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平成13年(ワ)第16440号 著作権侵害差止等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成14年4月22日)
             判      決
     原      告     サイボウズ株式会社
     訴訟代理人弁護士     小川義龍
     同            平出晋一
     被      告     株式会社ネオジャパン
     訴訟代理人弁護士     緒 方 延 泰
     同            松 本 直 樹
             主      文
     1 原告の請求をいずれも棄却する。
     2 訴訟費用は原告の負担とする。
             事実及び理由
第1 原告の請求
 1 被告は,別紙物件目録1,2記載の各プログラムを製造し,頒布し,上映し
てはならない。
 2 被告は,同目録1,2記載の各プログラムをフロッピーディスク,CD-R
OM,ハード・ディスク等の記憶媒体に格納し,有線ないし無線通信装置等によっ
て送信又は送信可能の状態においてはならない。
 3 被告は,同目録1,2記載のプログラムを格納したフロッピーディスク,C
D-ROM,ハード・ディスク等の記憶媒体を頒布してはならない。
 4 被告は,同目録1,2記載の各プログラムの使用許諾をしてはならない。
 5 被告は,同目録1,2記載のプログラムを格納したフロッピーディスク,C
D-ROM,ハード・ディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
 6 被告は,同目録1,2記載の各プログラムを製造し,譲渡し,引き渡し,譲
渡若しくは引渡しのために展示し,又は輸出してはならない。
 7 被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成13年1月11日
から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
 8 被告は,原告に対し,被告ホームページのトップページに,別紙謝罪広告目
録記載の謝罪広告を,その表題及び原告被告の各商号は16ポイントゴシック体,
そのほかは12ポイントゴシック体で,本判決確定の日から2か月間掲載せよ。
第2 事案の概要
 1 原告の請求の内容
   原告は,その製作・販売するビジネスソフトウェア「サイボウズoffice2.0」
(以下,「サイボウズオフィス2.0」あるいは「原告ソフト」という。)は,個々の
表示画面がそれぞれ著作物であることに加えて,各表示画面の集合体としての全画
面も全体として一つの著作物であると主張する。そして,被告が製作・販売する別
紙物件目録1記載のビジネスソフトウェア「ioffice2000 バージョン2.43」(以
下「アイオフィス2.43」という。)及び同目録2記載の「同バージョン3.0」(以下
「アイオフィス3.0」といい,「アイオフィス2.43」と併せて「被告ソフト」という
ことがある。)は,原告ソフトを複製ないし翻案したソフトウェアであり,被告が
被告ソフトを記憶媒体に収録して,これを頒布し,自社のホームページから利用者
にダウンロードさせた上で,使用許諾している行為は,原告ソフトにおける前記各
著作物に関して原告の有する著作権(複製権・翻案権,頒布権,上映権及び公衆送
信権)を侵害する行為に該当すると主張して,著作権法に基づき,前記第1(原告
の請求)の第1~第5項及び第7項の請求をしている。
   また,原告は,原告ソフトの表示画面が,商品形態として不正競争防止法2
条1項1号にいう「商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」(周
知商品等表示)に該当すると主張する。そして,被告ソフトの表示画面もまた商品
等表示として機能するところ,原告ソフトの商品等表示画面と類似するから,被告
の行為は同号所定の不正競争行為に該当するとして,同法の規定に基づき,前記第
1(原告の請求)の第6~第8項の請求をしている。
   さらに,原告は,仮に被告ソフトの頒布等が被告ソフトの前記著作権を侵害
せず,不正競争行為にも該当しないとしても,原告ソフトに依拠した被告ソフトを
故意に販売する被告の行為は,民法上の一般不法行為(民法709条)に該当する
と主張して,前記第1(原告の請求)の第7,8項の請求をしている。
 2 前提となる事実
  (1) 原告及び原告ソフト
    原告は,コンピューターソフトウェアの開発,販売,保守等を業とする株
式会社であり,平成9年10月にグループウェア「サイボウズoffice1.0」の販売を
開始して以来,平成10年8月に「サイボウズoffice2.0」(原告ソフト)を販売す
るなど,サイボウズオフィスのバージョンアップを繰り返してきた。本件提訴時点
における最新バージョンは「サイボウズoffice4.0」である。
    サイボウズオフィスは,「グループウェア」と呼ばれるコンピュータソフ
トウェアである。「グループウェア」とは,会社や部署などのグループによる作業
を効率化するために,ユーザー間のコミュニケーションや情報の共有を行えるよう
にするソフトウェアのことであり,いわば「皆で使えるシステム手帳」とでもいう
べきものである。
    サイボウズオフィスは,グループウェアのなかでも「ウェブ・グループウ
ェア」と呼ばれるカテゴリーに属する。これは,LAN(イントラネット)ないし
WAN(インターネット)上に存在するウェブサーバーにプログラム本体を設置
し,隔離されたユーザーのパソコンには専用のプログラムをインストールすること
なしに,ブラウザ(OSに標準添付されている「マイクロソフト・インターネット
エクスプローラ」や「ネットスケープ・ナビゲータ」等のウェブ画面表示ソフト)
上に表示される画面を利用して操作できるものである。
    サイボウズオフィスは,次の機能を備えたいわゆる「アプリケーション」
の集合体である(これらのアプリケーションは,それぞれ単品のソフトウェアとし
ても販売されている。)。
    「スケジュール」(個人のスケジュール管理だけではなく,オフィスのメ
ンバー全員でスケジュールを共有し,一覧・入力することができる。)
    「行き先案内板」(不在メンバーの所在を把握し,不在メンバーへの伝言
を登録することができる。)
「掲示板」(メンバーに一斉に連絡をしたいときに用いる電子掲示板)
「施設予約」(会議室などの施設の利用に際して,他のメンバーと重複し
ないように予約できる。)
「共有アドレス帳」(メンバー全員で共有できるアドレス情報を作成でき
る。)
    「ToDoリスト」(各メンバーの仕事を,テーマ別,締切日順,優先度順で
簡単に管理できる。)
    「プロジェクト管理」(プロジェクトの進捗状況を簡単に把握できる。)
    「電子会議室」(メンバー全員が参加できる電子会議システム)
    原告は,原告ソフトを自社のホームページからダウンロード可能な状態に
しており,ユーザーは,原告のホームページにアクセスして原告ソフトをダウンロ
ードし,60日間の試用期間内に原告ホームページに契約の申し込みを行い,原告
から登録キーを発行してもらうことで継続使用が可能になるという方式により,原
告ソフトを頒布し,使用許諾している。
  (2) 被告及び被告ソフト
    被告は,コンピューターソフトウェアの開発,販売等を業とする株式会社
であり,平成11年1月に,原告ソフトと同種のウェブグループウェアである「i
office2000 バージョン1.0」の販売を開始して以来,平成12年にはアイオフィ
ス2.43を,平成13年1月にはアイオフィス3.0(商品名「iofficeV3」)を販売
するなど,アイオフィス・シリーズのバージョンアップを繰り返してきた(なお,
本訴提起時である平成13年8月現在における最新バージョンは,「アイオフィス
4.0」である。)。
    被告は,サイボウズオフィスシリーズと同様の方法により,ユーザーに対
して,アイオフィスシリーズを頒布し,使用許諾しているが,インターネット上か
らソフトウェアをダウンロードさせるだけでなく,フロッピーディスク,CD-R
OM,ハード・ディスク等の記憶媒体に収録した上で,これをユーザーに頒布する
方法も採っている。
  (3) 被告による原告ソフトの参照等
    被告は,上記アイオフィスシリーズの最初の商品であるアイオフィス1.0を
製作・販売するに際し,先行商品であるサイボウズオフィス2.0の機能及び画面表示
等を参照した。被告は,その上でアイオフィス1.0を作成し,平成11年1月28日
から販売等を開始した。
    その直後の平成11年2月1日,原告は,被告に対し,アイオフィス1.0の
製造・販売等はサイボウズオフィスの複製権の侵害にあたる旨メールで警告し,若
干のやり取りを経て,同年2月6日,被告は,サイボウズオフィスのコピー製品を
ホームページから削除する旨メールで回答した。そして,上記バージョン1.0を削除
してから約2週間後に,アイオフィス2.0の販売等を開始した。
 3 争点
  (1) 著作権侵害の有無(争点(1))
  (2) 不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)の成否(争点(2))
  (3) 民法上の一般不法行為(民法709条)の成否(争点(3))
  (4) 原告の損害(争点(4))
第3 当事者の主張
 1 争点(1)(著作権侵害の有無)について
  (原告の主張)
  (1) 原告ソフトの著作物性
    原告ソフトは,個々の表示画面に著作物性が認められるのはもちろんのこ
と,個々の表示画面の集合体としての全画面についても,表現者である原告が意図
した選択・配列に基づく相互に牽連性を持った表現行為として,不可分一体の著作
物性を有する。
    すなわち,仮に個々の表示画面に独立した著作物性が認められなくても,
表示画面の選択・配列に創作性があれば,編集著作物に著作物性が認められるのと
同様に,画面全体に一個の著作物性が認められるというべきである。したがって,
原告ソフトにおいては,個々の表示画面が著作物であるほか,これらの選択・配列
にも創作性が存するから,表示画面の集合体としての全画面も,著作物となるもの
である。
   ア 本件で問題になっているグループウェアは,前記のとおり,スケジュー
ル,アドレス帳,施設管理などのアプリケーションの集合体であるところ,これら
アプリケーションの大半はありふれたもので,例えば,スケジュールの週表示であ
れば,週の表示を縦にとるか横にとるか程度の違いが出せるにすぎないから,一見
すると創作性の幅は狭いようにも見える。しかし,グループウェアにおいては,グ
ループそのものに関わる情報とグループの構成員に関わる情報とを,同一画面又は
別画面で分かりやすく表示しなければならず,単なる個人情報を表示する場合と比
べて格段に複雑となり,創作性の幅が広がる。また,コンピュータソフトウェアの
画面は,紙媒体上の情報表示に加えて機能表示が加わり,週表示を例にとっても,
単にある週のスケジュールが表示されるだけでなく,その表示画面から他の表示画
面や入力画面ないし設定画面に移動するための機能表示が加わっている。また,こ
のような機能を一画面で実現するのか,いくつかの画面に分割するのかという点だ
けでも,相当な選択の幅がある。
     上記に照らせば,グループウェアについて,客観的・機能的に表現する
部分が多い,あるいは個々の画面の表示方法につき制約が多いという理由だけで,
その創作性の幅を狭くとらえることは,グループウェアがどのような設計思想に基
づき,どのように構成されているかという実態を知らずにされた誤った議論という
べきである。
   イ 原告ソフトは,①パソコンモニターの限られた画面上における一覧性を
追求するため,一画面あたりのコンテンツを絞り,一画面に入らないものは階層化
して別画面にする,②キーボード操作に不慣れな者を含むグループ構成員多数が使
用することを前提に,マウス操作をキーボード操作に優先させ,キーボード入力を
可及的に排除する,③多数の者が同時に利用するというグループウェアの特質にか
んがみ,誰が見ても一見して分かるように,表示内容や操作方法に配慮するととも
に,利用者個人であるユーザーとその個人が属するグループという2つの概念をリ
ンクさせて,検索と画面表示が効率よく行えるよう工夫する,④社内のネットワー
クだけでなく,インターネットを介して社外からもアクセスして使用することを前
提にすると,一画面のファイルサイズが大きくなると画面表示が遅くなり,グルー
プウェアとしての機動性を損なうので,一画面あたりの表示要素を可及的に縮小
し,ファイルサイズをできるだけ小さくする,以上のような設計思想を基本として
いる。
     そして,上記の設計思想を実現するため,一画面一機能を原則とした
上,アプリケーション相互間の移動を唯一つかさどるトップページを頂点とし,各
アプリケーションにおいては,各画面が,情報の表示,情報の入力及び設定という
各機能のいずれかに分類されることを原則としている。そして,①情報表示画面に
おいては,経験則上目にとまりやすい画面の四隅に重要度の高い情報を配置すると
ともに,左上から右下の順に重要度の高い情報を配置する,②情報入力画面におい
ては,情報の重要度・頻度順に応じて入力項目を選択し,各項目を画面上縦一列に
配置して,重要度の高い情報については,マウス操作によって入力できるようにプ
ルダウンメニュー化するとともに,プルダウンメニュー化のため,重要項目につい
ては任意の語句をあらかじめ設定登録できるようにする,③さらに,直感的な画面
表示というコンセプトを損なわないよう,タブを利用して一画面に多機能を設定す
ることを避け,設定画面群についても,あえてトップページ的なメニュー画面を与
える,以上のような画面設計がされている。さらに,これらの画面は,迅速な操作
性を害しないため,最上位に位置する全体のトップページからせいぜい2階層程度
までの深さを前提として,サイトマップに示された階層化構造の下,機能的に選
択・配列されている。
     個々の表示画面をみても,例えば,①「スケジュール」アプリケーショ
ンのトップページであるグループ週間表示画面において,ユーザー個人,ユーザー
の属するグループ全体及び他のグループ構成員という順序で上から下へと情報表示
欄を配列し,かつ,ユーザー個人の情報表示欄とグループの情報表示欄の間に背景
色付きのボーダーを入れ,情報の有用性に応じて視覚的な区別をするとか,②「ス
