弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は原告aに対し、金二一七三円及びこれに対する昭和五〇年六月一三日か
ら支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告aのその余の請求及びぞ案の原告らの各請求は、いずれもこれ棄却する。
三 訴訟費用は、原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者双方の求める裁判
一 原告らの請求の趣旨
1 被告は、原告各自に対し、別紙一(C)欄記載の各金員、及びこれらに対する
昭和五〇年六月一三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する被告の答弁
1 原告らの請求は、いずれもこれを棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
3 担保を条件とする仮執行免脱の宣言。
第二 当事者双方の主張
一 原告らの請求原因
1 原告らは、いずれも、沖縄に所在する米軍(陸軍関係)基地に常用従業員とし
て勤務し、昭和五〇年二月二六日に解雇予告を受け、同年六月三〇日をもつて解雇
された者であり、被告は、沖縄の本土復帰に伴い、同四七年五月一五日以降、「日
本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び
区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下、地位協定とい
う。)一二条四項に基づいて、日米両国政府間において締結された基本労務契約の
定めるところにより、原告らを含む在日米軍基地従業員の法的雇用主となった。
2 原告らは、昭和五〇年中、別紙一(a)欄記載のとおり、同欄記載の日までに
同欄記載の時間の年次有給休暇を行使した上で、同一(a)(b)欄記載のよう
に、年次有給休暇を行使したが、右については、年次有給休暇の行使と認められ
ず、原告らが就労しなかつた時間について欠勤したものとされ、これに相当する賃
金額である別紙一(C)欄記載の各金員について、給料支給日である昭和五〇年六
月一二日、その支払を受けることができなかつた。
3 原告らは、次に述べるとおり、年度途中で退職した昭和五〇年度においても、
八時問労働二〇日間の年次有給休暇権を有していたものである。
(一) 在日米軍基地従業員の休暇について、前記基本労務契約第七章A節1及び
2は、別紙二のとおり規定し、年度途中で退職する者に与えられる年次有給休暇の
日数については、何ら明文の規定がないところ、同節2の規定の文理からは、一月
一日に在籍する常用従業員は、当該一暦年に二〇日間(一六〇時間)の年次有給休
暇を取得するものと解釈できる。
(二) 労働基準法三九条に関するものではあるが、最高裁判所の判例(最高裁判
所昭和四八年三月二日第二小法廷判決民集二七巻二号一九一頁参照)も行政解釈
(昭和四九年一月一一日付労働省労働基準局長通達基収五五五四)も原告らの右
(一)の主張に沿うものである。
(三) 駐留軍等のために労務に服する者の労務管理に関する事務を担当している
防衛施設庁労務部は、昭和四九年五月二二日、原告らが属する全沖縄軍労働組合と
の団体交渉の際、原告らの前記(一)の主張を肯定する旨の意見を表明していた。
(四) 原告bは昭和五〇年五月五日までに八八時間の、原告cは同年四月一七日
までに八三時間の年次有給休暇を既に行使していたし、原告らと同様に米陸軍に勤
務し、九〇日前に解雇予告を、四五日前に解雇通知を受けた上、昭和五一年六月三
〇日に解雇された者で、同年一月一日から退職時までに一一六時間から一六〇時間
の年次有給休暇の行使を認められた者が五名あり、また、同じく、米陸軍に勤務し
ていた訴外dは、昭和五〇年六月三〇日付をもつて解雇される旨の予告を受け、実
際には、同年九月一三付で解雇になったが、同年六月末日までに一四七時間、退職
時までに一五五時間の年次有給休暇の行使が認められた。
なお、米軍普天間マリン航空隊及び将校メスホールに勤務する常用従業員に関し、
四五日前に解雇予告を受け、昭和五一年六月三〇日に解雇され者のうち、二二名に
ついて、同年一月一日から退職時までに一四〇時間から一六〇時間の年次有給休暇
の行使が認められている。
4 そこで、原告らは、被告に対し、別紙一(C)欄記載の金額の賃金、及びこれ
