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平成25年(ワ)第953号損害賠償請求事件
平成27年9月9日千葉地方裁判所民事第1部判決
口頭弁論終結日平成27年5月13日
主文
1被告は,原告ら各自に対し,22万円及びこれに対
する平成24年5月1日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを30分し,その13を原告Aの,
その13を同Bの,その余を被告の各負担とする。
4この判決は,被告に送達された日から14日を経過
したときは,第1項に限り仮に執行することができる。
ただし,被告が,各原告につき18万円の担保を供す
るときは,当該原告の仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
被告は,原告ら各自に対し,165万円及びこれに対する平成24年5月1
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,公判前整理手続が進行中の刑事被告事件において,検察官が,勾留
中の被告人から,弁護人らとの間の接見の内容にわたる記載を含むノート,弁
護人ら宛ての信書の草稿その他の被告人作成文書の任意提出を受けた行為につ
いて,弁護人ら2名が,弁護人に固有の秘密交通権を侵害する違法な行為に当
たると主張して,国に対し,国家賠償法1条1項に基づき,弁護人1名につき
損害賠償金165万円(慰謝料150万円,弁護士費用15万円)及びこれに
対する上記任意提出の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める事案である。
1前提事実
次の事実は,当事者間に争いがなく,又は後掲証拠若しくは弁論の全趣旨か
ら明らかである(以下,書証の摘示は,特に明示しない限り,当該書証の枝番
号を含む。)。
ア原告A及び原告Bは,いずれも,千葉県弁護士会所属の弁護士であり,
C及びDに係る保護責任者遺棄致死傷被告事件(以下「本件刑事事件」と
いう。)において,Cの国選弁護人であった。
イE(以下「E検事」という。)は,検事であり,平成24年5月当時,
千葉地方検察庁に所属し,本件刑事事件の公判を担当していた。
本件刑事事件の起訴に至る経過のうち,主としてCに関する部分の大要は,
次のとおりである。
アCは,保護責任者遺棄致死被疑事件について,平成23年8月9日に逮
捕され,同月11日に勾留されて,同月12日には原告Aが,同年9月7
日には同Bが,それぞれ国選弁護人に選任され,同年8月30日,夫であ
るDとともに起訴された(千葉地方裁判所,事件番号省略)。公訴事実の
要旨は,C及びDは,夫婦として千葉県柏市内の共同住宅に居住し,同所
において長男を養育していたものであるが,同児に十分な栄養を与えずに
その発育が遅れ,低体重であったところ,同児が平成23年4月頃から栄
養失調により衰弱し始めたのであるから,同児に適切な医療措置を受けさ
せる責任があったにもかかわらず,共謀の上,その頃以降,同児に適切な
医療措置を受けさせず,よって,同年5月26日午後5時46分頃,同市
内の病院において,同児を低栄養に起因する飢餓により死亡させたという
ものであった。
イCは,上記アとは別の保護責任者遺棄致傷罪で,平成23年11月4日,
Dとともに追起訴された。追起訴に係る事件は,上記アの事件と弁論が併
合され,原告らの弁護権は追起訴に係る事件に及ぶこととなった。追起訴
に係る公訴事実の要旨は,C及びDは,夫婦として千葉県柏市内の共同住
宅に居住し,同所において二女を養育していたものであるが,同児に十分
な栄養を与えずにその発育が遅れ,低体重であったところ,同児が平成2
3年4月頃から栄養失調により衰弱して食事がほとんどできなくなり,食
べた物も未消化で排泄されるなどの状態になったのであるから,同児に適
切な医療措置を受けさせる責任があったにもかかわらず,共謀の上,その
頃から同年5月25日までの間,同児に適切な医療措置を受けさせず,よ
って,同児に入院加療36日間を要する栄養失調に陥らせたというもので
あった。
E検事は,平成24年4月,千葉地方検察庁に配置換えとなり,公判部所
属となって,本件刑事事件の公判を担当することとなった。
E検事は,平成24年5月1日,Cの勾留されている千葉刑務所において,
Cに対し,刑務所内において所持している文書等を任意に提出するよう求め,
ノート3冊,封書3通及び便せん42枚の任意提出を受けて,検察事務官に
指示してこれらを領置した。(以下,この任意提出を「本件任意提出」と,
E検事の上記行為のうち,Cに対して本件任意提出を求める部分を「本件任
意提出を求める行為」と,Cから本件任意提出を受けた部分を「本件任意提
出を受ける行為」と,それぞれいうほか,本件任意提出に係るノート,封書
及び便せんを,それぞれ「本件ノート」,「本件封書」及び「本件便せん」
といい,これらを併せて「本件任意提出物」という。)
本件便せんには,Cから原告B宛ての信書の草稿等(草稿,書きかけ又は
書き損じの便せんをいう。以下同じ。)が含まれていた。その内容は,大要
別紙2記載のとおりである。
本件ノートは,Cが身柄拘束中の日記として用いていたものであり,これ
には,大要別紙3記載のとおり,Cと原告らとの間の接見の内容にわたる記
載が含まれていた。
なお,本件封書3通のうち,1通は平成24年3月15日の消印で,中に
はDからC宛ての信書があり,1通は同月28日の消印で,中にはDからC
宛ての信書があり,1通は未発信で,中にはCからD宛ての信書があった。
2争点
本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為の違法性の有無
E検事の故意又は過失の有無
原告らの損害額
3争点に関する当事者の主張
争点(本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為の違法
性の有無)について
(原告らの主張)
E検事のCに対する本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける
行為は,以下のとおり,国家賠償法上違法である。
ア接見交通権の秘密性
秘密性は,接見交通権の本質的な構成要素である。すなわち,もし捜
査機関が接見内容を知り得るのであれば,被疑者又は被告人(以下,単
に「被疑者等」という。)と弁護人との間には,これを慮って自由な情
報伝達が差し控えられるという萎縮的効果が生じるから,被疑者等が弁
護人から有効かつ適切な援助を受けるためには,捜査機関にその内容を
知られることなく,相互に自由かつ十分な意思疎通,情報提供及び法的
助言等(以下,単に「意思疎通等」という。)が行われる必要があるの
であって,接見交通権の秘密性は,その権利の性質自体から当然に導か
れる性質である。そして,秘密性が接見交通権の本質的な構成要素であ
ることは,刑訴法39条1項の「立会人なくして」という文言に端的に
表現されている。
また,接見交通権の秘密性の保障は,黙秘権の保障からも要請される。
すなわち,被疑者等は,接見の場において,弁護人に対し,自身に不利
益な内容であるか否かに関わりなく自由に供述をすることができるが,
仮に,捜査機関が被疑者等の接見時の供述内容を知り得るのであれば,
被疑者等は接見時においても黙秘権行使の問題に直面せざるを得なくな
る。そうであれば,捜査機関が接見内容を知ることは,黙秘権の保障と
の関係で法が予定していないことであり,また,被疑者等の黙秘権を侵
害するものである。立法当時の記録からは,立法者も同様の理解に立っ
ていたことが裏付けられている。
さらに,接見交通権の秘密性の保障は,当事者主義からも要請される。
すなわち,現行刑訴法の基礎にある当事者主義を実質化するのは,当事
者間における武器対等であるが,一方当事者である捜査機関が接見内容
を知り得るとすれば,反対当事者の手の内を知ることが可能となり,当
事者間の武器対等は損なわれ,当事者主義は画餅に帰する。
したがって,秘密性は,接見交通権の本質的構成要素であるとともに,
憲法や刑訴法の諸原則からも当然に要請されるものである。
接見交通権の秘密性は,捜査機関との関係において絶対的に保障され,
これに対する制約は一切許されない。
すなわち,上記のとおり,秘密性は接見交通権の本質的構成要素であ
ること,秘密性が制約されることにより被疑者等と弁護人とが自由な意
思疎通等をなしえなくなるという萎縮的効果が生じること,秘密性に対
する制約を認めることは憲法及び刑訴法の諸原則を歪めることにもなる
ことに加えて,接見内容の秘密性は,一度侵害されると回復することが
不可能であることからすれば,接見内容の秘密性は,捜査機関との関係
において絶対的に保障されなければならない。
また,接見交通権は憲法に由来する重要な権利であり,秘密性の保障
はその本質的構成要素であるところ,このような重要な事項を制約する
のであれば,法律の規定によるべきであり,法律の規定によらない制約
を許容することはできない。ところが,現行法上,接見内容の秘密性を
捜査機関との関係において制約することを許容する条文は一切存在せず,
このことは接見内容の秘密性が捜査機関との関係において制約される場
面を現行法が想定していないことを端的に示している。
これに対し,被告は,最高裁平成5年(オ)第1189号同11年3
月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁(以下「最高裁平成11
年判決」という。)の判示を根拠に,接見交通権の秘密性の保障も捜査
権ないし刑罰権と合理的な調整が必要である旨を主張する。しかしなが
ら,最高裁平成11年判決においては,接見をしたい弁護人と取調べを
したい捜査機関との間で一つしかない被疑者の身体を巡って利用が競合
する場面,すなわち接見交通権の「行使」と捜査権の「行使」との調整
が必要となる場面が問題とされたのに対し,接見交通権の秘密性が問題
となる場面においては,利用の競合が生じ,個別の調整が必要となるこ
とはないから,最高裁平成11年判決の射程は接見交通権の秘密性が問
題となる場面に及ばない。
秘密性を本質的構成要素とする接見交通権は,弁護人の固有権として
保障されるから,その秘密性を被疑者等が一方的に放棄することはでき
ない。
以上のとおり,接見交通権の秘密性に対する制約は一切許されず,被
疑者等がこれを放棄することはできない。
