弁護士法人ITJ法律事務所

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                主     文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
     事     実
第1 当事者の求めた裁判
控訴人は,「原判決を取り消す。被控訴人の控訴人に対する請求を棄却す
る。訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。」との判決を求
め,被控訴人は,主文同旨の判決を求めた。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)被控訴人は,札幌市a区bc条d丁目e-f所在のAという名称の一
棟の建物(以下「本件建物」という。)の区分所有者全員で構成する団
体である。
(2)控訴人は,本件建物のうちのg号室を所有する本件建物の区分所有者
の一人である。
(3)被控訴人は,平成13年3月17日,設立総会を開催し,建物の区分
所有等に関する法律(以下「建物区分所有法」という。)31条1項に
則り,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議
によって,「A管理組合規約」(以下「本件規約」という。)を設定し
た。
(4)本件規約は,区分所有者は被控訴人に対し,管理費,修繕積立金,駐
車場使用料,専用庭使用料及び町内会費(以下「管理費等」という。)
を納入しなければならないと定めているところ,控訴人が被控訴人に対
して支払うべき管理費等の金額は,本件規約などによって次のとおりと
されている。
ア 管理費    月額   8900円
イ 修繕積立金  月額   4750円
ウ 駐車場使用料 月額 1万5000円
エ 専用庭使用料 月額   1400円
オ 町内会費   月額    300円
カ 合計     月額 3万0350円
(5)控訴人は,被控訴人に対し,本件規約などによって算出される平成1
2年12月分から平成13年12月分までの管理費等合計38万984
2円のうち,32万1250円のみを支払ったが,差額の6万8592
円を支払わない。
(6)よって,被控訴人は,控訴人に対し,本件規約に基づき,管理費等6
万8592円を支払うことを求める。
2 請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)のうち,被控訴人が本件建物の区分所有者で構成する団
体であることは認め,控訴人が被控訴人の構成員(組合員)であること
は否認する。なぜならば,控訴人は,被控訴人に対し,「A管理に係る
承認書」(乙第3号証,以下「管理に係る承認書」という。)を提出し
ていないからである。
(2)同(2)の事実は認める。
(3)同(3)ないし(5)の事実は否認する。
3 控訴人の主張
(1)本件規約の原本が不存在であることによる本件規約の無効
ア 本件建物の販売業者である株式会社Bは,控訴人に対してg号室を
販売するに際し,本件規約の原本に本件建物の区分所有者全員の記名
押印のある「管理に係る承認書」を添付することによって本件規約の
原本とするので,控訴人に対し,「管理に係る承認書」に記名押印し
て提出することを求めた。
これは,本件規約の設定につき,書面決議によること(建物区分所
有法45条1項参照)とされたものである。
イ しかし,控訴人は,株式会社Bに対し,記名押印をした「管理に係
る承認書」を提出せず,いまだ,控訴人の手元に所持している。
ウ したがって,本件規約の原本は不存在であり,本件規約は無効とい
うほかない。
(2)控訴人が支払うべきものとされる管理費の金額の不当性
ア 本件規約は,控訴人の所有するg号室の管理費につき,専有部分面
積を基準として,8900円と定めている。この管理費には,エレベ
ーター保守費及びエレベーターに関わる電気代並びに灯油給油施設に
関わる保守料等が含まれている。
イ しかし,控訴人の所有するg号室は,1階にあるから,控訴人は,
エレベーターを利用していない。また,同g号室は,控訴人の選択に
よって,オール電化住宅仕様になっているものであり,控訴人は,灯
油供給施設を利用していない。
ウ したがって,本件規約が,控訴人の所有するg号室の以上のような
特質を考慮せず,単に専有部分面積のみを基準として,その管理費を
8900円と定めたことは不当である。
(3)本件規約の設定についての手続的な瑕疵
ア 建物区分所有法31条1項は,「規約の設定,変更又は廃止は,区
分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつ
てする。この場合において,規約の設定,変更又は廃止が一部の区分
所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは,その承諾を得なけれ
ばならない。」と定めている。そして,本件規約の設定は,控訴人の
権利に特別の影響を及ぼすべきものであるから,控訴人の承諾を得な
ければならない。
また,同法35条5項,1項は,「集会の招集の通知をする場合に
おいて,会議の目的たる事項が,規約の設定に関する決議事項である
ときは,その議案の要領をも通知しなければならない。」旨を定めて
いる。
イ しかるに,本件規約の設定について,控訴人の承諾を得ていない
し,また,被控訴人の設立総会の通知には,会議の目的たる事項とし
て本件規約の設定が明記されず,かつ,議案の要領も通知されていな
い。
ウ したがって,本件規約の設定については,手続的な瑕疵があり,無
効である。
     理     由
1 請求原因(1)について
(1)請求原因(1)のうち,被控訴人が本件建物の区分所有者で構成する団体で
あることは争いがない。
そして,区分所有者は,全員で,建物並びにその敷地及び附属施設の管理
を行うための団体を構成するものであるから(建物区分所有法3条),被控
訴人は本件建物の区分所有者全員で構成する団体であることが明らかであ
る。
以上によれば,請求原因(1)の事実はこれを認めることができる。
(2)なお,控訴人は,控訴人が被控訴人の構成員であることを否認し,その理
由として,控訴人は,被控訴人に対し,「管理に係る承認書」を提出してい
ないことをあげる。
しかし,控訴人がg号室の所有者であることは当事者間に争いがないか
ら,控訴人は,建物区分所有法3条の適用によって,当然に被控訴人の構成
