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平成15年6月9日判決言渡平成14年(ワ)第13135号 損害賠償請求事件
              主文
1 被告株式会社Aは,原告に対し,349万5716円及びこれに対する平成14年7
月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Bは,原告に対し,349万5716円及びこれに対する平成14年7月21日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余は被告らの負担と
する。
5 この判決は,第1及び第2項に限り,仮に執行することができる。
              事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社Aは,原告に対し,472万7138円及びこれに対する平成14年7月
18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2 被告Bは,原告に対し,472万7138円及びこれに対する平成14年7月21日(訴
状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 原告は,被告株式会社A(以下「被告会社」という。)の従業員であった者である
が,その上司に当たる被告Bから,性的言動を含め,原告が望まない言動をとられ
たことにより,精神的・経済的損害を被った旨主張し,被告Bに対しては不法行為に
基づき,被告会社に対しては使用者責任に基づき,それぞれ損害賠償金の支払を
求めた。
 これに対し,被告らは,被告Bの言動の大部分が原告に対するセクシュアルハラ
スメントに該当せず,また,同被告が行った不適切な行為(原告の臀部,股間等を
ビデオカメラで撮影する行為)についても,原告に対する不法行為に該当しないな
どと主張するとともに,原告が主張する損害についても,これを否認して争った。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実以外の事実については,証拠を併記す
る。)
(1) 被告会社は,海洋環境及び陸上環境の汚染に関する研究分析調査業務を主
たる目的とする株式会社である。
(2) 被告B(昭和28年12月10日生)は,平成2年4月,被告会社に入社し,平成6
年4月から平成13年9月まで,被告会社の取締役兼河川環境部部長を務めて
いた。なお,被告Bには,妻子がある。(乙13)
(3) 原告(昭和47年11月13日生)は,大学において生物生産学を専攻し,大学院
において森林資源科学を専攻した後,平成11年4月,被告会社に入社し,同時
に,河川環境部に配置された。その後,原告は,平成12月4月1日付けで河川
環境部から環境計画部に配置換えされた後,同年10月1日付けで再び河川環
境部に配置換えされたが,後記のとおり被告Bが原告の臀部,股間等をビデオカ
メラで撮影していたことが発覚した翌々日である平成13年8月24日以降,被告
会社に出社しなくなり,平成14年3月19日付けで,休職期間が6か月を経過し
たことを理由に,被告会社から退職扱いとされた。なお,原告は,独身である。
(乙4の2,5の1)
2 主たる争点
(1) 被告Bの原告に対する言動の有無,内容,同被告の意図等
(2) 被告Bの原告に対する不法行為の成否
(3) 損害
3 主たる争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(被告Bの原告に対する言動の有無,内容,同被告の意図等)について
(原告)
 被告Bは,上司であるという雇用上の関係から原告が同被告に逆らえない状況
にあることを利用し,原告が女性であることに着目した上,次のとおり,原告が望
まない状態を強要したり,原告が望まない言動(性的言動を含む。)をとったりし
た。
ア 被告Bは,原告に対し,平成11年8月,海藻の標本とともに,「大切な原告さ
まへ」,「元美少年より」などと記載された手紙を手交した。
イ(ア) 原告は,同月28日,一過性の病気である急性肝炎にかかり,入院し た
ところ,被告Bは,同月31日以降,原告が退院するまでの約1か月間,ほと
んど毎日,二,三時間の面会に訪れたため,原告は,同被告の面会を苦痛
と感じるようになり,同被告に対し,2回ほど,「来ていただくのはやめていた
だきたい」旨伝えたが,同被告の面会は,その後も続いた。
(イ) 被告Bは,原告に対し,面会にきては,「面会にくることは,自分の日課で
あり,そうすることで,自分の体調がよくなった」,「原告を採用したのは自分
だ」,「家族のように考えている」,「退院してから一緒に食事をしてほしい」,
「男は女を愛する生き物で,女は愛を受け入れる生き物だ」などと言い,面
会に際し,ぬいぐるみを持ってきたりした。また,被告Bは,原告を散歩に誘
うことがあったが,原告は,断っていた。
(ウ) 被告Bは,原告が入院した当初ころ,原告が断ったにもかかわらず,無
理やり,原告の足をマッサージした。同被告は,翌日からも,強引にマッサ
ージをさせるよう言ったが,原告は,どうしても嫌であったので,これを断っ
た。
ウ 被告Bは,原告に対し,同年10月ころ,同被告の私物の携帯電話を手交し,
「携帯電話は,仕事で必要だ。困ったことがあったら,いつでも何でも電話しな
さい」と述べた。原告は,社用の携帯電話であると思い,これを受け取ったが,
後に,同被告の私物であることが分かり,直ちに同被告に対しこれを返却し
た。
エ 被告Bは,参加メンバーを同被告と原告の2名,出張日程を同月20日から同
月22日までと決定し,原告及び同被告は,新潟県へ2泊3日の日程で出張し
たところ(以下「新潟出張」という。),被告Bは,原告に対し,同出張中,次のと
おりの言動をした。
(ア) 被告Bは,原告に対し,同月20日,「夕食後,私の部屋で打合せを しま
す」と言い,原告をして,同日午後9時から同日午後10時までの間,同被告
の宿泊室において,同被告と2人で打合せをさせた。
(イ) 被告Bは,翌21日午前5時半ころから同日午前8時ころまでに行われた
現地視察中,山中であり,通行人が来ない場所において,原告に無断で,
原告をビデオカメラで撮影した。そして,同被告は,原告に対し,突然,「か
わいい。手をつなぎたい」と言ったが,原告は,「つなぎたくないです」と言っ
て断った。
(ウ) 被告Bは,原告に対し,同日,「夕食後,私の部屋で打合せをします」と言
い,原告をして,同日午後9時から翌22日午前3時までの間,同被告の宿
泊室において,同被告と2人で打合せをさせた。また,この間,同被告は,
原告に無断で,データの整理をしていた原告をビデオカメラで撮影した。更
に,同被告は,原告に対し,「君が入院して,自分の君への気持ちが分かっ
た」,「君を特別に思っている」,「自分の結婚は,家庭欲しさのものであっ
た」,「君のことも教えてほしい」,「君はまじめだから,好きになった」などど
言った。原告は,同被告に対し,特別な感情のないことを伝えた上,「ビデオ
を撮るのはやめてください。私には彼氏がおり,将来は一緒になるつもりで
す」と言い,暗に誘ってきた同被告に対し,これを断った。
(エ) 被告Bは,同日,帰りの新幹線の中で原告の隣に座り,寝たふりをし な
がら,原告の腕をつかんだ。原告は,自分の腕を動かして,同被告の手をど
けた。
オ 新潟出張から戻った後である同月下旬ころ,被告Bは,原告に対し,同被告
の仕事を手伝うため,週末も出勤するよう指示した。同被告は,出社した原告
に対し,「勤務後どうするのか」と尋ね,原告が「デパートへ行く」,「展覧会に行
く」などと答えると,「私も行きます」と言い,原告が断り切れないときは,原告に
付いてきた。原告は,同被告に対し,特別な気持ちを有しておらず,あくまでも
部下として見てほしい旨を繰り返し伝えたが,同被告は,原告に対し,「手をつ
なぎたい」と言ってきた。原告がその要求を断ると,同被告は,とても不快な表
情をした。
カ 被告Bは,新潟出張の際に撮影した映像を,勤務中,パソコンで繰り返し再
生し,原告に対しても,その映像を見るように強いた。そして,同被告は,原告
に対し,「この間の君だ。自分は,この映像を家に帰ってからも見ることができ
る。社の人間は,自分が何をしても近寄ってこないので,ばれないからかまわ
ない」と言った。原告は,同被告に対し,「見ないでください。私にも見せないで
ください。消去してください」と言って抗議した。
キ 被告Bは,同年11月ころ,打合せの後に喫茶店等に行った際,原告に対し,
「君が口を付けたところから君のジュースが飲みたい。こんな気持ちになった
のは,初めてだ」などと言った。原告は,同被告に対し,「私は,恋愛感情は持
っていない。あなたを異性としては見ていない」ときっぱり伝えた。それにもか
かわらず,同被告は,原告の誕生日に,原告が使用しているデスクの上にプ
レゼントを置き,その上に,原告の上着をかぶせた。出勤してこれを見つけた
原告は,困惑し,同プレゼントをさりげなく他の場所に移して仕事をしたが,同
被告は,その状況を隣でじっと見ていた。原告は,同プレゼントを返還しようと
して同被告のところに持っていったところ,同被告は,「ガラスを削る作業は,と
ても時間がかかった。1週間以上かかったよ」と言い,同プレゼントを原告に対
し強引に押し付けた。
ク 被告Bは,同月から同年12月上旬ころまでの間,原告に対して作業指示書
を交付する際,「Dear 大好きなあなたの笑顔が私の元気になる」などのコメ
ントを必ず付けた。原告は,打合せ等,同被告と話す機会があるごとに,「仕事
にプライベートなことは抜きにしていただきたい」と繰り返し言った。
ケ 原告は,同年11月13日,被告Bに対し,原告の婚約者を紹介したものの,
事態が変わらなかったことから,同年12月,同被告に対し,「あなたの行為
は,セクハラです。とても苦痛で迷惑をしています。セクハラはやめてください」
と言ったが,同被告は,「僕は,セクハラをしているとは思わない」,「君は,人
を愛したことがないんだ。私は,本当に君を愛している。君が何が苦痛なのか
分からない」などと答えた。
コ 被告Bは,平成12年1月になっても,上記クのように,作業指示書に「大好き
な原告さま」,「大好きだ」などのコメントを付けるという行為を続けた。他方,同
被告は,同月,仕事以外の話を一切せず,極力話す機会も作らないようにして
いる原告に対し,あえて作業の指示を出さず,そのやり方も教えず,仕事の締
切りのみを伝えるということもあり,このような不安定な状態が約2か月続い
た。
サ 被告Bは,原告が精神的な疲労のため5日間ほど有給休暇を取得していた
同年3月下旬ころ,原告の自宅に電話をかけ,原告に対し,「原告ですか。僕
の話を聞いてほしい」と言った。
シ 原告が環境計画部に配置換えされた後である同年5月,被告Bは,原告の
机の上に,「河川部に戻ってきてほしい。君に最適の仕事がある。今のこの時
間は,君にとって何一つプラスにならない」旨のメモを2度ほど置き,原告に対