イ検察官の注意義務の内容,程度
国家賠償法1条1項の違法性は,各公務員の職責,職質,特にその公権
力の行使による国民に対する権利侵害の性質,程度等を勘案し,職務上通
常尽くすべき注意義務を尽くしたか否かにより判断される。
検察官は,憲法尊重擁護義務(憲法99条),法律上の義務,職責(検
察庁法4条),資格(同法18条1項)及び刑事裁判における一方当事者
としての地位に照らし,法律の専門家として,高度の注意義務を負ってい
る。
そして,接見交通権の秘密性は,弁護人依頼権(憲法34条前段)の保
障を実質化すべく認められた権利であり,憲法上の保障に由来する重要な
権利である。
このような検察官の職責,職質及び接見交通権の秘密性の性質に照らす
と,検察官は,接見交通権の秘密性を絶対に侵害することのないよう配慮
すべき高度の注意義務を負っている。
ウ本件任意提出を求める行為の違法性
以下のとおり,接見交通権の秘密性の保障は,Cが留置場内において
所持するあらゆる文書に及ぶから,E検事が,Cに対し,留置場内にお
いて所持する文書の提出を求めた行為は,違法である。
a被疑者等が留置場内において所持する文書等には,被疑者等と弁護
人との間のコミュニケーションの内容に関わる事項が記されることが
ある。すなわち,被疑者等は,これらの文書等に直接的に弁護人との
間のコミュニケーションの内容を記載していることがあるが,それに
とどまらず,これらの文書等を,例えば,接見の場面において,弁護
人に提示し,あるいは自身の記憶喚起の道具として利用等するのであ
って,このことによって,被疑者等と弁護人との間で円滑なコミュニ
ケーションが図られる。したがって,被疑者等と弁護人との間のコミ
ュニケーションの秘密性を確保するためには,被疑者等が留置場内に
おいて所持する文書等の秘密性が保障される必要がある。
bこれらの文書等の秘密性の保障は,身柄拘束を受けた被疑者等が留
置場内において所持するあらゆる文書等に及ぶ。
すなわち,被疑者等が留置場内において所持する文書等の大半は,
通常,被疑者等が逮捕勾留後に留置場内において作成したものか,又
は逮捕勾留後に弁護人,家族及び知人等から郵送あるいは差し入れを
受けたものである。このうち,被疑者等が日常の様子や考えをつづっ
た日記には,弁護人との間の接見のみならず,刑事手続に関する事柄
や社会復帰に向けた事柄等,直接ないし間接に防御に関わる事柄が記
載されていることが予想される。また,被疑者等が外部に発信する手
紙のうち,弁護人に向けて発信するものは,直接的に弁護人との間の
コミュニケーションに関わるし,弁護人以外の者に向けて発信する手
紙であっても,反省の情や社会復帰後の環境調整に関するものなど,
ほぼ全てのものが防御に関係する。被疑者等が逮捕後に郵送等を受け
た文書等についても,弁護人から郵送等を受けた文書等は,直接的に
弁護人との間のコミュニケーションに関わるし,弁護人以外の者から
郵送等を受けた文書等も,直接間接を問わず防御に関係する。したが
って,被疑者等が留置場内において所持する文書等は,その全てが防
御に関係し,そうである以上,その内容は弁護人との間のコミュニケ
ーションに関わるから,接見交通権の秘密性の保障は,被疑者等が留
置場内において所持するあらゆる文書等に及ぶと解される。
そして,前記のとおり,接見交通権の秘密性は絶対的に保障される
から,捜査機関は,被疑者等が留置場内において所持するあらゆる文
書等にアクセスすることを禁止される。
c接見交通権の秘密性は,これを放棄することが一切許されないもの
ではないが,その重要性に鑑みると,弁護人の関与なしにこれを放棄
することについては慎重な考慮が必要である。
すなわち,逮捕勾留された被疑者等が真に自発的又は任意に接見交
通権の秘密性を放棄した事実を担保する手段は存在しない上に,現実
問題としても,逮捕勾留された被疑者等は,肉体的にも精神的にも外
部と隔絶され,孤立感を深める状況にあるから,そのような被疑者等
が,弁護人が介在しないうちに,全くの自由意思によって,接見交通
権の秘密性という重要な権利の放棄に関する判断を行うことは,困難
である。
また,被疑者等と弁護人との間のコミュニケーションの秘密性は,
一たび被疑者等が独断で放棄すれば,回復することが不可能である。
そうすると,接見交通権の秘密性の放棄に当たっては,法律の専門
家である弁護人の判断を介在させることが必要不可欠であって,被疑
者等が,弁護人が介在しないうちに,単独で接見交通権の秘密性を放
棄することはできない。前記のとおり接見交通権の秘密性が弁護人の
固有権として保障される意義は,この点にある。
したがって,捜査機関は,事前に弁護人が了解していない限り,被
疑者等に対し,留置場内において所持する文書等の提出を求めてはな
らない。
d接見交通権の秘密性の保障に関し,前記のとおり解釈したとしても,
以下のとおり,捜査機関に不都合はない。
第一に,前記のとおり,被疑者等が留置場内において所持する文書
等は,そのほとんどが,被疑者等が逮捕勾留後に留置場内において作
成したものか,逮捕勾留後に弁護人,家族及び知人等から郵送あるい
は差し入れを受けたものであって,被疑事実ないし公訴事実の発生時
よりも後に作成された文書等が大半を占めており,事件自体と直接の
関連性がないか又は低いものがほとんどである上に,被告人の場合に
は,既に捜査期間は終了し,公判請求により被告人たる地位が付与さ
れ,当事者的地位が尊重される場面でもあるから,これらの文書等に
対するアクセスが禁じられたとしても,捜査機関に特段の不利益はな
い。
第二に,被疑者等が自宅において所持する文書等については,弁護
人との間のコミュニケーションに関わる文書等でない限り,接見交通
権の秘密性の保障は及ばないところ,捜査機関がこれらの文書等にア
クセスすることは,何ら禁止されていない。
第三に,捜査機関が,被疑者等が留置場内において所持する文書等
の内容を知る必要があると考えたのであれば,その旨を弁護人に説明
した上で,その了解を取り付ければよい。
e以上のとおり,本件において,E検事は,Cの弁護人である原告ら
の了解を得ることなく,Cに対し,留置場内において所持する文書等
の提出を求めてはならない義務を負っていた。
したがって,E検事が,原告らの了解を得ることなく行った本件任
意提出を求める行為は,違法である。
仮に,被疑者等が留置場内において所持するあらゆる文書等に接見交
通権の秘密性の保障が及ぶものではないとしても,以下のとおり,接見
交通権の秘密性の保障は,本件任意提出物の全てに対して及ぶから,本
件任意提出を求める行為は違法である。
a仮に,被疑者等が留置場内において所持するあらゆる文書等に接見
交通権の秘密性の保障が及ぶものではないとしても,接見交通権の秘
密性の保障が及ぶ文書等の範囲については,当該文書等の性質毎に個
別に決する必要がある。
そして,本件ノート,本件便せん及び本件封書のいずれについても,
接見交通権の秘密性の保障が及ぶことは,以下のとおりである。
本件ノート
本件ノートは,勾留期間中の日記として用いられていたところ,
そのことは,本件ノートをぱらぱらめくるだけで容易に判断する
ことができ,E検事も,本件ノートをぱらぱら見たことを認める
とともに,日記であったことにも気付いていたと思う旨を証言し
ている。日記には,その者が経験した日々の出来事が記されると
ころ,勾留中の者にとって,接見等の弁護人とのやり取りは,
日々起こる出来事の一つであるから,勾留中の被疑者等の日記に
は,接見時に話し合った内容等の弁護人とのやり取りが記される
ことが想定される。また,日記には,弁護人との接見の結果考え
たことや,弁護人に質問したいことなど,弁護人との間のコミュ
ニケーションにまつわる多種多様な事柄が記されることが想定さ
れ,そのほかにも,共犯者との関係や社会復帰に向けた考え等,
弁護人との間のコミュニケーションと密接不可分である防御に関
係する事柄が多く記される。したがって,勾留中のCの日記であ
る本件ノートには,原告らとのやり取りに関する事項が多々記載
されている可能性が客観的に高い状況にあったものであり,現に,
原告らとのやり取りの内容や防御に関する内容が記されていたか
ら,本件ノートには接見交通権の秘密性の保障が及ぶ。
本件便せん
被疑者等が弁護人に手紙を書くことは,一般的によく行われて
いるから,Cが所持していた便せんに何らかの事項が記載されて
いれば,それが今後Cが原告らに送る手紙の草稿等である可能性
は,客観的に高いものといえ,現に,Cが所持していた本件便せ
んの中には,弁護人である原告らに送る手紙の草稿等が含まれて
いた。また,直接弁護人宛てに発送を予定する便せんでないとし
ても,Cの心情など,弁護人との間のコミュニケーションと密接
不可分である防御に関係する事柄が記されている。したがって,
本件便せんには接見交通権の秘密性の保障が及ぶ。
本件封書
本件封書は,Dから送られた手紙であるが,通常,Dから送ら
れた手紙にCと原告らとの間のコミュニケーションの内容が記さ
れることはない。しかしながら,CがDから送られた手紙を原告
らに示して防御方針について協議することは,十分に想定される
ことであり,実際に,離婚するか否かなど,Dとの関係をどうす
るかは,防御に関わる事柄であるから,Dからの手紙も,間接的
に原告らとの間のコミュニケーションに関わるものとして,接見
交通権の秘密性の保障が及ぶ。
b以上のとおり,本件において,E検事は,Cの弁護人である原告ら
の了解を得ることなく,Cに対し,本件ノート,本件便せん及び本件
封書の提出を求めてはならない義務を負っていた。
したがって,E検事が,原告らの了解を得ることなく行った本件任
意提出を求める行為は,違法である。
エ本件任意提出を受ける行為の違法性
E検事が本件ノート,本件便せん及び本件封書を受領する行為は,E
検事がCと原告らとの間のやり取りをいつでも知ることができる状況が
生じるという意味で,原告らの接見交通権の秘密性を侵害する行為であ
る。
また,本件ノート,本件便せん及び本件封書の受領後には当然これら
を複写することが予定されているところ,複写物を廃棄することができ
ないのであれば,接見交通権の秘密性が侵害された違法な状況は永続し,
固定化されることとなる。
前記ウのとおり,本件ノート,本件便せん及び本件封書のいずれに
ついても,接見交通権の秘密性の保障が及ぶから,E検事は,Cの弁護
人である原告らの了解を得ることなく,Cから本件ノート,本件便せん
及び本件封書を受領してはならない義務を負っていた。
