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判決言渡平成20年7月23日
平成19年(行ケ)第10403号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年7月14日
判決
原告株式会社サスライト
訴訟代理人弁理士三好秀和
同豊岡静男
同小西恵
被告株式会社ハギワラシスコム
訴訟代理人弁護士水野健司
訴訟代理人弁理士足立勉
同岡本武也
同衛藤寛啓
主文
1特許庁が無効2006-80234号事件について平成19年10
月23日にした審決のうち,特許第3766429号の請求項1に係
る発明についての特許を無効とするとの部分を取り消す。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告
の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006-80234号事件について平成19年10月23日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「着脱式デバイス」とし原告を特許権者とする後記特
許第3766429号の請求項1及び2記載の各発明(以下順に「本件特許発
明1」「本件特許発明2」という。)に対し,被告が無効審判請求をしたとこ
ろ,特許庁が,本件特許発明1の特許は特許法36条6項1号及び2号に違反
し,本件特許発明2の特許は同法29条の2に違反するとして,いずれもこれ
を無効とする旨の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案であ
る。
争点は,上記特許法36条6項1号,2号違反の有無,及び先願発明たる後
記特願2002-252749号との間における同法29条の2違反の有無,
である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年10月28日にした原出願(特願2002-3134
25号)からの分割出願として,平成17年8月4日,名称を「着脱式デバ
イス」とする発明につき特許出願をし(特願2005-226629号),
平成18年2月3日,特許第3766429号として設定登録を受けた(請
求項の数2。特許公報は甲1。以下「本件特許」という。)。
これに対し被告から,平成18年11月14日,本件特許の請求項1及び
2に対し特許無効審判請求がなされたので,特許庁はこれを無効2006-
80234号事件として審理し,その中で原告は,平成19年2月2日付け
で訂正請求(甲10)をするとともに同年5月21日付けで訂正請求書等の
補正(甲5)をした(以下,補正後の訂正請求を「本件訂正」という。)と
ころ,特許庁は,平成19年10月23日,「訂正を認める。特許第376
6429号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」旨
の審決をし,その謄本は同年11月2日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件訂正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1及び2から成る
が,その内容は,以下のとおりである(前記のとおり以下順に「本件特許発
明1」,「本件特許発明2」という。下線は訂正部分)。
「【請求項1】主な記憶装置としてROM又は読み書き可能な記憶装置を備
えた着脱式デバイスであって,
所定の種類の機器が接続されると,その機器に記憶された自動起動スク
リプトを実行するコンピュータの汎用周辺機器インタフェースに着脱さ
れ,
前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを
記憶する手段と,
前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータか
らの機器の種類の問い合わせ信号に対し,前記所定の種類の機器である旨
の信号を返信するとともに,前記汎用周辺機器インタフェース経由で繰り
返されるメディアの有無の問い合わせ信号に対し,少なくとも一度はメデ
ィアが無い旨の信号を返信し,その後,メディアが有る旨の信号を返信し
て,前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段と,
前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可能な記憶装置へのアク
セスを受ける手段
を備えたことを特徴とする着脱式デバイス。
【請求項2】主な記憶装置として読み書き可能な記憶装置を備えた着脱式デ
バイスであって,
所定の種類の機器が接続されると,その機器に記憶された自動起動スク
リプトを実行するコンピュータの汎用周辺機器インタフェースに着脱さ
れ,
前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータか
らの機器の種類の問い合わせ信号に対し,前記所定の種類の機器である旨
の信号を返信する手段と,
前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた
複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単
位デバイスであって,複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイス
と,
コンピュータ側とのデータ授受を,前記各単位デバイスに割り振るハブ
手段と,
を備えたことを特徴とする着脱式デバイス。」
(3)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件特
許発明1の特許は特許法36条6項1号(特許を受けようとする発明が発明
の詳細な説明に記載したものであること)及び2号(特許を受けようとする
発明が明確であること)に違反してなされたものであり,本件特許発明2は
先願である特願2002-252749号(発明の名称「プログラム内蔵の
USBデバイス」,出願人エニワン株式会社,出願日平成14年8月30
日,公開公報は特開2003-178017号公報〔甲3〕,以下これに記
載された発明を「先願発明」という。)と同一であるから同法29条の2の
規定に違反する,等としたものである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおりの誤りがあるから,違法と
して取り消されるべきである。
ア取消事由1(本件特許発明1が特許法36条6項1号に違反するとした
判断の誤り)
審決は,「本件特許発明1の発明特定事項『前記ROM又は読み書き可
能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段』は,『前記R
OMに,前記自動起動スクリプトを記憶する手段』を態様として含むもの
である。…しかしながら,『マスクROM』は,製造時において,データ
をICの回路パターンとして作りこむものであることからすると,本件特
許発明1の『着脱式デバイス』が備える前記手段が,製造時ではなく,製
造後のマスクROMに前記自動起動スクリプトを記憶するという構成は,
当業者にとって自明なものではなく,本件特許明細書の段落【0018】
に『また,複合デバイス2は,コンピュータのUSBポート10に着脱す
るもので,この例では,主な記憶装置として読み書き可能なフラッシュメ
モリ4を備えるが,主な記憶装置として小型ハードディスクドライブやR
OMを用いてもよい。』とROMを用いることが記載されているが,本件
特許発明1の含む構成要件すなわち,『着脱式デバイス』が備えるROM
に,自動起動スクリプトを記憶する手段についての,具体的な構成につい
ては,記載がない」(13頁13行~14頁2行)としたが,誤りであ
る。
(ア)a一般に,「ROM」とは,ReadOnlyMemoryの略語であることから
理解されるように,本来は読み出し専用の記憶素子を意味するもので
あるが,製造時にあらかじめデータが書き込まれ,製造後にはデータ
書換えが不可能なマスクROMのほか,製造後にもROMライターな
どによって,内容の消去や再書き込みが可能なEPROM(Erasable
andProgrammableROM)が含まれる(「日経BPデジタル大事典19
99-2000年版」730頁~731頁〔甲6〕)。
このように,「ROM」とは通常「マスクROM」を意味するもの
であり,審決が,本件特許発明1における「ROM」は「マスクRO
M」を態様として含むものであるとした点は,原告もこれを争わな
い。
bところで,本件特許発明1の課題は,USBメモリ等の着脱式デバ
イスをコンピュータに接続した際に,自動起動スクリプトに記述され
ている所定のプログラムを煩雑な手動操作を要することなく自動実行