し,河川環境部に戻ることを勧誘した。原告は,元の仕事がしたかったもの
の,同被告の部下になることを考えると苦痛であったので,上記勧誘を無視し
た。その後,同被告は,同年6月,給湯室に入った原告を追いかけてきて,上
記メモと同趣旨のことを述べ,原告に対し,同様の勧誘をしたが,原告は,前
同様の理由で,これを無視した。
ス 被告Bは,同年8月,給湯室に居た原告のところに来て,原告に対し,「君に
ものすごく良い仕事があるんだ。北海道に行ける仕事です。北海道に行きたく
ないか。今この時間は,君にとって何一つプラスにならない」と言った。また,
被告代表者Cは,同月3日,原告に対し,河川環境部に戻る意思があるかを
尋ねた。原告は,考えた挙げ句,同部に戻る旨決意し,同月5日,Cにその旨
伝えた。更に,原告は,被告Bに対し,①今後,原告のことを名でなく姓で呼ぶ
こと,②以前とは席を替えること,③今後,原告を異性として見ないことの3つ
の条件を了承させ,加えて,同被告は,原告に対し,原告があくまで仕事のた
めに同部に戻ることを確認するとともに,同被告において何を考えるかは自由
だとしても,決して言動には出さないことを約束した。このようにして,原告は,
同年9月,再び同部に配置替えされた。
セ 被告Bは,原告に対し,同年10月13日,北海道への出張(なお,最初の2日
間の参加メンバーは,原告及び同被告の2名のみであった。)の指示を出し,
行きの飛行機の座席を隣同士にさせようとした。原告が事前に離れた席を予
約したところ,同被告は,それを知り,不快そうにしていた。
ソ 被告Bは,同月19日,勤務終了後,原告の後を強引に付いてきて,原告の
行く手を遮り,「結婚したい」などと強引に話しかけた。原告が,「プライベートな
話は一切聞きたくない。何も話し合うことはない。先月約束したことはどうなっ
ているのか」と言うと,同被告は,「僕の話も聞いてほしい。明日,時間を作っ
てくれないか。妻とは離婚を考えている。自分は,近い将来,君と結婚するつも
りだ」と言った。
タ 同年12月から平成13年4月ころにかけて,被告Bは,原告に対し,「君のせ
いで病気になった。病気は君が原因だ」,「自分しか出社していない土日を君
も出社扱いにし,君に給料を上げることもできる」などと言った。また,同被告
は,前記スの3つの条件の1つである席替えをしなかった。原告は,同被告と
隣り合う部分に書類等によりできる限り高い壁を作ったが,同被告は,原告し
か部屋にいない時に,わざと,当てつけのように,自分の机を原告の机にもの
すごい音を立ててぶつけたりした。更に,同被告は,原告に対し,深夜まで仕
事をしないと終わらないような量の仕事を与え,原告は,午前二,三時まで残
業しなければならなくなったが,その際,部屋に同被告及び原告の2人だけし
かいなくなることがたびたびあった。
チ 被告Bは,同年6月,原告が参加する必要がないにもかかわらず,同被告及
び原告の2名で新潟へ出張する計画を立て,原告に対し,当該出張の指示を
出した。原告は,あらかじめ,往復の新幹線の座席が別車両になるよう何とか
手配した。
ツ 被告Bは,同月ころ,原告に対し,勤務中,「君が僕の薬を取りに病院へ行っ
てくれ。帰りはお茶してもいい,お金は,僕のを使っていい。他の人ではなく,
君に行ってほしい」と言い,保険証及びお金を渡そうとした。原告は,「なぜ私
が行かなければならないのか。どうしても行きたくない」と断った。このようなこ
とは,二度ほどあった。
テ 被告Bは,数日にわたり,自己の席から仕事中の原告の身体の特定の数か
所(臀部,股間等)をビデオカメラにより長時間ズームで盗撮していた(以下「本
件撮影行為」という。)。原告は,同年8月22日,当該盗撮にかかるビデオテ
ープ(以下「本件テープ」という。)を発見した。
(被告ら)
 原告の主張の柱書は否認する。
ア 原告の主張アは認める。
 被告Bが原告に対して海藻の標本を渡したのは,原告が他の海藻の標本を
見て興味を示したからである。また,手紙の内容は,ユーモアを交えて書いた
までであり,「大切な原告さま」とは,原告が被告会社にとって期待される人材
であるという意味であり,他意はない。
イ(ア) 原告の主張イ(ア)のうち,原告が平成11年8月28日に一過性の病気 で
ある急性肝炎にかかり,入院したこと及び被告Bが同月31日以降,原告が
退院するまでの約1か月間,毎日のように一,二時間の面会に訪れたこと
は認め,その余は否認する。
 被告Bが原告を毎日のように見舞った理由は,①原告にF型肝炎の疑い
があるといわれ,確認の検査が続いていたため,原告の病状をよく知りたか
ったこと,②原告が,入社早々の時期であり,かつ,被告会社における最繁
忙期であるにもかかわらず,同年7月末から2週間の長期夏期休暇を取得
してネパールに遊びにいき,それが原因で長期入院を余儀なくされたことに
対して申し訳なく思い,落ち込んでいたこと,③被告Bとしても,自己が推薦
して原告を採用した手前,原告に頑張ってもらいたいとの思いを有し,また,
上記長期休暇の取得を許可したことで,少なからず責任を感じていたこと,
④原告が「病院の食事はまずい」,「本が読みたい」などと言い,食事や本
の差し入れを希望したこと,⑤原告が,「夕方,足音が聞こえると,部長では
ないかな,早く来ないかな」などと言い,入院後半の時期には,被告Bが見
舞いから帰る際,わざわざ病院前のバス停まで見送りにくるなどしたため,
同被告は,原告において,自分が見舞いにくることを楽しみにしていたと感
じられたことなどである。
 なお,被告Bは,原告が退院した後,原告の実家から,見舞いのお礼とし
て,同被告の妻宛に果物を贈られ,原告の父から礼状を受け取り,また,原
告自身から,ワイシャツの仕立券をもらった。
(イ) 原告の主張イ(イ)のうち,被告Bが原告に対し「家族のように考えている」
と述べたこと及び面会に際しぬいぐるみを持っていったことは認め,その余
は否認する。
(ウ) 原告の主張イ(ウ)のうち,被告Bが一度原告の足の裏を指圧したことは
認め,その余は否認する。
ウ 原告の主張ウのうち,被告Bが原告に対し同年10月ころに同被告の私物の
携帯電話を貸与したことは認め,その余は否認する。
 被告Bは,原告が出張の待ち合わせや打合せに遅刻したり,手違いをしたり
したことがあったことから,不安に思い,連絡用として,原告に対し,携帯電話
を貸与したものである。
 また,原告は,当該携帯電話が被告Bの私物であることを当初から知ってい
たにもかかわらず,平成12年末ころか平成13年1月初めころまで,これを返
却しなかった。
エ 原告の主張エの柱書のうち,被告Bが参加メンバーを同被告と原告の2名,
出張日程を平成11年10月20日から同月22日までと決定したこと並びに原
告及び同被告が新潟県へ2泊3日の日程で出張したことは認め,その余は否
認する。
 なお,新潟出張は,原告に担当させていた川の調査の仕事に関し,同年6月
に行われた現地調査に続く2回目の現地調査のため行われたものであった。
原告は,入院中から,この出張を楽しみにしていたものである。
(ア) 原告の主張エ(ア)のうち,原告及び被告Bが同年10月20日夜に同被 
告の宿泊室において2人で打合せをしたことは認め,その余は否認する。
 同日の打合せは,原告のほうから「打合せをしましょう」と言ってきたため,
行われたものである。
(イ) 原告の主張エ(イ)のうち,被告Bが原告とともに翌21日早朝に鳥の観察
に行ったことは認め,その余は否認する。
 この観察は,前日の打合せの際,原告が「鳥の観察をしたい」と希望を述
べたことから行われたものであり,当日,被告Bは,原告からの電話で目を
覚ましたものである。
 また,当該観察を行った時はかなり寒かったため,被告Bと原告が手をつ
なぎ,同被告のコートのポケットに手を入れて温めたことがあったが,原告
がそれを嫌がったという事実はなく,むしろ,原告は,「部長の手は,温か
い」と述べたりした。
(ウ) 原告の主張エ(ウ)のうち,原告と被告Bが同日夜から翌22日午前3時こ
ろまで同被告の宿泊室において話をしたことは認め,その余は否認する。
 同被告が原告と話したのは,原告から「ネパール人の彼氏(以下「訴外ネ
パール人男性」という。)のことで悩んでいるので話を聞いてくれ」と言われ,
同被告において,その相談に乗ったものである。原告は,その際,同被告に
対し,「私のこと,嫌いにならないでくれますか」と言った。また,原告は,同
月22日に近くの山に登ることを希望し,同被告は,原告とともに,同日,登
山をした。
(エ) 原告の主張エ(エ)のうち,被告Bが同日の帰りの新幹線の中で原告の隣
 に座り,原告の腕をつかんだことは認め,その余は否認する。
 当初,原告と同被告は,別々の席に座っていたが,3列の中央席に座って
いた原告の隣の席(通路側)が空いたため,同被告は,原告に呼ばれ,座
席を移動した。同被告は,うとうとしていた原告の頭が窓側に座っていた乗
客の方に傾き,同乗客が少し嫌な顔をしたのに気付いたことから,原告の
腕をつかんで,原告が倒れないようにしたものである。
オ 原告の主張オのうち,原告が同月31日及び同年11月7日に休日出勤をし
たこと並びに仕事の後,原告及び被告Bが同年10月31日にデパートに,同
年11月7日に展覧会にそれぞれ行ったことは認め,その余は否認する。
 原告が休日出勤したのは,その自発的な意思によるものであり,同被告の
指示によるものではない。
 仕事の後,同被告は,同年10月31日,原告が祖母のプレゼントを購入した
いというのでデパートに付き合い,同年11月7日,原告から祖母の鎌倉彫の
作品の展覧会があるとの案内はがきを見せられたため,同展覧会に付き合っ
たものである。
カ 原告の主張カうち,被告Bが新潟出張の際にビデオカメラで撮影した映像を
繰り返し見たことは認め,その余は否認する。
 同被告は,新潟出張の際,現地調査の一環として現地の状況をビデオカメラ
で撮影したものであり,その映像の一部に原告が写っていたことはあったが,
それは,ことさら原告を撮影する目的で当該撮影をした結果によるものではな
い。
 同被告が当該撮影にかかる映像を繰り返し見たのは,仕事上の報告書を作
成するためである。なお,同被告は,その仕事を原告にも頼み,原告も,その
ため,同映像を何度も見ているものである。
キ 原告の主張キのうち,被告Bが原告の誕生日にプレゼントを贈ったことは認
め,その余は否認する。
 原告が退院してから同年11月第1週までは,原告の同被告に対する態度
は,ごく普通であり,むしろ,同被告には,原告が同被告を上司として慕ってい
るように感じられた。同被告は,自ら推薦して原告が採用されたということもあ
り,原告に対し,部下として頑張ってほしいという思いを持っていたが,恋愛感
情などは全く有していなかった。したがって,原告と同被告との間で,恋愛感情
云々という話をしたことなど全くない。
 誕生日のプレゼントについては,「部下としてご苦労さん」という意味で贈った
ものであり,それ以上の意味はない。なお,同プレゼントは,ガラス板にイラス
