弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意について、
 所論は事実誤認の主張を出でないものであつて適法な上告理由に当らない。
 弁護人高浜淳の上告趣意第一点について、
 所論は憲法三七条一項違反をいうけれども、同条項にいわゆる「公平な裁判所の
裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもつた裁判所による裁判を
意味するものであつて、個々の事件につきその内容実質が具体的に公正妥当な裁判
を指すのではないことは既に当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第四八号、同二三
年五月二六日大法廷判決、集二巻五号五一一頁)とするところである。従つて原審
の証拠の採否が所論のように被告人の側からみて不利であつたからとて原判決は前
記憲法の規定に違反すると主張する所論は採るを得ない。
 同第二点について、
 所論は原判決には経験則違背、審理不尽、理由不備の違法があると主張するもの
であつて適法な上告理由に当らない。
 同第三点について、
 所論は原審の証拠の取捨判断を非難し事実誤認を主張するものであつて、適法な
上告理由に当らない。
 同第四点について、
 所論は単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 弁護人毛利与一の上告趣意第一、二点について、
 所論はいずれも判例違反をいうが、原判決が如何なる判例に違反するか具体的に
明示していないのであるから不適法であり、所論の実質は単なる訴訟法違反、事実
誤認の主張であつて適法な上告理由に当らない。
 同第三点について、
 所論は判例違反をいうが原判決が如何なる判例に違反するか具体的に明示してい
ないから不適法であり、所論の実質は単なる訴訟法違反の主張であつて(原審はそ
の第二回公判期日を昭和三四年五月二一日午前一〇時と指定したが双方の意見を徴
した上、右五月二一日の期日を五月二八日に変更し〔記録三二二丁〕その変更決定
は弁護人等にも適式に送達されていること記録上明らかである)適法な上告理由に
当らない。
 弁護人横山勝彦の上告趣意第一点について、
 所論は違憲をいうが実質は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であつて適法な上
告理由に当らない。
 同第二点について、
 所論は判例違反を主張するけれども原判決は挙示の各判例の趣旨に何等相反する
判断を示しているものとは認められない、所論の実質は単なる法令違反の主張に帰
するものであつて適法な上告理由に当らない。なお所論は要するに刑法二二二条の
脅迫罪は同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによつて成立
し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、
本件二枚の葉書の各文面は、これを如何に解釈しても出火見舞にすぎず、一般人が
右葉書を受取つても放火される危険があると畏怖の念を生ずることはないであらう
から、仮に右葉書が被告人によつて差出されたものであるとしても被告人に脅迫罪
の成立はない旨主張するけれども、本件におけるが如く、二つの派の抗争が熾烈に
なつている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見
舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」
という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかと畏怖するのが
通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本
件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三五年三月一八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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