弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を高知地方裁判所中村支部に差戻す。
         理    由
 弁護人堀耕作の控訴趣意は別紙記載の通りである。
 控訴趣意第一点について。
 論旨は原審は検察官の請求により訴因の変更(原判示第一の事実)及び訴因の追
加(原判示第三の事実)を許しているけれども、右はいずれも公訴事実の同一性を
害して居り違法たるを免れないと謂うのである。仍て本件記録並びに原判決を検討
するに、原審第一回公判調書(記録第九〇丁以下)に徴すれば検察官は本件公訴事
実中一の事実即ち「被告人は昭和二十四年二月末日頃Aと共謀の上高知県a町市場
入口に置いてあつたB会所有のドラム罐入コールタール一本を窃取した」との訴因
を「被告人は昭和二十四年二月末日頃a町においてAより同人がその頃窃取したド
ラム罐入コールタール一本をその贓物たるの情を知りながら千五百円で買受け故買
をなし」と変更し、更に「被告人はAと共謀の上昭和二十四年三月末頃a町市場に
おいて同町C組合所有のドラム罐入軽油一木を窃取した」との訴因を追加すること
を裁判所に対し請求し、原審裁判所は右訴因の変更及び追加を許し原判決において
右コールタール故買の事実(第一事実)及び軽油窃取の事実(第三事実)を夫々認
定していること所論の通りである。
 仍て先づ右訴因変更の点につき考察するに、訴因の変更け公訴事実の同一性を害
しない限度においてのみ許されること(刑事訴訟法第三百十二条)所論の通りであ
るけれども、訴因制度を認めた新刑事訴訟法の下においては当初の訴因と変更せん
とする訴因とがその構成要件事実において相当程度重なり合つていれば公訴事実の
<要旨>同一性を害さないものと解する。而して本件の場合は「被告人が昭和二十四
年二月末日頃甲と共謀の上コールタールを窃取した」との訴因を「被告人は
昭和二十四年二月末日頃甲より盗品であるコールタールを故買した」との訴因に変
更したのであつて右両者はその犯行の日時、目的物件等において同一であり而も他
人の財物を不法に領得する点において共通点を有するから、かかろ訴因の変更は公
訴事実の同一性を害していないものと謂うことができる。然らば本件公訴事実一の
窃盗の訴因を贓物故買に変更することを許した原審の手続は適法であつてこの点の
論旨は理由がない。
 次に訴因追加の点につき考察するに、訴因の追加もまた公訴事実の同一性を害し
ない限度においてのみ許されるところ(刑事訴訟法第三百十二条)、原審が訴因の
追加を許した「被告人はAと共謀の上昭和二十四年三月末頃a町市場において同町
C組合所有のドラム罐入軽油一本を窃取した」との事実は本件公訴事実(コールタ
ールの窃盗と自転車の贓物故買)とは全然別個独立の事実であつて、もとより公訴
事実の同一性を有しない事実である。検察官は右事実につき訴追を欲するならば当
然追起訴の手続によるべきであつて、訴因追加の方法によることは許されない。然
るに原審が右訴因の追加を許しこれを有罪と認定し九のは訴訟手続を誤り且つ審判
の請求を受けない事件について判決したことに帰着するから原判決はこの点におい
て到底破棄を免れない。訴因追加の違法を主張する論旨は理由がある。
 仍て控訴趣意中爾余の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第二百七十八条第三
号第三百九十七条により原判決はこれを破棄し、同法第四百条本文の規定に従い本
件を原裁判所である高知地方裁判所中村支部に差し戻すこととする。
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

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