弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 一 抗告の趣旨及び理由は別記のとおりである。
 二 抗告人主張の賃借人Aが昭和三三年一二月末本件競落家屋の階上階下各六畳
一室(計二室)の賃借部分に対する賃貸借を解除し、賃借部分から退去したという
事実、並びに賃借人Bの賃料は月二、三〇〇円でなく、二、五〇〇円であるという
事実は、認めるに足るなんらの証拠がないので、右各主張事実を前提とする所論は
採用のかぎりでない。
 記録によれば、本件家屋は所有者たる抗告人において、(一)住宅金融公庫に対
する三八万円の債務のため抵当権を設定し、昭和三〇年四月二七日第一順位の抵当
権設定登記がなされ、(二)株式会社西日本相互銀行(本件の競売申立債権者)と
の間の根抵当権設定契約により、昭和三〇年五月一八日元本極度額一五〇万円の第
二順位の根抵当権設定登記がなされ、(三)筑紫信用組合との間の根抵当権設定契
約により、昭和三二年一〇月一八日元本極度額七五万円の第三順位の根抵当権設定
登記がなされ、右の各抵当権は現存すること。抗告人は右各抵当権の登記後である
昭和三三年四月頃Bに対し、本件家屋の階下六畳一室を期間を定めず賃料月二、三
〇〇円、毎月月末払の約で賃貸して引き渡し、昭和三三年九月Aに対し、本件家屋
の階上六畳一室及び階下板張り六畳一室計二室を、期間を定めず賃料月六〇〇〇
円、毎月月末払の約で賃貸して引き渡し、右各賃貸借は現存し、競売期日の公告に
右各賃貸借が掲記されたという事実が認められる。
 ところで、競売期日の公告に掲記すべき賃貸借は、抵当権者したがつてまた競落
人に対抗できるもののみにかぎられ、抵当権者、競落人に対抗できない賃貸借をそ
の旨明らかにしないで掲記することは不適法であつて、競落許可決定を取り消すべ
き事由にあたるので(昭和三一年七月二日福岡高等裁判所決定、判例集第九巻六号
四〇四頁)、前認定に照らし明らかなように、抵当権の登記後に賃借人が引渡を受
けた期間の定めのない本件各賃貸借は、抵当権者、競落人に対抗しうるものである
かどうか、換言すれば、民法第六〇二条の期間を越えない短期賃貸借であるか、あ
るいは同条所定の期間を越ゆる長期賃貸借にあたり、抵当権者や競落人に対抗でき
ないものと解するを相当とするかをきめる必要があるところ、これについては、説
が分れ、各裁判所の取扱も区々に分れている実状のようであるので、一応当裁判所
の見解を表わしておきたい。この点について大審院は、期間の定めのない賃貸借は
各当事者が何時でも民法第六一七条によつて解約申入をなし、終了させることがで
きるので、民法第六〇二条所定の期間を越える長期の賃貸借ということはできない
から、短期賃貸借と同視すべきであるとの立場に立ち(大正三年七月一三日民録六
〇七頁。昭和五年六月二三日裁判例四巻七二頁。 昭和一二年七月九日民集一一六
六頁。昭和一二年七月一〇日民集一二二九頁)、これに反する学説もなかつた。
 これによると、民法第三九五条により期間の定めのない賃貸借は抵当権者、競落
人に対抗し得たのである。ところが、昭和一六年借家法が改正されて同法に第一条
ノ二の規定が追加され、借家法の適用を受ける期間の定めのない賃貸借は、その解
約申入につき厳重な制約が加えられ、解約が著しく困難になつた現在においては、
期間の定めのない家屋の賃貸借は、長期賃貸借とみるべきで、短期賃貸借と解すべ
きではないとの説が生じてきた、。この説によると本件期間の定めのない賃貸借
は、抵当権者、競落人に対抗し得ないことになる。
 <要旨>当裁判所は、借家法の適用を受ける期間の定めのない賃貸借は、民法第六
〇二条所定の期間を越える賃貸借ではなく、同法第三九五条の適用を受ける
のであつて、借家法第一条ノ二の規定が追加制定されたということは、右の結論を
強めこそすれ、これを反対に解する理由となるものではないと解する。すなわち、
民法第三九五条に関しては多少の非難はあるにしても、要するに価値権たる抵当権
と使用権たる賃借権との調和をはかつた規定であることに異論はなく同条本文は抵
当権に後れて登記(引渡)という対抗要件を具備した賃借権に、抵当権に対抗しう
る効力を与えたものであつて、賃借権優位思想の法的表現である。借家法第一条ノ
二の規定は借家法の他の規定と相まつて、賃借権を保護強化しようとするものであ
ることは言をまたない以上、賃借権強化の第一条の二の規定が追加されたがため
に、期間の定めのない賃貸借が、抵当権に対抗し得ないいわば弱い賃貸借に変移し
たと解する説は、前示判例の理由となつた基礎が薄れたので、直ちに反対説に赴こ
うとする極端論で、わが国における家屋賃貸借の多数が期間の定めのないものであ
り、特にその賃借人の殆んどは、賃貸借の締結にあたり、目的家屋に抵当権の登記
が存するかどうかを調査せず、かりに調査の上、抵当権の登記が存することを知つ
たとしても、借家払底の事由から賃借するの外ない状勢におかれていることをかれ
これ合わせ考えると、借家法という社会政策的立法の目的に反し、賃借権強化の最
近の法思想にも合致しない、まことに木を見て森を知らない考え方と評せざるを得
ないのである。借家法第一条ノ二の規定が設けられる前において、期間の定めのな
い家屋賃貸借が抵当権者、競落人に対抗し得た以上、第一条ノ二が新設された現在
においては、一層強い理由をもつて、右賃貸借は抵当権者、競落人に対抗しうるも
の、換言すれば、民法第三九五条第六〇二条の短期賃貸借にあたるものと解しなけ
ればならない。したがつて、期間の定めのない前認定の本件二つの賃貸借は抵当権
者に対抗しうるものというべきであるので、原審がこれを競売期日の公告に掲記し
たのは相当である。
 その他原決定にはこれを取り消すべき違法は存しないので、抗告を理由なしと認
め、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)

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