ケジュール」のグループの日表示画面等において,情報が入力されている部分には
時間帯を枠で区切った上で背景に色をつけ,入力されていない部分は枠で区切らず
に背景を白地のままにしておくとか,あるいは,③「共有アドレス帳」の新規アド
レスの入力表示画面において,氏名の表示の次に住所や会社名を並べるのではな
く,E-mailアドレス,電話番号(Tel),ファクス番号(Fax)の情報をこの順に並
べるとか,誰が行ってもほとんど同じにならざるを得ないとはいえない程度の個性
をもって,具体的な表現がされている。
   ウ このように,サイボウズオフィスの各表示画面は,一見するとありふれ
た画面構成を採っていたり,シンプルなボタンや枠組みを選択・配置したりしてい
るだけのように見えるが,これらは上述の設計思想の下で統一されているのであ
り,多くのグループウェアが同一画面で表示しているものを,あえて分割表示する
構成をとり,各画面においても情報が直感的に把握でき,かつ,一覧できるよう,
素材の取捨選択や配置等につき,ぎりぎりの練り込まれた表現方法を採っている。
     したがって,個々の表示画面に著作物性が認められるのはもちろんのこ
と,個々の画面の集合体としての全画面についても,表現者である原告が意図した
選択・配列に基づく相互に牽連性を持った表現行為として,不可分一体の著作物性
を有するというべきである。また,仮に個々の表示画面に独立した著作物性が認め
られないとしても,編集著作物に著作物性が認められるのと同様に,画面全体には
一個の著作物としての著作物性が認められるというべきである。
  (2) 表示画面の類似性
    被告ソフトの表示画面は,次のとおり,サイボウズオフィスの表示画面に
若干の変更を加えただけでそのまま模倣したものであり,両者は実質的に同じもの
である。
   ア ソフトウェア全体のトップページ
     原告ソフトのソフトウェア全体のトップページにおいては,画面を概ね
上段・中段・下段と3分割し,①上段に,「サイボウズオフィス」のロゴマーク等
及びユーザーごとのプルダウンメニュー方式によるログインボタンを,②中段に,
大柄な各アプリケーションアイコン(しかも,通常アプリケーションとはいえない
「設定」メニューをアプリケーションと同様にアイコン化したものを含む。),③
下段に,ソフトウェア情報(原告名,バージョン情報,コピーライトの表示)をそ
れぞれ配置している。
     これに対し,被告ソフトのソフトウェア全体のトップページにおいて
も,画面を概ね上段・中段・下段と3分割し,①上段に,「アイオフィス」のロゴ
マーク等及びログインボタンを,②中段に,設定アイコンを含む大柄な各アプリケ
ーションアイコンを,③下段に,ソフトウェア情報(被告名,バージョン情報,コ
ピーライトの表示)をそれぞれ配置しており,原告ソフトのトップページと同一の
構成である。
     なお,アイオフィス3.0においては,デザイン的な変更がされているもの
の,アイオフィス1.0から3.0までの画面を比較すれば,アイオフィス1.0から2.43に
おいて複製された原告ソフトのトップページが改変されたにすぎないことがわか
る。
   イ 「スケジュール」におけるグループ週間表示
     原告ソフトにおいては,最も目にとまりやすい画面左上に「グループ」
をプルダウンメニューで切り替えるボタンを配置した上,縦軸には,情報の優先度
に従って,ユーザー自身の情報を最上部に,次いでグループ全体の情報,その下に
グループに所属する個人の情報をそれぞれ表示した上,一覧性を高めるために,ユ
ーザー情報と,グループ全体及びグループ構成員の情報との間にボーダーラインを
入れ,また,グループ全体の情報については,そのグループ名表示欄の色を変える
など,直感的に区別できるようにしている。また,キーボード入力の可及的排除及
び直感的な画面表示の実現のために,グループ週間表示画面における情報表示その
ものが,入力画面への移動ボタンを兼ねており,このような機能を表す表示(例え
ば「☆」マーク)が画面全体にちりばめられているばかりか,相対的に目にとまり
やすい右上部には,シンプルかつ直感的な画面表示を実現するために,「今日」の
テキスト文字ボタンを配置し,その両脇に前日・翌日への移動機能を表す「」「
」(以下,併せて「▲」と表記する。),前週・翌週への移動機能を表す「
」「」(以下,併せて「▲▲」と表記する。)という一連のボタンを並べるこ
とで,これらが日の移動の機能を持つボタン群であることを直感させている。これ
らのボタン自体を個別に見ればありふれているが,その配置や組み合わせに創作性
があるということができる。
     これに対し,被告ソフトにおいては,上記「グループ」の文字が「表示
グループ」(アイオフィス2.43)ないし「表示グループの変更」(同3.0)に変わっ
たなど,些細な点での変更はあるものの,縦軸にユーザー自身の情報,グループ全
体の情報及びグループ構成員の情報をこの順に並べ,ユーザー情報と,グループ全
体及びグループ構成員の情報との間にボーダーラインを入れ,また,グループ全体
の情報については,そのグループ名表示欄の色を変えていること,情報表示そのも
のが入力画面への移動ボタンを兼ねていること(被告ソフトにおける「Add」マーク
は,カスタマイズにより「☆」マークに変更することが可能である。),画面右上
に「今日」のテキスト文字ボタンを配置し,その両脇に「▲」「▲▲」という一連
のボタンを並べていることなど,原告ソフトにおける上記特徴をそのまま見て取る
ことができる。
   ウ 「スケジュール」における個人月間表示
     原告ソフトにおいては,新規入力のための機能リンク表示(前記
「☆」)を各日付の下に配置していること,月の移動ボタン群も,中央に「今月」
のテキスト文字ボタンを配置し,その両脇に月単位の移動を表す「▲▲」というボ
タンを配置していることなどの特徴があるところ,アイオフィス2.43においては,
これらの特徴はそのままであり,また,アイオフィス3.0においても,角の取れたボ
タンがやや中央上部寄りに配置されていること以外は,ほぼそのままである。
   エ 「スケジュール」におけるグループの日表示
     原告ソフトにおいては,上記ウで述べたのと同様の特徴のほか,情報の
ない時間帯は枠線で区切ることなく,白地の背景の中央に「☆」マークを配置し,
情報が入っている時間帯は枠線で区切って,黄色地の背景の中央に情報を配置して
いること,ユーザー表示と,グループ全体及びグループ構成員の情報を区別するボ
ーダーラインにつき,縦幅の狭い表組みの罫線によって30分刻みであることを分
かり易くする作図方法を採ったこと,以上のような特徴がある。
     これに対し,被告ソフトにおいては,アイオフィス3.0において,情報が
入っている時間帯の背景が黄色地から白地になったこと,30分刻みの表示がなく
なったことの違いがあるだけで,その他の点は原告ソフトと共通である。
   オ 「スケジュール」におけるスケジュール入力画面
     原告ソフトにおいては,日付と時間を横に同列配置していること,キー
ボード操作を排除するためにプルダウンメニューを多用していることが特徴である
が,これらの特徴は被告ソフトにおいても見て取ることができる。原告ソフトに付
加された点は,スケジュールの入力要素として重要ではないし,被告ソフトの表示
画面の特徴はそのまま生かされている。
   カ 「スケジュール」における設定メニュー画面
     原告ソフトにおいては,設定画面のトップページというべきメニュー画
面を1頁設けて階層構造とし,下層の各設定画面においては,「設定メニューに戻
る」というリンクを,画面ごとに同じ場所に表示していることが特徴的であり,項
目の選択は,「一般設定」「予定・場所メニューの設定」「祝日の設定」及び「ア
クセス権の設定」という構造になっている。
     これに対し,被告ソフトの当該画面は,「予定」と「場所」が分割され
ていること,「設定」に対応する用語として「マスタメンテナンス」が用いられて
いること(アイオフィス2.43),緑の枠で囲まれていること(アイオフィス3.0)な
ど,本質的でない部分に相違があるものの,原告ソフトにおけるそれと実質的に同
一である。
   キ 祝日の設定
     縦一列に祝日を並べ,その左横のチェックボックスで一括削除できるよ
うに配置したのが原告ソフトの特徴であるところ,被告ソフトもこの点は同一であ
る。被告ソフトにおいて,横に2年分表示されるようになっていること,削除以外
に「登録」と「編集」のボタンもあることなどの相違点は,いずれも,単なる改変
の域を出ないものである。
   ク 「行き先案内板」における行き先メニューの設定
     キーボード入力を可及的に排除するため,メニュー項目がリストボック
スで縦に表示され,「変更する」と「入力し直す」のボタンによって設定できるよ
うになっているのが原告ソフトの特徴であるところ,被告ソフトにおいても,緑の
枠が付加された点(アイオフィス3.0)を除き,全く同様の表現方法が採られてい
る。
   ケ 「行き先案内板」におけるメモ入力画面
     「登録時刻」「依頼主」「用件」「連絡先」「伝言内容」という各項目
を縦配列している点,プルダウンメニューに「連絡があったことをお伝え下さい」
「折り返しお電話下さい」「伝言をお願いします」などの標準テキストデータが入
っている点は,原告ソフトと被告ソフトで全く同一である。
   コ 「施設予約」における週間予約状況表示
     原告ソフトにおいては,会議室などの施設をひとまとめにした上,左肩
に「施設グループ」として,プルダウンメニューと「GO」ボタン群が配置されて
いる点が最大の特徴であり,加えて,他の情報表示画面と同様,縦軸に施設名,横
軸に1週間を配置し,虫眼鏡アイコンと「☆」マークという機能リンクをそれぞれ
の枠内に配置しているところ,被告ソフトにおいては,「表示施設グループ」とい
う名称で,枠内の同じ場所に同一機能を有するリンクを配置しており,創作性があ
る部分につき,完全に複製となっている。縦軸及び横軸のレイアウト,表示される
情報の位置及び内容,移動ボタンの位置及びレイアウトも,ほぼ同一といってよ
い。
   サ 「施設予約」における日の予約状況表示
     原告ソフトにおいては,情報の入力されていない欄が白地であるのに対
し,入力されている欄が色付けされていること,30分刻みのバーが表示されてい
ること,縦軸が施設名,横軸が時間軸となっていること,「今日」「▲」「▲▲」
からなるボタン群が右肩に表示されていることなど,前記エで述べたのと同様の諸
点が特徴であるところ,被告ソフトにおいても,アイオフィス3.0において30分刻
みのバーが黒塗りのバーとなっていること,無情報と有情報との色分け区別がない
こと以外は,上記特徴が共通して見られる。
   シ 「共有アドレス帳」におけるアドレス一覧画面
     原告ソフトにおいては,画面構成は大きく2つに分けられ,上段は検
索,下段は情報表示にあてられる。そして,上段においては,名前やふりがな等の
検索対象を選択できるようになっており,単純な50音順の検索も可能となってい
る。下段の情報表示部分は,縦軸が氏名等,横軸が情報項目として並べられ,氏名
はリンクになっていて,これをクリックすると直ちに情報編集画面に移動するよう
になっている。
     アイオフィス2.43においては,上段が検索,下段が情報表示となってお
り,上段検索部分は原告ソフトよりも多くの画面を割いているものの,結局のとこ
ろ,名前やふりがな等の検索対象を選択することによる検索と,50音順による単
純検索の画面が配置されているのであり,基本的な構成は原告ソフトと同一であ
る。また,下段の情報表示部分も,縦軸を氏名等とし,横軸を情報項目とした上,
氏名をリンクしている点で同一である。
     アイオフィス3.0においては,画面が複数レイアウトとなっている点が原
告ソフトと相違するが,結局のところ,中央部に情報表示画面を配置し,上下と左
に検索画面を配置し直したというだけで,基本的機能は原告ソフトと同一である。
むしろ,対象項目をチェックボックスで選択の上,テキスト検索できるようになっ
た点は,アイオフィス2.43よりも一層原告ソフトの複製に近いと評価することがで
きる。
   ス 「共有アドレス帳」における新規アドレスの入力画面
     原告ソフトにおいては,「名前」「ふりがな」という必須項目の次
に,「E-mail」という入力項目を配置したことが特徴的である。通常,アドレス帳
では,電話番号やファクス番号ないし住所が先に来るが,ウェブ・グループウェア
では,インターネット接続環境とシームレスに利用されることが多いため,電話と
いう従来型メディアの情報優先度を,電子メールよりも下位に置いた。また,住所
は,電話番号はもとより,会社名や所属部署・役職よりも下位のものととらえ,現
代的な情報流通を,電子メール,電話,ファクス,郵便の順に位置づけた上での項
目配置なのである。
     上記のような特徴は,被告ソフトにおいても,そのまま採用されてい
る。
   セ 「共有アドレス帳」における設定メニュー画面
     原告ソフトにおいては,他の設定画面におけるのと同様,アプリケーシ
ョン内においても,共通のメニュー画面を上位階層として配置している。被告ソフ
トにおいても,同様の配置が採用されている。
   ソ 共通設定メニュー
     原告ソフトにおいては,上位階層のメニュー画面の項目分類が,「共通
設定メニュー」「スタート画面設定メニュー」及び「登録キーの設定」と大きく3
分類されている。被告ソフトでは,これに対応するかのように,「マスタメンテナ
ンス」「スタート画面設定メニュー」及び「メンテナンスメニュー」と3分類され
ており,各分類内での小項目も,一見してわかるとおり,ほぼ共通である。また,
原告ソフトにおいては,ログイン方法がプルダウンメニューで設定できる点,削除
画面という非常に単純な機能画面にも一画面を割いている点などが大きな特徴であ
るところ,被告ソフトにおいても,これらの特徴は共通して見られる。
  (3) 画面の選択・配列の類似性
    原告ソフトは,個々の画面だけで完結して利用できるソフトではなく,同
じアプリケーション内でも複数の画面が密接に関連し,異なるアプリケーション間
でも相互に牽連性を有するグループウェアである。これを著作権の議論の枠組みに
あてはめて言い換えれば,各画面を素材として,サイトマップという設計思想に基
づいて選択・配列し,全体として創作的に表現されたものが原告ソフトであるとい
うことができる。したがって,原告ソフトと被告ソフトの類否を判断する場合に
