弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中第四〇号事件上告人敗訴部分を破棄し、右部分につき同事件被
上告人の控訴を棄却する。
     原判決中第三九号事件上告人ら敗訴部分のうち土地所有権確認請求に関
する部分を破棄し、右部分につき本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
     原判決中第三九号事件上告人A1敗訴部分のうち建物所有権確認請求に
関する部分につき本件上告を却下する。
     本件附帯上告を棄却する。
     破棄部分中控訴棄却部分に関する控訴費用及び上告費用は第四〇号事件
被上告人の、上告却下部分に関する上告費用は第三九号事件上告人A1の各負担と
し、附帯上告費用は附帯上告人の負担とする。
         理    由
 第四〇号事件上告代理人石川克二郎の上告理由及び第三九号事件上告代理人榊原
孝の上告理由一について
 一 本件について原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
 亡D(第一審における参加人・反訴被告、以下「D」という。)は、昭和二一年
三月一一日、盛岡市a地区に所在する旧陸軍の観武ケ原練兵場跡の未墾地の開拓事
業に入植を許可され、以後、妻であるA1(第三九号事件上告人・附帯被上告人、
以下「A1」という。)とともに本件土地の開墾に従事していた。右両名の二男で
あるB(第三九号事件被上告人・附帯上告人兼第四〇号事件被上告人、以下「B」
という。)は、昭和二五年ころから、本件土地上のD所有の建物に居住するように
なり、妻A2とともに本件土地の開墾に従事していた。
 昭和三一年には、開拓地一帯の開墾がほぼ完了し、Dは、同年一二月本件土地に
つきa地区農業委員会長宛に買受申込書を提出した。その後、昭和三二年二月一一
日、DとBとの連名で、入植名義をDからBに変更することの許可を求める入植名
義変更許可願が提出され、同年三月四日岩手県農林部長名で許可された。しかし、
この間、同農業委員会から岩手県知事(第四〇号事件上告人)宛に、被売渡人をD
とする売渡進達書が提出され、これに基づき、同知事は、売渡期日を同月一日と定
めた同月二〇日付売渡通知書をD宛に発し、同人に対し農地法六一条の規定による
本件土地の売渡処分をした。
 観武ヶ原等の未墾地の売渡は昭和二七年ころから着手されたが、入植から売渡ま
でに年月がかかるにつれて、当初入植許可を受け耕作に従事していた者が老齢又は
病気により開墾又は耕作に従事することが困難となるという事態を生ずるようにな
つた。そこで、岩手県知事は、入植者から売渡前に、老齢又は病気等を理由に入植
者の妻又は子に入植名義を変更したい旨の申請があつた場合には、入植許可名義人
と新たに売渡を希望する者との連名による入植名義変更許可願、所属開拓農業協同
組合に対する債権債務継承承諾書、新たに入植者となろうとする者が従来旧名義人
とともに開拓に従事しかつ将来も開拓を継続しそれを完成し得る見込があるか否か
に関する農業委員会の意見書等を建設事務所経由で提出させたうえ、相当であると
認められる場合には、岩手県農林部長名で入植名義の変更を許可し、建設事務所長
名で所属の開拓農業協同組合長宛にその旨を通知するという行政上の取扱いを、昭
和三五年ころまで行つていた。しかし、本件売渡処分については、前記のようにD
からBへの入植名義変更が許可されたが、他方、Dを売渡の相手方とする売渡進達
手続が先行していたため、同人宛に売渡通知書が発せられたものである。
 二 原審は、右の事実関係に基づき、前記入植名義の変更の許可は、自作農創設
特別措置法(以下「自創法」という。)四一条の二に基づき入植地の一時使用をし
ている者に対し、売渡を受ける前にその地位を譲渡することを許容し、新名義人に
つき、将来自作農として農業に精進する見込があるものとして、旧名義人が耕作し
てきた土地について、旧名義人と同一内容の一時使用をすることを許すとともに、
売渡予約に基づき将来その売渡を受けるべき法的地位を認める反面、旧名義人につ
いては、従来耕作してきた土地の一時使用権とともに売渡予約者としての地位を消
滅させるという法的効果を生ずる行政処分であると解すべきであり、いつたんそれ
が有効にされた以上、行政庁である岩手県知事はこれに拘束され、その処分が撤回
されない限り、これに抵触する行政行為をすることは許されないものと解すべきと
ころ、本件土地につき旧名義人であるDに対してされた売渡処分は、右入植名義変
更許可処分の拘束力に抵触するのみならず、右処分によつて本件土地の一時使用権
者としての地位を取得し現に耕作しているBをさしおいて、既に一時使用権を喪失
し耕作者でなくなつたDに対しこれを売り渡したことになり、耕作者の地位の安定
を目的とする農地法一条、三六条一項一号の規定の趣旨に照らし、その瑕疵は重大
かつ明白であるとして、本件売渡処分は無効であると判断した。
 三 論旨は、本件入植名義の変更の許可は、法律の明文の規定に根拠を置くもの
ではなく、農地法上何らの効力も生じないものであつて、これを有効な行政処分で
あると解した原審の判断には、農地法の規定の解釈を誤つた違法があり、右違法は
判決に影響を及ぼすものであるというのである。
 よつて、判断するに、原審の確定した前記事実関係によれば、Dは、本件土地に
つき未墾地入植許可を受けた者として現に自創法四一条の二による使用をしていた
者にあたり、農地法施行法一一条により、買受予約申込書を提出し売渡予約書の交
