弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人石井麻佐雄、同森武市の上告趣意第一点及び第二点について。
 (一) 捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分
調書も刑訴三二一条三項所定の書面に包含されるものと解するを相当とすることは
昭和三五年九月八日第一小法廷判決(刑集一四巻一一号一四三七頁)の判示すると
ころである。従つて、かかる実況見分調書は、たとえ被告人側においてこれを証拠
とすることに同意しなくても、検証調書について刑訴三二一条三項に規定するとこ
ろと同一の条件の下に、すなわち実況見分調書の作成者が公判期日において証人と
して尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、これを
証拠とすることができるのであるから、これと同旨に出た原判示(控訴趣意第一点
についての判断前段)は正当である。所論引用の福岡高等裁判所判例は、司法警察
員作成の実況見分書を証拠とすることができる事由を「被告人の同意」のみに限定
しているわけではなく、該実況見分書の供述者(作成者)が公判期日において証人
として尋問を受けたことをも「被告人の同意」と並んで「これを証拠とすることが
できる事由」の一つに掲げているものと解すべく、結局前記第一小法廷判決及び本
件原判決と同趣旨に帰するのであるから、所論判例違反の主張は失当である。
 (二) 捜査機関は任意処分として検証(実況見分)を行うに当り必要があると
認めるときは、被疑者、被害者その他の者を立ち会わせ、これらの立会人をして実
況見分の目的物その他必要な状態を任意に指示、説明させることができ、そうして
その指示、説明を該実況見分調書に記載することができるが、右の如く立会人の指
示、説明を求めるのは、要するに、実況見分の一つの手段であるに過ぎず、被疑者
及び被疑者以外の者を取り調べ、その供述を求めるのとは性質を異にし、従つて、
右立会人の指示、説明を実況見分調書に記載するのは結局実況見分の結果を記載す
るに外ならず、被疑者及び被疑者以外の者の供述としてこれを録取するのとは異な
るのである。従つて、立会人の指示説明として被疑者又は被疑者以外の者の供述を
聴きこれを記載した実況見分調書には右供述をした立会人の署名押印を必要としな
いものと解すべく(昭和五年三月二〇日大審院判決、刑集九巻四号二二一頁、同九
年一月一七日大審院判決、刑集一三巻一号一頁参照)、これと同旨に出た原判示(
控訴題意第一点についての判断後段)は正当である。
 (三) そうして、刑訴三二一条三項が憲法三七条二項前段に違反するものでな
いことは前掲昭和三五年九月八日第一小法廷判決の判示するところであつて、既に
いわゆる実況見分調書が刑訴三二一条三項所定の書面に包含されるものと解される
以上は、同調書は単にその作成者が公判期日において証人として尋問を受け、その
真正に作成されたものであることを供述しさえすれば、それだけでもつて、同条一
項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができるのであり、従つて、たとえ
立会人として被疑者又は被疑者以外の者の指示説明を聴き、その供述を記載した実
況見分調書を一体として、即ち右供述部分をも含めて証拠に引用する場合において
も、右は該指示説明に基く見分の結果を記載した実況見分調書を刑訴三二一条三項
所定の書面として採証するに外ならず、立会人たる被疑者又は被疑者以外の者の供
述記載自体を採証するわけではないから、更めてこれらの立会人を証人として公判
期日に喚問し、被告人に尋問の機会を与えることを必要としないと解すべきもので
ある。
 原判決の維持した第一審判決は所論実況見分調書を単に「司法警察員の実況見分
調書」そのものとして証拠に引用しているに止まり、同調書中の被告人及びAの各
供述記載を特に摘出して採証しているのでないことは、同判文に照し明白であるの
みならず第一審裁判所は右Aを公判廷および検証現場で証人として取り調べ被告人
側に反対尋問の機会を与えているのであるから、所論違憲の主張は前提を欠き失当
である。
 第三点は事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三六年五月二六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奧   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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