は,個々の画面表示の類否を判断するだけでは足りず,各画面の集合体としての全
画面につき,表現の本質的特徴が感得できる程度の同一性があるかどうかの判断が
不可欠である。
    ところで,グループウェアにとって最低限必要な画面表示は,アプリケー
ション相互間移動のための画面,スケジュール,アドレス等の入力・表示画面及び
各種設定画面であり,これらの画面がサイトマップによってあらかじめ定められた
順序に基づき切り替わることになる。原告ソフトにおいては,①アプリケーション
相互間移動のための画面を「トップページ」として一画面を用意し,②スケジュー
ル,アドレス等の入力・表示画面についても,入力及び表示それぞれにつき一画面
を用意して区別し,③各種設定画面も単独のアプリケーションと位置づけた上,設
定機能ごとに一画面を用意している。そして,④これらの画面が,常にトップペー
ジを頂点として各アプリケーション間を結び,各アプリケーション間では一画面ご
とに同列の浅い階層構造で切り替わるように選択・配列されている。このような選
択・配列(階層化構造)が,原告ソフトの本質的特徴部分である。
    被告ソフトは,上記①~④の特徴をすべて備えており,原告の創作的表現
と全く同様に各画面が選択・配列されている。被告は,原告ソフトに存在しないア
プリケーションを有しているとか,原告ソフトにない画面の切り替わり機能を有し
ているとか,縷々述べているが,それらはあくまで付加的機能にすぎず,表現の本
質的部分は,上記のとおり同一なのである。
  (4) 被告ソフトによる原告著作権の侵害
    以上のとおり,被告ソフトの表示画面及びその選択・配列は,原告ソフト
と表現の本質的特徴を共通にするものであり,被告ソフトは原告ソフトに類似す
る。
    前記のとおり,被告が,上記アイオフィスシリーズの最初の商品であるア
イオフィス1.0を製作・販売するに際し,先行商品であるサイボウズオフィス2.0の
機能及び画面表示等を参照したことに照らせば,最初に被告が製作・販売したアイ
オフィス1.0は,原告ソフトの無断複製品というべきであり,その後バージョンアッ
プを繰り返していても,色使いを変えたり,項目を付加したりしているだけで,画
面のレイアウトや基本的表示項目の選択・配列は同一であるから,基本的なデッド
コピー性はアイオフィス1.0から受け継がれている。したがって,結局,アイオフィ
ス2.43及びアイオフィス3.0(すなわち被告ソフト)も,原告ソフトの無断複製品と
いうことができる。仮にアイオフィス3.0が原告ソフトと実質的同一性を有しないと
しても,アイオフィス3.0は,結局のところ,バージョン1.0の改変物であるアイオ
フィス2.43を更に改変したものにすぎないから,原告ソフトを無断で翻案したもの
というべきである。
    上記のとおり,被告が被告ソフトを販売(使用許諾)などする行為は,原
告ソフトに関する原告の著作権を侵害する行為である。
  (5) 被告の反論に対する再反論
   ア なお,被告は,原告が指摘する上記各表示画面の類似点につき,その多
くは機能的工夫であるから類似しても不自然ではない旨を主張する(後記(被告の
主張)欄(2)参照)。
     しかしながら,原告は,特定の機能的工夫が類似していることを問題に
しているのではない。原告ソフトにおいては,機能的工夫が素材の選択や配列の点
で創作的に表現されているところ,その表現されたものの類似性を問題にしている
のである。
     例えば,被告は,トップページにおいて,通常アプリケーションとはい
えない設定メニューをアイコンとして並列配置した点につき,ユーザーの利便性向
上の見地から至極当然の機能的特徴であり,この点をもって,原告固有の創作的表
現とはいえない旨を主張するが(前同欄(2)ア参照),原告は,設定メニューを工具
のアイコンとして並列配置したという,素材(アイコン)の選択と配列(並列配
置)を問題にしているのである。他社ソフトのように,その素材の選択や配列が異
なっていれば,これをもって類似とはいわない(乙8の39~40参照)。その一
方で,被告ソフトの当該画面(甲15の1)は,原告画面と同様の工具のアイコン
という素材を選択し,これに「設定」という名称を付した上で,他のアイコンと並
列配置している。したがって,機能が類似しているのではなく,まさしく,具体的
な表現が類似しているのである。
   イ また,被告は,被告ソフトには原告ソフトにない機能が多数用意されて
おり,それらへのリンクは原告ソフトに存在しないし,原告ソフトと類似する部分
においても,原告ソフトが備えるリンクとは別のリンクが存在するから,両ソフト
の階層構造は異なると主張する。
     しかしながら,原告ソフトの画面と被告ソフトの画面が類似している部
分については,被告ソフトは原告ソフトと同様のリンク構造を選択することもでき
るのであり,原告ソフトと同様のリンクをたどった場合には,原告ソフト全体にお
ける各画面の選択・配列の本質的な特徴が,被告ソフトの全画面の選択・配列にお
いて感得できるから,別のリンク構造を有することをもって,全体として非類似と
いうことはできない。被告は,リンクの一部を取り上げて比較するのは適切でない
旨主張するが,原告は被告のフリーライド行為を問題にしているのであり,原告ソ
フトのユーザーが,原告ソフトと同様のリンク構造を有するものとして被告ソフト
を使用することが可能であり,しかもその場合,被告ソフトからは,原告ソフトと
同一又は類似の画面が,同じような牽連性をもってユーザーの眼前に表れるのであ
るから,共通するリンク部分を比較することは何らおかしくないというべきであ
る。
   ウ 繰り返しになるが,原告は,この機能が特徴的であるとか,この機能に
創作性があるなどと主張しているのではない。あるアイコン群を素材として選択
し,これを一定の法則に従って配列したことや,これらのアイコンをクリックした
ことで表れる次画面との牽連性やその次画面の類似性を問題にしているのである。
     例えば,日付欄にリンク表示が存在することや,これをクリックするこ
とでスケジュール登録画面に移ること自体は,当然の操作方法であるといえるかも
知れない。しかしながら,個々の素材の選択や配列において,具体的な画面表示が
ここまで原告ソフト画面に類似するソフトは,被告ソフトのほかに存在しない(甲
18の4の①及び②参照)。そして,そのリンク表示をクリックした場合,元の画
面に牽連して,ここまで類似する画面が表れてくるソフトは,被告ソフトのほかに
存在しない。浅いリンク構造(階層構造)についても同様である。浅いリンク構造
を設けること自体は常識的であるかも知れないが,その浅いリンク構造に存在する
個々の画面及びその牽連性がここまで類似するソフトは,被告ソフトしか存在しな
い。
     上述したところに照らし,抽象的な機能そのものや構造そのもののみを
個々に分断して論じる被告の反論は,それ自体失当といわざるを得ない。
  (6) 被告の模倣行為の悪質性
    上記で触れたとおり,原告は,被告による被告ソフトの製作・販売は原告
ソフトにフリーライドする行為であると考えているので,被告の行為の悪質性を明
らかにするため,下記の各項目を事情として主張しておく。
   ア 原告ソフトは,前記のとおりブラウザを利用するため,その中核部分は
HTML言語でソースを書かざるを得ず,いわゆるコンパイラ言語によるプログラ
ムと異なり,リバースエンジニアリングすることなしに,誰でも,ブラウザの標準
メニューからHTMLソースのすべてを閲覧することができる。このため,その改
変利用は容易であり,現に,被告ソフトの画面表示をつかさどるHTMLは,その
一部が原告ソフトをカットアンドペーストして作成されたものである。その痕跡
が,双方のプログラムの一部の不自然かつ完全な一致という形で残されている(甲
44,46参照)。
   イ アイオフィスシリーズで使われているアイコンの一部は,それ自体は小
さくありふれたものであるが,MD5関数や作成日付による比較を行ってみると,
バージョン1.0から現バージョンに至るまで,原告が作成したアイコンのデッドコピ
ーである(甲48,51)。ソフトウェアの製作会社が,自社のソフトウェアのア
イコンについて,他社のファイルをそのままコピーして流用するなどということは
前代未聞である。また,原告ソフトと被告ソフトにおいて扱われるデータ収録形式
は,その大部分が同一であり,データ引数名や引数配列も多くが一致している(甲
44,46)。引数名や引数配列は,プログラマーが全く自由に決めるものである
から,その多くが類似することは天文学的数値の確率による偶然でしかあり得ず,
経験則上,デッドコピーしたとしか考えられない。さらに,アイオフィス
1.0の「Readme」を,サイボウズオフィスの当初バージョンのそれと比較してみる
と,言い回しや表現順序が酷似しているばかりか,例示文までもが同一である(甲
32)。
   ウ 被告は,サイボウズオフィス1.0の発売後の平成10年9月22日,ユー
ザーを装って,サイボウズオフィスのカスタマイズの可能性,言語の種類,動作環
境をメールで問い合わせてきた(甲33)。そして,原告が回答した情報に基づ
き,サイボウズオフィスのプログラムをカットアンドペーストしてアイオフィス
1.0を作成し,平成11年1月28日から販売等を開始した。
     原告は,アイオフィス1.0の発売開始直後である平成11年2月1日に,
被告に対し,アイオフィス1.0の製造・販売等はサイボウズオフィスの複製権の侵害
である旨メールで警告し,若干のやり取りを経て,同年2月6日,被告は,サイボ
ウズオフィスのコピー製品をホームページから削除する旨メールで回答した。
     しかるに,被告は,上記バージョン1.0の削除からわずか2週間後に,単
に上記「Readme」を修正したり,語法を変えたりしただけのアイオフィス2.0を,
新たに作成したソフトウェアであると称し,その販売等を開始した(そもそも,2
週間で,この規模の全く新しいソフトウェアを製作することは不可能である。)。
   エ また,被告は,「ioffice2000」なる商標を商標登録したところ,訴外マ
イクロソフトコーポレーションから,同社の登録商標である「Office2000」を侵害
するものであるとして登録異議申立てがされ,特許庁は,被告の不正使用目的を認
定して,上記「ioffice2000」の商標登録を取り消す旨の審決をした。
     被告はこれを不服として,審決取消訴訟を提起したが,東京高等裁判所
は,平成13年11月20日,被告は,マイクロソフトの商標であ
る「Office2000」の著名性にただ乗りする意図で,上記商標「ioffice2000」の商標
登録出願をし,オフィスソフトと密接に関連することが明らかなグループウェアに
これを使用したものと認めざるを得ない旨判示して,上記訴えを棄却する判決をし
た。
     以上のような経緯にも,被告のフリーライド体質が表れているというべ
である。
  (被告の主張)
  (1) 原告ソフトの著作物性に関する反論
   ア 原告は,①シンプルな画面表示,②キーボード入力の可及的排除,③直
感的な画面表示,④画面表示の機動性向上などが,原告ソフトの基本コンセプトで
あると主張する。原告ソフトがこれらの特徴を有すること自体は否定しないが,こ
れらの特徴が共通するからといって,それが著作権侵害を意味するものではない。
その中で表現が実質的に類似するものだけが著作権を侵害するのであるが,被告ソ
フトはそうではない。
     また,原告は,一機能一画面の原則やサイトマップを挙げて著作権侵害
を主張するが,1つの機能を1つの画面で表示することは典型的な使い勝手の問題
であり,その点が共通するからといって,著作権侵害といえるものではない。本件
における原告ソフトの構造は,トップページの各アイコンからその意味する機能の
画面にリンクして,そこから入力画面などへのリンクがあるという極めてシンプル
な構造を採っており,ほとんどそれしかあり得ない構造である。その限りでサイト
マップが共通するからといって,類似といわれる筋合いのものではない。
     さらに,原告は,各表示画面の集合体としての全画面に著作物性が成立
する旨主張する。それ自体を一般論として否定するものではないが,原告ソフトの
各表示画面の相互関係はあまりに特徴がなく,これで侵害品といえるものが存在す
る余地があるのか,疑問というべきである。
   イ 原告は,原告ソフトを開発して表示画面を作成するにあたっては,さま
ざまな工夫や配慮をしたと主張する。しかし,たとえそうであっても,著作権とし
て独占が認められるのは,その結果としての表現である。工夫自体を独占できる理
由はなく,表現としての表示画面及びその相互関係などが類似していて,初めて著
作権侵害となり得るのである。
     しかるところ,被告ソフトの表示画面やその相互関係は,原告ソフトの
それと類似していないから,著作権侵害にはなり得ない。なるほど,被告ソフト
に,先行商品である原告ソフトと機能的に共通するところがあるのは事実だが,そ
れは部分的なものであり,かつ,当たり前の機能が共通しているにすぎない。被告
ソフトには,独自の機能も多数追加されている。
   ウ 原告は,被告ソフトの表示画面を原告ソフトの表示画面と対比し,類似
であると主張するが,他のシステムの表示画面を参照すればわかるとおり(乙
8),原告が指摘する共通点は一般的なものであり,こうした点が共通するからと
いって,それで類似と認められるべきものではない。
     なお,原告が対比に用いている被告ソフトの画面(甲18,19参照)
は,いくつかの点でカスタマイズを施されたものが少なくない。原告は,いわば原
告ソフトの表示画面に似た状態にわざわざ変更しておいて,類似を主張しているの
であり,誤導的で不適切な主張・立証といわざるを得ない。
   エ 原告は,画面相互の牽連関係を表すものとして階層構造(リンク)が共
通することを強調する。
     しかし,もともと,個々の画面の比較とは別に,画面の相互関係に創作
性を見いだそうというのであるから,リンクの一部分を取り上げて比較するのは適
切ではなく,階層構造を対比するに当たっては,画面相互間にどのようなリンクが
用意されているのか,その全体像を把握して比較すべきである。
     被告ソフトは,原告ソフトにはない機能を多数有しており,それに伴っ
て,原告ソフトにないリンクが多数存在する。また,原告ソフトと共通する機能に
ついても,同様の機能の中で表示形式の異なる画面が多数用意されていることに伴
い,あるいは,同様の画面の間でも,原告ソフトには用意されていないリンクが用
意されていることに伴って,原告が共通すると指摘するリンク以外のリンクが多数
