弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた判決
一 原告
1 被告が昭和五二年一二月二三日付でした原告を懲戒することを相当と認める旨
の認定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、第二東京弁護士会に所属する弁護士である。
2 被告は、訴外Aからの懲戒の請求に基づき、昭和五二年一二月二三日付で原告
を懲戒することを相当と認める旨の認定をし、その議決書の写は昭和五三年一月二
五日ごろ原告に送付された。
3 被告のした右認定には、次のような手続的違法がある。
(一) 被告は、右認定をするにつき、懲戒請求者の提出にかかる証拠を原告に送
付しなかつたから、原告はその存在を知らず、したがつてこれに対する反論の機会
もないまま右認定がされた。本件のような不利益処分をする場合には処分を受ける
者にすべての証拠を明らかにして反論の機会を与えるべきであるのに、これをしな
かつた被告の手続は、公正を欠き違法である。
(二) 被告は、訴外Aからの本件懲戒請求が昭和五二年一〇月九日に取り下げら
れ、その後に第二東京弁護士会から新たな調査の付託がされなかつたことにより、
調査の権限を失つたにもかかわらず、調査を続行し、本件の認定をしたものである
から、その手続は違法である。仮に懲戒請求の取下げがあつても調査を続行できる
としても、その場合は懲戒請求に基づかない調査であるから、改めて原告に対し自
ら懲戒事由に当たると思料する事実を摘示して原告に反論の機会を与えるべきであ
るのにこれをしていないから、その手続は違法である。
(三) 本件の認定手続においても直接主義の原則が支配するものと考えられると
ころ、原告に対する事情聴取のみをとりあげてみても、議決に関与した一九名の委
員中三名だけが原告に直接面接したにすぎず、他の証拠調も同様であつたものと推
測されるから、その手続は違法である。
(四) 被告の調査の記録は、調査中原告の同意なくして他の者の閲覧に供しては
ならないのに、被告は、原告が前記Aを被告として提起した民事訴訟事件の被告代
理人に原告の同意なく右記録を閲覧させているから、その手続は公正を欠き違法で
ある。
(五) 原告か被告から前記のとおり事情聴取を受けた後、第二東京弁護士会の副
会長二名が原告に対し、懲戒請求人である前記Aと原告とが和解し懲戒請求が取り
下げられれば、被告の調査の結果は懲戒不相当になるとして、Aとの和解を強く勧
告したので、原告はこれに従つてAと和解し、前記のとおり懲戒請求の取下げがあ
つためであるから、それにもかかわらずされた本件の認定は違法である。
(六) 被告の認定は、懲戒請求人の懲戒申立書に記載のない事項をも対象として
いるが、これらの事項については、原告に対して調査対象となることを明らかに
し、反論の機会を与えていないから、その手続は違法である。
4 以上のような違法な被告の認定により、原告は、多大な精神的苦痛を受けてい
るばかりでなく、右認定の必然的結果として懲戒委員会の審査に付され、それに伴
い、懲戒手続が結了するまで登録換え又は登録取消しの請求をすることができなく
なる(弁護士法六三条。同法を以下単に「法」という。)という法律上の不利益を
受けることとなるから、右認定は取消訴訟の対象となる行政処分に当たるものとい
うべきである。
5 よつて、本件認定の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
1 当事者能力の欠缺
被告は法人である第二東京弁護士会の内部に設置された委員会であつて、法人格は
なく、また、権利能力のない社団にも当たらないから、当事者能力がない。
2 当事者適格の欠缺
被告は、対外的に行動しうる行政主体ではないから行政庁に当たらず、当事者適格
がない。
3 処分性の欠缺
弁護士を懲戒することを相当とする綱紀委員会の認定は、懲戒の請求に始まり、綱
紀委員会の調査と議決(認定)、懲戒委員会の審査と議決を経て、弁護士会が行う
懲戒に終わる一連の手続の中の一部を構成する行為にすぎず、それだけでは当該弁
護士の権利義務に何ら変動を生じさせるものではないから、取消訴訟の対象となる
行政処分に当たらない。
4 訴えの利益の欠缺
弁護士が懲戒を受けたときは、日本弁護士連合会に審査請求をし(法五九条)、こ
れを却下若しくは棄却する裁決に対しては東京高等裁判所に取消しの訴えを提起す
