弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴ならびに附帯控訴はいずれもこれを棄却する。
     控訴費用は控訴人附帯控訴費用は附帯控訴人の各負担とする。
         事    実
 控訴人等代理人は控訴の趣旨として「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控
訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との
判決を求め、附帯控訴につき控訴棄却の判決を求めた。
 被控訴人代理人は控訴につき棄却の判決を求め、附帯控訴の趣旨として「原判決
中附帯控訴人敗訴の部分を取消す。控訴人Aは被控訴人に対し、原判決添附第一目
録記載の土地に建設せられた同第二目録記載の建物を収去して、右土地を明渡せ。
控訴人等は各自被控訴人に対し、昭和二十五年七月七日から同年八月十五日にいた
るまで右土地の内三十坪につき一ケ月一坪当り金三円の割合、同年同月十六日から
明度ずみまで右土地につき一ケ月一坪当り金十円五十七銭の割合による金員を支払
え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人等の負担とする。」との判決を求め、予備的
請求として、もし控訴人Aの買取請求が認められ、右家屋収去、土地明度の請求が
理由がない場合には「控訴人Aは被控訴人より金十万円の支払を受けると引換に原
判決添附第二目録記載の建物を引渡せ。」との判決を求める旨申立てた。
 当事者双方事実上の主張ならびに証拠に対する関係は、
 被控訴人代理人において(一)原判決添附第二目録記載の家屋(以下本件家屋と
いう)には日本無尽株式会社(現在の商号株式会社日本相互銀行)のため限度額二
十五万円の根抵当権が設定せられ、昭和二十五年一月十七日甲府地方法務局同日受
附第七号を以てその旨の登記がなされ、更に大蔵省のため国税滞納処分により差押
られ、昭和二十六年十一月三十一日甲府地方法務局同日受附第五七四九号を以てそ
の旨の登記がなされあり、その負担する債務額は合計金五十万円以上であるからこ
の完済がなされた後初めて買取請求をなすべきであつて、これをしないで、買取請
求をするのは信義誠実の原則に違反し、無効である。(二)また仮りに買取請求が
有効であつても控訴人Aが買取請求の意思表示をした昭和二十五年七月六日当時の
本件家屋の相当価格は金十万円であるから、もし右買取請求が有効と認められ、家
屋収去、土地明渡の請求が認められない場合には、被控訴人は右金十万円の支払と
引換に控訴人Aより本件家屋の明渡を求めるものである。(三)控訴人等の主張の
ようにその後本件家屋に対する差押が解除せられ現在その登記が抹消せられている
ことは認める。
 控訴人等代理人において本件家屋に被控訴人主張のような根抵当権の設定登記な
らびに差押登記があつたことは認めるけれども、その債務額は否認する。また大蔵
省のための差押はその後解除せられ現在その登記は抹消せられている。
 とそれぞれ述べ
 立証として新たに、
 被控訴人代理人において甲第一号証を提出し、当審証人Bの証言ならびに当審に
おける被控訴本人C尋問の結果を援用し、
 控訴人等代理人において、当審証人D、Eの各証言、当審における控訴人本人A
(第一、二回)、F各尋問の結果ならびに当審における検証の結果および鑑定人G
鑑定の結果を援用し、甲第一号証の成立を認めた。
 ほか原判決事実の部分に記載してあるとおりであるから、ここにこれを引用す
る。
         理    由
 被控訴人が甲府市a町b番地宅地二百三坪を所有している事実ならびに被控訴人
が昭和二十一年一月十五日控訴人F対し右土地の内三十坪(本件土地)を賃料一ケ
月一坪当り金三円の約にて建物所有の目的を以て期間の定めなく賃貸した事実は当
事者間争がないところである。被控訴人は右賃貸借は一時使用の目的を以てなされ