存在する。
     以上からすれば,階層構造の一部が共通することをもって,原告ソフト
と被告ソフトが類似するとはいえないはずである。
     また,共通する部分も,原告ソフトに特徴的な部分ではなく,類似の根
拠になるものではない。すなわち,まず,ログイン画面からトップページのアイコ
ンのクリックによる各機能画面への移行は,あらゆるグラフィカル・ユーザー・イ
ンターフェース(GUI)を使用したプログラムに共通といえるものである。ま
た,スケジュールの一覧画面から,日付欄の記号(「☆」等)をクリックすること
で,その日付のスケジュールを登録するための画面に移行することも,スケジュー
ルを登録する際には当然の操作方法であり,多くのソフトが同様のインターフェー
スを有している。さらに,原告は浅い階層構造を採ったことも特徴的であるかのよ
うに主張しているが,余計な階層を設けることは,クリックの手間を増やして効率
的な使用を妨げるばかりであるから,機能に対応しただけの深さにとどめるのは当
然のことである。これはHTMLページ作成一般に共通していえることであり,基
本的な解説書(乙20,21)にも当たり前の心得として記載されている。
  (2) 個々の表示画面に関する反論
   ア ソフトウェア全体のトップページ
     原告は,フレームによる画面表示を排除した点,大柄なグラフィックア
イコンを多数配置した点,画面を概ね3段に分割した点などを原告ソフトの特徴と
して主張するかのようであるが,これらの点は,そもそも,ユーザーの利便性向上
のための機能的な特徴にすぎない上に,数社の製品の画面に共通して見られる一般
的な特徴であるから,原告固有の創作的表現といえるものではない。
     また,ユーザーがクリックしやすい中央部分に大柄なアプリケーション
アイコンを配置することも,機能的特徴にすぎず,ユーザー名の入力をプルダウン
メニューで行うことは,グループウェア以外のソフトウェアにおいても行われてい
る技術的工夫である。
   イ 「スケジュール」におけるグループ週間表示
     利用セクションの限定されたグループウェアのようなシステムにおいて
は,利用セクションをその都度入力するのではなく,プルダウンメニューで選択で
きるようにすることは,便宜上採用された当然の工夫にすぎない。したがって,画
面左上に「グループ」をプルダウンメニューで切り替えるためのボタンを配置した
点は,創作的な表現といえるものではない。
     また,縦軸にグループ又は個人名を,横軸に日付曜日をそれぞれ配置し
た点,1画面に1週間全部の表示がなされるべくレイアウトされており,横スクロ
ールがないように工夫されている点,最上段とそれ以下の段を区分するべくレイア
ウトされている点などは,他社のグループウェア製品にも見られる,横書きのグル
ープウェア画面において当然に採用されるべき機能的特徴にすぎない。
     さらに,グループ名の欄の色を変えて目立たせることは,利便性の見地
からなされた当然の技術的工夫にすぎず,情報未入力の場合に,一見してわかりや
すい符号を左上に配することも,横書きの画面においては,左上から右上へ,上段
から下段に叙述がなされることに照らし,やはり当然の工夫にすぎない。入力情報
の詳細を表示する場合に,そのサマリーたる入力情報表示(例えば「Add」)自体に
リンクをかけること,左右に「▲」等の矢印による移動ボタンを配置した上,日の
移動ボタン群を右上にまとめて置くことなども,他社ソフトにおいて,ごく一般的
に行われている。
   ウ 「スケジュール」における個人月間表示
     カレンダーによる表示形式や,曜日・日付の文字表示を簡潔にし,空白
を多くしたりすることは,ごく平凡な表現方法にすぎない。また,新規入力のため
の機能リンクである「☆」表示を各日付の下に配置することについては,上記イ
で「Add」について述べたことが,中央に「今月」のテキストを置いた上,その両脇
に「▲▲」というボタンを置いて,月の移動ボタン群を構成していることについて
は,上記イで日の移動ボタン群について述べたことが,それぞれ妥当する。
   エ 「スケジュール」におけるグループの日表示
     情報のない時間帯につき,枠線で区切ることなく白地の背景の中央に
「☆」マークを配置すること,情報が入っている時間帯は,枠線で区切った上で黄
色地の背景の中央に情報を配置すること,ユーザー情報と,グループ全体及びグル
ープ構成員の情報を区別するボーダーラインにつき,罫線により30分刻みである
ことを分かり易くすることなど,原告が,原告ソフトの当該画面の特徴として指摘
する諸点は,いずれも,他社ソフトでも見られるありふれた表現形式であるか,あ
るいは,自然に原告ソフトのごときものに収斂する技術的工夫にすぎない。
   オ 「スケジュール」におけるスケジュール入力画面
     日付,時間,予定,場所という順で左上から左下へ項目を配置すること
は,横書き画面においてありふれたレイアウトであり,日付と時間を横に同列配置
することも,わざわざ2段に表示するような長い文字列ではないことに照らし,や
はりありふれたレイアウトにすぎない。この程度の画面表示は,他社製品の画面に
おいても採用されている。
     また,予定,場所入力欄をプルダウンメニュー化することも,上記イで
述べたとおり,この種ソフトウェアで一般的に用いられている工夫にすぎない。
   カ 「スケジュール」における設定メニュー画面
     グループウェアにおいては,予定表や祝日等の設定が頻繁に行われるこ
とから,設定画面をひとまとめにした画面の存在が便宜である。
     そうすると,設定画面のトップページというべきメニュー画面を1ペー
ジ設けた階層構造を採用していること,下層の設定画面においては,設定メニュー
に戻るリンクを,トップページリンクと同様に画面ごとに同じ場所に表示すること
など,原告が主張する諸点は,上記グループウェアの機能的特質から導かれる特徴
にすぎないというべきである。
   キ 祝日の設定
     原告は,縦一列に祝日を並べ,その左横にチェックボックスで一括削除
できるようにしたことが,原告ソフトの当該画面の創作的特徴であるかのように主
張するが,横書きの画面で項目を縦に並べるのは当然であるし,選択をチェックボ
ックス方式で行うのもありふれた表現形式である。
   ク 「行き先案内板」における行き先メニュー設定について
     横書きで情報が表示される以上,メニュー項目がリストボックスに縦に
表示されるのは自然なことであり,現に他社ソフトも同様のレイアウトを採用して
いる。
   ケ 「行き先案内板」におけるメモ入力画面
     上記オで述べたとおり,プルダウンメニュー化することは,この種のソ
フトウェアで一般的に用いられている工夫にすぎず,創作的特徴といえるものでは
ない。
   コ 「施設予約」におけるの週間予約状況表示
     施設を会議室や携帯電話等の施設グループごとに分け,それぞれのグル
ープごとに表示画面を設けることや,施設グループ名をプルダウンメニュー化して
選択させることは,利便性の見地からなされる一般的な工夫にすぎない。
     また,時間軸を基本的に横軸に採用している以上,縦軸に施設名を置
き,横軸に1週間を配置するレイアウトを採用することは必然であり,だからこそ
他社ソフトにおいても採用されている。
     入力画面へのリンクを表すマーク(「☆」マークないし「Add」マーク)
を枠内に配置することは,上記イで述べたとおり,一般的な技術的工夫であり,ま
た,虫眼鏡アイコンは,他社ソフトのみならず,グループウェア以外のソフトウェ
アでもごく一般的に用いられるアイコンである。
     以上によれば,原告主張の諸点が共通するからといって,原告ソフトの
著作権を侵害することはならない。
   サ 「施設予約」における日の予約状況表示
     上記エで指摘したのと同様の理由により,原告主張の諸点は,原告ソフ
トの創作性の根拠になるものではない。
   シ 「共有アドレス帳」におけるアドレス一覧画面
     原告は,原告ソフトと被告ソフトの共通点として,画面構成を大きく2
つに分けて,上段は検索,下段は情報表示を表すものとしていること,上段の検索
部分は名前や振り仮名等の検索対象を選択できるようにしていることを挙げるが,
これらは,他社ソフトにおいても見られる画面構成であり,特に目新しいものでは
ない。また,情報を表示する下段において,縦軸に氏名等を,横軸に情報項目をそ
れぞれ配置していることは,他のスケジュール表示画面等においても横軸に時間軸
を採用していることと整合性を図るための当然の帰結にすぎず,氏名をリンクとし
ていることは,ユーザーが当該個人の情報表示欄を簡便に閲覧するために採用され
ている機能にすぎない。
   ス 「共有アドレス帳」における新規アドレスの入力画面
     グループウェアにおいて,ユーザー間の連絡がE-mailで行われることが
一般化することを考えると,その情報が優先的に目に触れるべきことは当然である
から,「名前」「ふりがな」という必須項目の次に「E-mail」という入力項目を配
置することは,機能的な特徴にすぎない。ちなみに,入力項目を同様に配置するこ
とは,他社ソフトにおいても見られることである。
   セ 上記カで述べたのと同様の理由により,原告主張の諸点は,原告ソフト
の創作性の根拠になるものではない。
   ソ 共通設定メニュー
     原告は,原告ソフトと被告ソフトの類似点として,大分類項目により3
分類されていることを挙げるが,そもそも,被告ソフト画面に存在するメンテナン
スメニューは原告ソフト画面に存在せず,項目の選択自体が類似していない。のみ
ならず,システムの基本設定メニューを3分類するレイアウトは,他社ソフトでも
採用されており,原告ソフトの創作的特徴とはいえない。
  (3) 依拠の指摘に対して
    アイオフィス1.0の「Readme」(取扱説明文書)が,原告ソフトのそれと
類似していたこと,及び,画面に表示される操作について名称が共通している箇所
があったことは認めるが,その他の部分については,表示画面を含め,被告がまっ
たく独自に開発したものである。開発にあたって,原告ソフトを含む先行製品を参
考にはしたが,より良いソフトを作り出すための研究・分析の域を出るものではな
い。被告ソフトの表示画面は原告ソフトのそれと類似しておらず,複製ないし翻案
ではない。
    また,被告ソフトのHTMLソースプログラムの一部につき,単にスペー
スが複数個並んだだけの部分など,著作物性に関係のない範囲で,コピーが紛れ込
んでいたこと,及び,画面表示ファイルのごく一部につき,原告ソフトに由来する
ものが紛れ込んでいたのは事実である。しかし,これらは,原告ソフトを参考にす
る際に,誤って混入したものにすぎない。また,混入していた画面表示ソフトは,
例えば,1ドット×1ドットの白点にすぎない,画面表示を配置する際のスペース
として用いる「spacer.gif」や,砂模様や小さな矢印などであり,いずれも,簡単
すぎておよそ著作物とはいえないものである。
 2 争点(2)(不正競争行為の成否)について
  (原告の主張)
  ア 商品等表示
    原告ソフトはグループウェアであるから,少なくともグループ構成員が,
ソフトウェアを実行させてデータを入力したり,その結果を閲覧することを主目的
に作られていて,その実行結果がディスプレイ上に表示されている必要があり,ま
た,その画面表示の内容や配列及び牽連性が他の競合商品と差別化を図る上で大き
なウェイトを占める。そのような前提に立って,原告ソフトにおいては,主要な表
示画面が,それぞれ前項1(原告の主張)(2)ア~ソで摘示したとおりの特徴を備え
ているのであり,これらは,他社のグループウェア製品とは根本的に異なるもので
あった。よって,このような表示画面そのものが,原告の「商品等表示」(不正競
争防止法2条1項1号)に該当するということができる。
  イ 周知性
    原告ソフトは,ウェブ・グループウェア市場の開拓者として,ウェブ・グ
ループウェアといえば「サイボウズ」という評価を得ており,全国的な宣伝広告に
よって,ユーザーの間に広く認識されている。そのことは,サイボウズオフィス
2.0の解説書が複数の出版社から出版されていることからも明らかである。
    したがって,上記アの商品等表示は,「需要者の間で広く認識されてい
る」(前同号)に該当する。
  ウ 混同惹起行為
    前記1(原告の主張)(2)ア~ソで対比したとおり,被告ソフトが,原告ソ
フトと同一若しくは類似の商品等表示を使用していることにより,原告のもとに,
ユーザーから,明らかに両ソフトを混同したと見られるメールが多数送信されてい
る。したがって,少なくとも,被告ソフトは,原告から表示画面及び表示画面相互
の牽連性につき使用許諾を受けて製造・販売されているのではないかとの誤認混
同,あるいは,原告と被告が何らかの提携関係ないし資本関係を有しているのでは
ないかとの誤認混同が,需要者に生じていることが明らかであり,また,その蓋然
性が高いことも明らかである。
  エ 小括
    以上によれば,原告の周知商品等表示である原告ソフトの表示画面を流用
した模倣商品「アイオフィス2.43」及び「アイオフィス3.0」を製造・販売等する被
告の行為は,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するというべ
きである。
  (被告の主張)
   不正競争行為の成立要件に関する原告の上記主張,とりわけ,表示画面その
ものが商品形態であり,「商品等表示として需要者の間に広く認識されているも
の」であるとの点を否認する。原告ソフトの表示画面は,基本的にそのユーザーし
か目にする機会がなく,出所表示機能を持ち得ないから,「人の業務に係る氏名,
商号,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と定
義された「商品等表示」に該当するはずがない。
 3 争点(3)(民法上の一般不法行為〔民法709条〕の成否)について
  (原告の主張)
   仮に被告ソフトの製作・販売が原告ソフトの著作権の侵害ないし不正競争行
為に該当しないとしても,上述した各事情にかんがみれば,被告は,原告ソフトに
依拠した商品(被告ソフト)を故意に販売し,そのことによって,原告に損害を与
えているということができる。
   したがって,被告は,原告に対し,民法上の一般不法行為責任(同法709
条)を負う。
  (被告の主張)
   原告の上記主張を争う。被告ソフトは原告ソフトと実質的に類似しておら