したがって,E検事が,原告らの了解を得ることなく行った本件任意
提出を受ける行為は,違法である。
オ比較衡量説に対する反論
被告は,捜査機関による接見交通権の秘密性の制限の違法性の有無は,
当該捜査の目的の正当性,当該捜査の必要性,当該捜査の態様等諸般の
事情を考慮して決せられる旨を主張する。
しかしながら,前記のとおり,接見交通権の秘密性は絶対的に保障さ
れる権利であるから,捜査の必要性を理由とする制限は許されない。現
行刑訴法が予定する真相解明は,被疑者等及び弁護人の諸権利が十分に
確立され,当事者主義が実質的に機能する中でこそ実現されるものであ
るから,接見交通権の秘密性の絶対的保障は,むしろ真相解明の観点か
らも必要不可欠である。
また,被告の主張も,接見交通権の秘密性の保障が原則であり,その
制限が例外であることを前提としているが,被告の主張する基準は,捜
査の必要性さえあれば接見交通権の秘密性を制限することが許され,例
外的に捜査の態様に問題があった場合に限り,当該捜査が違法となると
するものであって,被告の主張には自己矛盾がある。
したがって,捜査の必要性等との比較衡量により接見交通権の秘密性
を制限し得るとする被告の主張は,失当である。
仮に,被告の主張する判断基準に立脚したとしても,本件任意提出を
求める行為及び本件任意提出を受ける行為は,以下のとおり,違法であ
る。
a捜査の目的
被告は,捜査の目的について,Dが捜査段階の供述を翻し,Cもこ
れに呼応するようにして捜査段階の供述を変遷させていたことから,
事案の真相を解明し,本件刑事事件の訴因変更の要否を検討し,ある
いはCの捜査段階における検面調書の証拠請求のための疎明資料を収
集するためであった旨を主張する。
しかしながら,被告の主張する目的は,CとDとの間のやり取りの
内容を知る必要性を示すものにすぎず,Cと原告らとの間のやり取り
の内容を知る必要性を示すものではないから,E検事がCと原告らと
の間のやり取りを知ることを正当化するものではない。
また,E検事は,原告Aに対し,Cに対する取調べの目的はDの公
判のための証人テストである旨を告げていたこと,E検事自身が,C
との関係での訴因変更を視野に入れていなかった旨を証言しているこ
と,検察官は平成24年3月の公判前整理手続期日において訴因変更
を考えていない旨を述べていることからすれば,E検事が被告の主張
する目的を有していたとは考えられない。
b捜査の必要性
被告は,Cが供述を変遷させた理由を鮮明にするため,Cから手紙
や日記等を押収する必要性が認められると主張する。
しかしながら,前記のとおり,被告の主張する必要性は,CとDと
の間のやり取りの内容を知る必要性にすぎず,Cと原告らとの間のや
り取りの内容を知る必要性ではないから,E検事がCと原告らとの間
のやり取りを知ることを正当化するものではない。
また,前記のとおり,被告の主張する捜査の目的の存在自体が疑わ
しい以上,それに伴う捜査の必要性についても疑わしい。
c捜査の態様
被告は,①外見上明らかにCと原告らとの間の通信と判断できるも
のは,内容を読むことなくCに返還していること,②その際に,原告
らとの接見内容が分かる書類について任意提出を受けないと説明して
いること,③その説明は分かりやすいものであったことを挙げ,これ
らの配慮を尽くしたことをもって,捜査の態様が相当であった旨を主
張するものと解される。
しかしながら,①の事実は認められるが,②について,Cは任意提
出を受けない旨の話を受けたことはなく,③について,E検事の説明
が分かりやすかったと評価することはできないから,十分な配慮がな
されたとは到底いうことができない。
また,被告の主張する捜査の目的を前提とすると,本件における捜
査は,DとCとの間のやり取りに限定して行うことで足りたはずであ
って,E検事は,千葉刑務所の職員を通じてCに所持品を持ってくる
よう指示する際に,Dとの間のやり取りに関わるものだけを持参する
よう指示したり,実際にCが所持品を持参した後も,DとCとの間で
やり取りされた手紙に限定して提出を求めたり,Dとのやり取りを日
記に記載しているか確認し,当該記載内容の確認だけを求めたりする
ことができたし,Cの所持品を閲覧等したい旨を原告らに告げ,その
了解を求めることも可能だった。ところが,E検事は,これらの措置
を一切講じず,Cが留置場内において所持する全ての文書等を持参す
るよう指示し,原告らに事前の了解を求めることもしないで,それら
全ての文書等を差し出させ,自らその内容を確認し,領置すべき文書
等とそれ以外の文書等を選別するなどしたのであって,これらのE検
事の行為は,被告の主張する捜査の目的及び必要性を逸脱したもので
あり,相当性を欠くことが明らかである。
(被告の主張)
争う。
以下のとおり,本件任意提出を求める行為又は本件任意提出を受ける行為
が国家賠償法上違法とされる余地はない。
ア捜査機関による秘密交通権侵害行為の違法性に係る判断枠組み
国家賠償法1条1項にいう「違法」とは,国又は公共団体の公権力の
行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に
違背することをいい,その判断に当たっては,職務上通常尽くすべき注
意義務を尽くすことなく,漫然と当該行為をしたと認め得るような事情
がある場合に限り,違法の評価を受けると解される。
最高裁平成11年判決は,勾留されている被疑者の身柄を巡る弁護人
等と捜査官との間の調整の場面において,接見交通権の行使と捜査権の
行使との間に合理的な調整を図る必要性を判示したものであるが,秘密
交通権も接見交通権の一内容に他ならないのであるから,この合理的な
調整を図る必要性は,本件のような秘密交通権の保障の要請と捜査権の
行使の必要性とが対立する場面でも妥当するものといえる。
すなわち,国家の刑罰権ないし捜査権は,刑事事件につき,公共の福
祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ,事案の真相を明ら
かにし,刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現する(刑訴法1条)ために
発動されるものである。この点,事案の真相について最も端的に語るこ
とができるのは被疑者等であって,その供述の信用性については慎重に
吟味されなければならないところ,その供述に変遷が認められる場合に
は,その理由等が解明されなければならず,そのためには,被疑者等の
取調べや日記等の所持品の押収等の捜査が必要不可欠となる。しかるに,
被疑者等が,取調べにおいて供述の変遷理由に関し弁護人等との間の接
見内容について言及することもあれば,供述の変遷理由に関する事柄に
ついて接見内容を記載した日記等に記載することも多々あり得るのであ
るから,上記の捜査が弁護人等との間の接見内容に及び得ることは不可
避であるといわざるを得ない。更に言えば,被疑者等の供述の変遷の有
無にかかわらず,当該被疑者等が自己の弁護人等との間の接見内容を記
載して所持する物に別件刑事事件に関する記載が存することも当然あり
得るのであって,かかる場合に捜査機関が被疑者等が所持する当該物に
ついて押収等の捜査が一切できないと解することは到底できない。した
がって,秘密交通権も,供述の変遷等の合理性を解明するなど,事案の
真相を明らかにするために例外的に制限を受けざるを得ない場面も存在
するといわざるを得ず,その意味で捜査権との間で合理的な調整を図る
必要があるというべきである。
以上のとおり,接見交通権の一内容である秘密交通権の保障も捜査権
ないし刑罰権と合理的な調整が必要なものであるから,捜査の過程にお
いて被疑者等と弁護人等との間の接見内容が捜査機関に明らかになった
としても,そのことから直ちに捜査機関による当該捜査が国家賠償法上
違法と評価されるべきではなく,飽くまでも捜査機関が被疑者等が有効
かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという刑訴法39条
1項の趣旨を損なうような態様で捜査を行った場合に,国家賠償法上違
法の評価を受け得るものと解すべきである。
そして,当該捜査が秘密交通権を侵害したものとして国家賠償法上違
法の評価を受けるか否かの判断に当たっては,当該捜査の目的の正当性,
当該捜査の必要性,当該捜査の態様等諸般の事情を考慮すべきである。
原告らは,接見交通権の秘密性の保障は絶対的なものであり,捜査権
ないし刑罰権との間には調整原理が妥当しないなどとして,捜査機関が
被疑者等に対し任意提出を求めるなど被疑者等の所持する文書等につい
てアクセスすることは一切禁止されるなどと主張する。
しかしながら,検察官を始めとする捜査機関は,公訴提起の前後を問
わず,所有者,所持者又は保管者が任意に提出した物を領置することが
できるのであって(刑訴法221条),領置することができる対象が限
定されることはない。
また,被疑者等が所持する文書等の一部に被疑者等と弁護人等との間
の接見内容が記載されているだけで,当該文書等の全部が一切押収の対
象とならないことになれば,当該文書等に記載されたその他の事項を明
らかにすることができず,ひいては,事案の真相を明らかにし,刑罰法
令を適正かつ迅速に適用実現することは不可能となってしまい,国家の
刑罰権ないし捜査権との関係上,極めて妥当性を欠く結果が生じる。
さらに,一たび接見内容が捜査機関の知るところとなれば,その秘密
性は失われてしまうから,原告らの主張を前提とすると,捜査機関にお
いて,ある一つの文書等のうち,刑事事件に関係すると思料される部分
と接見内容が記載されている部分とを選別し,接見内容が記載されてい
る部分を押収しないといった手段を採ることはできないこととなるが,
そうであれば,被疑者等は,捜査機関からの押収に当たって,当該文書
等に弁護人等との間の接見内容が記載されている旨を申し述べさえすれ
ば,当該文書等に弁護人等との間の接見内容が現実に記載されているか
否かを問わずに,自由に当該文書等の押収を不可能にすることができる
ことになってしまい,事案の真相を解明し,刑罰法令を適正かつ迅速に
適用実現することを目的とする刑訴法の趣旨に反する事態が生じる。
したがって,原告らの主張は,独自の見解といわざるを得ず,失当で
ある。
イ本件任意提出を求める行為の違法性
E検事は,本件任意提出を求める行為に当たり,Cと原告らとの間の
秘密交通権を侵害することがないように,封書の宛先や差出人に弁護人
