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平成26年(わ)第1195号強盗致傷,強盗殺人,強盗,銃砲刀剣類所持等
取締法違反,大麻取締法違反被告事件
平成27年6月12日千葉地方裁判所刑事第4部判決
主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
千葉地方検察庁で保管中のシースナイフ1本(平成26年千葉検領第
2733号符号1)及び大麻1袋(同領第2293号符号1)を没収
する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は
第1通行人から金品を強奪しようと考え,平成26年3月3日午後11時35分
頃,千葉県柏市(以下省略)先路上において,A(当時25歳)に対し,シ
ースナイフ(刃体の長さ約21.9㎝。平成26年千葉検領第2733号符
号1)の刃先を向けて脅迫し,その反抗を抑圧して,同人から金品を強奪し
ようとしたが,同人が左手で同シースナイフの刃をつかんで押しのけて逃げ
たため,その目的を遂げず,その際,同人に全治約2週間を要する左母指切
創の傷害を負わせ
第2通行人から金品を強奪しようと考え,同日午後11時37分頃,同市(以下
省略)先路上において,B(当時31歳)に対し,殺意をもって,前記シー
スナイフで頸部及び背部を数回突き刺してその反抗を抑圧した上,同人所有
又は管理の現金約1万数千円,財布等136点在中の手提げバッグ1個(時
価合計約6000円相当)を強取し,よって,その頃,同所において,同人
を頸部及び背部の刺切創による失血により死亡させて殺害し
第3C(当時44歳)が普通乗用自動車を停車したのを認め,同人の金品を強奪
しようと考え,同日午後11時40分頃,同市(以下省略)先路上において,
同車運転席に座っていた同人に対し,前記シースナイフの刃先を向け,「今,
人を一人殺してきた。」「降りろ。」「金払え。」などと語気強く言って脅
迫し,その反抗を抑圧した上,同人所有又は管理の現金3302円,鍵等5
点在中の財布1個(時価合計約2500円相当)を強取し
第4前記第2事実の被害者Bを救助するため,エンジンをかけたまま停車してい
たD(当時47歳)所有の普通乗用自動車を認め,同車を窃取しようとして,
同日午後11時41分頃,同市(以下省略)先路上において,同車の運転席
に乗り込み,発進しようとした際,これに気付いた同人が同車運転席に駆け
寄り,被告人に降車を求めたことから,同車を強奪しようと決意して,Dに
対し,「うぉー」と怒号しながら,前記シースナイフの刃先を向けて脅迫し,
その反抗を抑圧した上,同人所有又は管理のゴルフクラブ一式等12点(時
価合計23万3000円相当)を積載した前記普通乗用自動車1台(時価約
13万1000円相当)を強取し
第5業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後11時35分頃から
同日午後11時41分頃までの間,同所付近路上において,前記シースナイ
フ1本を携帯し
第6みだりに,同月5日,同市(以下省略)当時の被告人方において,大麻で
ある乾燥植物片0.197g(平成26年千葉検領第2293号符号1はそ
の鑑定残量)を所持し
たものである。
(証拠の標目)
(省略)
(法令の適用)
罰条
第1の行為刑法240条前段
第2の行為刑法240条後段
第3及び第4の各行為いずれも刑法236条1項
第5の行為銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条
第6の行為大麻取締法24条の2第1項
刑種の選択
第1の罪有期懲役刑
第2の罪無期懲役刑
第5の罪懲役刑
併合罪の処理刑法45条前段,46条2項本文(判示第2の罪につ
いて無期懲役に処するので,他の刑を科さない。)
未決勾留日数の算入刑法21条
没収刑法46条2項ただし書,(シースナイフ1本につき)
19条1項1号,2号,2項本文,(大麻1袋につき)
大麻取締法24条の5第1項本文
訴訟費用の処理刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
1被告人は,自らが所持していた武器の中から殺傷能力の高いシースナイフを選
び,これを用いて立て続けに一連の強盗殺人,強盗致傷及び強盗の各犯行に及ん
でいる。
特に量刑上重要な強盗殺人において,被告人は,抵抗した被害者の頸部を前
記ナイフで突き刺した上,うつぶせに倒れた被害者に対し,前記ナイフで背部を
6回にわたって突き刺しているのであって,強固な殺意に基づく残虐で執拗な行
為に及んでいる。
被害者らは,たまたま現場の路上に居合わせただけで被害を受け,特に,殺
害されるに至った判示第2の被害者の無念は察するに余りある。同被害者の遺族
