弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人成毛由和、同立見廣志の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 訴外D貿易株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和四六年五月二二
日訴外E信用金庫(以下「訴外金庫」という。)との間で当座貸越等を内容とする
信用金庫取引約定を結び、訴外会社の代表取締役である訴外Fは、昭和四九年五月
二二日訴外金庫に対し、同人所有の本件建物について被担保債権の範囲を右信用金
庫取引による債権等とし、極度額を六〇〇万円とする根抵当権を設定し、かつ、訴
外会社の右借受金債務を連帯保証した。右根抵当権の設定登記は、同月二九日経由
された。
 2 訴外会社は、訴外金庫から昭和四九年五月二九日、右信用金庫取引約定に基
づいて四八〇万円を、利息を年一一パーセント、遅延損害金を年一八・二五パーセ
ントとし、弁済方法について同年一二月から昭和五二年五月まで毎月二五日限り一
六万円宛分割して弁済する旨の約定、及び右分割金の弁済を一回でも怠つたときは
期限の利益を喪失し残額を一時に弁済する旨の約定で、借り受けた。
 3 被上告人は、昭和四九年五月一日訴外会社から、近く借受が予定されていた
右借受金債務につき信用保証の委託申込を受けて、同日これを承諾し、同月二一日
訴外金庫に対し右借受金債務を保証した。
 4 被上告人は、右信用保証の委託申込を承諾するに際し、(1) 訴外会社との
間で、求償権の内容について、被上告人が訴外金庫に対し代位弁済したときは、訴
外会社は被上告人に対し被上告人の代位弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日
の翌日から支払ずみまで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を支払う
旨の特約をし、(2) さらに、Fとの間で、民法五〇一条但書五号の定める代位の
割合について、被上告人が代位弁済したときは、被上告人はFが訴外金庫に対し設
定した前記根抵当権の全部につき訴外金庫に代位し、右(1)の特約による求償権の
範囲内で、訴外金庫の有していた右根抵当権の全部を行使することができる旨の特
約をした。
 5 訴外会社は、前記借受金につき昭和四九年一二月二五日限り支払うべき分割
金の弁済を怠り、残額を一時に弁済すべきこととなり、前記根抵当権は、昭和五一
年五月六日担保すべき元本が確定し、同年六月四日元本確定の附記登記が経由され
た。そして、被上告人は、同年七月一九日右借受金元本のうち四五四万円を代位弁
済し、同日右代位弁済を原因として右根抵当権の全部について移転の附記登記を経
由した。
 6 原審被控訴人(一審被告)である株式会社G商店(以下「G商店」という。)
は昭和四九年一二月四日に、上告人は昭和五〇年三月二八日にそれぞれ本件建物に
ついて根抵当権設定登記を経由した。
 7 東京地方裁判所は、被上告人の先順位根抵当権者である訴外Hの申立により
本件建物について不動産競売手続を開始し、本件建物を二八五一万円で競売し、昭
和五二年七月二二日の本件配当期日において次の売却代金交付計算書を作成した。
  競売手続費用                   四一万七一二〇円
  H  債 権 額  元   本  一一〇〇万円
                  損 害 金   一二四万三五六四円
           交 付 額          右各金額
  被 上 告 人  債 権 額  元   本   四五四万円
                  損 害 金    二七万五三八五円
           交 付 額  元   本   二二七万円
                  損 害 金    一三万七六九三円
  G 商 店  債 権 額  元   本  一二〇一万七七三〇円
                  損 害 金   三五〇万八二一五円
           交 付 額  元   本   八四九万一七八五円
                  損 害 金   三五〇万八二一五円
  上  告  人  債 権 額  元   本   九七〇万三〇〇〇円
                  利   息   一五七万六七三七円
                  損 害 金   三四八万九一七九円
           交 付 額  元   本          〇円
                  利   息          〇円
                  損 害 金   一四四万一六二三円
  すなわち、被上告人が元本四五四万円及びこれに対する代位弁済の日の翌日で
ある昭和五一年七月二〇日から本件配当期日である昭和五二年七月二二日まで年一
八・二五パーセントの割合による損害金八三万五三六〇円の債権額を届け出たのに
対し、同裁判所は、右債権額のうち、右元本の二分の一である二二七万円及びこれ
に対する代位弁済の日である昭和五一年七月一九日から本件配当期日である昭和五