する点にある。
このような課題の解決手段として,本件特許発明1は,自動起動ス
クリプトを着脱式デバイスの記憶装置内にあらかじめ記憶し,着脱式
デバイスがコンピュータに接続された際に行われるコンピュータと着
脱式デバイスとの間での擬似信号の送受信を経て,コンピュータが着
脱式デバイスの記憶装置内に記憶された自動起動スクリプトを自動起
動するという構成を備えるものである。
cここで,自動起動スクリプトとは,着脱式デバイスがコンピュータ
に接続された際に自動実行されるべき所定のプログラムを記述するも
のであるから,自動起動スクリプトは,該接続時にコンピュータから
読み出し可能な着脱式デバイス側の記憶装置内に記憶されている状態
であれば足り,書き換えられるべき必要性はない。
そして,本件特許発明1の課題解決手段が,前記bに述べたように
着脱式デバイスの記憶装置内に記憶されている自動起動スクリプトに
記述された所定のプログラムの自動実行という課題に向けられている
ものである以上,自動起動スクリプトの記憶されている領域が,製造
時にしか自動起動スクリプトを書き込むことができず製造後には書換
えができないマスクROMであったところで,着脱式デバイスの接続
時にコンピュータが自動起動スクリプトを読み出すことができるので
あるから,何ら支障はない。
かえって,自動起動スクリプトが記憶されるべき記憶装置としてマ
スクROMを用いた態様にあっては,過誤や故意により自動起動スク
リプトが書き換えられることが防止できるなど,有利な面がある。ま
た,着脱式デバイスがコンピュータに接続される際に自動実行される
プログラムを変更したい場合には,自動起動スクリプトにより起動さ
れる側のプログラムを書き換えれば足りるのである。
d以上要するに,上記のような本件特許発明1の課題と,本件請求項
1により規定される各手段との対応に照らせば,本件特許発明1にお
ける「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スク
リプトを記憶する手段」との構成は,マスクROMに自動起動スクリ
プトを記憶する態様においては,「自動起動スクリプト」を記憶して
いる「マスクROM」内の記憶領域を意味するものである。
そして,この「ROM」に「自動起動スクリプト」を記憶する記憶
手段は,本件特許明細書(本件訂正による訂正後のもの〔甲5〕。以
下同じ)における「複合デバイス2は,コンピュータのUSBポート
10に着脱するもので,この例では,主な記憶装置として読み書き可
能なフラッシュメモリ4を備えるが,主な記憶装置として小型ハード
ディスクドライブやROMを用いてもよい」(段落【0018】),
「CD-ROM領域R3のCD-ROMドライブHには,前記自動起
動スクリプトSにより起動される自動起動プログラムPを格納してお
く」(段落【0031】)との記載によって,十分に裏付けられてい
る。
さらに,本件特許明細書の図1(甲1参照)においても,USBデ
バイス2のフラッシュメモリ4内のCD-ROM領域R3に自動起動
スクリプトSが記憶されている態様が明確に記載されており,本件特
許明細書の前記記載(「主な記憶装置として…ROMを用いてもよ
い」)と併せれば,「ROM」に「自動起動スクリプト」を記憶する
記憶手段は,明確に裏付けられているものである。
(イ)上記の解釈は,本件特許に関する審査の経過からも裏付けられる。
a本件特許発明1の「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前
記自動起動スクリプトを記憶する手段と,」との構成は,本件特許の
審査において,平成17年9月13日付けの拒絶理由通知(甲7)を
受けて,同年11月21日付けの補正(甲4)により追加されたもの
である。
bすなわち,前記拒絶理由通知は,「請求項1には『ROM又は読み
書き可能な記憶装置』を備える旨の記載はあるものの,この『ROM
又は読み書き可能な記憶装置』が何に使われているのか請求項1の中
には記載されていないので,この『ROM又は読み書き可能な記憶装
置』は請求項1の中に記載されているその他の構成要件との間にどの
ような関係があるのか不明であり,したがって請求項1の記載は明確
ではない」(3頁13行~17行)として,特許請求の範囲の記載が
特許法36条6項2号に規定する要件を充たしていないとした。
そこで,特許出願人(原告)は,上記補正により「前記ROM又は
読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段
と,」との構成を請求項1に加えるとともに,平成17年11月21
日付け意見書(甲2)でも,「新たな請求項1においては,本願発明
の新たな請求項1に係る着脱式デバイスに備えられた記憶装置に自動
起動スクリプトが記憶されていることを明確にしました」との意見を
述べた。
こうした過程を経て,平成18年1月17日に特許査定(甲9)を
受けたものである。
c以上のような経緯からも,本件特許発明1における「ROM又は読
み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」
が,「ROM又は読み書き可能な記憶領域」内の「自動起動スクリプ
ト」を記憶している記憶領域を意味するものであることは明らかであ
る。
(ウ)これに対し被告は,本件特許発明1の「記憶する手段」とは「記憶装
置に自動起動スクリプトを記憶させるもの」であると主張するが,本件
請求項1には「記憶させる手段」と記載されているわけではない。
本件請求項1のように「記憶する手段」との記載がされた場合におい
て,それが情報を記憶する主体であるのか,着脱式デバイス内であって
記憶装置とは異なる場所に異なる要素として設けられるものであるの
か,一義的に解釈することはできないものであり,本件特許発明1の課
題(自動起動スクリプトに記述されている所定のプログラムを,USB
メモリ等の着脱式デバイスをコンピュータに接続した際に,煩雑な手動
操作を要することなく自動実行する)に照らして解釈すべきものであ
る。
(エ)したがって,審決は,本件特許発明1における「前記ROM又は読み
書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」の解
釈を誤った結果,本件特許発明1の特許が発明の詳細な説明に記載され
ていないと認定判断したものであり,かかる認定判断は違法である。
イ取消事由2(本件特許発明1が特許法36条6項2号に違反するとした
判断の誤り)
審決は,「本件特許発明1の発明特定事項『前記ROM又は読み書き可
能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段』は,『マスク
ROMに自動起動スクリプトを記憶する手段』を態様として含むものであ
る。…しかしながら,『マスクROM』は,製造時において,データをI
Cの回路パターンとして作りこむものであることからすると,本件特許発
明1の『着脱式デバイス』が備える前記手段が,製造時ではなく,製造後
のマスクROMに前記自動起動スクリプトを記憶するという構成は,当業
者にとって自明なものではなく,したがって,本件特許発明1の発明特定
事項すなわち,『着脱式デバイス』が備える,ROMに自動起動スクリプ
トを記憶する手段は不明確であり,本件特許発明1は明確でない」(17
頁19行~35行)としたが,誤りである。
前記アにおいて述べたとおり,本件特許発明1における「前記ROM又
は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」
との構成は,マスクROMに自動起動スクリプトを記憶する態様において
は,「自動起動スクリプト」を記憶している「マスクROM」内の記憶領
域を意味するものであって,マスクROMの製造時にプログラムやデータ
を書き込む(焼き付ける)構成も,製造後に記憶されているプログラムや
データを読み出す構成も,共に当業者にとって自明であるから,十分に明
確である。
したがって,審決は,本件特許発明1における「前記ROM又は読み書
き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」の解釈を
誤った結果,本件特許発明1が明確でないと認定判断したものであり,か
かる認定判断は違法である。
ウ取消事由3(本件特許発明2が特許法29条の2の規定に違反するとし
た判断の誤り)
審決は,先願発明を認定するに当たり,「ここで,前記複数の領域につ
いて検討するに,…メモリは,擬似返信変換プログラムを格納する領域1
3と,自動起動プログラムを格納する領域14と,電子メールプログラム
を格納する領域15と,送受信メール,その他文書等のデータを格納する
データ部16を備えている。そして,…前記データ部は,送受信メール,
添付ファイル,電子メールプログラムの設定ファイル,及びその他のデー
タを記録する仮想的にリムーバブルディスクと認識させる領域である。ま