の名前が記載してある物や「被疑者ノート」と呼ばれる弁護人等に示す
ことを予定したノートについて,中身を一切見ることなく,Cに差し戻
している。その際に,E検事は,Cに対し,「あなたには弁護人との間
で私たちに内容を知られずに接見,つまり打合せをする権利があります
と。なので,私たちはあなたと弁護人との間の接見とか打合せの内容に
ついては知っちゃいけないことになっています。だから,こういうもの
については中を見ませんし,当然任意提出を受けませんからこのままお
返しします」と告げている。その上で,E検事は,Cに対し本件任意提
出物の任意提出を求め,Cは,これに対し,本件任意提出物に原告らと
の間の接見内容が記載されているなどとは何ら言うことなく,本件任意
提出物の任意提出に応じたものである。
このような態様による本件任意提出を求める行為は,Cと原告らとの
間の秘密交通権に配慮した上でなされたものであり,また,捜査機関に
おいて接見内容の秘密性を保ったままでの押収は不可能であるから,こ
のような配慮は捜査機関としてでき得る最大限の配慮であったといえる。
本件任意提出の目的は,Dが捜査段階の供述を翻し,Cもこれに呼応
するようにして捜査段階の供述を変遷させていたことから,公判担当検
察官として,事案の真相を解明し,本件刑事事件の訴因変更の要否を検
討し,あるいは,Dの公判において刑訴法321条1項2号後段に基づ
いてCの捜査段階における検面調書の証拠調べ請求のための疎明資料を
収集することにあったものであり,Cと原告らとの間の接見内容それ自
体を明らかにすることを目的とするものではないから,その捜査目的は
正当である。
また,自己に有利な状況を作出するために,共犯者間において通謀す
ることは珍しくなく,共犯者の関係が夫婦であるなどの人的関係がある
場合は,特にその傾向は顕著であるばかりか,被疑者等において日記を
付ける習慣がある場合には,共犯者からの働きかけがあったことや,供
述を変遷させることにした理由について日記に記載すること自体も珍し
くないから,被疑者等の供述が変遷したような場合において,公判担当
検察官として,その日記等を押収した上で,変遷の理由を明らかにする
ことは必要不可欠というべきであって,捜査機関において本件任意提出
物を領置する必要性が認められる。
そして,E検事は,上記のとおり,Cと原告らとの間の秘密交通権に
配慮した上で,本件任意提出を求める行為に出たものであるから,その
態様は不当なものではない。
以上のとおり,捜査の目的の正当性,捜査の必要性,捜査の態様等の
諸般の事情を考慮しても,E検事が刑訴法39条1項の趣旨を損なうよ
うな態様で捜査を行ったとはいえず,本件任意提出を求める行為が国家
賠償法上違法ということはできない。
ウ本件任意提出を受ける行為の違法性
原告らは,本件任意提出を受ける行為が,本件任意提出物の複写が当
然に予定されることとなるから国賠法上も違法である旨を主張するが,
接見内容の秘密性は,捜査機関が接見内容を知ることによって侵害され,
接見内容について記載された物が複写されることによって別個に侵害さ
れるものではないから,原告らの主張は失当である。
また,原告らは,E検事は,Cの弁護人である原告らの了解を得るこ
となく,Cから本件ノート及び本件便せんを受領してはならない義務を
負っていた旨を主張する。しかしながら,所有者等が任意に提出した物
を領置することは,捜査機関に認められた法的権限であること(刑訴法
221条),捜査機関には,当該文書等における接見内容の記載の有無
は事前には不明であり,他方,弁護人等にとっても,必ずしも,当該文
書等における接見内容の記載の有無は明らかではないこと,上記のとお
り,被疑者等が所持する文書等に弁護人等との間の接見内容が記載され
ていたとしても,そのことから直ちに捜査機関が当該文書等を押収する
ことができないものとなるものではないことに照らすと,秘密交通権が
弁護人等の固有権の一つであると解されるとしても,当該文書等の所有
者等が任意に提出するにもかかわらず,それ以上に捜査機関が弁護人等
に領置についての了解を得なければならないとする法的義務を負ってい
ると解することはできず,ましてや,弁護人等の了解を得なければ,当
該文書等を押収することができないとは到底解することができない。
以上のとおり,原告らの主張は,いずれも独自の見解といわざるを得
ず,失当である。
そして,上記イのとおり本件任意提出を求める行為が国家賠償法上違
法ではないのと同様に,本件任意提出を受ける行為についても,何ら刑
訴法39条1項の趣旨を損なうような態様であったと評価することがで
きる事情は認められないから,国家賠償法上違法とはいえない。
争点(E検事の故意又は過失の有無)について
(原告らの主張)
前記のとおり,検察官には,秘密交通権を侵害しないようにするために最
善の注意義務が要求され,その基準は,近時の裁判例や学説の動向等の諸般
の事情を考慮し,本件当時の司法実務の水準によって決せられるべきである。
裁判例の動向として,刑訴法39条1項の「立会人なくして」との文言が
秘密交通権を保障する意味であることは,本件任意提出の10年以上前から,
数多く判示されていたところであり,また,学説の動向としても,上記の裁
判例について,秘密交通権の保障が極めて重要であることを説く数多くの判
例評釈がされているところであって,秘密交通権の保障の重要性について了
知すべきことは,司法実務において要求される水準となっている。
よって,E検事は,本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける
行為について,秘密交通権を侵害しないようにするために最善の注意義務を
尽くしておらず,また,上記の裁判例,学説及び実務の運用等に照らし,E
検事において本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為が違
法性を帯びることにつき認識可能性が認められることに疑いはない。
したがって,E検事には,本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を
受ける行為について,国家賠償法上の過失がある。
(被告の主張)
争う。
本件任意提出があった平成24年5月当時,被疑者等の所持品についての
任意提出及び領置に関し,検察官が,当該被疑者等と弁護人等との間の秘密
交通権に配慮するために,当該被疑者等から任意提出を受ける際に何らかの
措置を講じなければならないのか否かという点については,参考となる裁判
例や学説は乏しく,何らかの措置を講じなければならないとの見解が検察官
の職務行為の基準として確立されていたわけではなく,また,一般的に検察
官が被疑者等に所持品の任意提出を求め,これを領置するに際して,秘密交
通権に配慮するとしても,その具体的な措置が定められていたわけでも,一
定の定められた運用がなされていたわけでもない。
そうすると,E検事が,本件任意提出の際に,外見上明らかに原告らとの
接見内容に関する記載が含まれると判断することができる物についてその内
容を読むことなく任意提出を受けるのを拒否するとともに,併せて,Cに対
し,口頭で,弁護人等との間の接見内容に関する記載が含まれているものに
ついては任意提出を受けない旨を説明し,Cに注意を促すことのほかに,何
らかの措置を講じなかったとしても,E検事に過失があったとはいえないと
いうべきである。
したがって,本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為の
いずれについても,E検事に過失は認められない。
争点(原告らの損害額)について
(原告らの主張)
E検事による本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為は,
弁護人と被告人との秘密交通権を明らかに侵害するものであるところ,秘密
交通権は,刑事手続上最も重要な基本的権利であるとともに,弁護人の固有
権の最も重要なものの一つであって,E検事の行為は,原告らの刑事手続に
おける根本的かつ核心的な権利を侵害したものである。
E検事の行為により秘密交通権が侵害されたことにより,接見内容が検察
官に筒抜けになってしまい,それまで原告らとCとの間で行われていた自由
かつ十分な意思疎通等が損なわれる重大な危険が生じた。
そのため,原告らは,Cとの接見内容が検察官に知られていることを前提
に,裁判員裁判の期日の直前であるにもかかわらず,被告人質問の内容など
を再検討することになり,円滑な業務の遂行に支障を来した。
また,原告らは,検察官によって今後また同じようなことが行われること
で,Cとの間の接見内容が知られてしまうのではないかと不安を感じるとと
もに,E検事の行為が想定外のものだったことで,事前に十分なアドバイス
ができなかったことから,Cとの間の信頼関係を損ないかねないとの危惧を
覚えた。
さらに,原告Aが,E検事の言動に対する抗議と是正措置の申入れを千葉
地方検察庁に対して行ったものの,後日口頭注意が行われただけで,担当検
察官に対する処分や任意提出させた物品の破棄など,何らの是正措置が採ら
れることすらなかった。
以上の秘密交通権侵害の重大性及び原告らの精神的苦痛の甚大性に照らせ
ば,原告らの精神的損害に係る慰謝料は,それぞれ150万円,弁護士費用
は,それぞれ15万円を下回ることはない。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件刑事事件の捜査ないし審理の経過につ
いて,以下の事実が認められる。
D及びCは,捜査段階では,D及びCが二人で長男及び二女(以下,併せ
て「長男ほか」という。)を養育していた旨並びにD及びCは長男ほかが平
成23年4月頃から栄養失調により衰弱し始めたことを認識していた旨を供
述していた。
ところが,Dは,平成23年12月22日の第1回公判前整理手続期日以
降,上記とは異なり,平成22年10月頃以降は,長男ほかの養育に全く
関与せず,Cが目の届かない部屋に入れて外に出さないようにしていたので,
その頃以降,長男ほかの健康状態を全く知らなかった旨を主張するようにな
った(以下,本件刑事事件におけるD又はCの供述ないし主張については,
供述と主張とを併せて「供述等」という。)。
Cも,平成24年2月22日の第3回公判前整理手続期日以降,Dは,平
成22年10月頃以降は,長男ほかの養育に全く関与せず,Cは,長男ほか
をDの目の届かない部屋に入れて外に出さないようにしていた旨の供述等を