二年七月二二日まで商事法定利率である年六分の割合による損害金一三万七六九三
円に限つて交付すべきものとした。
 8 これに対し、被上告人は、元本四五四万円及び損害金八三万五三六〇円の全
部について優先弁済を受けることができると主張して異議を申し立てたが、完結し
なかつた。
 そこで、被上告人は、後順位根抵当権者であるG商店及び上告人を被告として本
訴を提起し、前記売却代金交付計算書中、G商店に対する交付額の元本八四九万一
七八五円のうち一五二万六〇四四円、上告人に対する交付額の損害金一四四万一六
二三円の全部を取り消し、これを被上告人に対する前記交付額に加え、被上告人に
対する交付額を結局元本四五四万円及び損害金八三万五三六〇円の合計五三七万五
三六〇円と変更する旨の判決を求めた。
  以上の事実関係のもとで、原審は、被上告人のG商店及び上告人に対する右の
請求を全部認容すべきものとし、これと異なる一審判決は不当であるとしてこれを
取り消す旨の判決をし、右判決は、G商店に関する部分については上告期間満了に
より確定し、上告人のみが上告した。
 二 そこで、まず、上告理由のうち、保証人である被上告人は、債務者である訴
外会社との間で代位弁済による求償権の内容につき民法四五九条二項によつて準用
される同法四四二条二項の定める法定利息と異なる特約をしても、第三者である上
告人に対しては右特約の効力をもつて対抗することができないと主張する部分につ
いて、検討する。
  弁済による代位の制度は、代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保
するために、法の規定により弁済によつて消滅すべきはずの債権者の債務者に対す
る債権(以下「原債権」という。)及びその担保権を代位弁済者に移転させ、代位
弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度
であり、したがつて、代位弁済者が弁済による代位によつて取得した担保権を実行
する場合において、その被担保債権として扱うべきものは、原債権であつて、保証
人の債務者に対する求償権でないことはいうまでもない。債務者から委託を受けた
保証人が債務者に対して取得する求償権の内容については、民法四五九条二項によ
つて準用される同法四四二条二項は、これを代位弁済額のほかこれに対する弁済の
日以後の法定利息等とする旨を定めているが、右の規定は、任意規定であつて、保
証人と債務者との間で右の法定利息に代えて法定利率と異なる約定利率による代位
弁済の日の翌日以後の遅延損害金を支払う旨の特約をすることを禁ずるものではな
い。また、弁済による代位の制度は保証人と債務者との右のような特約の効力を制
限する性質を当然に有すると解する根拠もない。けだし、単に右のような特約の効
力を制限する明文がないというのみならず、当該担保権が根抵当権の場合において
は、根抵当権はその極度額の範囲内で原債権を担保することに変わりはなく、保証
人と債務者が約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約によつて求償権の総額を
増大させても、保証人が代位によつて行使できる根抵当権の範囲は右の極度額及び
原債権の残存額によつて限定されるのであり、また、原債権の遅延損害金の利率が
変更されるわけでもなく、いずれにしても、右の特約は、担保不動産の物的負担を
増大させることにはならず、物上保証人に対しても、後順位の抵当権者その他の利
害関係人に対しても、なんら不当な影響を及ぼすものではないからである。そして、
保証人と右の利害関係人とが保証人と債務者との間で求償権の内容についてされた
特約の効力に関して物権変動の対抗問題を生ずるような関係に立つものでないこと
は、右に説示したところから明らかであり、保証人は右の特約を登記しなければこ
れをもつて右の利害関係人に対抗することができない関係にあるわけでもない(法
がそのような特約を登記する方法を現に講じていないのも、そのゆえであると解さ
れる。)。以上のとおりであるから、保証人が代位によつて行使できる原債権の額
の上限は、これらの利害関係人に対する関係において、約定利率による遅延損害金
を含んだ求償権の総額によつて画されるものというべきである。
  上告人の引用する判例(最高裁昭和四七年(オ)八九七号同四九年一一月五日
第三小法廷判決・裁判集民事一一三号八九頁)は、その原審の確定した事実関係及
び上告理由に照らすと、本判決の以上の判断と抵触するものではない。
 三 つぎに、保証人である被上告人と物上保証人であるFとの間でされた民法五
〇一条但書五号の定める代位の割合を変更する特約の第三者に対する効力の存否に
関する違法をいう部分について、検討する。
  民法五〇一条は、その本文において弁済による代位の効果を定め、その但書各
号において代位者相互間の優劣ないし代位の割合などを定めている。弁済による代
位の制度は、すでに説示したとおり、その効果として、債権者の有していた原債権
及びその担保権をそのまま代位弁済者に移転させるのであり、決してそれ以上の権
利を移転させるなどして右の原債権及びその担保権の内容に変動をもたらすもので
