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平成14年(行ケ)第87号 特許取消決定取消請求参加事件(被参加事件・平成
13年(行ケ)第394号)(平成14年8月5日口頭弁論終結)
          判           決
       参加人         ジャパン・プラス株式会社
       訴訟代理人弁理士    西   良 久
       被参加事件原告(脱退) A
       被告(被参加人)   特許庁長官 太 田 信一郎
       指定代理人       西 村 綾 子
       同           村 本 佳 史
       同           山 口 由 木
       同           高 木   進
       同           宮 川 久 成
          主           文
      参加人の請求を棄却する。
      訴訟費用は参加人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 参加人
   特許庁が異議2000-70578号事件について平成13年7月17日に
した決定を取り消す。
   訴訟費用は被告(被参加人、以下「被告」という。)の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁及び本訴における手続の経緯
   参加人は、名称を「物品保持構造」とする特許第2935664号発明(以
下「本件発明」といい、その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。す
なわち、本件特許は、被参加事件原告が平成8年4月23日にした特許出願に係
り、平成11年6月4日に設定登録されたものであるが、参加人は、本訴係属中の
平成13年11月8日に被参加事件原告から本件特許に係る特許権を譲り受け、同
月22日その旨の登録を経由し、被参加事件原告は訴訟から脱退した。
   本件特許について、シールドエアーコーポレーション(以下「シールド
社」という。)外1名から、特許異議の申立てがされたところ、特許庁は、同特許
異議の申立てを異議2000-70578号事件として審理した上、平成13年7
月17日、「特許第2935664号の請求項1ないし4に係る特許を取り消
す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年8月6日、
被参加事件原告に送達された。
 2 本件発明の要旨
  【請求項1】第1窓孔を有する第1基台と、該第1窓孔を覆って第1基台表面
に固着された可撓性を有する第1フィルムと、
  上記第1窓孔に対応する第2窓孔を有する第2基台と、
  該第2窓孔を覆って第2基台表面に固着された可撓性を有する第2フィルムと
からなって、第1基台と第2基台とを対向して保持し、第1フィルムと第2フィル
ムとの間に物品を保持してなる物品保持構造において、
  上記対向した状態の第1基台と第2基台とを物品を保持した状態で拘束する箱
を設けてなり、
  前記第1窓孔または第2窓孔には前記窓孔が物品より小さい場合に窓孔を大き
く開きうるように切込線とその外周に折り込み線が形成されており、
  上記窓孔を覆う第1フィルムまたは第2フィルムは前記切込線および折り込み
線の外側で第1基台表面または第2基台表面に固着してなることを特徴とする物品
保持構造。
  【請求項2】第1基台と第2基台が、窓孔を有する扁平な天壁とその外周に沿
って垂下する周壁とからなっていることを特徴とする請求項1に記載の物品保持構
造。
  【請求項3】第1基台と第2基台とが断面箱型からなって、展開時に扁平なカ
バー体に固着されており、該カバー体は折り曲げて第1基台と第2基台とをその第
1窓孔と第2窓孔とを重ね合わせた状態で筒体となり、この形状を保持する止め部
材を備えてなることを特徴とする請求項1に記載の物品保持構造。
  【請求項4】第1窓孔を有する第1基台と、該第1窓孔を覆って第1基台表面
に固着された可撓性を有する第1フィルムと、
  上記第1窓孔に対応する第2窓孔を有する第2基台と、
  該第2窓孔を覆って第2基台表面に固着された可撓性を有する第2フィルムと
からなって、第1基台と第2基台とを対向して保持し、第1フィルムと第2フィル
ムとの間に物品を保持してなる物品保持構造において、
  上記第1基台の表面または第2基台の表面に対向する第2基台または第1基台
に固定する固定手段を設け、
  前記第1窓孔または第2窓孔には前記窓孔が物品より小さい場合に窓孔を大き
く開きうるように切込線とその外周に折り込み線が形成されており、
  上記窓孔を覆う第1フィルムまたは第2フィルムは前記切込線および折り込み
線の外側で第1基台表面または第2基台表面に固着してなることを特徴とする物品
保持構造。