トを描いたものであるが,原告は,同プレゼントを受け取った日,「きれいです
ね。でも,(ガラス板に描かれている)小熊のイメージは,私ではなく部長です。
私が好きなのは,アールヌーボーで,今度教えます。母に見つかったら,誰か
らもらったと言われる」などとはにかんで言っていたものである。
ク 原告の主張クのうち,被告Bが同年10月ころ原告に対する作業指示書に「D
ear 大好きなあなたの笑顔が私の元気になる」と書いたことは認め,その余
は否認する。
 同被告が上記のとおりのコメントを書いたのは,原告が退院してから間もなく
の時期である。それは,「元気を出して頑張りましょう」という意味であり,他意
はない。
 前記キのとおり,同年11月第1週までは,原告の同被告に対する態度は,
ごく普通であり,同被告が原告から抗議を受けるなどしたことはない。
ケ 原告の主張ケのうち,被告Bが同月13日に以前から話を聞いていた訴外ネ
パール人男性を原告から紹介されたことは認め,その余は否認する。
 原告から訴外ネパール人男性が原告の婚約者であるとの話は出なかった。
また,同被告は,最初に挨拶をした以外,原告や訴外ネパール人男性とほと
んど話をしなかった。
 原告は,同月上旬に訴外ネパール人男性が来日して以降,同被告に対する
態度を大きく変え,それまで「部長」と呼んでいた同被告のことを「Bさん」と呼
ぶようになり,また,同被告を避けるように同被告の席から一番遠いところにあ
るパソコンを使用して仕事をするようになり,更に,それまで頻繁に同被告に
仕事の相談をしたり,同被告の指示を仰いだり,確認を求めたりしていたの
が,それらをほとんどせず,無口になり,残業もほとんどせず,定時になると急
いで退社するようになった。
 同被告が同年12月に原告と話をしたのは,同月20日の1日だけであるが,
その際,原告と,次のような会話をした。
同被告「最近元気がないが,何かあったの」
原告「そんなことはありません」
同被告「急に呼び方を変えたりして,何かあるのでしょう」
原告「皆がBさんと呼んでいるからそうしただけです。(急に)私は,   断れな
い」
同被告「何が。何か無理なことをあなたに要求していますか」
原告「私は,一人の人を愛し続けたい。彼とも別れることにしました。前   か
ら考えていた。煮詰める前に話せばよかったと思っている。携帯   電話は,
少ししたら返します」
コ 原告の主張コは否認する。
 原告は,平成12年1月ころ,仕事に全くやる気を見せず,被告Bは,原告に
対して文書で作業指示をしても意味がないことから,原告に対する作業指示を
ほとんど口頭で行っていた。
 また,原告に担当させていた仕事について,あえて作業指示を出さないこと
はあり得ない。
サ 原告の主張サのうち,被告Bにおいて,同年3月下旬,原告が休暇を取得し
ていた際に,一度原告に電話をかけたことは認め,その余は否認する。
 被告会社においては,休暇等の連絡を直属の上司を経由して行うこととされ
ており,原告も,平成11年末までは,これに従っていたところ,平成12年3月
下旬に休暇を取得した際には,上司である被告Bに全く連絡をしないというこ
とが数回続いたため,同被告は,休暇を取得するときは自分に直接連絡する
よう注意するため,また,休暇を取得する理由を確認するため,原告に一度電
話をかけた。電話に出た原告は,非常に慌てた様子で,「今用事がありますの
で,困ります。これから二,三日,旅行に行く予定です」などと趣旨不明のこと
を述べた。
シ 原告の主張シは否認する。
 被告Bは,同年5,6月,原告と全く接触していない。
ス 原告の主張スのうち,被告Bが同年8月後半ころに給湯室に居た原告に対し
て北海道の標津川河畔の調査の仕事につき「どうするの」と聞いたこと,Cが
同年10月1日付けで原告を河川環境部へ配置替えすることを許可したこと並
びにその直前ころに被告Bが原告に対して原告主張にかかる3つの条件のう
ち①及び②につき了承したことは認め,その余は否認する。
 同年8月後半,河川環境部において,従前から話のあった標津川河畔の調
査の仕事を依頼されることが正式に決まったところ,被告Bは,同部において
人員が不足していたこと,従前から当該調査を依頼されることが正式に決まっ
たときは原告に担当させようと考えていたこと,原告が環境計画部でトラブル
を起こすなどし,能力のない社員をよその部に押し付けたとの声も聞かれてお
り,少しでもやりがいのある仕事を与えて発憤を期待したことなどから,原告に
対し,そのころ,当該仕事をやる気があるかメールで打診した。これに対し,原
告からしばらく応答がなかったが,たまたま同被告が給湯室の入り口で原告と
鉢合わせをした際,「どうするの」と尋ねたところ,原告がやる気を示したので,
同被告は,原告に対し,当該仕事を担当させることとし,原告及び女性新入社
員の2名を同月30日から3日間の予定で現地調査に行かせた。当該出張の
前後ころ,同被告は,原告から,原告が河川環境部に戻ることを希望している
旨聞かされたので,これに賛成し,Cにその旨伝えたところ,Cは,当初,原告
が同部に戻ることに反対していたが,原告の同部に戻りたいとの気持ちが強
く,また,熟慮するようCから指示を受けた原告がCに対し同年9月20日付け
のメールで同部に戻る旨の希望を再度伝えてきたことから,同年10月1日付
けで,原告を同部に配置替えすることを許可した。その直前ころ,被告Bは,原
告から,「お願いがある」として,原告主張にかかる3つの条件を言われたが,
その③については,同被告において最初から原告に対する恋愛感情など有し
ていなかったため,原告が恋愛感情のことをいう趣旨を理解しないまま,「女性
は体力的にも男性とは異なるので,同じに扱うのは無理」との的外れの回答を
した。
セ 原告の主張セのうち,被告B及び原告が同年10月13日に飛行機で北海道
へ出張に行ったことは認め,その余は否認する。
 なお,Cは,念のため,出張から戻ってきた原告に,出張の際に何もなかった
かを確認し,原告から,何もないとの報告を受けたものである。
ソ 原告の主張ソは否認する。
 同月19日,被告Bが出社すると,原告は,席の左隣に紙を広げて目隠しを
作っていたため,同被告は,訳を問いただすため,原告の勤務が終了した後,
渋谷駅までの帰り道を歩きながら原告と話をした。同被告が「なぜ見苦しい壁
を作るのか。なぜ勝手な行動をとるのか。なぜ仕事に集中できないのか」など
と問うたところ,原告は,「私はそういう人です。話はない」と答えた。渋谷駅で
いったん別れた後,原告は,会社に戻ろうとした同被告を追いかけてきて,「私
にはパートナーとして決めた人がいる」と突然言い出し,同被告は,「それは良
いことじゃないの」と答えた。
 原告は,翌20日から同月27日までの間,一,二日出社したのみで,大半は
会社を休んだ。その後,原告は,同月29日,会社に居た同被告に突然電話を
かけ,「今から会いたい。一人ではないがよいか」と言ったので,同被告は,原
告及び訴外ネパール人男性と渋谷駅前の喫茶店で会った。同被告は,訴外ネ
パール人男性に対し,「彼女をしっかりと幸せにしてあげなさい」などと話した。
その際,原告は,原告の父親の話として,「セクハラでAを訴えることもできる。
でも,そんなことをしたら,Aはつぶれる。別におしりを触られたわけではない
けど」と唐突に述べた。更に,原告は,「もしかしたら,(同被告は)私がBさんを
好きだと思っていたのではないか。それなら分かる」と言った。同被告が原告
から「セクハラ」との言葉を聞いたのは,この時が最初で最後である。そして,
別れ際,原告は,「会社を1か月くらい休む」と言ったため,同被告は,原告に
代わり,家庭の都合で1か月休むとの休暇願を被告会社に提出した。
タ 原告の主張タは否認する。
 原告は,同年12月から平成13年1月にかけて,ほとんど残業をせず,定時
に帰宅していたため,被告Bは,原告に対し,「残業や休日出勤ができないな
ら,自宅で仕事をした分について,残業として申請してもよい」と話し,実際,原
告の希望により,業務に使用するデータベースソフトを年末に貸与したりした。
 原告は,河川環境部に戻るに際し,同被告に頼んで席替えをしており,原告
の席と同被告の席は,離れていた。したがって,同被告がその机を原告の机
にぶつけるなどということは,物理的に不可能である。
 原告が深夜残業をしたことは2回あるが,いずれも同被告が強制したもので
はない。うち1回については,休日に行われたものであるが,原告は,朝から
出社すると言いながら,午後になっても出社せず,同僚の女子社員の電話に
より,午後2時ころになって出社したため,仕事が終わらず,深夜に及んだとい
うものである。
 なお,原告は,1か月間休暇を取得していた平成12年11月末,同被告に対
し,「まだ会社に居場所があるなら,12月1日から出社したい」旨連絡し,同被
告は,「待っている」と答えた。原告が出社するようになってから二,三日後,同
被告は,原告から,「今後のことについて話を聞いてほしい」と言われ,会社近
くの喫茶店で話を聞いたところ,原告は,「会社を辞めることにした。私は,Dさ
ん(後輩の女子社員)と同じようには働けない。ライフスタイルが違う。会社を
休んでいる間,給料が出なかったのでお金がない。去年は,休んでいても給料
がもらえた。私は,お嬢様ではないので,働かなければならない。でも,職を探
したけれど,ウエートレスくらいしか仕事がない。私は,少し被害妄想的なとこ
ろがあるから,いろいろ考えてしまう。私のことを親身に思っているのなら,就
職先を探してほしい」と話した。しかし,その後も,原告は,会社を辞めることな
く出社するものの,仕事にまじめに取り組むことはなかった。
チ 原告の主張チのうち,平成13年6月に新潟へ出張に行ったことは認め,その
余は否認する。
 被告Bは,原告に対し,新潟の河川の仕事を担当させており,当該出張は,
この仕事のためのものであって,必要性のあるものであった。
 なお,帰りの時間は未定であるから,帰りの新幹線の座席が別車両になるよ
うあらかじめ手配するなどということは,不可能である。
ツ 原告の主張ツのうち,被告Bが,原告に対し,一度,昼休みに自己の薬を病
院に取りにいってくれるよう依頼したことがあること及び原告がそれを拒否した
ことは認め,その余は否認する。
 同被告が原告に対して上記依頼をした理由は,多忙で自ら取りにいく時間が
なかったこと及び病院の場所を知っている者が当時原告しかいなかったことで
ある。原告は,「病院は嫌な思い出があるから,アルバイトに頼んでいいです
か」と言い,翌日,「アルバイトに取りにいかせた」と言って,同被告に薬と釣り
銭を渡した。
テ 被告Bが自分の席から本件撮影行為を行ったこと及び原告が同年8月22日
に本件テープが発見されたことは認める(ただし,本件撮影行為は,いわゆる
盗撮ではない。)。
 原告は,同日以前から,本件撮影行為が行われていたことに気付いており,
本件撮影行為は,いわゆる盗撮というものではない。
 同被告は,原告に大いに期待し,原告に対し,何かと支援するなどしていた
にもかかわらず,原告は,同被告の期待を裏切り,仕事にやる気を見せない
