弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人鎌形寛之、同高橋政雄の上告理由第一点及び第二点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法のあることを前提と
する所論違憲主張は、失当である。論旨は、採用することができない。
 同第三点及び第四点について
 労働基準法(昭和六〇年法律第四五号による改正前のもの。以下同じ。)六七条
は、所定の要件を備えた女子労働者が生理休暇を請求したときは、その者を就業さ
せてはならない旨規定しているが、年次有給休暇については同法三九条四項におい
てその期間所定の賃金等を支払うべきことが定められているのに対し、生理休暇に
ついてはそのような規定が置かれていないことを考慮すると、その趣旨は、当該労
働者が生理休暇の請求をすることによりその間の就労義務を免れ、その労務の不提
供につき労働契約上債務不履行の責めを負うことのないことを定めたにとどまり、
生理休暇が有給であることまでをも保障したものではないと解するのが相当である。
したがつて、生理休暇を取得した労働者は、その間就労していないのであるから、
労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しない
ものというべきである。また、労働基準法一二条三項及び同法三九条五項によると、
生理休暇は、同法六五条所定の産前産後の休業と異なり、平均賃金の計算や年次有
給休暇の基礎となる出勤日の算定について特別の扱いを受けるものとはされておら
ず、これらの規定に徴すると、同法六七条は、使用者に対し生理休暇取得日を出勤
扱いにすることまでも義務づけるものではなく、これを出勤扱いにするか欠勤扱い
にするかは原則として労使間の合意に委ねられているものと解することができる。
 ところで、使用者が、労働協約又は労働者との合意により、労働者が生理休暇を
取得しそれが欠勤扱いとされることによつて何らかの形で経済的利益を得られない
結果となるような措置ないし制度を設けたときには、その内容いかんによつては生
理休暇の取得が事実上抑制される場合も起こりうるが、労働基準法六七条の上述の
ような趣旨に照らすと、このような措置ないし制度は、その趣旨、目的、労働者が
失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事
情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難とし同法が女子労働者の保護を目的と
して生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるのでない
限り、これを同条に違反するものとすることはできないというべきである。
 これを本件についてみると、原審の確定したところによれば、(1) 被上告人会
社には、その従業員で組織するD篩絹労働組合(以下「本件組合」という。)とE
工業労働組合(以下「E労組」という。)とがあるが、本件組合に所属する女子従
業員の生理休暇取得率は、E労組所属の従業員及び他企業の従業員に比べて著しく
高く、その原因は、主として業務の性質に基づく生理休暇取得の必要性、労働組合、
労働者及び使用者の生理休暇に対する態度等の相違にあるが、必ずしもそれだけで
なく、本件組合所属の女子従業員の取得した生理休暇のうちには、労働基準法六七
条所定の要件を欠くものがかなりあつたことにもよると推認される、(2) 上告人
らの勤務するF工場における本件組合所属の女子従業員の出勤率は、昭和三七年以
降順次低下し、昭和四六年においては、E労組所属の女子従業員の出勤率が九四パ
ーセントであつたのに対し、本件組合所属の女子従業員のそれは七五パーセントで
あつた、(3) 被上告人会社においては、右のような出勤率の低下のほか作業能率
の低下等も原因となつて、生産性が低下し、経営が悪化して事業の維持も危ぶまれ
る状況に至り、同業者との競争に不利益を受けることが明らかとなつたため、被上
告人は、その打開策として出勤率向上対策を図ることとし、その焦点をすべての欠
勤から順次所定の要件を欠く生理休暇と自己都合欠勤とに絞りながら、種々の方策
を講じたのち、精皆勤手当を設けることとした、(4) 被上告人は、昭和四五年四
月一七日E労組との間で、また、同年五月一九日本件組合との間で、順次、「出勤
不足日数のない場合 二五〇〇円、出勤不足日数一日の場合 一五〇〇円、同二日
の場合 五〇〇円、同三日以上の場合 なし」との定めにより精皆勤手当を支給す
ることを内容とする労働協約を締結し、生理休暇取得日数を出勤不足日数に算入す
る旨口頭で約し、更に、昭和四六年四月一四日E労組との間で同手当の額を二倍に
増加する旨の労働協約を締結したのち、同年一一月四日本件組合との間で、同手当
の額を同年三月二一日以降、「出勤不足日数のない場合 五〇〇〇円、出勤不足日
数一日の場合 三〇〇〇円、同二日の場合 一〇〇〇円、同三日以上の場合 なし」
とする旨口頭で合意し、同時に、生理休暇取得日数を従前どおり出勤不足日数に算
入する旨口頭で約した、(5) 被上告人は、同年一一月二五日、上告人ら四名を含