するようになった。
千葉地方裁判所は,平成24年2月22日,本件刑事事件の弁論を,Dに
係る保護責任者遺棄致死傷被告事件とCに係る保護責任者遺棄致死傷被告事
件とに分離した。
E検事は,平成24年4月に千葉地方検察庁に配置換えとなり,公判部に
おいて本件刑事事件の公判を担当することとなったが,上記のとおりD及び
Cの供述等が変遷していることから,Dに係る保護責任者遺棄致死傷被告事
件の公判においてCの証人尋問を行う可能性が高く,そのためには,Cの供
述等が変遷した理由を明らかにし,Cの捜査段階の供述内容とCの公判前整
理手続における主張内容とのいずれが真実かを確認する必要があると考え,
Cに対する取調べを行うとともにCが所持する文書等の任意提出を受けるこ
ととした。
E検事は,平成24年4月11日及び同月12日,Cが勾留されている千
葉刑務所に赴き,Cの取調べを行うとともに,同月11日,DからC宛ての
封書12通の任意提出を受けたが,その取調べにおけるCの供述や任意提出
を受けた封書の記載によっても,Cが供述等を変遷させた理由は判然としな
いと判断した。
E検事は,平成24年5月1日,Cが千葉刑務所内で所持しているノート
等にCが供述等を変遷させた理由に関する事柄が記載されている可能性があ
ると考え,その任意提出を受けることとし,同日に千葉刑務所でCの取調べ
を予定するとともに,その取調べに先立ち,千葉刑務所の職員に連絡して,
Cが千葉刑務所内で所持しているノート等を同日の取調べに持参するようC
に伝えることを依頼した。
Cは,上記の依頼を受けた千葉刑務所の職員から,ノート,便せん,手紙
及び写真等を全て取調室に持ってくるよう言われたものの,勾留後に日記と
して用いていた本件ノート,弁護人や家族との間でやり取りした手紙及び弁
護人宛ての手紙の草稿等を含む本件便せんには,弁護人と話した内容や自分
が考えたことなどが記載されていたことから,これをE検事に見られると自
分の考えが全て知られてしまうと思うとともに,従前からE検事に対し恐怖
感を抱いていたこともあって,これらを取調室に持っていきたくないと考え
たが,最終的には,千葉刑務所内において所持していたノート,便せん,手
紙及び写真等を,被疑者ノートも含め,全て取調室に持参した。
なお,この被疑者ノートは,弁護人が,接見の際に見ながら取調べ状況の
説明を受けるとともに,後日返却を受け,弁護活動に役立てることを予定し,
被疑者等に差し入れ,取調べ状況の記録を要請するものとして使用されてい
るものである。そして,Cが使用していた被疑者ノートには,他の欄と区別
して,弁護人との間の接見の結果を記載する欄は設けられていなかった。
以上の経過を経て,E検事は,平成24年5月1日,千葉刑務所に赴いて
Cに対する取調べを行ったが,その際,E検事から,Cに対し,Dの裁判に
使うため,Cが取調室に持参したノート,便せん,手紙及び写真等を提出し
てもらいたい旨を伝えたところ,Cは,E検事に対し,これらを手渡すとと
もに,ノートは日記として使っているので早く返してもらいたい旨を伝えた。
E検事は,Cから手渡された物の中に,封筒に差出人や受取人として原告
らや弁護人側証人の名前が記載されている封書や,表紙に被疑者ノートと記
載されている書類があったことから,その内容を見ればCの接見交通権等を
侵害することになるかもしれないと考え,その内容を見ることなくこれらの
封書や書類をCに返却するとともに,その際,Cに対し,検察官はCと弁護
人との間の接見の内容を知ってはいけないことになっている旨を伝えた。
E検事は,Cから手渡された本件ノートについて,本件刑事事件との関連
性を確認するため,その内容に目を通し,本件ノートがCの日記として用い
られているものであることを認識したが,手書きの小さな文字で大量の記載
がされていたことや,Cから早く返すよう言われていたことから,その場で
内容をよく読まないで領置したため,本件任意提出の際には,本件ノートの
中に原告らとの間の接見内容に関する記載が含まれていることに気付いてい
なかった。
また,本件便せん42枚のうち,33枚は,本件ノートに挟まれた状態で
E検事に手渡されたが,E検事は,遅くともCが本件任意提出に係る任意提
出書を作成するまでには,本件ノートにこれらの便せんが挟まれていること
を認識していた。もっとも,E検事は,本件便せんのうちに弁護人宛ての信
書の草稿等が含まれていたことについては認識しておらず,本件便せんのう
ちに弁護人宛ての信書の草稿等が含まれていないかCに確認することもしな
かった。
E検事は,Cに対し,本件ノート,本件便せん及び本件封書について,必
要なので読ませてほしいと伝えたところ,Cは,分かりましたと答えた。
そして,Cは,任意提出の手続について説明を受けた上で,「品名」欄に
本件任意提出物の記載のある任意提出書に署名及び指印をするとともに,そ
の「提出者処分意見」欄に用済み後返して下さいと記載し,本件任意提出を
した。
E検事は,千葉地方検察庁に帰庁後,立会事務官に本件任意提出物の謄本
作成報告書を作成させた上,平成24年5月2日,本件任意提出物をCに仮
還付した。
原告Aは,平成24年5月7日,千葉地方検察庁検事正に対し,本件任意
提出に抗議するとともに,本件任意提出物の謄本の破棄を求める旨の書面を
提出した。しかし,本件任意提出物の謄本は破棄されていない。
その後,千葉地方検察庁公判部副部長は,E検事に対し,結果的に本件任
意提出物にCから原告らに宛てた手紙の下書き又は書き損じと思われる便せ
んが含まれていた点について,今後同様のことがないように気を付けるよう
注意した。
2争点(本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為の違法性
の有無)について
身柄拘束中の被疑者等と弁護人等との間の接見の内容にわたる文書及び両
者間の信書の保護についての一般的な検討
ア憲法34条前段,刑訴法39条1項の趣旨等
憲法34条前段の定める弁護人依頼権は,身体の拘束を受けている被疑
者等に対し,弁護人を選任した上で,弁護人に相談し,その助言を受ける
など弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているもの
と解されるところ,刑訴法39条1項が身体の拘束を受けている被疑者等
と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろ
うとする者(以下,併せて「弁護人等」という。)との接見交通権を規定
しているのは,憲法34条の前記の趣旨にのっとり,身体の拘束を受けて
いる被疑者等が弁護人等と相談し,その助言を受けるなど弁護人等から援
助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり,その意味で,刑
訴法の前記規定は,憲法の保障に由来するものであって,この弁護人等と
の接見交通権は,刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであると
ともに,弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つである(最
高裁昭和49年(オ)第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・
民集32巻5号820頁,最高裁平成11年判決参照)。
刑訴法の前記規定が立会人のない接見を定める趣旨は,被疑者等と弁護
人等との間の接見においては,被疑者等の防御に関わる事項についての意
思疎通等が当然に予定されているため,被疑者等と弁護人等が,接見に際
し,捜査機関等にその内容を知られることなく,自由かつ十分な意思疎通
等を行うことが,被疑者等が弁護人等から援助を受ける機会を実質的に保
障するために必要であることに求められる。
イ被疑者等と弁護人等との間の接見の内容にわたる文書の保護
ところが,被疑者等と弁護人等との間の立会人のない接見がされても,
その内容が事後的に捜査機関等の知るところとなるのであれば,捜査機関
側に弁護側の防御方針が明らかとなり,被疑者等の防御に支障が生じ,上
記規定の趣旨が損なわれることは明らかである。また,仮に,結果として
みれば,接見の内容が事後的に捜査機関等の知るところとはならずに終わ
ったとしても,接見の時点において,その内容が事後的に捜査機関等の知
るところとなる可能性が否定されていないとすれば,接見に際しては,そ
の内容が事後的に捜査機関等の知るところとなって被疑者等の防御に支障
が生じることを慮る余りの萎縮的効果として,自由かつ十分な意思疎通等
が差し控えられ,ひいては被疑者等が弁護人等から援助を受ける機会の実
質的保障が十分に確保されなくなるおそれが生じる。
そうであれば,刑訴法39条1項の「立会人なくして」との定めは,被
疑者等と弁護人等との間で行われる接見の内容を事後的に秘匿する利益を
も保護する趣旨であると解するのが相当であり,また,上記のとおり,接
見交通権が弁護人等の固有の権利としても認められていることに照らすと,
この秘匿利益も,被疑者等の利益のみならず,弁護人等の固有の利益とし
ても保護されるものと解するのが相当である。
ウ被疑者等と弁護人等との間の信書の保護
以上に対し,被疑者等と弁護人等との間で授受される信書については,
前記規定は,信書の内容を秘匿する利益を保護する旨を明文で規定してい
るわけではない。
しかしながら,被疑者等と弁護人等との間での信書の発受は,被疑者等
と弁護人等との間の接見には時間的,場所的制限があることなどに鑑み,
接見による意思疎通等を補完する手段として用いられ,その内容は,被疑
者等の防御に関わる事項についての意思疎通等に及ぶことも当然に予定さ
れるところである。そうであれば,その信書の内容が事後的に捜査機関等
の知るところとなれば,捜査機関側に弁護側の防御方針が明らかとなり,
被疑者等の防御に支障が生じることや,その発受の時点において,その内
容が事後的に捜査機関等の知るところとなる可能性が否定されていないと
すれば,その授受に際しては,その内容が事後的に捜査機関等の知るとこ
ろとなって被疑者等の防御に支障が生じることを慮る余りの萎縮的効果と
して,信書による自由かつ十分な意思疎通等が差し控えられ,ひいては被
疑者等が弁護人等から援助を受ける機会の実質的保障が十分に確保されな
くなるおそれが生じることは,接見の場合と何ら異なるものではない。
そうであれば,被疑者等と弁護人等との間で発受された信書の内容及び