らに対する支給日の翌日である昭和五〇年六月一三日から各支払済まで民法所定の
年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因記載第1項の事実は認める。
2 同第2項の事実は認める。
 なお、後述のとおり、原告らは、いずれも、一〇日間(八〇時間)の年次有給寸
暇を取得するのみであったので、原告主張のような取扱いをしたものであり、原告
aは、昭和五〇年六月二六日、残る四時間の年次有給休暇を行使し、それについて
は、賃金の支給を受けている。
3(一) 同第3項(一)中、基本労務契約の規定が原告ら主張のとおりであるこ
とは認めるが、その余の主張は争う。
右契約の解釈からすれば、原告らが昭和五〇年度において取得する年次有給休暇
は、一〇日間(八○時間)である。即ち、同契約第七章A節2前段の規定によれ
ば、常用従業員に対する年次有給休暇は、「満一暦年につき二〇日の割合」で与え
られるものとされるが、「割合」という文言が使用されていることからして、従業
員の在籍期間に応じて取得される右休暇の日数が定まるものと解すべきである。更
に、同項中段の規定によれば、年度途中に採用される常用従業員に対しては、採用
された年度には、採用時から年度末までの在籍期間に比例する日数の年次有給休暇
が与えられるものとされているが、これとの均衡からも、年度途中に退職すること
が予定されている者に対して与えられる年次有給休暇の日数は、その常用従業員と
して在籍する期間に応じて定められるべきである。
(二) 同項(二)の主張は争う。原告ら指摘の判例及び行政解釈は、いずれも、
二〇日間の年次有給休暇権を取得している従業員が中途退職する場合の問題を扱っ
たものであるが、本件においては二○日間の年次有給休暇権を取得しているか否か
が争点なのであるから、これらは、参考にならない。
 なお労働基準法三九条は年次有給休暇についての最低基準を定めているから、そ
の定めより労働者に有利な基準を当事者間で合意することは許されると解され、本
件基本労務契約規定は、同法の定める基準よりも、労働者にとって有利であるか
ら、同法に違反するものということはできない。
(三) 同項(三)の事実は認める。これは、努力目標を表明したものである。
(四) 同項(四)の事実中、原告b、同c、原告らの主張する昭和五一年六月三
○日に解雇された者のうちの五人及び訴外dについて、原告ら主張のとおりの取扱
いがなされたことは認める。これらは、いずれも、年次有給休暇に関する事務を担
当していた下部監督官の意図的でないエラーである。
 なお、米海軍及び空軍においても、陸軍と同様に、年度途中の退職者の年次有給
休暇については、被告主張の如き按分方式が採られている。
第三 当事者双方の証拠関係(省略)
       理   由
一 請求原因第1、2項の事実は、当事間に争いがない。
二 本件における争点は、昭和五○年六月三○日付をもつて解雇された原告らが同
年度において取得したと見るべき年次有給休暇の日数の点にあるところ、地位協定
一二条四項基づき日米両国政府間において締結された基本労務契約第七章A節1及
び2には、別紙二記載の規定が置かれていることは、当事間に争いがなく、右規定
によれば、常用従業員は、一暦年に二○日間(一六○時間)の年次有給休暇取得
し、年度の途中て常用従業員として採用された者には、採用された月及びその暦年
の残りの各月につき、一二分の二〇の割合で休暇が与えられるものとされている
が、休暇に関して定めた同節中には、年度の途中に退職することが予定されている
常用従業員に対し、与えられるべき年次有給休暇の日数については、何ら明文の規
定が置かれていないから、右日数を決定するに当たり、考慮すべき事項について、
順次、検討を加えることとする。
1 まず、休暇に関する規定の文言について見るに、前出の基本労務契約第七章A
節1及び2前段の規定によれば、常用従業員は、満一暦年につき、八時間勤務二〇
日の割合で」年次休暇を取得するものとされ、常用従業員は、各人雇傭の期間及び
その始期に関わりなく、一律に、暦年を単位とし、かつ、満一年につき、二〇日間
の年次有給休暇を与えられるものとされていることがうかがわれ、また、同節2中
段の規定によれば、暦年の途中で常用従業員として採用された者に対しては、採用
された暦年の残りの期間に応じて所定の年次有給休暇が与えられるものとされてい
る。右のとおり、同節2前段の「満一暦年につき」の文言及び同節2中段の内容を