た,…電子メールプログラムが格納された領域15は,パソコンから認識
され,アクセスされる領域である。…そして,…上記擬似返信変換プログ
ラムが格納された領域13と,電子メールプログラムが格納された領域1
5とは,ともにパソコンから認識され,アクセスされる領域であって,リ
ムーバブルディスクと認識させる領域として設定でき,その際に当該フォ
ルダまたはファイルに隠しフォルダ属性または隠しファイル属性を設定
し,当該プログラムに読み取り専用属性を設定することで,プロテクトさ
れていると解されることは明らかである。…そして,…プロテクトの目的
を達成するためにはCD-ROMと認識させてもよいから,上記態様以外
に,領域13及び領域15を『CD-ROMとして認識させる』態様にし
てもよいことを記載しているものと解することが相当である。してみれ
ば,データ部16をリムーバブルディスクとして認識させる領域として設
定するとともに,領域13及び領域15についても,リムーバブルディス
クと認識させる領域として設定することが,実質的に先願明細書等に記載
されているものと解される。したがって,前記USBデバイスの中の前記
読み書き可能なメモリは,そのメモリ内に設けられた複数の領域の各々を
用いる仮想的にCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる複数
の領域を備えるとともに,複数の読み書き可能な領域を含むリムーバブル
ディスクと認識させる領域を備えることが,実質的に先願明細書等に記載
されているものと解される」(25頁21行~26頁39行)として,先
願明細書及び図面(以下「先願明細書等」という。)には,「前記USB
デバイスの中の前記読み書き可能なメモリ内に設けられた複数の領域の各
々を用いる仮想的にCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる
複数の領域であって,複数の読み書き可能な領域を含むリムーバブルディ
スクと認識させる領域」という構成が記載されていると認定したが,誤り
である。
(ア)まず前提として,本件特許発明2における「前記着脱式デバイスの中の
前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用い
る仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって,複数の
読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイスと,」という構成は,次のよ
うなものとして理解されるべきである。
a読み書き可能な記憶「装置」とは,本件請求項2の記載によれば,着
脱式デバイスが備える「主な記憶装置」であって,その内部に,「複数
の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位
デバイス」を備えるものであり,本件特許明細書の段落【0018】及
び図1においては,複合デバイス2が備える「フラッシュメモリ4」と
して開示されている。
これに対して,読み書き可能な記憶「領域」とは,本件請求項2の記
載によれば,「読み書き可能な記憶装置」内に複数設けられる領域であ
って,本件特許明細書の段落【0021】及び図1においては,「フラ
ッシュメモリ4」内に設定される「読み書き可能領域R4及びR5」と
して開示されている。
bそして,本件特許明細書における,「読み書き可能領域R4は,通常
のリムーバブルディスクとして自由にアクセス可能で,メーラーの用い
る電子メールのデータ,住所録,ワードプロセッサの文書やプレゼンテ
ーション資料などを置く」(段落【0026】),「読み書き可能領域
R5上には,ハブ分け部31の作用により3つのリムーバブルディスク
ドライブ(ドライブレター『E』『F』『G』)が設定され,これら3
つのリムーバブルディスクドライブ『E』『F』『G』も個別に単位デ
バイスを構成している」(段落【0022】),「以上のようにハブ分
け部31により,相互に扱いの異なる複数の領域を単位デバイスとして
設定すれば,擬似認識によりCD-ROMとして扱われる単位デバイス
を含む着脱式デバイスにデータを保存したい場合,実際のCD-ROM
の特殊なファイルシステムを考慮する必要は無く,リムーバブルディス
クやHDDなどデータの変換が不要な種類の他の単位デバイスにデータ
を容易に保存することができる」(段落【0028】)との記載に照ら
せば,「読み書き可能な記憶領域」は,コンピュータに接続された際
に,コンピュータからのデータの書き出しや保存を行う領域であり,こ
の点において「読み書き可能な記憶装置」と区別されるものである。
(イ)以上のような「読み書き可能な記憶装置」と「読み書き可能な記憶領
域」との相違から,ホスト(コンピュータ)から認識される態様にも相違
が生じる。すなわち,「読み書き可能な記憶装置」に含まれる態様は,下
記①~③の全ての態様を含むのに対して,「読み書き可能な記憶領域」
は,下記③の態様のみを含むものである(なお,物理的には,いずれもフ
ラッシュメモリであって,ホストから認識される態様において異なるもの
である。)。

①ホストからCD-ROMとして認識されるもの(本件特許明細書
の段落【0031】に記載されている「CD-ROM領域R3」が
これに相当する。)。
②ホストからリムーバブルディスクとして認識され,ホストに対し
て読み出し専用属性とされるもの(本件特許明細書の段落【002
4】に記載されている「管理領域R1」,「制限領域R2」がこれ
に相当する。)。
③リムーバブルディスクとして認識され,ホストに対して読み書き
可能な属性とされるもの(本件特許明細書の段落【0022】及び
【0026】に記載されている「読み書き可能領域R5」,「読み
書き可能領域R4」がこれに相当する。)。
(ウ)しかるに審決は,「データ部16をリムーバブルディスクとして認識さ
せる領域として設定するとともに,領域13及び領域15についても,リ
ムーバブルディスクと認識させる領域として設定することが,実質的に先
願明細書等に記載されている」(26頁31行~34行)ことをもって,
「複数の読み書き可能な領域を含むリムーバブルディスクと認識させる領
域を備えることが,実質的に先願明細書等に記載されている」(26頁下
3行~下1行)と認定している。
aしかしながら,先願明細書等に記載された領域13及び領域15が,
「リムーバブルディスクと認識させる領域」として設定可能であったと
しても,「リムーバブルディスクと認識させる領域」には,前記(イ)に
述べたように,ホストに対して読み出し専用属性とされる態様も含まれ
るのであるから,「リムーバブルディスクと認識させる領域」として設
定可能であることをもって直ちに領域13及び領域15が「読み書き可
能な領域」であるということはできない。
b先願明細書等(甲3)の記載によれば,メモリ12は,擬似返信変換
プログラムを格納する領域13と,自動起動プログラムを格納する領域
14と,電子メールプログラムを格納する領域15と,送受信メール・
その他文書等のデータを格納するデータ部16とを備えるものとされて
いる(段落【0014】及び図1)。そして,領域13に格納される擬
似返信変換プログラム及び領域15に格納される電子メールプログラム
は,いずれも,削除・編集がされないようにプロテクトされており(段
落【0020】),特に領域15については,コンピュータからのデー
タ書き込みが禁止されている(プロテクトされている)ために,送受信
メールや添付ファイル等を領域15ではなく,データ部16に記憶しな
ければならない(段落【0018】)。
そうすると,先願明細書等において,領域13及び領域15がコンピ
ュータから読み書き可能な属性に設定される構成は明白に除外されてい
るとみるべきであるから,先願明細書等に記載されている「読み書き可
能な領域」はデータ部16の1つのみであり,領域13及び領域15が
「読み書き可能な領域」として記載されているものとはいえない。
(エ)したがって,先願明細書等には「複数の読み書き可能な領域」が実質的
に記載されているとはいえず,先願発明と本件特許発明2とは同一といえ
ないにもかかわらず,審決は,先願発明の認定を誤った結果,先願明細書
等に記載された発明と本件特許発明2とが同一であるという誤った認定判
断をしたものであり,かかる認定判断は違法である。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)~(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
原告は,本件特許発明1の特許が特許法36条6項1号に違反するとした
審決の認定判断は誤りであると主張するが,以下のとおり,審決の認定判断
は正当である。
ア本件特許発明1は,本件請求項1の記載によれば,「主な記憶装置とし
てROM又は読み書き可能な記憶装置を備えた着脱式デバイス」について
