弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     控訴人の新訴はこれを却下する。
     本件控訴はこれを棄却する。
     当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は原判決を取消す、被控訴人が昭和二十四年度の控訴人の所得額並に所得
税額について昭和二十五年二月二十日付を以てした更正決定に対する控訴人の異議
申立に対し昭和二十五年七月十六日被控訴人のした昭和二十四年度の控訴人の所得
額九万八千四百円、所得税額一万七千百五十円と訂正する旨の決定を取消す訴訟費
用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却
の判決を求めた。
 当事者双方事実上の供述は控訴人において控訴人は被控訴人が昭和二十五年二月
二十日付を以てした昭和二十四年度における控訴人の所得額十万八千円、所得税額
二万六百六十円とする旨の更正決定に対し控訴人は異議を申し立て(審査の請求)
たところ、、これに対し被控訴人は昭和二十五年七月十六日付を以て前記の如く訂
正の決定を為し同月十九日頃右決定通知書を控訴人に交付したので当審においては
この訂正決定の取消を求める旨請求を変更する次第である。被控訴人のした右訂正
決定は控訴人の異議申立(審査請求)に対して為されたものであるから控訴人の請
求(当審において変更した請求)は審査の決定を経ていると述べた外いすれも原判
決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
 証拠として控訴人は甲第一号証を提出し原審証人A、B、Cの各証言を援用し、
乙第一号証の成立を認め、被控訴代理人は乙第一号証を提出し原審証人D、Eの証
言を援用し甲第一号証の成立を認めた。
         理    由
 控訴人は原審においては被控訴人が昭和二十五年二月二十日付を以て控訴人に対
し、昭和二十四年度の所得額十万八千九十円、所得税額二万六百六十円とした更正
決定を違法としてその取消の判決を求めていたが、右は審査の請求(行政事件訴訟
特例法第二条にいわゆる審査手続)を経由していない不適法の訴であるとの理由で
訴却下の判決を受けたので当裁判所に控訴を申し立て被控訴人のした右昭和二十五
年二月二十日付更正決定に対する控訴人の異議申立に対し同年七月十六日被控訴人
のした昭和二十四年度の控訴人の所得額九万八千四百円、所得税額一万七千百五十
円と訂正する旨の決定を違法としその取消を求める旨請求を変更したヒとは控訴人
の主張に徴して明かである。そしてかかる請求の変更は実質的に新たな訴が提起さ
れたものと解すべきであるから先ず右新訴の適否について判断する。
 行政事件訴訟特例法(以下行特法と略称する)第五条はいわゆる抗告訴訟につい
てその出訴期間を定め処分のあつたことを知つた日から六箇月以内に訴を提起しな
ければならないと規定している。然らば訴訟係属中訴<要旨>の変更による新訴の提
起があつた場合に出訴期間遵守の有無ははたしていつを標準とすべきであろうか、
おもうに訴の変更による新訴の提起があつた場合に、これについて出訴期間
が遵守せられたかどうかは他に特別の規定のない限り右行特法第五条の規定の支配
を受け当然新訴提起の時を標準とすべきものと解するを相当とする。尤も被告の変
更による訴の変更の場合には行特法第七条第二項において出訴期間の遵守について
はあらたな被告に対する訴は最初に訴を提起した時にこれを提起したものとみなす
旨規定し特に法律で新訴提起の時期を擬制しているけれども右被告の変更の場合は
単に被告のみを変更したに止まり、請求そのものについては何等変るところなく、
依然同一の請求が係属しているのであるから前記の如く実質的に新たな訴の提起が
あつたものと見るべき請求の変更の場合に右行特法第七条第二項を類推適用するわ
けにはいかない。その他請求変更による新訴提起の場合における出訴期間の遵守に
ついて何等特別の規定がないから新訴提起の時を標準とすべきであつて最初に訴を
提起した時を標準とすべきではない。然るに本件請求変更即ち新訴に関する書面が
当裁判所に提出されたのは昭和二十六年五月十八日であることは記録に徴して明か
であり、この新訴によつて取消を求める被控訴人の処分(昭和二十五年七月十六日
被控訴人のした訂正決定)の控訴人に告知されたのは昭和二十五年七月十九日頃で
あることは控訴人の自認するところであるからその間六ケ月以上を経過して居るこ
と明かである。故に本件請求の変更による新訴は出訴期間経過後の提起にかかり不
適法というべく、従つて右請求の変更はたとえ請求の基礎に変更がないとしても到
底却下を免れない(もし仮りに本件請求の変更が許さるべきであるとせんか本件は
原裁判所に差戻の上、更に審理するを要し著しく訴訟手続を遅滞せしめることにな
るからこの点からいつても本件請求の変更は許さるべきではない(民訴法第二百二
十二条第一項但書)。
 次に控訴人の旧訴について判断する。本件旧訴に対する当裁判所の判断は結局原
判決に記載されてあるところと同一であるからその記載をここに引用する。故に旧
訴については原判決を相当とし民事訴訟法第三百八十四条により本件控訴を棄却す
べきである。
 よつて当審における訴訟費用につき同法第八十九条を適用して主文のとおり判決
する。
 (裁判長判事 前田寛 判事 近藤健蔵 判事 萩原敏一)

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