ばかりか,同被告から言い寄られたなどという事実無根の話をC及び被告会
社の社員に言い回るなど,被告Bに対し,恩をあだで返すがごとき行動をとり,
更に,平成12年12月には会社を辞めると宣言しながら,一向に辞める気配
を見せず,仕事に対していい加減な態度をとるなどした。同被告は,そのよう
なことから,毎日思い悩み,いらいらした日々を過ごし,ついには,慢性の神経
性胃炎を患うまでになったところ,平成13年3月ころ,ビデオカメラの誤作動に
より,たまたま原告を撮影してしまったことがあり,その映像に写っている原告
を見るうち,怒りがわき上がり,それ以降,原告に対する怒りが生じた際,その
はけ口として,時々,原告の姿をビデオカメラで撮影することがあったものであ
る。したがって,本件撮影行為は,問題行動ではあるものの,同被告の原告に
対する性的興味等から行われたものではない。
 原告は,本件テープを発見した当日,これを再生し,また,河川環境部の部
員全員にも呼びかけ,その映像を再生して見せたものであるが,その様子は,
何か勝ち誇ったという感じであり,また,方々に電話をかけて本件ビデオのこと
を伝えるなど,原告がショックを受けて落ち込んでいるという様子ではなかっ
た。
 同被告は,翌日に出社した際,前日の件をCに確認され,本件撮影行為を認
めた上,部員を集めてもらって謝罪をした。原告は,同被告に対し,「私に対し
て何をしてくれるのか。それを聞いて考える」と言った。
(2) 争点(2)(被告Bの原告に対する不法行為の成否)について
(原告)
ア 争点(1)における原告の主張のとおり,被告Bは,上司であるという雇用上の
関係から原告が同被告に逆らえない状況にあることを利用し,原告が女性で
あることに着目した上,原告が望まない状態を強要したり,原告が望まない言
動(性的言動を含む。)をとったりしたものであり,これら一連の行為は,原告
に対する不法行為に該当する。
イ 被告Bは,原告が明確に行った拒否を見過ごし,また,拒否したくともできな
い状況に気付くこともなく,更に,セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」と
いう。)の何たるかについて何の理解も持たず,本件撮影行為のような行為を
なぜか分からないがやってしまうという程度の規範意識で,争点(1)における原
告の主張のとおりの一連の行為を行い,原告の職場環境を害したものであ
る。したがって,本件撮影行為はセクハラに該当するがその余の行為はこれと
異質のものであると捉えるべきではなく,上記一連の行為の全体につき,同質
的な意思に貫かれた行為が継続されたと考えるのが相当である。
ウ なお,被告らが主張するような「嫌なら断れるはずである」,「礼を言うのは感
謝していた証拠である」などの考えは,職場内での女性労働者の言動を額面
どおりにしか理解しないものであり,これは,被告らが職場における女性労働
者の置かれた立場に対する理解のなさを示すものである。
(被告ら)
ア 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配
慮すべき事項についての指針(平成10年3月13日労働省告示第20号)」に
よれば,セクハラとは,「職場において行われる性的な言動に対する女性労働
者の対応により,当該労働者が労働条件につき不利益を受けること(対価
型)」及び「当該性的な言動により女性労働者の就業環境が害されること(環
境型)」をいうとされているところ,環境型セクハラに該当するか否かは,女性
労働者の主観のみによって決せられるものではなく,行為の客観的性質から,
一般に,それが女性労働者に不快や嫌悪の感情を抱かせるものであるとき又
はそのような行為でない場合でも,行為者が,女性労働者から当該行為を拒
否されるなどにより,当該労働者が当該行為を嫌がっていることを知りなが
ら,社会通念上許される範囲を超えて執拗に当該行為を繰り返したときに初め
て,当該行為は,環境型セクハラに該当すると解すべきである。
イ 本件撮影行為を除く被告Bの行為について
 本件撮影行為を除く被告Bの行為につき,原告がセクハラであると主張する
もの(①海藻の標本及び手紙の手交,②入院中の見舞い及び足のマッサー
ジ,③私物の携帯電話の手交,④新潟出張の際のビデオ撮影,手をつなぐ行
為及び新幹線車中で手をつかんだ行為,⑤休日出勤の際にデパート等に付
いてきた行為,⑥誕生日のプレゼント,⑦作業指示書へのコメント)について
は,仮に,同被告が原告に対して異性としての恋愛感情をもってこれらの行為
を行ったとしても(なお,同被告は,原告に対し,恋愛感情を抱いていなかっ
た。),これらの行為は,いずれも,その客観的性質に照らし,そのこと自体,
セクハラに該当するというものではないし,また,原告が同被告のこれらの行
為を歓迎していない旨の意思を表示したのは,これらの行為が行われた後で
ある平成12年3月1日(原告がCに同被告のことにつき相談した日)であるか
ら,これらの行為は,いずれも,同被告が原告の拒絶にもかかわらず執拗に
行ったものであるということはできない。以上からすると,同被告によるこれら
の行為は,仮に,原告が内心において不快を感じていたとしても,セクハラに
は該当しないというべきである。
ウ 本件撮影行為について
(ア) 本件撮影行為は,不適当な行為であったが,それが不法行為であると 
いえるほどの違法性を有するか否かについては,撮影内容,撮影の意図及
び撮影に至る経緯,被害者が受けた被害の程度,当該行為に対する行為
者の態度,行為者が受けた制裁等を考慮して決すべきである。
(イ) 本件撮影行為は,原告の身体の部位を特別に撮影したものであって,客
観的にみても,原告を不快にさせるものであったといえるが,他方,本件テ
ープに写っているのは,原告が外部の者に日常さらしている洋服を着た姿
であり,特別な部位を特別な目で見られるのでなければ,見られてもプライ
バシーの侵害になるようなものではなく,また,内容的にもわいせつなもの
ではない。したがって,本件撮影行為による法益侵害の程度は,軽微であ
る。
(ウ) 被告Bが本件撮影行為を行った経緯及び当該撮影の意図は,争点(1)に
おける被告らの主張テのとおりであるほか,原告は,本人尋問においても,
平気で嘘八百を並べて偽証(これは,犯罪行為に該当する。)をするなど言
いたい放題を尽くし,その結果,同被告は,慢性の神経性胃炎になったとい
うのであるから,同被告には同情すべき点も多く,他方,原告にも大いなる
落ち度が認められ,どちらが被害者か分からないほどである。
(エ) 原告は,自己主張の強い人物であり,本件テープを発見した日,河川 
環境部の部員を集めてこれを見せようとしたり,すぐに渋谷警察署に行って
被害を訴えたり,被告らに対して,「謝るだけでは駄目です。私に何をしてく
れますか。それを聞いて考えます」と明確な権利主張をしていることなどか
らすると,本件撮影行為により原告が精神的に重大な被害を被ったというこ
とはできない。また,原告は,従前から被告会社を退職することを考えてい
たものであり,本件撮影行為により退職に追い込まれたものではない。以上
からすると,本件撮影行為により原告が受けた被害の程度は,大きいとは
いえない。
(オ) 被告Bは,本件撮影行為が発覚した後,すぐに,原告の面前で,「恥ずか
しいことをしました」と言って頭を下げ,丁寧に謝罪をした。また,本件撮影
行為により,被告会社の取締役・河川環境部部長を解任されたほか,減給
処分及び1か月の出社停止処分(自宅作業)を受けている。このように,被
告Bは,本件撮影行為という自らの行為を十分に反省し,物心両面におい
て大いなる制裁を受けている。
(カ) 以上からすると,本件撮影行為には,不法行為であるといえるほどの違
法性はないというべきである。
(3) 争点(3)(損害)について
(原告)
ア 原告は,前記(1)における原告の主張のとおりの被告Bの一連の行為により,
当初から不安と恐怖を感じていたが,同被告の行為は,エスカレートする一方
であり,原告は,その都度,ショックを受け,精神的に傷つき,体調をも崩すよ
うになり,食欲不振及び情緒不安定の状況に陥った。原告は,通院しながら,
時々休暇を取得して勤務を続けていたが,平成13年8月22日,医師から,治
療のためには会社との遮断状態をとることが必要である旨の診断を受け,同
年9月から,20日間の入院を余儀なくされ,その後も,療養及び休職をせざる
を得なくなった。
イ 被告会社は,平成14年3月19日付けで原告を解雇し,原告は,現在の就職
難の状況の中で,自己の専門性を生かせる仕事を失うという甚大な被害を被
った。
ウ 原告は,被告らが本訴において本件撮影行為につき法益侵害の程度が軽微
であるなどと強弁することにより,更なる打撃を受け,現在もトラウマに苦しめ
られている。
エ 上記アないしウにより原告に生じた具体的な損害及びその額は,次のとおり
であり,その合計額は,472万7138円である。
(ア) 休業損害              合計134万1939円
a 平成13年9月から平成14年3月19日までの休暇分            
               102万8833円
(計算式)(249,000-149,400)×6+431,233=1,028,833
       (平成13年中の月収-社会保険)×月数+平成14年冬の賞与
b 平成12年3月中の有給休暇(通院目的)5日分 5万2420円
(計算式)238,050×5÷22=52,420(原告主張のまま)
 平成12年中の月収×休暇日数÷月勤務日数
c 平成12年11月の休暇分          23万8050円
d 平成13年4月から同年6月までの休暇(通院目的)2日分
                         2万2636円
(計算式)249,000×2÷22=22,636
 平成13年中の月収×休暇日数÷月勤務日数
(イ) 逸失利益                102万8833円
 平成14年3月20日から6か月間の求職期間における逸失利益
(計算式)(249,000-149,400)×6+431,233=1,028,833
(平成13年中の月収-社会保険)×求職期間+平成14年夏の賞与
(ウ) 入通院費用                15万6366円
(エ) 慰謝料                     200万円
(オ) 弁護士費用                    20万円
オ なお,被告らの後記主張イ(原告の病名がPTSD及び自律神経失調症であ
る旨記載された診断書(甲3)の作成経緯)は事実に反するものである。
(被告ら)
ア 原告の主張のうち,原告が平成14年3月19日付けで被告会社を退職したこ
と及び本件撮影行為が問題行動であり,これにより原告が不快な思いをしたこ
とは認め,医師の診断内容及び原告の入院状況については知らず,その余は
否認し,争う。
イ 原告の診断書を作成した医師は,Cに対し,同医師は内科医にすぎない旨及
び診断書(甲3)の内容は原告が言うままに記載したものであり,客観的な根
