弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告及び附帯上告を棄却する。
     上告費用は上告人の、附帯上告費用は附帯上告人の各負担とする。
         理    由
 上告代理人関哲夫、同樋口嘉男、同半田良樹、同中村次良の上告理由第一及び第
二について
 建築基準法(以下「法」という。)六条三項及び四項によれば、建築主事は、同
条一項所定の建築確認の申請書を受理した場合においては、その受理した日から二
一日(ただし、同条一項四号に掲げる建築物に係るものについては七日)以内に、
申請に係る建築物の計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法令の規
定に適合するかどうかを審査し、適合すると認めたときは確認の通知を、適合しな
いと認めたときはその旨の通知(以下あわせて「確認処分」という。)を当該申請
者に対して行わなければならないものと定められている。このように、法が建築主
事の行う確認処分について応答期限を設けた趣旨は、違法な建築物の出現を防止す
るために建築確認の制度を設け、建築主が一定の建築物を建築しようとする場合に
はあらかじめその建築計画が関係法令の規定に適合するものであるかどうかについ
て建築主事の審査・確認を受けなければならず、確認を受けない建築物の建築又は
大規模の修繕等の工事はすることができないこととし、その違反に対しては罰則を
もつて臨むこととしたこと(法六条一項、五項、九九条一項二号、四号)の反面と
して、右確認申請に対する応答を迅速にすべきものとし、建築主に資金の調達や工
事期間中の代替住居・営業場所の確保等の事前準備などの面で支障を生ぜしめるこ
とのないように配慮し、建築の自由との調和を図ろうとしたものと解される。そし
て、建築主事が当該確認申請について行う確認処分自体は基本的に裁量の余地のな
い確認的行為の性格を有するものと解するのが相当であるから、審査の結果、適合
又は不適合の確認が得られ、法九三条所定の消防長等の同意も得られるなど処分要
件を具備するに至つた場合には、建築主事としては速やかに確認処分を行う義務が
あるものといわなければならない。しかしながら、建築主事の右義務は、いかなる
場合にも例外を許さない絶対的な義務であるとまでは解することができないという
べきであつて、建築主が確認処分の留保につき任意に同意をしているものと認めら
れる場合のほか、必ずしも右の同意のあることが明確であるとはいえない場合であ
つても、諸般の事情から直ちに確認処分をしないで応答を留保することが法の趣旨
目的に照らし社会通念上合理的と認められるときは、その間確認申請に対する応答
を留保することをもつて、確認処分を違法に遅滞するものということはできないと
いうべきである。
 ところで、建築確認申請に係る建築物の建築計画をめぐり建築主と付近住民との
間に紛争が生じ、関係地方公共団体により建築主に対し、付近住民と話合いを行つ
て円満に紛争を解決するようにとの内容の行政指導が行われ、建築主において任意
に右行政指導に応じて付近住民と協議をしている場合においても、そのことから常
に当然に建築主が建築主事に対し確認処分を留保することについてまで任意に同意
をしているものとみるのは相当でない。しかしながら、普通地方公共団体は、地方
公共の秩序を維持し、住民の安全、健康及び福祉を保持すること並びに公害の防止
その他の環境の整備保全に関する事項を処理することをその責務のひとつとしてい
るのであり(地方自治法二条三項一号、七号)、また法は、国民の生命、健康及び
財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的として、建築物の
敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定める(一条)、としているとこ
ろであるから、これらの規定の趣旨目的に照らせば、関係地方公共団体において、
当該建築確認申請に係る建築物が建築計画どおりに建築されると付近住民に対し少
なからぬ日照阻害、風害等の被害を及ぼし、良好な居住環境あるいは市街環境を損
なうことになるものと考えて、当該地域の生活環境の維持、向上を図るために、建
築主に対し、当該建築物の建築計画につき一定の譲歩・協力を求める行政指導を行
い、建築主が任意にこれに応じているものと認められる場合においては、社会通念
上合理的と認められる期間建築主事が申請に係る建築計画に対する確認処分を留保
し、行政指導の結果に期待することがあつたとしても、これをもつて直ちに違法な
措置であるとまではいえないというべきである。
 もつとも、右のような確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行
政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築
主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じら
れないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反し
てその受忍を強いることは許されない筋合のものであるといわなければならず、建
築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該
建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、
右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえる
ような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認
処分を留保することは、違法であると解するのが相当である。
 したがつて、いつたん行政指導に応じて建築主と付近住民との間に話合いによる
紛争解決をめざして協議が始められた場合でも、右協議の進行状況及び四囲の客観
的状況により、建築主において建築主事に対し、確認処分を留保されたままでの行