  (以下、請求項1~4記載の各発明を、請求項の番号に対応して「本件発明1
~4」という。)
 3 本件決定の理由
   本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、シールド社発行の「Korrvu
SuspensionPackaging」と題する刊行物(本訴甲第5号証、乙第1号証、以下「引
用刊行物」という。)は、本件特許出願前にアメリカにおいて頒布された刊行物で
あると認定した上、①本件発明1、2は、いずれも引用刊行物に記載された発明で
あるから、特許法29条1項3号に該当し、②本件発明3は、引用刊行物及び実願
昭59-142438号(実開昭61-56266号公報)のマイクロフィルム
(本訴甲第7号証)に基づいて、本件発明4は、引用刊行物及び実願昭57-49
346号(実開昭58-151579号公報)のマイクロフィルム(本訴甲第6号
証)に基づいて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら、同条2項に該当するものであり、本件発明1~4に係る本件特許は、同法11
3条2号に該当するものとして取り消されるべきであるとした。
第3 参加人主張の本件決定取消事由
 本件決定は、引用刊行物が、本件特許出願前に外国において頒布された刊行
物であるとの誤った認定をした(取消事由1)上、本件発明1は引用刊行物に記載
された発明であるから特許法29条1項3号に該当するとの誤った判断をした(取
消事由2)ものであり、この誤った認定判断に基づいて、本件発明2については同
号に、本件発明3、4については同条2項にそれぞれ該当するとの誤った結論に至
ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(頒布刊行物性の認定の誤り)
 (1) 本件決定は、引用刊行物(本訴甲第5号証、乙第1号証)の「94年4月
改訂」、「Conneticut」の記載から、これは1994年の4月以降、本件特許出願
前にアメリカにおいて頒布された刊行物であると認定する(決定謄本6頁2行目~
5行目)が、誤りである。
 (2) 引用刊行物が、広く一般ユーザーに配布することを目的として印刷された
パンフレットであることは認めるが、そのことから当然に「頒布」された事実まで
が立証されるものではない。「Rev.4/94」は型番の表示にすぎないのみなら
ず、被告が援用する後掲乙第2号証の宣誓供述書には、カタログの商品を購入した
旨の記載があるが、7年前に見たカタログの細部について記憶しているというのは
不自然であり、1994年(平成6年)に入手したというカタログが引用刊行物と
同じ題号の別のカタログであった可能性もある。
 2 取消事由2(特許法29条1項3号該当性判断の誤り)
 (1) 本件決定は、①本件発明1と引用刊行物記載の発明との対比判断におい
て、引用刊行物の3頁中段右側の写真及び文章に記載された発明(以下「引用刊行
物発明」という。)は、枠体の中央部に長方形に切り取られ、フィルムの張られた
「窓孔」がある(決定謄本3頁23行目~24行目、6頁12行目、23行目)と
認定した上、②この「窓孔」は本件発明1の「窓孔」(第1窓孔、第2窓孔)に相
当するとの前提で両者の一致点を認定する(同6頁27行目~36行目)ととも
に、③両者の一応の相違点として認定した「第1窓孔または第2窓孔には、窓孔が
物品より小さい場合に窓孔を大きく開きうるように切込線とその外周に折り込み線
が形成」されているとの構成に関し、引用刊行物発明の枠体も「平板状のものに折
り込み線が形成され、その後、折り込み線が折られて窓孔が大きくなったものであ
り、切込線と折り込み線が『窓孔を大きく開きうるように』形成されていたもので
あることは、明らかである」(同7頁8行目~11行目)等の理由で、引用刊行物
発明も当該相違点に係る構成を有する旨認定し、結局、本件発明1は引用刊行物に
記載されたものであると判断するが、誤りである。
 (2) まず、本件発明1の「窓孔」は、フィルムで覆われており、その縁部が、
窓孔から突出する物品に沿って引っ張られて突出するフィルムを、このフィルムの
接着箇所とは別に押さえる作用を有するものである。窓孔が物品より小さい場合に
は、窓孔は折り込み線に沿って大きく開くものであるが、逆に物品が窓孔より小さ
い場合は、窓孔は、開くことなく扁平な姿勢に維持されて、縁部でフィルムを押さ
えることができ、フィルムの緊張を高めることができる。このことは、本件明細書
の図4に図示されているとおりであり、窓孔の大きさが変化しない第1実施例に係
る図3と同様の形状が図示されている。これを拡大したのが別紙参考図の左図であ
り、同図に「実質的な窓孔」として示されている部分が本件発明1の要旨に規定す
る「窓孔」として理解されるべきである。
    これに対し、引用刊行物発明においては、折り込み線に沿ってあらかじめ