拠は示せない旨回答した。
ウ 争点(2)における被告らの主張ウ(エ)のとおり,本件撮影行為によって原告 
が精神的に重大な被害を被ったということはできないし,また,原告は,本件
撮影行為によって,退職に追い込まれたものではない。
エ 本件撮影行為により原告が不快な思いをしたことについては,争点(2)におけ
る被告らの主張ウ(オ)のとおり被告Bが謝罪していること及び同被告に対する
出社禁止・減給処分がなされていることに加え,被告会社の原告に対する配
慮等の適切な対応により,その被害が回復されている。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告Bの原告に対する言動の有無,内容,同被告の意図等)及び同(2)
(同被告の原告に対する不法行為の成否)について
(1) 認定事実等
 当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1ないし4,11の1及び2,甲12,
乙2の2,乙3,4の2及び3,乙6,7,8の1,乙9,13ないし15,原告本人,被
告会社代表者,被告B本人)及び弁論の全趣旨によって認められる事実は,次
のとおりである。
ア(ア) 被告Bは,平成11年8月,同被告が学生時代(昭和52年ころ)に 作成
し,その後も保管していた「ほそゆかり」なる海藻の標本を,次の趣旨の記
載がされた手紙を添え,「後で読んで」などと言って原告に手渡した。
「この『ほそゆかり』には,一つの物語がある。今から約20年前,一人の学
生がいた。彼は,当時,まれにみる美少年であり,海辺に下宿しながら,海
藻の勉強をしていた。彼は,生えていた海藻の美しさに感動して,3枚の標
本を内緒で作っていたが,ある人の奥様に見つかってしまった。その人から
『あら,B君,きれいね。私のために作ってるんだよね』などと言われ,美少
年は,『はい』と言わざるを得なかった。この奥様の勢いに負け,1枚の『ほ
そゆかり』の運命は決まった。美少年は,思った。『残りの2枚は,いつの日
か,彼女に渡そう!』。それから2年後,社会人になった美少年は,入社1年
で結婚退職する新入社員にせがまれて,1枚上げた。それから,あっという
間に20年がたった。20年前の美少年は,海から川へ仕事を変えてしまい,
海藻のことなどすっかり忘れていた。そんなある日,ふとしたことから『ほそ
ゆかり』のことを話題にした元美少年は,あと1枚残っている標本を探した。
『ほそゆかり』は,あった。20年の歳月を経ても変わることなく,繊細で淡い
ピンク色の美しい姿のままで。そうだ! 最後の1枚は,20年前の思いどお
りに,大切な『彼女』へ上げよう!! 大切な原告さまへ すっかり面影がな
くなった元美少年より」
(イ) 原告は,上記のとおり,被告Bから上記海藻の標本を手渡された際,これ
を拒絶したり,これに対して異議を述べたりすることはなく,上記手紙を読ん
だ後も,同標本や同手紙を同被告に返還したり,同被告に異議を述べたり
することはなく,また,これらを廃棄したりすることもせずに,放置しておい
た。
イ(ア) 原告は,同月28日,急性肝炎により入院したところ,被告Bは,同 月31
日から原告が退院するまでの約1か月間,ほぼ毎日,面会に赴き,おおむ
ね一,二時間程度,原告と過ごすという日課を送った。
(イ) 同被告は,上記のとおり面会に赴いた際,原告に対し,「足を出してごら
ん」などと言い,原告の足のマッサージをしたことが一度あった。
(ウ) 原告が退院した後,原告の父は同被告に対し礼状を送り,原告の母は
同被告の妻宛に果物を贈り,また,原告は同被告に対しワイシャツ及び仕
立券を手渡した。
ウ 被告Bは,同年9,10月ころ,仕事のための打合せの帰りに,原告と手をつ
ないだ。
エ 原告は,同年10月上旬ころ,被告Bが上記イ(ア)のとおり毎日のように 面
会に来たこと及び上記ウのとおり同被告が原告と手をつないだことにつき,被
告会社の社員であるEに相談し,「そういうのは普通なのか」などと尋ねた。そ
の後も,原告は,被告Bにどのように対応したらよいかにつき,Eに相談し,同
人は,Cに話すよう助言した。
オ(ア) 原告及び被告Bの両名は,同年10月20日から同月22日まで,2 泊3
日の日程で,新潟出張に赴いた。
(イ) 同被告は,同月21日の早朝,鳥の観察のために訪れた山中において,
原告と手をつないだ。
(ウ) 同被告は,同日午後9時ころから翌23日午前3時ころまでの間,自己の
宿泊室において原告と話をし,その際,原告に対し,特別な感情を持ってい
る趣旨の告白をした。これに対し,原告は,同被告に対し,交際している男
性がいることなどを話した。
(エ) 同被告は,同日,帰りの新幹線の車中において,隣に座っている原告 
の腕をつかんだ。
カ 原告は,同月25日(入院していたEが退院した日)の後ころ,Eに対し,「被告
Bから『彼がいても良いから,将来も一緒に生きていきたい』ということを言わ
れた」などと打ち明けた。
キ(ア) 被告Bは,同月30日(土曜日)の勤務終了(午後6時)後,デパー トへ行
くと言った原告に付いて,一緒にデパートへ行った。
(イ) 同被告は,同年11月7日(日曜日)の勤務終了(午後6時)後にも,展覧
会に行くと言った原告に付いて,一緒に展覧会に行き,その帰り,原告に対
し,「手をつないで帰ろう」と言った。
ク 被告Bは,同月ころ,原告に対し,ガラス板にイラストを描いた手作りの作品
を原告の誕生日(同月13日)のプレゼントとして贈った。
ケ 被告Bは,同年秋ころ,作業指示書に「Dear 大好きなあなたの笑顔が私の
元気になる」などのコメントを付し,これを原告に手渡した。
コ 原告は,同年11月13日(土曜日),交際していた訴外ネパール人男性を被
告会社に呼び,被告Bに紹介した。なお,原告は,同日,休日勤務のために出
社したものではなかった。
サ 原告は,平成12年1月ころ,被告会社の社員であるFに対し,被告Bのこと
で悩んでいる旨相談した。その後,Fは,同年2月下旬ころ,Cに対し,原告の
相談に乗ってやってほしい旨依頼し,続いて,原告は,同年3月1日,Cに対
し,原告の入院中に被告Bが毎日のように面会にきたことや,同被告から個人
的なことを言われたりして仕事が手に付かない状態にあり,困っている旨訴え
出た。Cは,同月上旬ころ,同被告が上記のとおり面会に行ったことなどが職
務上必要でない行為であったと判断し,同被告に対し,今後そうした行為を慎
むよう注意し,また,同月中旬ころ,原告が同被告の言動により仕事ができな
い状態にあると判断し,原告を同年4月1日付けで環境計画部に配置換えす
る旨決定した。
シ その後,被告Bは,原告に対し,同年8月ころ,北海道標津川河畔の調査の
仕事があることを紹介し,当該仕事をする気があるか否かを尋ねた。環境計
画部における仕事に満足していなかった原告は,当該調査の仕事をしてみた
いという気持ちが強く,同被告に対し,同月25日,当該仕事に携わることにつ
いて積極の回答した。そこで,同被告は,原告及び他の社員1名(D)を同月3
0日から同年9月1日までの3日間の予定で標津川へ出張させたところ,原告
は,更に1日,現地に残って調査を続けた。なお,被告Bは,このころ,原告に
対し,河川環境部に復帰するよう勧めた。
ス 上記シの仕事の件を契機として,原告が河川環境部に復帰するか否かとい
う問題が持ち上がった。これに対しては,C,被告B,環境計画部の幹部等が
それぞれ見解を表明するなどしたが,最終的には,原告が,被告Bに対し,同
年9月ころ,①今後,原告のことを名ではなく性で呼ぶこと,②以前とは席を変
えること,③今後,原告を女性として見ないことを要望し,また,Cに対し,同月
20日,「現在は,住民参加型の委員会の仕事に携わっているが,現在の自分
の経験,知識及び考えが乏しいことを痛感する。しかし,事務的な作業等に追
われてしまい,自分が補いたい面に関しては,なかなか前に進まない状況で
ある。現在したい仕事内容に近いものは,河川環境部の仕事かなと思う。過去
の経験があるので,同部への転部を強く希望できない。現在抱える自分の不
安と転部した後生じるかも知れない不安とを比較すると,現在の不安をなくし
たいという気持ちが強いということから,結果的には,転部希望というところで
ある」旨回答したことなどから,Cは,同年10月1日付けで原告を河川環境部
に再配置する旨許可した。
セ 被告Bは,同年10月19日(木曜日),午後9時ころに勤務を終えた原告が帰
宅する際,渋谷駅まで同行し,原告が「プライベートな話は聞きたくない」などと
仕事に関係しない会話を拒否したにもかかわらず,「近い将来,君と結婚した
い」などと告白した。原告は,翌20日並びに翌週23日及び24日には出社し
たものの,同被告から上記のとおり告白されたことにより,これ以上同被告と
関わりたくないなどと考えて,退職することも視野に入れるようになり,翌25日
から翌月30日までの1か月以上にわたり,出社しなかった(なお,被告会社
は,同年10月25日から同月30日までを振替休日,同月31日から同年11月
15日までを有給休暇,同月16日から同月30日までを欠勤としてそれぞれ処
理した。)。この間,原告は,同年10月29日,訴外ネパール人男性とともに被
告Bと面談し,原告の父親がしていた話として,セクハラで被告会社を訴えるこ
ともできるなどと述べた。
ソ 原告は,同年12月1日から,再度,出社するようになったが,同月4日ころ,
被告Bに対し,「会社を辞めることにした。Dさんと同じようには働けない。親身
に思ってくれるのであれば,就職先を探してほしい」などと話した。また,原告
は,環境計画部の元上司に対する平成13年の年賀状においても,退職を示
唆する添え書きをした。
タ しかし,原告は,その後も,被告会社を退職することなく,河川環境部におい
て勤務していたところ,被告Bは,平成13年春ころから,自己の座席におい
て,他の者から見えないような位置に置いたビデオカメラで原告の身体の特定
の部位をズームアップで撮影するという行為(本件撮影行為)を行うようにな
り,その後,同年8月22日,原告外1名により,本件テープが発見された。本
件テープには,原告の臀部,腹部,胸部,上腕部,わきの下の周辺部分,大腿
部,股間等のそれぞれが被写体として撮影されていた。
チ 原告は,同日,河川環境部の他の部員等にも本件テープを見てもらい,ま
た,Cにも本件テープを見せ,上記タのとおり撮影されたことを訴え出た。翌23
日朝,原告は,渋谷警察署に相談に行った。更に,同日,原告,被告B,Cらに
おいて話合いの機会が持たれたところ,被告Bは,その場において,原告に謝
罪した。原告は,同被告に対し,「謝るだけではだめです。私に対して何をして
くれますか。それを聞いて考えます」などと述べた。
ツ 原告は,上記チの話合いの後,仕事に戻ったが,同日午後2時30分ころ,C
に対し,「先程の話合い等では気を張っていましたが,今は,仕事をしようと試
みているものの,昨日見た映像を思い出してしまい,涙が出て仕事にならない
状況です。今までの経緯があり,今回,自分のあんな映像を見たことで,自分
