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平成24年(し)第268号再審開始決定及び死刑執行停止決定に対する異議
申立ての決定に対する特別抗告事件
平成25年10月16日第一小法廷決定
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違
反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
所論に鑑み,職権により判断する。
1確定判決の概要
確定判決の認定した罪となるべき事実の要旨は,次のとおりである。
申立人(大正15年1月14日生・当時35歳)は,妻(当時34歳)と愛人
(当時36歳)との三角関係の処置に窮し,両名を殺害してその関係を清算しよう
と考え,昭和36年3月28日,申立人及び両名らが所属する生活改善クラブの懇
親会が開催される三重県名張市内の公民館に女子会員用のぶどう酒を運び入れた
上,公民館に誰もいなくなった隙に,女子会員らが死亡するかもしれないことを十
分認識しながら,上記ぶどう酒を開栓して,竹筒に入れて忍ばせて持参していた農
薬ニッカリンTを4ないし5㏄注入し,替え栓(内蓋)を元どおりかぶせるなど
し,同日午後8時頃,懇親会に出席した女子会員20名に提供させ,これを飲んだ
17名につき,有機燐中毒により,妻と愛人を含む5名を死亡させて殺害し,12
名に傷害を負わせ,3名については飲ませるに至らなかった(殺人,殺人未遂)。
確定判決の有罪認定の主たる根拠は,①本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤が混入
されたのは外蓋等の証拠物の発見状況等によれば公民館の囲炉裏の間であったと認
められ,犯行の機会があった人物は,会の開始前に本件ぶどう酒と共に公民館にた
だ一人で約10分間いた申立人以外にはいないこと及び②申立人が事件後間もなく
参考人として事情聴取されていた段階から起訴直前に至るまで犯行状況等について
詳細に供述していた各自白調書の信用性が高いことにある。
2本件特別抗告に至る経緯等
本件第7次再審請求に至るまで,多数の証拠が提出されてきたが,確定判決の有
罪認定に合理的疑いを生じさせるものではないと判断されてきた。
本件第7次再審請求においては,弁護人から5つの証拠群が提出されたところ,
最高裁平成19年(し)第23号同22年4月5日第三小法廷決定・裁判集刑事3
00号167頁は,4つの証拠群について刑訴法435条6号該当性を否定した上
で,再審開始決定を取り消した異議審決定に関し証拠群3(使用毒物に関する鑑定
書等)について審理不尽であるとして同決定を取り消し,本件を名古屋高裁に差し
戻した。
証拠群3の鑑定書等は,本件使用毒物が有機燐テップ製剤であると判定した当時
の三重県衛生研究所のペーパークロマトグラフ試験では,申立人が使用したと自白
する農薬ニッカリンTに含まれる物質であるトリエチルピロホスフェート(TRI
EPP)が,事件検体(本件飲み残しぶどう酒)からは検出されていないのに,対
照検体(対照試験のために用意したぶどう酒に市販のニッカリンTを入れたもの)
からは検出されているのは,本件使用毒物がニッカリンTではない別の有機燐テッ
プ製剤であったとの疑いがある旨いうものである。
原決定(差戻し後の異議審決定)は,新たに実施した鑑定結果を踏まえ,同鑑定
の結果によれば,TRIEPPは有機化合物の成分を分離する一方法であるエーテ
ル抽出では抽出されないのであるから,その方法を用いて抽出が行われていた事件
検体からTRIEPPが検出されていないからといって,本件使用毒物がニッカリ
ンTでなかったことを導き出すものとはいえないと判断した。また,対照検体から
TRIEPPが検出された点については,ニッカリンTに含まれる物質であるペン
タエチルトリホスフェート(PETP)がエーテル抽出され,エーテル抽出後にT
RIEPPを生成して検出されたものと考えられる旨判断した。そして,本件使用
毒物がニッカリンTであることと,TRIEPPが事件検体からは検出されなかっ
たこととは矛盾するものではなく,証拠群3は,刑訴法435条6号には該当する
ものではない旨判断した。原決定(差戻し後の異議審決定)は,その余の4つの証
拠群についても上記最高裁決定同様に判断して同号該当性を否定して,改めて再審
開始決定を取り消して再審請求を棄却した。これに対し,弁護人が特別抗告をし
た。
3当裁判所の判断
原審(差戻し後の異議審)の鑑定は,科学的に合理性を有する試験方法を用い
て,かつ,当時の製法を基に再製造したニッカリンTにつき実際にエーテル抽出を
実施した上でTRIEPPはエーテル抽出されないとの試験結果を得たものである
上,そのような結果を得た理由についてもTRIEPPの分子構造等に由来すると
考えられる旨を十分に説明しており,合理的な科学的根拠を示したものであるとい
うことができる。同鑑定によれば,本件使用毒物がニッカリンTであることと,T
RIEPPが事件検体からは検出されなかったこととは何ら矛盾するものではない
と認められる。所論は,農薬を抽出する際には塩化ナトリウムを飽和するまで加え
る方法(塩析)が当時は行われており,塩析した上で試験をすればTRIEPPは
エーテル抽出後であっても検出されると主張するが,当時の三重県衛生研究所の試
験において塩析が行われた形跡はうかがわれず,所論は前提を欠くものである。ま
た,対照検体からはTRIEPPが検出されている点についても,当審に提出され
た検察官の意見書の添付資料等によれば,PETPがエーテル抽出された後にTR
IEPPを生成して検出されたものと考えられる旨の原判断は合理性を有するもの
と認められる。
以上によれば,証拠群3は,本件使用毒物がニッカリンTであることと何ら矛盾
する証拠ではなく,申立人がニッカリンTを本件前に自宅に保管していた事実の情
況証拠としての価値や,各自白調書の信用性に影響を及ぼすものではないことが明
らかであるから,証拠群3につき刑訴法435条6号該当性を否定した原判断は正
当である。
また,本件ぶどう酒の開栓方法等に係る実験結果報告書等のその余の4つの証拠
群についても,上記最高裁決定の判示のとおり同号該当性は認められず,同旨の原
判断は正当である。
よって,同法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文の
とおり決定する。
(裁判長裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官白木勇裁判官
山浦善樹)

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