の悲しみは計り知れない。
2弁護人は,前記各犯行の動機の形成過程につき,これらの犯行は単なる生活費
等を得るために行われたのではなく,バスジャックやハイジャックをしてスカイ
ツリーに突っ込むテロ行為をするのに必要な拳銃を買う資金を得るためや,人の
首を切って世の中に自らの主張を訴えるという首切りテロをするために行われた
のであって,かかる動機は統合失調症に基づく妄想であり,以上の事情は量刑上
有利にしん酌され,酌量減軽ができる事情に当たる旨主張する。
この点に関しては,起訴前に被告人の精神鑑定を行った医師である証人Eが
その鑑定結果の内容等を述べる公判供述が存する。E証人の精神科医師としての
知識及び経験並びにその鑑定内容に照らすと,E供述には高い信用性が認められ
るところ,これによれば,被告人は統合失調症にはり患していなかった事実が認
められる。これに対し,被告人の主治医であった証人Fは,公判廷において,被
告人が統合失調症にり患していた旨述べるが,F証人の診断は,被告人に対する
診察が限られた時間内にとどまるなど必ずしも十分とはいえない資料に基づくも
のであって,E供述の信用性を覆すに足るものとはいい難い。弁護人は,被告人
が自宅の目の前で相手を選ばずに犯行に及んだ点等を被告人が統合失調症にり患
していたことを裏付ける事情として指摘するが,いずれも統合失調症にり患して
いなくても説明し得る事情であって,弁護人の指摘は当を得たものとはいえず,
これもE供述の信用性を覆すものではない。また,たとえ被告人がバスジャック
やハイジャックをするという考え,首切りテロをするという考えを有していたと
しても,E供述を踏まえれば,かかる考えは統合失調症に基づく妄想とはいえな
い。弁護人の前記主張は採用できない。
そして,犯行前の被告人の所持金の使い方や一連の強盗殺人,強盗致傷及び
強盗の各犯行状況,犯行後の被告人の言動に照らすと,これらの犯行は,単に被
告人が生活費等を得るために敢行したものと認められるのであって,その動機や
経緯は身勝手というほかなく,酌量の余地はない。
3E供述によれば,被告人は,前記各犯行当時,アルコール,睡眠薬等の処方薬
及び大麻の摂取により事理弁識能力と行動制御能力が低下していたことがうかが
われるが,被告人の犯行時の言動等からすると,これらの能力の低下はさほど大
きいものではない上,アルコール等の摂取は被告人が快楽を求めて自らの意思で
行ったものであって,これを量刑上特に有利にしん酌すべきとは考え難い。被告
人がり患していた自閉スペクトラム症は,正常との境目にある軽度のものであり,
前記各犯行に直接影響したとは認められず,被告人が有していた反社会性パーソ
ナリティ障害は,前記各犯行に影響はしているものの,同障害は人格・性格その
ものの偏りをいい,前記各犯行は被告人の人格そのものによって引き起こされた
といえるのであって,これらの事情も量刑上特に有利な事情とすべきものではな
い。
4そして,一連の強盗殺人,強盗致傷及び強盗の各事件は,深夜,住宅街の路上
において無差別的に敢行されたものであって,地域の住民に与えた衝撃は大きく,
同様の犯行を模倣する者が現れないよう厳しい処罰で臨む必要がある。
5また,前記各犯行に大きく影響した被告人の反社会的かつ攻撃的な性格や,公
判廷における被告人の態度等からすると,現段階において被告人が再び同様の凶
行に及ぶ可能性が高いことは否定できない。
6以上の諸事情からすれば,被告人が現在25歳と若年であることや,被告人の
母が公判に出廷し家族で被告人を支えていく旨述べていることなど被告人の更生
の可能性につながり得る事情が存すること,その他被告人にとって酌むことがで
きる全ての事情を考慮しても,酌量減軽をするのが相当な事案とは到底いえない。
しかしながら,一連の強盗殺人,強盗致傷及び強盗の各犯行には,稚拙な面
もあることからすると,強盗殺人又はこれを含む同種事案の中で際立って重い部
類に入るとまで位置付けることはできない。被告人は片耳が聞こえないという障
害を持ち,それが一因となって幼少期にいじめを受けたことなどが,被告人の人
格形成に影響を与えた面があることがうかがわれ,その成育歴に同情の余地が全
くないとまではいい難い。被告人は本件各犯行については全てこれを認めており,
その供述の端々からは人の痛みを感じる心もみられないではない。以上の諸事情
を踏まえ,これまでの同種事案の量刑傾向も参考にすると,検察官の求刑を超え
て死刑を科すことはなお躊躇せざるを得ず,被告人を無期懲役に処するのが相当
であると判断した。
(求刑無期懲役,主文掲記の没収。弁護人の量刑意見懲役25年。被害者参加
人(判示第2)の意見死刑)
(裁判長裁判官小森田恵樹裁判官伊藤大介裁判官園俊次郎)

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