発受予定の信書の草稿等の内容を秘匿する利益も,接見の内容を秘匿する
利益に準じて保護されるものであり,この利益も,接見の内容を秘匿する
利益について述べたのと同様に,被疑者等及び弁護人等の双方の利益と解
するのが相当である(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は,
未決拘禁者又は被疑者等が弁護人等から受ける信書の検査は,そのような
信書に該当することを確認するために必要な限度において行うものとして
いるところ(同法135条2項1号,222条3項1号イ),未決拘禁者
又は被疑者等が弁護人等宛てに発する信書については他の信書と区別した
規定を設けていないが,そうであるからといって,同法に基づく検査の目
的の範囲を超えて,未決拘禁者又は被疑者等が弁護人宛てに発する信書の
内容を確認することが無制限に容認されるわけではない。以下,被疑者等
と弁護人等との間の接見の内容を秘匿する利益並びに発受された信書の内
容及び発受予定の信書の草稿等の内容を秘匿する利益を併せて「秘匿利
益」ということがある。)。
エ原告らの主張のうち,以上と異なる部分に対する判断
原告らは,被疑者等が留置場内において所持する文書等は,その全て
が防御に関係し,そうである以上,その内容は弁護人との間のコミュニ
ケーションに関わるから,接見交通権の秘密性の保障は,被疑者ないし
被告人が留置場内において所持するあらゆる文書等に及ぶ旨を主張する。
また,仮にそうでないとしても,接見交通権の秘密性の保障は本件封書
にも及ぶ旨を主張する。
しかしながら,被疑者等と弁護人等との間の接見又は信書による意思
疎通等について,接見又は信書の内容が事後的に捜査機関等の知るとこ
ろとなる可能性のないことを担保するには,その接見の内容にわたる記
載のある文書ないしその信書を事後的にも秘匿する利益を保護すれば足
りるところであって,これらに当たらない文書についてまで,それが被
疑者等が留置場内において所持する文書等であることの一事をもって,
直ちに,被疑者等と弁護人等との間のコミュニケーションに関わるもの
として秘匿の対象となると解するのは困難である。
原告らの上記の主張は,採用することができない。
上記を前提とすると,本件においては,前提事実のとおり,本件
便せんには,被疑者等と弁護人等との間の意思疎通等の内容を直接構成
する文書が含まれており,また,本件ノートには,その内容を直接記載
した部分が含まれていたということができるものの,その余の本件任意
提出物である本件封書につき,被疑者等と弁護人等との間の意思疎通等
の内容を直接構成し,又はその内容を直接記載した文書が含まれていた
ことを認めるに足りる証拠はない。
オ小括及び本件への当てはめ
以上のことからすれば,E検事の本件任意提出を受ける行為は,本件任
意提出物のうち,Cと原告らとの間の接見の内容にわたる記載を含む本件
ノートと,Cの原告ら宛て信書の草稿等を含む本件便せんとの任意提出を
受けた部分において,原告らの固有の秘匿利益を制約する捜査活動であっ
たというべきである。
この点につき,原告らは,本件任意提出を受ける行為に先立ち,本件任
意提出を求める行為も違法行為である旨をも主張する。しかしながら,捜
査機関が被疑者等に接見内容等の記載を含む文書等の任意提出を求めたと
しても,被疑者等が任意提出を拒めば何ら秘匿利益の制約は生じないので
あるから,任意提出を求める行為自体が直ちに違法行為であるということ
はできないというべきである。したがって,上記原告らの主張は採用する
ことができない。
以下,本件任意提出が,上記のとおり原告らの固有の秘匿利益を制約す
るものであったことを前提に,そのような制約が捜査機関の捜査活動とし
て許容されるものであったか否かについて検討する。
身柄拘束中の被疑者等と弁護人等との間の接見の内容にわたる文書又は両
者間の信書ないしその草稿等の任意提出が許される要件
ア本件任意提出は,E検事の求めに応じ,CがE検事に対して本件任意提
出物を任意に提出したものとされており,当然,Cにおいて,実際に,本
件任意提出物を任意に提出し,もって,上記のような自らの秘匿利益を放
棄していることが必要となる。そして,既に述べた秘匿利益の重要性のほ
か,この任意提出が,身柄拘束中であるのみならず,公判手続進行中に,
被告人が公判担当検察官の取調べを受ける過程で,弁護人の関与なくして
したものであることを踏まえると,本件任意提出が自由な意思に基づく真
摯なものであったかどうかについては,特に慎重な吟味が必要となる。
イさらに,一般にも,捜査機関の捜査活動は,社会通念上相当な限りにお
いてのみ許容されるものであるところ,本件のように,文書の任意提出に
よる秘匿利益の制約が問題となる場面においては,前記の社会通念上の相
当性は,捜査の必要性等の事情(捜査の目的,必要性,態様及び秘匿利益
を制約する意図ないし認識の有無等)と秘匿利益の侵害の程度等に関わる
事情(当該文書の作成目的,性質,記載内容及び接見内容等の記載を含む
蓋然性の程度等)とを総合的に考慮して判断するのが相当である。そして,
本件任意提出については,それが刑事手続上極めて重要な秘匿利益の放棄
に関わることや,自ら固有の利益として秘匿利益を有する弁護人の関与な
くして,被告人の秘匿利益の放棄によってされたものであることを踏まえ
ると,この点についても慎重な検討を必要とする。
ウ原告らの主張のうち,以上と異なる部分に対する判断
原告らは,被疑者等が弁護人等の承諾なしに一方的に秘匿利益を放棄
することは許されない旨を主張する。その根拠として,身柄拘束中の被
疑者等が,弁護人が介在しないうちに,全くの自由意思によって,接見
交通権の秘密性という重要な権利の放棄に関する判断を行うことは困難
であることや,秘密交通権が弁護人の固有権として保障されることを挙
げる。
確かに,身柄拘束中の被疑者等にとって,弁護人が介在しない状況の
下で,全くの自由意思によって,接見交通権の秘密性という重要な権利
を理解してその放棄の是非を判断することに一定の困難を伴うことも想
定され得るところであり,この点については,上記アのとおり,自由な
意思に基づく真摯な同意がされたかどうかを慎重に吟味する必要がある
し,これに関連して,上記イのとおり,捜査機関が任意提出を求め,こ
れを受ける際にも十分な注意が必要となるところである。
しかしながら,捜査機関が十分な注意を尽くし,被疑者等が自由な意
思に基づく真摯な同意をして任意提出に至ったと認められる場合には,
それが弁護人等の承諾なしにされた身柄拘束中の被疑者等からの任意提
出であることの一事をもって,秘匿利益の放棄として許されないもので
あるという根拠には乏しい。
また,確かに,秘匿利益は弁護人等の利益でもある。しかしながら,
この固有の利益も,究極的には,被疑者等の利益の保護を目的とするも
のである。しかも,秘匿利益の中心は,接見又は信書による意思疎通等
の当事者である被疑者等と弁護人等とのいずれの意思にも反してその内
容が当事者以外の知るところとなるおそれ,とりわけ捜査機関の知ると
ころとなるおそれがないことを保障することにある。弁護人との間の接
見又は信書の内容について,被疑者等は,これを秘匿することにより自
らの利益を保護される立場にあるものの,刑訴法上も職業倫理上も守秘
義務を負うわけではなく,弁護人等としては,そのことを承知の上で接
見又は信書の発受に当たるものである。そうであれば,弁護人に固有の
秘匿利益があることも,身柄拘束中の被疑者等がその秘匿利益を放棄す
ることを一律に許されないものとする根拠として十分ではない。
そうすると,原告らの上記の主張は,採用することができない。
本件任意提出は自由な意思に基づく真摯な同意に基づくものか
ア前記認定事実によれば,Cは,本件任意提出に先立ち,千葉刑務所の職
員から,ノート,便せん,手紙及び写真等を全て取調室に持ってくるよう
言われた際に,本件ノートに弁護人と話した内容や自分が考えたことなど
様々な内容が記載されていたことや,本件便せんのうちに弁護人宛ての手
紙の草稿等が含まれていたことから,これらをE検事に見られたくないと
考えていたというのである。そうすると,Cは,本件ノートや本件便せん
をE検事に提出するとすれば,そこに記載された原告らとの間の意思疎通
等の内容が捜査機関に明らかになることを,十分に理解していたものとい
うことができる。
また,前記認定事実によれば,E検事は,本件任意提出に際し,Cから
手渡された物のうち,封筒に差出人や受取人として原告らの名前が記載さ
れている封書や,表紙に被疑者ノートと記載されている書類については,
その内容を見ることなくCに返却するとともに,その際に,Cに対し,検
察官はCと弁護人との間の接見の内容を知ってはいけないことになってい
る旨を伝えたというのである。そうすると,Cは,このようなE検事の言
動に接し,本件ノートのように原告らとの間の接見の内容が記載されてい
たり,本件便せんのように原告らとの間の意思疎通等の内容を構成してい
たりする文書等については,E検事としても積極的にCに対しその提出を
求めようとするものではなく,かえって,そのような内容を含んでいるこ
とを理由として,E検事への任意提出を拒むことができる旨を認識したも
のと認めるのが相当である。
そして,前記認定事実によれば,Cは,E検事から,本件ノート,本件
便せん及び本件封書について,必要なので読ませてほしいと言われたこと
を受け,分かりましたと答えた上で,任意提出の手続について説明を受け,
任意提出書に署名及び指印したというのである。
イ以上のとおり,Cは,本件ノートや本件便せんをE検事に提出すること
により,そこに記載された原告らとの間の意思疎通等の内容が捜査機関に
明らかになることを十分に理解するとともに,そのような内容を含むこと
を理由として,これらのE検事への任意提出を拒むことができることをも
認識した上で,E検事からの任意提出の要求に対し,分かりましたと答え,
任意提出の手続について説明を受け,任意提出書に署名及び指印したもの
である。
そうすると,Cがその当時身柄拘束中であったこと,その内心において
本件任意提出につき消極的な意向を有していたこと及びE検事に対する恐
怖心を抱いていたことを考慮しても,Cは,本件ノート及び本件便せんに
記載された原告らとの間の意思疎通等の内容を捜査機関に明かすことにつ
き,自由な意思に基づき真摯にこれに同意した上で,本件任意提出をした
ものと認められる。
本件任意提出を受ける行為は社会通念上相当なものか