政指導にはもはや協力できないとの意思を真摯かつ明確に表明し、当該確認申請に
対し直ちに応答すべきことを求めているものと認められるときには、他に前記特段
の事情が存在するものと認められない限り、当該行政指導を理由に建築主に対し確
認処分の留保の措置を受忍せしめることの許されないことは前述のとおりであるか
ら、それ以後の右行政指導を理由とする確認処分の留保は、違法となるものといわ
なければならない。
 そこで、以上の見地に立つて本件をみるに、原審の確定したところによれば、(
1) 被上告人(附帯上告人)は、昭和四七年一〇月二八日本件建築物に係る建築
確認の申請をしたものであるところ、同年一二月、上告人(附帯被上告人)の紛争
調整担当職員から、本件建築物の建築に反対する付近住民との話合いにより円満に
紛争を解決するようにとの行政指導を受け、それ以降付近住民と十数回にわたり話
合いを行い、右職員の助言等についても積極的かつ協力的に対応するとともに、上
告人の適切な仲介等を期待していた、(2) ところが、上告人は、翌昭和四八年二
月一五日に、同年四月一九日実施予定の新高度地区案を発表し、右二月一五日以降
の行政指導の方針として、右時点で既に確認申請をしている建築主に対しても新高
度地区案に沿うべく設計変更を求める旨及び建築主と付近住民との紛争が解決しな
ければ確認処分を行わない旨を定め、上告人の担当職員は、同月二三日被上告人の
代表社員甲に対し右方針を説明して設計変更による協力を依頼するとともに、付近
住民との話合いを更に進めることを勧告した、(3) 被上告人としては、それまで
上告人の行政指導に応じて付近住民との話合いに努めてきたが、実質的な進捗をみ
るに至らなかつたうえ、新高度地区案が発表され、これを契機として前記のような
行政指導を受けたので、このまま住民との話合いを進めても右新高度地区の実施前
までに円満解決に至ることは期し難く、その解決がなければ確認処分を得られない
とすれば、新高度地区制により確認申請に係る本件建築物について設計変更を余儀
なくされ、多大の損害を被るおそれがあるとの判断のもとに、もはや確認処分の留
保を背景として付近住民との話合いを勧める上告人の行政指導には服さないことと
し、同年三月一日受付をもつて東京都建築審査会に「本件確認申請に対してすみや
かに何らかの作為をせよ」との趣旨の審査請求の申立をした、というのであり、原
審の右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。
 右事実関係によれば、被上告人が昭和四八年三月一日の時点で行つた前記審査請
求の申立は、これによつて建築主事に対し、もはやこれ以上確認処分を留保された
ままでの行政指導には協力できないとして直ちに確認処分をすべきことを求めた真
摯かつ明確な意思の表明と認めるのが相当である。また、被上告人はそれまで上告
人の紛争調整担当職員による行政指導に対し積極的かつ協力的に対応していたとい
うのであつて、この間に当該行政指導の目的とする付近住民との話合いによる紛争
の解決に至らなかつたことをひとり被上告人の責に帰することはできないのみなら
ず、同年二月下旬には本件建築確認の申請から三か月以上も後に発表された新高度
地区案にそうよう設計変更による協力を求める行政指導をも受けるに至り、しかも
右新高度地区の実施日が一か月余に迫つていたことからすれば、被上告人が右三月
一日の時点で、右審査請求という手段により、もはやこれ以上確認処分を留保され
たままでの行政指導には協力できないとの意思を表明したことについて不当とすべ
き点があるということはできず、他に被上告人の意思に反してもなお確認処分の留
保を受忍させることを相当とする特段の事情があるものとも認められないというべ
きである。そして、上告人の紛争調整担当職員及び建築主事においては、それまで
の行政指導の経過、右審査請求の内容及び被上告人がかかる方途に出た時期等を冷
静に検討、判断するならば、右審査請求の申立が被上告人の一時の感情に出たもの
とか住民との交渉上の駆引きとしたとかいうようなものではなく、真摯に確認申請
に対する応答を求めていることを知つたか、又は容易にこれを知ることができたも
のというべきである。したがつて、右審査請求が提起された昭和四八年三月一日以
降の行政指導を理由とする確認処分の留保は違法というべきであり、これについて
は建築主事にも少なくとも過失の責があることを免れないものといわなければなら
ない。
 してみると、本件において昭和四八年三月一日以降の確認処分の遅滞につき上告
人に国家賠償法に基づく損害賠償責任を肯定した原審の判断は、正当として是認す
ることができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属
する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実若
しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するものであつて、採用することができ
ない。
 右上告代理人らの上告理由第三について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照ら
し、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原判
決を正解しないか又は独自の見解を前提として損害額の範囲に関する原審の判断の
不当をいうものであつて、採用することができない。
 附帯上告代理人浅井和子の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照ら
して是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原
審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそ
わない事実若しくは独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用
することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