ず,原告ソフトに関する著作権を侵害するものではないから,その販売等はまった
く適法である。民法上の一般不法行為責任が成立する余地はない。
 4 争点(4)(原告の損害)
  (原告の主張)
   原告の権利を侵害する被告の行為によって,原告が受けた損害は,金100
0万円と評価するのが相当である。
   また,原告は,上記経済的損害以外に,被告の行為に基づき原告ソフトと被
告ソフトが混同されることなどにより,営業上の信用を少なくとも間接的に侵害さ
れている。この営業上の信用を金銭給付により回復することはできないから,被告
の謝罪広告によって,広く謝罪の内容が告知される必要がある。
  (被告の主張)
   原告の上記主張は,これを争う。
第4 当裁判所の判断
 1 ビジネスソフトウェアにおける表示画面及びその組合せの著作物性等
   本件において,原告は,原告ソフトは,個々の表示画面がそれぞれ著作物で
あることに加えて,相互に牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全
体として一つの著作物であると,主張している。
  (1)ア 一般に,電子計算機に対する指令(コマンド)により画面(ディスプレ
イ)上に表現される影像についても,それが「思想又は感情を創作的に表現したも
の」(著作権法2条1項1号)である場合には,著作物として著作権法による保護
の対象となるものというべきである。すなわち,美術的要素や学術的要素を備える
場合には,美術の著作物(著作権法10条1項4号)や図形の著作物(同項6号)
に該当することがあり得るものであり,いわゆるコンピュータゲームにおいて画面
上に表示される影像などには美術の著作物に該当するものも少なくないが,この点
は,いわゆるビジネスソフトウェアについても同様に当てはまるものということが
できる。
    ソフトウェアにおける表示画面は,これを見る利用者に,画面全体を一体
のものとして認識されるものであるから,それが「思想又は感情を創作的に表現し
たもの」として著作物に該当するかどうかは,画面全体を基準として判断すべきも
のである(なお,本件において,原告は,原告ソフトの表示画面の特徴につき,画
面の一覧性や直感的な画面表示というコンセプトに基づき,利用者が閲覧し(情報
表示画面),あるいは入力すべき情報(入力画面)を,重要度・頻度に応じて画面
上に配列した点にあると主張しているものであり,原告も,各表示画面について,
画面全体が一定の思想に基づいて構成され,表現されている旨を主張しているもの
と解される。)。
  イ 著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させ
るに足りるものを再製することであるから,ある物が既存の著作物の複製に当たる
といえるためには,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得するこ
とができる程度に再現されていることを要する。したがって,既存の美術の著作物
に依拠して作成された物があるとしても,その物が,思想,アイデアなど表現それ
自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を
有するにすぎない場合には,複製に当たらない。
また,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本
質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正を加えて,新たに思想又は感
情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴
を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう。したがって,既存
の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない
部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにす
ぎない場合には,翻案に当たらない。
  ウ 本件において,仮に原告ソフトの表示画面に画面全体として何らかの著作
物性が肯定される場合には,これに依拠して作成された他社等のソフトウェア(以
下「他社ソフト」という。)の表示画面がその複製ないし翻案に当たるかどうかを
判断するに当たっては,原告ソフトの各表示画面における画面全体としての創作的
特徴が他社ソフトの対応する表示画面においても共通して存在し,他社ソフトの表
示画面から原告ソフトの表示画面の創作的な特徴が直接感得できるかどうかを判断
すべきものである。そして,この場合,原告ソフトの表示画面の特徴的構成の一部
分が他社ソフトの表示画面においても共通して見られる場合であっても,①共通す
る当該一部分のみでは画面全体としての創作的特徴を基礎付けるには足りないとき
や,あるいは,②他社ソフトの表示画面に原告ソフトにない構成部分が新たに付加
されていることにより,表示画面の全体的構成を異にすることとなり,これを見る
者が表示画面全体から受ける印象を異にすることとなったときは,他社ソフトの表
示画面から原告ソフトの表示画面全体としての創作的特徴を直接感得することがで
きないから,他社ソフトの表示画面をもって原告ソフトの表示画面の複製ないし翻
案ということはできない。
(2)ア 一般にビジネスソフトウェアにおいては,ディスプレイ上に表れる表示
画面は,常に一定ではなく,利用者がクリックやキー操作を通じてコンピュータに
対する指令を入力することにより,異なる表示画面に転換する。このような一定の
画面から他の画面への転換が,特定の思想に基づいて秩序付けられている場合にお
いて,当該表示画面の選択と配列,すなわち牽連関係の対象となる表示画面の選択
と当該表示画面相互間における牽連関係に創作性が存在する場合には,そのような
表示画面の選択と組合せ(配列)自体も,著作物として著作権法による保護の対象
となり得るものと解される。
    この場合,個々の表示画面自体に著作物性が認められるかどうかにかかわ
らず,表示画面の選択又は組合せ(配列)に創作性が認められれば,著作物性を認
めることができるというべきである。そして,編集物における素材の選択・配列の
創作性が著作者により1個のまとまりのある編集物として表現されている集合体を
対象として判断されることに照らせば(著作権法12条1項),このような表示画
面の選択と相互間の組合せ(配列)は,牽連関係にある表示画面全部を基準とし
て,選択・配列の創作性の有無を検討すべきものである。
  イ 本件において,原告ソフトは,「グループウェア」と呼ばれるソフトウェ
アであって,複数のアプリケーションの機能を備えたものである。この点からすれ
ば,原告ソフトにおける表示画面の選択とその相互の牽連関係(組合せ)に創作性
が認められるかどうかは,原告ソフトウェア全体を構成する表示画面全部,又は一
定の機能を有する特定のアプリケーションを構成する表示画面全部を基準として判
断されるべきものである。
    そして,仮に原告ソフトの表示画面の選択又は組合せに創作性が認められ
る場合において,他社ソフトにおける表示画面の選択及び組合せが原告ソフトの複
製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフト全体又はその
うちの特定のアプリケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及
びその相互間の牽連関係(組合せ)の創作的特徴が,他社ソフト全体又はそのうち
の対応する特定のアプリケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選
択及びその相互間の牽連関係(組合せ)においても共通して存在し,他社ソフトの
表示画面の選択及び組合せから原告ソフトの表示画面の選択・組合せの創作的特徴
が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。
    この場合,原告ソフトの一部の表示画面が他社ソフトに存在しないときに
は,当該表示画面の欠如が原告ソフトにおける表示画面の選択・組合せの創作的特
徴に影響しない特段の事情のない限り,他社ソフトを原告ソフトの複製ないし翻案
ということはできない。また,他社ソフトにおいて,原告ソフトにない表示画面
や,原告ソフトにない牽連関係が新たに付加されているときには,これらの付加が
付随的なものであって,原告ソフトと他社ソフトの表示画面の選択・組合せの創作
的特徴の共通性に影響しない特段の事情のない限り,他社ソフトを原告ソフトの複
製ないし翻案ということはできない。
 2 争点(1)(著作権侵害の有無)に対する判断
  (1) 概説
   前記1において述べたところを前提に,検討する。
   ア 前述のとおり,原告ソフトは,会社や部署などのグループによる作業を
効率化するために,ユーザー間のコミュニケーションや情報の共有を行えるように
する「グループウェア」と呼ばれるビジネスソフトウェアであって,「スケジュー
ル」「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」「プロジェクト
管理」「電子会議室」等の複数のアプリケーションの機能を備えたものである。
     一般に,ビジネスソフトウェアは,表計算や文書作成など特定の計算処
理や事務的作業を行うことを目的とするものであって,その表示画面も,コンピュ
ータへの指令や数字・文字等の情報を入力するためか,あるいは計算の結果や作成
された文書等を利用者が閲覧するためのものである。このような表示画面は,作業
の機能的遂行や利用者による操作や閲覧の容易性等の観点からその構成が決定され
るものであって,当該ビジネスソフトウェアに要求される機能や利用者の利便性の
観点からの制約があり,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は限定的
なものとならざるを得ない。また,本件の原告ソフトにおける「スケジュール」
「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」等のアプリケーショ
ンについては,コンピュータの利用が行われるようになる前から,企業や学校等に
おいては,黒板やホワイトボード等を用いた予定表,掲示板や帳簿等を用いた施設
予約簿などが存在しており,また,システム手帳等も存在していたから,過去に利
用されていたこのような掲示板,帳簿等の書式の慣行を引き継ぐ必要から来る制約
というものも存在する。
     このような点を考慮すると,原告ソフトの表示画面については,各表示
画面における書式の項目の選択やその並べ方などの点において,作成者の知的活動
が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえ
ないが,上述のような多様な制約が存在することから,作成者の思想・感情を創作
的に表現する範囲は限定されており,創作的要素が認められるとしても画面におけ
る部分的な範囲に存在するにとどまるものというべきである。
     そうすると,仮に,他社ソフトの表示画面に,原告ソフトの表示画面に
おいて認められる創作的要素のうちの一部が共通して認められるとしても,原告ソ
フトにおける他の創作的要素が他社ソフトの表示画面に存在しない場合や,原告ソ
フトに存在しない新たな要素が他社ソフトの表示画面に存在するような場合には,
表示画面全体としては,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的
表現を直接感得することができないという事態も,十分に考えられるところであ
る。
     これを要するに,原告ソフトの表示画面については,仮にこれを著作物
と解することができるとしても,その創作的表現を直接感得することができるよう
な他者の表示画面は,原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通
に有し,新たな要素も付加されていないようなものに限られる。すなわち,仮に原
告ソフトの表示画面を著作物と解することができるとしても,その複製ないし翻案
として著作権侵害を認め得る他者の表示画面は,いわゆるデッドコピーないしそれ
に準ずるようなものに限られるというべきである。
   イ また,原告は,原告ソフトにおける個々の表示画面のみならず,相互に
牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であ
ると,主張している。
     上述のように,ビジネスソフトウェアにおいては,ディスプレイ上に表
れる表示画面は,常に一定ではなく,利用者の操作により異なる表示画面に転換す
るものであるところ,このような一定の画面から他の画面への転換に関して,表示
画面の選択と表示画面相互間における牽連関係に創作性が存在する場合には,その
ような表示画面の選択と組合せ(配列)自体も,著作物として著作権法による保護
の対象となり得るものと解される。
     原告ソフトにおける画面の選択と組合せ(配列)については,作成者の
知的活動が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がない
とはいえないが,この場合においても,創作性の有無については,当該ビジネスソ
フトウェアに要求される機能や利用者の利便性の観点からの制約や,既存の同種ソ
フトウェアにおけるものとの比較等の観点から判断されなければならないものであ
って,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており,創作的要素
が認められるとしても部分的な範囲に限定されるものというべきである。
     したがって,仮に原告ソフトの表示画面の選択及び組合せに創作性が認
められるとしても,上述のとおり,その創作的表現を直接感得することができるよ
うな他社ソフトは,原告ソフトの表示画面とその組合せにつき実質的にその全部を
共通に有し,新たな表示画面や組合せが付加されていないようなものに限られる。
すなわち,仮に原告ソフトにおける互いに牽連関係にある表示画面の集合体を著作
物と解することができるとしても,その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得
る他者のソフトウェアは,いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに
限られるというべきである。
   ウ 既に,前記1において述べたとおり,原告ソフトの各表示画面及び相互
に牽連関係にある表示画面の集合体を著作物と認めることができるかどうかはさて
おき,仮にこれらの著作物性が肯定されるとしても,被告ソフトが原告ソフトにお
けるこれらの著作物の複製ないし翻案であるといえるためには,被告ソフトの各表
示画面及び相互に牽連関系にある表示画面の集合体に,原告ソフトにおける創作的
表現ないし創作的特徴と共通する表現が存在し,それによって,被告ソフトから原
告ソフトの創作的表現ないし創作的特徴を直接感得できることを要する。
   エ そこで,証拠(甲15の1~67,16の1,2,17の1,2,18
の1~29,19の1~29,23の1~8,24の1~10,25の1~7,2
6の1~12,29の1~5,31,乙1~4,8)及び弁論の全趣旨に基づき,
原告ソフトと被告ソフトについて,個々の画面表示及び画面の選択・配列を対比し
て,両者の間の共通点を抽出し,これらの共通点が創作的要素を有するものであっ
て,原告ソフトにおける創作的表現ないし創作的特徴を感得させるものかどうか
を,以下,検討する。
  (2) 表示画面の対比
   ア ソフトウェア全体のトップページ
     原告ソフト及び被告ソフトのソフトウェア全体のトップページ(甲18
の1,19の1,乙2,3)においては,画面を概ね上段・中段・下段と3分割し
た上,①上段にソフトウェアの名称(「サイボウズオフィス」「アイオフィス」)
のロゴマーク,及び,「Office」等のゴシック体文字及びプルダウンメニュー方式
によるログインボタンを,②中段に設定アイコンを含む大柄な各アプリケーション
アイコンを,③下段にソフトウェア情報(原告・被告の商号,バージョン情報,コ
ピーライトの表示)をそれぞれ配置した点が共通する。ログイン後における各トッ
プページの内容は,別紙1のとおりである(なお,別紙1は,カスタマイズ前の状
態であり,カスタマイズによって画面上の一部のアイコンを削除した後の状態であ
る甲18の1,19の1とは,異なる。)。
     しかし,上記のうち,画面を3分割したという点は,視覚的に必ずしも
明瞭に認識できるものではない上,画面上の大まかな割振り・配置の域を出ないも
のであって,それ自体が創作的な表現といえるものではない。また,上段にロゴや
ログインボタンを,中段にアプリケーションアイコンを,下段にソフトウェア情報
を配置することも,特に創作性が認められるような表現方法ではない。したがっ
て,これらの点が共通するからといって,表現の創作的特徴が共通して感じられる
ということはできない。
     以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面
の複製ないし翻案ということはできない。
   イ 「スケジュール」におけるグループ週間表示
     原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションのグル
ープ週間表示画面(甲18の2,19の2,乙2,3)においては,最も目にとま
りやすい画面左上にプルダウンメニューでグループを切り替えるボタンを配置して
いる点,情報の優先度に従って,縦軸には,ユーザー自身の情報を最上部に,次い
でグループ全体の情報,その下にグループに所属する個人の情報をそれぞれ表示し
た上,一覧性を高めるために,ユーザー情報とグループ全体及びグループ構成員の
情報との間にボーダーラインを入れている点,グループ全体の情報については,そ
のグループ名表示欄の色を変えている点,また,グループ週間表示画面における情
報表示そのものが,入力画面への移動ボタンを兼ねている点(記号「☆」又は文
字「Add」),画面右上部には,「今日」と表示されたボタンを配置し,その両脇に
翌日・前日への移動機能を表す「▲」,翌週・前週への移動機能を表す「▲▲」と
いう一連のボタンを並べ,日の移動の機能を持つボタン群を配置している点などが
共通する。各表示画面の内容は,別紙2のとおりである。
上記によれば,原告ソフトの画面と被告ソフトの画面との間には,いく
つかの共通点が存在するということはできるが,そもそもプルダウンメニュー自体
は,従来から既にウィンドウズ等のOSや各種のビジネスソフトウェアの表示画面
において多用されているものである。ユーザー,グループ,グループ構成員の予定
を週間カレンダー上に並べて表示したという点にしても,このうち,グループとグ
ループ構成員の予定を別欄として並べて表示した点は,グループ全体の行事と各構
成員の予定とを構成員全員に周知させる目的のスケジュール管理ソフトウェアとし
ては当然の構成であり,このような表の構成は,コンピュータ使用以前から黒板や
ホワイトボードを用いた表示板において行われていたものでもある。,ユーザー自
身の予定欄を冒頭に配置した点も,ユーザー各人による利用を前提としたソフトウ
ェアとしては,当然の構成である。また,「▲」「▲▲」のボタン表示は,テープ
レコーダー,CD再生機などの電気機器において,従来から「走行」や「巻き戻
し」「早送り」あるいは「次曲に移動」「前曲に移動」を意味するボタン表示とし
て用いられていたものであって,これをソフトウェアにおける表示画面の切替えに
用いている点も,格別目新しいものとはいえない。
     上記によれば,被告ソフトの表示画面には,原告ソフトと共通する部分
も少なくないが,それらは,スケジュール管理ソフトウェアとしての機能に由来す
るものであって,いずれもアイデアないし機能を実質的に同一にするとはいえて
も,その具体的な表現方法を対比したとき,表現上の創作的特徴を共通するという
ことはできない。
    また,被告ソフトにおいては,原告ソフトにないリンク機能を有するこ
とに伴い,画面の上下に配された薄赤色ボードの中に「個人・一日」「個人・週
間」「個人・月間」「グループ・一日」等のボタンが配置されたり(アイオフィス
2.43),これらがタブ画面を用いて配置されたり(同3.0)しており,各欄の色付け
の仕方も原告ソフトのそれとは異なっている。これらの相違点が存在する結果,表
示画面全体を見る者が受ける印象は,相当異なっている。
     以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面
の複製ないし翻案ということはできない。
   ウ 「スケジュール」における個人月間表示
     原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションの個人
月表示画面(甲18の3,19の4,乙2,3)においては,月間カレンダー形式
を用いた上,新規入力のための機能リンク表示(記号「☆」又は文字「Add」)を各
日付の下に配置したこと,中央に「今月」のテキスト文字ボタンを置き,その両脇
に翌月・前月への移動を表す「▲▲」というボタンを並べて,月の移動ボタン群を
配置したことなどの共通点がある。各表示画面の内容は,別紙3のとおりである。
しかしながら,上記のうちカレンダー形式を用いた点は,月間スケジュ
ールを表示する上でありふれた表現であり,また,他の点もソフトウェアの機能に
伴うありふれた表現であり,これらの点をもって表現上の創作的特徴を共通すると
いうことは到底できない。
     加えて,被告ソフトにおいては,画面の上下に配された薄赤色ボードの
中に「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」「グループ・一日」等のボタン
が配置されたり(アイオフィス2.43),これらがタブ画面を用いて配置されたり
(同3.0)するなどの相違点も存するもので,これらの相違点が存在する結果,表示
画面全体を見る者が受ける印象は,相当異なっている。
     以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面
の複製ないし翻案ということはできない。
   エ 「スケジュール」におけるグループの日表示
     原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションのグル
ープの日表示画面(甲18の4,19の4,乙2,3)においては,ユーザー自身
の情報を最上部に,次いでグループ全体の情報を,その下にグループに所属する個
人の情報をそれぞれ表示した上,ユーザー情報とグループ全体及びグループ構成員
の情報との間にボーダーラインを入れたこと,このボーダーラインについては,縦
幅の狭い表組みの罫線を用いて30分刻みであることを分かりやすくしたこと,情
報のない時間帯は枠線で区切ることなく,白地の背景の中央に「☆」又は「Add」の
表示を配置し,情報が入っている時間帯は枠線で区切って,黄色地の背景の中央に
情報を表示したことなどが共通する。
     しかしながら,ユーザー,グループ,グループ構成員の予定を並べて表
示した点や,30分刻みの罫線を設けた点は,スケジュール管理ソフトウェアとし
て当然の構成であり,殊に後者はシステム手帳等の書式において従来から行われて
いたことである。その他の点もソフトウェアの機能に伴うありふれた表現である。
これらの点をもって,原告ソフトと被告ソフトが,表現上の創作的特徴を共通する
ということはできない。
     加えて,被告ソフトにおいては,画面の上下に配された薄赤色ボードの
中に「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」「グループ・一日」等のボタン
が配置されたり(アイオフィス2.43),これらがタブ画面を用いて配置されたり
(同3.0)するなどの相違点も存するもので,これらの相違点が存在する結果,表示
画面全体を見る者が受ける印象は,相当異なっている。
     以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面
の複製ないし翻案ということはできない。
   オ 「スケジュール」におけるスケジュール入力画面
     原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションのスケ
ジュール入力画面(甲18の5,19の5,乙2,3)においては,日付と時間が
横に同列配置されていること,プルダウンメニューが多用されていることが共通す
るが,これらはスケジュール管理ソフトウェアの機能に伴う当然の表現や,コンピ
ュータソフトウェアとしてありふれたものであって,これらが共通するからといっ
て,表現の創作的特徴が共通するということはできない。
加えて,原告ソフト及び被告ソフトの表示画面を一見すれば明らかなと
おり,原告画面には「日付」「予定」「場所」「メモ」程度の入力項目しかなく,
画面構成上も余白部分が多いのに対し,被告画面においては,上記に加えて約10
個もの入力項目があって,画面一杯に各項目が表示されており,その外観は大きく
異なっているものであり,見る者が受ける印象は大きく異なる。
     以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面
の複製ないし翻案ということはできない。
   カ 「スケジュール」における設定メニュー画面
     原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションの設定
メニュー画面(甲18の6,19の6,乙2,3)においては,設定メニュー画面
である当該画面に1画面をあてていること,項目の選択が,概ね「一般設定」「予
定・場所メニューの設定」「祝日の設定」及び「アクセス権の設定」となっている
こと(ただし,原告ソフトにおける「設定」が,被告ソフトにおいては「マスタメ
ンテナンス」(アイオフィス2.43),「編集」(同3.0)と言い換えられているな
ど,一部の用語が言い換えられている。)が共通するが,これらはスケジュール管
理ソフトウェアの機能に伴う当然の表現や,コンピュータソフトウェアとしてあり
ふれたものであって,これらが共通するからといって,表現の創作的特徴が共通す
るということはできない。
     加えて,被告ソフトにおいては,薄赤色のボードを上下に配したり(ア
イオフィス2.43),あるいは,緑色の枠で項目を囲む(同3.0)などの相違点も存す
るもので,これらの相違点が存在する結果,表示画面全体を見る者が受ける印象
は,相当異なっている。
     以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面
の複製ないし翻案ということはできない。
   キ 祝日の設定画面
     原告ソフト及び被告ソフトの祝日の設定画面(甲18の7,19の7,
乙2,3)においては,縦一列に祝日を並べた上,その左横のチェックボックスで
削除できるようにした点が共通する。
     これらの各画面は,一見して非常に類似するように見えるが,そもそ
も,上記の共通点は,スケジュール表示に関連して祝日を登録ないし削除するとい
う当該画面の機能からすれば当然の構成である。したがって,これらの点が共通す
るからといって,表現の創作的特徴が共通するということはできない。
     したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の
複製ないし翻案ということはできない。
   ク 「行き先案内板」における行き先メニューの設定
     原告ソフト及び被告ソフトの「行き先案内板」アプリケーション(被告
ソフトにおける名称は「伝言・所在」。以下,同じ。)の行き先メニューの設定画
面(甲18の8の1,19の8の1,乙2,3)においては,メニュー項目がリス
トボックスで縦に表示されていること,「変更する」及び「入力し直す」を意味す
る2種類の機能ボタンによりメニューを設定するようになっていることが共通す
る。
     しかしながら,「在席」「出張」「打合」等のメニュー項目をリストボ
ックスに表示しておくこと,クリックによる設定を可能にするために上記2種類の
機能ボタンを配置することは,いずれも,この種ソフトにおける機能的要請から来
るものであり,特徴的な表現とはいえない。したがって,これらの点が共通するこ
とをもって,表現の創作的特徴が共通するということはできない。
     したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の
複製ないし翻案ということはできない。
   ケ 「行き先案内板」におけるメモ入力画面
     原告ソフト及び被告ソフトの「行き先案内板」アプリケーションのメモ