たものであると主張するけれども、原審証人H、原審および当審証人Bならびに原
審および当審における被控訴本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人が本件土地を
賃貸するに当り控訴人Fが本件土地上に家屋を建設し、右家屋に居住するとともに
青果商を営むことを了承していた事実明かであつて、右家屋における居住ないし営
業が一時的のものであり短期に使用目的が終了すべきものであつた事実については
これを認むべき証拠がないから本件賃貸借が一時使用の目的を以てなされたものと
はいい難い。もつとも前記各証言ならびに尋問の結果によれば被控訴人は将来本件
土地上にその三男Bのために家屋を建設し、これに居住させる意図を有していた事
実を窺いうるけれども、被控訴人の提出援用にかかわる全証拠を以てするも右意図
が近き将来実現を見るべき予定のものである事実ならびにこの点につき当事者間了
解を遂げた事実の認むべきものがないから、この一事により右認定を覆えし難い。
 次いで控訴人Fが本件土地に本件建物(但し後記増築部分を除く)を建設所有し
たが、同人はその後右建物および右土地の賃借権を控訴人Aに譲渡したことは当事
者間争がなく、原審における控訴本人A尋問の結果によれば右譲渡は売買にもとず
くものであつて、その日時は昭和二十四年九月頃である事実を認めうる。控訴人等
は右賃借権の譲渡につき被控訴人の承諾があつた旨主張するけれどもこの点に関す
る原審および当審証人E当審証人Dの証言なろびに原審および当審こおける控訴本
人Aの陳述(当審においては第一、二回とも)は原審証人H、原審および当審証人
Bの各証言ならびに原審および当審における被控訴本人尋問の結果にくらべ信用し
難い。乙第一号証の一、二によつては右事実を認め難い。したがつて右賃借権の譲
渡を以て被控訴人に対抗することができないものといわねばならぬ。
 被控訴人が昭和二十五年三月十日控訴人Fに対その主張のような賃貸借解除の意
思表示をなしたことは当事者間争ないところであるから、右賃貸借は同日限り終了
したものである。控訴人等はこの点につき被控訴人は本件土地のほかに本件土地に
隣接して空地を有し、家族の住宅を必要とするならば、右空地を利用すれば足りる
とともに、莫大な費用を投じて建設された本件建物の収去を求める必要がないか
ら、右解除は権利の濫用であつて曲効である旨主張するけれども、民法第六百十二
条の立法理由は賃貸人の承諾がない賃借権の譲渡又は転貸は当事者間の信頼関係を
基礎とする賃貸借そのものの性質に反すると認めたからであつて、控訴人等主張の
ような事情の下に賃借権の譲渡がなされたればとて、賃貸人賃借人間の信頼関係を
破らないものとはいい難く、又右のような事情の下に賃貸借を解除したればとて直
ちにこれを以て反道徳的行為なりとは断じ難いからこの点の主張もまた採用し難く
右解除は有効である。
 控訴人Aが前記建物および賃借権の譲渡を受けた後本件土地を占有し、右家屋の
西南部に四畳半の一室および三尺四方の押入を増築した事実は当事者間争がないか
ら、控訴人Aは所有者たる被控訴人に対し本件土地を右建物を収去して明度すべき
義務あるところ控訴人Aが前記のように賃借権の譲渡につき賃貸人たる被控訴人の
承諾がないことを理由として借地法第十条の規定にもとずき昭和二十五年七月六日
の本件口頭弁論期日において買取請求の意思表示をしたことは記録に徴し明かであ
る。被控訴人はこの点につき右買取請求の意思表示がなされた当時大蔵省のため差
押えられ又株式会社日本相互銀行のため根抵当権が設定せられそれぞれその旨の登
記がなされその負担額は金五十万円以上こ達するから、この完済がない以上右買取
請求は信義誠実<要旨第一>の原則に違反し無効である旨主張するけれども、右のよ
うな本件家屋の負担すべき債務あればとて必ずしも競買その他の方法に
より換価せられ買取講請求の相手方である賃貸人において取得した物件の所有権を
喪失するものとは限らず、殊に抵当権については不動産の買受人において抵当権の