のものであり,大きく分けて,「記憶する手段」,「起動させる手段」及
び「アクセスを受ける手段」の3つの手段から構成される。
前記「記憶する手段」は,「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置
に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」をいうから,本件特許発明
1の「着脱式デバイス」は,自らが備える「主な記憶装置として」の「R
OM」に「自動起動スクリプトを記憶する手段」を備えていることにな
る。
そして,ここにいう「ROM」は,原告も認めるように,製造後のマス
クROMを含むものである。
そうであれば,本件特許発明1は,製造後のマスクROMに「自動起動
スクリプトを記憶する手段」を構成として備えていることになるが,「着
脱式デバイス」の構成要素である「記憶する手段」がどのようにして製造
後のマスクROMに「自動起動スクリプトを記憶する」のか,当業者に自
明であるとはいえない。
イまた,本件特許明細書(甲5)にも「記憶する手段」の実現方法は記載
されていない。
すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば,本件請求項1
の「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプト
を記憶する手段」のうち,「ROM」に当たるのが「ROM」であり,
「読み書き可能な記憶装置」に当たるのが「フラッシュメモリ4」であ
り,「自動起動スクリプト」に当たるのが「スクリプトファイル(例えば
「Autouninf」)である(段落【0018】)。
このように対応させていくと,本件請求項1の「記憶する手段」に当た
る構成は,「前記ROM(=「ROM」)又は読み書き可能な記憶装置
(=「フラッシュメモリ4」)に,前記自動起動スクリプト(=「Autoun
inf」)を記憶する手段」となり,「記憶する手段」の実現方法について
は,当業者に自明でないにもかかわらず,本件特許明細書中には何ら記載
がない。
ウこれに対し原告は,「ROM」に「自動起動スクリプト」を記憶する記
憶手段は,図1に示されるフラッシュメモリ4内のCD-ROM領域3
と,本件特許明細書の段落【0018】及び【0031】に記載されてい
ると主張する。
しかし,本件特許明細書の段落【0031】には,「CD-ROM領域
R3のCD-ROMドライブHには,前記自動起動スクリプトSにより起
動される自動起動プログラムPを格納しておく」との記載があるだけであ
り,どのようにして「ROM」に「自動起動スクリプト」を記憶するの
か,その実現方法は何ら記載されていない。
エまた原告は,本件請求項1の「記憶する手段」につき,「自動起動スク
リプト」を記憶している「マスクROM」内の記憶領域を意味するもので
あると主張する。
(ア)しかし,「主な記憶装置としてROM又は読み書き可能な記憶装置」
と「記憶する手段」とが原告のいうような関係にあることは,本件請求
項1の記載から読み取ることができるものではなく,本件特許明細書の
どこにもそのような記載はない。
そもそも構文的に見れば,「A(記憶装置)にB(自動起動スクリプ
ト)を記憶する手段」であることが記載されており,A(記憶装置)と
いう記憶場所が明示されている以上,ここにいう「記憶する手段」は記
憶という制御動作,すなわちデータの書き込みを実行する主体と解釈す
るのが通常である。
したがって,本件請求項1の「記憶する手段」は「A(記憶装置)に
B(自動起動スクリプト)を記憶させるもの」と解釈されるものであ
る。
(イ)もっとも,例外的なケースとして,「AにBを記憶するC」の「記憶
する」の意味につき,「Bを記憶している状態」を示しているというよ
うに解釈されることがないわけではない。例えば,「(USBメモリに
内蔵された)フラッシュメモリ(A)に文書データ(B)を記憶するU
SBメモリ(C)」というように用いる場合である。
しかし,このような例外的なケースは,AとCとの関係につき「Aは
Cに含まれる」という関係にある場合に限定される(例えば上記の例で
は,フラッシュメモリ〔A〕はUSBメモリ〔C〕に内蔵されてい
る。)。すなわち,このような場合には,「AにBを記憶するC」とい
う表現における格助詞「に」は,場所を示すという役割を発揮するた
め,「記憶する」を「Bを記憶している状態」と解することができるも
のである。
(ウ)以上に対して「CがAに含まれる」という関係にある場合には,格助
詞「に」の役割と相違することになり,日本語として意味が不明にな
る。
本件請求項1の「記憶する手段」を原告主張のように「自動起動スク
リプト」を記憶している「マスクROM」内の記憶領域を意味するもの
と解するとすれば,「A(ROM)にB(自動起動スクリプト)を記憶
するC(ROM内の記憶領域)」という表現において,CはAに含まれ
るものとなってしまい,原告の解釈は日本語として極めて不自然なもの
である。
(エ)なお,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件は,特許を受け
ようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなければならない
と定めており,ここにいう「特許を受けようとする発明」は特許請求の
範囲の記載に基づいて定められるものであるから,本件特許発明1のよ
うに特許請求の範囲の記載からその実現方法が自明でない場合に,発明
の詳細な説明の記載を参酌して特許請求の範囲の解釈を修正することが
できるものではない。
オしたがって,本件特許発明1は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記
載されたものであるとはいえず,本件特許発明1の特許は特許法36条6
項1号に違反してなされたものである。
(2)取消事由2に対し
原告は,本件特許発明1の特許が特許法36条6項2号に違反するとした
審決の認定判断は誤りであると主張するが,以下のとおり,審決の認定判断
は正当である。
ア前記(1)に述べたように,本件特許発明1にいう「前記ROM又は読み
書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は,マ
スクROMに自動起動スクリプトを記憶する手段を態様として含むもので
あるところ,本件特許発明1にいう「着脱式デバイス」は,この「記憶す
る手段」が主体となって「マスクROM」という客体に「自動起動スクリ
プトを記憶」するという構成要素を備えるものである。
そうであれば,本件特許発明1の構成要素として製造後のマスクROM
に自動起動スクリプトを記憶する手段が記載されていることになるが,こ
れをどのように実現するのか当業者にとって明確であるとはいえない。
イまた仮に,「記憶する手段」が「ROMに,前記自動起動スクリプトを
記憶する記憶手段(客体)」と同義であるとしても,「ROMに,前記自
動起動スクリプトを記憶する記憶手段(客体)」が何を意味しているのか
不明である。
ウここでも原告は,「記憶する手段」は「自動起動スクリプト」を記憶し
ている「マスクROM」内の記憶領域を意味すると主張しているが,本件
請求項1の記載からこのような解釈を導き出すことは不可能であり,技術
的範囲を定める基準となるべき特許請求の範囲の解釈として到底受け入れ
られるものではない。
エしたがって,本件特許発明1は,請求項に記載された発明が明確でな
く,本件特許発明1の特許は特許法36条6項2号に違反してなされたも
のである。
(3)取消事由3に対し
原告は,本件特許発明2が特許法29条の2に違反するとした審決の認定
判断は誤りであると主張するが,以下のとおり審決の認定判断は正当であ
る。
ア先願明細書等(甲3)の記載を素直に読めば,領域13及び領域15に
ついては,コンピュータにリムーバブルディスクとして認識させることが
前提となっており,そうであれば,読み書き可能な領域であるということ
ができるのであるから,本件特許発明2にいう「複数の読み書き可能な記
憶領域」に当たる。
すなわち,先願明細書等の段落【0026】~【0028】の記載によ
れば,領域13及び領域15については,データ部16と同様にリムーバ
ブルディスクとして認識させることを前提にして,仮想的に「CD-RO
Mと認識させるようにしてもよい」と記載されているものであるから,こ
こにいう「デバイス1」は,「読み書き可能な」「複数の記憶領域」を備
えるとともに,複数の読み書き可能な領域を含むリムーバブルディスクと
認識させる領域を備えるものである。
イこれに対し原告は,本件特許発明2の「着脱式デバイス」が備える「読
み書き可能な記憶装置」は,コンピュータからのアクセスの種別に応じ
て,①ホストからCD-ROMとして認識されるもの,②ホストからリム
ーバブルディスクとして認識され,ホストに対して読み出し専用属性とさ