見ると、右基本労務契約においては、年次有給休暇の日数は、常用従業員の常用従
業員として在籍することが予定される期間に対応し、又は、少なくとも、右期間に
十分な関心を払った上で、定められていることがうかがわれる。
 ちなみに、労働基準法三九条においては、「一年間継続勤務し全労働日の八割以
上出勤した」労働者は、「六労働日」の有給休暇が与えられるものとされ、労働者
の今後の在職期間に対する関心は格別払われておらず、専ら過去の労働の状態にか
んがみて、有給休暇を与えるべきことを、使用者に対し、求めていることがうかが
われる。
2 つぎに、従前の沖縄に所在する米軍基地に勤務する常用従業員が年度途中で退
職する場合に与えられていた年次有給休暇の日数について見るに、昭和五〇年六月
三〇日付をもつて退職した原告bが同年五月五日までに八八時間、同cが同年四月
一七日までに八三時間の年次有給休暇を既に行使していたこと、原告らと同様に米
陸軍に勤務し、九〇日前に解雇予告を、四五日前に解雇通知を受けた上、昭和五一
年六月三〇日に解雇された者で、同年一月一日から退職時までに一一六時間から一
六○時間の年次有給休暇の行使を認められた者が五名おり、また、同五〇年六月三
〇日付をもつて解雇される旨の予告を受け、実際には、同年九月一三日付で解雇に
なった訴外dが六月末日までに一四七時間、退職までに一五五時間の年次有給休暇
を行使したことは、いずれも、当事者間に争いなく、米軍普天間マリン航空隊、将
校メスホールに勤務する常用従業員に関し、四五日前に解雇予告を受け、同五一年
六月三〇日に解雇された者のうち、二二名について、同年一月一日から退職時まで
に一四〇時間から一六〇時間の年次有給休暇の行使が認められたことは、被告にお
いて、明らかには、争わないから、右事実は、自白したものとみなすべきである
が、右事実のみをもって、年度途中で退職する常用従業員は、二〇日間の年次有給
休暇を行使することが認められていたものということはできない。また、沖縄の本
土復帰に伴い、基本労務契約が適用されるようになって以後、年度途中で退職した
常用従業員に対し与えられる年次有給休暇に関し、証人eの証言中には、昭和四九
年三月までは、年次有給休暇の行使に対する規制がなかった旨を供述する部分があ
るが、右証言は、右の者らに対し、二〇日間の年次有給休暇が与えられるような運
用がなされていたという趣旨を含むものではなく、かえって、右証言によれば、米
軍は、右の者らに対しては、二〇日間の年次有給休暇が与えられるものではないと
いう見解を有していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、他
に、年度途中で退職する常用従業員に対する休暇の取扱いに関し、二〇日間の年次
有給休暇が与えられる運用がなされていたことを認めるに足る証拠はない。
 なお、防衛施設庁労務部長から都道府県の渉外労務主管部長に宛てた「MLC書
信8-66(年次休暇)の送付について」と題する昭和四一年六月八日付発言の文
書の写であることが弁論の全趣旨により認められる甲第九号証の引用部分によれ
ば、本土に所在する米軍基地に勤務する労働者について、その者が年度途中で退職
することが予定される場合には、その者に対する年次有給休暇は、月割計算による
按分比例で与えられていたこと、右文書により、これを廃して、「できる限り多
く」年次有給休暇を与えるべき旨を要請していることが認められ、右認定に反する
証拠はない。しかし、右文書にいう「月割計算による按分比例」の休暇は、退職時
まで、一ケ月ごとに、一二分の二〇日を与えられていたのか、又は、退職時までの
在職期間に対応する日数の範囲内でまとめて行使することが認められていたのか、
いずれとも明らかでなく、また、「月割計算による按分比例を廃し」て、「できる
限り多く年次休暇を与える」という趣旨も、二〇日間全部を与えられるべきことを
意図しているものと解することもできないので、右証拠によって、年度途中で退職
する従業員に対し、二〇日間の年次有給休暇が与えられていたことを認めるには足
りないものといわなければならない。
3 また、つぎに、被告の契約事務担当者の意思について見るに、防衛施設庁労務
部の担当者が昭和四九年五月二三日、全沖縄軍労働組合との団体交渉の際、年度途
中で退職する常用従業員に対しては、二〇間の年次有給休暇が与えられるべきであ
るとする原告らの主張と同旨の意見を表明したことは、当事者間に争いなく、証人
eの証言によれば、同庁は、米国側に対し、年度途中で退職する常用従業員に対し