自身,おかしくなりそうです。急ぎの仕事は終わらせました。今日は,帰宅させ
ていただきます」などと記載したメールを送信し,帰宅した。
テ 原告は,このころ,医師による治療を必要とする程度にまで心身の健康を損
ない,入通院及び自宅療養のため,上記ツのとおり同月23日に勤務したのを
最後に被告会社に出社することができない状態となり(なお,被告会社は,同
月24日から同年9月7日までを特別休暇,同月10日から同月19日までを有
給休暇,同月20日以降を休職としてそれぞれ処理した。),結局,前提事実(3)
のとおり,平成14年3月19日付けで,被告会社から退職扱いとされた。
ト なお,原告が争点(1)における原告の主張として挙げるその余の各事実につ
いては,これらを認めるに足りる確たる証拠がないか,又はその主張自体,原
告に対する不法行為に該当しないものであるというべきである。
(2) 不法行為の成否について
ア およそ労働者は,その性別を問わず,健全な就業環境の下で労務に従事す
る権利を有し,管理職にある者は,自己の部下に当たる労働者の就業環境を
害してはならないことはいうまでもないところ,管理職にある者が異性の部下
を有する場合には,社会的に相当であると認められる限度を超えて当該部下
を異性として扱ったり,当該部下に異性として接したりすることにより,当該部
下に不快感を覚えさせるなどしてその就業環境を害しないよう十分配慮すべ
き注意義務を負い,管理職にある者が,これを怠り,当該限度を超えて,当該
部下を異性として扱ったり,当該部下に異性として接したりすることにより,当
該部下に不快感を覚えさせるなどしてその就業環境を害したときは,私法上も
違法性を帯び,当該部下に対する不法行為が成立すると解すべきである。
 そして,一般に,部下が管理職にある者に対して明示的に異議を述べたり,
管理職にある者の言動を明示的に拒絶したりすることには相当の決意や勇気
が必要であるといえることに加え,とりわけ,部下が女性である場合には,これ
まで,我が国の男性の人権感覚の欠如等により,多くの女性労働者が,管理
職にある男性等から必要以上に異性として扱わるなどしても,女性の地位の
低さ故に,これに対して明示的に異議を述べたり,これを明示的に拒絶したり
することができず,かえって,不本意ながらも,管理職にある男性等に迎合し,
これらの言動を受忍してこざるを得なかったという社会的事実に照らせば,女
性部下が不快感を覚えるなどしてその就業環境が害されたか否かを判断する
に当たっては,管理職にある男性の言動に対する女性部下の反応を額面どお
りに捉えるべきではなく,管理職にある男性の言動の客観的性質からみて,一
般に女性であれば不快感を覚えるなどするであろうと認められる場合には,女
性部下が真意においてこれを歓迎していると認められるような特段の事情の
ない限り,管理職にある男性のそのような言動は,女性部下に不快感を覚えさ
せるなどしてその就業環境を害するものであると認めるのが相当である。
イ そこで,上記アの基準に照らし,前記(1)の事実について検討する(ただし,前
記(1)において認定した事実のうち,原告が被告Bの不法行為として主張して
いない事実については,弁論主義に照らし,主要事実としては検討を加えな
い。)。
(ア) 平成11年8月,海藻の標本に添えて手紙を手渡した行為について
a 前記認定のとおりの被告Bが原告に手渡した手紙の文脈からすると,当
該手紙の中に登場する「大切な『彼女』」が原告を指すことは明らかであ
り,これは,同被告において,原告に対し,異性として好意を寄せている
ことを婉曲に表現したものであるといえる。そして,妻子ある同被告(前提
事実(2))が女性部下である原告に対してこのような内容の手紙を手渡す
ことは,その性質上,原告を困惑させるものであり,社会的に相当である
と認められる限度を超えて,原告に対し異性として接するものであるとい
わざるを得ない。また,単なる上司にすぎない約20歳も年上の妻子ある
同被告(前提事実(2)及び(3))からこのような内容の手紙を受け取った当
時26歳の独身女性である原告(前提事実(3))が,これに対して不快感,
不気味さ等を覚えたことは,原告の本人尋問における供述等を待つまで
もなく,明らかであるというべきである。
b なお,前記認定のとおり,原告は,同被告から海藻の標本を手渡された
際,これを拒絶したり,これに対して異議を述べたりせず,また,上記手
紙を読んだ後も,同標本や同手紙を同被告に返還したり,同被告に異議
を述べたりすることはなかったものであるが,このことをもって,原告がそ
の真意において同被告の行為を歓迎していたと認めることは到底でき
ず,その他,そのような事実を認めるに足りる確たる証拠はない。
c この点,被告らは,同手紙の内容はユーモアを交えて書いたまでであり,
「大切な原告さま」とは原告が被告会社にとって期待される人材であると
いう意味である旨主張するが,このような主張は,同手紙の内容を正しく
理解しないものであるといわざるを得ず,全く採用の余地はない(なお,
被告らがこのような不合理な主張をしていることは,被告らの主張並びに
C及び被告Bの陳述書の記載及び代表者尋問又は本人尋問における供
述の全体の信用性に大きく影響するものであり,更には,原告の心情を
傷つける行為として,後記慰謝料額の算定において考慮せざるを得ない
ものであることを付言しておく。)。
(イ) 同月31日から毎日のように病院に面会に訪れた行為等について
a 自己の部下が病気で入院した場合,上司がこれを見舞うのは,管理職
の職務としても,同じ職場で働く者の心情としても,当然の行為であると
いえる。しかしながら,入院患者にとって,病室は,個室でない場合であ
っても,職場等と比較すれば,よりプライバシーが尊重されるべき場所で
あり,特に,入院患者が女性である場合には,例えば,服装等,特に密
接な関係にある男性を除き,一般的には男性に見せたくない部分も多々
存在するところであるし,また,同一の男性が単身で毎日のように女性の
入院患者の面会に訪れるというのは,女性の視点からのみならず,一般
的にみても,当該男性が当該女性に対し異性として特別な感情を持って
いるのではないかと見られてもやむを得ないものであるから,前記認定
のとおり,被告Bが,約1か月もの間,ほぼ毎日,面会に赴いた行為は,
客観的にみて,社会的に相当であると認められる限度を超えて,原告に
対し異性として接する行為であるといえる(なお,前記認定のとおり,C
も,同被告が毎日のように面会に行ったことなどが職務上必要のない行
為であったと判断し,同被告に対し注意をしているところである。)。また,
前記(ア)において説 示したのと同様,同被告からこのような対応をされ
た原告が不快感,不気味さ等を覚えたことは明らかである。
b 次に,前記認定のとおり,被告Bが原告の足のマッサージをした行為に
ついて検討するのに,一般に,自己の身体に触れられることに対する男
女の感覚には大きな差異があるところであり,女性は,特に密接な関係
にある男性でない男性により身体に触れられることを極めて不快である
と感じるのが通常であるから,管理職にある男性が一方的に女性部下の
身体に触れるという行為は,特にそのような行為を行う必要がある場合
を除き,それ自体,社会的に相当と認められる限度を超えて,当該女性
部下を異性として扱う行為であるというべきであり,したがって,同被告の
上記行為は,それ自体,社会的に相当と認められる限度を超えて,原告
を異性として扱う行為であるといわざるを得ない。また,上記説示したとこ
ろに照らせば,同被告のそのような行為により原告が極めて不快である
と感じたことは明らかであるというべきである。
c なお,前記認定のとおり,原告が退院した際,原告の父は被告Bに対し
礼状を送り,原告の母は同被告の妻宛に果物を贈り,また,原告は同被
告に対しワイシャツ及び仕立券を手渡したものであるが,これらの行為
は,快気祝い等の社会的儀礼の範囲内の行為として十分理解すること
ができるし,また,原告は,本人尋問において,「両親は,海藻を渡す行
為と毎日見舞いにくる行為につき,上司の行う行為ではないと心配してい
たので,自分たちが見ているのだということをアピールするために,礼状
を送ったり,果物を贈ったりした。母は,被告Bの妻に贈り物をすることに
より,同妻も同被告を見張っていてくれるだろうと考えた」旨供述している
ところ,その内容自体,独身の娘を持つ親の考えとして理解できないとこ
ろではなく,加えて,前記認定のとおり,原告が,退院後,Eに対し,同被
告が毎日のように面会に来たことなどについて相談し,「そういうことは普
通なのか」と尋ねたこと,新潟出張の最中である同年10月21日から翌2
2日にかけて,同被告に対し,自分には交際している男性がいる旨話し
たこと,同年11月13日に,わざわざ訴外ネパール人男性を被告会社に
呼んで,同人を被告Bに紹介していること,翌平成12年3月1日には,C
に対して,同被告が毎日のように面会にきたことなどを理由として,仕事
が手に付かない状態にあり,困っている旨訴え出たことをも合わせ考慮
すると,原告及びその両親の上記行為により,同被告がほぼ毎日面会に
赴いた行為及び同被告が原告の足のマッサージをした行為を原告がそ
の真意において歓迎していたと認めることはできず,その他,そのような
事実を認めるに足りる確たる証拠はない。
(ウ) 新潟出張の際,同年10月21日から翌22日にかけて,原告に対し特別
な感情を持っている趣旨の告白をした行為について
a 前記(ア)aにおいて説示したとおり,妻子ある被告Bが女性部下であ る
原告に対してこのような告白をすることは,その性質上,原告を困惑させ
るものであり,社会的に相当であると認められる限度を超えて,原告に対
し異性として接するものであるといわざるを得ず,また,同被告からこの
ような告白をされた原告が,これに対して不快感等を覚えたことは明らか
であるというべきである。
b なお,同被告の上記のとおりの行為を原告がその真意において歓迎して
いたと認めるに足りる証拠はない。
c この点,被告らは,被告Bにおいて,上記のような告白をした事実を否認
するが,前記認定のとおり,原告は,新潟出張から戻った直後ころ,Eに
対し,「同被告から『彼がいても良いから,将来も一緒に生きていきたい』
ということを言われた」などと打ち明けたものであり(これは,被告ら提出
にかかる乙9により認定した事実である。),この事実は,被告Bから同趣
旨の告白を受け,自分には彼氏がいるなどと答えた旨の原告の陳述書
(甲12)の記載及び本人尋問における供述を裏付けるものであるから,
前記(1)のとおり,同被告は,原告に対し,上記の趣旨の告白をしたものと
認めるのが相当である。
(エ) 新潟出張の際,同月22日,新幹線の車中において原告の腕をつかん 
だ行為について
a 前記(イ)bにおいて説示したとおり,当該女性部下と特に密接な関係にな
い管理職である男性が一方的に当該女性部下の身体に触れるという行
為は,特にそのような行為を行う必要がある場合を除き,それ自体,社会