れるもの,③リムーバブルディスクとして認識され,ホストに対して読み
書き可能な属性とされるもの,という3種類に分類され,本件特許発明2
にいう「読み書き可能な記憶装置」は前記①~③の態様を全て含むもので
あるのに対して,「読み書き可能な記憶領域」は前記③の態様のみを含む
ものであると主張する。
(ア)しかし,上記①~③の分類は原告独自の視点によるものであり,この
分類について本件特許明細書には全く記載されていないばかりか,一般
的な分類からもかけ離れている。
例えば,「読み書き可能な記憶装置」をその性質から分類するのであ
れば,リムーバブルディスク(着脱可能なディスク)と固定ディスクと
を対応させて分類するのが自然であるし,また,アクセス属性について
も,読み出し専用属性,書き込み専用属性,読み書き可能な属性の3分
類とするのが通常である。さらに,これらのアクセス属性はリムーバブ
ルディスクだけでなく固定ディスクにも共通するものであるから,合計
で6通りに分類することも可能である。原告主張の分類がなぜ上記①~
③であるのか,全く不明である。
(イ)またそもそも,同じ「読み書き可能な」という文言を同一の請求項で
用いながら,なぜ異なる解釈が可能となるのかという根本的な疑問があ
る。「複数の読み書き可能な記憶領域」がなぜ原告主張のような限定し
た解釈となるのか,特許請求の範囲の記載からは読み取ることが不可能
である。
ウしたがって,本件特許発明2は先願発明と同一であり,本件特許発明2
の特許は特許法29条の2に違反してなされたものである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(本件特許発明1の特許法36条6項1号違反性)について
(1)特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとす
る発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」に適合するものでな
ければならないと定めている。特許法がこのような要件を定めたのは,発明
の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開さ
れていない発明について独占的,排他的な権利を認めることになり,特許制
度の趣旨に反するからである。
そして,特許請求の範囲の記載が上記要件に適合するかどうかについて
は,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求
の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者(その発
明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が当該発明の課題を
解決できると認識できる範囲のものであるかどうか,また,その記載や示唆
がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる
と認識できる範囲のものであるかどうかを検討して判断すべきものである。
(2)以上の観点から本件事案について検討することとするが,その前提として
特許を受けようとする発明が認定されなければならないところ,本件請求項
1の記載のうち「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スク
リプトを記憶する手段」という文言の解釈につき当事者間に争いがあるの
で,まずこの点について検討する。
ア本件請求項1の記載を全体として捉えると,本件請求項1の「着脱式デ
バイス」は,「所定の種類の機器が接続されると,その機器に記憶された
自動起動スクリプトを実行するコンピュータ」の汎用周辺機器インタフェ
ースに着脱されるものであって,前記汎用周辺機器インタフェースに接続
された際に「前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対
し,前記所定の種類の機器である旨の信号を返信」するなどして,「前記
コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」を備えるもの
である。
したがって,「自動起動スクリプト」は,「所定の種類の機器」を用い
る場合にはその機器に記憶され,コンピュータによって起動されるもので
あり,同様に,本件請求項1の「着脱式デバイス」を用いる場合には,着
脱式デバイスに記憶され,コンピュータによって起動されるものである。
そして,本件請求項1の「着脱式デバイス」は,「主な記憶装置として
ROM又は読み書き可能な記憶装置を備え」るものであり,「前記ROM
又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する」と
記載されていることに照らせば,「自動起動スクリプト」は着脱式デバイ
スの主な記憶装置であるROM又は読み書き可能な記憶装置に記憶される
ものである。
イところで,一般に「手段」とは,「目的を達するための具体的なやり
方」を意味するものである(広辞苑第6版)ところ,本件請求項1におけ
る「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記
憶する手段」との記載が,「前記コンピュータに前記自動起動スクリプト
を起動させる手段」,「前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可
能な記憶装置へのアクセスを受ける手段」とともに併記されたものである
ことからすれば,上記「記憶する手段」が,「ROM又は読み書き可能な
記憶装置に前記自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するため
の具体的なやり方を意味するのか,それとも本件特許発明1全体の目的を
達するための構成要素の一つを意味するのか,いずれに解することも可能
であって,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解する
ことができない場合に当たる。
ウそこで,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,本件請
求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプ
トを記憶する手段」の解釈につき検討する(なお,被告は,特許法36条
6項1号該当性の判断をするに当たって発明の詳細な説明の記載を参酌す
べきではないと主張するが,最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決〔民
集45巻3号123頁〕も判示するように,特許を受けようとする発明の
要旨を認定するのに特許請求の範囲の記載のみではその技術的意義が一義
的に明確に理解することができない場合には,発明の詳細な説明の記載を
参酌することは許されると解する。)。
(ア)本件特許明細書(甲5)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
【背景技術】・
「近年,半導体技術やインターネットの普及進歩に伴って各種コンピュータ
の普及が進み,周辺機器の接続方式も多様化している。この結果,コンピュ
ータの機種を問わず適用可能な汎用周辺機器インタフェースが必要とされ,
その具体的規格の一例としてUSB(UniversalSerial
Bus)インタフェースが提案された。また,各種コンピュータの小型軽量
化と持ち運び(モバイル)用途の拡大により,着脱自在な外部記憶装置も必
要とされ,その一つとして,前記USBインタフェースでパソコンに容易に
接続できるメモリデバイスであるUSBメモリの人気が高まっている…」
(段落【0002】)
【発明が解決しようとする課題】・
「しかしながら,USBメモリに格納してある目的のデータやソフトウェア
を利用するには,それらに辿り着くまでの操作が面倒であり,特にUSBメ
モリの使用頻度が多いほど煩雑さが増す問題点があった。」(段落【000
8】)
「例えば,USBメモリ内のデータを使うには,ユーザは,USBメモリを・
パソコンに挿入するだけでなく,OS(OperatingSyste
m。基本ソフト)の画面で『マイコンピュータ』→『リムーバブルディスク
』→『目的の操作』のように順番に選択肢をたどっていく操作か,又は,キ
ーボードを用いてファイル名を指定して実行させるなど,相応の煩雑な手順
が必要であった。」(段落【0009】)
・「本発明は,上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたも
ので,その目的は,使い勝手の優れた着脱式デバイス及びプログラムの起動
方法を提供することである。」(段落【0010】)
・【課題を解決するための手段】
「この態様では,USBメモリなど他の種類のデバイスであっても,ホスト