員になるものであり,控訴人の上記主張は採用することができない。
2 請求原因(2)について
請求原因(2)の事実は当事者間に争いがない。
3 請求原因(3)について
請求原因(3)の事実は,乙第13号証及び弁論の全趣旨によって,これを認
めることができる。
4 請求原因(4)について
請求原因(4)の事実は,甲第6号証,第8号証の2,3,乙第4号証によっ
て認められる本件規約24条1項,28条,65条3号及び管理費等・使用料
一覧表並びに弁論の全趣旨によって,これを認めることができる。
5 請求原因(5)について
請求原因(5)の事実は,前記請求原因(4)の事実に加えて,甲第2号証及び弁
論の全趣旨によって,これを認めることができる。
6 控訴人の主張(1)について
控訴人は,本件規約の原本が不存在であることを理由として,本件規約が無
効である旨主張する。
しかし,本件規約が平成13年3月17日に開催された被控訴人の設立総会
の決議によって設定されたこと(請求原因(3)の事実)は,前認定のとおりで
あって,本件規約の原本が仮に原告の主張するとおりに不存在であるとして
も,これによって本件規約が無効になるものではなく,控訴人の上記主張は採
用することができない。
なお,控訴人は,本件建物の販売業者は,控訴人に対してg号室を販売する
に際し,本件規約の原本に本件建物の区分所有者全員の記名押印のある「管理
に係る承認書」を添付することによって本件規約の原本とするので,控訴人に
対し,「管理に係る承認書」に記名押印して提出することを求めたこと(以下
「本件提出要求」という。)をもって,本件規約の設定につき,書面決議によ
ること(建物区分所有法45条1項参照)とされたものである旨主張するが,
本件建物の販売業者の本件提出要求があったからといって,本件規約の設定に
つき,書面決議によることとされたことになるものではない。
7 控訴人の主張(2)について
控訴人は,本件規約が,控訴人の所有するg号室の特質(1階にありエレベ
ーターを利用する必要がないこと,オール電化住宅仕様となっていて灯油供給
施設を利用する必要がないこと)を考慮せず,単に専有部分面積のみを基準と
して,その管理費を8900円と定めたことは不当である旨主張する。
しかし,本件建物に附属しているエレベーター及び灯油供給施設が本件建物
の共用部分となっていることは,甲第4号証及び弁論の全趣旨によって,これ
を認めることができるところであり,区分所有建物が1階にあるからといって
エレベーターの保守管理等に要する費用を負担しないでよいことになるもので
はないし,また,乙第8号証,第10,第11号証及び弁論の全趣旨によれ
ば,控訴人は,本件建物に灯油供給施設が附属し,これが本件建物の共用部分
となっていることを知りながら,本件建物の販売業者に対し,g号室をオール
電化住宅仕様とすることを特注したことが認められるから,控訴人がそのよう
な特注をしたからといって灯油供給施設の保守管理に要する費用を負担しない
でよいことになるものではない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
8 控訴人の主張(3)について
(1)控訴人は,まず,本件規約の設定は,控訴人の権利に特別の影響を及ぼす
べきものであるから,控訴人の承諾を得なければならないところ,控訴人の
承諾を得ていないという手続的な瑕疵がある旨主張する。
しかし,本件規約の内容が,控訴人の権利に特別の影響を及ぼすべきもの
であることの具体的な主張・立証はない。
ちなみに,本件規約に,控訴人がエレベーターを利用することを禁止し,
また,控訴人がその所有するg号室につき灯油供給施設を利用することがで
きるように将来改造することを禁止する旨の規定があれば,それは,控訴人
の権利に特別の影響を及ぼすべきものであると考えられないではないが,本
件規約にそのような規定があるとは窺われない。
そうすると,控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)控訴人は,次に,被控訴人の設立総会の通知には,会議の目的たる事項と
して本件規約の設定が明記されず,かつ,議案の要領も通知されていないと
いう手続的な瑕疵がある旨主張する。
そこで検討するに,甲第4号証,乙第3号証,第12,第13号証及び弁
論の全趣旨によれば,①控訴人は,平成12年1月ころ,本件建物の販売業
者から,本件建物のg号室を購入する際に,本件規約と同内容の記載のある
文書を受領し,将来本件建物の区分所有者全員で構成する管理組合が設立さ
れ,管理組合の集会においてその文書の内容をもって規約とする旨の決議が
された場合に,それが建物区分所有法の定める規約となる旨の説明を受けた
こと,②控訴人を含む本件建物の区分所有者は,平成13年3月6日ころ,
書面をもって,被控訴人の設立総会を同月17日に開催する旨の通知を受け
たこと,③その通知書には,議案の一つとして「管理組合運営および委託管
理業務に関する件」が掲げられていたことが認められる。
以上の事実によれば,被控訴人の設立総会の通知には,会議の目的たる事
項として,「管理組合運営および委託管理業務に関する件」が掲げられてい
るところ,これには本件規約の設定も含まれるものとみることができるし,
また,本件建物の販売業者は,その販売に当たって,本件建物の区分所有者
各自に対して本件規約と同内容の記載のある文書を交付し,かつ,将来本件
建物の区分所有者全員で構成する管理組合が設立され,管理組合の集会にお
いてその文書の内容をもって規約とする旨の決議がされた場合に,それが建
物区分所有法の定める規約となる旨の説明をしているのであるから,本件規
約に関する議案の要領も通知されていたものと認めるのが相当である。
そうすると,控訴人の上記主張は採用することができない。
9 以上によれば,被控訴人の請求は理由があり,原判決は相当であって,本件
控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとし,控訴費用の負担につき民事訴訟法6
1条を適用して,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第2部
  裁判長裁判官  橋 本 昇 二
  裁判官  岩 松 浩 之
  裁判官  石 川 真紀子

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