付を受けた者とみなされ、右予約上の権利を有していたものということができる。
本件土地につきDからBに対する右入植名義の変更が許可されたのは、このような
予約上の権利を有する地位の承継を認めようとしたものであり、同一家団内におい
て経営の実体が変らない限り、経営主体の名義変更を認めても実質上の不当はなく、
現にその必要もあるとの見地から行われたものとみられる。
 しかしながら、農地法においては、右予約上の権利すなわち売渡予約書の交付を
受けて当該土地を使用し得る権利を有する者の地位をそのまま他の者に承継させる
ことを認めた規定はなく、かかる地位を取得しようとする者は、同法の定めるとこ
ろに従い、改めて使用許可を得るための手続をとらなければならないと解されるの
である。すなわち、同法によれば、六二条三項の規定による公示があつた地区内の
六一条に掲げる土地等(本件土地は同条四号の土地に該当するものと解される。)
を買い受けようとする者は、所定の買受予約申込書を都道府県知事に提出しなけれ
ばならず(六三条)、知事は、右申込書の提出をした者で自作農として農業に精進
する見込のある者のうちから都道府県開拓審議会の意見を聞いて適当と認められる
者を選定し、その者に所定の売渡予約書を交付し(六四条)、右売渡予約書の交付
を受けた者が知事に当該土地の使用の申込をした場合において、知事がこれを相当
と認めたときは、国は、六一条の規定による売渡をするまでの間、当該土地をその
者に使用させることができる(六八条)こととされている。このように、農地法は、
右の土地につき売渡予約上の権利を付与しその一時使用を許すべき者の資格要件と
その手続及び形式を明定しているところ、一般に、一定の法律効果の発生を目的と
する行政庁の行為につき、法律がその要件、手続及び形式を具体的に定めている場
合には、同様の効果を生ぜしめるために法律の定める手続、形式以外のそれによる
ことは原則として認めない趣旨であると解するのが相当である。そうすると、農地
法は、前記名義変更の許可のような形式、手続によつて前記のような売渡予約上の
権利を有する地位を承継させることを認めておらず、右にみたような要件を具備し
所定の手続を履践した者に対してのみ、前記のような予約上の権利を付与すること
としたものというべきである。
 原判決は、右名義変更の許可の措置をもつて、売渡予約上の権利を有する地位の
承継を認めたものではなく、一方において、旧名義人に対しては予約上の権利を失
わせ、他方において、新名義人に対しては売渡予約者としての地位を付与するとこ
ろの、一種の複合的処分であるとしたものと解されないではないが、右のような複
合的処分としてその効力を肯認することは、農地法が予定している新名義人自身の
売買予約者としての適格の具備の審査及び必要な手続の履践を全部又は一部省略す
ることを許すことになるから、前述の農地法の規定の趣旨からみて、かかる見解は
とうてい採用し難いものというほかはない。
 以上を要するに、本件入植名義の変更の許可は、法律に根拠をもたず、専ら実際
上の便宜のために打ち出された事実上の措置にすぎないものであつて、これについ
て前記のような予約上の権利を有する地位の移転ないし付与という効果を認めるこ
とはできないというべきである。
 そうすると、右名義変更の許可を有効な行政処分と解し、これに反してされた本
件売渡処分は無効であるとした原審の判断には、農地法の規定の解釈を誤つた違法
があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。
論旨は理由があり、原判決中第四〇号事件上告人敗訴部分及び第三九号事件上告人
ら敗訴部分のうち土地所有権確認請求に関する部分は、その余の論旨について判断
するまでもなく、破棄を免れない。
 そして、Dに対する本件土地の売渡処分は、農地法の規定により売渡予約書の交
付を受けていたDから提出された買受申込書に基づき、正規の手続に従つてされた
ものであることは、原審の確定した前記事実関係から明らかである。そうすると、
右売渡処分は適法なものというべきであるから、その無効確認を求めるBの請求を
棄却した第一審判決は相当である。したがつて、右部分についての同人の控訴は理
由がなく、これを棄却すべきである。また、第三九号事件上告人らの土地所有権(
共有持分権)確認請求については、原審における請求の当否について更に審理を尽
くさせるため、この部分を原審に差し戻すべきである。
 附帯上告代理人佐々木衷、同檀崎喜作、同松本晃平の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、右判断は所論引用の判例に反するものでもない。原判決に
所論の違法はなく、論旨は採用することができない。したがつて、本件附帯上告は
棄却すべきである。
 第三九号事件上告人A1は、原判決中同上告人敗訴部分のうち建物所有権確認請
求に関する部分につき、法定の上告理由書提出期間内に上告理由書を提出しなかつ
たから、右部分についての上告は、不適法としてこれを却下すべきである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、四〇七条、
三九九条ノ三、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一
 裁判官団藤重光、同中村治朗は、退官のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里

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