側からの問い合わせに対し,CD-ROMドライブなど自動起動スクリプト
実行の対象機器である旨の信号を擬似的に返信させる。このため,装着検出
用の常駐プログラムをコンピュータ側に予めインストールしておかなくて
も,デバイス装着時に,スクリプトに記述されたプログラム実行など所望の
処理が自動実行される。これにより,デバイスの専用ソフトウェアなどを手
動でインストールするまでもなく,デバイスの様々な機能や使い方を実現で
きる。…」(段落【0012】)
・【発明を実施するための最良の形態】
「〔1.第1実施形態の概略構成〕…第1実施形態は,コンピュータ1に着
脱して用いる着脱式複合デバイス(以下『複合デバイス』と呼ぶ)2であ
り,コンピュータ1は,汎用周辺機器インタフェースとしてUSBを備え
る。すなわち,コンピュータ1は,USBポート10と,USBホストコン
トローラと,USBのための必要なデバイスドライバを備え,コンピュータ
1を以下,USBに関して『ホスト側』や『コンピュータ側』のようにも呼
ぶ。」(段落【0017】)
・「〔2-2.擬似認識〕ところで,OSによっては(例えばマイクロソフト
〔登録商標〕社のウインドウズ〔登録商標〕シリーズ),所定の種類のデバ
イス(例えばCD-ROM)にメディアが挿入されたことを契機として,そ
のメディア上の所定のスクリプトファイル(例えば『Autorun.in
f』)を実行する。コンピュータ1は,そのようなOSを備えるコンピュー
タであるものとする。」(段落【0029】)
「また,USBでは,ホスト側は,USBに装着されたかもしれないデバイ・
スに対し,機器の種類の問い合わせ信号を繰返し周期的にUSB回線上に流
しており,新たにUSBに装着された機器は,この問い合わせ信号に対して
自分が該当する機器の種類を回答することにより,ホスト側に自らの接続を
認識させる。したがって,コンピュータ1は,所定の種類の機器が接続され
ると,その機器に記憶された自動起動スクリプトをスクリプト実行部11が
実行するものである。」(段落【0030】)
・「そこで,USBデバイス側制御部3の認識制御部32は,USBに接続さ
れた際に,ホスト側からの機器の種類の問い合わせ信号に対し,CD-RO
Mである旨の信号を擬似的に返信する。…」(段落【0031】)
・「すなわち,着脱式デバイス2すなわちUSBメモリは本来はスクリプト実
行の対象とはならない種類のデバイスであるが,ホスト側からの問い合わせ
に対し,認識制御部32が,CD-ROMドライブなど自動起動スクリプト
実行の対象機器である旨の信号を擬似的に返信する。」(段落【0032
】)
・「このため,装着検出用の常駐プログラムをコンピュータ側に予めインスト
ールしておかなくても,デバイス装着時に,スクリプトに記述されたプログ
ラム実行など所望の処理が自動実行される。これにより,デバイスの専用ソ
フトウェアなどを手動でインストールするまでもなく,デバイスの様々な機
能や使い方を実現できる。また,ユーザが管理者権限を持たないためソフト
ウェアをインストールできないコンピュータ上でも,着脱式デバイスからの
所望のプログラムの自動起動が容易に実現される。」(段落【0033】)
(イ)以上の記載によれば,本件特許発明1は,USBメモリ等の着脱式デ
バイスをコンピュータに接続した際に,煩雑な手動操作を要することな
く自動起動スクリプトに記述された所定のプログラムを自動実行させる
ことを課題とするものであり,かかる課題の解決手段として,自動起動
スクリプトを着脱式デバイスの記憶装置内に予め記憶し,コンピュータ
からの問い合わせに対してCD-ROMドライブなど自動起動スクリプ
ト実行の対象機器である旨の信号(擬似信号)を返信することによっ
て,コンピュータが着脱式デバイスの記憶装置内に記憶された自動起動
スクリプトを起動させるという構成を備えたものであることが認められ
る。
そして,かかる解決手段を実現するためには,自動起動スクリプト
は,着脱式デバイスがコンピュータに接続されたときにコンピュータか
ら読み出すことが可能な状態でデバイスの記憶装置内に記憶されている
ことが必要であり,かつ,それで足りる。
そうすると,ROM等の記憶装置が,その製造時に自動起動スクリプ
トを記憶するものであっても,上記解決手段を実現するのに何ら差し支
えなく,また,ROM等の記憶装置の製造後に自動起動スクリプトを記
憶させなければならないとすることは,上記解決手段の実現にとって特
段の意味を有しないものである。
(ウ)したがって,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置
に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という文言は,「ROM
又は読み書き可能な記憶装置に自動起動スクリプトを記憶する」という
目的を達するための具体的なやり方を意味するものと解すべきではな
く,本件特許発明1の目的を達するための構成要素の一つとして「自動
起動スクリプトがROM又は読み書き可能な記憶装置に記憶されている
状態であること」を意味するものと解釈すべきである。
(3)以上のような本件請求項1の解釈を前提として,「ROM又は読み書き可
能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」に対応する記載
が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているかについて検討す
る。
ア本件特許明細書(甲5)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
「…複合デバイス2は,コンピュータのUSBポート10に着脱するもので,・
この例では,主な記憶装置として読み書き可能なフラッシュメモリ4を備える
が,主な記憶装置として小型ハードディスクドライブやROMを用いてもよ
い。…」(段落【0018】)
・「…フラッシュメモリ4の記憶領域には,CD-ROM領域R3…が設定され
る。そして,CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ド
ライブレター「H」)…が各単位デバイスとなっている。」(段落【0021
】)
・「…USBデバイス側制御部3の認識制御部32は,USBに接続された際
に,ホスト側からの機器の種類の問い合わせ信号に対し,CD-ROMである
旨の信号を擬似的に返信する。この擬似的返信は,複数の単位デバイスのうち
CD-ROM領域R3のみについて行う。また,CD-ROM領域R3のCD
-ROMドライブHには,前記自動起動スクリプトSにより起動される自動起
動プログラムPを格納しておく。」(段落【0031】)
・「このため,装着検出用の常駐プログラムをコンピュータ側に予めインストー
ルしておかなくても,デバイス装着時に,スクリプトに記述されたプログラム
実行など所望の処理が自動実行される。…」(段落【0033】)
・「なお,第1実施形態では,自動起動スクリプトS中に自動起動プログラムP
の実行を指定しておく。…」(段落【0038】)
イまた,本件特許明細書の図1(甲1)には,CD-ROM領域R3のC
D-ROMドライブHに自動起動スクリプトSが記憶されている状態が記
載されている。
【図1】(部分)
ウ以上によれば,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,①着脱式デバ
イスの「主な記憶装置」として「ROM」又は「読み書き可能なフラッ
シュメモリ4」などの記憶装置が用いられること,②これらの記憶装置の
記憶領域には「CD-ROM領域R3」が設定されていること,③CD-
ROM領域R3のCD-ROMドライブHには「自動起動スクリプトSに
より起動される自動起動プログラムP」が格納されていること,④複数の
単位デバイスのうちCD-ROM領域R3のみについて,ホスト側からの
機器の種類の問い合わせ信号に対し,CD-ROMである旨の信号(擬似
信号)の返信が行われること,⑤擬似信号の返信の結果,デバイス装着時
にスクリプトに記述されたプログラムが自動実行されることが記載されて
いる。
これらの記載に照らせば,自動起動プログラムPのみならず,自動起動
プログラムPを起動する自動起動スクリプトについてもROM又は読み書
き可能な記憶装置内の「CD-ROM領域R3」に記憶されていることは
明らかである。
エしたがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「ROM又は読
み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が実
質的に記載されているものである。
(4)以上のとおり,本件特許発明1の特許は,特許法36条6項1号に適合し
てなされたものであるから,原告主張の取消事由1は理由がある。
3取消事由2(本件特許発明1の特許法36条6項2号違反性)について