折られ、窓孔が大きく開いているため、本件決定の上記(1)①の認定に係る「窓孔」
(別紙参考図右図の「形式的な窓孔」)の縁部はフィルムを押さえる作用を奏する
ものではない。すなわち、引用刊行物発明においては、物品が窓孔より小さい場合
でも、フィルムを押さえて「実質的な窓孔」として機能しているのは、常に折り込
み線で囲まれた部分であって、本件発明1の物品保持状態とは明らかに異なる。
    このような両者の「窓孔」の違いを無視して、引用刊行物発明の上記「窓
孔」(形式的な窓孔)が本件発明1の「窓孔」(実質的窓孔)に対応するとの前提
でした審決の上記(1)②の一致点の認定が誤りであることは明らかである。
 (3) 次に、上記(1)③の認定に関しては、引用刊行物発明が、その形式的窓孔よ
り大きい物品を保持する場合に、折り込み線に沿って更に大きな角度まで折られる
ことは確かであるが、保持する物品が窓孔より大きいか小さいかにかかわらず、フ
ィルムを押さえる実質的な窓孔として機能しているのは、常に折り込み線で囲まれ
た部分であり、物品の大小によって窓孔の大きさが変化することはない。そうする
と、引用刊行物発明は、折り込み線に沿って更に大きな角度まで折られるからとい
って、「窓孔が物品より小さい場合に窓孔を大きく開きうるように形成」されてい
るとはいえない。
 (4) また、本件発明1では、物品が窓孔より大きい場合、窓孔周辺がフィルム
と接しながら切込線を中心に変形し、最適位置まで折り曲げられていくため、フィ
ルムを保護することができるとの作用を奏するものであるのに対し、引用刊行物発
明では、窓孔周辺が折り込み線に沿ってあらかじめ折り曲げられているので、物品
は最初にフィルムのみに押し付けられて伸張することとなり、物品の端部や凹凸に
よりフィルムが切り裂かれる危険がある。したがって、本件発明1と引用刊行物発
明とでは、その作用効果が異なるというべきである。
 (5) 以上のとおり、本件発明1の新規性を否定した本件決定の判断は誤りであ
り、本件発明2の新規性及び本件発明3、4の進歩性を否定した本件決定の判断
も、上記の誤りを前提とするものであるから、誤りに帰する。
第4 被告の反論
   本件決定の認定判断は正当であり、参加人主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(頒布刊行物性の認定の誤り)について
   引用刊行物(乙第1号証)は、懸架包装容器である「KorruvuSuspension
Packaging」という製品を紹介するものであり、参加人も認めるとおり、広く一般ユ
ーザーに配布することを目的として作成されたパンフレット(刊行物)であること
は明白である。そして、この刊行物が印刷されたのは、本件特許出願日(平成8年
4月23日)の2年前である1994年(平成6年)4月であり、もともと一般ユ
ーザーへの配布を目的とするパンフレットが2年間も頒布されずにいたということ
は通常あり得ない。現に、リチャード・ピー・ハッペルの宣誓供述書(乙第2号
証)において、同人が、1994年(平成6年)に引用刊行物と同じ刊行物を入手
し、その後同人の所属するコーニング社においてその製品を購入したことを宣誓供
述している。
   したがって、引用刊行物が、少なくとも本件特許出願前に、アメリカ国内に
おいて広くユーザーに向けて頒布されたことは明らかというべきであり、その旨の
本件決定の認定に誤りはない。
 2 取消事由2(特許法29条1項3号該当性判断の誤り)について
 (1) 引用刊行物発明の基台は、本件決定が認定するとおり、「その中央部には
長方形に切り取られた窓孔があり、窓孔の四隅には斜めの切り込み線があり、各切
込の先端を結ぶ線が折り込み線になっていて、該周壁と同じ側にわずかに折られて
いる」(決定謄本3頁23行目~25行目)ものであるから、長方形の切取線で囲
まれた部分が本件発明1の「窓孔」に相当するものであって、本件決定の認定に誤
りはない。
 (2) 参加人は、本件発明1の「窓孔」はフィルムで覆われており、その縁部
が、窓孔から突出する物品に沿って引っ張られて突出するフィルムを、このフィル
ムの接着箇所とは別に押さえる作用を有する旨主張するが、本件明細書(甲第3号
証)は、「窓孔」と「フィルム」について、「第1窓孔または第2窓孔には前記窓
孔が物品より小さい場合に窓孔を大きく開きうるように切込線とその外周に折り込
み線が形成されており、上記窓孔を覆う第1フィルムまたは第2フィルムは前記切
込線および折り込み線の外側で第1基台表面または第2基台表面に固着してなる」
(特許請求の範囲の請求項1、4及び発明の詳細な説明の段落【0004】)、
「図5から明らかなように、窓孔14・・・の外周には折り込み線が形成されてい
るので窓孔14(24)が小さい場合にこの部分が撓み窓孔を大きく開くことがで
きる。」(段落【0008】)と記載するにとどまる。すなわち、本件発明1の
「窓孔」は物品より小さい場合に押し広げられることが示されているだけであっ