入力画面(甲18の8の2,19の8の2,乙2,3)においては,「登録時刻」
「依頼主」「用件」「連絡先」「伝言内容」という各項目を縦配列している点,プ
ルダウンメニューに,「連絡があったことをお伝え下さい」「折り返しお電話下さ
い」「伝言をお願いします」などの標準テキストデータが入っている点が共通す
る。
     しかしながら,上記の各項目及び標準テキストデータを表示している点
は,当該画面の機能に照らして当然に考えつく表現である上に,これら項目を縦配
列した点なども,ありふれた画面上の配置ないし構成であるから,これらが共通す
るからといって,表現の創作的特徴が共通して感じられるということはできない。
     したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の
複製ないし翻案ということはできない。
   コ 「施設予約」における週間予約状況表示
     原告ソフト及び被告ソフトの「施設予約」アプリケーション(被告ソフ
トにおける名称は「設備予約」。以下,同じ。)の週間予約状況画面(甲18の
9,19の9,乙2,3)においては,会議室等の施設をグループにまとめた上,
左肩にプルダウンメニューとして配置し,その右脇に「GO」ボタンを配置した
点,他の情報表示画面と同様,縦軸に施設名,横軸に1週間をとった上,それぞれ
の枠内に情報入力画面へのリンク機能を表すアイコン等を配置した点が共通する。
     しかしながら,どの会社にも共通して存在するような施設名をプルダウ
ンメニュー化することや,縦軸(施設名)と横軸(曜日)の交わる枠内に,情報入
力画面にリンクする機能ボタンを配置することは,使い勝手の見地から,ある程度
想定できる構成であるから,これらの点が共通するからといって,表現の創作的特
徴が共通するということはできない。
     したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の
複製ないし翻案ということはできない。
   サ 「施設予約」における日の予約状況表示
     原告ソフト及び被告ソフトの「施設予約」アプリケーションの日の予約
状況画面においては(甲18の10,19の10,乙2,3),縦軸に施設名,横
軸に時間軸をとっていること,30分刻みのバーが表示されていること,情報未入
力の欄が白地であるのに対し,入力済みの欄が色付けされていること,「今日」
「▲」「▲▲」からなるボタン群が右肩に表示されていることが共通する(ただ
し,アイオフィス3.0においては,30分刻みのバーが黒塗りとなり,無情報と有情
報との色分け区別がなくなっている。)。
     しかしながら,上記の点は,当該画面の機能に照らして当然に考え付く
表現か,ありふれた画面上の配置ないし構成であるから,これらが共通するからと
いって,表現の創作的特徴が共通して感じられるということはできない。
     加えて,被告ソフトにおいては,画面の上下に配された緑色ボードの中
に,「グループ・一日」「グループ・週間」等のボタンが配置されたり(アイオフ
ィス2.43),これらがタブ画面を用いて配置されたり(同3.0)しており,これらの
点が原告ソフトと相違する結果,表示画面全体を見る者が受ける印象は,相当異な
っている。
     以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面
の複製ないし翻案ということはできない。
   シ 「共有アドレス帳」におけるアドレス一覧画面
     原告ソフト及び被告ソフトの「共有アドレス帳」アプリケーション(被
告ソフトにおける名称は「共有アドレス」。以下,同じ。)のアドレス一覧画面
(甲18の16,19の16,乙2,3)においては,画面構成が大きく2つに分
けられ,上段は検索,下段は情報表示にあてられること,上段においては,名前や
ふりがな等の検索対象を選択できるようになっており,単純な50音順の検索も可
能であること,下段の情報表示部分は,縦軸に氏名等が,横軸に情報項目がとって
あり,氏名はリンクになっていて,これをクリックすると直ちに情報編集画面に移
動することなどが共通する。
     しかしながら,被告ソフトにおいては,50音文字盤が表示されて上段
の検索画面が大きな面積を占めているなど,表示部分の面積が原告ソフトよりかな
り大きい上に,アイオフィス3.0においては,画面が複数レイアウトになって,中央
部に情報表示画面が,上下と左に検索画面がそれぞれ配置されており,原告ソフト
の画面上の配置と異なっている。また,「アドレス登録」「グループ編集」(アイ
オフィス2.43),「表示グループ」「検索条件」(アイオフィス3.0)など,原告ソ
フトにない機能ボタンが配置されているばかりか,黄土色のボードが上下に配され
たり(アイオフィス2.43),全体に青色の背景色が付けられたり(同3.0)してい
る。これらの相違点の結果,原告ソフトと被告ソフトの表示画面は,視覚上の差異
が大きい。
     これらによれば,上記の共通点は画面の機能上の発想ないしアイデアを
同じくするにとどまるものであって,それにより表現の創作的特徴が共通すると認
めることはできない。
     したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の
複製ないし翻案ということはできない。
   ス 「共有アドレス帳」における新規アドレスの入力画面
     原告ソフト及び被告ソフトの「共有アドレス帳」アプリケーションの新
規アドレスの入力画面(甲18の17,19の17,乙2,3)においては,「名
前」「ふりがな」の必須入力項目の次に,入力項目として「E-mail」を配置したこ
と,それに続いて,概ね,電話,ファクス,会社名,役職,住所の順で入力項目を
配置したことが共通している。
     なるほど,「E-mail」を電話やファクスなどの通信手段に優位するもの
として上位に配置したのは,現代的なニーズに応えたアイデアであるが,それ自体
はあくまでアイデアにすぎず,現実に表現されたボックス形式の項目配列は,その
順序を含めて,表現において創作性の認められるものではない。しかも,被告ソフ
トにおいては,入力項目がさらに多数で複雑化している上に,個人登録や共有登録
とのリンクボタンが設けられていたり,グループの設定画面が存在するなど,原告
ソフトとは画面構成が相当に異なっている。
     これらによれば,上記の共通点は画面の機能上の発想ないしアイデアを
同じくするにとどまるものであって,それにより表現の創作的特徴が共通すると認
めることはできない。
     したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の
複製ないし翻案ということはできない。
   セ 「共有アドレス帳」における設定メニュー画面
     原告ソフト及び被告ソフトの「共有アドレス帳」アプリケーションの設
定メニュー画面(甲18の18,19の18,乙2,3)においては,「共有アド
レス帳設定メニュー」という文字表示の下,CSVファイルからのアドレスの読み
込み(インポート),同ファイルへのアドレスの書き出し(エクスポート)など,
概ね機能を同じくする4つのメニューが文字表示されている点,また,設定メニュ
ー画面である当該画面に1つの画面があてられている点が,共通する。
     しかし,上記の共通点は,ソフトウェアの機能上の共通点であって,表
現上の創作的特徴が共通するものではない。
     したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の
複製ないし翻案ということはできない。
   ソ 共通設定メニュー
     原告ソフトの共通設定メニュー画面においては,上位階層のメニュー画
面の項目分類が,「共通設定メニュー」「スタート画面設定メニュー」及び「登録
キーの設定」と大きく3分類されているのに対し,被告ソフトの当該画面において
は,これに対応するかのように,「マスタメンテナンス」「スタート画面設定メニ
ュー」及び「メンテナンスメニュー」と3分類されており,この点において両者は
共通する(甲18の19,19の19,乙2,3)。
     しかし,上記の共通点は,ソフトウェアの機能上の共通点であって,表
現上の創作的特徴が共通するものではない。
     したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の
複製ないし翻案ということはできない。
    以上のとおり,原告が共通ないし類似と主張する点について,原告ソフト
における表示画面と,それに対応する被告ソフトにおける表示画面とを対比して
も,両者の間で表現上の創作的特徴が共通すると認めることはできない。したがっ
て,被告ソフトにおける表示画面をもって原告ソフトにおける表示画面の複製ない
し翻案ということはできない。
  (3) 表示画面の選択・配列
   ア 表示画面の階層化構造を図式化したサイトマップ等の証拠(甲20~2
2,27,28,52,乙17,19,20,21)及び弁論の全趣旨に基づき,
原告ソフトと被告ソフトの表示画面の選択・配列を,対比する。
     これによれば,被告ソフトは,原告ソフトにないアプリケーションをも
備えているものであって,それらのアプリケーションが付け加えられている結果,
当該アプリケーションに属する表示画面との間での牽連関係をも含んでいる。すな
わち,アイオフィス2.43の場合を例にあげると,原告ソフトにないアプリケーショ
ンとして,「WebMail」「タイムカード」「ワークフロー」「回覧板」「文書管理」
「アクションリスト」「お弁当予約」が付加されている。これをソフトウェア全体
のトップページとの牽連関係で見ると,ソフトウェア全体のトップページからこれ
らのアプリケーションのトップページ画面へのリンク及びこれらの各アプリケーシ
ョンのトップページ画面からその下の階層に設けられている画面へのリンクは,い
ずれも原告ソフトには存在しないものである。
     また,原告ソフトと被告ソフトに共通して存在する個別のアプリケーシ
ョンに属する表示画面を比較した場合にも,被告ソフトは原告ソフトに存在しない
表示画面を少なからず含んでいる上,原告ソフトと共通する表示画面相互の間にお
いても,原告ソフトにはない牽連関係(リンク)が設けられている。すなわち,
「スケジュール」アプリケーションを例にあげると,原告ソフトでは「グループ週
間表示」画面が基本となっていて,ここから「スケジュールの入力画面」に移って
スケジュールを入力した後には,また「グループ週間表示」画面に戻らないと,他
の画面に移行することができない。つまり,「スケジュールの入力画面」から選択
できるリンク先としては,「グループ週間表示」画面に移行するほかは,ソフトウ
ェア全体のトップページの画面に戻るだけなのである。また,「スケジュール」以
外のアプリケーションの画面に移行するためには,いったんソフトウェア全体のト
ップページの画面に戻らなければならない。また,「グループ週間表示」画面以外
の,「個人の日表示」画面や「個人の月間表示」画面については,その相互間での
リンクは設けられておらず,「グループ週間表示」画面にいったん戻らなければな
らない。これに対して,被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションにおいて
は,「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」「グループ・一日」「グルー
プ・週間」という5種類の表示画面が設けられているところ,それらの表示画面
は,すべて相互に直接リンクされている。また,「グループ・週間」からスケジュ
ール登録をした場合に,そこから「グループ・週間」画面に戻るほか,当該スケジ
ュール登録を他のメンバーにメールで知らせたり,伝言機能で知らせるための画面
に直接移ることもできる。
     このように,被告ソフトにおいては,原告ソフトにないアプリケーショ
ンを備えていることから,それらのアプリケーションに属する表示画面が付加され
ており,これら付加された表示画面との牽連関係(リンク)も付加されている。ま
た,個別のアプリケーションについても,原告ソフトにはない表示画面相互間にお
ける牽連関係(リンク)が設けられているなどの相違が存在する。これらの点に照
らせば,被告ソフトにおける表示画面の選択・配列は,ソフトウェア全体において
も,個別のアプリケーションにおいても,原告ソフトにおける表示画面の選択・配
列とは,異なるものというべきであって,この点において既に,被告ソフトの表示
画面の選択・配列が原告ソフトのそれの複製ないし翻案であるという原告の主張
は,理由がない。
   イ さらに加えて,以下に述べるとおり,原告ソフトのソフトウェア全体又
は個別のアプリケーションにおいて原告が著作物性あるものと主張する表示画面の
選択・配列については,いずれも著作物性を認めることができないので,いずれに
しても,被告ソフトの表示画面の選択・配列が原告ソフトのそれの複製ないし翻案
であるという原告の主張は,理由がない。
    (ア) 前記のとおり,被告ソフトにおいては,原告ソフトにないアプリケ
ーションが備えられているものであるが,原告ソフトと被告ソフトにおいて共通す
るアプリケーション,すなわち,①スケジュール,②行き先案内板,③掲示板,④
施設予約,⑤共有アドレス帳,⑥ToDoリストの各アプリケーション及び⑦共通設定
メニュー(ただし,被告ソフトにおいては異なる名称が付されているアプリケーシ
ョンもある。)の範囲において見ると,ソフトウェア全体のトップページから直接
リンクする1段階下の階層にこれらのアプリケーション等のトップページが設けら
れ,それぞれのアプリケーションの機能に応じて,①~⑦のトップページから更に
下の階層の画面にリンクする点が共通する。
      しかしながら,原告ソフトと被告ソフトがいずれもいわゆるグループ
ウェアに属するビジネスソフトウェアである以上,これらのアプリケーション等を
備えている点は当然のことであり,ソフトウェア全体のトップページからこれらの
アプリケーション等のトップページにリンクすることも当然であって,別段特徴的
なことではない。したがって,上記の点が共通するからといって,ソフトウェアと
しての機能の類似性を認めることはできても,表示画面の選択ないし配列の創作的
特徴が共通するということは到底できない。
      この点につき,原告は,一覧性や直感性に優れた画面表示の追求,キ
ーボード操作の可及的排除等の基本コンセプトを実現するため,原告ソフトにおい