(1)特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載について「特許を受けよ
うとする発明が明確であること」との要件を定めている。
ところで,前記のように,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に
明確に理解することができない場合には発明の詳細な説明の記載を参酌する
ことも許されるものであって,こうして請求項に記載された技術的事項を確
定した上で,当該技術的事項から一の発明が明確に把握できるかどうか,す
なわち,特許を受けようとする発明の技術的課題を解決するために必要な事
項が請求項に記載されているかを判断すべきものである。
(2)そして,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自
動起動スクリプトを記憶する手段」については,その技術的意義が一義的に
明確に理解することができないものであって,発明の詳細な説明の記載を参
酌した結果,「自動起動スクリプトがROM又は読み書き可能な記憶装置に
記憶されている状態」であることを意味するものと解されることは,前記2
(2)において検討したとおりである。
(3)以上を前提として,特許を受けようとする発明の技術的課題を解決するた
めに必要な事項が本件請求項1に記載されているかについて検討する。
ア前記2(2)ウ(イ)において検討したとおり,本件特許発明1は,USBメ
モリ等の着脱式デバイスをコンピュータに接続した際に,煩雑な手動操作
を要することなく自動起動スクリプトに記述された所定のプログラムを自
動実行させることを課題とするものであり,かかる課題の解決手段とし
て,自動起動スクリプトを着脱式デバイスの記憶装置内に予め記憶し,コ
ンピュータからの問い合わせに対してCD-ROMドライブなど自動起動
スクリプト実行の対象機器である旨の信号(擬似信号)を返信することに
よって,コンピュータが着脱式デバイスの記憶装置内に記憶された自動起
動スクリプトを起動させるという構成を備えたものであることが認められ
る。
イそして,本件請求項1には,着脱式デバイスは①「主な記憶装置として
ROM又は読み書き可能な記憶装置」を備え,②「所定の種類の機器が接
続されると,その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピ
ュータの汎用周辺機器インタフェース」に着脱されるものであって,③前
記ROM又は読み書き可能な記憶装置に自動起動スクリプトが記憶され,
④「前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータ
からの機器の種類の問い合わせ信号に対し,前記所定の種類の機器である
旨の信号を返信するとともに,前記汎用周辺機器インタフェース経由で繰
り返されるメディアの有無の問い合わせ信号に対し,少なくとも一度はメ
ディアが無い旨の信号を返信し,その後,メディアが有る旨の信号を返
信」すること(擬似信号の返信)により,前記コンピュータに前記自動起
動スクリプトを起動させ,⑤前記コンピュータから前記ROM又は読み書
き可能な記憶装置へのアクセスを受けるものであることが記載されてい
る。
ウしたがって,本件請求項1には,本件特許発明1の技術的課題を解決す
るために必要な事項が記載されているものであるから,本件請求項1の記
載は「特許を受けようとする発明が明確である」との要件に適合している
ものである。
(4)これに対して被告は,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装
置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」との記載は,製造後のマス
クROMを含む「ROM」にどのようにして自動起動スクリプトを記憶する
のか不明確であると主張する。
しかし,被告の上記主張は,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な
記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」を「ROM又は読み
書き可能な記憶装置に前記自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達
するための具体的なやり方を意味するという解釈を前提とするものであっ
て,このような解釈が相当ではないことは前記2(2)において検討したとお
りである。
(5)以上のとおり,本件特許発明2の特許は,特許法36条6項2号に適合し
てなされたものであるから,原告主張の取消事由2は理由がある。
4取消事由3(本件特許発明2の特許法29条の2違反性)について
(1)原告は,審決が先願明細書等(甲3)に「前記USBデバイスの中の前記
読み書き可能なメモリ内に設けられた複数の領域の各々を用いる仮想的にC
D-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる複数の領域であって,複
数の読み書き可能な領域を含むリムーバブルディスクと認識させる領域」と
いう構成が記載されていると認定したのは誤りであると主張するので,以下
この点について検討する。
(2)先願明細書等(甲3)には,以下の記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明は,プログラムを内蔵したUSBデバイスに・
係り,特に,USBポートに挿入すると,内蔵されたプログラムが起動して動作
するプログラム内蔵のUSBデバイスに関する。」(段落【0001】)
・「【課題を解決するための手段】本発明は,メモリを有するプログラム内蔵のU
SBデバイスにおいて,コンピュータとの接続に際して,コンピュータからデバ
イス検出の信号が入力されると,当該信号に対して本デバイスをCD-ROM及
びリムーバブルディスクと認識させる処理を行い,特定アプリケーションプログ
ラムを本デバイス内に記憶された設定に従って起動するものであり,セキュリテ
ィを向上させつつ,利便性も向上させることができる。」(段落【0008】)
「【発明の実施の形態】本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明す・
る。本発明の実施の形態に係るプログラム内蔵のUSBデバイスは,パソコン本
体のUSBポートに接続されると,パソコン本体からのデバイス検出に対してC
D-ROM及びリムーバブルディスクを認識させる信号に変換して返信し,その
後,CD-ROMと認識された部分に記憶されている自動起動プログラムを起動
して,例えば電子メールプログラムを本デバイスに記憶される設定ファイル内の
設定に従って動作させ,送受信メール,添付ファイルも本デバイス内のリムーバ
ブルディスクと認識された部分に記憶するものであり,外出先のパソコンでユー
ザ専用のメーラーを簡易に利用でき,更に送受信メールの内容を本デバイスに記
憶しているので,セキュリティを向上させることができるものである。」(段落
【0011】)
「本発明の実施の形態に係るプログラム内蔵のUSBデバイスについて図1を参・
照しながら説明する。図1は,本発明の実施の形態に係るプログラム内蔵のUS
Bデバイスの概略構成ブロック図である。本実施の形態に係るプログラム内蔵の
USBデバイス(本デバイス)1は,図1に示すように,処理手段となるCPU
()11と,メモリ12と,インタフェース17とから基CentralProcessingUnit
本的に構成されている。」(段落【0012】)
「次に,本デバイスにおける動作を具体的に説明する。CPU11は,メモリ1・
2内に格納された必要なパラメータを読み取って,同様に格納されているプログ
ラムを読み込んで動作させ,得られたデータをメモリ12に出力する。…」(段
落【0013】)
「メモリ12は,擬似返信変換プログラムを格納する領域13と,自動起動プロ・
グラムを格納する領域14と,電子メールプログラムを格納する領域15と,送
受信メール,その他文書等のデータを格納するデータ部16とを備えている。
…」(段落【0014】)
「領域13に格納されている擬似返信変換プログラムは,パソコンのUSBポー・
トから入力される接続デバイスを検出するための信号に対して,通常ならばUS
Bデバイスである旨の信号を返信することになるが,この擬似返信変換プログラ
ムでは,デバイスをCD-ROM()及びリムCompactDiscReadOnlyMemory
ーバブルディスクであると擬似的に認識させる信号に変換して返信する処理を行
うものである。」(段落【0015】)
「領域14に格納されている自動起動プログラムは,パソコンが当該領域14を・
CD-ROMと擬似的に認識した場合に,自動的に起動する処理を行うものであ
る。この自動起動プログラムは,といったもので,メモリ12内の設Autorun.inf