て、参加人の主張する上記作用について何ら記載されていないから、その主張は、
本件明細書の記載に基づかないものといわざるを得ない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(頒布刊行物性の認定の誤り)について
   引用刊行物(甲第5号証、乙第1号証)が、広く一般ユーザーに配布するこ
とを目的として印刷されたパンフレットであることは当事者間に争いがないとこ
ろ、参加人は、これが本件特許出願前に頒布されたものとはいえない旨主張する。
しかし、引用刊行物の最末尾に見られる「Rev.4/94」の記載及び引用刊行物と
同一のカタログを1994年に入手してその商品を購入したことを明確に供述して
いるリチャード・ピー・ハッペルの宣誓供述書(乙第2号証)の記載を総合すれ
ば、引用刊行物は、1994年(平成6年)4月に従前のパンフレットの改訂版と
して印刷され、遅くとも同年中には米国内で頒布されたものと認めることができ
る。「Rev.4/94」は、上記認定のとおり、「1994年4月改訂」を意味する
表示であると認めるのが相当であり、これを「型番」の表示にすぎないとする参加
人の主張は失当である。
   参加人は、さらに、上記宣誓供述書に関し、7年前に見たカタログの細部に
ついて記憶しているというのは不自然であり、1994年(平成6年)に入手した
というカタログが引用刊行物と同じ題号の別のカタログであった可能性もある旨主
張する。しかし、上記宣誓供述書(乙第2号証)にあるとおり、リチャード・ピ
ー・ハッペルは、コーニング社の梱包エンジニアの職にあって、同社のビッグフラ
ッツ工場の購買及び梱包の責任者であったというのであるから、引用刊行物発明の
ような特殊な包装容器を購入するに当たって、その専門家としての目で十分な吟味
を経てこれを購入したであろうことは想像に難くなく、7年の経過という一事をも
ってその信用性を否定することはできない。そして、上記宣誓供述書の供述内容
は、引用刊行物の「Rev.4/94」との上記記載とも整合するものであって、他に
その信用性を疑わせる事情も見当たらないことからすると、参加人の主張する点
は、上記の認定を左右するものとはいえない。
   したがって、取消事由1に係る参加人の主張は理由がない。
 2 取消事由2(特許法29条1項3号該当性判断の誤り)について
 (1) 参加人は、本件発明1の「窓孔」とは、その縁部が突出するフィルムを押
さえる作用を有するものであることを前提に、引用刊行物発明の構成中、実質的な
窓孔として機能するのは、折り込み線で囲まれた部分であって、別紙参考図右図の
「形式的な窓孔」として示す部分ではない旨主張する。そこで、以下、本件発明1
の「窓孔」が参加人の上記主張のとおりに解することができるかどうかについて検
討する。
   まず、「窓孔」との用語は、その文言自体の一般的な意味として、「窓状に
開口された部分」を示すものと解される。そして、本件明細書(甲第3号証)の特
許請求の範囲の請求項1は、「窓孔」に関して、「第1窓孔を有する第1基台と、
該第1窓孔を覆って第1基台表面に固着された可撓性を有する第1フィルムと、上
記第1窓孔に対応する第2窓孔を有する第2基台と、該第2窓孔を覆って第2基台
表面に固着された可撓性を有する第2フィルムとからなって・・・第1窓孔または
第2窓孔には前記窓孔が物品より小さい場合に窓孔を大きく開きうるように切込線
とその外周に折り込み線が形成されており、上記窓孔を覆う第1フィルムまたは第
2フィルムは前記切込線および折り込み線の外側で第1基台表面または第2基台表
面に固着してなる」と規定するところ、その前半部分の記載は、第1窓孔、第2窓
孔ともに、基台表面に固着された可撓性を有するフィルムに覆われていることを規
定するにとどまり、その後半部分の記載は、「窓孔」が物品よりも小さい場合に大
きく開き得るように切込線と折り込み線が形成されていることを規定するにとどま
ると解される。
    そうすると、特許請求の範囲の記載上は、「窓孔」との用語が、その本来
持つ語義と考えられる「窓状に開口された部分」との意味以外に、特別な技術的意
義が与えられているものと解すべき根拠はなく、このような一般的な意味での「窓
孔」という用語を前提に、①基台表面に固着された可撓性を有するフィルムに覆わ
れており、②窓孔が物品より小さい場合に窓孔を大きく開き得るように切込線とそ
の外周に折り込み線が形成されているという構成が付加されているにすぎないもの
として、一義的に解釈可能なものというべきである。
    なお、本件明細書(甲第3号証)の発明の詳細な説明の記載においても、
【課題を解決するための手段】欄(段落【0004】)に上記特許請求の範囲と同
じ記載があるほかは、第2実施例として、「図5で明らかなように、窓孔14(2
4)には切込線Kが四隅に設けられ、またその外周には折り込み線が形成されてい