む女子従業員に対し、生理休暇取得日数を出勤不足日数に算入して計算した精皆勤
手当を支給したが、受給者はいずれも異議を述べず、これにより、上告人らは、右
の被上告人と本件組合間の合意及び約束に従い、精皆勤手当の金額を右合意におけ
る金額と同額に増額すること及び生理休暇取得日数を出勤不足日数に算入すること
を黙示的に約した、(6) 被上告人会社においては、生理一回当たり二日間に限り
生理休暇取得者に不就業手当として基本給相当額を支給しており、その額は一日当
たり上告人A1につき一五五六円、同A2につき一四九二円、同A3につき一四六
〇円、同A4につき一五一〇円であるが、生理休暇を取得すると、その日数が精皆
勤手当算定の基礎となる出勤不足日数に算入されるため、同手当の額が減少し、一
日当たりの減少額は右基本給相当額を超える場合があるほか、夏期及び年末の一時
金の一律支給分は出勤不足日数に応じて定まる支給率を乗じて算出され、夏期及び
年末の特別手当金は出勤日数に応じて算定されるので、毎月二日ずつ生理休暇を取
得すると、これを取得しない場合に比し、一律支給分は八・一パーセント、特別手
当金の額は支給の都度六五〇〇円それぞれ減少することとなり、また、精皆勤手当
が時間外勤務手当計算の基礎に算入されるので、右のとおり生理休暇を取得する者
の時間外勤務手当の単価が一時間当たり二六円減少する、(7) 生理休暇取得日数
を出勤不足日数に算入する旨の前記約束によると、一か月に自己都合欠勤をしなか
つたか又はその欠勤日数が一日か二日である者については、生理休暇を取得するこ
とによつて精皆勤手当を減額されるが、一か月に自己都合欠勤三日以上の者につい
ては、生理休暇を取得しても、精皆勤手当の減額が生理休暇取得ゆえとは断定でき
ず、また、昭和四六年における本件組合所属の女子従業員の出勤率七五パーセント
を前提とすると、一か月の所定労働日数が二五日である場合、一人平均出勤不足日
数が六・二五日となり、右平均値にある者ですら、年次有給休暇及び慶弔休暇取得
日数を一日とすれば、一か月に生理休暇を二日取得しても自己都合欠勤が三日とな
り、精皆勤手当の減額が生理休暇取得ゆえとは断定できない筋合である、(8) 被
上告人会社は、本件組合に所属する女子従業員の出勤率向上の目標を九二パーセン
トとしているが、これは、一か月に二日間の生理休暇を取得したとしても自己都合
欠勤をしなければ達成できるところであり、仮にこれを被上告人会社の全従業員の
出勤率向上目標とすれば、E労組所属の従業員が男子九六パーセント、女子九四パ
ーセントの出勤率を維持する限り、本件組合所属の女子従業員の出勤率が八八パー
セント程度であつても、達成可能な目標であるから、この目標設定をとらえて生理
休暇の抑圧を目的とするものとは断定できない、(9) 被上告人の支給する精皆勤
手当の額及びその賃金に占める割合は、他企業に比べて著しく高いとはいえず、精
皆勤手当、一時金等の支給にあたり生理休暇取得日を欠勤扱いとすることも、他の
企業においてしばしば見られるところである、というのであり、以上の事実認定は、
原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。
 右の事実関係の下においては、被上告人が精皆勤手当を創設し次いでその金額を
二倍に増額したのは、所定の要件を欠く生理休暇及び自己都合欠勤を減少させて出
勤率の向上を図ることを目的としたものであつて、生理休暇の取得を一般的に抑制
する趣旨に出たものではないとみるのが相当であり、また、同手当の算定にあたつ
て生理休暇の取得日数を出勤不足日数に算入することにより労働者が失う上記のよ
うな経済的利益の程度を勘案しても、かかる措置は、生理休暇の取得を著しく困難
とし労働基準法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設け
た趣旨を失わせるものとは認められないから、同法六七条に違反するものとはいえ
ず、また同法一条二項、一三条に違反するものでもない。そして、右の措置により
精皆勤手当を減額することが、生理休暇取得者に対し減給の制裁を定めたものとい
えないことはもとより、懲罰、損害賠償の予約と同視すべきものともいえないから、
これをもつて同法九一条に違反するということはできない。そうすると、被上告人
と上告人らとの間の、生理休暇取得日数を出勤不足日数に算入する旨の前記約束は、
これを無効とすべき理由はないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当
であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第五点及び第六点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しな
いものであつて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長   島       敦
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    安   岡   滿   彦

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