ア本件便せんの任意提出について
前記認定事実によれば,E検事は,Dが,本件刑事事件につき,従前
の供述等を変遷させて否認に転じ,Cも,これに近い時期に,Dの変遷
後の主張に沿う形で供述等を変遷させたことから,Dの公判におけるC
の証人尋問等に備え,Cの供述等の変遷の理由を明らかにするとともに,
変遷前後のいずれの供述等が真実であるかを明らかにする必要があった
ため,Cが刑務所内において所持するノート等に,Cが供述等を変遷さ
せた理由に関する事柄が記載されている可能性があると考え,その任意
提出を受けることとしたというのであって,Cの供述等の変遷の理由を
明らかにするなどの捜査の目的自体は,もとより正当である。
そして,身柄拘束中の被疑者等が外部との間で交わす信書において,
自らの供述等の変遷の動機,その原因となる事情等を記載することは,
あり得ないことではないから,本件便せんの任意提出は,Cの供述等の
変遷の理由を明らかにするなどの捜査の目的との関係で,全く必要性を
欠く捜査であったとまでいうことはできない。
また,前記認定事実によれば,E検事は,本件任意提出を受けるに当
たり,本件便せんの中にCの弁護人すなわち原告ら宛ての信書の草稿等
が含まれていることを認識していなかったというのであるし,実際にも,
本件便せんの記載のうち,原告ら宛ての信書の草稿等と認められる部分
は一部にとどまっており,それも,信書の冒頭に位置する宛名等の部分
ではなく,本文の一部に相当する文言が断片的に記載されているにとど
まるのであるから,E検事には,本件便せんの任意提出を受けるに当た
り,秘匿利益を制約する意図のみならず,その認識もなかったものとい
うことができる。
しかしながら,一般に,便せんは信書の作成に用いられるものである
し,本件任意提出の当時,Cは被告人として勾留中で,本件刑事事件の
公判前整理手続が進行していたのであるから,そのような状況の下でC
が刑務所内で所持する本件便せんには,弁護人である原告ら宛ての信書
の草稿等が含まれる可能性があることは,便せんという任意提出物の類
型に照らし,十分に想定されるところである。
そして,本件便せんに原告ら宛ての信書の草稿等が含まれていれば,
それは,上記のとおり,被疑者等と弁護人等との間の信書の発受が接見
による意思疎通等を補完する手段として用いられるものであることに照
らしても,被疑者等の防御に関わる事項が記載されることが当然に予想
されるところである。そうすると,捜査機関が,被疑者等が弁護人等に
向けて発信する予定であった信書の草稿等の任意提出を受ける行為は,
客観的な秘匿利益の制約の態様としては,捜査機関が取調べにおいて被
疑者等と弁護人等との間の接見の内容を網羅的に聴取する行為にも比肩
し得る捜査活動であるといわざるを得ず,これによる秘匿利益の侵害の
程度は,極めて重大である。
そして,本件において,Cが原告らを通じてDとの間で通謀したなど
の事情は全くうかがわれないから,本件便せんの任意提出について,上
記のような秘匿利益に対する重大な侵害を正当化する高度の捜査の必要
性があったということもできない。
また,前記認定事実によれば,E検事は,本件任意提出に際し,本件
任意提出物の中に便せんが含まれていることを認識していたというので
あり,しかも,それに先立ち,封筒に差出人や受取人として原告らの名
前が記載されている封書を自らCに返却しているのであるから,E検事
としても,Cから提出を受けた便せんのうちにCが原告らに対して発信
する予定の信書の草稿等が含まれている可能性を認識することは,極め
て容易であったというべきである。そうであれば,E検事としては,本
件便せんの任意提出を受けるに当たり,Cに対し,弁護人宛ての信書の
草稿等が含まれていないかをよく確認し,これが含まれていれば,それ
以外の便せんのみを任意提出することとするよう促すなどの措置をとる
ことも考えられるところ,そのような措置を何らとることなく,漫然と
本件便せんの任意提出を受けたのであるから,本件便せんの任意提出に
係る秘匿利益の侵害につき,E検事の落ち度は重大であったといわざる
を得ない。そうすると,E検事において,Cと原告らとの間の信書によ
る意思疎通等の内容を探索するなど,秘匿利益を損なう意図も認識もな
かったことを踏まえても,本件便せんの任意提出が捜査の態様として相
当なものであったとはいい難い。
さらに,本件便せんの任意提出が,客観的には,捜査機関が取調べに
おいて被疑者等と弁護人等との間の接見の内容を網羅的に聴取する行為
にも比肩し得る捜査活動であることは,上記のとおりであるところ,こ
のような捜査活動を安易に許容するとすれば,たとえ被疑者等が弁護人
等との間の意思疎通等の内容を捜査機関に明かすことにつき同意をした
と認められる場合であっても,捜査機関が,弁護側の防御方針を探知す
ることなどを実質的な目的として,被疑者等と弁護人等との間の意思疎
通等の内容に対し,探索的,網羅的な捜査活動をすることを許容するこ
とにつながりかねないのであって,このような捜査活動は,被疑者等の
同意があるからといって,直ちに許容すべきものとは解し難い。そうす
ると,本件便せんの任意提出の社会通念上の相当性を判断するに当たり,
Cが上記のような同意をしたことを重視し過ぎることは,相当でない。
以上のとおり,本件便せんの任意提出は,その捜査の目的は正当であ
り,必要性を全く欠くものでもなく,秘匿利益を制約する意図も認識も
なく行われたものではあるが,それによる秘匿利益の侵害の程度は,捜
査機関が取調べにおいて被疑者等と弁護人等との間の接見の内容を網羅
的に聴取する行為にも比肩し得る極めて重大なものである上に,そのよ
うな重大な侵害を正当化する高度の捜査の必要性があったものではなく,
また,このような秘匿利益の侵害はわずかな注意で容易に回避すること
ができたものである。
以上のことに加えて,Cが,本件便せんに記載された原告らとの間の
意思疎通等の内容を捜査機関に明かすことにつき,自由な意思に基づき
真摯にこれに同意したことを重視することもできないことは上記のとお
りであるから,本件便せんの任意提出は,捜査機関の捜査活動としての
社会通念上の相当性を欠くものであったといわざるを得ない。
したがって,E検事が,Cから,Cが原告らに宛てて発信する予定の
信書の草稿等を含む本件便せんの任意提出を受けた行為は,捜査活動と
しての社会通念上の相当性を欠き,国家賠償法1条1項の適用上違法で
ある。
イ本件ノートの任意提出について
本件ノートは,Cが身柄拘束中に日記として用いていたものであると
ころ,本件任意提出が行われるまで,本件刑事事件の公判前整理手続が
既に数回経られていたことに照らすと,原告らとCとの間の接見も,そ
の間に相当数行われていたものと推認される。また,弁護人との接見は,
身柄拘束を受けている被疑者等の生活の中では,比較的非日常的な出来
事であると想定されるから,それがあったことやその内容を被疑者等が
日記に記載することは自然なことである。さらに,被疑者等にとって公
判の帰趨は重大な関心事であり,ひいては弁護人との接見における弁護
人の発言等にも強い関心があると考えられるところ,前記認定事実によ
れば,Cが所持している被疑者ノートには,他の欄と区別して,特に接
見の結果を記載する欄は設けられていないというのであるから,Cが備
忘の目的で弁護人との間の接見の内容を書き留めておくに際し,被疑者
ノートに記載するのではなく,本件ノートに記載することも,想定する
ことができないものではない。
そうすると,被疑者等が,身柄拘束中の生活の中で生起する出来事の
一環として又は備忘の目的で,弁護人と接見をしたことやその内容を自
己が所持しているノートや日記に記載している可能性は,必ずしも低い
ものではない。しかも,前記認定事実によれば,E検事は,本件任意提
出に際し,本件ノートがCの日記として用いられているものであること
を認識していたというのであるから,本件ノート中にCと原告らとの間
の接見内容の記載が含まれていることを予見することも可能であったと
いうべきである。
したがって,E検事が本件ノートの任意提出を受けた行為は,秘匿利
益を侵害するおそれのある行為であり,また,E検事においてそのおそ
れを予見することも可能であったというべきである。
しかしながら,本件任意提出の目的自体は正当であることは,上記の
とおりである。また,Cの供述等はその身柄拘束中に変遷したものであ
るから,Cが,その供述等の変遷の前後の時期等において,身柄拘束中
の日記として用いていた本件ノートに,その供述等の変遷の理由に関連
する事柄を記載した可能性は,あながち否定することができない。そう
すると,本件ノートについては,本件任意提出の目的との関係で,その
任意提出を受ける必要性を肯定することができるというべきである。
また,前記認定事実によれば,E検事は,本件ノートの内容に目を通
し,本件ノートがCの日記として用いられているものであることを認識
したが,その場ではそれ以上に内容をよく読まなかったため,本件任意
提出の際には,その中にCと原告らとの間の接見内容に関する記載が含
まれていることに気付いていなかったというのである。そうすると,E
検事には,本件ノートの任意提出を受けるに当たり,秘匿利益を制約す
る意図のみならず,その認識もなかったものということができる。
さらに,E検事が本件ノートの任意提出を受けた行為は,秘匿利益を
侵害するおそれのある行為にとどまり,それによって必然的に秘匿利益
の侵害が生じる行為ではない。のみならず,日記は,上記のとおり,後
に被疑者等の防御のために活用することが本来的に予定されている文書
ではないから,そこに接見の内容が記載されることがあるとしても,被
疑者等の防御に関わる核心的な内容が記載されるのが通常であるという
ことはできないし,また,接見の内容が網羅的に記載されるのが通常で
あるということもできない。そうすると,E検事が本件ノートの任意提
出を受けた行為は,秘匿利益を侵害するおそれのある行為にとどまる上
に,仮にそれによって秘匿利益の侵害が生じたとしても,重大な侵害に
至る可能性が一般に高いものであったとまではいい難い。
以上のとおり,本件ノートの任意提出は,秘匿利益を侵害するおそれ
のある行為であり,また,E検事においてそのおそれを予見することも
可能であったというべきであるが,その捜査の目的は正当で,必要性も
肯定することができるものであり,秘匿利益を制約する意図も認識もな
く行われたものであって,また,それによる秘匿利益の侵害も,そのお