的に相当と認められる限度を超えて,当該女性部下を異性として扱う行
為であるというべきであるところ,仮に,被告らが主張するとおり,眠って
いた原告の頭が隣の乗客の方に傾くのを防止する必要があったのであ
れば,被告Bとしては,声をかけて原告を起こすなりし,それでも原告が
起きなければ,必要最小限の接触行為として,肩を叩くなどして原告を起
こすこともできたはずであり,また,一時的に原告を起こしても,再度,原
告の頭が隣の乗客の方に傾くおそれがあったのであれば,原告と同被告
が座席を交替するということもできたはずであるが,同被告がそのような
手段を講じたものと認めるに足りる証拠はないから,結局,被告らの主張
を前提にしても,被告Bは,特にそのような行為を行う必要がないのに,
一方的に原告の腕をつかんだものといわざるを得ない。そして,前記認
定のとおり,前日から当日にかけて,同被告は,原告に対し特別な感情
を持っている趣旨の告白をしたばかりであるから,結局,同被告が原告
の腕をつかんだ行為は,社会的に相当と認められる限度を超えて,原告
を異性として扱う行為であるというべきである。また,同被告が上記のと
おり原告の腕をつかんだ行為により原告が極めて不快であると感じたこ
とは,その行為の性質に照らし,明らかであるというべきである(原告は,
当該事実を本訴において主張しているのであるから,同被告により腕を
つかまれている間,原告が眠り続けていたということはあり得ない。)。
b なお,同被告が上記のとおり原告の腕をつかんだ行為を原告がその真
意において歓迎していたと認めるに足りる証拠はない。
(オ) 同月30日,デパートに付いていった行為,同年11月7日,展覧会に付
いていき,その帰りに「手をつないで帰ろう」と言った行為及び同月ころ,誕
生日のプレゼントを贈った行為について
a 被告Bの上記各行為は,いずれも原告の職務に直接関連しないもので
あるし,前記認定のとおり,同被告は,原告に対し,同年10月21日から
翌22日にかけて,特別な感情を持っている趣旨の告白をし,これに対
し,原告は,交際している男性がいることなどを話しているのであるから,
同被告の上記各行為は,いずれも,社会的に相当と認められる限度を超
えて,原告に対し異性として接する行為であるといえ,また,同被告の上
記各行為により原告が不快感等を覚えたことは明らかであるというべき
である。
b なお,同被告の上記各行為を原告がその真意において歓迎していたと
認めるに足りる確たる証拠はない。
(カ) 同年秋ころ,作業指示書にコメントを付した行為について
a 前記認定のとおり,被告Bは,同年秋ころ,作業指示書に「Dear 大好き
なあなたの笑顔が私の元気になる」などのコメントを付し,これを原告に
手渡したものであるが,前記(ア)aにおいて説示したとお り,原告は,同
年8月,同被告において原告に対し異性として好意を寄せていることを婉
曲に表現した手紙を受け取っていたものであり,また,前記(イ)aにおいて
説示したとおり,同被告は,同月31日から約1か月もの間,ほぼ毎日,
面会に赴くという,一般的にみても,同被告が原告に対し異性として特別
な感情を持っているのではないかと見られてもやむを得ない行為を行っ
ていたのであるから,それに上塗りするかのように,上記のとおり,作業
指示書に「大好きなあなた」などと記載することは,原告を更に困惑させ
るものであり,社会的に相当であると認められる限度を超えて,原告に対
し異性として接する行為であるといわざるを得ない。また,上記説示した
ところに照らせば,原告が同被告のこのような行為に対して不快感,不気
味さ等を覚えたことは明らかであるというべきである。
b なお,同被告が上記のとおりのコメントを付した行為を原告がその真意
において歓迎していたと認めるに足りる証拠はない。
c この点,被告らは,上記コメントにつき,「元気を出して頑張りましょう」と
いう意味である旨主張するが,そうであるならば,そのように記載すれば
よいのであり,被告らの主張は,「大好きなあなた」などと記載する理由を
合理的に説明するものとはいえない。
(キ) 平成12年10月19日,「近い将来,君と結婚したい」などと告白した行為
について
a 前記(ア)aにおいて説示したとおり,妻子ある被告Bが女性部下であ る
原告に対してこのような告白をすることは,その性質上,原告を困惑させ
るものであるし,また,前記認定のとおり,原告は,新潟出張の最中であ
る平成11年10月21日から翌22日にかけて,同被告に対し,交際して
いる男性がいることなどを話し,同年11月13日,わざわざ訴外ネパール
人男性を被告会社に呼んで,同人を被告Bに紹介し,平成12年3月1
日,Cに対して,同被告から個人的なことを言われたりして仕事が手に付
かない状態にある旨訴え出,これに対して,Cは,同月上旬ころ,同被告
に対し,今後そうした行為を慎むように注意し,同年9月ころ,同被告に対
し,今後,原告を女性として見ないよう要望するなどし,加えて,同被告か
ら上記のとおり告白された当日も,同被告に対し,「プライベートな話は聞
きたくない」などと仕事に関係しない会話を拒否したにもかかわらず,同
被告は,上記のとおりの告白を行ったというのであるから,これが社会的
に相当であると認められる限度を超えて,原告に対し異性として接するも
のであることは明らかであり,また,同被告からこのような告白をされた
原告が,これに対して極めて大きな衝撃を受けたことも明らかであるとい
うべきである。
b なお,同被告の上記のとおりの告白を原告がその真意において歓迎して
いたと認めるに足りる証拠はない。
c(a) この点,被告らは,被告Bにおいて,上記のとおりの告白をした事実を
否認するが,前記認定のとおり,原告は,上記のとおりの告白を受け
たとされる同年10月19日の翌日及び翌週初めの2日は出社したもの
の,その後,1か月以上にわたり出社しなかったこと,同月29日,同被
告に対し,「セクハラで被告会社を訴えることもできる」などと述べたこ
とからすると,同月ころ,被告Bに関し,原告にとって極めて衝撃的な
出来事があったものと推認され,加えて,原告は,同月19日の6日後
である同月25日,元同僚に充てたメール(甲11の1及び2)において,
同被告から「近い将来,君と結婚したい」と言われた旨記載しているこ
とからすると,原告がその陳述書及び本人尋問において記載ないし供
述するとおり,同被告は,原告に対し,同月19日,上記の趣旨の告白
をしたものと認めるのが相当である。
(b) なお,被告らは,原告が,本人尋問において,「平成12年10月に被
告Bから結婚を申し込まれた」と供述しながら,「その前に社長には2
回話している。転部の時期に一度と,復部の時期に一度と,もう一つ
は,結婚したいと言われた翌日に」と,物理的にあり得ない虚偽供述を
している旨主張するが,原告の供述を厳密にみると,原告は,「(10月
29日に),父親の話として,セクハラでAを訴えることもできると,・・・こ
ういうことを言ったのではないか」との質問に対し,「・・・君と結婚する
予定があると,・・・B氏は突然そういうことを言ったので,彼氏が,・・・
今後絶対やめるようにということで話にいった。そして,私の父は,・・・
それは明らかにセクハラだし,・・・。その解決策としては,訴えることも
できる。・・・だけれども,・・・仕事をするためでしょう。それならば,我慢
して,早く一人前になるように頑張りなさいと・・・言われた。その一端と
して,B氏に,こういうことを父親から言われていると話したことは事実
である」旨供述し,続いて,「何で我慢する必要があるのか。その時に
社長に訴えればよかったのではないか」との質問に対し,「いえ,私が
父からそういうことを言われたのは,2000年の10月にB氏から結婚
をしたいというふうに言われた,その被害を父親に話したら,そういうふ
うにいわれてきたので,その前に既に社長には,2回話している」旨供
述しているのであって,この後者の供述は,「我慢するというのは,20
00年10月に被告Bから結婚をしたいと言われた被害について父親が
我慢をせよと言ったのであり,それ以前の被害については,既に社長
に2回話している」との趣旨でなされたものであることは明らかである。
もっとも,原告は,続いて,「結婚したいとかそういうことを言われたとい
うことを既に話しているということか」との質問に対し,「転部の時期に
一度と,あとは,復部の時期に一度と。もう一つは,結婚をしたいとB氏
が私に言ってきた翌日に,社長に,・・・伝え,社長は,そのことを知っ
ている」旨供述しているが,原告のこの供述も,前半部分については,
質問に直接答えるのではなく,直前の「既に社長に2回話している」と
の供述につき,その「話した」時期を補充する趣旨でなされたものであ
ると認められ,その上で,後半部分については,質問に直接答える形
で,「B氏が言ってきた翌日に伝えた」旨供述するものであると認めら
れるから,被告らが主張するように,原告が物理的にあり得ない虚偽
供述をしているということはできない。
(ク) 平成13年春ころからの本件撮影行為について
a 前記認定のとおりの本件撮影行為の態様,被写体等に照らせば,本件
撮影行為が原告に対する不法行為に該当することは明らかである。
b(a) この点,被告らは,盗撮ではない旨主張するが,前記認定のとおり,
本件撮影行為は,他の者から見えないような位置に置いたビデオカメ
ラで原告の身体を撮影するというものであり,これが盗撮であることは
明らかである。
(b) また,被告らは,本件撮影行為が被告Bの性的興味等から行われた
ものではない旨主張するが,前記認定のとおりの本件テープに写って
いる被写体の状況に照らすと,同被告が原告に対する性的興味等と
は無関係に本件撮影行為を行ったものと認めることは,到底できな
い。
(c) 更に,被告らは,本件テープに写っているのが外部の者に日常さらし
ている洋服を着た姿であることなどから,本件撮影行為による法益侵
害の程度が軽微である旨主張し,また,本件撮影行為により原告が受
けた被害の程度が大きいとはいえない旨主張するが,前記認定のとお
り,本件テープに写っているのは,洋服を着た姿ではあるものの,女性
である原告の臀部,腹部,胸部,上腕部,わきの下の周辺部分,大腿
部,股間等をそれぞれズームアップされたものであり,このような部位
をズームアップで撮影することにより,女性に対して多大の恥辱感,屈
辱感等を与えるものであることは明らかであり,被告らの主張は,かか
る女性の心情を全く理解しようとしないものであるといわざるを得な
い。そして,被告らがこのような主張をしていることは,原告の心情を深
く傷つけるものとして,後記慰謝料額の算定において,十分に考慮す
ることとする。
(d) また,被告らは,被告Bが本件撮影行為を行った点に同情すべき点
も多く,他方,原告にも大いなる落ち度が認められ,どちらが被害者か
分からないほどである旨主張するが,同被告は,本人尋問において,
本件撮影行為を行った理由につき,最初に「私自身も,正直よく分から
ない」旨供述しているところであり,被告らが主張するように,被告Bが