ては、二○日間の年次有給休暇が与えられるべき旨を主張して交渉していることが
認められ、右認定に反する証拠はない。しかし、米国側が右と異なる見解を有して
いることは前認定のとおりであり在日、米陸軍規則であることにつき当事者間に争
いない乙第八号証及び米国海軍契約担当官の覚書の写であり、その原本の存在及び
成立につき争いない乙第九号証の一、二によれば、米国は、陸軍、海軍ともに、年
次有給休暇は、常用従業員として在籍する期間に応じて与えられるものと解してい
ることが認められ、右認定に反する証拠はない。
 右のとおり、契約の文言からは、年次有給休暇の日数が、常用従業員として在籍
することが予定される期間に関心を払った上で定められていると見られること、従
前の取扱いにおいても、年度途中で退職した常用従業員対し、二〇日間の年次有給
休暇の行使が容認されていたものと認めるに足る証拠はないこと、契約の一方の当
事者である米国の契約事務担当者は、右常用従業員に対しては、二日間の年次有給
休暇与えられるものではなく、残りの在籍期間に対応して算出される日数の年次有
給休暇が与えられるものという見解をほぼ一貫して有していること、雇傭主との関
係が終了することが予定されている場合、それが終了しない場合と同一の鶴の年次
有給休暇を与えることを雇傭主に対し義務づけることは、労働基準法三九条に基づ
く場合を除き、必ずしも、当事者間の衡平に資するゆえんではないこと、年度途中
で退職が予定される者に与えられるべき年次有給休暇については、基本労務契約に
は明文の定めがなく、したがってその日数は、右契約中の関係する諸規定の文言、
従前の年次有給休暇の取扱い、契約当事者である米国及び日本国の契約事務担当者
の意思、労働基準法及び年次有給休暇制度の趣旨、当事者間の衡平等諸般の事情を
考慮して、決定すべきものであることなどにかんがみると、年度途中に退職するこ
とが予定されている常用従業員に対し与えられるべき年次有給休暇の日数は、基本
労務契約第七章A節2中段の規定に準じ、一月から、退職することを予定される月
までの期間につき、一二分の二〇の割合で与えられるものと解するのが相当であ
る。
 そしてこのように解すると、年度途中に常用従業員として採用された者も年度途
中に退職することが予定されている常用従業員も、在籍する期間に応じて年次有給
休暇が与えられることとなり、前年から常用従業員として在籍していたということ
のほか、何ら十分な理由もなく、他の労働条件についても、格別取扱上の差異もな
いのに、年度途中に採用された者との間に、いずれも満一年は在籍することができ
ない者でありながら、与えられるべき年次有給休暇の日数に大きな差が生じ得ると
いう不合理が除かれることになるのである。
 なお、労働基準法三九条による年次有給休暇は、過去の労働の期間と勤務状態に
より、与えられるべき日数が定まるのに対し、基本労務契約により与えられる年次
有給休暇は、付与される要件から見ると、逆に、過去の労働の期間及び勤務状態に
かかわりなく、毎年機械的に二○日間と定められているのであるから、年次有給休
暇の与え方としては、基本労務契約によるものの方が労働基準法三九条によるもの
より労働者にとつて有利なものであると考えられる。そして、右のように、労働基
準法の定めを上回る有利な労働契約に基づき与えられる年次有給休暇について、労
働契約上、ごく例外的に生ずる労働者の退職に際し与えられる年次有給休暇の日数
が、たまたま労働基準法の定めを下まわることとなつても、個々の例外的な現象を
とらえて、労働基準法違反を論ずるのは相当でない。このような比較に際しては、
年次有給休暇の与え方の仕組みの全体が同法の定め基準を下まわり、労働者にとっ
て不利益なものであるかどうかを判定すべきであり、かようにして、当該年欠有給
休暇の与え方の仕組みが労働者にとつて有利であり、労働基準法に違反しないもの
とされる以上は、右仕組みを全体として個々の労働関係に適用すべきである。した
がって、年度途中に退職することが予定される常用従業員に与えられる右休暇の日
数に関しては、基本労務契約に基づくものが、労働基準法三九条と比較して、労働
者に不利益となる場合が生じ得るにしても、基本労働契約の方が労働基準法三九条
より、過去の労働期間及び勤務状態について厳しい要件がないだけ、労働者にとっ
て、はるかに有利な年次有給休暇付与の仕組みであるということができるから、基
本労務契約に従って、その日数が決定されると解するのが相当である。
