BAUM」
の部分の間に,半角程度の空白を空けて表されている。
イ本願商標の指定商品は,「鉾田市産のバウムクーヘン」であるところ,本願
商標のうち「BAUM」の部分は,「BAUMKUCHEN(バウムクーヘン)」
を認識させる語である。また,本願商標のうち「HOKOTA」の部分は,茨城県
にある「鉾田市」を表したものと理解される語である。
したがって,本願商標が指定商品に使用された場合,本願商標全体からも,「鉾
田市」の「バウムクーヘン」という意味を有するものとして,取引者,需要者に認
識されるものである。
(2)また,本願商標は,若干デザイン化した文字が使用されているものの,特
殊なものとはいえず,「HOKOTABAUM」の欧文字を普通に用いられる方
法で表示する標章のみからなるにすぎないものである。本願商標をその指定商品に
使用しても,これに接する取引者,需要者は,「鉾田市のバウムクーヘン」又は
「鉾田市産のバウムクーヘン」であることを表したものと理解するものと解される。
したがって,本願商標は,将来を含め,その指定商品の産地,販売地等を表すも
のと取引者,需要者に認識される可能性があり,これを特定人に独占使用させるこ
とは,公益上適当でない。よって,本願商標は,自他商品の識別標識とは認識し得
ないものであり,商標法3条1項3号に該当する。
3原告の主張について
(1)原告は,本願商標が造語であり,欧文字の大文字で一体不可分かつ一連の
構成態様であるから,本願商標全体を観察すべきであり,「HOKOTA」と「B
AUM」に分離して観察ができないと主張する。
しかしながら,本願商標の構成は,そもそも一体不可分ではなく,「HOKO
TA」の部分と「BAUM」の部分の間に半角程度の空白があるほか,これが指定
商品である「鉾田市産のバウムクーヘン」に使用された場合,少なくとも「BAU
M」の部分は「バウムクーヘン」の意味を有するために,取引者,需要者に対し商
品の出所識別標識としての印象を与えないものであるから,これを分離して観察し
たことに,違法はない。
(2)原告は,本願商標を構成する「HOKOTA」の構成部分は,欧文字であ
るから地名を間接的に表示したものであり,鉾田との姓(苗字)をも意味するもの
で,複数の観念が生ずるものであるとも主張する。
しかしながら,日本人名事典等に「鉾田」は掲載されておらず(乙21,43,
44),広辞苑や大辞林においても「ほこた」は茨城県にある鉾田市を意味するも
のとして掲載されている(乙19,20)。そして,「鉾田市」を意味する語とし
て「HOKOTA」が使用されている例は,多く存在するものである(乙11~1
8)。
しかも,本願商標がその指定商品である「鉾田市産のバウムクーヘン」に使用さ
れた場合,「HOKOTA」の部分が「鉾田市」を意味するものと認識されること
は,明らかである。
(3)原告は,本願商標は「普通に用いられる方法」には当たらないとも主張す
る。
しかしながら,本願商標は,若干デザイン化した文字が使用されている程度であ
って,「普通に用いられる方法」で表示されているものである。
(4)原告は,取引の実情や,別件商標等類似の登録例に照らし,本願商標は,
商標法3条1項3号に該当しない旨主張する。
しかしながら,ある地域で生産されたバウムクーヘンを表す語として,「○○B
AUM」又は「○○バウム」(○○は地名)という構成で使用されている例が多数
見受けられる(乙25~41)。このことに照らしても,指定商品に本願商標を使
用すれば,「鉾田市で生産又は販売されたバウムクーヘン」といった観念が生ずる
ことは,明らかである。なお,別件商標は,外観において本願商標とは異なるもの
であり,これが登録されていること等をもって,本願商標の商標法3条1項3号該
当性の判断を左右するものではない。
(5)原告の主張は,いずれも採用することができない。
4結論
以上の次第で,本願商標は,商品の産地,販売地,品質を普通に用いられる方法
で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するというべ
きであり,また,原告は,同条2項に係る本件審決の判断を認めている。
よって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官土肥章大
裁判官髙部眞規子
裁判官齋藤巌
(別紙)

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