滌除をなすことができ、また滌除の手続を終わるまでは代金の支払を拒むことがで
きるから、前記のように差押又は抵当権の登記ある場合においても右買取請求を以
て信義誠実の原則に違反し無効であるとはいい難い。
 よつて次に右買取請求の結果披控訴人において控訴人Aに支払うべき代金額につ
いて審査する。前記家屋につきなされた増築部分は控訴人Aが本件賃借権譲受け以
後になされたものであることさきに説明したとおりであるからこの部分もまた右買
取請求の物件中に包含せられるや否やにつき考えるに、借地法第十条の規定により
買取請求を認めた理由は賃貸人において賃借権の譲渡又は転貸を承諾しない場合に
おいて賃借人においてその権原により賃借土地に附属せしめた家屋その他の物件を
収去せざるを得ないものとするときは莫大な損害を蒙らざるを得ないことこなり、
他面一般経済上の損害も少くないことにかんがみこれを時価を以て買取ることを得
しめたものであつて、この場合賃貸人をして建物その他の物件そのものをその時価
を以て買取らしむるもその蒙る損害はさして大ではなくこれを忍容せしめても差支
なきものと認めたものと解すべきであるから、その買取請求の目的たる物件も原則
として賃借人が権原により土地に附属せしめた家屋その他の物件に限<要旨第二>り
第三者か賃借権譲受以後附属せしめた物件に及ばないと解すべきところ、原審およ
び当審検証の結果によれば右増築部分は従前の家屋面積に比し極めて僅
少であり、かつ従前の家屋部分と一体をなしこの効用を減殺する結果を生ずること
なくしてこれを撤去すること困難な状態にあり、更に右増築により店舗兼住宅であ
る従前家屋の効用を増加こそすれこれを減少するような状態でないこと明かである
から、右増築部分を右買取請求の物件中に含ましめても前記買取請求を認めた趣旨
に反することなく、従つて被控訴人と控訴人Aとの間に本件建物全部につき買取請
求がなされた昭和二十五年七月六日当時の時価を以て代金とする売買契約が成立し
たと同一の効力を生じたものと認める。しかして右代金額は借地権の価額を包含せ
しめず地上に存在する物件の現状における買取請求当時の売買価格によるべきこと
前に説明した借地法第十条に規定した買取請求を認めた立法趣旨に徴し自ら明かで
あつて本件建物全部につき買取請求のなされた昭和二十五年七月六日当時の右趣旨
による相当価額は原審鑑定人Iの鑑定の結果によれば金三十一万八千七百円であ
る。この点に関する当審鑑定人Gの鑑定の結果は採用しない。従つて右買取請求に
より被控訴人は本件建物全部の所有権を取得し控訴人Aの被控訴人に対する本件建
物収去義務はここに消滅し本件建物収去請求は失当たるに帰するとともに控訴人A
は右買取請求の結果右建物全部の所有権を取得した被控訴人に対し右家屋を引渡す
べき義務を負担することとなる。控訴人Aは同時履行の抗弁および留置権を主張し
本件建物の買受代金の支払を受けるまで右家屋の明渡を拒むけれども同控訴人こお
いて前記代金の弁済を受けるときは右抗弁権および留置権を喪失するから右代金の
支払を受けると引換に本件家屋を被控訴人に引渡す義務あるものといわねばなら
ぬ、従つて被控訴人の予備的請求はこの限度において理由がありその他は理由なき
ものとして棄却せられなければならぬ。
 尚被控訴人の控訴人等に対する賃料損害金等の金員の請求については当裁判所は
原判決に示したと同一の理由により同一範囲においてこれを認容し、その他は棄却
すべきものと認める。
 当裁判所の本件各請求に対する判断は以上のとおりであつてこれと一致する原判
決は結局正当であり本件控訴ならびに附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄
却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判
決した。
 (裁判長裁判官 渡辺葆 裁判官 牧野威夫 裁判官 野本泰)

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