原告に対する怒りのはけ口として本件撮影行為を行ったというのは,
ためにする説明である可能性が高いといわざるを得ず,その内容も不
合理で,到底採用することはできない。また,そもそも,被告らが主張
するような理由は,女性に対して盗撮行為を行う理由たり得ず,いず
れにせよ,同被告に同情すべき点が多いということはできない。同様
の理由で,原告に大いなる落ち度があるということもできない。
 なお,被告らは,「原告は,平気で嘘八百を並べて犯罪行為たる偽証
をするなど言いたい放題を尽くしている」旨主張する。もとより,民事訴
訟において,相手方当事者の供述の信用性について云々することは,
正当な訴訟行為として許されるところであるが,「平気で嘘八百を並べ
て犯罪行為たる偽証をするなど言いたい放題を尽くしている」などの言
辞を用いるに至っては,被告らの品性を疑わざるを得ず,しかも,偽証
罪が成立するはずもない民事訴訟の当事者本人を同罪の犯罪者呼ば
わりするというのは,原告に対する重大な侮辱であるといわざるを得な
い(被告ら代理人は,法律の専門家であるから,民事訴訟の当事者本
人に偽証罪が成立しないことを知らないはずがなく,したがって,同代
理人は,悪意をもって,あるいは,重大な過失により,原告を偽証罪の
犯罪者呼ばわりしているということになる。)。
 そして,前記のとおり,被告Bに同情すべき点が多く,他方で,原告に
大いなる落ち度があると認めることはできず,また,本件撮影行為によ
り,原告は,多大の恥辱感,屈辱感等を味わわされたものであると認
められ,更に,これまで説示してきたところに照らせば,原告の本人尋
問における供述が全体として信用性がないということもできないから,
前記のとおり,被告らが「どちらが被害者か分からないほどである」,
「原告は,平気で嘘八百を並べて犯罪行為たる偽証をするなど言いた
い放題を尽くしている」などと主張していることについても,原告の心情
を傷つけるものとして,後記慰謝料額の算定において,十分に考慮す
ることとする。
(e) なお,被告らは,被告Bが本件撮影行為について反省し,物心両面
において大いなる制裁を受けている旨主張するが,不法行為の加害
者が反省したり,制裁を受けていることにより,その違法性が阻却され
ると解することはできないから,被告らの上記主張は,失当である。
c 以上,いずれの点からも,本件撮影行為につき,不法行為であるといえ
るほどの違法性がない旨の被告らの主張を採用することはできない。
(3) 被告らの責任についての結論
ア 前記(2)において説示したとおり,被告Bが原告に対して行った,①平成11年
8月,海藻の標本に添えて手紙を手渡した行為,②同月31日から毎日のよう
に病院に面会に訪れた行為及び原告の足のマッサージをした行為,③同年1
0月21日から翌22日にかけて,原告に対し特別な感情を持っている趣旨の
告白をした行為,④同月22日,新幹線の車中において原告の腕をつかんだ
行為,⑤同月30日,デパートに付いていった行為,⑥同年11月7日,展覧会
に付いていき,その帰りに「手をつないで帰ろう」と言った行為,⑦同月ころ,誕
生日のプレゼントを贈った行為,⑧同年秋ころ,作業指示書にコメントを付した
行為,⑨平成12年10月19日,「近い将来,君と結婚したい」などと告白した
行為は,全体として,管理職にある者が,社会的に相当であると認められる限
度を超えて,女性部下を異性として扱ったり,女性部下に異性として接したりす
ることにより,同人に不快感を覚えさせるなどしてその就業環境を害したものと
いえ,原告に対する不法行為に該当するというべきである。また,⑩平成13年
春ころからの本件撮影行為は,それ自体,原告に対する不法行為に該当する
ことは明らかである。したがって,被告Bは,民法709条により,これらの不法
行為によって原告に生じた損害を賠償する責任を負うことになる。
イ 前記(1)において認定し,前記(2)において説示したとおり,上記アの①ないし
⑩の各行為は,被告会社の被用者たる被告Bが被告会社の河川環境部部長
として行い,又は被告会社の職務中に,若しくはその機会を利用して行った不
法行為であるから,被告会社の事業の執行につき行われたものであるとい
え,したがって,被告会社は,民法715条1項本文により,被告Bの不法行為
によって原告に生じた損害を賠償する責任を負うことになる。
2 争点(3)(損害)について
(1) 休業損害                 合計126万6883円
ア(ア) 前記認定のとおり,原告は,本件テープが発見された日の翌日である 
平成13年8月23日まで出社したものの,そのころ,医師による治療を必要
とする程度にまで心身の健康を損ない,入通院及び自宅療養のため,同日
に出社したのを最後に被告会社に出社することができない状態となり,結
局,同年9月20日から平成14年3月19日まで,休職扱いとされた後,同
日付けで,被告会社から退職扱いとされたというのであるから,平成13年9
月20日から平成14年3月19日までの休職による収入の減少は,被告B
の不法行為によって生じた損害であると認められる。
(イ) 原告の平成13年中の収入,休職中の社会保険及び平成14年冬の賞与
の各金額については,弁論の全趣旨(特に,これらの各金額については,
被告らにおいて容易に認否ができる性質の事実であると考えられるところ,
被告らは,原告が主張する休業損害につき,民事訴訟規則79条3項の規
定にもかかわらず,単にこれを否認するのみで,その理由を明らかにしてい
ないこと)により,それぞれ,24万9000円,14万9400円及び43万123
3円であると認めるのが相当である。
(ウ) 以上によれば,平成13年9月20日から平成14年3月19日までの休職
による損害額は,102万8833円となる。
(計算式)(249,000-149,400)×6+431,233
イ(ア) また,前記説示のとおり,被告Bの原告に対する,平成11年8月に 海藻
の標本に添えて手紙を手渡した行為から平成12年10月19日に「近い将
来,君と結婚したい」などと告白した行為に至るまでの一連の行為は,全体
として,原告に対する不法行為に該当するというべきであるところ,上記のと
おり,「近い将来,君と結婚したい」などと告白する行為は,それまでの同被
告の行為とも相まって,原告に多大の精神的苦痛を与えたものと認められ
るから,前記認定のとおり,原告が同月25日から出社しなくなり,同年11
月中,有給休暇を取得し,又は欠勤とされたことは,同被告の上記一連の
不法行為によって生じた損害であると認めるのが相当である。
(イ) 前記ア(イ)のとおり,弁論の全趣旨によれば,原告の平成12年中の月収
の金額は,23万8050円であると認められる。
(ウ) 以上によれば,同年11月中,有給休暇を取得し,又は欠勤とされたこと
による損害額は,23万8050円となる。
ウ 乙4の2によれば,原告が平成12年3月17日,同月27日,同月28日,平
成13年5月2日,同月31日,同年6月4日にそれぞれ有給休暇を取得した事
実が認められるが,これらが,被告Bの不法行為によって生じた疾病等の治
療のための通院に充てられたものと認めるに足りる証拠はない。
(2) 逸失利益                   102万8833円
ア(ア) 前記(1)ア(ア)において説示したとおり,原告は,本件テープが発見され 
た日の翌日である平成13年8月23日まで出社したものの,そのころ,医師
による治療を必要とする程度にまで心身の健康を損ない,入通院及び自宅
療養のため,同日に出社したのを最後に被告会社に出社することができな
い状態となり,結局,同年9月20日から平成14年3月19日まで,休職扱い
とされた後,同日付けで,被告会社から退職扱いとされたというのであるか
ら,原告が被告会社を退職し,職を失ったことは,被告Bの不法行為によっ
て生じた損害であると認められる。
(イ) この点,被告らは,本件撮影行為によって原告が退職に追い込まれたも
のではない旨主張する。確かに,前記認定のとおり,原告は,平成12年10
月下旬ころから,被告会社を退職することも視野に入れるようになり,同年
12月4日ころには,被告Bに対し,会社を辞めることにした旨述べ,平成13
年の年賀状にも退職を示唆する添え書きをしたものであるが,前記認定の
とおりの事実経過に照らせば,原告がこのように退職を考えるようになった
のは,平成12年10月19日までに行われた同被告の一連の不法行為が原
因であると認められるし,また,前記認定のとおり,原告は,実際には,同年
12月1日に再度被告会社に出社するようになってから本件テープが発見さ
れた日の翌日である平成13年9月23日まで,被告会社において勤務して
いたのであるから,結局,原告が被告会社を退職することとなったのは,被
告Bによる本件盗撮行為により休職を余儀なくされたことが原因であると認
めるのが相当である。
イ 求職期間は,これを6か月と認めるのが相当である。また,前記(1)ア(イ)のと
おり,弁論の全趣旨によれば,原告の平成13年中の収入,求職中の社会保
険及び平成14年夏の賞与の各金額は,それぞれ,24万9000円,14万94
00円及び43万1233円であると認めるのが相当である。
ウ 以上によれば,原告が職を失ったことによる損害額は,102万8833円であ
るということになる。
(計算式)(249,000-149,400)×6+431,233
(3) 慰謝料                        100万円
 原告は,大学及び大学院において学んだ専門知識を生かそうと意欲をもって被
告会社に入社したにもかかわらず(甲12,原告本人),被告Bの不法行為によ
り,心身の健康を損なったばかりか,被告会社を退職することをも余儀なくされ,
専門知識を生かす職場を失うなど,多大の精神的苦痛を被ったといえる。加え
て,原告は,これまで説示してきたとおり,本訴における被告らの訴訟活動によっ
て,更に,その心を傷つけられたものである。その他,本訴に現れた一切の事情
を考慮すると,本件の慰謝料としては,100万円をもって相当とすべきである。
(4) 入通院費用認められない。
 原告が負担した入通院費用の金額を認めるに足りる証拠はない。
(5) 弁護士費用20万円
 原告が,本訴の提起・追行を原告代理人に委任したことは,当裁判所に顕著な
事実であるところ,本件の性質,認容額等に照らせば,被告Bの不法行為と相当
因果関係のある弁護士費用は,20万円であると認めるのが相当である。
(6) 損害額合計                  349万5716円
第4 結論
以上のとおりであるから,本訴請求は,主文第1及び第2項の限度で理由がある
からその限度で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとする。 
     東京地方裁判所民事第34部
             裁 判 官     浅  井     憲

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