はないのであつて、代位弁済者はその求償権の範囲内で右の移転を受けた原債権及
びその担保権自体を行使するにすぎないのであるから、弁済による代位が生ずるこ
とによつて、物上保証人所有の担保不動産について右の原債権を担保する根抵当権
等の担保権の存在を前提として抵当権等の担保権その他の権利関係を設定した利害
関係人に対し、その権利を侵害するなどの不当な影響を及ぼすことはありえず、そ
れゆえ、代位弁済者は、代位によつて原債権を担保する根抵当権等の担保権を取得
することについて、右の利害関係人との間で物権的な対抗問題を生ずる関係に立つ
ことはないというべきである。そして、同条但書五号は、右のような代位の効果を
前提として、物上保証人及び保証人相互間において、先に代位弁済した者が不当な
利益を得たり、代位弁済が際限なく循環して行われたりする事態の生ずることを避
けるため、右の代位者相互間における代位の割合を定めるなど一定の制限を設けて
いるのであるが、その窮極の趣旨・目的とするところは代位者相互間の利害を公平
かつ合理的に調節することにあるものというべきであるから、物上保証人及び保証
人が代位の割合について同号の定める割合と異なる特約をし、これによつてみずか
らその間の利害を具体的に調節している場合にまで、同号の定める割合によらなけ
ればならないものと解すべき理由はなく、同号が保証人と物上保証人の代位につい
てその頭数ないし担保不動産の価格の割合によつて代位するものと規定しているの
は、特約その他の特別な事情がない一般的な場合について規定しているにすぎず、
同号はいわゆる補充規定であると解するのが相当である。したがつて、物上保証人
との間で同号の定める割合と異なる特約をした保証人は、後順位抵当権者等の利害
関係人に対しても右特約の効力を主張することができ、その求償権の範囲内で右特
約の割合に応じ抵当権等の担保権を行使することができるものというべきである。こ
のように解すると、物上保証人(根抵当権設定者)及び保証人間に本件のように保
証人が全部代位できる旨の特約がある場合には、保証人が代位弁済したときに、保
証人が同号所定の割合と異なり債権者の有していた根抵当権の全部を行使すること
になり、後順位抵当権者その他の利害関係人は右のような特約がない場合に比較し
て不利益な立場におかれることになるが、同号は、共同抵当に関する同法三九二条
のように、担保不動産についての後順位抵当権者その他の第三者のためにその権利
を積極的に認めたうえで、代位の割合を規定していると解することはできず、また
代位弁済をした保証人が行使する根抵当権は、その存在及び極度額が登記されてい
るのであり、特約がある場合であつても、保証人が行使しうる根抵当権は右の極度
額の範囲を超えることはありえないのであつて、もともと、後順位の抵当権者その
他の利害関係人は、債権者が右の根抵当権の被担保債権の全部につき極度額の範囲
内で優先弁済を主張した場合には、それを承認せざるをえない立場にあり、右の特
約によつて受ける不利益はみずから処分権限を有しない他人間の法律関係によつて
事実上反射的にもたらされるものにすぎず、右の特約そのものについて公示の方法
がとられていなくても、その効果を甘受せざるをえない立場にあるものというべき
である。
  上告人の引用する前記判例は本件と事案を異にし、本判決の以上の判断は、右
の判例に抵触するものではない。
 四 叙上の見解に立つて、本件についてみるに、原審の適法に確定した前記事実
関係のもとにおいては、被上告人が本件配当期日において訴外会社に対して有する
原債権は、被上告人が届出をした貸金元本四五四万円及びこれに対する期限の利益
を失い残額を一時に支払うべきこととなつた日ののちの日である昭和五一年七月二
〇日から本件配当期日である昭和五二年七月二二日まで貸付の際の約定利率である
年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金八三万五三六〇円を超えて存在す
ることは明らかであり、右の原債権を担保する被上告人のFに対して有する根抵当
権の極度額は六〇〇万円であり、そして被上告人が本件配当期日において訴外会社
に対して有する求償権は、代位弁済した四五四万円及びこれに対する信用保証の委
託申込を承諾したときにおける求償権の内容についての特約に基づく遅延損害金で
ある代位弁済の日の翌日である昭和五一年七月二〇日から本件配当期日である昭和
五二年七月二二日まで年一八・二五パーセートの割合による遅延損害金八三万五三
六〇円となるから、被上告人は、原債権である貸金元本四五四万円(なお原判決添
付第二売却代金交付計算書中順位7の債権の種類として「代位弁済元金」とあるの
は右貸金元本の趣旨と解すべきである。)、遅延損害金八三万五三六〇円の交付を
受けることができ、上告人は全く交付を受けることができないものというべきであ
る。
 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違
法はない。論旨は、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦

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