 ちなみに、原告らは、前認定のとおり、沖縄の本土復帰に伴い、昭和四七年五月
一五日から、被告との間に雇傭関係を生じたものであり、労働基準法三九条によれ
ば、満三ケ年を過ぎた同五〇年五月一五日において、八日間の年次有給休暇を取得
し得るに過ぎないのに対し、基本労務契約によれば、同年六月三〇日に退職を予定
されていたのであるから、同年一月一日から六月三○日までの間に、一〇日間の年
次有給休暇を行使し得たのであって、年次有給休暇を行使すべき期間のちがいを考
慮しても、原告らについて、右基本労務契約の解釈が労働基準法三九条に違反する
と解すべき余地はないものといわなければならない。
三 前項に説示のとおり、昭和五〇年六月三〇日付けをもって退職することが予定
されていた常用従業員であった原告らが、同年一月一日から六月三〇日までに行使
し得た年次有給休暇の日数は、一〇日であると解釈すべきであり、原告ら引用の最
高裁判所判決及び労働基準局長通達は、いずれも、取得した年次有給休暇の行使及
びその時季変更に関するものであるから、取得すべき年次有給休暇の日数を決定す
るのに参考となるものではなく、他に、右解釈を動かすに足る証拠はない。右解釈
によれば、原告aを除くその余の原告らが別紙一(a)欄記載の各日時までに、既
に一〇日間(八○時間)又はそれ以上の年次有給休暇を行使していたことは、同原
告らの自認するところであるから、右原告らには、右行使した以上の年次有給休暇
は、残されていないことになる。よって、右原告らが、被告に対し、右年次有給休
暇が残っていることを前提とし、これを行使したことに基づき、同一(C)欄記載
の各賃金及び遅延損害金の支払いを求める本訴請求は、いずれもその余の点に触れ
るまでもなく理由がないことに帰する。
 しかしながら、原告aが別紙一(a)欄記載の日時までに既に行使していた昭和
五〇年度の年次有給休暇の時間数は、同欄記載のように七六時間であったことは、
当事者間に争いがないから、同原告は、同年六月三〇日の退職時までに、更に、四
時間の年次有給休暇を行使し得たというべきである。この点に関し、被告は、同年
六月二六日、同原告に対し、四時間の年次有給休暇を与え、これに対し、賃金を支
払った旨を主張するにとどまり、原告aが別紙一(a)欄記載の日時に年次有給休
暇を請求した際、その行使時季の変更を求めるか、又は、これに対する賃金の支払
がなされるなど、原告の主張を排斥するに足る事実について、主張立証をしないの
であるから、原告aは、別紙一(a)欄記載の日時に四時間の年次有給休暇を行使
したものと解され、同原告の一六時間の賃金が金八六九一円であることは、被告に
おいて明らかに争わないのでこれを目白したものとみなすべく、これによれば同原
告の四時間の賃金は金二一七三円と算定されるから、同原告は、被告に対し、四時
間分の賃金に相当する金二一七三円及びこれに対する給料支払日の翌日から支払済
まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるという
べきである。
四 以上のとおりであり、原告aの被告に対する請求は、金二一七三円及びこれに
対する給料支払日の翌日である昭和五〇年六月一三日(この点については、当事者
間に争いがない。)から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支
払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告aのその余請求及びその余の
原告らの各請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二
条、九三条を各適用し、仮執行の宣言については、その必要がないからこれを付さ
ないこととして、主文のとおり判決する。
(別紙一) 省略
(別紙二)
基本労務契約第7章 休暇
A節 年次休暇
1 資格の取得
年次休暇は、常用従業員に与えられるものとする。
2 計算
 年次休暇の権利は、満一暦年につき、八時間勤務二〇日の割合で取得するものと
する。一暦年中に常用従業員として採用された従業員は、常用従業員として採用さ
れた月及びその暦年の残りの各月につき、一二分の二〇の割合で休暇を与えられる
ものとする。前記のようにして計算した休暇で、半日未満の端数は切り捨てるもの
とし、半日以上の端数は満一日とみなすものとする。

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