それがあるというにとどまる上に,仮にそれが生じたとしても,重大な
侵害に至る可能性が一般に高いとまではいい難いものであったというこ
とができる。
以上の諸事情に加えて,Cが,本件ノートに記載された原告らとの間
の意思疎通等の内容を捜査機関に明かすことにつき,自由な意思に基づ
き真摯にこれに同意していると認められることも考え合わせれば,本件
ノートの任意提出は,捜査機関の捜査活動として,社会通念上相当な範
囲を逸脱するものではなかったと認めることができる。
したがって,E検事が,Cから,原告らとの間の接見の内容の記載を
含む本件ノートの任意提出を受けた行為は,捜査活動としての社会通念
上の相当性を欠くものではないから,国家賠償法1条1項の適用上違法
であるとは認められない。
3争点(E検事の故意又は過失の有無)について
以上のとおり,E検事が,Cから,Cが原告らに宛てて発信する予定の信書
の草稿等を含む本件便せんの任意提出を受けた行為は,国家賠償法1条1項の
適用上違法であるところ,刑訴法39条1項が秘匿利益を保護していることに
照らし,捜査機関等が被疑者等と弁護人等との間で発受される信書をむやみに
閲読等してはならないことについては,本件任意提出がされた平成24年当時,
これを肯定する裁判例や学説が一定数存在していた上に,前記認定事実によれ
ば,E検事自身,封筒に差出人や受取人として原告らの名前が記載されている
封書については,その内容を見ればCの接見交通権を侵害することになるかも
しれないと考え,内容を見ることなくCに返還したというのであるから,E検
事は,本件任意提出の当時,Cが原告らに宛てて発信する予定の信書の草稿等
を含む本件便せんの任意提出を受ける行為が,国家賠償法1条1項の適用上違
法であることを認識することが可能であったというべきである。
したがって,E検事には,Cから,Cが原告らに宛てて発信する予定の信書
の草稿等を含む本件便せんの任意提出を受けた行為について,過失があったと
いうべきである。
4争点(原告らの損害額)について
原告らは,本件便せんの任意提出により,Cが原告らに対して発信する予定
の信書の草稿等の内容を捜査機関が知り得る状態が生じたことによって,Cの
公判における被告人質問の内容を再検討することを余儀なくされ,Cのための
防御活動に支障が生じたとともに,今後同様の捜査が行われ,Cとの間の意思
疎通等の内容を検察官に知られてしまうのではないかと不安を感じたことが認
められる。
他方で,上記のとおり,E検事は,本件任意提出を受けるに際し,本件便せ
んのうちにCが原告らに対して発信する予定の信書の草稿等が含まれているこ
とを認識していなかったのであるから,本件任意提出における秘匿利益の制約
の態様は,悪質なものであったとまでいうことはできない。
以上のほか,本件における諸般の事情を考慮すると,原告らの被った上記の
精神的苦痛に対する慰謝料は,原告らそれぞれについて20万円を認めるのが
相当である。
また,本件の事案の性質,内容等に照らすと,原告らが本件訴訟の追行に要
した弁護士費用は,それぞれ2万円を認めるのが相当である。
5まとめ
以上の判断の要旨
刑訴法39条1項は,身柄拘束中の被疑者等が弁護人との間で立会人なく
して接見することができる旨を規定し,接見の時点でその内容を秘匿する利
益を保護しているが,その趣旨に照らすと,接見終了後もその内容を引き続
き秘匿する利益も保護しており,更には,被疑者等と弁護人等との間で授受
される信書についても,授受の時点でその内容を秘匿し,授受後もその内容
を引き続き秘匿する利益も保護しており,これらの秘匿利益は,被疑者等の
利益であるとともに,弁護人等の固有の利益でもあると解釈すべきである。
そこで,捜査機関として,身柄拘束中の被疑者等から,弁護人等との間の接
見の内容にわたる記載のある書類や,弁護人等との間の信書の任意提出を受
けるに当たっては,上記の解釈を踏まえ,被疑者等の自由な意思に基づく真
摯な同意による提出を受ける必要があり,更には,その任意提出を受ける行
為が社会通念上相当と認められるものでなければならない。
ところで,本件刑事事件は,夫婦両名による共犯事件として起訴された保
護責任者遺棄致死傷被告事件であり,その公判前整理手続の進行中に,夫の
関与の度合い等に関する夫婦両名の供述等に変遷が生じたことから,担当検
察官が,供述等の変遷の理由等について,刑務所に勾留されている妻を取り
調べ,その際,妻が刑務所内において所持する文書の任意提出を受けたので
あるが,その任意提出物のうち,妻が日記として使用するノートには,妻と
弁護人らとの間の接見の内容にかかわる記載があり,便せんには,妻から弁
護人宛ての信書の草稿等に当たる記載があった。前記1で認定した事実関係
に基づき,前記2のとおり判断したところによれば,検察官がノートの任意
提出を受けたことは,妻の自由な意思に基づく真摯な同意によるもので,社
会通念上相当とも認められるので,違法な行為に当たらないが,検察官が便
せんの任意提出を受けたことは,妻の自由な意思に基づく真摯な同意による
ものではあるが,社会通念上相当とは認められないから,弁護人の秘匿の利
益を侵害するものとして,国家賠償法1条1項の違法な行為に当たる。そし
て,検察官が便せんの任意提出を受けたことに伴う弁護人らの損害は,弁護
人1人につき,慰謝料20万円,弁護士費用2万円の合計22万円と評価す
るのが相当である。
結論
よって,原告らの請求は,原告ら各自22万円及びこれに対する平成24
年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で
理由があるから,その限度で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却
することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官金子直史裁判官田中一隆裁判官工藤智)
別紙1
【原告ら代理人目録】
(省略)
別紙2
1面会の時は取り乱してしまい,すみませんでした。3年~20年という期間が
あることは分かっていたのですが,30年と聞いた時,まず子供の顔が浮かびま
した。(中略)あまりにも衝撃的だったので,自分の心の整理がまだつきません。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
2お手紙,資料に切手ありがとうございます。(中略)資料を見ると,モラルハ
ラッサーの行動パターンは13コ中10コも当てはまり驚きました。DV加害者
タイプはチェックしてみると『最高権威男』タイプと『水攻め男』のタイプその
ままでした。本当に驚きました。この9年弱何も気づかなかった自分が情けなく
なりました。(以下略)
別紙3
12011年9月30日
その後,PM4:30頃,弁護士さん2人が来ていろいろ話した。Fの状態,
病院,児相へ連れて行こうとしたのはいつだったのか?なぜ連れていかなかった
のか?いろいろ質問されて何て答えればいいのかわからなかった。Fの事思い出
したら,また泣いてしまった。
22011年10月7日
今日弁護士さんが来た。Fが亡くなった日を思い出してたら,泣いてしまった。
自分の事しか考えていなかった・・・。こうなるんだったら,早く病院へ連れて
行ってれば,今ごろは元気でいたかと思うと,本当にFには,辛い思い,苦しい
思いばかりをさせてしまった・・・。男の子として生まれてきてくれたの
に・・・ごめんなさい・・・。Fに会いたい・・・。
32011年11月15日
午前中,弁護士さんが来た。追起訴の事,その事についての事実を認めるかと
か,なんで自分から行動できなかったのか。これからどうして行きたいか。を話
した。
42012年2月17日
午前中,弁護士さんが来た。忙しかったみたい。不安な事,今思っている事を
言ったら楽になった。りん床何とかってゆう精神科の先生に当初の私を診てもら
ったそうで,『モラルハラスメント』という結果だったみたい。
52012年2月28日
今日,午前中弁護士さんが来てくれた,この前の手続きで不安な所はありまし
たか?と聞かれて,後の席に座ってた人は刑事さんだって。責任をかぶるかぶら
ないについては分からないけど,Cさん1人ではないことを主張したいとの事。
62012年3月15日
B先生が離婚届を郵送するので記入して又,私の所へ送って下さいって。その
離婚届をDの弁護士さんに送るって。裁判の時にしっかりと離婚の意志を見せる
ため。Dが応じなければ協議離婚になるって。いろいろと責められそうで恐いと
言ったら,法律とかいろんな対処方
(ママ)
があるから大丈夫だって。どういう刑になっ
たとしても新しいスタートを切るためにもしっかりとしていかないといけないと
思います。って言われた。そうだよね子供達守って行くんだから,しっかりして
行かなきゃね
72012年3月22日
夕方,B先生から手紙届いた。カウンセリングの先生の住所も書いてあった。
離婚届の書き方がよく分からなくて,月曜日聞いてみようと思う。封筒も大きい
のじゃないと入らないし。Dは承諾してくれるだろうか…。難かしそう…。緊張
する。Dの気持ちを弁護士さんを通じて聞いてみようと思いますって。利用でき
るか分からないのでその点はご了承下さいって。ん…。やっぱり難しいかも。で
も諦めちゃダメよ!もしかしてもう聞いてるのかな?だから遅くなったとか…。
何って言ってんだろう…。聞きたい事がいっぱいある。
82012年4月23日
弁面の声が掛かり,B先生に会った。出所後にしたい事。仕事のこと。子育て
の時悩んでしまった時どうするか。を話した。離婚の意思はかたい事。心配な事
も言った。Dは離婚の話についてあいまいな対応をしているようで離婚は難しい
かもしれませんって。ちょうていになってもかまいませんか?って聞かれたから
『はい』と言った。そぉだよね。難しいよね。

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独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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職種 事務職
時給 当社規定による
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応募方法
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