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20く413
東京高裁平成20・8・19
316条の20第1項棄却
主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
本件即時抗告の趣意は,検察官C作成の即時抗告申立書のとおりであるからこれを引用
する。
1所論は,原決定は,証拠開示命令の対象とならない個人的メモの開示を命じたもので
あると主張する。そこで,本件大学ノートのうち,Bの取調べに関する記載部分(以下,
「本件メモ」という。)が犯罪捜査規範13条に基づき作成すべき書面(以下,「13条書面」
という。)に該当するか否かについて検討する。まず,本件大学ノートは,A警察官が担
当ないし関与したと思われる事件について取調べの経過その他参考となるべき事項を専ら
その都度メモとして記載していたものであり,当時勤務していたD警察署における当番編
成表が随所に貼付されるなど,全体として,それ以外の記載は見出せないものであって,
本件メモも本件に関連して平成19年6月21日にE警察署でBの取調べを行う前ないしその
際にメモとして作成したものである。その記載内容自体は,まさに心覚え的な事柄を書き
散らした類のものであって,その証拠価値については疑問の余地があるが,それが13条書
面に該当することは,客観的に明らかである。
所論は,本件メモは個人的メモであり,最高裁平成19年12月25日第3小法廷決定・刑集61
巻9号895頁にいう「専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出するこ
とを全く想定していないもの」に当たると主張する。しかしながら,その表紙にハート型
のシールが貼付されていたり,作成者をいわゆる丸文字体で「A」と記した模様入りのシ
ールが貼付されていることなどは,本件大学ノートの内容に照らして13条書面であること
を何ら左右するものではない。その体裁から私物であることが一見明白であるなどとはい
えない。所論のとおり,その記載がA警察官以外の者が見てその内容を正確に理解するこ
とが困難な箇所もあるが,そのことは,メモである以上,13条書面であっても,大なり小
なり起こり得ることであって,13条書面の該当性を否定するに足りる事情とはいえない。
A警察官において後日証人になった場合に記憶喚起の手掛かりになればよいのであるから,
他の者が見てその記載の意味が多少分からなくとも何ら差し支えないのである。
さらに,所論は,本件大学ノートないし本件メモは他に見せたり提出することを全く想
定していないものであると主張し,それに沿う内容のA警察官からの電話聴取書を提出し
ている。しかし,13条書面か否かは,専らその書面の記載内容のもつ意味から考えるべき
であって,客観的にみて13条書面であれば,「個人的メモの域を超え」て,これを職務上
保管すべき義務がある「捜査関係の公文書」となるのであり,作成者個人の他に見せたり
提出するつもりはないといった主観的な意図にはかかわらないのである。この所論は採用
できない。
2所論は,原決定は,捜査機関において保管中ではないものについて開示を命じたもの
であると主張する。前記最高裁決定が判示する「捜査機関において保管中のもの」に当た
るか否かの点についてであるが,本件大学ノートは,A警察官がD警察署に勤務していた
際に同署の自己の机の引出し内に保管して使用し,F警察署に転勤した後は自宅に持ち帰
っていたが,本件事件に関連して検事から問い合わせがあったので,盗まれてはいけない
と考え,F警察署へ持って行き,自分の机の引出しの中に入れて保管していたものである。
所論は,本件大学ノートは,A警察官が私費で購入した後に継続的かつ個人的に使用し
ていたものであって,警察が組織として保管していたものとは認められないと主張する。
しかしながら,13条書面については,警察官においてこれを保管しておかなければならな
いのであって,そうである以上は,捜査機関において保管中のものということができる。
13条書面に当たらないような個人的メモであれば,警察署の自分の机の引出しの中に終始
保管していたとしても,捜査機関において保管中のものとはなし得ないのは当然であり,
他方,13条書面であれば,本件のように,転勤後自宅に持ち帰ったとしても,捜査機関に
おいて保管中のものといえるのである。所論は,個人的メモだから,捜査機関において保
管中のものに当たらないというにすぎない。この所論も採用の限りではない。
3所論は,原決定は,本件において,Bの取調べ状況についての証拠調べが行われるこ
とが予定されていないのに,本件メモの開示を命じたものであると主張する。
そこで,前記最高裁決定が判示する「当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に
関する証拠調べが行われる場合」といえるか否かについて検討する。所論は,現時点にお
いて,A警察官の証人尋問その他の証拠調べを行う予定は全くないから,本件開示命令が
同決定に違反することは明らかであるという。しかしながら,Bの証人尋問が決定された
ことから,検察官が同女の証人テストを行ったところ,突如として,被告人が本件の被害
品であるクレジットカードを使用し,「G」とサインしたのを目撃した,その際に,同カ
ードは,本件被害者であるGの家に入って取ってきたと教えられたという従前の取調べで
は述べていなかったことを述べ出したというのである。この供述が真実であれば,被告人
の弁解を根底から否定し,その犯人性を直接裏付ける重要なものであるから,同女の証人
尋問においては,当然のことながら,その供述の信用性が争点となり,A警察官による従
前の取調べではどのように述べていたのか,その点に言及していなかったとすれば,何故
かなどの点が極めて重要な尋問事項となるといわざるを得ない。そうすると,現段階では
A警察官の証人尋問までは予定されていないけれども,Bの証人尋問において,A警察官
による当該取調べ状況が問題となる以上は,「当該事件の公判審理において,当該取調べ
状況に関する証拠調べが行われる場合」に当たるといわなければならない。この所論も採
用できない。
4所論は,原決定は,被告人側の主張との関連性や開示の必要性・相当性が認められな
いのに,本件メモについて開示を命じたものであると主張する。しかしながら,前述した
ようにB証人の証言内容は被告人にとって致命的ともいえる内容であることが十分予想さ
れ,同証人が従前の取調べでどのように述べていたかは重要な争点となるから,本件メモ
自体は,その内容からして証拠価値に乏しいものともいえるけれども,今後のB証人の証
言内容の如何によっては,その記載が新たな角度から意味をもってくる可能性は否定でき
ず,関連性,必要性及び相当性があるとした原決定は正当である。本件では,原裁判所が
検察官から本件大学ノートの提出を受けて,本件メモの開示を命じたものであるが,裁判
所においてその内容を見て,開示の必要性や相当性を検討するとしても,弁護人に既に開
示された証拠を見ていない裁判所が限られた資料からその内容の必要性や相当性を否定す
るには慎重であるべきであって,弁護人の観点からする検討の余地を与えることも重要で
あるというべきである。この所論も採用できない。
論旨は理由がない。
よって,刑訴法426条1項後段により本件即時抗告を棄却することとして,主文のとおり
決定する。
(裁判長裁判官・原田國男,裁判官・田島清茂,裁判官・松山昇平)

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