るので窓孔14(24)が小さい場合にこの部分が撓み窓孔を大きく開くことがで
きる」(段落【0008】)との記載が認められるにすぎず、参加人の主張するよ
うに、「窓孔」の縁部がフィルムを押さえる作用を有することを示す記載はない。
技術常識に照らして考えても、窓孔の縁部が「フィルムを押さえる作用」を奏する
か否かは、物品を挟圧する際に作用する力と、フィルムの撓み特性及び折れ込み線
の剛性の関係によって定まることは明らかであるが、こうした点について、本件明
細書には何らの記載もない。
    参加人は、本件特許に係る特許公報の図4(甲第3号証)が、窓孔より小
さい物品を保持する状態を図示しており、この図示によれば、窓孔は開くことなく
扁平な姿勢に維持されて縁部でフィルムを押さえている旨主張する。しかし、本件
明細書中には、同図に関して、フィルムを押さえつける作用について何らの説明も
ないことは前示のとおりであるから、この図示が、フィルムに作用する引張力に抗
して、窓孔の縁部がこれを押さえつけるという技術思想までを示すものといえるか
にはそもそも疑問がある上、これを措くとしても、「窓孔」の技術的意義を確定す
るに当たって、単なる一実施例の説明にすぎない図面の図示が、特許請求の範囲に
記載された文言自体の語義を離れて解釈すべき根拠となり得るものではない。
    そうすると、本件発明1の「窓孔」は、その縁部が突出するフィルムを押
さえる作用を有するもの(実質的な窓孔)であるとする参加人の主張は、本件発明
1の「窓孔」の技術的意義について、明細書の記載に基づかない解釈を加えて、引
用刊行物発明と対比すべきことを主張することに帰するものであって、採用するこ
とができない。したがって、この主張を前提として、引用刊行物発明の「窓孔」
(参加人のいう「形式的窓孔」)が本件発明1の「窓孔」に相当するものではない
とする主張も、その立論の前提を欠き、失当というほかない。
 (2) 次に、参加人は、引用刊行物発明において、「窓孔が物品より小さい場合
に窓孔を大きく開きうるように形成」されているとはいえない旨主張するが、参加
人自身、引用刊行物発明は、窓孔(参加人のいう「形式的窓孔」)より大きい物品
を保持する場合には、折り込み線に沿って更に大きな角度まで折られるものである
ことは自認しているところであり、かつ、参加人のいう引用刊行物発明の「形式的
窓孔」が本件発明1の「窓孔」と一致することは上記のとおりである以上、上記構
成を引用刊行物発明が有するとした本件決定の認定にも誤りはない。結局、参加人
の上記主張も、本件発明1の「窓孔」の技術的意義に関する上記の採用し得ない主
張を前提とするものであって、採用の限りでない。
 (3) また、参加人は、本件発明1では、保持する物品が窓孔より大きい場合、
窓孔周辺がフィルムと接しながら切込線を中心に変形し、最適位置まで折り曲げら
れていくため、フィルムを保護することができるとの作用を奏するのに対し、引用
刊行物発明では、窓孔周辺が折り込み線に沿ってあらかじめ折り曲げられているの
で、物品は最初にフィルムのみに押し付けられて伸張することとなり、物品の端部
や凹凸によりフィルムが切り裂かれる危険があり、その作用効果が異なる旨主張す
る。しかし、窓孔に関する本件明細書の記載は上記認定のとおりであって、参加人
の主張する上記作用効果は、明細書の記載に基づかないものといわざるを得ない。
 (4) したがって、本件発明1が特許法29条1項3号に該当するとした本件決
定の判断に誤りはない。当該誤りがあることを前提に、本件発明2の新規性及び本
件発明3、4の進歩性についての本件決定の判断の誤りをいう参加人の主張は、前
提を欠くものであって理由がない。なお、本件発明2、3は、請求項1の従属項に
係るものであり、本件発明4に係る請求項4は形式的には請求項1の従属項ではな
いものの、取消事由2に係る「窓孔」、「第1窓孔または第2窓孔には、窓孔が物
品より小さい場合に窓孔を大きく開きうるように切込線とその外周に折り込み線が
形成」されているとの各構成を共通にするものである。
 3 以上のとおり、参加人主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定
を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、参加人の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担
につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決す
る。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 長  沢  幸  男
    裁判官 宮  坂  昌  利
(別紙)
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