弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人町は控訴人に対し金一九五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三
三年三月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払わなければならない。
     被控訴人(参加人)会社の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審を通じ、参加により生じた部分は被控訴人(参加
人)会社の負担とし、その余は被控訴人町の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴会社代理人は控訴棄却の判決を求
めた。被控訴人町の代表者は当審の口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備
書面も提出しなかつた。
 当事者等の事実上の陳述竝に証拠の提出認否は原判決事実摘示のとおりであるか
ら、これを引用する。
         理    由
 訴外高木建設株式会社は昭和三一年一一月二八日被控訴人a町から同町小学校校
舎の建築工事を請負い、昭和三二年五月二三日右請負契約の保証金として金五五
五、〇〇〇円を同被控訴人に交付したこと、その後右建築工事は完成して引渡を了
し、訴外会社は被控訴人町に対し右保証金全額の返還請求債権を有したことは当事
者間に争なく、各成立に争のない丙第一乃至第四号証によれば、被控訴会社は昭和
三二年八月二七日訴外会社に対する債権に基き福岡地方裁判所小倉支部において右
保証金返還請求権の内金一九五、〇〇〇円につき仮差押決定を得、該決定は同月二
八日第三債務者たる被控訴人町に送達され、次いで同年一二月一六日執行力ある判
決に基ぎ福岡地方裁判所において右金一九五、〇〇〇円の債権差押及び転付命令を
得、該命令は同月一八日右第三直務者に、同月一九日債務者たる訴外会社にそれぞ
れ送達されたことを認めることができる。
 しかるところ原審証人A、同B、同C、同Dの各証言、原審における控訴本人尋
問の結果竝に右証言等に徴し各真正に成立したものと認められる甲第三及び第四号
証を総合すれば、訴外会社は昭和三二年六月頃控訴人から金五〇万円借用の担保と
して本件保証金返還請求債権を控訴人に譲渡し、同年七月一五日訴外会社代表取締
役の命を受けた同会社取締役Dと控訴人とが同道して被控訴人町の役場を訪れ、町
長不在のため助役Bに面接して右債権譲渡につき被控訴人町の承諾を求めたとこ
ろ、同助役はこれを承諾した上、収入役Cに右債権譲渡承諾の事実を告げて、これ
を証する書面の作成を指示したので、同収入役は本件保証金五五五、〇〇〇円を支
払期到来の上は控訴人に支払することを承諾する」旨記載し、且つ「昭和三二年七
月一五日」の日附を記載した同収入役名義の承諾書(甲第四号証)を作成してこれ
を控訴人に交付したこと、しかるにその後前記のとおり被控訴会社から仮差押及び
差押転付がなされたため、同年九月六日被控訴人町は差押に係らない内金三六万円
を控訴人に支払つたのみで、残金一九五、〇〇〇円は未だ支払がなされていないこ
とを認めることができる。被控訴会社は、右債権譲渡は訴外会社と控訴人及び被控
訴人町との間の通謀虚偽表示であると主張するけれども、その事実を認むべき証拠
はない。
 右認定の事実によれば、本件債権譲渡については債務者である被控訴人町の町長
職務代行者たる助役の承諾がなされたのであるから、該債権譲渡が同被控訴人に対
する関係で対抗力を有することは言を待たない。そこで前記収入役作成の承諾書が
本件債権譲渡を第三者たる被控訴会社に対抗するための確定日附ある証書にあたる
かどうかについて考えるに、民法施行法第五条第一号の公正証書とは官庁または公
署がその権限内において適法に作成した証書を意味するものと解すべきであるか
ら、町収入役作成の債権譲渡承諾書が公署作成の証書<要旨>といえるかどうか、す
なわち収入役は町を代表して右証書を作成する権限を有するかどうかが問題とな
る。町の一般代表権を有するものは町長であつて、会計事務についても収入
役は町長の命令を受けて収入支出の執行をするに過ぎないものであるが、その収入
支出の執行に関する限り収入役は独立の地位権限を有し、単なる町長の補助機関と
してでなく、自ら町を代表して行動するものである。故に収入支出の執行の範囲内
においては収入役は自ら町の代表機関として、それに関する証書作成等の権限を有
するものというべきである。本件についてみれば、前認定のように被控訴人町の負
担する保証金返還債務につき、町長職務代行者である助役により適法に債権譲渡の
承諾がなされたことを告げられた収入役が、町の支払金として確定した右保証金を
債権譲受人である控訴人に支払うことを承諾する旨の証書であるから、それは町の
支出の執行に関する証書であることは明らかであり、従つて収入役は自ら町の代表
機関として右証書作成の権限を有するものといわなければならない。さすれば前記
甲第四号証の承諾書は町収入役がその権限内において適法に作成した証書であるか
ら、民法施行法第五条第一号の公正証書に該当し、これに記載された「昭和三二年
七月一五日」の日附は確定日附となるものというべきである。
 されば訴外会社から控訴人に対する本件債権譲渡は、債務者である被控訴人町の
確定日附ある証書による承諾がなされたのであるから、これをもつて第三者たる被
控訴会社にも対抗し得るものであり、従つて右日附の後になされた被控訴会社の前
記仮差押竝に差押転付はいずれもその効力を生じなかつたものといわなければなら
ない。よつて被控訴人町に対し本件保証金中未払の金一九五、〇〇〇円及びこれに
対する本件の訴状が同被控訴人に送還された翌日であること記録上明らかな昭和三
三年三月一四日以降年五分の法定遅延損害金の支払を求める控訴人の本訴請求を正
当として認容し、被控訴会社の参加請求は失当として棄却すべく、右と異なる原判
決を取消すべきものとし民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条第九四条に従い主
文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 竹下利之右衛門 裁判官 小西信三 裁判官 岩永金次郎)

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