ては,一画面一機能を原則とし,アプリケーションごとの移動を唯一つかさどるト
ップページを頂点に,各アプリケーションにおいては,各画面が情報の表示,情報
の入力及び設定という各機能のいずれかに分類されることを原則とし,最上位に位
置する全体のトップページからせいぜい2階層程度までの深さを前提として,各画
面が機能的に選択・配置されているもので,この点に創作性が存在する旨を主張す
る。しかしながら,上記のコンセプトを実現するため,一画面一機能を原則とし,
トップページを頂点にした2階層程度までの浅い階層構造を設けること自体はアイ
デアにすぎず,画面の階層化を2層程度の浅いものとした点についても,操作の簡
便性・迅速性の観点で浅い階層構造がすぐれていることは,ウィンドウズOS等の
下におけるファイル構築上の常識であり,各種ソフトウェアにおいて多用されてい
ることであって,その点を採り上げて創作性ある配列ということはできない。
    (イ) 原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションに
おいては,トップページであるグループ週間表示画面から直接リンクする一段階下
の階層に①個人月間表示,②グループの日表示,③個人の日表示,④スケジュール
の確認,⑤スケジュールの入力画面及び⑥設定メニューの各画面が設けられ,⑥の
設定画面からリンクする更に一段階下の階層に,⑦一般設定,⑧予約の設定及び⑨
祝日の設定の各画面が設けられていて,アプリケーションのトップページから数え
て3段階目の階層までに各画面が配置されていることが共通する。
      しかしながら,オフィスのメンバー全員でスケジュールを共有し,一
覧・入力することができることを目的とするアプリケーションであれば,グループ
週間表示からリンクして上記①~⑥が設けられていて何ら不思議はないし,設定メ
ニューの画面から,クリックによって上記⑦~⑨の各画面へリンクするというの
も,よく見られる構成であって,特段珍しいものではない。
      したがって,上記のような階層構造が共通していても,表示画面の選
択・配列の創作的特徴が共通するということはできない。
    (ウ) 原告ソフト及び被告ソフトの「行き先案内板」アプリケーションに
おいては,トップページである行き先の一覧の画面からリンクする一段階下の階層
に,①メモの登録,②メモの参照,③行き先の入力画面及び④設定の各画面が配置
され,④の設定画面からリンクする更に一段階下の階層に⑤行き先メニューの設定
画面が配置されている点が,共通する。
      しかしながら,不在メンバーの所在を把握し,不在メンバーへの伝言
を登録することができることを目的とするアプリケーションであれば,上記①~④
が配列されているのは当然であるし,設定画面から,クリックによって上記⑤の画
面へリンクするというのも,当然あり得る選択・配列である。
      したがって,上記のような階層構造が共通していても,表示画面の選
択・配列の創作的特徴が共通するということはできない。
    (エ) 原告ソフト及び被告ソフトの「施設予約」のアプリケーションにお
いては,トップページである施設の週間予約状況の画面からリンクする一段階下の
階層に,①新規予約の入力画面,②既存予約の確認画面,③施設の日の予約状況及
び④設定の各画面が設けられ,④の画面からリンクする更に一段階下の階層に,⑤
一般設定,⑥祝日の設定,⑦施設の設定及び⑧施設グループの設定の各画面が配置
されている上,さらに,⑧の画面からリンクする更に一段階下の階層に,⑨施設の
追加,⑩施設情報の修正及び⑪施設グループの削除の各画面が配置され,⑨の画面
からリンクする更に一段階下の階層には,⑫施設グループの追加,⑬施設グループ
情報の修正及び⑭施設グループの削除の各画面が配置されている点が,共通する。
      しかしながら,上記の各画面は,会議室などの施設の利用に際して,
他のメンバーと重複しないように予約できることを目的とするアプリケーションで
あれば,当然に備えられている画面であるし,上記の各階層構造も,例えば,表示
すべき施設を設定したり,追加・削除したりする具体的作業の手順に照らし,当然
に考えられる画面の選択・配列ということができる。
      したがって,上記の共通点の存在によって,原告ソフト及び被告ソフ
トの表示画面の選択・配列の創作的特徴が共通するということはできない。
    (オ) 原告ソフト及び被告ソフトの「共有アドレス帳」アプリケーション
においては,トップページであるアドレス一覧の画面からリンクする一段階下の階
層に,①新規アドレスの入力,②検索,③アドレスの変更及び④設定の各画面が階
層化し,②から③へのリンクを設けた上で,③の画面からリンクするその一段階下
の階層に⑤アドレス削除の画面が,④の画面からリンクするその一段階下の階層に
⑥「CVSファイル形式からの読み込み」及び⑦「CVSファイル形式からの書き
出し」の各画面が配置されている点が共通する。
      しかしながら,メンバー全員で共有できるアドレス情報を作成するこ
とを目的とするアプリケーションであれば,トップページから,新規アドレスの入
力(上記①),アドレスの変更(同③)及び設定(同④)の機能をつかさどる各画
面にリンクすることは,当然に考えられる構成であり,上記の点が共通するからと
いって,原告ソフト及び被告ソフトの表示画面の選択・配列の創作的特徴が共通す
ると認めることはできない。
    (カ) 原告ソフト及び被告ソフトの「ToDoリスト」アプリケーションにお
いては,トップページである「ToDo一覧」画面からリンクする一段階下の階層に,
①「ToDo個別アイテム」,②「ToDo登録」の各画面が設けられている点が,共通す
る。
      しかしながら,やるべき仕事(「ToDo」)を備忘録的に記録し,表示
するアプリケーションである以上,上記のような各画面が,上記のようなリンクを
もって配列されていることに,創作性を認めることはできない。
      したがって,上記の点が共通するからといって,表示画面の選択・配
列の創作的特徴が共通すると認めることはできない。
    (キ) 原告ソフト及び被告ソフトにおいては,各アプリケーションを共通
して,グループを構成するメンバーやユーザーに関する情報を設定し,変更する共
通設定メニューにおいて,トップページからリンクする一段階下の階層に,①ログ
イン方法の変更,②会社情報の変更,③登録キーの設定,④スタートメニューの設
定,⑤設定パスワードの登録,⑥リンクの設定,⑦グループの設定,⑧ユーザの設
定の各画面が設けられ,⑥の画面からリンクするその一段階下の階層に,⑨追加す
る,⑩リンクの編集及び⑪リンクの削除の各画面が配置され,⑦の画面からリンク
するその一段階下の階層に,⑫グループの追加,⑬グループの編集,⑭グループの
削除及び⑮CVSでのグループインポートの各画面が,⑧の画面からリンクするそ
の一段階下の階層に,⑯読み込み,⑰追加する,⑱ユーザの削除及び⑲ユーザの編
集の各画面が,それぞれ配置されている点が共通する。
      しかしながら,各アプリケーションを共通して情報の設定・変更等を
行う共通設定メニューという機能に照らせば,トップページから上記①~⑧の画面
にリンクしていても当然であるし,⑥の画面から⑨~⑪の各画面に,⑦の画面から
⑫~⑮の各画面に,⑧の画面から⑯~⑲の各画面にそれぞれリンクすることも,⑥
~⑧の各画面に与えられた機能の性質上,当然のことと考えられる。
      したがって,上記の共通点があるからといって,表示画面の選択・配
列の創作的特徴が共通すると認めることはできない。
  (4) 小括
    以上のとおり,原告ソフトの表示画面については,個々の表示画面をもっ
て,創作性を有する思想・感情の表現として,著作物に該当すると認めることがで
きるかどうかは検討すべき点があるが,その点をひとまずおくとしても,原告ソフ
トの表示画面と被告ソフトの対応する表示画面との間で共通する点は,いずれもソ
フトウェアの機能に伴う当然の構成か,あるいは従前の掲示板,システム手帳等や
同種のソフトウェアにおいて見られるありふれた構成であり,両者の間にはソフト
ウェアの機能ないし利用者による操作の便宜等の観点からの発想の共通性を認め得
る点はあるにしても,そこに見られる共通点から表現上の創作的特徴が共通するこ
とを認めることはできない。したがって,原告ソフトにおける個々の表示画面をそ
れぞれ著作物と認めることができるかどうかはともかく,いずれにしても,被告ソ
フトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案に当たるという
ことはできない。
    また,原告は,原告ソフトにおける個々の表示画面のみならず,相互に牽
連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物である
と主張しているが,被告ソフトは,原告ソフトにないいくつかのアプリケーション
を備えているほか,原告ソフトのアプリケーションに対応するアプリケーションを
見ても,少なからぬ数の表示画面が付加され,これに対応する牽連関係(リンク)
も存在するから,この点をもって,既に被告ソフトは,ソフトウェア全体において
も,対応する個別のアプリケーションにおいても,原告ソフトと表示画面の選択と
配列を異にするというべきである。さらに加えて,原告が指摘する,原告ソフトと
被告ソフトとの間で表示画面とその牽連関係(配列)を共通とする部分を検討する
と,それらの部分における表示画面の選択・配列に創作性を認めることができな
い。したがって,原告ソフトの全体又はこれに含まれる個別のアプリケーションに
属する表示画面の選択及び牽連関係(配列)に,創作性を認めることができるかど
うかはともかくとしても,被告ソフトにおける表示画面の選択・配列をもって,原
告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。
    したがって,原告ソフトの著作権の侵害を理由とする原告の請求は,いず
れも理由がない。
 3 争点(2)(不正競争行為の成否)に対する判断
   原告は,原告ソフトの画面表示は,他社のグループウェア製品と根本的に異
なる特徴を備えたものであり,商品形態として,不正競争防止法2条1項1号にい
う「商品等表示」に該当すると主張する。
   コンピュータソフトウェアの表示画面,例えばトップページ,情報表示画面
や入力画面等が他に例を見ない独特の構成であり,そのような表示画面の構成が特
定の商品(ソフトウェア)に特有のものとして,需要者の間に広く認識されている
場合には,当該表示画面が同号にいう「商品等表示」に該当することも,可能性と
しては否定することができない。しかしながら,ソフトウェアの表示画面は,通常
は,需要者が当該商品を購入して使用する段階になって初めてこれを目にするもの
であり,また,ソフトウェアの機能に伴う必然的な画面の構成は「商品等表示」と
なり得ないものと解されるから,そのような事態は,ソフトウェア表示画面におけ
る機能に直接関連しない独自性のある構成につき,これを特定の商品(ソフトウェ
ア)に特有のものである旨の大規模な広告宣伝がされたような例外的な場合にの
み,生じ得るものである。
   本件における事実関係からは,「サイボウズオフィス」なる名称やそのロゴ
マークが原告ソフトの商品等表示として周知となっている可能性はないとはいえな
いものの,原告ソフトの個々の表示画面は,既に検討したとおり,グループウェア
としての機能に伴う構成の域を出ないものであり,また,表示画面自体が需要者の
間に広く知られていると証拠上認めることもできない(原告ソフトの解説書が複数
の出版社から出版されている程度の事情によっては,その表示画面の構成が「需要
者の間に広く認識されている」とは,到底認めることができない。)。
   以上のとおり,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為を理由とす
る原告の請求は,理由がない。
  (被告の主張)
 4 争点(3)(不法行為の成否)に対する判断
   本件において,原告は,仮に被告ソフトの製作・販売が原告ソフトの著作権
の侵害ないし不正競争行為に該当しないとしても,被告の行為は民法上の一般不法
行為責任(同法709条)に該当すると主張する。
   しかしながら,一般に,市場における競争は本来自由であるべきことに照ら
せば,著作権侵害行為や不正競争行為に該当しないような行為については,当該行
為が市場において利益を追求するという観点を離れて,殊更に相手方に損害を与え
ることのみを目的としてなされたような特段の事情が存在しない限り,民法上の一
般不法行為を構成することもないというべきである。したがって,このような特段
の事情の認められない本件において,ソフトウェアの表示画面の類似性等を理由と
する原告の一般不法行為の主張は,採用することができない。
 したがって,民法上の一般不法行為をいう原告の請求も,理由がない。
第5 結論
  以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がない。
  よって,主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第46部
            裁判長裁判官  三 村 量 一
               裁判官  村 越 啓 悦
               裁判官  青 木 孝 之
別紙物件目録
 1 コンピューターソフトウェア「ioffice2000」バージョン2.43
 2 コンピューターソフトウェア「ioffice2000」バージョン3.0
   (商品名「iofficeV3」)
別紙謝罪広告目録(省略)
別紙1別紙2別紙3

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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詳細は、面談の上、決定させてください。

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お気軽にお問い合わせ下さい。
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◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

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