定ファイル(図示せず)内の設定を読み込んで予め定められた環境下で特定のプ
ログラム(本デバイス1では電子メールプログラム)を起動する。…」(段落【
0016】)
尚,自動起動プログラムをオプションとすることも可能である。つまり,擬似返信・「
変換プログラムで本デバイス1をCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させ
た場合に,メモリ12内のフォルダを開いて,電子メールプログラムを手動にて起動
させてもよい。」(段落【0017】)
「領域15に格納されている電子メールプログラムは,本デバイス1の所有者の・
アカウント,パスワードを設定ファイルから読み込み,この所有者専用として動
作するメーラーである。通常のメーラーと相違する点は,送受信メールを本デバ
イス1内のメモリ12のデータ部16に記憶し,また,電子メールに添付される
ファイル等もデータ部16に記憶するようになっている。従って,パソコン本体
に送受信メールが残ることがない。また,電子メールプログラムの設定ファイル
は,所有者関連の情報が設定されるため,メモリ12のデータ部16に記憶され
る。」(段落【0018】)
「データ部16は,送受信メール,添付ファイル,その他のデータを記憶するも・
のである。電子メールプログラムの設定ファイルをデータ部16に記憶させるよ
うにしてもよい。」(段落【0019】)
「ここで,擬似返信変換プログラム,自動起動プログラム,電子メールプログラ・
ム,設定ファイル等は,隠しフォルダに納められ,表示されないようになってい
る。また,これらプログラム等は,削除・編集が為されないように,プロテクト
されている。」(段落【0020】)
「本デバイス1において,擬似返信変換プログラムは,基本的には,メモリ12・
における領域のうち,自動起動プログラムが格納された領域14をCD-ROM
として認識させる領域として設定し,データ部16をリムーバブルディスクとし
て認識させる領域として設定している。」(段落【0026】)
「すなわち本デバイス1のCPU11は,自動起動プログラムを自動的に起動さ・
せる処理を行わせる他,当該プログラムが削除・編集が為されないようにするた
め,当該プログラムの格納された領域14をCD-ROMと認識させ,データの
読み出し・書き込みが頻繁に行われるデータ部16をリムーバブルディスクとし
て認識させる制御を行っている。このためCD-ROM認識信号には,領域14
をCD-ROMとして認識させる旨の制御命令が含まれており,またリムーバブ
ルディスク認識信号には,データ部16をリムーバブルディスク認識信号として
認識させる旨の制御命令が含まれている。」(段落【0027】)
「また,擬似返信変換プログラムは,擬似返信変換プログラムが格納された領域・
13と,電子メールプログラムが格納された領域15をCD-ROMとして認識
させるようにしてもよい。この場合,CD-ROM認識信号には,上記各領域を
CD-ROMと認識させる旨の制御命令を含ませる必要がある。」(段落【00
28】)
CD-ROM認識信号及びリムーバブルディスク認識信号が入力されると,パソコ・「
ンは,これらの信号の対応する領域をCD-ROM又はリムーバブルディスクとして
それぞれ認識し,以後本デバイスへのアクセスが可能な状態となる。」(段落【00
29】)
・【図1】
(3)以上によれば,先願発明のUSBデバイスは,CPU11との間でデータ
の読み出しと書き込みが行われる「メモリ12」内に各種プログラムを格納
する複数の領域を備えており,これらの領域は擬似返信変換プログラムによ
ってCD-ROM又はリムーバブルディスクであると擬似的に認識されるも
のであるから,先願明細書等(甲3)には「USBデバイスの中の前記読み
書き可能なメモリ内に設けられた複数の領域の各々を用いる仮想的にCD-
ROM又はリムーバブルディスクと認識させる複数の領域」が記載されてい
る。
(4)ア次に,メモリ12内の各領域についてみると,擬似返信変換プログラ
ムを格納する「領域13」,自動起動プログラムを格納する「領域1
4」,電子メールプログラムを格納する「領域15」,送受信メール,そ
の他文書等のデータを格納する「データ部16」が記載されている(段落
【0014】)。
イそして,これらの各領域がコンピュータからどのように認識されるかに
ついては,「基本的には,メモリ12における領域のうち,自動起動プロ
グラムが格納された領域14をCD-ROMとして認識させる領域として
設定し,データ部16をリムーバブルディスクとして認識させる領域とし
て設定している」(段落【0026】),「擬似返信変換プログラムが格
納された領域13と,電子メールプログラムが格納された領域15をCD
-ROMとして認識させるようにしてもよい」(段落【0028】)と記
載されているとおり,基本的にCD-ROMとして認識させる領域として
設定されるもの(領域14),基本的にリムーバブルディスクとして認識
させる領域として設定されるもの(データ部16),リムーバブルディス
クとして認識させてもCD-ROMとして認識させてもよいもの(領域1
3,15),として記載されている。
ウ以上のように自動起動プログラムが格納された領域14を基本的にCD
-ROMとして認識させるのは,自動起動プログラムが削除・編集されな
いようにするためであり,データ部16をリムーバブルディスクとして認
識させるのは,データの読み出し・書き込みを頻繁に行うことができるよ
うにするためである(段落【0027】)。
一方,擬似返信変換プログラム(領域13),電子メールプログラム
(領域15)についても,削除・編集がされないように保護されるが,そ
れは必ずしもこれらのプログラムが格納された領域をCD-ROMとして
認識させることによるのではなく,リムーバブルディスクとして認識させ
た上で,隠しフォルダへの格納やプロテクトの設定を行う場合もあり(段
落【0020】),このような隠しフォルダへの格納等は,使用者から削
除や編集をされる可能性のある領域について,削除や編集がされることを
防止するためになされるものである。
エさらに,電子メールプログラムのアカウント,パスワードに関する設定
ファイルはデータ部16に記憶させるようにしてもよい(段落【0019
】)ものとされているが,このような設定ファイルも隠しフォルダの格納
やプロテクトの設定により保護される対象となっており(段落【0020
】),データ部16に記憶されるデータであっても容易に削除・編集がさ
れないように保護されることもあることが示されている。
(5)以上によれば,基本的にリムーバブルディスクとして認識されるデータ部
16のほか,擬似返信変換プログラムが格納される領域13,電子メールプ
ログラムが格納される領域15についても,これらの領域がリムーバブルデ
ィスクとして認識される場合には,「読み書き可能な領域」に当たるという
べきである。
したがって,先願明細書等(甲3)には「複数の読み書き可能な領域」が
記載されている。
(6)これに対し原告は,擬似返信変換プログラムが格納される領域13,電
子メールプログラムが格納される領域15については隠しフォルダへの格納
やプロテクトの設定によりホスト(コンピュータ)に対して読み出し専用属
性となっているから,「読み書き可能な領域」には当たらないと主張する。
しかし,前記(4)において検討したように,リムーバブルディスクとして
認識される領域は,使用者から削除や編集をされる可能性がある領域である
から,これは「読み書き可能な領域」に当たるものというべきであって,リ
ムーバブルディスクとして認識される領域に格納されているプログラムやフ
ァイルが隠しフォルダへの格納等によって保護されている場合でも,読み書
き可能な領域に格納されているプログラム等について保護のための措置が講
じられているにすぎないものである。
原告の主張は,本件請求項2の「読み書き可能な記憶領域」を本件特許明
細書の記載を参酌して限定的に解した上で,先願明細書等の「領域13」,
「領域15」は上記「読み書き可能な記憶領域」と同じものではないと主張
するものであって,同主張は採用することができない。
(7)したがって,本件特許発明2と先願発明との同一性に関する審決の認定判
断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理由がない。
5結語
以上のとおり,原告主張の取消事由1及び2はいずれも理由があり,取消事
由3は理由がないから,原告が取消しを求める本件審決のうち,請求項1に係
る発明についての特許を無効とする部分は取り消し,その余(請求項2に係る
発明についての特許を無効とする部分)は理由がないから棄却して,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

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