ることができる(法六二条一項)。したがつて、懲戒委員会で懲戒相当の認定がさ
れただけで実際に懲戒を受けるかどうか明確でない段階において本件のような訴え
を提起する利益はないというべきである。
○ 理由
弁護士会は、弁護士の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士事務の
改善進歩を図るため、弁護士の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的
とする団体であつて(法三一条一項)、弁護士は、弁護士会に所属することにより
当然に、所属弁護士会の監督に服すべき地位に立つものである。そこで、弁護士会
が弁護士に対して行う懲戒について法の定めるところをみると、弁護士会は、その
所属の弁護士について懲戒の事由(法五六条一項)があると思料するとき又は法五
八条一項に基づく他からの懲戒の請求があつたときは、弁護士会に置かれた綱紀委
員会にその調査をさせなければならず(法五八条二項)、同委員会がその調査によ
り懲戒することを相当と認めたときは、弁護士会に置かれた懲戒委員会にその審査
を求めなければならず(同条三項)、懲戒は右懲戒委員会の議決に基づいて弁護士
会が行う(法五六条二項)こととされている。このように、法は、弁護士に対する
懲戒について、弁護士会の自律に委ねるとともに、綱紀委員会及び懲戒委員会の調
査ないし審査の手続を経るべきこととして、懲戒権の行使の適正を期しているので
ある。
本訴は、弁護士である原告が綱紀委員会のした原告を懲戒することを相当とする旨
の認定の取消しを求めるものであるが、綱紀委員会は、懲戒事由の存否の調査その
他弁護士会の会員の綱紀保持に関する事項をつかさどるために設けられた弁護士会
の内部機関であつて(法七〇条参照)、同委員会のする右調査及び懲戒相当の認定
は、あくまでも懲戒権者たる弁護士会の意思形成過程における一つの内部的・予備
的行為にすぎず(右認定を当該弁護士に通知すべき旨の規定もない。)、もとよ
り、同委員会の右認定が次に行われる懲戒委員会や弁護士会の判断を拘束する効力
をもつものではなく、また、それ自体によつて直ちに当該弁護士の権利義務に対し
て重大な変動を生じさせるものでもない。もつとも、綱紀委員会の右認定の結果懲
戒の手続に付された弁護士は、その手続が結了するまで登録換え又は登録取消しの
請求をすることができないこととなるけれども(法六三条)、これは、懲戒の手続
に付された弁護士が他の弁護士会に登録換えをしあるいは登録を取り消すことによ
つて懲戒を免れることを防止し、懲戒制度の実効性を維持するためのやむをえない
一時的措置であつて、それにより当該弁護士の被る不利益は、懲戒についての弁護
士会の最終判断があるまでこれを受忍させることを著しく不相当とするような重大
かつ実質的なものではないというべきである。
ところで、法によれば、所属弁護士会から懲戒を受けた弁護士は、日本弁護士連合
会に行政不服審査法による審査請求をすることができ(法五九条参照)、右請求を
却下若しくは棄却されたときは、日本弁護士連合会を被告として東京高等裁判所に
その裁決の取消しの訴えを提起することができる(法六二条)ものとされている
が、そのほかに懲戒手続を構成する個々の行為を対象として出訴することができる
ことを認めた規定はない。このような法の規定と、前述した綱紀委員会の懲戒する
ことを相当とする旨の認定の性格とをあわせ考えると、法は、弁護士会の懲戒権の
行使に関しては、最終判断としての懲戒処分のみを争訟の対象として予定し、その
前手続である綱紀委員会の右認定等については、これに対する独立の出訴を許さな
い建前を採用しているものと解するのが相当である。そして、このように解して
も、綱紀委員会のした右認定の手続の瑕疵については、懲戒処分の取消しを求める
訴訟においてこれを争う余地がないわけではないから、何ら弁護士の権利保護に欠
けるところはない。
以上のとおりであつて、本件訴えは不適法というべきであるから、これを却下する
こととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用
して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤 繁 中根勝士 佐藤久夫)

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